『善逸、お前は俺の誇りだ』   作:マキシマムとと

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◆『第 壱 話』で獪岳が寺に入った時期を数日前から数年前に変更。
それにと同時に鬼との初戦での描写を少し弄りました。

◆ある可能性を模索している際に悲鳴嶼さんの台詞「私も十九で柱となり八年間言い続けているが」を発見。
それに伴い『第 肆 話』と『第 拾参 話』の悲鳴嶼さんが継子となっている部分を訂正し、柱としました。
その影響により百鬼夜行の最初の犠牲者は風柱(モブ)となっております。

◆ずっと前に購入して、ずっと長い間紛失していた鬼滅の刃【外ーがいでんー伝】を再購入しました。
出てこないんだもの。

その結果、正史では杏寿郎君が下弦の弐【佩狼】を倒して炎柱に就任するギリギリのタイミングまで、立場上では槇寿郎が炎柱として在籍していた事が判明。
一度読んでた筈なんですけどね?
サイコロ頭はコレだから…。
まぁその程度の誤差は本人の認識の違いとして処理出来るから平気なんですが、読者には無駄な混乱を与えてしまって申し訳ないです。

本作中でも槇寿郎さんは死ぬ時まで立場上は炎柱だったのだが、本人の認識として柱の座は既に退き、今回の参拾漆話と最終選別の後、藤襲山の下山シーンに名称だけ登場した影の炎柱と揶揄される男、京極殿に『炎柱』を引き継いだつもりでいた。

杏寿郎にもそのように言っていたため、まだ隊士としての階級が低く情報に疎い現時点での杏寿郎も父は柱から引退したと思い込んでいたのだが、実際にはとある事情により京極が炎柱代行となることで煉獄の立場を維持していた。


と、そんな感じで押し通します。

なかなか、ボロが多くて申し訳ない。
まだまだ多そうなのでおかしい所があればその都度修正して報告させて頂きます。



第 参拾漆 話『足音』

「チッ…!」

 

短い舌打ちの後、小さく罵声をこぼして傷口を押さえた。

炎柱代行・京極源内が、たかだか異能を覚えた程度の、下弦にすら至っていない鬼に手傷を受けたのだ。

 

常であれば有り得ない。

口さがない人は彼をして影の炎柱だの、傍流の系譜だのと嘲笑うが、この俺は知っている。

この人がどれだけ人を愛し、悪鬼滅殺のために心血を注いできたのか。

 

「鬼の数が先月の比じゃねーですぜ、旦那ぁ」

 

炎柱。

水の柱と対をなし、どの時代においても絶えず受け継がれてきた呼吸の片割れ。

今では煉獄家と言う血統の証明のように扱われる物。

だが、煉獄が絶えずに燃え続ける奇跡など易々とは起こらない。

 

だからこそ京極は炎を燃やす。

衰え、退いた煉獄の影として。

 

「この流れは、止まらぬであろうよ」

 

血の混じった痰を吐き、忌々しげに口元を拭う。

 

「俺は柱の代行を任された身ではあるが、見ての通り凡百の徒に毛が生えた程度の半端者に過ぎぬ…剣の腕前も足らず、呼吸の業さえも覚えて一年の貴様に抜かされ、果ては高々異能をかじったばかりの小鬼にやられてこの様よ」

 

その言に、言葉を無くす。

彼は尊大だった。

卑しい陰口を足で踏みにじり、汚水の流れる溝にそっと突き落とすような強かさで有象無象を退けていた。

ーーそれが。

 

「昔…炎柱様がまだ壮健であった頃、一度だけ共闘させて頂いたことがある」

 

炎柱…煉獄槇寿郎。

実際に目にしたことはないが、百年に一人の剣士だのという触れ込みだけは知っている。

任務を放棄し、身勝手に柱の返上を叫んでその役目を京極殿に押し付けたクズ野郎。

 

「敵は下弦の参。己を肋骨邪髪と名乗る鬼女であったが、あの御方は凄まじかった。正しく目にも止まらぬ…そう表現する以外に当て嵌まる言葉が見当たらぬ一撃にてその頚を落とすと、即座に反転して影に隠れていた氷の人形を打ち砕いた。

 

それはこちらの戦力を図る為に用意された自立稼働式の血鬼術であり、後になって思えばよほど高位の鬼の使役であったのだろうが、あの御方は「これは良い」と仰り、複数のそれらを瞬時に破壊した後に一つだけを俺の前に誘導し「剣の稽古に最適の人形だ」と言って寄越した。

 

なさけない話よ…ただただ逃げ回る人形相手に、俺は朝日が昇るまで剣を振り回し、その結果ただの一太刀も与えることが出来なんだ」

 

己の弱さをさらけ出し、それよりも大切で誇らしい人間を敬って、彼は俺に微笑んだ。

 

「それでも…だからこそ俺はあの御方の跡を守る、そしてきっとその後に託すのだ。その責務だけは絶対に譲らぬ」

 

そして俺の頭を撫でた。

ただそれだけの温もりが、俺にとっては炎のように熱く感じられてーーー。

 

「ときに…藤襲山での監視任務、忌避していると聞くが?」

 

「げっ…!」

 

その温もりが、痛みに変わる。

 

「天元よ、入隊して一年も経たぬ内に偉くなったものよなぁ? 宇髄天元様よ。お館様直々の御依頼を」

 

「お、俺はそんな地味な任務ーー」

 

「ほぅ? 任務の選り好みが出来るとは…いやはや、未来の音柱様は格が違っていらっしゃる」

 

馬鹿デカイ手の平が、俺の頭を完全に鷲掴んで離さない。

ぐおおおぉぉ、割れる!

