1910年・9月後半
蝶屋敷
童磨戦の後、倒れた大貴は隠によって蝶屋敷へと運び込まれ、ベッドに寝かされていた。
「…むっ?…」
大貴は意識を取り戻すとゆっくりと目を開ける。
「…カナエ君?」
するとベッド近くの椅子にカナエが座っていた。
彼女は静かな寝息を立てながら眠っており、その両手は大貴の右手を握っていた。
その目元は何度も泣いたのか赤くなっており、涙の跡が残っていた。
「…どうやらあの後私は倒れたようだ…心配を掛けてしまったようだな…」
大貴は身体を起こすと、空いている左手で静かに眠るカナエの頭を優しく撫でる。
すると
「…う、う〜ん…」
くすぐったいのかカナエは小さく声を上げる。
だが、その表情は先程よりも幸せなものへと変わっていた。
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「…! あ、あれ?…いけない! 私ったら眠ってしまっていたわ…」
あれから暫くの間カナエの頭を撫でていると、不意にカナエが目を覚ました。
カナエは声を上げるものの、まだ寝ぼけているのか大貴が目覚めているどころか未だに頭を撫でられていることにすら気付いていない。
「…悲鳴嶼君が起きている……!? 悲鳴嶼君!? 目が覚めたの!?」
大貴が起きているのが分かり、漸く覚醒したのかカナエは驚きに目を見開く。
「ああ、先程目覚めたよ…済まない、君達には心配を掛けたようだ…カナエ君こそケガは大丈夫かね?」
「…ひ、悲鳴嶼君だ……」
優しい眼差しを向ける大貴にカナエは夢じゃないかと自身の頬を強くつねるが
「い、痛いわ…やっぱり夢じゃない…よ、良かったー! 悲鳴嶼君が目覚めて本当に良かったー!!」
普通に痛みがあり、これが現実だと理解したカナエは堪えきれずに大貴に抱きついた。
「私は大丈夫よ! 肺の凍傷は軽症だったから安静にしていればまた呼吸法も使えるって! 右足の方は傷が深かったから直ぐには走ったりは出来ないけど、こっちの方も暫くすれば良くなるそうよ! どちらもしのぶのお墨付き!」
「そうか、安心したよ…あの時、君達の元へ駆けつけて本当に良かった」
負傷はしたものの、カナエが生きていることに安堵した大貴は再び彼女の頭を撫で始める。
「ふにゃ〜……!?…悲鳴嶼君、もしかして、私が起きるまでずっと頭を撫でてくれてた!?」
「? そうだが? 撫でられるのは嫌いだったかね? 済まない、ならば失礼なことをしてしまった…」
「き、嫌いじゃないわ! 悲鳴嶼君に撫でられるのは寧ろ安心する…で、でも…恥ずかしいわ////…」
好きな人に頭を撫でられるという現状に嬉しさと恥ずかしさから頬に手をやり、顔を真っ赤に染めるカナエ。
「!?(何だ!? カナエ君が普段よりも…何というのだろうか…可愛いく見える…)」
そんなカナエの仕草に大貴はいつもは何も思わない筈が急に胸が高鳴り動揺する。
そう…あの時しのぶが思った通り、大貴は自覚はしていないもののカナエに惹かれて始めていたのである。
今までは特に何も感じていなかったが、童磨の手によってカナエが死んでしまうかもしれないという焦りと不安から解放された影響か、大貴は無意識に彼女を意識するようになっていた。
「? どうしたの悲鳴嶼君?」
動揺から撫でる動きを止めた大貴にカナエは不審に思う。
「!…何でもないよ。 気にしないでくれ」
「? う、うん」
大貴は咄嗟に取り繕うとカナエの頭を再び撫でる。
カナエは疑問に思いながらもそれを受け入れ、撫でられる気持ち良さと安心から目を細める。
「(まさか私は…カナエ君のことが……)」
大貴は自身がカナエに惹かれ始めていることに少しずつではあるが、気付き始めていた。
余談だが、その後、様子を見にやって来たしのぶが大貴が目覚めていることと、カナエが大貴に頭を撫でられているという光景に「心配して来てみれば…フフフ…2人共良い気なものですね〜…」という普段とは違う丁寧過ぎる口調に加え、額に青筋を浮かべて明らかにキレており、大貴とカナエは彼女に必死で謝っていた。
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「全く、悲鳴嶼さんの目が覚めたら教えてって姉さんに伝えていたわよね?」
「うぅ〜…面目ないです…」
「まあまあしのぶ君、そのくらいd「何貴方は他人事のように仲裁しようとしてるんですか! 元はと言えば悲鳴嶼さん! 貴方があれから1週間も目を覚さないから悪いんですよ!」…申し訳ない…」
しのぶから凄まじい剣幕で詰め寄られ、大貴とカナエは再度低姿勢となる。
「はぁー…怒鳴っていたら段々疲れて来たわ…とにかく、悲鳴嶼さんは起きたのなら大事が無いかどうか精密検査をするから私に着いて着て下さい」
「あっ! じゃあ私m「姉さんはきてはダメ!」えぇー!? どうしてよ〜!」
「どうしてって姉さんも右足はまだまだ重傷のままだし、肺は軽症とはいえ重要器官なのよ? だから要安静! さっきだって悲鳴嶼さんの様子を見に行くっていうから渋々許可を出したんだから!」
