大体2年ぶりですってよ奥さん
「あら、これは何ですか?」
「さっき校長が没収した大衆誌だ。生徒会で処分しておけだと。」
秀知院に似合わぬ大衆誌にはしばしば破廉恥な写真が載っていることがある。
高校生ともなれば興味を持つラインとして妥当なものだが、名家の子息子女が通う秀知院として万が一にも間違いがあっては責任を取るのに校長の一人や二人では首が足らないのだ。
「僕にも見せてくださいよ。」
「おい石上、あまり見るもんじゃないぞ。」
雑誌を開く石上。
横から覗き込む藤原。
「へー、初体験はいつだったかアンケート、高校生までが34%らしいですね。」
「嘘です!嘘ですよ!そんなっ、そんなの淫れてます!」
34%、つまりクラスに十人前後はヤっている可能性が高いということだ。
この部屋にいるメンバーは五人、少なくとも一人はやっているかも知れない。
「サンプルセレクションバイアス、こう言うのを読む人が答えるんだから割合が高まるのは必然だ。」
白銀御行、童貞。
「そうですね。僕の知り合いにも経験がある人はいませんし。」
「知り合いいるのか?」
「...」
石上優、童貞。
「第一そのようなどこの誰に取ったかもわからんアンケートを鵜呑みにする方が間違っているだろう。」
八雲日向、童貞。
「そうですか?私は妥当な割合だと感じましたが。」
「!?」
藤原が放り投げた大衆紙を拾い上げた四宮、まさかの告白。
凍りつく生徒会室。
「お、おい四宮。お前まさかヤったのか?」
「なんてこと聞くんですか八雲君!」
驚きの余り直球に聞いてしまう八雲と意味を理解して破廉恥メーターを上げる藤原。
しかし八雲が聞かなければ彼女が聞くのも時間の問題だったであろう。
例えIQが200違ったとしても、野次馬レベルは同じである。
「えぇ、だいぶ前に。」
「えええええええええ!?」
八雲は混乱していた。
自分で言うのも何だが一番乗りは自分だろうと慢心していた。
あるいは白銀と四宮がヤるならまだ想定の範囲内だ。
だが相手が白銀でないことは間違いない、奴は頭を机に押し付け記憶を消そうとしている。
「普通高校生ともなれば経験済みでは?皆さん随分愛のない家庭で育ったんですね。」
「お前にだけは言われたくないと思うぞ。」
白銀の容体は悪化している。
石上がアップを始め、八雲が慌てて早坂に確認の連絡を入れる。
そんな役員達の様子に何かがおかしいと気づいた四宮。
普段の彼女であれば失言に気づくこともできたかもしれない。
しかし例え四宮家の血を持ってしても彼女の脳内真っピンク状態を止めることは不可能であった。
「あら、会長もそこの腹黒男も大層おモテになると伺っていたのですが...彼女、いらっしゃらないのですか?」
煽る四宮。
「時間の問題だ。あの俺を見つめる表情を見るに、あと二ヶ月と言ったところか。」
四宮のジャブを華麗に受け流す八雲。
圭のことを引き合いに出しカウンターを入れることも忘れない。
「それにそこの可哀想な男と違ってモテるのでな、今すぐ作ることも難しくない。」
「先輩も副会長もナチュラルに僕に酷いですよね。期待して無いですけど。」
気まぐれにリング外の石上にもブローを喰らわせる余裕のある八雲と違い、煽りをもろに受けた白銀は熟考する。
その末に出た答えとは。
「あぁ...今はいないな。"今は"。」
"強がり"
いつもの高潔な生徒会長の姿はどこにも無い、愚かな一人の男子高校生である。
がしかし、四宮の血はその僅かな違和感を見逃さない。
「今は、ということは当然経験もあるのですよね?」
白銀のボディにクリティカルヒット、これには思わずセコンドの八雲も苦しげな表情。
嘘をつくことは容易いが、調べれば分かる嘘をこの男の前でつく事は首を垂れることに等しい。
「ま、まぁ、その気になればいつでもな。」
