獪岳が少年期、悲鳴嶼の寺に住んでいた事は事実。
筆者の知る限り、第16巻135話(柱稽古の回)が初出。
稽古を無事に乗り越え、その上で己の弱さをさらけ出す炭治郎に、悲鳴嶼が自身の過去を明かす。
その時の台詞がこれだ。
「私は昔 寺で身寄りのない子供たちを育てていた」
「皆 血の繋がりこそ無かったが仲睦まじくお互いに助け合い 家族のように暮らしていた」
「私はずっとそのようにして生きていくつもりだった」
「ところがある夜 言いつけを守らず日が暮れても寺に戻らなかった子供が」
「鬼と遭遇し」
「自分が助かる為に寺にいた私と八人の子供たちを鬼に喰わせると言ったのだ」
この台詞からわかる通り、当初獪岳は『なんらかの理由があり』『夜になっても寺に戻らず』『己を守るために鬼を寺に招き入れた』罪人として描かれています。
しかし、時が流れて17巻146話の手前にあるおまけページには
【獪岳は悲鳴嶼さんのお寺にいた 鬼を招き入れた少年です。
お寺のお金を盗んだのがバレてしまい他の子供たちから責められ、あの日の夜お寺を追い出されました。】
と書かれています。
些細な違いにも思えるのですが、この小説を書き始める前に作者は戸惑いました。
書く前には16巻を参考にしていたのですが、どこかで獪岳が寺の金を盗んだ、という話を聞いた覚えがあったのです。
「んが?悲鳴嶼さんの話を信じるなら、獪岳は盗んでない筈だぜ?」
その後、疑問を投げたSNSで作者の問いに答えを下さった親切なお人がおり、無事に納得することが出来たのですが。
どちらにせよ、二次創作は矛盾点とどう向き合い、それを愛するかが完結迄の杖となると作者は思います。
(何故なら、この世界に完璧は存在しないから)
そんなわけで間を取って前回の冒頭が誕生しました。
映画も終わって、DVDも発売前。
投稿時間は深夜2時で宣伝も一切していない。
そんな作品にも関わらずお気に入り登録が数件あり、改めて鬼滅のパワーを実感致しました。
これからも励みますので、どうぞ獪岳を見守ってあげてください。
座して向かい合う小柄な老人は、俺が生きて耳にした中でも一等に研ぎ澄まされた刃のような音がした。
自然と背筋が伸びるような、それでいて、人の眼を惹き付けて止まない。
先生とお呼びする事を許して下さった恩人が、躊躇いがちに口を開いた。
「にわかには信じがたいが…お館様はお前に会いたいそうな」
胸元から一通の書を取り出し、俺に押しやった。
「…有り難く」
手の震えを誤魔化すために、修練所の床上を滑らして書を受け取り眼を通す。
「しかし、解せん。お前はまだ隊士ですらない。いや、そもそも何故お前はお館様を知っていたのじゃ?」
その声は、音には。
俺を疑うような歪みなどなく。
道理を曲げて、お館様への伝書を頼んだ俺を信じてくださっている事実に、俺はまた苦しみを覚えた。
「俺、俺は…」
お館様が俺に会うという。
それは即ち、俺の知る知識が、やはりある程度この現実に則している事を示す。
そうであるならば、やはり俺は真実を伝えるべきだ。
俺の罪と、己の知りうる限りの未来への道を。
理性ではわかっているのに、どうしても、呼吸が乱れる。
それでも…!
「よい」
俺が口を開くより一瞬早く、先生が俺の肩に手を乗せた。
「獪岳よ、お前はいつも張り詰め過ぎる」
その言葉に、意識が浮き上がる。
見上げた先には、信頼を体現したような先生の輝くようなーーー。
『もっと肩の力を抜けぃ』
『恐がるな!お前なら出来る』
『なんど言ったらわかる、お前の呼吸は重すぎるんじゃ』
稽古では常に弱すぎる自分の肉体から来る疲労と、それに伴う思考力の低下。そして先生の期待に応えられない己の至らなさに対する歯痒さに、どうしても心にまで落ちなかった先生の御指導。
その言葉がやっと芯に入り、俺の頬にすっと一筋涙が流れた。
その時、唐突に先生の目が見開かれた。
「獪岳よ、構えぃ!」
先生が、先立って呼吸を整える。
「ワシに続けぃ!!」
大きく脚を開き、上体を前に、前に…!
