『善逸、お前は俺の誇りだ』   作:マキシマムとと

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第 拾弐 話『夢うつつ』

 

父上の様子がおかしい。

昨晩、それこそ夜もふけた頃に来客があったらしい。

『らしい』となるのは、僕はそのお客さまと出会っていないから。

 

僕はもう七才だ。

僕の家には母上がいない。父上は毎日お酒を飲んで息をしているし、兄上には大切なお仕事がある。

 

だから家事に関係することはなんでも出来るように頑張ってきた。僕が物心つく前からこの家のお手伝いをしてくれているミソノさんと言うカクシの人に料理や洗濯、お掃除の仕方を教えてもらった。

だから当然、お客さまがお越しになられた時の対応も、僕の仕事だ。

 

 

僕の家は武家と言って昔々から続くお侍さんの家で、だから他の人たちに恥ずかしくないように、れいぎ作法や文字の読み書きを勉強する。

 

昨日は学校がお休みだったので、早朝から剣のけいこに集中することが出来た。

 

剣のけいこは楽しい。

なぜなら剣の指導をして下さるのは兄上だから。

お仕事も、ご自身のたんれんもあるのに、お忙しい合間をぬって僕に指導して下さる。

 

僕は身体が細くて力も弱いのですぐに息が切れるのだけど、兄上は違う。兄上は幼い頃から全集中の呼吸を使いこなしていたらしい。

正しい呼吸を成せば、長く強く戦えるらしいけれど僕は呼吸に関するたんれんを父上から禁止されていた。僕は兄上よりも身体が弱いので、無理に呼吸を使うと良くないことが起きるらしい。

 

それでも、少しでも強くなって兄上のお役に立ちたい。

だから僕は剣を振るう。

 

血豆が出来て、それが裂けて固まって。

その上からまた血豆が出来る。

手は痛くて、水仕事の時には辛いけれど、その辛さを感じる度に兄上の背中に一歩近付けた気がして、少しだけ自分を好きになれる。

 

兄上はその後、日の高い内から任務に行かれた。

家事が終わり日が暮れた中庭で、僕はその無事を祈りながら一人剣を振るった。

 

 

 

そんな事もあり、僕はいつもより疲れていた。

だから父上の言葉に従い、その日は普段より早く床に着いた。

そして、夢を見た。

 

 

 

夢の中で、父上は線の細い男性と語らっていた。

父上はお酒を飲む時よりも苦しそうなお顔でお話をしていた。

 

『えんじん』とは父上の事らしい。

『もえつきよ』と言われて、父上の目付きが鋭く変わった。

 

なんだか、奇妙な夢だな。

そう思っていると、父上が何か言う。

『せんじゅろうはーー』…僕?

 

父上は兄上の事だけを気にかけておられると思っていたので、例え夢でもその口から僕の名が出たことに驚いて、夢の中であることを忘れて身を乗り出した。

 

『ーーー!』

 

とたん、父上が人差し指と中指を揃えて立てて、僕の目を横に大きく引き裂いた。

 

 

 

 

「うわっ!」

床から飛び起きて目に手を当てる。

 

「…う、わー。びっくりしたぁ」

 

心臓がトトトトトトトトと小刻みに動いて、全身に血をまわす。

しばらくの間、身体が落ち着くのを待って時間を確認した。

空の具合を見るとまだ日の出よりだいぶ早い、いつもより一刻ほど早く目覚めたらしい。

 

「うん」

 

変な夢だったけど丁度いい。

予定通りなら、そろそろ兄上が帰って来る時間だ。

もしお腹がすいていたら、すぐにご飯を食べられるように準備しておこう。きっとお疲れだろうから、お風呂…は難しいにしても、足湯の準備だけはしておこう。

 

手早く布団を片付けて調理場へ向かう。

その途中で呼び止められた。

 

…誰?

 

と思ったが、誰も何も、今は僕と父上以外にはこの家に居ない。

 

「入れ」

「…は、はいっ!」

 

父上の部屋にはお酒の匂いが染み付いている。

いつも入ることの無い部屋に、いつもなら絶対に眠っている人から声をかけられて入室する。

なんだかとても不思議で、夢の続きでも見ているような気になった。

 

父上のお顔を拝見して、つい口を突いて言葉が出た。

 

「お休みになられていないのですか?」

 

疲労の色が濃い。

常からして宜しくない体調が、今では背を伸ばして座しているのが信じられないくらい、悪く見えた。

 

「うむ」

 

否定とも肯定とも取れる風にうなづき、目で近付くよう言われたので大人しく従い、膝で父上の前に進み、れいぎを正して座った。

 

「あ、あの。お休みになられたほうが」

「昨晩の事はどこまで知っている?」

 

…えっと。

日常的な会話以外、あまりしたことが無いからかな。

会話の噛み合いが悪くて、ちょっと困る。

 

「昨晩のこと、ですか?」

 