「大丈夫よこのくらい〜 それに、悲鳴嶼君の検査に付き添うくらい良いじゃn「ダメよ!」うぅ〜…しのぶのケチ…」
ムカッ
「誰がケチよ!! 私は姉さんのことを想って言ってるのに!!」
「しのぶが私のことを心配してくれているのは良く分かってるつもりよ? でも、私も好きな人のことは心配なの!」
カナエからケチと言われたことでますます感情的になったしのぶに対し、カナエも強くそう言った。
だが
「好きな人のこと?」
先程のとある一言に大貴が口を挟んだ。
「あっ!////…」
カナエは顔を真っ赤にして口を押さえるが最早遅かった…
「どういうことかね?…カナエ君はまさか私のことが好きなのか?」
「!?//// ふにゅ〜……」
パタン…
自身の発言によって好きな人に対しての好意が思いっきり本人にバレてしまい、奥手のカナエはあまりの恥ずかしさから変な声を上げると卒倒してしまった。
「!? カナエ君! しっかりし給え!」
「はぁー…大丈夫ですよ悲鳴嶼さん、姉さんは恥ずかしさで気絶しただけですから。 というか意識を失った人をあまり揺すらないで下さい、逆効果なので……って前もこんなことがあったような気が…」
しのぶは溜息を一つ吐くと、意識を失ったカナエを揺する大貴に注意する。
そんな中、以前も同じようなことがあったなとしのぶはデジャブを感じていた。
「まあ、姉さんを安静にさせようとしていたのでこれはこれで丁度良かったです。 ベッドに寝かし付けておきましょう」
「ああ、分かった」
しのぶは都合が良いと言わんばかりにそう言うと、大貴と共にカナエを病室まで運び、ベッドに上げて布団を掛ける。
「それでは検査をしに行きましょう」
こうしてしのぶに連れられ、大貴は検査室に向かっていった。
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蝶屋敷・検査室
「視力も聴力も問題なし、心音も正常…身体の不調などはありますか?」
検査に特に異常は見受けられず、しのぶは大貴に気になるところが無いか尋ねる。
「ふむ、特には無いが…長い間眠っていたせいか大分身体が鈍っているように感じるよ」
「1週間も寝ていればそうなりますよ。 後で機能回復訓練を受けて万全な状態に戻していって下さい」
「うむ、すまないが暫くの間世話になるよ」
「良いですよ。 此処は元々そういう場所なんですから…所で悲鳴嶼さん、どうなんですか?」
大貴の身体の鈍りを機能回復訓練で治すことが決まると、しのぶが唐突にあることを聞く。
「? どうとは?」
大貴は何のことか分からず首を傾けた。
「はぁーー……本当に朴念仁ですね! みなまで言わせないで下さい…姉さんのことをどう思っているかどうかです!」
それに対ししのぶは大きく溜息を吐くとカナエのことをどう思っているのかと大貴に問い掛けた。
「カナエ君のこと…しのぶ君、カナエ君は本当に私のことが好きなのかね?」
カナエは本当に自分が好きなのかと大貴は聞くが
「今まであれだけ姉さんから好意を向けられてきていたのにやはり気付いていなかったんですか…そうです! さっき本人が奥手の癖に自爆して言ってしまいましたが、姉さんは初めて会った時から貴方のことが好きです!…その姉さんに対して貴方はどう思っているんですか?」
しのぶに呆れた顔を向けられ、再びカナエへの想いを問われる。
「…私は今までカナエ君に対して恋愛感情を抱いたことは正直な話無かったよ…良き友人、同僚、妹弟子としか思っていなかったからね…だが、今回カナエ君が上弦の弐に殺されそうになった時、最悪の結末を予期してしまった時…何というのだろうな…とてつもなく不安だったよ…彼女が私の前から居なくなってしまうと考えるとな…そして、カナエ君が無事だと分かった時は…心の底から安堵したよ…無事で本当に良かったと…更にいうと先程カナエ君の頭を撫でていた時、彼女の仕草が可愛らしく…心を奪われていt「もう良いです! もう分かりました! 貴方も知らない内に姉さんに惹かれていってるってことは! 長々と喋らないで下さい! こっちまで恥ずかしくなってしまいますから!////」…すまない…」
饒舌にカナエへの想いを話す大貴にしのぶは恥ずかしくなり、話を中断させた。
「…とにかく悲鳴嶼さん! ようは貴方も姉さんのことが好きということですよね?」
「…うむ、そうだな、私はカナエ君のことが好きなのだろう。 でなければ彼女を失うということを考えるだけでこれほど不安に駆られることはない筈だしな」
「…なら、さっさと貴方達は恋仲になって下さい! 姉さんは昔からずっと自分の片想いだと思っています! でも今回貴方から姉さんをどれだけ想っているのかが聞けました…貴方になら姉さんを任せられます…姉さんを幸せにしてあげて下さい!」
「…だが、本当に私で良いのだろうか?…カナエ君なら私よりも相応しい者g「それは姉さんが決めることです! 姉さんは他でも無い悲鳴嶼さん、貴方のことが好きなんですから!」…そう、だな…」
未だに自分で大丈夫かと言う大貴にしのぶはそれはカナエが決めることだと言い、彼は頷く。
