1回目をまだの方はお気をつけ下さい。
それはそうと、とうとう大晦日ですね。
昨日は結局、酒も露伴先生も無しです。
子供が思い通りに寝るわきゃねーんですよ。
何事も無理せずコツコツと。
運が良ければ今日か明日くらいには見れるっしょ。
それでは皆様、本年もお疲れさまでした。
良いお年をお迎えくださいませ。
ゴンを守る。
もう一度、今度こそこの子を育てる。
そう決めてからは簡単だった。
まるで頭の中の霧が晴れたように進むべき道がわかった。
そうね。
まずはこの男。
不死川家の旦那さん。
今日の様子から考えて、コイツは私の可愛いゴンにとっては有害な害獣でしかない。
だから排斥するべき。
そう、排斥。
殺してはダメ。
不死川の奥さんは子育ての経験や近所での人付き合い、そして私との相性も十分に良いし、とても扱いやすい便利な人だけれど、所詮は『女』だもの。
女って人生の半分は打算で作られているでしょう?
その打算の集大成がいわゆる『旦那』さま。
旦那がいる。
その旦那がどれ程のクズであれ、最低限であれども稼ぎを家に入れてくれれば、ただそれだけである程度心にゆとりが持てる。
その安定を崩すのは悪手なのよね。
心の安定は家庭の安泰。
私は鬼だし、最優先事項として青い彼岸花に関する情報収集を怠るわけにはいかない。
だからゴンをこの家に預ける。
それならば、最大限ゴンにとって幸せな環境を整えてあげなくちゃならないわよね。
だから、日が上る前には旦那さんには退場してもらった。
行き先は炭鉱。
どこの、とは聞いていないけれど。
まぁ聞く必要は無いのよね。
生かさず殺さず。
只管に穴を掘って、得た金を家族に送り続ける。
そんな人生が約束されたんですもの。
二度と会うことの無い人間に興味など不要。
嗚呼。
それにしても本当に、あの男がクズで助かったわ。
蛇の道は蛇。
あの男の所属する団体は無惨様の支配下にあったから、とても楽が出来た。
結局のところ鬼と鬼狩りとの戦いは、政治にもその下の小競り合いにも影響される。
鬼を知って鬼を討つ側に立つ人がいれば、その逆に立つ人も必ず存在するもの。
本当に、ニンゲンって素敵よね。
そんな風にして私の『お母ちゃん』としての時計が動き始めた。
お母ちゃんは大変だったわ。
当然、私は鬼ですから身体が疲れるなんて事は無かったわよ?
日の在るうちは浅草にある私の店の奥で髪結いをして、夜は可愛い我が子と触れ合って。ゴンが眠ってからは鬼として朝まで活動する。
人間に擬態するために用意していた週に一度の定休日が信じられない程に待ち遠しく、一時でも多くゴンと触れ合えるあの一日が、これ程心を満たす時間になるだなんて考えもしなかったし、本当に毎日が充実していた。
けれど、それでも大変。だからこそ大変だった。
だって、私がゴンのために使える時間はあまりにも限られているもの。
だから考えたの。
少しでもゴンが、私の子供が幸せになれるように。
健康に、健やかに育つように。
その為にはどうすべきなのかを、ずっと考えたわ。
不死川家は育児に向いた環境に変化して、今ではさねみ君もげんや君も、私のゴンの良いお兄ちゃんになってくれた。
奥さんも最初こそ戸惑っていたようだけど、クズの旦那が家に帰らず、その上で今までの倍額を優に超える給料が送られてくるのだもの。
すぐに本来の明るくてのんびりした性格を取り戻して子育てに励んでくれた。
そこまでは良いのよ。
問題はその外側。
知っての通り、不死川の奥さんはお乳の出が悪い。
だからご近所さんへ乳貰いに行ったり、出会った日にさねみ君がしてくれたようにお乳の代用品を作ったりして与えるのだけれど。
ねぇ。
わかるでしょう?
産まれたばかりの赤ちゃんにとって食事は愛情と同等の価値がある。
そのお乳を。
信じられない程に酷い髪の女から与えられるかと思うと、私には耐えられない。
だから頑張ったの。
残念な髪の女には、時間を割いて出来る限り髪の手入れをしてあげた。
…だけど、ダメ。
残念な髪の毛っていうのは、ダメなニンゲンから作られるものだから、例え私が持てる技術の全てをつぎ込んだ所でその根本を正す事なんて出来ない。
いえね?
