ARIA The PETRICHOR   作:neo venetiatti

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Episodio 04 アリアの憂鬱

通りを行き交うたくさんの観光客。

色鮮やかな仮面、きらめくヴェネツィアングラス、ネオ・ヴェネツィアを模した土産物の数々。

今日も街は、賑やかな一日となりそうだった。

 

アリア社長は、期待に胸を膨らませた表情で通りを歩いていた。

 

何かが待っている訳でもない。

どこかへ行くあてがあるわけでもない。

いつものネオ・ヴェネツィアの街並みと、そこを歩く人々の笑顔。

それ見ることこそが、アリア社長にとって楽しいひとときだった。

 

しばらく歩いていると、ふと何かに気づいて足を止めた。

 

道案内でもしているのだろうか、ひとりのウンディーネがおばあさんと話していた。

まだあどけなさの残る顔立ち、にこやかで可愛らしい表情。

 

アリア社長は、一瞬にして顔を赤く染め、ボーッと見とれてしまった。

 

思わず出た一言。

 

「ぷいにゅい・・・」

 

そのウンディーネは、何か一言声をかけ、笑顔でそのおばあさんを見送っていた。

 

だが振り返ったその瞬間、アリア社長とばったり目が合った。

 

アリア社長はビクッとなって、その場で固まってしまった。

そのウンディーネは、そんなアリア社長を見て、ニコッと微笑んだ。

 

「ぷ、ぷいにゅっ」

 

何を言っているのか定かではなかったが、心奪われているのは、誰がみても明らかだった。

 

アリア社長の心を奪ったウンディーネは、可愛らしい笑顔のまま、その場を離れていった。

その動きにつられるように、アリア社長は地面にゆっくりと倒れこんでいった。

 

ドテッ

 

そして地面に倒れながら、そのウンディーネの後ろ姿をじっと見送っていた。

 

「おい!何か丸くて、得たいの知れないものが転がってるぞ!」

 

 

 

アリア社長は、ARIAカンパニーの、その海を望むカウンターからぼんやりと海を眺めていた。

「ぷいにゅ~」

「アリア社長?ため息をついたりして、どうしたんですか?」

「ぷいぷい・・・」

「元気ないですねぇ。何かあったんですか?」

灯里の言葉にも曖昧な返事しか返さないアリア社長。

「ぷい~~」

今度はすごく深いため息を漏らした。

「大丈夫ですか?もしかして、この暑さにバテバテさんですか?」

「ぱいぱいぱい」

「えっ、なんですか?」

 

 

〈そういうことじゃなくて〉

 

 

そんな仕草で、アリア社長は灯里に向かって返事していた。

 

「違うんですか?」

「ぷいぷい」

「はい?」

 

 

〈この娘に言っても・・・〉

 

 

アリア社長は何か諦めに似た表情で、のっそりと床に降りて、そのまま外へ出ていった。

 

「あの~、なんか、わたし、もしかして、諦められたのですかぁ~?アリア社長~~」

 

 

 

そのまあるいお尻は、いつものリズミカルさのカケラもなかった。

あるのかないのかハッキリしない、そのシッポにも元気がなかった。

 

そう、つまり、アリア社長は心を奪われてしまったのだった。

 

あの時見かけたウンディーネのかわいい笑顔に。

 

脱け殻のアリア社長。

 

ほんとに一枚むけると、変わるのかもしれない。

 

その、もちもちポンポンが・・・

 

 

そんなことはさておき、アリア社長の行く先は決まっていた。

 

あの時出会った、あの場所へ。

 

会えるかどうかもわからないのに、それでも自然と足がそちらへ向いてしまう。

 

ああ、こんなアリア社長にも、笑顔を向けてくれる天使はいないのだろうか。

 

 

そんな時だった。

 

 

小さな女の子が持っていた風船が、風にあおられ、飛んでいった。

 

「あー、わたしの風船がー!」

 

その風船の行方をぼんやりと見ていたアリア社長は、突然、目がぱっちり覚めたような顔になったかと思うと、その風船を追いかけ始めた。

 

「ぷいぷいー!」

 

男アリア社長、ここにあり!

 

頭の中は、間違いなくカッコいいイメージであったはずのアリア社長は、その勢いのまま、その風船に向かってジャンプした!

 

「ばいちゃー!」

 

そこはアリア社長。

運河のほとりにある欄干に足を取られ失速。

水の中に落下した。

 

ドボン

 

水に落ちる音まで、らしいアリア社長。

 

「ばいばばいばばい!」

 

そうでした。

この方、泳げませんでした。

 

絶体絶命のアリア社長。

 

しかし、世の中捨てたもんじゃありません。

 

もがき苦しんでいるアリア社長は、ゴンドラをこぐオールですくいあげられていた。

 

「ばばばばばば・・・ぷい?」

 

「あなた、だいじょうぶぅー?」

「ばい!」

 

そこには、あの麗しのウンディーネが立っていた。

 

その距離、オール一本分。

 

そのウンディーネは、オールの先を自分のゴンドラに入れた。

アリア社長は、ツルンとゴンドラの中に落ちた。

 

ポコン

 

しりもちをついた格好のアリア社長を見て、そのウンディーネはクスッと笑った。

 

「ばいちゃー♡」

 

アリア社長の顔がいっぺんに輝きだした。

 

