『善逸、お前は俺の誇りだ』   作:マキシマムとと

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自分で良いと思ったお話で登録者が増えるとやっぱり途轍もなく嬉しい。
(その逆の時には首をちょんぱしたくなるから完全に諸刃の刃なんだけどね)




第 弐拾参 話『赤いお目々』

 

「こんこん小山の子うさぎは」

「なぁぜにお耳が長ごうござる」

 

山菜採りの帰り道。

六太はおかあさんの背中ですやすや寝てる。

さっきまで蝶々を追いかけて、いっしょうけんめい走って、転んで、ちからいっぱい泣いたからしばらく起きない。

お兄ちゃんはおとうさんのお手伝いだし、他のおチビはさぶろーじぃちゃんの鮎とりについていった。

だから今は、おかあさんは私だけのおかあさん。

 

なんだか嬉しい。

私はお姉ちゃんだから、おかあさんに甘えるよりもおかあさんを助けてあげるのがお仕事だから、だから少しズルいかなって思うんだけど、だけどおかあさんは笑顔だもの。

幸せだな。

私、おかあさんとずっと幸せに暮らすの。

 

「小さい時に母さまが」

「長い木の葉を食べたゆえ」

「そーれでお耳が長うござる」

 

この唄も好き。

おかあさんがよく歌ってくれる。

私知ってるんだ。

おかあさんがこの唄を歌うのは、いつも機嫌がいい時。

おチビ達が良いこで寝んねした日とか。

ヒノカミ様がキラキラと空を暖めて。それでお洗濯ものがパリっパリに乾いた時とか。

町の人がおとうさんの作った炭を褒めてくれた時とか。

だからわかるの。

おかあさんは今、とってもご機嫌。

 

「こんんこん小山の子うさぎは」

「なぁぜにお目々が赤うござる」

「小さい時に母さまが」

「赤い木の実をお食べたゆえ」

「そーれでお目々が赤うござる」

 

だから私もご機嫌。

おかあさんの幸せと、私の幸せがプニプニして、なんだかとってもくすぐったい。

だから、幸せがあふれたみたいに言葉が出たんだ。

 

「お兄ちゃんのお目々が赤いのは、おなかの中にいた時におかあさんが赤い木の実を食べたから?」

 

おかあさんは一瞬、びっくりした顔をしてすぐに微笑んでくれた。

 

 

 

 

 

ーーーそして。

 

 

 

 

 

教えてくれた。

 

「そうね、少しだけ違うわね」

「…え?」

 

答えがあるとは思ってなかったけど、おかさんの手が私の手をギュッとしてくれた。

 

「彼岸花、咲いてるでしょ?」

遠くに、赤い花。

赤くて、綺麗なお花のぐんせい。

それを見てる…え?

 

「え、彼岸花食べたの!?」

彼岸花はドクだから、食べちゃダメ!

おかさんが教えてくれたのに!

 

そう言うと、おかあさんはイタズラしてくる時の顔になった。

目が細くなって、口許がそわそわするの。

私、わかるんだからね!

 

「食べたわけじゃないのよ」

そう言って、彼岸花に近付く。

 

「禰豆子、見てごらん。彼岸花には種が無いの。土の中に球根があってね、それを株分けして増える植物なのよ」

「むむぅー?」

 

本当かなぁ?

観察する。

いつもみたいに、じっくり丁寧に、誰かに話しかける時みたいに相手の気持ちを考えながら、しっかり見てみる。

 

………むぅ。

わかんない!

 

「けれどね、この辺りには数年に一度、ヒノカミ様のお心が澄み渡った昼間だけ、種子を持った花が咲くのよ」

 

種子って、種の事だよね。

 

「おかさん、種があるとか無いとか、そんなの見てもわからないよ?」

だってこんなに沢山の真っ赤の中で、見えるわけ無い。

 

「大丈夫、その花は【青い】から」

「【青い彼岸花】…?」

 

「そう。お兄ちゃんはね、お腹にいる時から元気一杯でね。その頃のお母さんは今と違って身体が弱くて。お兄ちゃんの育つ力とお母さんの育てる力が釣り合わなかったの」

 

ーー流産。

 

そんな言葉が浮かんだ。

町の千恵さんが泣いてた。

赤ちゃんが流れちゃったって。

泣いてた。

だから私は、おかあさんの目を黙って見つめた。

 

「お母さんは運が良かったのね。サカエお婆ちゃん覚えてる?」

「うん。おとうさんのおかあさんだよね」

 

「そう。私の義理のお母様が薬を煎じてくれたの。詳しい作り方は教えてもらえなかったけれど、赤い、赤い彼岸花の花がフワフワと舞う清水の中に、青い彼岸花の種子を擂り潰した粉をパラパラパラリ。お父さんがヒノカミ様に舞を捧げて御祈りしたわね。そして私は、それを三度に分けて飲み干す」