「検査も終わりましたし、姉さんの所へ行ってあげて下さい! あの部屋の人払いはしておきますから…姉さんにありのままの貴方の気持ちを伝えてきて下さい!」
「ああ、わかったよ」
「あっ! 一つ言っておきますけど…姉さんを泣かせたら許しませんからね?」
「…うむ、善処しよう」
威圧を込めて言うしのぶに大貴は冷汗を流すと検査室から出て行った。
ー
ー
ー
カナエの病室
コンコン
「失礼するよ?」
扉をノックすると大貴は部屋に入る。
すると、カナエはまだ気を失ったままなのか静かにベッドに横になっていた。
大貴はベッド横に椅子に座るとカナエを見つめる。
「(こうして見るとやはりカナエ君は美人だな…以前までは何も思わなかったが、見ていると何というのだろうな…落ち着く…いや、癒されるというのが正しいか…)」
大貴は不思議と穏やかになるのを感じると、先程のようにカナエの頭を撫でる。
すると
「…フフッ ありがとう悲鳴嶼君、撫でてくれて」
カナエが微笑みながら目をパッチリと開いた。
「! 起きていたのかね?」
「ついさっきよ。 悲鳴嶼君が部屋に入ってきたくらいかしら?」
「最初からではないか。 起きているのなら私が部屋に入る時に返事くらいしてくれれば良いものを…」
「フフッ ちょっと悪戯したくなっちゃったから♪ ごめんなさいね」
「別に怒ってはいないから大丈夫だよ」
「それなら良かったわ〜 あっ! 悲鳴嶼君、検査はどうだった?」
「特に異常は無かったよ。 だが身体が大分鈍っていたのでね、機能回復訓練をするので暫くの間世話にならせてもらうよ?」
「異常が無かったのね! 本当に良かったわ♪ しのぶにも言われたと思うけど、此処蝶屋敷は元々そういう場所なんだから気にしないで」
「ああ、ありがとう…所でカナエ君、伝えたいことがあるのだが良いかね?」
急に真剣な表情になる大貴。
「えっ!? 何かしら?」
「先程カナエ君が私のことが好きだと言っていただろう?」
「っ//// え、ええ!////」
大貴の問いかけに瞬時に顔を真っ赤に染め上げるカナエ。
「つい口から出てしまったこととはいえ、女性にそんなことを言わせてしまったのだから私もそれに対して返事を返そうと思ってね…構わないかね?」
大貴の問いにカナエは首を縦に振る。
「私は最初、正直カナエ君を異性としては見ていなかった…良き友人、同僚、妹弟子などとしかな…だが、先日の上弦の弐との一件で最悪の結末…君を失うかもしれん不安と恐怖を感じた…それで良く分かったよ…私にとって君がどれほど大切な存在になっているかをね…先程からも君の仕草や表情に心を奪われている…どうやら私も君のことを愛してしまっているらしい…君の好意に長年気付けなかったどうしようも無い男だが…こんな男で良いのなら…胡蝶カナエ君…私…悲鳴嶼大貴と恋仲となっては貰えないだろうか?」
心の底からの大貴の告白。
それに対しカナエは嬉し涙を流すと静かに
「はい…喜んで♪////」
と答え、大貴からの告白を受け入れ、彼に抱きついた。
「ありがとうカナエ君…君は何があっても私が必ず守り抜いて見せる! 愛しているよ」
「!?//// うん! 私も大好きよ♪////」
晴れて両思いとなり、恋人となった大貴とカナエはお互いを強く抱きしめ合うと口づけを交わすのだった。
ついに2人は恋人同士となりました。
いきなり過ぎるという感は否めませんが、このまま行くと本当に最終話くらいまで付き合わない感じになりそうだったので…
ともかくカナエさんの長年の片想いがようやく実って良かった良かった。
まあ、間接的なキューピッドが童磨さんというのが何とも言えないんですけども…
確かに2人を救っちゃってますからね…
あながち人間を救う教祖様というのは間違いないのかもしれません。
というかわけで次回をまたよろしくお願いします。
この話の人物年齢
悲鳴嶼大貴・17歳
胡蝶カナエ・17歳
胡蝶しのぶ・14歳
後のちハガレンのホムンクルスの能力を血鬼術として使う鬼を出そうと思うのですが、誰が良いでしょうか? 勿論、出さないという意見もオッケーなのでよろしくお願いします。
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ラスト
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グラトニー
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エンヴィー
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グリード
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スロウス
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プライド
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出さない