『善逸、お前は俺の誇りだ』   作:マキシマムとと

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第 拾参 話『産屋敷☆耀哉』

 

空気が震え、硝子を嵌め込んだ障子がカタカタと鳴く。

黙れ、と命じる槇寿郎の声が聞こえていないのか、彼は再度肺に力を巡らせた。

 

「わっしょい!!!」

 

煉獄杏寿郎、絶好調である。

「あ、兄上お静かに」

おずおずと制止を促す千寿郎に顔だけを向け(目が翔んでる)杏寿郎が返した返事は当然。

 

「わっしょい!!!」

 

怖いわ。

なんだこの兄貴。

知識で知る事と、実際に遭遇して知る事の大きな隔たりを痛感する。

煉獄家って、大変だったんだな。

 

 

 

応接用に広く造られたらしい日当たりの良い一室。

上座の中央に煉獄千寿郎、その脇を固めるように槇寿郎殿と隠の女性が座し、その手前に俺・杏寿郎・伊黒・真菰の順で座していた。

 

「こほん。皆さま、この度は最終選別を無事に終えられましたこと、心より慶賀申し上げます。わ、えとわわ、わた………ほ、本来であれば現煉獄家の当主である槇寿郎から申し上げる所なのですが、体調不良により私が代理として務めさせていただくこと、お許し下さい。こちらが当主の槇寿郎、こちらは昔からこの家に勤めて下さっている隠の御園と申します。私がまだ多くを知らぬため、その補佐に急遽駆けつけて頂きました」

 

その紹介にそれぞれが頭を下げる。

御園さんは俺達と同じか、それよりよりほんの少し年が上の女性らしかったが、隠の服装からあまり多くは伺えない。

ただ、彼女も千寿郎と同等かそれ以上に動揺している事は汗と目の動きから伺い知れた。

 

「うむ!素晴らしい!実に素晴らしい当主代行。俺は感動した!!御園さんも朝早くから有難う、兄の俺からも感謝申し上げる!!」

 

常識的に考えて違和感が凄まじい台詞なのだが、杏寿郎は本心から弟の当主代行を祝福しており、親である槇寿郎も沈黙で応えている。

 

というか、俺としては煉獄槇寿郎殿の様子にこそ違和感を感じると言うか、違和感しか感じないんだが。

貴方昼間からお酒を呑んで毎日お布団でゴロゴロしてて、その上で来客に切れ散らかす駄目親父でなかった?

なんか髭も剃ってるし服もビシッとしてるし正座姿は見本のように美しいんだけど、本当に槇寿郎殿? 悲鳴嶼さんの話は真実だったってこと?

実は双子なんだぜ、とか。

そんな設定ないですよね??

 

そんな訳で俺は混乱の真っ只中に居たのだが、それはそれ。固まった俺と、胃を押さえる御園さんの存在を無視して話は進められた。

 

「早速なのですが、皆さまに鬼殺隊としての任務が届いおります。その話の前に確認しておくことがあるのですが、皆さまは『柱』『十二鬼月』この二つの言葉をご承知でしょうか?」

 

これは俺と真菰への問いだろう。

俺は首を縦に振り、真菰は横に振った。

少しほっとした様子で千寿郎が説明を行い、そして。

 

「二日前、風柱であられた東郷重之殿が上弦の参、猗窩座の前に敗れました。そしてこちらが産屋敷よりもたらされた書となります」

 

懐から取り出した文を広げ、続ける。

 

「なにかの符牒なのか、判読に苦しむ所があるのですが、読みます『こんにちわ愛しい人。藤襲山では頑張っていたね。私も愛しい人の側に立てるよう励んだんだよ』」

 

…うん。

 

「あの、何度となく愛しい人と言う一文が繰り返されているのでーーー」

 

「省略して下さい」

 

目に力を込めて見つめると、千寿郎くんが悲しそうに微笑んでくれた。

 

「はい。では続けますね『古い文献に見つけたよ。君(※省略)が言っていた鬼殺隊士の年齢に関する記述。流石は君(※省略)だね、着眼点が素晴らしくて私は本当に、心より尊敬してしまうよ。

 

今からおよそ百年前、鬼殺隊は大きな傷を負った。その当時、上弦の弐と参を葬った伝説の鬼狩が存在したらしい。今では名前が残っていないのだけど、その剣士は水と岩の呼吸、その両方を使って鬼と戦ったと言う。その呼吸を(ながれ)の呼吸と呼ぶ、と。

