『善逸、お前は俺の誇りだ』   作:マキシマムとと

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第 拾肆 話『グルグル』

 

夜の花街。

常であれば月こそが我等の太陽と言わんばかりに人で賑わい、飯や女、男を狂わす香りを纏い妖しく蠢く。

その街に、異変が起きた。

 

最初に気付いたのが誰だったのか、記録には残っていない。

蛇の威嚇音が聞こえ、見ると奇妙な箱から紫煙が滔々と、見るもおぞましい速度で吐き出されている。

何処かで嗅いだことのある臭いにも思えたが、瞬時に鼻を刺すように襲う痛みに、目の奥から警鐘が鳴る。

 

「毒だ!!」

誰かが言った。

 

「逃げろ!毒を吸うと死ぬぞ!」

また誰かが違う声で叫んだ。

 

「街の外に出ろ!外なら安全だ!!」

「気を付けろよ!男なら女子供から逃がしてやれ!」

「タエさん、僕と一緒に行こう」

「金が、誰か私の金を!!」

 

騒然とした気配のなかに混ざる金の匂い。

それを嗅ぎ取った輩が二の足を踏む。

しかし。

 

「うわ、吐いた、こいつ吐いたぞ!!」

複数の人間が吐瀉物を吐き出し、そして。

 

ズンーーー!

 

動く筈の無いモノ、即ち大地が確かに揺れた。

 

「爆発だ!爆発したぞ!」

「ガスが爆発したんだ!早く、みんな早く逃げろ!」

 

これにより、僅かに残された理性は排除され、花街から続々と人が逃げ出す。逃げ遅れた女子供や年寄りには、それを見越したかのように助け人が現れて驚くほど速やかに避難が成された。

 

 

後日の検証で、ガスは地下空洞に溜まった物がなんらかの弾みで偶発的に爆発したモノであったとして処理され、紫煙に関しては毒性は皆無。集団嘔吐はどれも精神的な恐怖によるものであると断定された。

 

紫煙を吐き出す箱は街の至る所に配置されており、後の警察の調査により計画的な犯行であり、愉快犯であったと結論付けられる。

 

これが後に言う『花街毒ガス事変』の顛末であり、犯人は捕まらぬままに未解決事件として処理される事となった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

音の呼吸は雷の呼吸の派生である。

俺の知識の中で、何故音が雷の派生なのか、何故爆発を生み出すのかは判然としていない。

ーーしかし。

 

「音の呼吸」

 

雷の呼吸、その本質は神経にある。

人が肉体を動かす仕組みは単純で、脳からの指令が神経を伝わり筋肉を収縮させる事により稼働する。

雷の呼吸はその指令、電気信号そのものを直接活力に変換する。

 

俺の知識で、善逸は蜘蛛の毒を受けた。

その毒は四半刻(30分)で人間を蜘蛛に変化させるという常識の埒外にある劇毒。

症状としては手足に痺れと痛みにが走り、めまいと吐き気が加わる。そして激痛を伴う体の収縮が起こり失神するらしい。

 

 

 

まず痺れ。

 

最終的に知能を失くす事から脳への関与も考えられるが、この場合仮定として血流の停滞を原因として考える。

血流が停滞して、酸素の供給が不足。

その結果電気信号での情報の伝達に不具合が生じ、筋肉を動かすことが困難となる。

 

めまいと吐き気に関しても恐らくは同様。

内耳と脳を繋ぐ神経が酸素不足により混乱する事が原因だろう。

 

最後の体の収縮は流石に常識の範囲外の作用なので無視するとして、あくまで仮定として考えるならあの毒は血流阻害により神経伝達を困難にする毒だと言える。

 

その毒を受けながら、善逸は霹靂一閃の六連を放った。

それだけではない。

彼はどれ程追い込まれ、血を流し、限界を迎えようとも技を放って見せた。

 

それは始まりの呼吸、継国縁壱も同じ。

彼も寿命を目前にした状態で黒死牟を圧倒する一閃を抜く。

 

 

 

どれも、有り得ないのだ。

 

 

 

雷の呼吸無くしては、説明の付けようがない。

混乱し、衰弱した神経から送られる指令でどの程度肉が動く?

