A man loved by the god of music 作:主義
北宇治高校吹奏楽部の元に向かったのは日本に着いてか一か月が経ってからだった。色々と準備に手間取ってしまったために一か月も掛かってしまった。
校舎は僕が通っていた頃と一緒とは言えないが……二十年近くの時が過ぎているとは全く感じられなかった。そして音楽室に行くと滝くんが窓の外を見ながら立っていた。
相変わらず、滝くんはカッコよくて絵になるね。
「久し振りだね、滝くん」
滝くんは僕が音楽室に入って来たのに気付いていなかったのか…僕を見ると少し驚いていた。
「あ…お越しくださったのであればご連絡をしてくれれば」
「面倒だったしね」
連絡をしたところで迎えに来られても面倒だったしね。
「お久し振りです。今回は遠い場所からお呼び立てしまいスミマセン」
本当に畏まっているね。高校の頃と何も変わっていない。あの頃も先輩の僕に対してとても畏まっていた。他の後輩たちと比べて彼は特に僕に対して敬意が高かったのを憶えている。それが良い事なのか悪い事なのか分からないけどね。
軽い挨拶を交わした僕は滝くんの全身を見て思ったことを口にした。
「滝くんは本当に34歳には見えないよね?」
「その言葉をそのままお返ししますよ。高校時代とあんまりお顔を変わっていませんし、時が過ぎているとは思いませんよ。先輩も僕的にはかなり変わったと思うけどね」
二人で久し振りにそんな会話を繰り広げているのも数年ぶりだ。
「…そうかな…」
「そうですよ」
僕は高校時代から何も変わっていないと思うけどな。
「それにしても滝くんがまさか北宇治高校に席を置くとは思ってなかったよ」
「母校での仕事も良いかなと思いまして」
そんな話をしていると音楽室のドアが勢いよく開いた。どうやら学生の授業が終わったようで吹奏楽部の生徒が来たようだ。
生徒たちは僕と滝先生が話しているのを見て…入っちゃダメかなという顔をした。
「大丈夫ですよ、皆さんは準備に取り掛かってください」
滝先生がそう言うと生徒たちは準備に取り掛かり始めた。
そして三十分後、全部員が揃うと滝先生は教卓に立った。
「今日は練習の前に皆さんに紹介しておきたい人物がいます」
その紹介したい相手が誰なのかは音楽室にいる人なら誰でも分かるだろう。だって一人だけ、どう見ても浮いている存在がいる。それは勿論、僕だ。
僕は滝先生は言い終わると教卓に上がり、滝先生の隣に立つと生徒たちを見渡して口にした。
「僕の名前は桜坂奏一と言います。この度、滝先生から臨時講師のお話を頂き、有難く受けさせてもらうことになりました。なのでこれから顔を合わせる機会が増えると思いますが宜しくお願いしますね」
僕が臨時講師だと思っていなかったのだろう、生徒たちの動揺が手に取るように分かる。
「桜坂さんの話通り、これから臨時講師として桜坂奏一さんには皆さんのご指導をしてもらいます」
その後も滝くんにしては珍しく長々と話していた。
これから彼ら彼女らが一体どんな音を聞かせてくれるのか今から楽しみだね。