ふふ、伝説とはいっても所詮二つ。君(※省略)とは比べるべくも無いことは私とて理解しているとも。

 

君(※省略)君(※省略)君(※省略)なんと、素晴らしい。

 

さて。残念だが話を戻そう。

その剣士が存命の間は鬼という鬼が鳴りを潜めた。人は繁栄し、剣士はその技を衰えさせたと言う。そして、流の剣士の死後、百鬼夜行が起こった。

 

恐らく君(※省略)が知る知識の中で、隊士の年齢に強い偏りがあったのもこれが原因だと考えられる。君(※省略)は知らなかったようだがそこなる男、煉獄槇寿郎はかつて炎神と讃えられたほどの剣士でね、歴代の柱をして百年に一人の逸材と云わしめた過去を持つ。今では見る影もなく身体を壊してしまったけれどね。

 

彼は鬼に恐れられていた。それこそ畏怖と書いても間違いないほどに。彼の座す場所に鬼の影はなく、行く先からは悉く消失した。

鬼は狡猾で、恥という概念を持たない。アレは勝敗がわからない勝負であれば平然と逃げるし、得られる物が無い争いを厭う。当然、己の手駒を無為に消費する事を嫌う。

 

だからこそ百年前に平穏の時代があり、槇寿郎の強さが近代の平穏を支えた。百年前、流の剣士が成し遂げた上弦二鬼の打倒。それはその剣士が衰弱して柱を退いたという欺瞞を用いて成されたモノらしい。

 

それが故に、槇寿郎が柱から落伍した事実に疑念を抱き、慎重に真偽を図っていたのだろう。しかし、遂にアレが動いた。風柱の死を皮切りにこれから多くの隊士が命を落とすだろう。上弦の鬼が、下弦の鬼が。あらゆる鬼が夜の闇を跋扈し、人に仇をなすだろう。

 

だから、今なんだよ君(※省略)。

 

二週間、猶予を与える。その間はなんとしてでも持ちこたえてみせる。君(※省略)よ、煉獄槇寿郎・杏寿郎・伊黒小芭内・真菰、この四人と共に上弦の陸を討伐して欲しい。舞台は知れている、演者は揃っている。君(※省略)ならば成し得ると、わたしは確信している。どうか私達により美しい未来を届けて欲しい。

 

君(※省略)へ、愛を込めて。鬼殺隊当主・産屋敷☆耀哉』」

 

 

 

 

 

………ちょっと、外の空気を吸いたい。

 

「愛しい人?」

真菰さんの目がツラい。

 

何にも考えてないよ? 私の心と同じで本当に穏やかな目をしてるでしょ? 私は本当に、心からなんとも思ってないよ?

と、そんな幻聴が聞こえる。

 

「産屋敷☆(ほし)耀哉だと? お館様はいつから改名なされたのか!」

違うんだよ杏寿郎、君はホントいつも違うんだよ、なんでなんだよ!

 

「百鬼夜行は俺が止める」

伊黒さん素敵!けど考えてね?

戦力差を考えてね?

死ぬよ??

 

情報量と質が濃いのに、君(※省略)が気になって毎回耀哉くんの顔が浮かぶんですけど、こ…これが。恋(死)。

呆けていても仕方がないので、手を挙げた。

 

「俺達三人は新人です、柱ですら敵わない相手に勝てるとは思い難いのですが」

 

「ほぅ、ならばどうするべきだと?」

槇寿郎殿が、鋭い眼差しを俺に向けた。

 

「話を聞いていたのか桑島の。百鬼夜行は既に始まっている。今、鬼殺隊に在籍している隊士で、こうして愚にも付かぬ問答に時間を裂く阿呆はお前だけだ。

皆が皆、命を削って闘っている。

なぁ桑島の。『勝てない』それは許されるのか?

俺達が勝てなければ誰かが死ぬ」

 

そう。

それは間違いない。

 

「しかし、問題があります」

堕姫・妓夫太郎との戦闘を想定するにあたって一番の問題となるのが【毒】だ。

 

俺には知識がある。

しかし、先程の産屋敷の指令書からもわかる通り、俺が知っている知識は限定されている。

妓夫太郎が毒を扱うのは間違いない。

しかしそれがどんな毒で、どのような対策を取るべきなのかまるで見当がつかない。知識では竈門禰豆子の鬼だけを燃やす炎のお陰で事なきを得たが、今そのような術は無い。

 

以前、俺が産屋敷に話した微妙な情報から推理して解毒薬を作ってあるのだろうか?

