本物を求めた魔王、此岸と彼岸を繋ぐもの 作:カミツレ苦難の中の力
「さて、授業を始めていこう。私はどちらかというと感覚派でね。早速だが実演しよう、魔王という存在の持つ力について」
【拳】の魔王ヒラツカシズカ、通称先生の後をただついていく。
現状、この現場における絶対者は俺ではなく彼女だろう。
彼女は自分のことを魔王だといった、俺も同じ存在だとも。
ならば、まずは彼女についていく他ないのだろう。
先生から魔王について見聞きしまずは自分を掌握しなければならない、何故なら俺は”凡人”なのだから。
彼女に連れてこられた先は小さな小部屋だった。
特段装飾のされているわけではない無骨な部屋。
その光景に何故だか俺は”先生らしい”とそう感じた。
部屋の中に1つだけある鏡を覗くとそこには1本のアホ毛が生え、目の死んだ青年が写っていた。
え、まさかこれが俺?いやー流石にこれは不味すぎでしょ。目とか何?腐ってんの?これ植物とか溶かせそうだよ、□□困っちゃう!
そこでふと、部屋の中央に鎮座するものに気がついた。
非常に美しい水晶だ、思わず手を伸ばすと、その手を先生に掴まれた。
「それに興味が湧くのは致し方ないことだ。悪いがそれには触れないでもらえるかな。その水晶は私の命そのものであり、魔王としての力の全てだ。それを砕かれると私は魔王として全てを喪う」
「そうか、それは悪いことをした。魔王って存在はこの水晶を砕かれると死ぬのか?」
「物分かりのいい生徒で助かるよ、別に水晶を砕かれても死ぬわけではない。ただ、魔物を生み出すことはできなくなり、今まで生み出した魔物も全て消える。ついでに言えば、ダンジョンも消え去りユニークスキルも喪う。命はあっても魔王としては死に体なのだよ」
マジかー、これつまりは魔王の生命線そのものじゃん。
そんな大事なもの触ろうとしてたのか、いやー無知って怖いね。
そして、廻る思考の中で気付く。
あれ?俺も魔王だとしたらこの水晶がどこかにあるんじゃね?
っベー、マジぱねえ、今すぐ水晶を確保して何重にも箱に入れて絶対にバレない場所に隠さないと…
「君は本当にすごいな、今の情報だけでそれだけの危機感と対策を思考できるのか。安心したまえ、しばらくの間はその心配はしなくていい。水晶が生まれるのはダンジョンを作った時だからね。さて、魔王の生命線について説明した後は魔王のその力について説明しようか、【我は綴る】」
先生が言葉を呟いた瞬間、何もない空間から羊皮紙でできた重厚な本が彼女の手の内に現れる。
「頭の回る君のことだ、言わずとも気付いているかもしれないが一応説明しておこう。私と君がいるのは私のダンジョンの最深部、外観はこんな感じさ」
先生が本を広げると、水晶の上にホログラムが表示される。
その外観は、”学校”に近い城。
何故だろうか、”学校”というものを知らないはずなのに何故だか俺は知っている、覚えている、懐かしい気配だ。
「ダンジョンと一口に言ってもその外観は様々だ、正統派の洞窟型も居れば、私みたいに城でもいい。森や海みたいな自然そのものなんてこともできるのだよ、君も今から考えておくといい、独り立ちに備えてな」
「さっきから度々出ているが、独り立ちってのはなんなんだ?」
「ああ、流石の君も全てを知るわけではないのだったな。生まれたばかりの魔王は先輩魔王のもとで1年間魔王としてのあれこれについて学び、その後独立してダンジョンを作る。私が最初に先生と名乗ったのもそういうわけだよ」
なるほど、こうして後輩に教えるのも先輩の役目というわけか。
最初にホブゴブリンをけしかけられた時にはどんなサディストかと思ったが、一応先生は俺の保護者に当たるらしい。
「さて、講義はこの辺にして実習に移ろう。復唱したまえ【我は綴る】」
「【我は綴る】」
唱えたら本当に俺の手元にも先生と同じような本が出たよ、すげえな魔王。
本の中にはダンジョン作成と書かれたページがあり、まるで部屋の内装や外装を決めるカタログのようにずらっと色んなものが並んでいる。
それぞれの下にはDPという文字とともに値段が書かれている。
「先生、1つ確認だ。このDPってのは何だ?魔王の世界での通貨みたいなものか?」
「本当に君は生徒として優秀だ、先生としては少し面白みに欠けるね。その通り、DPとはダンジョンポイント、私たち魔王が必死になって集めるものだ。DPと交換に私たちはあらゆるものを手に入れることができる。おっと、ちょうどいい機会だ。DPの入手についての講義を始めよう」
そういうと、先生は水晶の上に浮かぶホログラムに手を触れ、一部にフォーカスした。
そこには、俺がさっき戦ったホブゴブリンよりも2回りほど小さい魔物が人間と戦っていた。
結構ギリギリの戦いだ、さっきのホブゴブリンは使わないのだろうか。
「うん、考えているね。そんな勤勉な君にヒントをあげよう。DPの取得量は人間の感情に依存している、そして私たちはそのDPを使って魔物やダンジョンを整備するんだ」
「いや、普通に答え教えて欲しいんすけど」
「それではつまらないだろう?考えたまえ、私の優秀な生徒」
まあ、大体はわかった。恐らくこれは経営だ。
ダンジョンは人間を顧客として迎え入れる、人間は自分の命をチップにダンジョンに挑む。
魔王はその戦いの中で生じる感情を糧としてさらに強くなると言ったところか。
「先生、人間側の利益は何だ?」
「今の情報だけでそこに至るとはやはり君は面白い。そうだね、人間は強くなる為にここにくる。魔物を倒して人間もまた強くなるのさ。もしくは私たちが用意している宝箱に入っている価値あるお宝とかね」
「賭けるチップは互いの命、踏破されれば魔王は死に、引き際を見誤れば人間は死ぬ。実にシンプルでとんでもないギャンブルだな、これは」
「そうだね、私も趣味が悪いと思うよ」
さて、俺は非常に臆病だ。
こんな危ないギャンブルなどやってたまるか、元々俺は働かないことを信条に掲げてきたのに毎日人間の影に怯えるなんて全くもってやってられない。
「先生、人間の感情は強ければ強いほどいいのか?」
「そうだね、強ければ強いほどDPの効率は上がっていくよ。さて、君はここまで聞いてどんなダンジョンを作るつもりになったんだい?」
「まだ決めてないし決めない」
「え?」
「そりゃそうでしょ、これからの魔王人生の全てがここで決まるんでしょ?さらに言えば1年の猶予もある、こんな早急に決めなきゃいけない理由がない。だから未来の俺に丸投げする、以上」
「フハハハハ、面白い、面白いよ君。ああ、まるでハルノを見ているみたいだ。そうか、それでいいそれでいいよ、もっとじっくり考えるといい。考えて考え抜いて残ったものが君の答えだ」
俺の答え、俺の□□。
まだ時々思考にノイズが走るな、何なんだこれは。
「ダンジョンに関する講義はこれにて終了。いよいよ次はメインディッシュ、魔物づくりの講義に移ろう。魔王の醍醐味とも言える魔物づくりにね」
魔物づくり、今後の俺の将来を共に歩むものを作る。
珍しく俺の好奇心はアクセル全開になっていた。