硬欲に爆弾が炸裂し、辺りは爆炎に包まれる。
「…ほう…やはり効いていなかったか」
「だから言ったろうが! 何をしても無駄だ!」
爆炎を掻き分けながら”無傷の”硬欲が姿を現す。
「(攻撃が通らんのは中々に厳しいな…奴を確実に倒す方法は夜明けまで粘り日光で殺すしか無いか…やれやれ、こんなことなら全身を硬質化される前に生身の部分を斬り落としてそのまま頸も落としてしまえば良かったな) !?」
大貴はその光景に目を細め、内心で悪態をつく。
だが、不意に感じた強い鬼の気配に気付くと警戒を最大限に上げる。
「さて、さっさと死んでm !?」
再び大貴へと襲い掛かろうとしていた硬欲も遅れてその気配を察知する。
ドォーン!
地面が陥没する程の着地音と共にその鬼が姿を現す。
「何やら爆発音を聞きつけやって来てみれば…思わぬ収穫だな。 まさかあの方の命令にあった痴れ者の硬欲を発見することが出来るとは」
「チッ! 追手…しかも上弦かよ!?」
「上弦の鬼だと?」
「いかにも! 俺は上弦の参、名を猗窩座という。 あの方の命により痴れ者の硬欲、お前は始末させてもらうぞ。 それとその闘気を見るにお前は鬼殺隊の柱だな?」
「ああ。 その通りだ」
「ならばお前に魅力的な提案をしよう。 鬼にならないか?」
「…何?」
「鬼になれば今よりも更に強くなれる上にいくら年月が経とうと衰えることがない! 永遠に生きられる! 戦い続けることが出来る! どうだ、素晴らしいだろう?」
「…確かに魅力的な提案だな」
「! 話の分かる人間で何よりだ! ならば早速「…などと言うとでも思ったのかね?」 何だと!?」
「鬼になれば永遠に生きられるだと? 下らん! 君達は不老不死…神にでもなったつもりかね? 何より、日光に当たれば直ぐに消滅する分際でよくもまあそんな虚言を垂れ流せるものだと感心するよ」
「…貴様…」
「ガハハハ! 俺の所有物に手を出すいけすかねえ奴と思ったが…案外面白れぇ野郎じゃねえか!」
大貴の辛辣な返答に猗窩座は青筋を浮かべながら怒りを露わにし、硬欲はそれとは対象的に機嫌良く高笑いし、大貴に興味をみせる。
「鬼になど誰がなるものか。 下らん妄言を吐いている暇があるのなら、君はさっさとその頸を置いて消えたまえ。 私もこの任務をさっさと終わらせ帰りたいのだよ」
「…帰るだと? 帰れると思っているのか? 鬼にならないのなら殺す!」
猗窩座は構えると拳を握りしめ、大貴へと一直線に向かう。
「!」
大貴はそれに気付くと後方に退がる。
すると
ガン!
「「!?」」
突如、大貴と猗窩座の間に硬欲が割り込み、突撃してきた猗窩座を受け止めた。
「し、痴れ者の硬欲! 貴様何の真似だ!」
「ガハハハ! 見りゃわかんだろ? 三つ巴の戦いになりゃ俺も中々逃げられねえんでな? それに厄介さを考えりゃ上弦の参! てめえを潰した方が都合が良いんだよ。 ってなわけで鬼殺隊の柱さんよ! 利害の一致で共闘ってのはどうだ?」
ブォン!
「くっ!?」
硬欲はそう言うと猗窩座を投げ飛ばし、強引に距離を取らせる。
「…鬼との共闘など虫唾が走る……だが、まあ…利害の一致というのならやむを得まい」
大貴は硬欲との共闘に心底嫌な表情を見せるが「やれやれ」と呟くと状況的な判断で完全に割り切ると左眼に手をやり、眼帯を取り去る。
そして、その下の閉じていた左眼を開けると赤く輝く眼…最強の眼が顔を出す。
「さて、少し本気を出させてもらおうか?」
「な、何だその眼は!?」
「へえー、まだそんな隠し球があったのか? やっぱ面白れぇなてめえ」
「(上弦の参の驚きよう…どうやら上弦の弐からこの眼の情報は与えられていないようだな…こちらとしては都合が良い)…硬欲と言ったかね?」
「ああ。 どうかしたか?」
「共闘するのは状況を考えると仕方ないが、私は君を信用はしていない」
「まあ、そうだろうな。 俺は鬼でてめえは人間だ、信用しろってのが無理な話だ。 それにてめえは俺の所有物に手を出してる…正直俺としてもてめえは信用ならねえよ…だがよ、背に腹は変えられねえー。 俺もまだまだ死ねねえからな」
「敵の敵は味方というやつか…君を味方などと思いたくもないがね」
「生憎俺もだよ。 精々お互い背中を刺されねえよう気をつけるこったな」
大貴と硬欲は軽口を叩き合うと構えを取り、猗窩座の出方を伺う。
「2対1か…まあ良い! どちらも殺すのみだ! 術式展開! 破壊殺・羅針」
猗窩座は大貴と硬欲を睨みつけると、雪の結晶のような形をした陣を展開する。
「…(何だあの陣は? 見た目から察するに攻撃用の血鬼術ではなさそうだが)」
陣を展開した猗窩座に大貴は油断無く冷静に分析し様子を伺う。
「訳のわからねぇもんを出しやがって」
硬欲もその陣を警戒し、構えたまま猗窩座を見つめる。
「どうした、来ないのか? ならばこちらから行くぞ! 破壊殺・乱式!」
陣に警戒し、向かって来ない大貴と硬欲に猗窩座は先手必勝と言わんばかりに前方に無数の拳打を乱れ打つ。
すると、それは衝撃波を伴い彼らに凄まじい勢いで迫ってきた。
「!」
サッ
受け止めるのは悪手であると判断し、大貴はそれらを回避する。
「こんなもん食らうかよ!」
ズガガガガ!
