『善逸、お前は俺の誇りだ』   作:マキシマムとと

18 / 50
第 拾捌 話『堕鬼』

愉悦(ゆ・え・つ)

ふひひ。アーシってば頭イーからさ、コトバを知ってるんだよねー。

 

最近さぁ、お仕事忙しいっしょ?

無惨様がぁ、なんか知らないんだけど目立たないように人間を襲えって言ってたのに、クルっと回って派手に人間入れ食いしちゃえよフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!

つってさ?

んでアーシも面倒だけどソコソコ頑張ってたんだよね。

うん。面倒なんだけどね。

 

んでもさ、リスクカンリ?

ふひ、横文字使えるってアーシすんごくない?

ほら、シルクカンリの寒天から考えてさ、柱と鉢合わせとかは勘弁して欲しいわけよ。

あ、そう言えば人間の頃は寒天大好きだったなぁ。

味が無いんだけど、その味の無さがゼツミョウ?

みたいな?

人間って濃いからなぁ。

ジジ&ババは臭いじゃん?

赤ちゃんは甘いし。

うん、あまあま。

人間の頃に食べたコンペイトウと変わらんくらいに甘いんだよ。ビックリしない?

はーぁ。

寒天人間どっかにいないかな。

異人さんってどんな味なんだろ、やっぱり違う味なのかな?ピリッと辛いのかな?赤ちゃんより甘い人間もいたりして!

エゲリョス人とか、オーストラージャンとか?

食べてみたいなぁ。

あ、コーペンハゲンって所には行ってみたい!

なんか魂が求めるのだ…ゴクリ。

 

てかさ、鬼の楽しみって食事に限定され過ぎなんだよね。

上弦の陸の堕姫さ…あ。

 

話変わってたわ。スッゲイ失敬、つってな。

堕姫ババァwww

くは、笑えるひひひひひ。

堕姫バ、ひひ、ひひひひひひひひひひひひひひひ!

堕姫のババァちゃんはさ、お綺麗だからお化粧とかオメカシとかしてたけど、別に楽しそうって感じじゃなかったし?

アーシもほら、美しい鬼の星のもとに誕生した美鬼ですし、身に付けるモノには気を使ってるけど、それが楽しいか楽しくないかっつーと、楽しくないんだよね、コレが。

 

て、違うよ!

ババァ、堕姫ババァwwwあとリスクカンリ!

そや!

あのババァ上弦の癖に、柱引退した臭い臭いオジンの鬼狩りとひよっこピヨピヨの新人の鬼狩りに殺られたんだって!

 

アーシってばリスクカンリの鬼じゃん!

鬼だけにw

だから、剣士を何匹か飼ってるのよね!

 

「いいことワンちゃん、こわーいワンワンが来たら直ぐに吠えるのよ。私の事、ちゃんと守って。信じてるから…!」

 

なんつって!

だからこの情報もアーシが一番!

子犬ちゃん偉い!

ヨシヨシしたげる!!

なんて事がさ、あると思ってんの?

ーーほんっと、駄犬。

 

力を抜いたまま右手を突き刺す。

アーシの細い指が、子犬ちゃんの歯の間を抜けてベロを掴む。はい、駄目なお口は痛い痛いしましょーね!

力を込めて引き抜く。

……うん。

悪くない。

アーシの言いつけ通り、ちゃんとベロも磨いてる。

匂いを嗅いで、それから一口ずつゆっくり食べるの。

アーシはお上品だからね、綺麗な食べ方しかしないの。

 

あれれ?

なんで躾されたかわかってない感じ?

やっぱ君は駄目なワンちゃんだよ。

 

アーシはね、挫折がだぁぁぁぁぁぁぁい好きなの。

強くて、輝いてて、偉そうなクソ袋がさ?

あ、俺ってただのうんちタンクなんだ。

て思い出すあの瞬間が………チュキ!

好き好き過ぎてさ、強引にガサツに勢いよく押し倒して喰い殺したくなるくらい、チュキなの!!

なのにどーなの!?

どーゆーことなの!?

そんな素敵なイベントがアーシの知らないところで開催されて、とっくのとっくに終わってるとか!どしてなの!!

ナノなのなのナノなの!!!

あ、下唇美味しぃ。

君のラストキッスがアーシみたいな美鬼だなんて、サイコーでしょ?幸せのまま死ねるなんてシコーじゃね?

