話が進まず申し訳ありません。
「…さて、改めて本題に戻りましょう。 皆さんのお陰で一年前に入手したこの上弦の壱の血…そしてこちらの元下弦の鬼の零余子さんと上弦にも匹敵する力を持つ硬欲さんの血はこの数百年滞っていた鬼舞辻を打倒する手段を新たに作り出すきっかけとなりました」
珠世はそう言うと黒死牟の血を再び自身の懐へと仕舞い、机の引き出しから何やら紙を取り出す。
そこには調合表のようなものが所狭しにびっしりと書き記されていた。
「まだまだ試作構成の段階ではありますが…鬼舞辻にも通じるであろう劇薬の調合表です」
「「「「!?」」」」
「「「……」」」
またもや飛び出した珠世の衝撃的な発言に大貴達鬼殺隊組は驚きを隠せない。
一方、事前に珠世から知らされていた鬼組の三人はそれぞれあまり興味無さげに腕を組み状況を見守る者、強い相手が周りに沢山居る状況が本能的に嫌なのか不満気にソッポを向く者、珠世に向けて興奮しながら眺望の眼差しを向けまくる者と三者三様であった。
「今のところ書き記しているものは順に″人化の薬″ ″老化の薬″ ″分裂阻害の薬″ ″細胞破壊の薬″ の四種類です。 完成すればどれもあの男にとって間違いなく天敵となりうるものの筈です」
「珠世さん、鬼を人に戻すことが可能なのですか?」
「まだ薬は完成しておらず、断言は出来ませんが恐らくは…完成次第捕らえた力の弱い鬼から段階的に投与し、効果を確認していく予定です」
大貴からの質問に珠世はそう答える。
「…私からも良いですか?」
「どうしましたカナヲさん?」
「…老化の薬と言ってましたけど、鬼って歳をとるんですか?」
「とりますよ。 数十年、数百年程では特に変わりはありませんが、数千年単位で歳をとればいくら鬼でも衰えます。 それは鬼の始祖である鬼舞辻とて例外ではありません」
「…後、分裂阻害の薬とも言ってましたけど…これは?」
「ああそれですか…」
カナヲの次の質問に珠世は返事を一言返すと下を向き、両手を握り締める。
彼女の脳裏には遠い昔、戦国時代のある記憶…とある剣士に追い詰められた無惨が肉体を瞬時に数え切れない程分裂させ、瞬く間にその場から離脱していった光景が映し出されていた。
「…今から500年程前の戦国時代初期、あの男…鬼舞辻を後一歩のところまで追い詰めた剣士の方がいらっしゃいました…」
「「「!?」」」
「戦国時代にそ、そんな剣士が居たんですか!?」
自分達は未だ姿すら視認していない存在の鬼の始祖である無惨と相対し、更には追い詰めた剣士が戦国時代に居たことにカナエは驚きを隠せない。
表情を見るに大貴達も同様のようだ。
「はい……気味の悪い余裕の笑みを浮かべてその方と対峙、戦闘を始めた鬼舞辻でしたが一方的に全身を袈裟懸けに斬られ、しかも斬られた傷が再生しないことに動揺し、顔は焦りの表情へと変貌していきました。 正直私はこれで鬼舞辻は終わりだと内心ほくそ笑んでいました…ですが…鬼舞辻の生への執着は私の想像を遥かに超えていたのです…」
「…無惨はどうやってその絶望的な状況を切り抜けたのですか?」
側から見たら明らかに詰みの状況を無惨がどのように切り抜けたのかカナヲは疑問に思い、珠世に問う。
「…鬼舞辻はどうあがいても剣士の方に敵わないと見るや一瞬にして自らの肉体を弾けさせ…数千以上の肉片に分裂して逃げました…」
「えっ!?…鬼の頂点である者がそこまでして逃げたんですか?」
「…ええ、死ぬべき場所で死なない…恥知らずの生に執着した臆病な卑怯者です…逃亡した後もその剣士の方に何をしても勝てないと本能で察したのか、彼が寿命で亡くなるまで数十年間地上に姿を現さない徹底ぶりでしたから…」
「…最低ですね鬼舞辻無惨は…無駄に長く生きていても何も役に立たない…生きていたところでアイツに価値なんて全く無いのになんで未だに生きているんですかね?…みっともない…早く死ねば良いのに…」
「「ぶっ!?」」
「っ!? ガハハハ!!」
カナヲの無惨に対する毒舌ぶりに玄弥と零余子は笑いが込み上げ吹き出し、硬欲は豪快に笑い出す。
「カ、カナヲ、さ、流石に言い過ぎじゃ…」
「…カナエ姉さん、無惨の肩を持つの?」
「そ、そうじゃないの! 私も無惨なんて一刻も早く倒したいわ。 でもカナヲがあまりに辛辣な言葉を使うから姉さん心配になっちゃって…」
「心配いらんよカナエ」
「大貴君…」
義妹が悪い方向に育っていないか心配するカナエを安心させようと大貴は彼女の右肩に優しく手を置く。
