ARIA The PETRICHOR   作:neo venetiatti

5 / 22
Episodio 05 おかしなふたり

「おはようございます、アリア社長ー!今日も一日よろしくお願いしますぅー!」

 

灯里はいつものようにシャッターを開け、新鮮な空気を店内に入れた。

そして振り返って、いつものようにアリア社長に向かって挨拶した。

 

つもりだった。

 

そこには、いつもいるはずのアリア社長の姿はなかった。

 

「あれ?アリア社長、どこに行ったんだろう?」

 

 

 

アリア社長は、アイラと出会った運河のほとりに佇んでいた。

ハッキリとわかるわけではないが、難しい顔をして、何か考え事をしているようだった。

 

 

「ぷぷいぷいにゅ。ぷいぷいぷい」

 

〈アイラちゃんがアイラちゃんを捜す。これ如何に〉

 

 

時間が経ち、街行く人が増えはじめても、アリア社長は腕を組んで、その場に佇んでいた。

 

「あの、仏像みたいに立ってるのって、もしかして、アリア社長?」

ゴンドラで通りかかった藍華は、身動きひとつしないアリア社長に気がついた。

 

「格好つけてるように見えますが、でっかいもちもちポンポンです」

今度は、アリスがその場所を通過していった。

 

 

更に時間が経過した。

ネオ・ヴェネツィアは、更なる混雑ぶりをみせていた。

 

「なっ!」

藍華は、数時間前に見かけた時と変わらない姿のアリア社長に、目がテンになっていた。

「なにしてんの?」

 

アリスは何事もなかったように、悠然と通過しようとしていた。

「お客様、右に見えますのは、白くて丸い・・・はぁ?」

口をあんぐりと開けたまま、ゆっくりと通過していった。

 

 

お昼になって、アイラは、ようやくその姿を現した。

 

「おもちちゃーん!」

「ぷいにゅーい!」

 

走り寄るアイラに、アリア社長はそれまでとは一変、デレデレが止まらなくなっていた。

 

「ごめんね、遅くなって」

「ぷいにゅい!」

 

「急なお仕事が入ってしまったの」

「ぷいぷい♡」

 

「ねえ、お腹空かない?」

「ぷいぷいぷい!」

 

「とりあえずなんか食べようか?」

「ぷいにゅーい!」

 

ふたりは屋台のピザでお腹を満たすと、次はジェラートの屋台へ向かった。

 

「ここのレモネード、おいしいんだよー!」

「ぷぁぱいぱぱい!」

 

「次はどこ行く?」

「ぱいぱい?」

 

アイラはあごのあたりに人差し指を当てて、「ふーん」と思案してみた。

 

もちろん、アリア社長も。

「ぷーい」

 

「そういえば、おもちちゃんはこのあとの予定は大丈夫なの?」

「ぷいにゅーい!」

「大丈夫そうね」

「ぷいぷい」

「じゃあねえ、ちょっと行ってみたいところがあるんだけど・・・」

 

 

アイラは古い作りのアパートメントが密集する地域に足を踏み入れていた。

アリア社長は、アイラの足元で、キョロキョロしながらくっついていた。

 

ふと足を止めたアイラ。

 

「ぷいにゅ?」

「うん」

 

アリア社長の問いかけに、アイラはぼんやりと辺りを見ながらこたえていた。

 

「前にここへ来たとき、不思議な気持ちになったことがあるの」

「ぷいにゅい?」

「何て言ったらいいか。前にも来たことがあるような。でもそれは、わたしの記憶ではないような」

「ぷいぷい?」

「だから、もしかしたら本当のアイラちゃんの記憶・・・だったりするのかも」

「ぶぁい?」

 

アリア社長はアイラの言葉に小首をかしげていた。

 

しばらく歩いた先でもアイラは足を止めた。

 

「やっぱりここも来たことがあるような・・・」

「ぱいぱぱいぱい」

 

そしてまた、アイラはしばらく歩いた先で立ち止まり、あたりを見回した。

 

「やっぱりここも・・・ないか!」

 

ドテッ

 

「ごめんね、おもちちゃーん」

「ぷいぷい~」

 

「ところで、おもちちゃん?」

「ぷいにゅい?」

「あそこ行ってみない?」

「ぷい?」

 

アイラとアリア社長は、リヤルト橋の上から大運河の風景を眺めていた。

 

「すごいねぇー」

「ぷいぷいー」

 

「お舟がいっぱいだねぇー」

「ぱっぱいぱぱーいー」

 

アイラは、橋の欄干から身を乗り出して、無邪気に運河を行くボートやゴンドラを指差していた。

その明るい表情に、アリア社長はすっかり心を奪われていた。

 

「ぷぁい~」

「どうしたの、おもちちゃん?」

 

急に振り向いたアイラにドギマギするアリア社長。

 

「ねぇねぇ、今度はあそこ、どう?」

「ぷいにゅ?」

 

 

 

「うわぁー」

「ぷいにゅー」

 

今度は、サン・マルコ広場の大鐘楼の最上階に来ていた。

展望窓から見る風景は、ネオ・ヴェネツィアが一望できる眺めだった。

 

「こんなの、初めて!」

「ぱいぱぱいぱい!」

 

すると、鐘楼の鐘が鳴り始めた。

 

グォオオオオン、グォオオオオン

 

その場にいた人たちは、一斉に耳に手を当てていた。

 

「うわぁー!」

「ぱいちゃー!」

 

その音の大きさに驚いていたアイラだったが、いつしか笑い始めていた。

 

「なんでー、こんなにー、大きいのぉー!」

「ぱいぱぱいぱいー」

 

 

アイラとアリア社長は、サン・マルコ広場まで降りてきた。

 

「すごかったねぇー」

「ぱいちゃー」

「でもすごくいい眺めだったねぇー」

「ぷいにゅーい!」

 

アイラはとても満足げな表情で大鐘楼を見上げた。

 

「今度はどこにする?」

「ぱいちゃ?」

 

アリア社長は、少し不思議そうな顔をしていた。

だが、アイラはそれには気づかず、広場を行き交う観光客の様子を眺めていた。

 

 

 

夕陽を背景にして暮れゆくサン・ジョルジョ・マッジョーレ島の姿を、アイラとアリア社長は、ベンチに腰かけて、じっと眺めていた。

 

「おもちちゃん、今日は本当にありがとう」

「ぷいにゅい」

「ずっと私に付き合ってくれたね。どうしてそんなにしてくれるの?」

「ぷいぷいぷい」

 

アリア社長は、ロマンチックなシチュエーションに浸りながら、少し格好をつけて説明しようとした。

 

「ごめん。やっぱりわかんない」

 

ドテッ

 

「ごめんね、おもちちゃん。もっとお話ができたらよかったのにねぇー」

「ぷいにゅいー」

「あなた、ほんとに優しい人だねぇ」

「ぱいにゅ~」

「ごめん。猫だった」

 

ドテッ

 

アイラは、アリア社長の仕草に思わず笑っていた。

アリア社長は、そのアイラの表情を満足げに眺めていた。

 

「今日はほんとにありがとうね!」

「ぷ、ぷいにゅ?」

 

そう言って立ち去ろうとしたアイラに、アリア社長は不思議そうな顔を向けた。

 

「えっ、なに?」

 

アリア社長はこう聞きたかったはず。

 

 

〈アイラちゃん?本当のアイラちゃんはどうするの?〉

 

 

その問いかけは、残念ながらアイラには届かなかった。

 

 

Episodio 06 へ続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。