軽く調べたらかなり昔からあったみたいでビックリしました。
鬼滅という舞台の時代背景への理解が足らなくて、どこからどこまで横文字を回避したら良いのかわからないんですよね。
「花の…呼吸?」
聞いたことの無い名称だった。
藤襲山での合同訓練を提案した当日のこと。
各人の呼吸の音と、筋肉の音を聞き終えた雷月が私と諭吉さんにそう告げた。
彼が言うには私の血の流れる音は花の呼吸に適しているらしい。
「ここに来る前一度、産屋敷で花の呼吸の使い手に会ったんだ」
いけすかない男で、何度か殴りかかったけど簡単にかわされてボコボコにされたとか、うん。
やっぱり雷月は阿保の子だよね。
すごーく安心するよ、この感じ。
「真菰さん、今俺の事バカにしなかった?」
その問いに笑顔で首を振る。
だって、私はバカにしてない。
阿呆の子だなって思っただけだもの。
そんな雷月だけど、呼吸に関する才能だけは間違いなく本物。育手にも柱にも、これほど呼吸を熟知した人間は居ないと思える指導の巧さがあった。
「そこはもっと植物の茎を想像して気道を絞ると良い。そこじゃなくて、こっちに力を込めて」
自分には使えない呼吸であったにも関わらず、その指導は的確の一言。私達だけじなくて、選別参加者全員に同等の指導を行ったその手腕には本当に驚いたよ。本人は相変わらずで、どれだけ頑張っても自己評価がどんどこどんのドン底丸だったけど。
そんな経緯で花の呼吸を習い、雷月が唯一知っていた弐ノ型・御影梅を選別最終日に会得することが出来た。
水の呼吸を教えてくれた鱗滝さんに悪いと思ったんだけど、鱗滝さんは私の適正をある程度見抜いていたのではないかと雷月が予想した。
花の呼吸はこの身に神霊の御霊を降ろし、その御力を持って鬼と戦う異能の業。
必要なのは神霊を感じ取る超常の異才。
そして、彼等が好む血潮の純度。
私に神霊を見る能力は無いんだけど、鱗滝さんが鍛えてくれた私の血は、とても強く彼等を惹き付けるらしい。
水の呼吸の使い手を普通に育てるなら、単純に肉体の内側にある血の流れを意識して、それを限りなく早く、強く巡らせて全身を膨張させるのだけど。
「布ホースに水を通して出口を塞ぐと固くなるだろ?理屈はアレと同じ。だけど、真菰の鍛え方は違う。もっと広くて、透明で、清流みたいな涼やかな音が聴こえるから」
そう言って、雷月が微笑んだ。
なんだろうね。
ずっとそうやっていれば、可愛げもあるのに。
そして、煉獄邸で私は自分の行く道を知った。
「花の呼吸、その起源は千年前、鬼の始祖たる鬼舞辻無惨の出現にまで
槇寿郎様の御言葉に、背筋が伸びる。
「その当時、人間が鬼と戦うにあたって最大の脅威となったのが【毒】だと言われている。鬼が用いる鬼毒は個体によって作用が異なる、異なればそれに対抗する薬剤の成分も変わる。その為、当時は鬼毒に即座に対応する技術は確立されていなかった。いや、現在でも即座に、となると難しい事には変わりは無いか」
兎も角。
「その毒に抗う為に人が編み出した業こそ【
頼む、と。
槇寿郎様が私に頭を下げた。
「全身全霊を懸けて、守ってみせる」
そんな風に頭なんか下げなくて良い。
だって、これは私の道なんだから。
あ、また雷月が落ち込んでる。
君は悪くないのに。
抱えすぎなんだよ…馬鹿。
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それから、私は一路狭霧山へ向かった。
今ここには鱗滝さんと共に花の呼吸の育手、そしてその弟子が待っていると槇寿郎様に聞いた。
山に立ち入って直ぐに気付く。
空気の違い。
十日も経っていないのに、その空気の懐かしさ、心地よさが私の心臓にするりと入り込んでくるんだ。
道を歩けば、声が見える。
『おかえり』
角を曲がれば囁く言葉。
『おかえり、いもうと』
姿が見えなくても、わかるよ。
鬼と戦って、哀しみを知って。
雷月に習って呼吸を知った。
だがら。
『ありがとう』
「こっちこそ、だよ」
だから、私の鎖は変わった。
『うろこだきさん』『よろこんでくれる』『かえってきた』『かえってきた』『かえってきた』
私の鎖は、鎖のままで変わり無く。
だけど、名前がついたよ。
『まこも』
その文字に、脚が止まった。
「帰ったよ。私、生きて帰ってきた」
見えたら、良かったのに。
『ありがとう』
聞こえたら、よかったのに。
『おかえり』
伸ばした手は、錆兎には届かない。
あの温もりに触れる事は二度と無い。
だから私は、伸ばした手でお面に触れた。
鱗滝さんが作ってくれた狐のお面。
それを被る。
そうすれば、私の顔だって見えない。
これで、同じ。
「ねぇ、私って頑張ったよね」
声が震えてる?