「それだけカナヲ君の心がこの数年で強く成長したということだろう。 他人を思いやることの出来る優しい子に育った…まあ、辛辣で過激な物言いなのには同意するがね…して珠世さん、分裂阻害の薬は無惨の肉片への切り替えを不可能にするものと言うことで間違いないですかな?」
「ええ、その認識で間違いありません。 そして最後四つ目の薬、細胞破壊の薬ですがこれは単純に細胞自体を破壊することで鬼の再生能力を根本的に喪失させるものです。 この四つの薬を完成、そして鬼舞辻に投与することが出来れば必ずあの男を追い詰める一手になります」
「珠世さん、私も薬学には多少覚えがあるんですけど、薬の製造を手伝うことって出来ますか?」
「勿論です。 人手はあればある程助かりますし、カナエさんのように知識のある方なら尚更ですよ」
「なら妹も今度連れてきますね。 妹のしのぶは私よりも薬学の知識が豊富なので♪」
「まあ! そうなのですか。 それは大変心強いです」
「珠世さんちょっと良いですか?」
「どうしました玄弥さん?」
「鬼の血ってあればあるだけその薬の製造に役立ちますか?」
「ええ。 私と愈史郎、硬欲さんと零余子さん、上弦の壱の血があるとはいえ、種類が更に多くあれば研究が捗りますからあればある程助かりますよ」
「ならとりあえず俺の血を採取して下さい」
「玄弥さんの血を?…失礼ですが貴方は人間です、採取してもあまり意味がn「俺は鬼喰いが出来る特異体質を持ってます!」!!?」
唐突な玄弥の特異体質の報告に珠世は目を見開く。
「俺は鬼を喰うと一時的に身体能力と再生力が鬼並に上がってその鬼の血鬼術かそれに近いものを使えるようになります。 だから俺の血は採取しておいて損はないと思います」
「成る程…そういうことでしたら有難く頂戴させていただきます」
珠世はそう言うと近くにあった注射器を手に取り、手際よくそれを玄弥の左腕に刺し、血を採取した。
「…カナエ姉さん、鬼といえば禰豆子は? あの子は人を襲わない不思議な子…あの子の血もあった方が良いと思う」
「確かに禰豆子ちゃんは鬼とは思えないくらい穏やかな子だし、研究の為にも血を採取する必要があるわね…でも…う〜ん…」
突然腕を組み、カナエは真剣な表情で思い悩み始める。
「どうかしたのかねカナエ?」
「血を採取するにはさっき玄弥君にやったみたいに注射器を刺さないといけないわ…ね、禰豆子ちゃんを傷物にするなんて…わ、私には出来ないわ…だ、大貴君…ど、どうしよう!!」
「悩み始めた理由がそれかね!?」
「だ、だって注射を打つのよ! あんな可愛い禰豆子ちゃんに! む、無理! 私には絶対に出来ないわ! というより誰かが禰豆子ちゃんに注射をしようとするものなら…花の呼吸の全型を使ってその相手を斬り伏せてでも止めてみせるわ!!」
メラメラと目に炎を纏わせた雰囲気でそう口にするカナエ。
心なしか彼女の周りに桃色の闘気が出ているのは恐らく気のせいではないだろう。
「カ、カナエ…」
「「……」」
「ヒ、ヒィ!?……」
そんな彼女に大貴は冷や汗を流しながら、玄弥とカナヲはまたかという感じで呆れ、零余子は本能的に恐怖し、悲鳴を上げると涙目で後退る。
「人を襲わない鬼?…自らの意思で鬼としての本能を押さえつけ鬼舞辻の支配から抗っている…私達のように肉体の改造も行わず…そんな鬼が居るのですか?…あり得n「いいや珠世、あり得ないなんてことはあり得ないぜ?」こ、硬欲さん!?」
そんな中、珠世は話に出てきた禰豆子の情報に考えを巡らせるが、あり得ないと口にした瞬間、硬欲が彼女の独り言に割って入った。
「この俺自身が良い例じゃねえか。 あのクソ親父殿の支配から逃れるのは何もお前達みてえに肉体改造するだけじゃねえ…方法はいくらでもある…ヤツの理解の追いつかねえ程の自我…俺の場合は強欲さだな…それを持った状態で無理矢理ヤツの支配から逃れるとかよ」
「…確かに身近に規格外な例がいましたね。 あり得ないなんてことはあり得ない…全くその通りです…認識を改めなければなりませんね」
「そういうこった」
珠世は硬欲との会話で何事も決めつけず物事を正確に見つめようと改めて誓うのだった。
ちなみに愈史郎はというと…
「た、珠世様…あ、ああ…貴女は本当に尊い…」
先程までの珠世の凛々しく会話する姿に見惚れ、現在周りに危険な相手が居ないこともあり、悠々と自分の世界へと旅立ち妄想していた…
本当に対談だけで何話も使って申し訳ありません。
次回で終わって次に進めるよう頑張りますのでよろしくお願いします。