それとは対照的に硬欲は自身の硬化能力…最強の盾の防御力に物を言わせ、真っ向から全てを受けきる。
「ガハハハ! 効かねえな!」
「…あの方の言っていた通りその血鬼術は相当に硬いな…外側を破壊するのは文字通り骨が折れそうだ…だが内側を破壊されたらどうかな?」
「あ? 阿呆かてめえ、外側を破壊出来ねえ癖に内側もクソもねえだろうが?」
硬欲は先の一撃で猗窩座の攻撃を受けきれると判断し、拳を握りしめると走り出し彼に襲い掛かる。
「外側を破壊出来ずとも、内側を損傷させる方法などいくらでもある!」
猗窩座は硬欲の拳の連撃をまるで未来予知でもしているのかと思わせる程の先読みでかわしながら余裕の表情でそう宣言する。
そして、硬欲が大振りの一撃をした直後の僅かな隙を見逃さず
「破壊殺・脚式・飛遊星千輪(ひゆうせいせんりん)!」
ドゴッ! ドゴッ!
「グッ! ガハッ!?」
猗窩座は硬欲の懐に入り込むと、硬欲を打ち上げるように連続蹴りを放つ。
その連続蹴りの威力はかなりのものだったらしく、硬欲の外側は傷一つ無く無事なものの、その余波は内側にまで及んでいたようで、内部を破壊された影響により硬欲は血反吐を吐き上に吹き飛ばされた。
ガクン…ザッ
「!! やはりあの硬さを直接蹴ればこちらもただでは済まないか…」
しかし、硬化状態の硬欲を直接蹴った猗窩座の方も流石に無事とはいかず、両足の骨が折れたのか一時的に膝をつく。
そこへ
「剣の呼吸・捌ノ型」
「!?」
「千剣連呀(せんけんれんが)!」
猗窩座が膝をついた隙をつき、大貴が二刀による目に見えない程の速度の激しい突き繰り出す。
そのあまりの速さゆえに猗窩座は千の刀に一斉に突かれているように錯覚する。
「!? 破壊殺・終式・青銀乱残光(あおぎんらんざんこう)!」
ズドドド!! ガギギギ!! ズドーン!!
瞬時に折れた両足を再生させ、立ち上がった猗窩座だが、間近に迫る大貴の連撃を前に奥の手とも言える自身の最強の技…青銀乱残光で迎撃、その拳によって展開される全方向かつ広範囲に同時に放たれる百発の連撃が大貴の千剣連呀と激しく衝突し、その余波により周囲は凄まじい轟音を轟かせる。
「うおぉーー!!」
「ぬおぉーー!!」
大貴と猗窩座はお互いに雄叫びを上げ、両者は拮抗する。
そして遂に
ジジジ……ボガーーン!!
