キン! ガン!
刀と扇子をぶつけ合う大貴と童磨。
「悲鳴嶼君……」
それを不安な表情で見つめるカナエ。
「姉さん!」
そこへしのぶが駆けつけた。
「し、しのぶ…」
「姉さんが生きていて本当に良かった…悲鳴嶼さんは間に合ったのね! 待ってて姉さん! 今すぐ治療するから!」
「待ってしのぶ! 間に合ったって何で悲鳴嶼君が此処に来たことをしのぶが知っているの? !? コホッ コホッ…」
「無理しないで姉さん!…それは、私も姉さんを救援しようと此処に向かっている時にちょうど悲鳴嶼さんに会ったからよ。 まあ、私の移動速度では全速力の悲鳴嶼さんには追い付けなくて遅くなったけど…ってそれはさておき早く治療するから見せて!」
しのぶはカナエが健在であることに安堵すると、彼女の傷の状態を見始める。
「肺が軽度の凍傷になっているわね…でもしばらく花の呼吸を使わずに安静にしていれば良くなるわ。 蝶屋敷に戻ったら薬を調合するから! 右足の出血が酷いわね…悲鳴嶼さんが応急処置をしてくれているから多少は止まっているけど、深いから直ぐに縫合する必要があるわ…姉さん、痛いと思うけど少し動ける?」
「ええ。 左足を軸にすれば多少なら歩けるわ」
「なら、少し距離を取ってそこで縫合するわ。 私達が近くに居たら悲鳴嶼さんが全力を出せない」
「そうね…移動しましょう(悲鳴嶼君…絶対に死なないで!!)」
何とか立ち上がったカナエはしのぶに支えられながら右足の傷の縫合の為その場を後にする。
カナエは大貴の無事を必死に祈り続けながら…
「2人はこの場を離れてくれたか…」
童磨と戦いながら背後の2人の気配が消えたのを感じ、安心したのか大貴は軽く息を吐く。
「カナエちゃんが居なくなってしまったかー。 さっき来たカナエちゃんに似た娘も一緒に救ってあげたかったけどまあ、今回は仕方ないな。 とりあえず君を殺して今日は帰るとするよ」
「…舐められたものだな…もう私を殺せる気でいるのかね?」
楽に殺せるという口ぶりに大貴は目を細め、怒気を滲ませる。
「そりゃそうだろ? いくら柱とはいえ、人間1人じゃ俺達上弦の鬼は倒せないんだから」
童磨はそう言うと扇子を振るい、粉凍りを大貴へ向けて振りまく。
「…意味もなくその扇子を振るわけはない…大方カナエ君の肺に傷を負わせた氷の粒子とやらを散布させているのだろう?」
「そうだとしたらどうするんだい? 俺の粉凍りは目に見えない…気をつけていても知らずに吸って君の肺胞は壊死するぜ?」
「確かに見えんな……ならばこうだ!」
見えない粉凍りを前に大貴は徐に左目の眼帯を外す。
そして、その下の閉じていた目が開くと赤く発光する特異な眼が姿を現した。
「! 眼帯の下はそうなっていたのか! 赤く輝く目なんて不思議だね」
軽口を叩く童磨だが、大貴はそれを無視して一言こう口にする。
「ほう…やはりこの眼でなら見えるようだ」
と…
そう、見えない筈の粉凍りだが、隠された左目…最強の眼を解放した大貴にはそれがはっきりと目視出来ていた。
「粉凍りが見えているだって? 出任せがすぎるぜ?」
それを虚言と取った童磨は粉凍りの散布量を増やし、大貴目掛けて更に振り撒く。
「出任せだと? 残念だが、本当に見えているぞ」
だが大貴には粉凍りが言葉通り見えており、最小限の動きで全てかわし、逆に童磨へ接近する。
「!? 血鬼術・散り蓮華(ちりれんげ)」
「むっ!?」
粉凍りを全てかわされるとは思いもしなかった童磨は今宵初めて驚きに目を見開く。
しかしそれでも彼は直ぐ様立ち直り、再度扇子を振り、新たな血鬼術…散り蓮華を放ち、その細かな蓮華の花弁状の氷を広範囲に発生させて大貴の接近を妨害する。