「残念だったわね。風船、届かなかったね」

「ぷい~」

 

「でも、勇敢ね。普通あんなことできないわよ」

「ばぁ~い~」

 

アリア社長は自分でも何を言ってるかわからなかった。

 

 

 

アリア社長とその麗しのウンディーネは、運河のほとりに並んで座っていた。

アリア社長は頭から大きめのタオルをかけられ、ゴシゴシと拭かれていた。

これ以上ないくらい、幸せの絶頂といわんばかりのアリア社長。

 

「ぷいにゅ~♡」

 

「でも良かったね。すぐ近くに床屋さんがあって。タオル、おっきかったし」

「ぷいぷいー」

「ふふふふ♡」

 

「あなた、アクア猫でしょ?」

「ぷぁーい」

「正直言って、あなたが何を言ってるのかわからないけど、わたしが何を言ってるかはわかるんでしょ?」

「ぷいぷい」

 

 

〈当然です〉

 

 

アリア社長は大きく胸をはった。

 

「すごいねぇー」

「ぷぁー、ぷぁいぱぷぁい!」

 

 

〈いやー、それほどでも!〉

 

 

アリア社長は後頭部をかいていた。

 

「そうだ」

「ぷぁい?」

「あなたになら、話しても大丈夫かも・・・」

「ぷい?」

 

そのウンディーネは、大きなタオルから頭を出したアリア社長を、じっと見つめた。

 

「ぷ、ぷい~♡」

 

 

「わたしアイラっていうの。あなたは?」

「ぷぁいぱぱい」

「ごめん。やっぱりなんて言ってるかわからない」

 

ドテッ

 

「じゃあ、どうしようかなぁ。白くてまあるいから・・・おもちちゃん!」

「ばっ」

 

 

〈おもちっ〉

 

 

「いやだった?」

「ぷいぷい。ぷいにゅー♡」

 

 

〈まあいいか。アイラちゃんがいうんだから♡〉

 

 

目が合ったアイラがにっこりと微笑んだ。

アリア社長は膨らみすぎて、ぺったんこになったおもちのようになっていた。

 

「ぷいー♡」

 

 

 

「変に思わないでほしいんだけど」

「ぷいにゅ?」

 

明るかったアイラの表情が、少し曇り始めた。

 

「実はね、わたし、この世界の人じゃないの」

「ぷい?」

 

 

〈アイラちゃん、急にどうしたんですか?〉

 

 

アイラをじっと見つめるアリア社長。

 

「わたし、自分でもよくわかってないんだけど、前にいた世界では、確か、死んだはずなの」

「ぷい?」

「驚くでしょ?なに言ってるんだってなるよね」

「ぶいぶい」

 

 

〈それは驚きます、アイラちゃん〉

 

 

「それでね、気がついたら、わたし、こんなふうになっていて」

「ぷいぷいぷい」

 

 

〈そんなに可愛くなってたんですね〉

 

 

「だから、多分なんだけど、本当のアイラちゃんは、もうこの世にはいないんだと思う」

「ぷい、ぷいぷい?」

 

 

〈えっ、なんですと?〉

 

 

「でもね、不思議なのよ。わたし、ウンディーネの経験なんて全くないのに、オールを持ったら自然と手が動いてたの」

「ぷいぷいー」

 

 

〈それは不思議ですねぇー〉

 

 

「だから、本当のアイラちゃんは、間違いなくウンディーネだったんだと思う」

「ぷぷいぷいぷい!」

 

 

〈アイラちゃんがそう思うのなら、間違いないです!〉

 

 

「わたし、このウンディーネっていう仕事、最近ようやく慣れてきたの。やってみてわかったんだけど、とってもやりがいのある仕事だと思う。この世界にやってこなかったら、わからなかった」

「ぷいぷいぷい!」

 

 

〈それはいい経験でしたね、アイラちゃん!〉

 

 

「だけど、元いた世界に未練がないといえば、うそになると思う。このネオ・ヴェネツィアは、ほんとにいいところだと思うけどね」

「ぷぷいぷいぷい」

 

 

〈それはそうですよ、アイラちゃん〉

 

 

「それに、ほんとのアイラちゃんは、どんな人生を歩んでたんだろうって考えることもあるの」

「ぷいぷい」

 

 

〈やさしいね、アイラちゃん〉

 

 

「だからね、ほんとのアイラちゃんを、捜そうと思うの!」

「ぷぷいぷい・・・ぷ、ぷいにゅー?」

 

 

〈なるほど、それはいいアイデア・・・な、なんですと?〉

 

 

「手伝ってくれるかなぁ。どう?」

「ぷいにゅいー!」

 

 

〈手伝うに決まってるじゃないですかー!〉

 

 

「いいの?やったぁー!」

「ぷいぷいー!」

 

 

〈やったぁー!〉

 

 

「じゃあ、あしたまた、ここで会いましょう!」

「ぷぷいぷいぷいー!」

 

 

〈そうしましょー、アイラちゃん!〉

 

 

アイラは笑顔いっぱいの表情で、その場をあとにした。

振り返って手を振ったアイラに、アリア社長は大きく手を振り返した。

 

「ぷいぷいにゅ♡・・・ぷ、ぷいにゅ?」

 

 

〈あしたアイラちゃんとアイラちゃんを捜す♡・・・ど、どういうこと?〉

 

 

〈Episodio 05に続く〉

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