ミドリちゃんの親は国土地理院とか言う 地図を作るお仕事に関わりがあるらく、実弥お兄様の思惑通り万世極楽教の所在を確認する事が出来た。
いやね?
ここが実弥伝の世界なのか何なのか知りませんけどね?
ミドリちゃんと実弥くんのやり取りは(執筆的に)凄い参考になりましたね、うん。
お嬢様然としていたミドリちゃんが、実は数年前までは実弥くん率いる悪ガキ隊と言うか、男の子のワチャワチャした集団に混ざって一緒にワチャワチャ仲間してた関係なんだけど、実弥とはなんかしらの事件によって特別に異性として意識する関係でありながらもそれまでの関係性を壊したくなくてズルズルと付き合いを続けていたある日、学校に赴任してきたクソ教師のセクハラにあわやミドリちゃん貞操の危機!
と。
そこへ風のように駆け付けた実弥アニキさんが喧嘩キックで学校の支柱をへし折って(←?)ミドリちゃんを救出。
それでようやく自分の淡い恋心に気付いたミドリちゃん。
(だめよダメダメ。こんなんじゃダメよ私、しなっち(実弥くんの昔のアダ名)に振り向いてもらいたいなら、こんな事じゃダメ!!)
そう思って一念発起。
その時の自分に自信がなかったんだろうね。
親から逃げ惑っていたお嬢様としての訓練を受け入れて自分改造に取り組み、そのお嬢様パワーを持って実弥くんのハートをGETしようとしてはや一年。
頑張ったけれど実弥くんの思い人(ボクチンのお母ちゃん)には勝てないのね。
はーぁ、わかってたわよ。
やめたやめた。
あーもうばかばかしいったらないわよもー。
やめやめ。
そもそもお嬢様なんて真似したって無理なものは無理なのよねー、はーむりむり。
なんて言って。
髪留めの紐を解いてブワサァ…っと後ろ手で髪を払ってさ。
すさまじくカックイイ男前っぷりでお母ちゃんが囚われている場所を教えてくれた。
もう『ツーカー』だったね。
これこれこんな事情で探してまして→ふーん?
どこかわかる?→ここ!
みたいな。
あの時の実弥くんの『音』はこれ迄になく動揺しててクソムカついたけど、男としては仕方ないよねって思える素敵ムーヴだったから黙認した。
あ。
けどその後ミドリちゃんをハグしたのは黙認しませんから。
後でお母ちゃんに絶対に言い付けます。
モテ男ホンシネ。
「なぁおい、ゼンよぉ」
あん?
あんだオラぁ?
モテモテの善逸伝風男子の実弥様が、このちびタンクのゼンちゃんにお話たぁ、どうしたご用件だぃ?
…なんて。
気丈にお返事したいな☆
とは思っているのですが、実際の返事は。
「カ・カカカカカかカカカ!」
歯の根が合わないってやつ?
夜の森怖ぇよ。
喋るなんてトンでもないよ!
「ドゥワ…カカカかカカカか…ドゥワぃ、丈夫ぃ!」
「大丈夫には見えねぇから言ってるんだがなぁ」
その後万世極楽教のアジトへと向かい、そこへ通じる山道の麓へたどり着いた頃には日が傾きかけていた。
近くに級友の家があるからそこに残るよう指示されたんだけどね?
幼さ100%の5才児善逸ならまだしも、今の俺って5才児+50歳爺の合計55才児童じゃん?
ここで引いたら男が廃るので、暴れて甘えて駄々こねまくった上に俺の聴覚と夜目(ちっちゃい頃からよくお母ちゃんと夜中に散歩してたから、鬼殺隊時代よりもよく見える)の有用性をアピールしまくって無理やりついてきたんだよね。
いざ何かあってもちゃんと一人で逃げれるからって。
だけどほら、山って木が重なりあうから本気で暗いじゃない?
その上、耳が良いぶん色んな音が聞こえちゃってもぉパニックですわよ。
実弥兄ちゃんがおんぶしてくれてなかったら走って麓まで逃げ帰ってるぜ、まったく。
知識として『あの音はムクドリの羽音だな』とか『あの茂みの音はイノシンが逃げて行った音だ』って理解出来るんだけど、新品の脳ミソが優秀過ぎて無駄に怖い妄想を作り出しちゃってすぐに頭が混乱するんだよ。
そもそも、夜はお母ちゃんと散歩しなれてるから怖くない予定だったんだけどね?
現実って恐ろしいよね?
そんな状況に陥りながらも、なんとか実弥のお陰で万世極楽教徒の本拠地、その門前にたどり着いたんだけど。
「…あん?」
一滴の血を垂らしたようなの赤い月。
本来ならば、不吉を魅せるその光を受け止めて強固に閉ざされている筈のモノ。
屋敷の正門が開け放たれていた。
おぞましい気配をその口から垂れ流し、俺達を手招きするように。
◇
なるほどな。
屋敷の門から暴れ出る鬼の気。
夜道に慣れた善逸がやたら怯えていた訳がコレか。
「怖ぇなら一度引き返すか?」
問いかけると即座に首を横に振るう気配。
いくらユイのためとは言え、まさか善逸がここまで強情になるとは思わなかった。
「いぐ!」
帰れ、と言う俺の言葉を遮るのは、恐怖に潰れた悲鳴のような言葉だってのに、チッ面倒な弟だぜ。
「相手は正真正銘の鬼だぜ?」
漠然とした問いかけ。
だが、今のゼンになら通じる気がした。
「お母ちゃんを。だすげる」
答えにならない返答から、理解する。
やっぱり、コイツは俺の弟なんだと。
「…そぅかい。けどな、いざって時には俺を捨てて逃げろ。それが守れねぇなら殴ってでもお前を置いてくぞ」
甘い。
自分でもそう思う。
本当に弟の身を案じるのなら例え憎まれてでも麓の級友の家に預けてくるべきだった。
だが、俺の背中に掴まる善逸の指からは恐怖よりも強固な覚悟が伝わって、俺は結局コイツを切り捨てられなかった。
堂々と胸を張り、正門をのど真ん中を突っ切る。
門番も不在で…!?