「…どうやら本当に粉凍りが見えているようだね。 その目は中々に厄介だなー」
「その割には口ぶりに余裕が見えるのだがな?」
「まあね。 その目が厄介なら、先ずはそれを潰せば良いんだからね! 血鬼術・凍て曇(いてぐもり)」
言葉とは裏腹に余裕を見せる童磨は新たな血鬼術… 凍て曇を発動させる。
すると童磨の周囲から冷気の煙幕が発生し、地表などの煙幕に触れた部分が凍結を始める。
「どうだいこの凍て曇は? ご覧の通り煙幕に触れれば凍ってしまうぜ? 眼球を凍らせて使い物にならないようにしてあげるよ」
煙幕が大貴へ徐々に押し寄せる。
「成る程な。 考えたものだが、もう一度言おう……舐めるな!」
大貴は激昂すると、刀を持つ両手を水平にして身体を回転させる。
「剣の呼吸・肆ノ型・円陣真空斬!」
その直後刀を通じて辺りに円形の剣圧が撒き散らされ、煙幕はその衝撃波によって全て消しとばされてしまった。
「!? まさかあんなに容易く凍て曇が掻き消されるとは…」
「終わりかね? ならば今度はこちらから行くぞ」
大貴は童磨へと向かい走り出す。
「君が接近戦が得意なことは何度か打ち合ってわかったよ。 わざわざ君に有利な状況で戦わせるとでも思っているのかい? 血鬼術・冬ざれ氷柱(ふゆざれつらら)」
接近戦に持ち込まれても負けることはないという自負はあるものの、流石に面倒だと判断した童磨は更に血鬼術…冬ざれ氷柱を使用する。
すると上方から無数の鋭く尖った巨大な氷柱が出現し、それは大貴に向かって次々と落ちてくる。
しかし大貴はそれを苦も無くかわし、童磨との距離をどんどん詰めていく。
「!? (嘘だろ? 初見の技に加えて冬ざれ氷柱の攻撃範囲は広い…それなのに最も簡単に避けられるなんて…まさか、あの目は見えない物が見えるだけでなく…純粋な身体能力が上昇するのでは…)」
「うおぉーー!!」
ギィン!!
「ぐっ!?」
雄叫びを上げ、勢いに乗る大貴は遂に童磨へ辿り着き、両手の日輪刀を振り下ろす。
それに扇子で防御する童磨だが、勢いを止めることが出来ず後退させられ、そのまま扇子を弾かれ仰け反る。
「むんっ!」
ドゴッ!
「ぐはっ!?」
追撃とばかりに頭部へ肘打ちを食らい、童磨はたまらずしゃがみ込む。
「ふんっ!」
ドムッ!
「がはっ!」
ドサッ
更にガラ空きの腹部に蹴りを入れられ、童磨は地面へ仰向けに倒れた。
「剣の呼吸・陸ノ型・磔!(はりつけ)」
ドスッ!!
「!!?(しまった!?)」
その隙を見逃さず大貴は両手の日輪刀で童磨の両手の平を刺し貫き、地面に縫い止めてしまう。
これには流石の童磨も焦りを隠せない。
「これでちょこまかと動けんだろう?」
大貴はそう言うと背にある残りの日輪刀2本を抜刀し、それを再び左右の手に持ち、童磨の頸に狙いを定めて構える。
「さて、その頸を落として終わりにしよう。 死ぬが良い!」
童磨への止めの一撃が左右からその頸目掛けて迫る。
しかし…
ガン!! バギッバギッ!!
童磨の頸へと放たれた一撃は、彼が自身の頸を覆うように発生させた何層にもなる強固な氷の塊によって防がれ、逆に大貴の日輪刀が半ばから折れてしまい宙を舞う。
「!?」
「惜しかったね。 流石の俺も今のは焦ったぜ? 血鬼術・冬ざれ氷柱」
「ちっ!?」
冷や汗を流しながらも笑みを浮かべる童磨は再度冬ざれ氷柱を使い、上から鋭い氷柱を大量に落とす。
大貴は舌打ちをするとその場から飛び退き、最強の眼をフルに活用して氷柱の回避に徹する。
回避を終えると大貴は折れた両手の日輪刀を大量の氷柱とそれによる冷気で姿が見えなくなった童磨が居るであろう場所へと投擲する。
キン! キン!
