三日後に迫る姉妹校歓迎会の準備を進めるため生徒会室にやってきた八雲。
ドアを開けると白銀と四宮の姿はなく、代わりにソファに座りパソコンを弄る石上と謎の舞を踊る藤原の姿があった。
「むむむぅ。」
呪文を唱えている。
あれは悪魔召喚の儀式に違いない。
悪魔を召喚することでこの無茶なスケジュールを組んだ校長を呪うことを試みているのだろう。
願わくば召喚の対価として魔界にこのほぼ悪魔のような女を連れて行ってはくれないだろうか。
カバンからパソコンを取り出し、石上の正面に座る。
「こちらはある程度擦り合わせが済んだが順調か?」
「問題が起こらなければ予算的にも丸く収まりそうです。ありがとうございます。」
二人してパソコンに向かって作業を始める。
処理すべきタスクを見れば昼に確認した時よりかなり増えている。
誰がこんなに仕事を増やしたのか後々確認し、藤原と一緒に魔界に送ることを決意する。
「あともう一歩が...」
「石上、懇親会にもう少し楽しみが欲しいという要望があるんだが予算はあとどれぐらい残ってる?」
「できれば出費は避けたいところですが多少の余裕はありますよ。」
時折軽い相談を交えつつ、黙々と作業は進んでいく。
「もう二人とも!なんで無視するんですか!」
「そうだぞ石上。相手してやれ。」
「え、これ相手しなきゃいけないやつだったんですか?雨乞いでもしてるのかと思ってました。」
そう言いながら二人の視線はパソコンから離れない。
なんだかんだ仕事は溜まっている。
正直遊んでいる暇は無いのだが藤原はバタンとパソコンを無理やり閉じる。
「やめてくださいよ藤原先輩。てかあなたの担当はどうしたんすか。」
「そのことで悩んでたんですよ!」
仕方なく石上が会話を始める。
「今のままだとお堅い交流会で、みんなが楽しめないんじゃ無いかと思うんです。」
「まぁ、凝ってること考える時間が無かったですからね。八雲先輩のとこにも来たんですよね?」
面倒ごとに巻き込まれる前に逃走するためパソコンをカバンに仕舞おうとするが、石上もパソコンにしがみつく。
これまで幾度となく自分を置いて逃げられた石上の八雲への信頼は堅い。
「そうだな。今更何かを用意するのも面倒なんでビンゴ大会ぐらいにしておこうかと思ったが。」
「むふふーん。今時ビンゴなんて暇を持て余したおじさま方しかやってませんよ。」
「先輩落ち着いて下さい!藤原先輩は悪魔じゃないので祓えません!」
床にチョークで魔法陣を描き始めた八雲を他所に、棚からゴソゴソと段ボールを引き摺り出す。
「じゃーん!演劇部から借りてきちゃいました!」
そう言って段ボールを開けると中にはコスプレ衣装が山積みになっている。
「コスプレならあり物を使えば用意にそれほど時間もかかりませんし、日仏友好の場には相応しい催しになると思うんです。」
「ふむ、コスプレか。こういうのは詳しいんだろ石上?」
「やめてくださいその敏感なとこに土足で踏み入る感じの聞き方。今全オタクを敵に回しましたよ。」
段ボールの中を漁ると猫耳カチューシャ、ドレス、被り物などジャンルを問わず衣装が出てくる。
「だが石上のスマホの背景のようなキャラクターはやりたがる奴がいないんじゃないか?それに秀知院の品位に関わるものは却下されると思うが。」
「あー、八雲君、分かってないですねぇ。そういうオタク系なコスプレじゃなくてかるーいやつでいいんですよ。」
「ほんと人のことズタズタにするの上手いですよね皆さん。」
藤原は段ボールの中を漁ると猫耳カチューシャを取り出し自らの頭につける。
「猫耳ぐらいならディズニーランドでカチューシャつけるのと似たようなものですし、問題ないと思いませんか?」
「それぐらいなら問題ないが...一応二人にも確認はしておいてくれ。準備に多少は手間がかかるだろうからな。」
「そうですね。でも僕は良いと思いますよ、それぐらいならそうそう怖いことにもならないでしょうし。」
◇
「八雲、何か買ってきたほうが良いものとかあったりするか?」
「俺の方からは特にないが...コスプレ衣装は足りているのか?流石に全員分とは言わないがそれなりに希望者がいれば必要な数も多いぞ。」
次の日の放課後、いよいよ多忙を極めてきた準備に向けて生徒会の面々は奔走している。
そのため生徒会室にいるのは白銀と八雲の二人のみだった。
スケジュール帳を開いた白銀は、買い出しで買うべきものをリストアップしていた。
「コスプレは良い案だと思ったんだが、当の藤原書記がやっぱりやめると言い出してな。」
「そうか。少しでも良い案だと思っていた自分を恥ずかしく思っているよ俺は。」
珍しく非の打ちどころの無い案を考えた藤原に期待していた過去の自分が恥ずかしい。
「それでだな...」
言葉を濁す白銀。
「あぁ、四宮と買い出しに行くんだろう?任せろ、既にショッピングモールの全店員を四宮家の者に入れ替えてある。」
「え冗談だよな?」
白銀が八雲相手に言いにくそうにする時は大抵四宮か妹に関わる時である。
既に早坂から買い出しのことを聞いていた八雲はこの冗談であって欲しい所業を行ったのが八雲ではなく四宮かぐやであることも知っている。
「いや、そうじゃなくてな。今回は八雲の手助け無しで行こうと思うんだ。」
「正気か?言っておくがその手のことに関しては藤原とお前は同じ次元にいることに気づいていないのか?」
目の前の男は本気である。
本気で手助け抜きに敢行しようとしているのだ。
正気の沙汰ではない。
以前中学生で時が止まっているとしか思えない格好で四宮と映画を見ようとしたことが記憶にないらしい。
「確かに八雲の手助けがなければ完璧とは言えないかもしれない。だがこれから先毎回八雲が手助けできるわけでもないだろう?その状況にどこかで慣れておかないといけないからな。」
「そうか。分かった。」
白銀が完璧でないといけない訳ではない。
少しの失敗も振り返れば良い思い出になるだろう。
八雲は今回観察するだけに留め、サクラで用意したチンピラ達によるドキドキ白銀王子様作戦を中止することにした。
「だが前日家に泊まるぐらいは良いだろう?出発するのに服装を確認しておきたいしな。」
「いや、それも自分で...」
「白銀、挑戦と無謀は違うんだぞ?」
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