頭をひねって考える。

昨晩、と言えば日が暮れてから。

その後で僕が知りえる何か。

普段とは違うこと。

父上が一睡もせずにいる事につながる…。

 

「もしかすると、ご来客があったのですか?」

 

当てずっぽうと言うよりは、少し違う。あれは夢だったはずなのに、僕の中には確かにそれが正しいという感触があった。

何故か固まってしまった父上。

 

ちんもくに耐えかねて、僕はあわあわと続けた。

 

「えっと、変な夢を見たのです。線の細い男性と父上がお話をしていました。たしか『えんじん』とか、何か言っていて最後に僕の名前が出た所で目が覚めました」

 

しばらく動かずにいた父上が、片腕だけ上げて自分のおでこを触った。

 

「うむ。わかった」

 

うむ。

何もわかりませぬ。

 

「今日は来客がある」

「はい。何名さまでしょうか?」

「三名となる予定だ」

「かしこまりました。九時頃にはお越しになられるのですね」

 

「…うむ」

「じきに兄上が戻られますが」

「うむ、朝餉の用意を頼む」

「はい…あの、けいこ。私も見学したいです」

 

 

「う、む…いずれ、な」

いずれ。

いつか…。

父上のお身体をおもんぱかるに、いずれが訪れるようには思えない。やっぱり僕は父上に期待されていないんだ。

 

そう思ったけど、耐える。

僕は兄上の弟だから。だから、どんなことあっても乗り越えなくちゃいけない。

そう思ったのに。

 

「え?」

 

父上がひざで立ち上がり、僕にすり寄った。

「千寿郎」

抱きしめられた。

 

「悪い父親ですまない」

 

「ち、父上、お身体に…」

 

父上の身体の具合は本当に悪い。

なぜ生きていられるのか、ふしぎに感じられるほど。

だって、身体の中にある小さな小さな箱がボロボロに壊れているもの。人間は箱と箱がつながりあって活力をまわしているのに、その箱が壊れてグチャグチャになっている。

 

剣士として必要な筋肉や、普通の生活でこくしする血管などはのきなみ壊れていて、だから父上はそれ以外の部分にある『まだ正常な』箱に活力をまわして動いている。

お酒を飲むのも、薬を飲むのも、いつも辛そうで。

それでも毎日をけんめいに生きておられる。

 

だから、僕ごときに命を削ってはいけない。

そう。思ったのに。

 

「せめてお前の祝言だけは見届けるつもりでいたのだが、それすらもお前にしてやることが出来ない」

 

祝言…?

 

しゅうげんって結婚のこと?

な、なんで。なんで祝言?

 

「煉獄の家はお前が継いで行くのだ」

 

「なぜ、ですか?兄上がおられる!」

 

「アレには無理だ。お前しかおらぬ」

 

理解できない。

そう思う一方で、父上の言葉を真に理解している自分がいた。

兄上には、家を継ぐ意思などない。

 

『弱き人を助けることは強く生まれた者の責務』

 

あの人は常に、ひたすらに。不純物一つすら無い純真さでその信念の旗をかかげている。

 

だからこそ強く。

だからこそ美しく。

だからこそ、眩しい。

 

その炎の前には、煉獄の血など比べるまでもない。

それこそが僕の兄であり、この人の息子であり。

ただただ煉獄杏寿郎なんだ。

 

「お前の持つ才の一部でも、アレにあれば少しは安心して死ねるのだが…世の中ままならぬものよ。千寿郎、お前は凄い男だ。俺と瑠火の子供だ。杏寿郎が強い肉体と精神を持つように、お前には素晴らしい剣才と慈愛がある。俺はお前の父に選ばれた事を心から誇りに思う」

 

その瞬間に理解してしまった。

これが、この一時だけが父上が持つ命のなかで、僕に使える唯一の時間になったのだと。

僕は、父上の心臓が一度でも多く脈打つことを天に祈るし事しか出来なかった。

 

 

 




千寿郎くんの日輪刀の色が変わらなかった理由。

①弱いから。
②跡取りだから。

ね?
①ってあり得ると思う?
言っちゃ悪いけど村田さんですら隊士になれたんだよ?
煉獄兄&パパの二段柱をバックにしておいて、千寿郎が弱いとか草も生えませんわ。

千ちゃんは素直だから泣いてたけど、たぶんあの日輪刀は模造刀だからね?パパが刀鍛冶ド突いて作らせた傑作だから。
下手したら兄貴も一枚噛んでるから。

あ。
噛んでるで思い出したけどキシリトールガムの噛みすぎはヤバイよ。人によっては神経が痛くなる。
作者はそれでご飯が食べれなくなるくらい傷んで一時期お爺ちゃんの気分を満喫しました(ガム止めたら治った)。


うん。
クソ頭悪いこと書いてごめん。
ちょっと寝て起きてからまた頑張って書くよ。

追記:千寿郎の表現ではお酒を『飲む』と書いています。
本来なら『呑む』が正しいのですが、彼の視点では『飲む』ように見えているからです。
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