昔はやったこともあるわよ?
あまりにも腹立たしかったから髪の付属品を個室に招待して私が直々に健康管理してあげたの。
一週間…二週間だったかしら?
最良の食事と最適な運動を提供して、二十四時間しっかりと管理して髪の再生を促してあげたの。
その時には偶々ニンゲンの質が悪くて上手く行かなかったけれど、次やる時にはきっと上手く行くのよね。
たがら、今回も本当ならしっかりとした健康管理をしてあげたいのだけれど、前回それで鬼狩りに見付かった事を思い出して踏みとどまったわ。
本当に面倒な奴ら。
だけれど、考えてみればそれで良かったのかもしれない。
不死川の旦那さんを殺さなかった事も。
ほら、ニンゲンって大人になると死や失踪が大事になりやすいのよ。
ならずものであっても人格者であっても、そこには大抵は生活があり、社会という壮大な機械の中で、一個の歯車として回っている。
それが欠けると周囲が困る。
困った周囲は欠落を探し、そしてその行動が鬼の影を踏む。
ーーーだから。
大人じゃなければ良かったのよ。
本当に、まったく。
私ってば困った『お母ちゃん』だわ。
社会に組み込まれる前の子供なら、いなくなったところで影響も少ない。
世には当たり前に病が流行り、幼子の命はシャボン玉のように儚いのに。
そんな簡単な事にさえ気がつかないだなんて。
お母ちゃんとして恥ずかしい限りだった。
お乳を飲ませる人数が一人減れば、それだけゴンに良いお乳が飲ませられる。
世話をしなくてはならない人数が一人減れば、それだけゴンに愛情が注がれる。
嗚呼。
温かい。
世界はなんて温かいのかしら。
中心に、中心に。
この世界の中心に輝く私の黄金。
私の赤ちゃん。
私が、あなたを幸せで包む。
今度こそ。
今度こそ。
………それが。
………どうして?
◇
あれから五年が過ぎたある日。
その日の事は今思い出しても気が狂いそうになる。
まず、ゴンが発熱した。
四十度を超える高熱で、病院に行っても原因がわからず、本人の希望もあって一先ずは住み慣れた我が家に戻って様子を見る事になったのだけれど、いつも頼りになる不死川の奥様のもとに父親の危篤を知らせる一報が届き、彼女はさねみ君とげんや君を連れて夜行列車に乗ってしまった。
その時は私が看病すれば良いだけだと考えていたのだけれど、間の悪いことに変質者の上弦に呼び出され、どうしても断ることが出来なかった。
あの××××が、さっさと鬼狩りに切り殺されてしまえば良いのに、こと戦いとなれば無惨様、黒死牟様に続く使い手なのだから手に負えない。
気丈に振る舞って見せるゴンに詫びながら、少しでも消化に良くて弱った身体でも食べやすいように作ったお粥とお茶を、そして興味を引けばと思って幾つか適当な果物を見繕って台所に並べた。
水分の摂取と、出来れば少しでも物を食べなさいと言い含めて、その細い首に自作したお守りを括り付ける。
そして私は、薄暗い我が家にただ一人置いていかれるゴンの姿に後ろ髪を引かれながら××××の屋敷に向かった。
それから二日が過ぎた。
二日。
時間にして四十八時間だ!!
初日はまだ大丈夫だった。
殺意で鬼を殺すことが出来るのなら、私はこの基地糞を一秒に一度の速度で殺し続けているだろうなと夢想する余裕があった。
秒単位で沸き上がる殺意を妄想で誤魔化しながら、奴が作り上げた
外見だけは無駄に華やかな屋敷。
その奥にある薄汚い一室。
せめて一人きりであったなら、ここまで精神が疲労することはなかっただろうに。
「…うん? おや? おやおやおやぁ?」
黒虫が偉そうに声を発する。
「これはいただけないぜ、邪髪ちゃん」
殺意を押し込める。
無視したい気持ちを折り曲げる。
相手は上弦。
上弦の弐。
腐っても果てても、それでも私が逆らえる相手じゃない。
ゴンは大丈夫かしら。
可愛いゴン。
泣き虫なゴン。
優しいゴン。
早く帰りたい。
こんなにも長い間たった一人っきりで。
この黒虫を殺したい。
死んででも早く帰りたい。
嗚呼、嗚呼…!
