神様に気に入られた男は今日も学園で土をいじる 作:飽き性なSS作家
「ハァ・・・ハァ・・・!撒いたか・・・?」
俺は今、あるウマ娘から逃げている。先日の一件以来、確実に狙われている。何故、こうなったのかは少し時間を遡る
「辞令!桐生院 翔。本日付けで新たなチーム設立を」
「イヤです!」
「駄目だ!これは決定事項だ!」
「ふざけんな!?・・・第一、オグリキャップはともかく、ナリタブライアンは仮契約です。これはチーム設立条件には当てはまらないはずです」
「否定、それは問題ない。実のところ、ナリタブライアンには以前から学則を乱す行為を行っていたのだ」
え?あんな奴が?
「・・・とは言っても、寮に戻らずに練習場で走っていただけのようだが規則は規則。現在、シンボリルドルフが説明を行っているはずだ。契約すれば罰則は行わないと」
・・・ちょっと待て、あんたがやろうとしていることは脅迫及び自身が掲げる理想を裏切る行為だぞ
「ともかく!チーム設立は決まったことだ!今更、あれこれ言うな!」
「・・・わかりました。ですが!条件があります。練習場は必ず農園に近い場所を使わせてください!良いですか?良いですよね!?あとは・・・」
俺は理事長に鬼気迫る顔で頼みこむ。強制的に行うなら、こちらの要望を通してくれないと平等ではないからな!
「まったく、無理な要望をしてくれる」
チーム設立の条件の前に、新人トレーナーが複数契約をする事が出来ないことを忘れているとは、どこか抜けているとしか思えない
本当は彼が来る前、ナリタブライアンと契約関係の話をしたが、その時の彼女の顔は・・・
「自覚できればこの上ないが・・・まぁ、無理だろうな」
「うわ、凄い埃」
理事長から渡された鍵を使って、チームが使うプレハブ小屋を開けたのだが、最初に目についたのは机の上にある埃だった。それだけならまだいいのだが、カーテンはカビ臭い、床はギシギシなる時点で環境は災厄と言ってもいいだろう。こんなところで腰をいれるのは、あいつらも好まないはずだ
「・・・仕方ない、あいつらに頼むか」
安い日本酒二十本、高いやつ十本で手を打ってくれればいいが・・・あとは、材料と・・・あぁ・・・出費が・・・そう思いながら小屋を後にしようとした時だった。どこからか強い視線を感じる。この重いプレッシャーは・・・奴だ、奴が近くにいる、逃げなければ。俺はとにかく走ってその場から逃げた
「ニガシマセンヨ、トレーナー」
で、今に至る。トレセンの屋上に来たのはいいが、出入口で待ちかねていたら詰みだ。幸い、屋上にはロープ等のあまり使わない物を入れる備品庫がある。念のためロープで降りることも考えておくか
いざ、備品庫を開けたとき、出入口から音がした。物陰から恐る恐る見るとナリタブライアンがいた。念のため、チームに入るのかを確認しなければ
その前にロープの先端を柵に縛ろう
「よう」
「なんだ、お前か。お前は何処にでも現れるな」
「褒め言葉として受け取っておく。それで・・・どうすることにしたんだ?チームに入るのか、辞めるのか」
聞き方が悪いとは思っている。だが、正直あの勝負の結末がこれ程までの結果になるとは思っていなかった。担当になれればいいなと思っていたのが、飛躍して、チームのメンバーとして受け入れる、なんて決めてはいなかったし。だから、俺はまだ迷っている。目の前にいる天性の怪物が、ただのトレーナーに無理矢理従った結界、最悪の事態になったりしたら、俺よりこいつが悲しむんじゃないかと
「なんなら他の「入る」なに?」
「入ると言ったんだ。どちらにせよ、私は勝負に負けた。そして、やっと本気を出しても負けない奴が現れ、そいつはお前と契約している。なら、チームに入れば何度も奴と走れるからな」
「・・・やっぱお前、なーんにも知らないんだな」
「なんだと?」
「強い奴ばかり求めていたから、もしかして・・・と思ってたんだが・・・他の事知らないのはちょっとなぁ。まぁ、天性のバカだから仕方ないか。HAHAHA!」
「き、貴様っ!」
胸ぐら掴まれ、縦に揺さぶられたが笑うことを辞め、はっ!?
