アインズ・ウール・ゴウンと呼ばれたギルドの強さを知らぬ者は少ない。同時に、ほぼほぼ非戦闘員なメンバーが実在していたことはあまり知られていない。もちろん生産職をメインとするメンバーはいるだろうと思われていたが、そういった人材は基本的に表舞台に出ることが少ないのでいないも同然の扱いをされている。
彼女、カベルネ・ソーヴィニヨンはまさしくそんなメンバーだった。ログインしてはナザリック大墳墓の中で農作業や料理などの食料系の仕事に没頭し、誘われればドルイドとしてギルメンと一緒に冒険や戦闘をこなす。
「リアルじゃあこんなことできないから」
困った顔してそんなことを言う彼女に文句を言う者はいない。皆望むものは違えど同じような気持ちでプレイしていたし、何より彼女が作る食料系アイテムは職業ボーナスだけでなく種族ボーナスもかかってかなり効果が高かったのだ。穏やかで滅多に怒らない性格をしていたのも一因だろう。
そんなカベルネが結婚を機にユグドラシルを止めるとなった時、寂しく思いながらも、誰も引き留めなかった。リアルの環境の変化でやめざるを得なくなったのは彼女が最初ではなかったし、ここで文句を言ったら彼女の幸せを邪魔するようなものだとギルメンは自制した。
「カベルネさん」
「ん?」
「もし……もし、時間できて、戻って来れそうなら、いつでも帰ってきてください。歓迎しますから!」
「………ありがとう、モモンガさん」
彼女と最後に言葉を交わしたギルド長は、声色にほんのりと違和感を抱きながらも、それ以上何も言わずに送り出した。
***
時は過ぎ、ナザリック大墳墓は全てのNPCと最後まで残ったモモンガを連れて異世界へと飛んだ。大慌てて周辺調査とナザリックの隠蔽に取り組むモモンガは、配下のNPC達の期待に押しつぶされそうになっていた。
「せめて…せめて、誰か一人でもいてくれたらなぁ…」
共同支配者として立ってくれたら、せめて一緒に愚痴大会ができれば…素の自分を安心して晒せる相手がいたら、それだけでもっと楽なのにと。
奇しくも、彼がそう願った瞬間に、奇跡は起きた。
*
デミウルゴスはその時、ちょうど第七階層に戻っていた。この時の彼は知る由もないが、未来の彼はこうして戻ったことをこれまでで一番の英断の一つだと自負するだろう。何しろ、彼は誰よりも早く『それ』を見つけたのだ。
突如階層上空に現れた何かが停止することなく落下するのを見た時、彼は外敵による攻撃を真っ先に疑った。しかしその考えは、一秒すら保たずに破棄される。落下し続ける『それ』は、人型だった。純白のウェーブががった長髪、側頭から生えた曲がりくねった太い角、草花で作られた冠、灰色の毛皮製の上着、そして、見間違えようもない白山羊のような下半身。
「カベルネ様!!」
冷静でいられるはずもなく、彼は弾丸のように跳んだ。純粋な脚力だけで風を切りながら変身し、翼は出た瞬間に羽ばたかせる。対して呼ばれた側は微動だにしない。それが彼を余計に焦らせる。
「カベルネ様!」
地面にたどり着く遥か前に、デミウルゴスは彼女を受け止めた。腕の中のサテュロスからの返答はない。かつてナザリックにいた至高の四十一人の姿を完璧に覚えている彼は、彼女の異変にもすぐに気づいた。元々色白だったが、今はもはや青白いの領域に入っている。呼吸も弱々しく、眉間は苦しそうな皺を露わにし、頰にはどう見ても涙の名残にしか見えない水跡があった。
「……今は、治療が、先だ」
爆発寸前の火山の内の溶岩のように煮えたぎる怒りと憎悪を抑え、彼は最速でカベルネの私室に向かいながらペストーニャを呼んだ。
Cabernet Sauvignon
種族
サテュロス
職業
ドルイド
ハイ・ドルイド
ネイチャーズ・ヘラルド
マイナス(ディオニュソスの女性信奉者)
コック
ファーマー
マスターファーマー
カルマ:中立
レベルの振り分けはさっぱりなので省略しました