出来ることは更に強がりを重ねることだけ。
苦しい状況、打開するにはセコンドとの連携は欠かせない。
同じく四宮に付け入る隙を与えたくない八雲、協調の構え。
「そうなんですか......会長には妹がいるのですから妹とガンガンやっているものかと。」
「はは、それな。.......ってしねぇよ!馬鹿じゃねぇの!?」
白銀の頭を揺さぶる重い一発。
しかしそれ以上に背後から命の危険を感じる視線を受けている。
「はは、今までありがとな会長。家族のことは俺に任せてくれ。」
「や、八雲。そんなわけがないだろう、正気に戻ってくれ。」
思わぬ形で八雲の弱点をついたことで同盟関係は解消された。
既に圭の為に中等部の学生をダース単位で飛ばしている八雲にとってそこにあるのは送る先がモルドバかパラオかといった悩み程度である。
もはや手助けは期待できない。
藤原に手を借りるのはギャンブル、石上は...ダンゴムシのように丸くなっている。
「そんなにおかしな話でもないでしょう、私は生まれたばかりの甥っ子としましたよ。ビデオで撮られながら。」
「狂気!どうなってんだよ四宮家は!」
「白銀家がどうなっているかも聞かせてもらえるか?」
"カオス"
道なき道を直進し続ける四宮、混乱する白銀、飛行機のチケットを押し付けてくる八雲。
生徒会室は混沌の渦に呑まれていた。
白銀の脳内には貴族階級への強い恐怖心が生まれつつある。
これが貴族階級の闇、常識はどこへ捨ててきたのだろうか。
これまでも二人とは考え方の次元が違うと感じていたが、まさかここまで世間知らずとは......ん?
「な、なぁ四宮。一応聞いておくが初体験ってなんだか分かっているのか?」
「はぁ..馬鹿にしないでください。」
そう言って飲みかけの紅茶を手に取り、一口含んだ後当然と言わんばかりに言い放つ。
「キッスのことでしょう?」
一同驚愕。
蝶よ花よと育てられた秀知院の学生ですら何処かからそういった情報を仕入れては知識をアップデートするのだ。
しかし四宮家の令嬢として余りにも固いガードで守られ続けた四宮、真の箱入り娘として育っていた。
当然初体験の意味など知る由もない。
「し、四宮...」
「いえ会長、ここは私が。」
言いにくそうな表情を浮かべる白銀。
その意を汲んで藤原が役目を変わろうとする。
ありがたく頼もうとしたその時、彼はもう一人の世間知らずのことを完全に忘れていた。
「四宮、初体験というのはな、せもがぁ!」
四宮に一目置かれるために四宮より優秀な人間でいたい白銀に対し、自分が世界で一番でないと気が済まない化物は無知を晒した四宮にマウントを取ることに躊躇がない。
しかし彼もまた常識が欠けている。
無遠慮に口から出そうになった言葉を石上決死のセーブ。
「藤原先輩、こいつらにまとめて常識を教えてください!」
「ほう石上、俺の言葉を遮るとは偉くなったな。」
「石上くん、淑女をこいつら呼びはいただけませんね。」
マウントを取る機会を妨害された八雲はご立腹である。
同時に、こいつらと呼ばれた四宮にも睨まれている。
普段なら既に琵琶湖に沈められている所業だが、今回はこの二人に唯一対抗できる兵器Fが味方である。
今ではお花畑グランプリ優勝のあの顔ですら頼もしい。
「もー、二人とも。今日は私がみっちりと教えてあげますからね!」
「待て藤原、俺にはお前に教わることなど無い。」
「そうですよ藤原さん、私も石上くんに教えなきゃいけない事ができたので行きますよ?」
この日生徒会室で死んだ目で藤原に説教される八雲と四宮がいたという噂は、そんなわけがないだろうと一蹴され一夜にして消滅した。
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