「全集中!」
「全集中」
「雷の呼吸ぅぅ!!」
「雷の、呼吸!」
「「壱ノ型!!!」」
いつになく、世界が透明に見えた。
「霹靂一閃」
俺には、獪岳には習得出来ないと思っていた。
気が付けば、先生は俺の遥か後方で。
「よく、やったの」
先生の涙が教えてくれた。
俺は、誰でもない。
ただ俺なのだと。
「先生、俺は人を殺しました」
俺はこの人を殺したくない。
俺は、誰一人、見捨てたく無いんだ。
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獪岳は不思議な少年じゃった。
初めて彼奴と出会ったのは警察署の門前。
ワシは昔から勘働きが優れており、片足を失いながらも今日まで生き延びてこられたのは、己の実力よりもワシを生かしてくれた仲間と、この勘による所が大きい。
それ故、妙に無くした右足が疼く時にはそれが収まるまで町を歩き回るようにしておった。
そうして何時もの如く、ワシの勘が出会いをもたらした。
日もすっかり暮れ、月明かりが目映い夜であった。
まだ身体も出来ていない少年が、ワシの眼からしても優れた呼吸を使いこなしておる。
恐ろしく集中し、それでいて迷い狗のようにを警察署の前を行ったりきたり。
小手調べにとワシが呼吸を用いると、瞬時に反応して腰の鉈に手を向けおった。
「小僧、その呼吸は誰に習った?」
ワシの姿を認めた小僧が、大きく眼を見開く。
「先生…!」
「うむ?やはり育手がおったのか?ワシ以外で雷の呼吸を扱える者で、お前の程の小僧を手込めにする阿呆はおらぬはずじゃが」
「っ………!!」
反転し、ひとっ飛びに逃げようとした小僧に先立って行く先を塞ぐ。
「そう恐がるな、おぬし顔色が悪いぞ、この青っちろい月光の下でそれだけ青いんじゃ、普通の人が見れば幽霊に間違われるのはお前さんの方じゃぞ」
言いながら腕を掴む。
こう言う輩には実力行使が一番じゃて。
「うむ、鍛え方も悪くはない。が」
尚も逃れようとする小僧の手を軽く捻る。
呼吸以外は素人に毛が生えた程度。
うーむ?
ますますこやつの育手が理解できぬな。
「ま、よいわ。飯を食うぞ、ついてこい」
手を離し、歩き出す。
さて、今日は何を食おうか。
家にはワシの分の飯はあるが、二人となると心許ないの。
帰りに屋台で串焼きを売っておったし、前から気になっておったんじゃよなー。
あの匂い、ようやく味わえるかと思うと涎が出るの。
「あ、あの!」
「む、なんじゃ?」
「助けて下さい」
「…ふむ、あの寺の殺人鬼か?確か子供七人を殺したとか」
「あの人は鬼じゃない!」
それは、鬼を知った者の目じゃった。
理不尽に壊され、傲慢に奪われた。
ワシら鬼殺隊全員が抱える己の無力。
あぁ、そうか。
この子は既に隊士であったのか。
この若さで。
これ程の細さで。
「鬼に出会って、生き残ったか」
それの意味することは、即ちーーー。
ワシの問いが、鋭い刃となって小僧の頚を落とした。
精神が耐え切れなかったのだろう。
意識を無くしたその身体を受け止め、背に負った。
義足の我が身にはちと重い。
重いが、ワシにはこの重さが心地良かった。
「人生、長生きはするものじゃな」
この重さは、ワシの罪と同じ重さ。
そう思うと、自然笑みが溢れた。
沢山の間違いを犯した人生じゃったが、後続の間違いを助けるためにそれが役立つのなら、ワシは己を肯定出来る。
なぁ、兄上。
なぁ、おっ母。
家族を見捨てたワシを赦せとは、口が裂けても言えぬが。
だからこそ、ワシは今日まで生きて、この小僧に出逢うことが出来たんじゃ。
ワシはこの小僧に命を懸けるぞ。
それが、ワシの道じゃからな。
悲鳴嶼行冥については、調べれば簡単にその無実が証明できた。
子供たちの死体は鋭い刃物のような何かで喉を掻き切られたり、獣の物とおぼしき牙で食い散らされた物ばかり。
獪岳からもたらされた情報により、悲鳴嶼殿は素手で鬼を殴り殺す程の素質の持ち主であることがわかり、ワシは即座にお館様へ彼の人の助命嘆願と隊士への勧誘をお願いした。
もっとも、その際には獪岳の名を出さぬよう、本人から強く厳命されたがの。
それからは育手として充実した日々を送った。
獪岳は自身の事を話したがらなかったが、修行への姿勢は至って真面目で、己を追い込む事で罪から逃れようとする姿がワシの若い頃に重なり、どうしてもワシは彼奴に思い入れてしまった。
◇
それから、二年が過ぎた頃じゃったか。
獪岳から渡され、お館様へと送った書の返事を受け取り、そうして初めて、奴がワシに心を開いた。
「霹靂一閃」
雷の呼吸、その基礎であり奥義。
脚を失ったワシでは、どうやっても見せてやることが叶わずに習得に至らなかったこの技を、獪岳が、ワシの子がついに成した!
なさけなくも涙を垂れ流すこの爺に、獪岳が続けた。
己の罪を、その弱さを。
かつてのワシに、これ程の強さがあったじゃろうか。
人を見捨てた?
誰一人救えなかった?