そんなのは嘘だ。
だって、指摘できる人はココにはいないもの。
だから、嘘なの。
『えらかった』
「そうだね。私って偉いよね」
やっぱり嘘だ。
私はただ、ずっと跳ね回って息をしただけ。
それでも良いんだ。
楽しもう。
楽しくって、ウキウキして、駆け出したくなるよ。
「だからさ、お願いを聞いてよ」
◇
帰ってくる。
儂の娘が帰ってくる。
『真菰は死なんぞ』
そう言った友の声が、あの小憎たらしい笑みが。
真菰が儂に宛てた手紙を見返す度に何度と無く浮かぶ。
儂は結局、最後まで信じてやる事が出来なかった。
ただ、祈る事しか出来なかった。娘だと思っておりながら、慈悟郎ほど豪胆に扱う事が出来なかった。
己の不甲斐なさを恥じ入る爺の下へ、それでも文が届いたのだ。文に書かれた文字は、相変わらずの丸っこい癖字で。何度直せと叱っても変わらぬ。
気弱そうに、流されそうに見えるのは外面だけで、内側の根となる部分は只管に強情。
錆兎とは真逆で、あの頃の日々は…。
気配を感じ、文から目を離した。
遠く、道の先、木の影から現れた姿。
「真菰………?」
服装も体格も、顔に付けた狐の面も。
その全てが真菰を現している。
だが、鱗滝にはそれが誰なのか理解できなかった。
「水の呼吸・拾ノ型」
その人が、言う。
細い腕には不釣り合いな刀を掲げて。
真菰には習得出来なかった技を告げ、真菰では重さに負けるその刀を、隆々と振るう。
それはうねる龍のように、逆巻く水のように。
美しい水流の幻影を、刃を振るう毎に艶やかに広げ、まるで兎が跳ねるかのような野性を魅せて、その人が鱗滝に迫る。
「生生流転」
振り下ろされた太刀は、寸分の狂いもなく鱗滝の被る面を両断した。
その奥から現れる、年老いた、優しい、頑固で、強情、歯も欠けて、苦悩が染み付いた、慈愛しか見出だせないーー。
「錆兎…?」
狐の面は応えない。
応える顔など持ち合わせぬ。
しかし、今は、口だけは動く。
「『ーーただいま。お父さん』」
それだけで、救われた。
魂がほどける程に。
ーーさようなら、錆兎。私のお兄ちゃん。
ーーさようなら、真菰。私の妹。
鱗滝の腕の温もりに包まれ。
二人は今日、かえった。
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「花の呼吸」
舞台は整った。
緋袴の擦れる具合を感じ、白足袋に履いた草履で地面を擦る。
「
全身の血を清める。
月明かりを受け入れて、夜の空気を取り込んで。
私は、二振りの日輪刀を持つ手首を一息に揺らす。
すると、柄の先に取り付けられた稲穂鈴が荘厳を奏でる。
「召しませ召しませ」
呼吸を浅く保ったまま、ゆるりゆるりと歩を進める。
「召しませ召しませ」
瞳は決して動かさない。
かしずかない、意思を見せない。
「魔と出逢うたらば魔を払ゐ」
花となり、人を無くす。
「邪と出逢うたらば邪を払ゐ」
人であり、花で魅せる。
「
単純で良い。
異才の薄い私には、単純である方が好ましい。
ゆるりゆるりと舞いながら、しゃなりしゃなりと歩を進め。何度も何度も、時間の概念を無くして、ただただ没入する。
鬼が見える。
人が見える。
叫びや、血の雨が見える。
私の見ている物が今なのか、過去なのか。
未来を見ていたとしても、そのどれであっても私には影響しない。響かせるために舞踊り、掴み取るために唄うのに、なんだか変だね。
少しだけ溢れた私の思考に、私が微笑む。
『よき、よき』
『きよき、きよき』
私が微笑む。
私も微笑む。
そこには何も隔たりがない。
「召しませ召しませ、召しませ召しませ」
「願うは同じ、循環の」
「其方へ至る、循環の」
「妨げたるを、還す法」
「魔と出逢うたらば魔を払ゐ、邪と出逢うたらば邪を払ゐ、悪し鬼と出逢えば鬼を払へ」
「我は真菰、神ノ草ナリ」
稲穂鈴がもう一度、神霊の声と鳴った。
※原作でカナヲさんが花身術を使用しなかった理由(言い訳)。
那田蜘蛛山ではしのぶさんのお薬の効能実験と、貴重な花の呼吸の使い手の温存。
最終決戦では彼岸朱眼の副作用で神霊が好む血の清らかさが薄れたとか、珠世様が血清を作ってくれたから、とか。
うーむ、ムリ臭い。
…あ!