 

ふひひ。

アーシって本当に優しいからさ、サービスも上手なんだ。

ほら、生き物って死ぬ直前には子孫を残そうとするんだよ。アーシの経験上オスは全員そう。

あ、枯れ木のジジイ除くよ、当然。

だからアーシはね?

首をゆっくりと絞めながら、腰をねっとり動かして。

そして耳元で「がんばれ、がんばれ」って言ってあげるの。

自分の血で溺れかけてるのに、それすら忘れちゃって。

ふひひひひ。

ワンちゃんってこーゆー所が可愛いんだよね。

 

あーぁ。

叶うなら堕姫ババァの目の前で、妓夫太郎様にこうしてあげたかったぁ。そう思ってたからさ。

余計に、愉悦なんだよね、この状況が。

 

 

 

 

 

 

鬼舞辻無惨によって召集された鬼の数は総勢で十二名。

上弦の五名を上座。

下弦の六名を下座に配置し、中央の小娘を取り囲む様相。

無限城で、裁きが行われようとしていた。

 

「これより、上弦の陸・堕姫の数字剥奪を行う」

 

黒い着物に身を包んだ女性、無惨が告げる。

中央の小娘の表情は無の一文字。

かつて、人であった頃『梅』と名付けられていた姿と同じ形になった堕姫の姿。妓夫太郎が最後に無惨の血を集めてくれたとは言え、本来は二人で一つの鬼であった上弦の陸だ。半身を喪った影響がこの程度ですんだ事はむしろ奇跡と言えるだろう。

 

上座側の上弦には反応が見られない。

黒死牟を筆頭に静観を貫く構え。

それに対して下弦の反応は愚かしかった。

動きと声こそ無いものの皆一様に眼を血走らせ、あるものは歓喜を堪えるために口元から血を流す始末だ。

 

ふひひ、ふひひひひひひひひひ!

最高だ!

アーシって本当に、運がイー!!

まだ生きてたなんて!

堕姫ババァの断罪式に立ち会えるなんて!!!

鬼になって良かった!

鬼になって、本当に良かった!

 

下弦の肆・零余子。

その大音量の狂喜の思考が、無惨の神経に障る。

 

「零余子、汚らわしい血を溢すな」

「ひ?はひ!」

 

すんでの所で血を袖口に吸わせる。

あっぶな。

無惨さまってアーシに厳しいんだよね。チュキなの?チュキの裏返しなの?まったくもてる女はツラタンだわぁ。

 

畏まった表情の奥に隠した零余子の電波。

いっそ殺すか?

手が伸びかけたが堕姫の眼差しに気付き、取り止めた。

 

「上弦の陸・堕姫」

柱を退いた老いぼれと、鬼狩りになったばかりの新米に負けて半身を喪った罪。

 

「これをもって数字を剥奪する」

 

堕姫の両目、文字と数字の上に×の印が入り、下弦の鬼全員が猛る。あるものは己の栄達を夢見、あるものは強者の挫折に狂熱して。

 

「新たなる上弦の陸を迎える条件は一つ」

 

この場に座す全ての鬼の脳裏に一人の少年の姿が浮かぶ。

癖の強い髪と眉、首に勾玉の飾りが一つ。

 

「雷月、隠の呼吸の使い手」

これを生きたまま捕らえること。

もしくはこれが知る何かを手にいれること。

 

「それをもって上弦の陸に認める」

 

…ふーん?

まだガキじゃね?

こいつ何やったんだろ、隠の呼吸?

聞いたこと無い=我流くさいし、まった痒くなる名前だわコレ。少年だからね、仕方ないよね。

つか、無惨さま直々に抹殺指令が出た(捕獲としか言ってない)ってことは、コイツが妓夫太郎様をヤッホーした犯人てこと?

 

パ?

 

こんなガキに殺られちゃったの?

ウホゥワ、

 

ク・ソ・ザ・コ!

 

妓夫太郎さまーちゃんクソザコポッチじゃんwww

名折れだわー。

コレぁ鬼の名折れだわょ。

こんなガキンチョに一撃でも食らうとか、それだけでザコうんこ認定入るよね!はー信じがたい雑魚!

あ、まてまて待てよぉ?