青い。
じゃが、その青さはいつぞやの月明かりのように高潔で、その青さを背負う姿は何よりも美しかった。
じゃから、ワシは抱き締めてやった。
何時かの己にしてやるように。
己よりも正しくあろうとする魂を支えるために。
「獪岳よ、よくぞ話してくれた」
ワシにもっと言葉があれば、この気持ちを伝えることが出来るのじゃが。
肝心な時には、巧く喋れぬ我が口よ。
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「俺が、産まれながらに雷の呼吸を扱えた事は以前話しましたね」
怒涛となった一日が終わり、寝具に包まれて漸く腹が決まった。
「む?」
闇の中、先生の声が返る。
「鬼に出会った際にハッキリと理解できたのですが、俺にはどうやらこの世界の知識があるらしいのです」
「世界の、知識…じゃと?」
「俺は鬼舞辻無惨の目的も、その出生も、彼の鬼がどうやって打ち倒されるかも、その全てを、どうやら知っているらしいのです」
「…なんと」
「無惨は今から凡そ七年後、日の呼吸を継承する竈門炭治郎なる少年によって打ち倒されます」
先生が跳ね起きる。
が、俺は微動だにしなかった。
「日の呼吸じゃと!?」
そう、日の呼吸だ。
無惨と黒死牟が徹底して殺し尽くした筈の、呼吸の原典。
「そして、その場には全ての鬼狩りが集い、持てる限りの命を絞り、悲願を成し遂げるのです」
「なんと、なんと…!」
先生、ご免なさい。
悪い弟子で、本当に、ゴメン。
「しかしながら、その場所に俺は居ません。俺は、鬼となり、これから貴方の弟子となる我妻善逸によって討たれるのです」
そう。
それがこの世界の道筋。
「先生は、俺が鬼となった咎を受け、腹を…って…っ」
今すぐ、殺して欲しかった。
先生に仇成す俺を。
トヨを見殺しにした俺を。
行冥さんを修羅に落としたこの大罪人を…!!
なのに、先生は間違えた。
狙うべき俺の頚を逸れ、頬へとその手を伸ばした。
「無惨は本当に強い。途方もないくらい、強い。ほんの一つあるべき物が欠ければ、たった一人、あるべき人が居なければ、それだけで本懐は遂げられず、多くの命が無為に殺される。だから俺は、鬼にならねば、ならぬのです」
まだ見ぬ未来へと思いを馳せてか。
先生はしばらく沈黙された。
そして、大きく溜め息をつかれた。
「馬鹿で頑固な頭残念じゃと思っておったが」
そう言って、俺の頭を殴った。
「がっ!!」
いや本当に、限りなく本気で殴った。
その痛みたるや、修行で受けたどんな攻撃をも凌駕する苛烈さで、腰を落としたこの姿勢から放てる威力だとは思えなかったし。
「おおぉぉぉぉぉぉ馬鹿者がぁ!!」
大喝は、夜の帳も知らぬ顔で、むしろ夜さえ吹き飛ばすような雷であった。
「ワシが、何の為にお前に稽古をつけていると思っておるのじゃ!みすみす死なせるためかぁ!?」
「い、いや」
「お前は死ぬために強くなるんか!?」
「し、しかし」
「そんな程度の覚悟で無惨を倒せると、本気で思っておるんか!!」
「…」
「獪岳よ、お前の名前を剥奪する」
「…は?」
「そうじゃな、雷の呼吸を持って産まれ、月の夜にこのワシと出会ったんじゃ」
『雷月』
「これからは桑島雷月を名乗れ。うむ、来月と言えば未来を指す言葉でもあるしの、我ながら良い名じゃ」
「桑島…俺は、その」
名よりも、何よりも。
「まぁ、いずれはワシの子にする予定じゃったからの」
そう言って、先生が顔を背ける気配を見せた。
「親が子の為に死ぬのはこの世の道理じゃ。じゃがな、ワシだって好きでお前の重石に成りたいとは思わぬからの。嫌なら、跳ね除けて見せよ」
そう言って先生は………いや、お…殿は横になられた。
俺は、そっと家を抜け出し、月明かりの下に立った。
…雷月。
桑島雷月。
未来を変える。
生きて、無惨を倒す。
『そんな程度の覚悟で無惨を倒せると、本気で思っておるんか!!』
俺の知識で知る人達に、未来を見ていなかった人が一人でもいただろうか。
死ぬために強くなるだなんて、出来るわけが無いんだ。
俺に、俺ごときに出来るわけ無い。
そう思っていた。
けど、俺は桑島となった。
あの人の子として、恥じるよう生き方は、出来なんじゃないか?
思考が纏まらないまま、俺はただ月を見上げた。
月は今日も、闇を優しく抱き締めていた。
獪岳の名前がかわってしまった。
この際だし、正直に白状しますが作者はポンコツです。
基本先立って展開を考えることが出来ないし、その場その場で書きながら考えてます。
身体も弱くて精神も細いので自分でもこの作品が続けられるのか心配でたまりません。
今この時も正に、年号が、年号がかわっているぅぅぅぅぅぅ、の状態です。
そんな作品ですが、見ていただけなくてはただの文字です。
反応が怖すぎで自分で自分の宣伝が出来ないレベルの雑魚ですが、鬼滅の名前に恥じないよう頑張る所存ですので、よろしければほど程に期待値を低くしてこれからもお付き合いくださいいませ。
ここまで読んで下さった貴方に感謝を込めて。