神様に気に入られた男は今日も学園で土をいじる 作:飽き性なSS作家
オグリキャップとナリタブライアンの両者が並び、軽い準備運動をしながらスタートコールを今か今かと待っている
それでも両者の気迫に圧倒され、会場は静まりかえっていた
「まさか、オグリキャップを指名するとはな。君と彼女に接点があるとは・・・。いや、ないとも言えないか」
「ああ。あいつの暴飲暴食は凄まじいからな。おかげで初の農園作物を六割ほど食われた」
そう、農園を復活させ、作物を収穫したのだが、目を離した途端、オグリに食われたのだ。容疑者が言うには
「すまない。朝練をしていたらお腹が減ってしまったんだ。一番おいしかったのは?そうだな、人参と言いたいところだが、この大根だな。みずみずしく、噛めば噛むほど不思議とおでんの出汁の味がするんだ。どうしてなんだ?」
と言って、品種改良した最後の大根を目の前で平然と食われたときには、アームロックをかけていた。痛がるオグリをみて通りすがりのミークが「それ以上はいけない・・・です」とツッコんだ事を今でも忘れない
「俺は噂に聞いてはいたが・・・あれほどの化け物だとは思わなかったんだ。まさか、作物についている土ごと食らうなんて!?」
「それは・・・お気の毒に・・・」
「だが、だからといってオグリキャップと・・・あー、害バ?関係なのによく連れてきたな」
沖野トレーナーは疑問に思ったのか、俺との関係を聞いてきた
「それはあいつの練習メニューを考えたの、俺だから」
「なんだと。君がオグリキャップの為に練習メニューを考えたのか?」
真っ先に聞いてきたのはシンボリルドルフ。何故か睨んでいたが気にせず答えた
「だってな。あいつが中央に来てからすぐに、担当していたトレーナーが亡くなっただろ。おまけにオグリの親友だったベルノライトも実家に帰った。そう思うと可哀想に思えてな。だから練習メニューを考えたりしたんだよ」
そう言うと何かを思い出したのかルドルフは少しうつむいた。元々、オグリキャップは中央のウマ娘ではなく地方のウマ娘。たしか、ルドルフが地方のスカウトを行っている時に見つけ、いろいろ手を尽くして中央に引き入れたのだが、地方で担当だったトレーナーは中央のライセンスを持っていなかった為、かわりのトレーナーが担当になった。が、その人は事故によって亡くなってしまった
オグリキャップは哀しんだが、まだメイクデビューを行ってはいない。なら、地方のトレーナーが来るまで練習に励もうとした。だが、オグリキャップの不幸は続いた。今度は一緒に来た地方の友達であるベルノライトの父親が倒れ、地方に戻ってほしいと家族の一報があり、戻ってしまった
結果、オグリキャップはぽっかり空いた心の隙間を埋めるように学園の飯を食った、食いまくった。そのぶん、ハードなトレーニングを行った。支給されたジャージや友達に選んでもらった靴もボロボロになるまで
「正直、自暴自棄になってたあいつをほっといても良かったんだが・・・。相当な才能の持ち主だ、って思い出してな。なら、無理にすり減らすのも良くない。だったら何かしらの目標があれば、暴走は止まると考えたんだ」
「それでどうなったんだ?」
「多少の監視は必要だったが、上手くいったよ。それが強さに変わっているのなら、万々歳さ」
そう言って俺はオグリキャップに歩み寄る。おそらくだが、今のオグリなら俺の与える課題をこなしてくれる。そんな予感がした
「オグリ、ちょっといいか」
「じゃあ、行くぞ・・・よーい、始め!」
沖野トレーナーが振り下ろしたフラッグが合図となり、二人は走り出した。先行したのはオグリキャップ、その後ろにナリタブライアンが張り付く
「前回とは違って、本気の走りだな。これは」
「おいおい。そんな悠長な事言っていてもいいのか?前回と違って今回走る距離は3000mとはいえ、あのナリタブライアンだ。楽に勝てるとは思えないぞ」
「確かに・・・。それに私の記憶が正しければ、オグリキャップは最長でも中距離。長距離は未だに走ったことはないはずだ」
「そうだ。トレセンの実習でも、菊花賞や天皇賞春、ステイヤーズステークスと同じ距離で、練習や模擬レースを行う事はしない。行おうにしても、それぞれの練習場の地形と実際のコースは違うからな。だが・・・今のオグリキャップは気にもしないさ。それに・・・」
「それに、なんだ?」
「そろそろだな」
さて、オグリ。お前に出した課題、上手くこなしてくれよ
スタートしてから最初のコーナーを通過し、第二のストレートの終盤だが、私と前の距離は変わらない。この戦いでどちらが辛いポジションと言えば、先行している奴だ。向こうは私の実力がわからない以上、下手にペースを上げることはできない
3000mはすこし辛いが問題は・・・なっ、なに!?