堕姫ババァもその場所に居て、今ここで息してるってことは、アレレ?敗残兵かな??『ザコうんこ銀蠅おんな』って書いて敗残兵と読むのかな?

ぷーwwwwwwwwwww

 

 

零余子からすれば唐突に(無惨からすれば我慢の限界を微粒子レベルで粉砕されて)彼女が動いた。

 

「千年の時を生きた」

 

あ?

アレ?

なんでアーシの前に来たの?

無惨さまアーシのことチュキチュキなのはわかったけどさ、ちょっと距離が近くない?

パーソナルスペース?だっけ?

そこの所を大切にして欲しい感じ?

 

「私をこれ程まで愚弄した輩はお前が初めてだ」

 

怒りを通り越し、顔面が蒼白になった無惨が零余子の頚を掴む。潰しながら持ち上げ、ゆっくりと己の血を流し込む。

 

「が、ぐ、ぐがぐるぐるし、ぐるじぃ」

 

零余子は理解していない、理解などできない。

無惨を理解できる鬼は実の所とても希少だ。

下弦でありながら累が優遇される程度には。

だから。

 

「無惨様」

 

堕姫の声には、無惨を抑止する力があった。

兄を喪うまでとは明らかに違う瞳の色。この世界の残酷を、魂で理解したモノだけが持てる闇色の輝き。その原石。

堕姫が幼い手を伸ばし、後ろから無惨を抱き締めた。

労るように、慰めるようなその行為。

それを認識した瞬間。

 

 

うひぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!

不敬!死刑!

即・断・出・血!

 

 

零余子は歓喜を爆発させ、遂には我慢の限界を越えた零余子の牙が己の唇を食い破り、口からの出血(我慢汁)()がだくだくと溢れて無惨の手を汚し、ボタボタと畳の上に垂れる。

その内心さえ知らなければ、主君へ不敬を働いた堕姫に対し、己の身を省みることなく臓腑を焼くような憤懣に耐えている。

そんな優秀な手駒の絵図なのだが、その内側で叫ぶ言葉は「いてこませ」の一言。

 

 

(無惨ハヨ!ハヨ殴らんかい!メコッと一発、拳骨でいてまえ!脳ミソ爆発させーの血の雨キボ!キボキボキボンヌ!!アーシ逝けるから!銀蠅女の血の雨ザブザブで天国でも地獄でも!何処へでも飛んでイッちゃうからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ふっひひひひひひひひひひひひぃ!!)

 

 

控え目に言って、ゴミだ。

己の生死よりも、何よりも優先される悦楽。

コレを今まで生かしておいた己の不明を、無惨は恥じた。

しかし、これこそが鬼の本質であることもまた事実。

実際、零余子以外の下弦の鬼も程度と方向の違いさえあれど、内実はこのゴミと大差はないのだから。

 

舌打ち。

そしてゴミを投げ棄てて無惨が堕姫の手に己の手を添える。

 

「手を離せ、堕姫」

 

その慈母のような声音を受け止めて、甘えるように堕姫が言葉を紡いだ。

 

「無惨様、ゴミの処分は私に一任くださるのでしょ?」

 

触れ合った手から伝わる暗い温もりに酔う。

 

「本当に使えるのか?」

「使い潰してみせます」

 

繋がり。

過去の鬼とは比べ物にならぬほど、無惨の魂へ近付いた堕姫だからこそ、お互いの思考と嗜好を分かち合える。

 

短い単語で全てを把握し「後は任せる」との言葉の後、無惨は即座に鳴女の琵琶の音色を受けて姿を消した。

一秒でも早くこの場を去らねば、己の殺意に歯止めが効かなくなる確信があった為に。

 

「では…我らも…」

 

座したま、微動だにせず静観していた黒死牟の呟きに反応して琵琶の音が踊り、上弦の鬼が空間を越えて去る。

 

「堕姫ちゃん、困った事があったら俺を頼ってもいーぜ?」

 

去り際に囁いた童磨に、堕姫は笑顔を返した。

ゴミでもクズでも、選り好みは出来ないから。

 

 

 

一拍の後。

無惨から解放されたものの、注ぎ込まれた血の量には抗いきれず、口から血を吐き出して零余子が呻く。

 

「は?なんで??なんで無惨様が退場したの?」

 