 

遠い。

そう思った。

 

おかあさんが見てる遠い遠い昔の記憶。

なんだかそこに、私がいるような不思議な気持ちだった。

 

「だから、お兄ちゃんのお目々が赤くなったのかもね」

なんだか、震えるような気持ちだった。

モヤモヤして、ウズウズして。

 

「帰りましょ」

 

当たり前なんだけど、おかあさんの中には私の知らないおかあさんがいる。それに気がついて、なんだか少しだけ世界が広くなった気がしたんだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

その日の晩は騒がしかった。

 

妹の花子はしっかりものだけど、綺麗な物が大好き。

だから喜ぶと思って青い彼岸花のお話をしてあげたんだけど、そしたら「見たい見たい!」って騒ぎだした。

 

家に帰った後、六太は目が覚めてからずっと不機嫌で。

だからおかあさんも相手に疲れてうっかりしてたんだ。

 

「そう言えばお兄ちゃんは見たことあったわね」

なんて言ったものだから花子に火がついた。

 

「たんたん兄ちゃんズルい!花子も見たい!見たい!!」

 

流石に騒がしい。

そろそろ止めないと、おとうさんは怒ると怖いから。

そう思ったんだけど…あれ?

なんだか、おとうさんの様子が…?

 

 

 

「私も青い彼岸花見たい!!」

 

 

 

その言葉が、きっかけだった。

ガタン、と扉が鳴って。

ゾクゾクと、病気になった時みたいに、身体が震えた。

 

葵枝(きえ)、子供達を連れて下がれ」

 

すごい早さで斧を手に取ったおとうさんは、知らない人みたいだった。

おかあさんに命令する姿も初めて見るし、いったい、なにがどうして。

 

「懐かしい…気配だ…」

 

嘘みたいだけど、たぶん声の主が戸の外から叩いたんだと思う。木で作った頑丈な引戸がつっかえ棒ごと吹き飛んで、家の梁にあたって、落ちてこない。

力が凄すぎて、木が歪んで、食い込んでる…。

私はびっくりして声も出ない。

うん。

私だけじゃない。

お兄ちゃんも、おかあさんだって。

おとうさん以外の家族全員が、蛇に見つかったカエルみたいに固まったの。

だってそうでしょ?

目が六つ。

お兄ちゃんの優しい赤とは正反対のギョロギョロお目々が六つもあって、私たちをグルグル見てる…!

 

 

 

 

こっこここここ…怖い、怖い!怖いよぉぉ!!!

 

 

 

 

怖すぎて、怖すぎて。

悲鳴を上げて目を閉じて、身体中をぎゅっと抱き締めたいと思った。

 

ーーけど。

だけど。

 

おかあさんが握ってくれる手。

その温もりが、思い出させてくれたんだ。

 

私は禰豆子。

竈門家の長女。

 

おかあさんを助けて、おチビを守るんだって。

だから、折れない。折れちゃ…いけない!

がんばれ禰豆子、がんばれ!

お兄ちゃんも、戦ってる…!!

おとうさんを信じて!

 

正直に言うと、足はガクガクぶるぶる、嘘みたいな早さでドドドドドドドドドドドって震えるし、おしっこもっちゃいそうだけど。見たら、おかあさんの向こう側にいるお兄ちゃんだって私と同じ。

 

私とお兄ちゃんは一瞬だけ目があって。

同じようにガチガチの笑顔を交わした。

 

「狩り尽くしたはずの…日の呼吸……」

 

ソイツは。

その人…?は、間違いなく鬼だった。

節分の時におとうさんが遊んでくれた鬼じゃない。

本当に、本物の、鬼!

 

「そして…青い彼岸花………これは…想定以上の収穫だ…!」

 

その鬼の名は黒死牟。

この時はもちろん、知らなかったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

面白い。

これほど血が滾るのは何百年ぶりか。

 

この私を前にして、一切の無駄な力を削ぎ落として立ちはだかる精神力…そして、そして何よりも………!