「トレーナーサーン!やっぱりここにいましたネ!諦めて契約書にサインを・・・あれ?いませんネ、どこデスカ~?」
「トレーナー?誰の事だ?」
「オー!ナリタブライアンサン!翔トレーナーを見ませんでしたカ?」
「ん?あいつなら急に用事が出来たと言って・・・」
クイ、クイと右を向くよう手で教えた。教えるなと言っていたが別に構わないだろう
「モー!逃げないでくだサイ!トレーナーサン!」
そう言って出口に向かって走っていく栗毛のウマ娘を見送った
上で俺を探しているようだが、もう遅い。今、ロープを使って二階辺りの外壁まで下がっていた。早く地上に下りて、更に距離を離してやる
地に足が着くと急いでその場を後にしようとした瞬間だった。何者かにタックルされたと同時に押し倒されてしまう。すぐに離れようとするが相手の力が強すぎて離れられない!?
「捕まえましたヨ、翔サン!サァ、契約書にサイン、what!?」
契約書と共に栗毛のウマ娘が真っ黒になった瞬間、力が緩まったので脱出し、逃げ出した。また、墨汁まみれになった人を見たが特に気にもしなかった
「・・・ワフ」
「えー。これから実力兼今後の練習メニューを考察するための模擬レース第二回目を行う。というわけで、位置について、よういドーン!」
合図と共にオグリキャップとナリタブライアンが走り出す。2000mだが、結果は前回とは違い、オグリキャップは大差で勝利し、ナリタブライアンはオグリキャップに着いていくのがやっとだったようで最終コーナーを抜けた時点でスタミナが切れていた
「だから、言っただろ。無理に着いていくとバテるからやめとけって」
「う・・・うるさい・・・」
「とりあえずちょっと休んどけ。オグリ」
「なんだ?」
息も切らさずに平然と歩いてくるオグリキャップを見て、多少の無茶しても良さそうだなと思ったが念のため聞く事にした。
「とりあえず、どこか体に違和感はないか?」
どんなに速くても体を壊されたりでもしたら元も子もない。体調管理もしっかりしなくてはいけないし、オグリは
「ないな。むしろ、まだ走り足りないぐらいだ」
「気持ちはわかるが無理すんなよ。まぁ、これなら充分、三冠ウマ娘になれる可能性があるとは思うが・・・お前と同時期に走る奴らの情報が少ないから油断は出来ないな。ちなみに次のメイクデビュー戦に出るウマ娘はわかるか?」
せめて、オグリのクラスで出る奴ぐらいは調べなくてはならない。だが、オグリがそれを覚えているかは疑わしいが
「そうだな・・・同じクラスなら、ヤエノムテキ、メジロアルダン、サクラチヨノオー、ブラッキーエール、ディクダストライカーが次のメイクデビューに出るそうだ」
聞いた瞬間、自分の耳を疑った。あの暴飲暴食オグリキャップが他の子の情報を掴んでいるとは
「なるほど、わかった。じゃあ、次のメイクの時にそいつらがどれ程の実力があるのか、見させてもらおう」
メジロの実力はよく聞くが、他の奴らは知らない。下手するとオグリに敗北を与えるかもしれない。だから、早めに実力を知っておきたいが・・・とりあえずは
「さて、練習メニューだが、オグリキャップは一つだけ練習項目を追加する。ナリタブライアンは、とりあえずスピード関連の練習より、スタミナ練習とあとは」
懐からあるものを取り出し、ナリタブライアンに見せ、ニッと笑う
「とりあえず駆け引きの練習だな」
「はい、王手」
「なっ!?ぐぬぬ・・・」
ナリタブライアンに見せたのは将棋。こいつを見ていて気づいたのは、普通のウマ娘から見れば恐ろしい程の脚力と観察力の高さ。だが、相手が自分と同等、又はそれ以上の実力者だと差を詰めたり、広がったときに冷静ではなくなることが欠点。将棋で気持ちの整理と更なる観察力の向上を促す
「はい。三分経過の為、敗北。四周走ってこーい」
「ちっ!」
俺の前で舌打ちして、走る。走り終わったら、また将棋の繰り返し。勝たない限り、ループからは逃れられないが、持久力もつくから一石二鳥
「おっ、ちょうど良いタイミングだな。よっと」
オグリが通過した瞬間、ストップウォッチを押す
「どうだトレーナー?」
「残念、6秒遅い。ちょっと休んで、また行け」
「わかった」
オグリがやっているのは、日本ダービーの距離で指定されたタイム2:00.0から+五秒の間に入るまで全力で走る、が新たな練習。ペース管理を頭と体に覚えさせ、無駄な体力を使わせない特訓。
オグリはともかく、ナリタブライアンの練習は遊びかな?と思うところはあるが実際、平常心の欠片もない奴だし別に構わないだろう
「くそっ。本当にこんなので「ソーリー!お先デース!」なに!?」
いつの間にか、私の前に屋上であった栗毛のウマ娘がいた。お先に、だと?ふざけるな、誰であろうと先頭は私だ!