堕姫の爆散シーンを想定していたが故に外向けの仮面が剥がれ、その本性が言葉となって溢れた。

零余子ほどあからさまではないが、下弦の鬼は皆同様。無惨を理解していない、無惨を理解できていない、無惨を理解する未来を持たない。

いや、理解という観点からすればそれは上弦も同じ。

 

鬼は、過去から創られる。

過去に縛られ、過去に固執し、今を生きながら過去を見る。故に創造主たる無惨への理解など、求めるべくもない。

 

これまではそうであった。

そしてこれからは、違う。

 

「魘夢」

 

堕姫の鈴の音のような声に、男が応える。

 

「は?おいおい、嘘だろぉ?上弦でも下弦でもない落伍者が、どういう了見で俺を呼び捨てにするんだぁい?」

 

下弦の弐、魘夢。

彼は冷たく激昂していた。

敬愛する無惨様、尊敬する無惨様、俺の全て!

神に触れるだなんて、その上で赦されたの?

神が?

なんでだぃ?

 

俺も無惨様を抱き締めたい!

抱き締めて、抱き締められて!

匂いを嗅いで、嗅いでもらって!

味を感じて、俺を食べてもらって!

俺の全てを無惨様にこすり付けたい!

 

 

ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい

 

ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい

 

ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい

 

ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい

 

ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい

 

ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!

 

無惨への忠義や愛を建前にした、欲望。

暴力と変わりない愛欲の暴走。

だから気付けない。

己が睨み付ける相手が何であるのか。

 

「黙れ」

 

王者の威風を持って束縛し。

 

「跪け」

 

奈落の絶望を用いて膝を砕く。

 

「お前は他人の夢に干渉できる、そうだな?」

「そ、そぉだよぉぉぉぉぉぉ?」

 

「素晴らしい能力だ」

 

「は、あはははははは、なんでだろぅ、俺、なんでこんなに嬉しいんだろ?お前は無惨様じゃないだろ?あれ?違うのかぃ?俺は今夢の中なのか、外なのか?」

 

混乱した鬼に微笑む。

 

「些末なことさ、魘夢」

 

名を呼ばれる。

それだけで腰が砕けそうだ。

この鬼は、いやこの御方はぁ…。

 

「雷月の夢に入れ」

「え、でも夢の中に直接入るのは危険なんだよぉ」

 

「大丈夫だ、魘夢」

 

頬の産毛に触れる、そのギリギリを堕姫の手が撫でる。

 

「私が見ていてあげる」

 

そしてその手が魘夢の右目に刺さり、握り潰した。

 

「だから、安心して死ねばいい」

 

目を与える。

妓夫太郎が堕姫にした操作に近い。堕姫の場合は観測する以外の能力は持たないが、それだけで十分。

 

「はぁぁぁぁあ、夢見心地だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

与えられた異物への拒絶反応が瞳から全身に広がり、魘夢の脳をズタズタに引き裂く。抗えない痛み、絶対者の傲慢に蹂躙される苦痛。

それが魘夢の幸福。

 

痛みに痙攣し、倒れようとする肉体が硬直する。

あぁ、俺の脳ミソにまで手を触れてくれるなんて……!

お前は、いやいや、貴女様は天女のようだぁ。

 

「鳴女さん」

 

堕姫の指示に即応し、琵琶の音が無限城(ここ)と外界を繋ぐ。

「あぁん、堕姫様もっとーー」

ーーバン!

常よりも力強く戸が閉じられて、魘夢が消え去る。

ーー穢らわしいーー

琵琶の音色に隠れて、誰かが呟いた。

 

 

 




★大正鬼そ鬼そ噂話★

オーストラージャンには漢ガルーと呼ばれる馬っぽい犬がいて、仲良くなると背中に乗せてくれるらしいですょ!
アーシのワンワンが教えてくれたから間違いナイ!
漢ガルーに乗って、夕日を食べる旅に出るアーシ。
そしてアーシの帰りを待つワンちゃん達のお墓。
…ハッ!
ワンちゃん達がなぜ一律全員木っ端ひとからげに(十把一絡げが正解)お墓になっているのくぁ!?
犯人は!
この中にいル!
アーシの目の黒い内は誰にも悪ささせないっっっっ!

(アーシの目、赤かったわ)

そんな感じ!
ふひひ!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。