「おいおい、オグリキャップが抜かれたぞ。それもあんなにあっさり」
(・・・いいぞ。あとはお前次第だ。オグリ)
(こいつ、一体なにを考えている。何故、
「・・・」
オグリ。今回のレース、第二コーナーに入る手前で相手に先頭を譲れ、そして最終コーナーに入る直前まで
「七馬身のキープ。やってやるさ」
「なに!?わざとだと!」
「ええ。そうじゃなきゃ、あのスピードダウン、七馬身の差はありえない。大丈夫ですよ、オグリなら」
「・・・わからないな。君は、勝ちたいのか負けたいのか、どっちなんだ」
シンボリルドルフの言い分はもっともだ。この勝負は今後がかかっているとも言っていい。だが
「俺はどっちでもいいんだよ、本当は。この勝負のメインはオグリの成長具合を見ること。勝てば、俺はあの天性の怪物を一時的だが手に入れられる。負ければ、俺はやめることになるが、オグリの走りに魅了されたトレーナーがあいつをスカウトしようと躍起になる。どう転んでも、あいつらにとってはいい事尽くしさ」
まぁ、その後、学園がヤバいことになるけどな
「・・・君は」
「ん?」
「いや、なにもない」
「・・・そろそろラストだ。ルドルフもよく見ておけよ。今後、お前と肩を並べるかもしれない
(最終コーナーに入った。ここから一気にケリをつけてやる!)
(スパートに入ったな。なら私も、ここから全力だ・・・!)
「勝負だ・・・怪物っ!!」
踏み込んだ音が聞こえたが私はもうコーナーの中間にいる。たとえ追いつけたとしてもハイペースの代償は・・・!
ドンッ
「なにっ!?」
いつの間に隣に!?だが、ここからペースを上げれば!
「フッ・・・」
クソっ!追い抜かれた。いや、それよりなんだあの前傾姿勢は!?あんな走りであの速さなど・・・
「認めて・・・たまるか!」
コーナー出口で立場が逆転されたが、ナリタブライアンも最後まで食らいつく。おそらくオグリのスタミナ切れ、もしくはゴール直前の油断を狙っているのだろうが、無駄だ。随分、前のオグリならそれもできただろうが、今のオグリはもうただのウマじゃない。手負いの獣を追う
(くそっ・・・くそぉおおおおお!!)
ナリタブライアンの奮闘は素晴らしかったが、オグリキャップに4馬身の差をつけられ敗北した
「よくやったな、オグリ。課題もよくこなしてくれたな」
「ああ。なぁ・・・翔、私は強くなっているだろうか」
「・・・ああ。想像以上にな」
「!そうか・・・」
「課題・・・課題だと?まさか、第二コーナーの手前での異常な減速はお前の指示だったのか・・・!」
気が付くと鬼気迫る顔でナリタブライアンがこちらを見ていた。危機を感じたのか、オグリが俺の前に出ようとしたのを手で制止させる。俺はオグリをどかし、ナリタブライアンの前に立つ
「ああ。オグリキャップに指示を出して、お前を先行させるよう仕向けたんだよ。そして七馬身の差は、お前にその差を維持させる、そして更に差を開かせる為のペースを作らせる布石。正直、これは引っかかると思わなかったんだが、引っ掛かってくれて助かったよ。おかげで最終コーナーまで、オグリキャップは冷静に脚をためて、一気に差を縮めさせることができたんだからな。まぁ、これぐらいの事は中等部、いや子供でもすぐに罠だって気づくだろうぜ」
「ちっ・・・!」
「苛つくのはわかる。でも・・・良かっただろ。少なくともここに、お前以上の相手がいたんだ。少しだけだが、渇きは癒えたんじゃないか?」
「・・・・・・はー。ああ、少しだけ、だが」
そう言ったナリタブライアンの顔は、不服そうに見えるが何か憑き物が取れたような、そんな感じがした
「そうか。だけど、お前にはまだわかって無いことが幾つかある。まぁ、それは追々教えるが・・・とりあえず、1ヶ月よろしく」