私は脚に力をこめて、芝を蹴る。私の速度は上がっていき、目の前にいる奴を確実に捉えた
「オゥ!?アンビリバヴォー!流石、あの人が選んだ子デース!ですが・・・!」
相手は速度を上げ、少しずつ離していく。私も負けずに走るが
「イヤッホーーーーッ!!」
再び直線に入った途端、更に加速し、差が広がっていく。私はこれ以上走っても、追いつけないと判断し、スピードを落とした。だが、前にいた相手もスピードを落とし、私と並走し始める
「ブライアン、ナイスランでしたネ!」
「・・・貴様、私をバカにしているのか?」
本気を出して負けたのはこれで三度目だ。だと言うのにこいつは私を称賛する。私はそれが許せなかった
「ノンノン!本当の事デース!」
「タイキシャトル!!」
いつの間にかあいつがいた事に気がつかなかったのは俺のせいだが、勧誘に飽き足らず、練習の邪魔までするとは。流石に見逃せなかった
「タイキ!勧誘を迫るのは勝手だが、練習には来るなとあれほど念を押していただろう!!」
「ご、ごめんなさい、トレーナー。でも・・・!」
「『でも』じゃない!・・・まったく」
「うぅ・・・ゴメンナサイ・・・」
耳も尻尾も下がっていて、悲しいことがわかるが・・・。このまま帰したりすると問題になりそうだし・・・仕方ない
「はぁ・・・。正直、こんなので決めるのもどうかと思うが・・・。タイキ、今からコイントスをする。それで何が上か、当てることができれば、俺ができる範囲のお願いを叶えてやる。外したら、今後一切俺にかかわるな」
「おい、それは「やりマス!」おい!」
「それで叶うのなら、挑戦しマス!僅かな可能性があるのならば、挑戦して後悔したほうがイイデス!」
その心意気はよし。だが二分の一の確率だとしても、この勝負俺に分がある
「じゃあ、いくぞ」
指で空中に弾かれたコインは落下し、落下するコインを俺は掴んだ
「さぁ・・・どっちだ?」
「やられちまったな・・・」
俺は久しぶりに寮の部屋で夜を明かそうとしていた。あの後、あいつは表でも裏でもない。俺の手にコインはないと言い切った。結果はその通りで俺の手にコインはなかった。俺はコインを取る振りをして、コインを服の袖の中に入れていたのだ
イカサマをしたというのに負けたとなると、この勝負をしたこと事態、馬鹿らしいと思えてきて、あいつをチームに入れることを約束した。本人も要望通りになった事が嬉しかったのか、ナリタブライアンに抱きついていた
明日、書類を提出しなければと思うと情けなくて悲しくなってくる。そう思いながら契約書にサインを書いていると何者かが窓を叩いた
「誰だ?・・・何やってんだ、お前」
「ソーリー・・・あの、入ってもいいですカ?」
窓を叩いていたのはタイキシャトルだった。もうウマ娘寮の門限の時間は過ぎてるし、おまけにここはトレーナー寮、ウマ娘の寮の規則とほぼ同じでトレーナー寮にウマ娘は入ってはいけないのだが
「はー・・・靴脱いで上がってこい。静かにな」
俺はため息をつきながら招き入れた
「で?何のようだ?善良な生徒は寮にいなきゃ行けない時間だぞ」
「・・・翔サン。どうして私を遠ざける事ばっかりするのですカ?私に何か原因があるのなら」
「お前に原因はねぇよ。わかったなら帰れ」
「ほら!そうやって私を遠ざけようとしマス!やっぱり何か問題があるのでしょう?なら、直しますカラ・・・」
「直すから俺にどうしろと?昔みたいに優しく接してほしいのか?お前を傷つけたあの頃のようにか!?」
俺は声を荒くした。正直、タイキシャトルがいること事態、自分に対して嫌気がするというのに、こいつが突っかかるから余計に苛立ってしまう
「・・・そうです。あの頃のような翔サンに戻って欲しいデス」
「何でだ!俺はお前の、ウマ娘の生命線でもある脚を折るようなことをしたんだ。一歩間違えていたら、お前の人生を狂わせていたんだぞ。普通なら近寄りたくもないだろ!!」
俺がまだ子供だったとき、交流会でタイキシャトルと出会った。タイキシャトルはいつか、大きなレースに出ることを夢見ている、と楽しそうに語った。俺は共感し、親父が当時担当していたウマ娘のトレーニング表をコピーして、タイキシャトルに見せた。これをやったら早くなると得意気に言った。だが、そのトレーニングが子供のウマ娘にかなりの負担がかかるとも知らずに