思い付いた!!
カナヲは『花の呼吸』は継承できたけど『花身術』は継承できず、カナエさんの死亡と共に原作世界では断絶してしまった。
うん、これで!
そんな感じの言い訳で許して下さい。
かなり強引なのは理解しているのですが、本作の『花身術』が間違いだったとしても、それに類似するなんらかの能力は存在した筈です。
作中でも言いましたが毒に対抗する術がなければ人間側が滅びます。どれだけ剣術を極めても毒には無力ですから。
そんなわけで、どうぞご容赦くださいませ。
★お・ま・け★
(未収録供養・藤襲山での修行から一部抜粋)
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血の流れを意識する。
心臓の鼓動にあわせて、全身をゆっくりと命の水が流れる。その様をひたすら鮮明に。脳裏に浮かべる事で本当の流れを空想に併せる。
それが第一段階。
次に、私が取り込む空気を意識する。
肺から始まって、気道に包まれ。
そこで、瞼を開く。
鮮やかに、遠くまで広がる世界を受け入れる。
私を造る血液と、私を包む誰かが、お互いに惹かれながら魂魄で結び付く。
今迄に感じたことの無い活力を知る。
それに思う心は無い。
何故なら私は私であり、同時に私を包むモノであるから。
「花の呼吸」
気道は細く。
植物の管を想い、生命を讃える。
「弐ノ型」
構えは堂々と。
咲き誇るが如く。
「御影梅」
最終選別、その最終日。
【天候・豪雨】
参加者全員を集めて作り上げた【簡易・藤やま道場】で、真菰が花の呼吸を、そしてその基礎となる弐ノ型を成功させた。
むさ苦しい男どもの雄叫びが木霊する。
総勢十三名からなる男の喝采に、道場が揺れる。
屋根を壊さんとして殴り落ちる大粒の雨。
それすらも弾き飛ばす熱気を伴い、空間が揺れる。
計画の発端者である雷月も、普段すました顔で門下生(仮)を虐め抜く伊黒も、誰も彼もが狂乱した。
「え、ちょ」
真菰!
凄いよ真菰ちゃん!!
「揺れが…!」
美しすぎる!
お婿さんにして!
「みんな、落ち着いて!」
花吹雪見えた!
おみ足が、おみ足がぁぁぁぁぁぁ!!
うぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ーーー結果。
【簡易・藤やま道場】崩壊。
負傷者・零。
あれほど密の空間からの崩壊で、負傷者が出なかった所にこの道場の価値がある。後に雷月は語ったが、それはそれ。
総勢十三名の男達は滝のような豪雨のもと、全員が揃って泥水が弾ける地面の上に正座して、真菰の怒りが落ち着くのを待った。
真菰がなにかしら大声で説教をしているのは口の動きで理解できるのだが、豪雨が豪雨しすぎて誰一人聞き取れない。
虚無の刻であった。
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この後すぐ、崩壊した藤やま道場に落雷がありました。
鼓膜が裂ける程の火力がなかったのは本当に不幸中の幸い。
とんでもなくド派手だったけどね。
もしも真菰コンサートが無かったら、このお話は選別終了前に終了(死)していました。
落雷って、怖い((( ;゚Д゚)))