技のぶつかり合いによって両者を起点として爆発が起こった。
その際に巻き上げられた砂煙によって辺りは包まれ、見えなくなる。
そして煙が晴れると…
「ぐっ!……」
二刀が折れ、腹部を押さえて片膝をつく大貴と
「ゴフッ!……」
全身を刺し貫かれ、血を吐き、至るところから大量に血を流す猗窩座が姿を見せる。
だが鬼…それも上弦の参である猗窩座の再生力は常軌を逸しており、全身に負った刺し傷が瞬く間に治っていく。
「…流石は上弦…あれ程の深手を負っても直ぐに治るか…」
「これが鬼になる利点だ。 この程度の傷では直ぐに治癒してしまうぞ? それに引き換えやはり人間は脆いな…終式とはいえ一撃を腹に受けただけでもう満身創痍ではないか! だが鬼狩り、貴様は死なすには惜しい! もう一度言う! 鬼になれ名も知れぬ鬼狩りよ! 鬼になればその取り返しのつかない傷も一瞬の内に治る! 何より今よりも強くなれるんだ! さあ鬼狩り! 鬼となって俺と永遠に戦い続け、お互いを高め合おう!」
「…下らん! 何度言われようが私は鬼になどならん! それにこの程度の負傷が取り返しのつかない傷だと?……舐めるなよたかが鬼風情が!」
猗窩座の言葉に大貴は怒りを露わにすると折れた二刀を捨て去り、背中から予備の新たな日輪刀を二刀抜く。
「…貴様には何を言っても無駄なようだな…強情な奴だ、仕方ない…殺すには惜しいが…死んでm !?」
猗窩座は大貴にとどめを刺そうと拳を構えるが、突如飛び退く。
「むっ?……成る程、夜明けが近いか…」
大貴は猗窩座が飛び退いた理由を理解する。
そう、上空を見上げれば夜空が徐々に明るくなってきており、間も無く朝日が顔を出す…そんな状態になっていたのだ。
「くっ! 戦いに夢中で夜明けに気付くのが遅れるとは…不覚だ!」
「鬼というものは不便だな? 一々太陽に怯えて生きていなければならんとは…やはり下らんよお前達は」
「き、貴様!…」
「そんな悠長にいつまでもこの場に居て良いのかね? 君こそ、この場に居て私と下らん問答をしていては取り返しのつかないことになるぞ?」
「ぐっ!…鬼狩り…名は何という…」
「名を聞かれたのなら答えねばならんか…鬼殺隊剣柱、悲鳴嶼大貴だ」
「悲鳴嶼大貴…覚えたぞ! 次に会う時は必ず殺す! 覚悟しておけ!」
怒り、血走った目でそう言い残すと猗窩座は太陽を避ける為に全速力でその場を離脱した。
「…逃げたか…そういえばあの硬欲とかいう鬼は?…」
猗窩座が消えたことを気配から察すると、大貴は猗窩座によって先刻吹き飛ばされた硬欲を探すが見当たらない。
「…奴め、上弦の参に吹き飛ばされた際のどさくさに紛れ、逃げたな…まあ良い、とにかく傷の治療をしなければな…このまま蝶屋敷へ向かうとするか…やれやれ、カナエ君に何を言われることやら…」
大貴は耀哉に鴉の殺丸を飛ばし、今回の件を報告させると、猗窩座の一撃によって負傷した腹部の治療をする為にその足で蝶屋敷を目指す。
カナエに戦慄しながら…
ー
ー
ー
一方、姿を消していた硬欲は硬化状態を解き、通常の姿となった状態で日陰をひた走り、日差しの差さない場所を目指していた。
「…あの野郎に吹き飛ばされた隙を付いて上手く逃げられたぜ! しっかしよりによって上弦の参に見つかるとはな…親父殿…いや、鬼舞辻無惨からの追手がまた増えるのかよ…めんどくせーな!」
悪態をつき、走り続け、日中の隠れ家としていた洞窟にたどり着いた硬欲だが、中から二つの知らない鬼の気配を感じ取ると警戒を見せる。
「!? 誰だ! 居んのは分かってんだ! 出てきやがれ!」
「…貴様…この方にそのような口を!」
硬欲の言葉に二つの気配の片割れ…少年の姿をした鬼の愈史郎が苛立ちを隠さず声を張り上げる。
「愈史郎、この方の住処に勝手に入り込んだ私達が悪いのです。 勝手に貴方な住処に入り込んで申し訳ありません、貴方が硬欲さんですね?」
そんな愈史郎を宥めるもう片方…とても美しい美女の姿をした鬼の珠世が硬欲に問いかける。
「…そうだが、てめえらは何だ? 俺に何の用だ?」
「私の名は珠世…貴方程の鬼なら私の名に聞き覚えはありますね?」
「!…ああ、聞いたことがある。 俺の他に無惨の元から消えた鬼がいるってな…で、もう一度聞くがあんたは俺に何の用なんだ?」
硬欲は珠世に何の用で此処に来たのか再度聞き返す。
「単刀直入に言います…硬欲さん、私と手を組んではいただけませんか?」
「あ!?」
それに対し珠世は驚愕の提案をするのだった。
かくして、鬼舞辻無惨の元を離れた痴れ者の鬼同士は相対する。
というわけで猗窩座まで現れるという展開になってしまいました。
しかも夜明けで終了という不完全燃焼さ…
ですが、大貴はあのまま戦っていたら相当に分が悪かったです。
腹部へのダメージは描写していませんが、一撃を喰らう際、咄嗟に2本の鞘を使って腹部を防御していた為意外と軽症だったのですが、軽症とはいえ負傷は負傷なのでどうしても万全な状態よりは動きが鈍くなってしまいますから…
ハガレンのブラッドレイは太陽に見放されて敗れましたが、大貴は逆に太陽に助けられた形ですね。
これで童磨と猗窩座、上弦の鬼2体と因縁が出来てしまいましたがどうなることやら…
しかも最後は硬欲と珠世さんが出会ってしまいました。
作者自身もどうなるかわかりませんが、これからもどうかよろしくお願いします!
あっ! ちなみに負傷したことでカナエに怒られると戦慄していた大貴でしたが、寧ろその逆でめちゃくちゃ心配されて泣きつかれ、負傷が治った後に任務がきてもカナエの独断で暫く任務に行かせてもらえなかったそうです…