結果、タイキは脚に軽い骨折をした。医者は治ったら、全力でレースを走っても大丈夫だと言われてはいたが、俺は信じられなかった。その日からタイキシャトルが故郷に帰るまで、彼女の前では口を閉ざし、接することもしなかった。そのしわ寄せが今になって俺に襲いかかるとは思わなかった
「でも、それはお互いが子供で何も知らなかっただけデス!」
「だとしても!俺が脚を折った原因に変わりないんだよ・・・」
俺はふらつきながら背を壁につけ、ズルズルと倒れこむ。本当になんなんだよ。昔の俺に戻ってなんになるんだ。俺はもう、タイキシャトルが俺に何を求めているのか、何を考えていることがわからなかった。だけど・・・
「なあ・・・なんであの時、俺を庇ったんだ?なんで俺を責めなかった。なんで…お前は俺を恨んでくれないんだ・・・」
あの時逃げていた俺が知ることが出来なかったこいつの気持ち、それが知りたい。それ以外は聞きたくなかった
「それは・・・翔さんが私の最初の友達だったからデス」
「は・・・?」
「小さい私は引っ込み思案で、故郷に友達がいませんデシタ。ジュニアクラスのレースに出て、走ったとしても周りに称賛されるだけで終わっていました。そんな私が日本の交流会のメンバーに選ばれ、日本に来て、どの家にホームステイするか決めようとした時、あなたは他の人達の順番を無視して、真っ先に私の元に来てくれマシタ。そして」
『一緒に来ない?僕の友達になってよ』
「私を選んでくれマシタ・・・。あなたが私の初めての友達になってくれただけでも、私は救われていたのに。私は色んな宝物を翔さんにもらいマシタ。だから・・・私はあなたを恨むことも嫌いになることはありません」
・・・なんだそれ。初めての友達になってくれたから、それだけで俺を許したのか?ふざ
「だから・・・だからッ!お願いデス・・・!私を恨んでも、罵声を上げてもかまいまセン・・・!傍に・・・翔さんの傍にいさせてください!」
涙を流しながらタイキシャトルは俺の傍にいたいと訴える。なんだよ・・・なんだよそれ・・・本来なら恨むのも罵声を上げるのも、俺じゃなくてお前なんだぞ・・・!
「・・・いいよ、タイキ。お前の気が済むまで俺の傍にいろよ・・・、でも・・・本当にバカだよな。お前も・・・・・・俺も・・・今更になって・・・。ぐッ・・・グスッ・・・!」
俺は観念したと同時に泣いた。自分でもよく分からない感情が溢れだし、目から涙が止まらない。そんな俺をタイキシャトルは両手で抱擁し、彼女の心臓の鼓動を感じられるほど体を近づけてきた
「もっと泣いても良いデスヨ・・・。涙が止まるまで私が傍にいますから」
男ならすぐに涙を流すのをやめ、大丈夫だと言うのが正解なのだろう。だけど、互いの意識がなくなるまで、俺達は泣き続けた。長い間、隔てていたであろうの壁を涙という水流で取り除くかのように
「タイキ・・・起きろ、タイキ」
「うぅ・・・翔・・・さん?」
「ほら、早く立て。急がないと朝練する奴らが起きてくるぞ」
返事の有無を確認しないまま、俺はタイキを外に連れ出した。時刻は午前1時、朝練する奴は早くて大体5時くらいから走り始める。寮の入り口付近に警備員はいるのだが、良く寝ていることが多いので大丈夫だろう
「ほら、しっかり歩け。・・・ってのは無理そうか」
今のタイキは、俺の手を繋いでいる状態で自分の足で歩いてはいるのだが、やはり足元がおぼつかない。俺は仕方なく、こいつを抱えて寮まで運ぶ事にした。抱えてもなんの反応も示さないので、よくこんな状態で歩いてきたなと思いながら、こいつが住んでいる寮まで歩いた
寮の入り口前まで来るとタイキを下ろし、ドアに鍵がかかってないかを確認する。案の定、鍵がかかっていたが、ピッキングツールを使って開けた。一発で開いたから、シリンダーが傷ついたり、壊れてはいないと思うが・・・まぁ、壊れたら予算で修理業者を雇うだろうから心配はいらない
「タイキ、起きろ。起きろってば」
タイキのほっぺをぺちぺちと叩くと欠伸をしながら腕を天に伸ばし、プルプル震えた
「・・・アレェ?・・・翔さん、どうして・・・」
「とりあえず、寮に連れてきた。わかったらとっとと部屋に戻れ、ほら早く、ハリー、ハリー」
「は、ハイ・・・」
「タイキ」
「なんデスカ・・・?」
「今日からよろしくな」
「・・・!ハイ!翔サン!よろしくお願いシマス!!」
そう言うとタイキはいきなり抱きついてきた。ちょっと腕が痛く感じたが・・・その前に声がデカいねん。他の奴らに気づかれたらどうすんだ
「・・・へぇ・・・」
・・・後半グダグダで、すみません