だが、その投擲は童磨の扇子によって防がれてしまった。
「全く痛い痛い。 あれ程深く地面に縫い付けられてしまったら自分の腕を切り落とすしか脱出する手段がないじゃないか」
冷気の煙が晴れると磔による拘束が解かれた童磨が姿を見せる。
彼は先程の冬ざれ氷柱によって突き刺さった日輪刀諸共自らの両腕を切断し、瞬時に再生させたらしく、傷一つ無く両手に扇子を持つその姿は以前と同じく五体満足であった。
「直ぐには動けないと判断して氷柱で自分の両手を切断するとはな…しかもあの頸に発生させた日輪刀が折れる程の強固な氷の塊…やはり上弦は一筋縄にはいかんな」
大貴は初手で童磨の腹部を貫き、その後彼によって地面に投げ捨てられていた唯一残った日輪刀を拾い上げ構える。
「それはこっちの台詞だよ。 これだけの血鬼術を使ったのに未だに君を仕留められない…君は今まで殺してきた柱とは別格の強さだ…夜明けも近いし、今回は撤退させてもらうぜ?」
「逃がすとでも?」
「逃げて見せるさ。 血鬼術・寒烈の白姫(かんれつのしらひめ)」
夜明けが近くなり逃げようとする童磨に大貴は、日輪刀に力を込め攻撃を仕掛けようとする。
しかし、童磨の更なる血鬼術… 寒烈の白姫が発動され、巫女を模した氷の上体像が2体出現した。
「むっ!?」
嫌な予感を感じ、大貴は攻撃を中断して様子を見る。
「おや? そのまま俺に向かってきてくれたら良かったんだけどな? まあ、良いか」
大貴の直感は正解だったらしく童磨の呟きの直後、2体の氷の巫女から凄まじい勢いで広範囲の凍える吹雪が発生する。
「(何という広範囲の吹雪だ…あのまま攻め込んでいたらこの眼を持ってしても避けきれんかったかもしれんな…)」
内心では戦慄しながらも距離があった為、その猛烈な吹雪を回避していく大貴。
しかしその間に童磨は大きく後退し、離脱を開始していた。
「はぁー、柱と遭遇したのに殺せなかったとは…あのお方に怒られてしまうな…相変わらず青い彼岸花も見つからないしどう言い訳したら良いものか?」
言葉ではそう言いつつも普段通りの不気味な笑みを浮かべ、童磨はその場を後にするのだった。
ー
ー
ー
「うっ!?」
「姉さん、もう少しだから我慢して!」
鎮痛剤を打たれているとはいえ、縫合の痛みに顔を歪めるカナエ。
そんな彼女を縫合しながらしのぶは励ます。
「ええ、鎮痛剤も効いているから大丈夫よ…でも、この傷跡残ってしまうわね…」
カナエはほぼ縫合を終えた右足を見て暗い表情を見せる。
「姉さん……もしかして傷跡があったら悲鳴嶼さんに嫌われるとか思ってる?」
「えっ!? な、なんで分かるの!?」
図星を突かれ、カナエは暗い表情を一変させて動揺する。
「顔に書いてあるわよ……全く、あの人がそんなことで姉さんを嫌いになるわけないでしょ?」
「フフッ、傷跡があっても嫌われない…そうだと良いな〜」
呆れ顔でフォローするしのぶにカナエは静かに微笑む。
「……(それに正直、あんなに必死の形相の悲鳴嶼さんを今まで見たことが無かったもの)」
しのぶはこの場に駆けつける際に大貴と遭遇した時の彼の切羽詰まった表情を思い出す。
それは普段の彼からは想像出来ない”大切な人が居なくなる不安と焦りの表情”だった。
「(姉さんは片想いだと思っているみたいだけど、悲鳴嶼さんも無自覚で姉さんを意識し出しているのかもしれないわね…)」
朴念仁の大貴ではあるが、本人でも分からない内にカナエを女性として想っているのではないかと今回の件で認識するしのぶ。
そこへ
「良かった、無事だったようだな」
その当人がやって来た。
「はい、丁度姉さんの縫合も終えたところです…上弦の弐は?」
「ああ…奴は逃してしまったよ」
しのぶの問いかけに苦虫を潰した表情で答える大貴。
「そうですか…でも皆上弦相手に生き残れて良かっt「悲鳴嶼君!」ね、姉さん!?」
しのぶは話しているのを遮り、涙を流しながら大貴に抱きつくカナエ。