現に善逸は壱ノ型を発動するまでの間、何度と無く膝を地に付き地面を転げて子蜘蛛の攻撃から逃れている。

 

そして老化。

あの無惨でさえ『老化』に打ち勝つ事が出来ず『遠く及ばない』人間の前に破れ去った。

老化とは、それほどまでに免れざる摂理。

 

そして、雷の呼吸を扱える者にだけ赦された外法。

それこそが電気信号を直接活力に変換する神業。

 

如何に神経に混乱が生じていようとも、動くべき肉に活力が失われていようとも。届きさえすれば、願いさえすれば。

その雷は、全てを焦がす。

 

 

 

 

そして、それは音の呼吸も同じ。

音の呼吸も電気信号を活力へと変換する。

ただし、雷の呼吸との違いが一点。

変換された活力は刃を通して外の世界へ浸透する。

 

「壱ノ型・轟」

 

故に、俺の日輪刀であっても問題なく地を砕ける。

雷の呼吸を意味する黄金色の刀身に、稲妻というよりはただ黒い【ひび割れ】を生じたこの刀こそ、俺の本質を示す一振り。

爆発と同時に後方へ下がり、直ぐに穴の中へと駆け降りる。

 

「呼法変幻・雷の呼吸ー肆ノ型」

 

爆炎を突き抜け、視認した帯に向かって刃を向ける。

襲撃を想定していない帯の束は他愛もなく切り裂かれ、中に詰め込んだ大量の人間を地に吐き出した。

 

「なんだ!」

 

堕姫の分体、その中枢と思われる顔を狙うが、予想通り帯のしなりが俺の刃を通さない。

 

「は、はは。弱い、弱いねぇ!ひよっこの鬼狩め!」

 

ここに援軍は無い。

俺がもたつけば、コイツは必ず意識を無くした人間を喰らうだろう。

救い出した人々を守るためには、倒す以外に道はない。

だから。

 

「遠雷」「遠雷」「遠雷」「遠雷」「遠雷」

 

空洞という地形を活かし、肆ノ型を使い続ける。

 

「ハッ!無駄だ無駄だ!いくら跳ねた所でお前に私は切れない!」

 

 

 

 

一つ、疑問があった。

 

善逸は壱ノ型以外を使えないという設定。

習得すれば誰にでもわかる。

肆ノ型は壱ノ型の劣化。

俺のような技量に劣る剣士が、単純な呼吸操作と強引な肉体強化で発動する事が出来るこの技を、善逸が使えない?

 

それは違う。

獪岳が継承者の着物を着なかった理由と同じ。

 

善逸は肆ノ型を使うことが出来た。

しかし、それを使う必要性が無かったのだ。

ある、一点を除いて。

 

 

善逸が使った技【霹靂一閃・神速】

 

 

これは何だ?

霹靂一閃でありながら、己にのし掛かる瓦礫の重みを跳ね除け、負傷した状態など意に介さず堕姫のしなる頚を中ほどまで断つ。

 

理解すれば簡単なこと。

善逸は、壱ノ型に肆ノ型の馬力を取り込んだ。

なら、それならば。

肆ノ型に壱ノ型の爆発力を取り込めぬ道理などーー

 

「【肆ノ型・遠雷ーーーー神速!!】」

 

ーー無い。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーー面白い。

他の鬼は随分と派手に夜を飛び回っているのに、私は情報収集を優先してそれほど大きな祭りが無いまま退屈してたのよ。

 

そこに来てこの騒動。

 

花街の至るところから溢れだした紫煙には藤の花の嫌な臭い。遠くに聞こえた爆発の音とほぼ時を同じくして私の分体が消えたわ。

緊急時、アレには生存と生還を最優先に設定していたのに、念話を行う間も無く即座に切り捨てられた。

 

中核を無くして弱まった帯が私に帰ってく気配。

そこに付随してくる人間の気配には脅威を感じなけど、やってのけたことは事実。

だけど。

 

「鬼狩りの子ね」

 

気配を隠す素振りもなく、堂々と私の前に立つ男の子。

いやね。

まだ女も知らない尻の青いガキだわ。

 

「随分と用意周到だこと。いったい何人で来たのかしら。これだけ準備してるなら柱がいるのよね?まさかアンタは柱じゃないでしょ?だってアンタは見るからに弱いもの」

 

私の軽い挑発に、ソイツは爛漫な笑顔で応えた。

 

「柱は居ない!」

 

「…ハ?」

 

「俺と俺の父上、そして三人の友で力をあわせてお前を倒す!」

 

馬鹿にしているのか?