それが存在するとして、その薬が正しく作用する保証はどこにあるというのか。

 

攻撃を受けなければ良いのだろうが、俺達には実戦経験が少なすぎる。俺と比べるのはむしろ失礼なくらいに戦闘勘が鋭い伊黒も、俺達よりも多くの戦闘を経験している杏寿郎でも、無傷で勝ち得るなど不可能。

 

知識の中にある音柱よりも圧倒的に体力と毒への耐性で劣る俺達が、一撃でもその毒刃を受ければどうなるか。

いや、それ以前に俺程度なら堕姫の帯になますにされて死にそうな気もするのだが。

そのような俺の不安を受け止め、槇寿郎殿が頷いた。

 

「うむ…なるほど。知識に偏りがあるとは聞いていたが、本当に知らぬらしいな。毒は問題ない。既に対策の見当はついている」

 

そして、と続ける。

 

「俺が思っていたよりも根性があるらしいな。上弦相手に物怖じも無し」

 

俺以外は、の話ですよね。

 

「杏寿郎、以前鬼の語源を教えたことがあったが、覚えているか」

「はい! 覚えておりませぬ!」

 

「う、む…」

そのまま沈黙とか、やめてくださいません?

 

数秒の後、千寿郎くんがその空気を破った。

 

「確か、(おぬ)、姿が見えないモノであったかと」

 

「うむ! そうであったか!! 流石は千寿郎、後で高い高いをしてあげよう!」

 

「あ、兄上それは、その嬉しいのですが、肩にお怪我をされておりますし」

 

「うむむ! バレていたか。千寿郎はまだ小さいのに、本当に気の効く良い子だ。煉獄家は益々安泰ですな父上!」

 

 

ハッハッハッハッハ!

 

 

炎の呼吸で鍛えられた肺活を存分に使いこなし、杏寿郎が笑う。

一頻り笑い飛ばし、杏寿郎が落ち着いた頃に槇寿郎殿が平然と口を開いた。

 

「つまり、鬼の本当の脅威とは底が知れぬ事よ。こちらはある筋からの情報で相手の攻撃への対策も立てられる、そして頚の切り方も理解出来ている。これで勝てぬなら、なにをどうしても勝てぬ」

 

そう、か。

 

「勝ちましょう、父上!」

 

「今度は、役に立つよ」

 

「雷月、俺の足を引っ張るなよ」

 

不安は尽きない。

未来はいつだって不確定で、死の恐怖が俺の心を縛る。

…けど。

 

「お前らの未来は俺が守る」

 

その声に、父の姿が重なる。

俺を育てた二人の親父。

俺は、ただ拳を強く握り締めた。

 

 

 




大正コソコソ噂話①

流の剣士は偶然閃いた単語らしいですよ。
隻腕の凄腕剣士とか、そんな設定は無いったら無いんです。
そもそも水の呼吸は血液、岩の呼吸は龍脈の流れを操る呼吸法って言う妄想設定だから、併せて『流』の呼吸となっただけでして、特別ワニ先生とその信者諸君のご機嫌取りを狙った訳ではないのです。

そもそも鬼滅の刃の一番凄い所は宇宙戦艦UFO所属の宇宙人スタッフ全員からなる週一発送のトンデモ☆クオリティにあったと思うんですよね。

人間って、こんなに凄いんだ。
週一で?
週一でこのクオリティ出すの?

とな。
ほんと、宇宙人怖いですね。
なんかこの話前にもした気がする。
あー。老いたくないなぁ。


大正コソコソ噂話その②

煉獄パパは自分の実力を過小評価しているらしいですよ。
そもそもパパの鬼討伐数は記録にある歴代の柱の中で最小。
少年期に活躍し過ぎて無惨に完全マークされました。
その為、行く先々で鬼が逃げる逃げる。

上弦に至っては無惨直々の情報規制を受けてパパの存在すら皆さんご存知ないんですって。

それでは次回第拾肆話『グルグル』お楽しみに~☆

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