「・・・ああ」
差し出した手とナリタブライアンの手が触れ、握手した。と思いきや、ナリタブライアンが思いっきり、手に力をかけてきた
「よろしく。仮トレーナー」
少し笑みを浮かべるナリタブライアンを見て、俺も負けじと力をかける
「ああ、このクソガキ」
こうして、俺とナリタブライアンの物語は始まった
「ちょっと待ってくれ。仮トレーナーとはどういう意味だ?」
水面下で互いの力がぶつかり合っているなか。オグリキャップが訪ねてきた。そういえば、今回の勝負内容伝えてなかった
「俺、こいつと一時的にトレーナー契約するんだよ。伝えてなくて、ごめん」
「?翔、忘れてるのか?」
「何を?」
「私に契約をお願いしたこと」
・・・はい?ちょっとまて、それが事実なら、俺としてはヤバいことが起こってしまう
「HAHAHA、一体、何ゆうとんねん。俺がいつ、オグリと」
「一昨日の早朝、農園で言っていたじゃないか。契約してー、って。だから今日、渡された書類も持ってきたんだ」
そう言うとオグリはポケットから、くしゃくしゃになった紙を出した。俺は引ったくるように取り、確認する。そこには俺が書いた名前と判が押されていた。だがなぜ今になって、確かにトレセンに来た直後に一枚書いた物があったのだが、それが見つからず、新しく書いたのをナリタブライアンに渡した
まさか、見つからなかったのは農園にある机の引き出しの奥底にあったからか!?。だとするなら、一昨日の早朝、ミークが来る前にオグリがきて、寝ぼけている状態で俺は、奇跡を起こしたというのか!?
だが、まずい。これが奴らに知られたら大変な
「たづなさん。双方の合意が取れたようなのでこれを渡します」
「はい。確かに受けたまりました。あら、翔さん。それは」
「へぇ!?いや、あっ、ちょ!」
いつの間にか、練習場にいた緑の悪魔にオグリの書類を取られてしまった
「・・・へぇ」
書類を見て、ニヤリと笑うたづなさんは悪魔そのものに見えた。ヤバい、取り戻さないと大変なことになってしまう!
「た、たづなさん。それは、ちょっとしたイタズラみたいな物でして・・・ははっ・・・。返してください!」
「イタズラ・・・ですか。じゃあ、もらってもいいですよね。あなたのイタズラは二度目、ですから」
「は?あー、その、たづなさん。もしかして前回の事、根に持ってます?・・・あれは俺のせいじゃない!本当です!信じてください!!」
「・・・本気で言っているんですか?あの後、大変だったんですよ。通った廊下には跡が、そしてなにより・・・私の新調した服が墨汁で着れなくなったんですよ!」
あの摩訶不思議な液体は墨汁!?んな、馬鹿な
「それは悪かった。謝ります、なんなら弁償しますから。だからどうかそれだけは、それだけはご勘弁をぉおおおお!!!」
「イ ヤ です!!」
プイと顔を背け、たづなさんは去っていく。ああ、なんていう事だ。ってか、返せって言ってるのに返さないとか子供か
「・・・ゴウツクババア」
小さく呟いた言葉が聞こえてしまったのか。たづなさんは急に止まり、ギギギッと音が出ているかのように首だけをこちらに向けた
「ナ ニ カ ?」
「「いえ!何も!?」」
あまりにも恐ろしい表情に関係のない人達まで素っ頓狂な声をだす。まさしく、悪魔だ。あれ
「まずい・・・まずいぞ、これは」
これから起こりえる最悪の事態を考え、頭を抱えてるなか、携帯が震えだす。恐る恐る、メールアプリを開くと二件のメールがあった
一つは理事長から、内容は想像できるがそれは重要じゃない。もう一つはやはり、あいつからだった
『契約オネガイシマス。(*´ω`*)』
内容を見た瞬間、俺の目の前は真っ暗になった