門の側にある茂みに頭を突っ込むような形で、大柄な男性がうつ伏せに倒れていた。
「…!」
駆け寄ろうとした俺の機を制して、ゼンが首もとを二度叩いた。
(どうした?)
(ヤバい、ヤバいって兄ちゃんアレ鬼だよ! なんか普通の鬼と微妙に違う感じもするけれども! 絶対ヤバイって、アレまだ生きてるぅぅぅぅぅ!!)
咄嗟に身構え、善逸をソレから隠すように身体を変えた。
「………あぁ?」
暫く待っても動きが無い。
意識の無い鬼ってのは野良犬よりも本能に忠実だ。
人間の匂い、靴が砂利を踏み抜く音や気配。
そうしたものには殆ど自動的に飛びかかるモノなんだが…これぁ。
「え、ちょ!」
善逸の制止を振り切って歩み寄り、横っ腹に足の裏を乗せた。
「怖けりゃ目ぇ閉じてろ」
足に力を込める。
そこでようやく気付いた。
大柄な男だと思っていたソレは、小さく痩せこけた老人の肉体であり、服だけが間違えたかのように大きかったのだと。
「なんだってんだ」
例え老人の身体であろうとも、本来なら固く跳ね返る筈の力が肉に吸い込まれるように拡散する。
その有り得ない柔らかさに怖気が走る。
「ぐっクソ…!」
産毛が逆立つ。
本能の警鐘を無視し、蹴り上げるように足を動かして
「こ、れぁ…おいおいオィ…」
死体には頚がなかった。
いや、頚どころじゃねぇな。
さっき足から伝わった感触と、視覚で得られる違和感。
ーー背骨ごと、引き抜かれてるのか?
「おぃゼン…ゼン?」
現実味の無い悪夢のような現実に喘ぎ、疲弊した精神が背中の温もりにすがった。
…が。
「なんだぁオイ、器用に気絶しやがって」
善逸は俺の背中にしがみついたまま、白目をむいて気を失っていた。
「…ったく」
怯えて萎縮していた心に熱が灯る。
俺が守る。
コイツも、ユイも。
その決意を新たに、俺はその先へと向かった。
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万世極楽教の敷地は酷い有り様だった。
一角の宗教団体の拠点と言うだけあり、本堂と思われる一際大きな建物の他にも幾つかの建物があるのだが、本堂へ続く中道から見ただけでも至る所に背骨ごと頚を引き抜かれ、皆一様に痩せこけた鬼の肉体が転がり、よく観察すればそれらが僅かに震えている事が見て取れる。
厨房らしき建物の側に小間使の服を着せられた老女がいれば、骨張り乾燥した指先で地面を掻く老人の姿もあった。
それらの干からびた肉体は性別や役職を問わず、無秩序に散らばる。
それらを傍目にしながらも実弥の歩みは鈍らず、中道を真っ直ぐに突っ切り両開きの豪奢な扉を蹴り破った。
「ユイィィィ!」
陰惨な気配を打ち払うように声を上げる。
すると、それに呼応して暗闇を照らす蝋燭の明かりが灯された。
本来教徒が集い、教義を授かる為に広く作られた講堂。
その開けた空間を照らすため、燭台に乗せられた大人の腕ほどもある巨大な蝋燭が四隅に灯るのだが。
「…氷の人形?」
人の腰丈ほどの大きさのそれが、手を一杯に伸ばして頭上の蝋燭に火を灯していた。
「動いてやがる」
滑らかに稼働する四体の人形は、役目を終えると即座に下がり影に身を隠した。
灯された蝋燭の火を持ってしても打ち払えない気配。
肺が凍りそうな狂気が空間に満ちていた。
「…なんて、酷ぇ」
じわり、と広がった光に照らされて中央に浮かび上がる影。
小山のようになだらかに盛り上がったモノは、複数の頚。
一面を見ただけでざっと二十は下らない。
鬼という呪いに犯されて、その上で背骨ごと引き抜かれたおぞましい数の頚の塊がそこにあった。
脊椎と、そこからぶら下がる神経を絡め合い、口から音の無い歓声をボタボタと溢して
道中で散見した老人の肉体とは似ても似つかない、若々しく艶やかな肌と髪の頚の群れが、虚空を見ながらそれはもう幸せそうに。
「…やっぱり、そうなるよなぁ?」
「誰だ!」
誰何に応え、塊の影から一人の男が現れ出でた。
「こんばんは。今日は月が綺麗だねぇ…と。しまったなぁ、実弥君とは今日がはじめましてになるから、しっかりと自己紹介をしておかなきゃイケないんだったよ」
それはもう快活に、人懐っこい笑顔を浮かべたその鬼は。
白橡の髪に鮮血を被ったような柄を見せ、虹色の瞳に呪を刻む。
【弐】【上弦】
「俺は万世極楽教の教祖にして新しい神の下僕」
取り出した扇を口に当てーーー。
「童磨」
名乗った。
…その扇の影。
艶かしくも鮮やかな舌で、自らの唇を舐めながら。