「…戻ってくるって信じてたけど悲鳴嶼君が無事で本当に良かったー!!」
「私も君達が無事で本当に安心したよ……」
抱きつくカナエに優しく微笑み、そう語り掛けた。
その直後
「!? ぐっ!?……」
ドサッ……
大貴は突如左眼を押さえ、苦悶の表情をすると意識を失い後ろに倒れ込む。
「えっ!? ひ、悲鳴嶼君!?」
「悲鳴嶼さん!?」
倒れた大貴に必死に呼びかける2人。
「嫌! 嫌よ! 悲鳴嶼君! お願い! 返事をして!」
冷静さを失い、涙で顔を更に濡らしながら大貴を揺さぶるカナエ。
「姉さん落ち着いて! 意識を失った人を揺さぶるのは逆効果よ!」
「!!?」
そんなカナエを落ち着かせるとしのぶは大貴の脈を測る。
「…大丈夫、脈はしっかりしているわ…眼帯が無いところを見ると多分悲鳴嶼さんはあの眼を使って上弦の弐と戦っていたんだわ…倒れた原因は眼の使用による負荷ね、暫く休めば目覚める筈よ」
「悲鳴嶼君…」
とりあえずは一安心と分かり、カナエは大貴の手を握って安堵する。
そこへ鬼殺隊の事後処理部隊…隠(かくし)が数名現れた。
「柱の方々! 無事ですか!?」
「私は大丈夫よ! でも、ねえs…花柱が負傷し、剣柱が疲労によって倒れた! 貴方達は2人を蝶屋敷へ移送するのを手伝って!」
「はい、蟲柱様!」
「かしこまりました!」
しのぶの指示に隠達は了承すると行動を開始する。
「花柱様! 私に体を預けて下さい!」
「ええ、ありがとう!」
カナエはお礼を言うと女性の隠に体をもたれかける。
倒れた大貴は男の隠2人がかりで運ばれる。
こうして上弦の弐との壮絶な死闘は幕を閉じた。
奇跡的に柱の犠牲者を1人も出さずに。
これによって後の流れに変化が訪れるが、そのことをまだ誰も知る由がない。
という訳で童磨を倒せませんでしたが、追い払うことには成功しました。
最強の眼は動体視力や直感、見えないものが見えるようになる、身体能力が上がるなどの恩恵がある反面時間制限があり、それを超えてしまうと今回のように負荷によって倒れてしまうという仕様です。
現時点では使用時間の上限は30分程で、今回の童磨戦では描写はしていませんが、大体1時間近く使用していました。
今回は倒れるだけで大事ありませんでしたが、最悪失明していた可能性もありましたので大貴は運が良かったです。
そして、しのぶさんの考察通り彼は無自覚ではありますが、カナエさんに惹かれてきています。
だからカナエさんが死んでしまうという不安と焦りから普段見せない切羽詰まった表情をしていたわけです。
ようは童磨さんとの戦いは予期せず2人が恋的な意味で接近するきっかけとなったわけですね。
次回もよろしくお願いします。
後のちハガレンのホムンクルスの能力を血鬼術として使う鬼を出そうと思うのですが、誰が良いでしょうか? 勿論、出さないという意見もオッケーなのでよろしくお願いします。
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ラスト
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グラトニー
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エンヴィー
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グリード
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スロウス
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プライド
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出さない