死んだら、ゴンに会えないじゃない…!
けど、もしゴンが死んでたら。
ダメ、考えちゃイケナイ。
けど、でも!
そうじゃなくても、きっと苦しんでる。
私を。
お母ちゃんを呼んでるのに…!!
果てのみえない鳴門海峡の渦のような殺意と思考が、私の頭の中で壊れながら繰り返される。
それを知ってか、知っていて無視しているのか、奴が平然と私に目を会わせた。
「この髑髏にはさ、琴葉って言う名前があったんだ」
髪を梳かし終わった髑髏を一つ手に取り、うっとりとした表情でそれを見つめる蛆野郎。
「ほら、顔のここにうっすらとひび割れがあるだろ? 旦那に殴られた傷痕なのさ。俺が保護してあげるまでは毎日毎日殴られて、酷く苛められていたらしい。可哀想に…」
そう言って泣く。
その涙が本物でも偽物でも、本当に。
心底と書いて心の底からどうだっていいから、どうか私を家に返して下さい。
耐えきれずに溢した私の本音を、笑顔でアッサリと切り捨ててソイツが嗤った。
「悲しいこと言うなよ、俺と邪髪ちゃんの仲だろ?」
思い返せばそんな台詞だった気がするが、その時には現実という絶望が重たすぎて耳に入らなかった。
「殴られ過ぎたせいかなぁ? 琴葉は頭が残念で、だけどそれが良かったのかな。人間の中でもとびっきりに心が綺麗な娘でね、あぁそうそう、赤ん坊と一緒にここに逃げて来たんだけど、子守唄が上手でねぇ? 『ゆーびきーりげーんまん たーぬきーさん』なんてさ、歌詞は毎回チグハグだったけれど、それはもう毎日楽しそうに子育てしてたっけ」
戯れ言を聞き流しながら。
でき得る限り丁寧に、正確に。
手にした髑髏の、頭部に残った髪の手入れを進める。
早く、早く。
一秒でも早く。
「たぶん俺は、そんな彼女を見ていることに幸福を感じていたんだろうね。喰わずに生かして、死ぬまで養ってあげようと思っていたんだ」
気が急くけれど、長年染み付いた動作だから。
私の指は…ん。
何故か、指が、硬い…?
「けれど、最後には俺の人喰いがバレてね。頭が鈍いからどうしたって俺の善行が理解できなかったんだね。酷いだの嘘つきだのと罵られて、夜中だというのに屋敷を飛び出してしまった。何を思ったのかなぁ、悲しい話だけれど、最後には崖から子供を投げ落としてしまったよ」
寒い…?
これは、冷気…。
コトリ、と鳴る音は、琴葉の髑髏が箱に帰る音。
「ねぇ、邪髪ちゃん?」
頚に感じるのは、閉じられた扇の硬質な重み。
「どんな気持ちなのかなぁ?」
顎の下を扇で固定されたまま、奴が私の背後に回る動作を見送る。
「子供がいるってのは、どんな気持ちなのかなぁ?」
蛇が獲物を絞めるように。
男性の、硬い筋肉の左腕が私の腹を抱える。
背中にヤツの身体を添えられ、右耳に血の香る吐息がかかる。
「どうして琴葉はあれほど大切にしていた赤ん坊を、崖から投げ捨てたんだろうね? 教えてほしい。俺にわかるようにしっかりと、教えて欲しいなぁ」
手が震えたり、動悸が狂う事はない。
それなのに。
「ねぇ、君にも」
吐息が、凍る。
「彼岸花を探すよりも」
「
「楽しい事があるのかな?」
【血鬼術】
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追い込まれた精神が、私の選択を誤らせた。
少しずつ、この部屋に広げていた私の髪が、上弦の弐・童磨を包み込むように集束しーーーー次の瞬間には、それを細切れに切断していた。
もしかして:サイコロステーキ先輩