いや、一種の欺瞞?

そこまで考えたけど、目の前に立つ派手な髪の男からは不快感しか感じないのよね。

 

「ま、どうでも良いわ。アンタ顔だけは良いし、頚だけ切り取ってリンゴみたいにかじってあげる」

 

 

上弦を相手に一歩も引かない姿勢も悪くない。

一瞬で殺して綺麗な顔にするべきか、それともジワジワとなぶり殺して恐怖と絶望に染まった顔にするべきか。

なにかしら、とてもゾクゾクするわ。

 

 

 

 

 

 

戦う前にして愉悦を貪る堕姫。

その肉体にして武器である帯が前触れもなく起動し、杏寿郎の首へ迫る。

 

「炎の呼吸・肆ノ型ー盛炎のうねり!」

 

堕姫の住まう狭い室内であるにも関わらず、その剣は力強い炎を幻視()せて帯を切り払った。

 

「君を倒す!」

 

杏寿郎の強さの根底には超越した精神がある。

どのような敵にも揺るがず、己の弱さにも崩れない。

不動なる魂。

だからこそ、心を燃やせる。

 

「壱ノ型ー不知火!」

 

第二波となる帯の群れ、その隙間を一足で飛び越え、振るうは煉獄の赫き炎刀。

室内である不利など意にも介さぬその一撃の練度に、堕姫がたじろぐ。その瞬間こそが。

 

「蛇の呼吸」

 

知覚の外。

この世の道理を掻い潜り、外法の鬼すら欺いて。

 

「弐ノ型ー狭頭の毒牙」

 

伊黒小芭内のうねる日輪刀が杏寿郎の背から二重の刃となって堕姫の頚を斬り落とした。

 

 

 

 

 

 

違和感、だよなぁ?

 

妹の内からでもわかる藤の花のくせぇ臭い。

街のあちこちで焚かれた煙、普通なら混乱して罵りあい、いがみ合って利益を貪る人間どもが、そろいも揃ってお行儀良くお手々を繋いで仲良く避難。

そして完全に時機を見計らっての食糧庫への襲撃と番犬の排除。

極めつけに本体への襲撃だぁ。

 

妹はバカだし、どうせ俺がいるからって油断してるが、コイツらの動きは訓練して得た動きだよなぁ?

狭い狭い室内での戦闘を、想定した連携。

この若さで死線を潜ってきた相棒、つー線も無くはないが。

違和感を纏めるとどう見てもあやしい。

コイツらは、怪しい。

 

「来るぞ」

 

蛇の小僧が派手な小僧に声をかける。

 

「う~ん。お前ら、やっぱり知ってるな?」

 

何故かは理解出来ない。

今まで俺達の事を知って、取り逃がした人間は皆無だし、鬼にはあの方を裏切ることなんざ、考える事すら出来ない。

それでも、知っていやがる。

 

撤退。

 

その二文字が頭に浮かぶ。

しかし、あの御方がどう思うか。

妹が聞いた話では今回の戦闘には柱すら参加していない。

今回の明らかに異常な状況。

目の前の雑魚。

あらゆる思考がグルグルと頭を巡る。

そして俺はポリポリと頭を掻いた。

 

「やめたわ。馬鹿臭ぇ、お前ら全員皆殺しにして、街の連中に化けたカスどもの腕でも脚でも刻んじまえば良い。そうすりゃ吐くだろ、あぁ、それが良いなぁ」

 

だから、お前らは死ねよ。

 

「俺の名は煉獄杏寿郎!そして俺の友、伊黒小芭内!!」

「上弦の陸、妓夫太郎・堕姫、お前らの頚を斬る男の名だ」

 

「「死ぬときグルグル巡らせろ!!」」

 

は、ははは。

コイツらは絶対に、殺す。

 

 

 




獪岳が好きでこの作品を読んでくださっている方には申し訳ない。なんか、彼って裏方が上手なんだよね。
きっと活躍するから見ててな!

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