 

私の目に見える男の身体。

それがどれ程美しく、おぞましい価値を持っているのか。それを正確に理解できる存在は私しかいないだろう。

 

あの男。

私の中核となる鬼の根源。

 

『継国縁壱』

 

その死に際に相対した際に見た肉体と…同じ。

 

「痣…いつからその痣がある…?」

男の額には薄くはあるが、間違えようもない【痣】があった。

「………」

 

ふむ、返答は無し。

まぁ関係はない。

あの際の縁壱と同じだ。

あらゆる細胞が衰弱し、砕けて縮小する。

即ち…老化。

 

この男はまだ二十か…どう見積もっても三十には至らない、いや。

至れない。

 

「痣の代償…お前は、抗えなかった…」

あの化け物と同質であろうとも、同等の存在など生まれはしない。そう、あんなモノがそう簡単に生まれるものか。

 

昂りを一度だけ鎮め、見渡す。

 

男の背後にはその家族。

気丈にも母親は子を守り、長男・長女がそれを助けるように左右に広がって私を睨む。

 

「竈門炭治郎…」

指差す。

 

「竈門…禰豆子…」

再度、指を差す。

 

子供達は驚きを簡単に顕にし、私に立ちはだかる父親でさえもその肉体に動揺の光を見せた。

 

「相違無い…ようだな…」

 

正直な話、私は魘夢と言う鬼を知らなかった。

下弦の弐であり、忌々しい鬼避けの結界を砕く能力を評価されている。その程度の知識はあったか、その人柄にはまるで興味が無かった。

所詮は下弦であり、力を持たざる木っ端の如き末端だと。

 

それが…。

 

「魘夢…素晴らしい…鬼だ………」

 

私などとは比べる次元が違う。

今はもう、鬼とは呼べぬ彼に対して、私はせめてもの敬意を言葉に乗せた。

 

「私の子に、何用か」

 

きりきり。

きりきり。

 

引き絞られている。

男の中の、剣士としての才能が。

必要量に完全に符合した筋肉の拡張が。

薄い色合いの痣が燃え上がるようにその色を塗り替える。

 

私は…幸運だ。

もう一度、あの時の再現を迎えるとは…!

 

「炭治郎の額…これは火傷だな…痣は…消えたのか…?」

 

私の問いかけを再度無視して、男が斧を構えた。

 

理解していても、思い切る事が出来る人間は限られる。

対話が出来るのであれば、可能性が見えるのであれば。

そうやって人は有り得ない未来を幻想して、機を逃す。

 

しかし、この男にはそれが無い。

 

 

 

「ヒノカミ神楽」

 

 

 

神楽、ほぅ…面白い…!

その構え。

あの時、死の間際にあった縁壱の一撃と同じ。

これはーーー輝輝恩光…!

 

縁壱と比べても見劣りしない呼吸の技術が、男の肉体に幻影の炎を纏わせる。

畳を跳ねるほど力強い踏み込み、そしてその剣速…!

 

劣化した部分が無い。

神楽と名を変えながら、その実は一切の不変…!

これが、人間…。

…だからこそ。

 

「月の呼吸ーーー」

 

私は越えねばならない。

その為に重ねてきたのだ。

越えるために、この場で抜く剣を…!

 

「ーーー壱ノ型」

 

左手の親指で押し出すようにして鯉口を切る。

そのまま左手を後方へ下げつつ右手で柄を握り抜刀へ移行する。

その頃には身体をその為に組み換えて………。

 

石ころを拾う。

水溜まりを避ける。

気の向くままに飛び跳ねる。

 

そうした日常の動作との差異を無くす。

 

アレには出来た。

幼少の頃より当たり前に出来たその神業。

 

私がここに至るまで。

果たして何度剣を振り、己の脳を砕き、あらゆる人間の命を啜って来ただろうか。

 

「闇月・宵の宮」

 

ーーー月が。

ーーーーー我が剣が。

 

「縁壱…!」

 

日輪を捉えた。

 

 




たんじろ君とねずっ子ちゃん。

たんたんは鬼としての素質が無惨よりも優れてたんですってね。

単純に単純に、頭を悪くして考えるとさ。
千年の間、一日に一人の計算で無惨が人間を鬼にしたと仮定すると365×1000でえっと…?
いちじゅうひゃく…。
36万5千人(電卓使ったーーー死ーーー)になるんだよね。
どんな確率やねんと。

絶対なんか理由あるやろ、と。

そう考えた結果が今回のお話です。
たんじろ君の時にお薬入って、ねずっ子ちゃんはその余波というか余力を受けたからそこそこ変な鬼になったのかなーとか。

そもそもたんじろ君のパパ上とママ上、仮定したら14才位の頃からポコポコポコポコ年子産みまくってるんだよ?
普通の人間に出来る仕事なのかな…と、現実に二児のパパである作者には疑問なんだよね。

そんな感じです。

作者的にはやっとこ第二部に入ったような心境。
気持ちだけだし、二部だ三部だとか言えるほどのパワーも足りないからしばらくはこのまま進みます。

炭十郎(パパ)には頑張ってもらいたい。
槇寿郎さんのお話でご理解いただけてると思うんだけど、作者はおじさんだからね。
どうしてもおじさん補正が入るんだよ。
あ、炭十郎さんはまだ作者より十歳…下手すりゃ十五とかそのくらいの歳の差があるのか。

…加齢臭に謝れぃ!!
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