これは派手にカチ割れるぞ!?

 

本気で潰しに来ているとしか思えない握力に対抗すべく、両手で京極殿の右手首を押さえつける、が…それでも圧が変わらない。

 

「くぉんの、化け物ぐぅあぎぃででででででで!」

 

激痛に顔が歪み。

…と。

途端に痛みが退き、額が指で弾かれた。

 

「少しはマシな顔をするようになった」

 

その言葉に、一年の歳月を感じさせられた。

…あれから。

兄弟を殺し、家から抜けて。

だが、あの蠱毒の悪夢は永遠に俺を縛り付ける。

その筈だった。

いや、それは変わらない。

この先にどれほどの幸福が訪れたとしても。

 

だがそれでも。

この人と出逢い、お館様の下へ導かれて…。

 

「天元よ、お前は確かに強い。怪我一つ無く立ち回り、瞬く間に鬼の頚を()ねては駆ける。

鬼が勢力を取り戻し、かつてない規模で厄災を振り撒こうとしつつあるこの時期に、前線からお前が退くことは…大きな打撃となりうるだろう」

 

「ならば…!」

 

「だが、大局を見てはいない」

 

不遜に、傲慢に。

己の弱さなど歯牙にもかけず、彼は口元を片方だけ歪める。

 

「お前如き小僧の穴一つで狼狽えるのであれば、柱など全員首を括って死ぬべきだ…事実それだけの金を食っているのだからな。

それにお前…もう一月ほど家を空けているだろう。大概にせねばそれこそ嫁の穴に蜘蛛が巣を張るぞ。あれほどの別嬪を三人も娶っておきながら…まったく情けないチンコロ小僧が。監視任務にかこつけて精々嫁さんを労ってヤる事だ」

 

こ、このクソエロ親父が…!

 

「若気の盛りなら大抵は大目に見てもらえる…気にせず励め」

 

「阿呆かぁ! 旦那、俺は腐っても元忍の宇髄天元様だぞ! 任務中に享楽に耽るなんぞ、出来る道理があるかぁ!」

 

「おっとぉ? 地味な任務がお嫌いな抜け忍めが、珍妙な所で真面目にーーーむ? チンコロ小僧が珍妙に…一句使えるか?」

 

「んな句、誰が聞くかぁ!!」

 

叫ぶ俺のそばを熱が横切る。

忍として鍛えられた俺の感覚さえも素通りし、その熱の主が俺の首に腕を回した。

 

「気負うな天元」

 

暖かく、温かく。

 

「俺の非力は俺が背負う。だからお前には、まだまだ未熟な俺の息子を見てやって欲しいのだ。なに、選別の監視対象とお館様の危惧されている脅威は理解している…だからついでだ。モノのついでに手が空けば俺の息子を助けてくやってくれ」

 

「それは、隊律に違反するのでは?」

 

「ふ、馬鹿者めが、違反なぞバレなければ違反にはならぬ」

 

俺を信じてくれる。

暗闇の中の、俺だけの炎。

 

「鬼は狡猾です」

 

「そうさな」

 

「今日のように数が多いだけでなく、明日には統率まで取り始めるやもしれませぬ」

 

「その程度では済むまいなぁ」

 

「それならば!」

 

染み入る熱が、俺の闇を浮き上がらせて。

その癖に暖める。

どうしようもない、この俺を。

だから。

信じるしかないじゃねぇか。

 

「…生き延びてくださいよ」

 

それだけを願い、俺は最終選別の場へと向かった。

 

 

 

 

ーーー嫁を連れて行ったかどうかは、好きに想像しやがれってんだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

藤襲山には鬼がいる。

 

それも普通の鬼ではない。

明らかに異能を扱い、元忍である俺や隊士としての基礎を瞬く間に習得し、僅か一年で柱にまで上り詰めた岩柱・悲鳴嶼行冥殿の知覚からも逃げおおせた難敵が。

 

今回の任務はその鬼の発見と可能であれば撃破が含まれているが、最優先事項は桑島雷月と言う少年の監視となっていた。

 

俺は元忍としての己の性能を理解している。

客観的に考えて俺を出し抜く事が出来る人間は限られるし、所詮は十二歳のガキの監視など寝ながらでも出来る楽な任務だと高を括っていた。

 

時間が無い中で触り程度に調べた所、どうやら未来視だかなんだかと大層な虚言を弄してお館様に取り入ったらしい。

権力者の狗として、こういった輩が度々現れる事は知っていた。

だから俺は特に憤る事もなく、そのうち化けの皮が剥がれるぞ、と内心で虚仮にしていたのだが。

 

 

「肆ノ型・遠雷」

 

型の推力を移動に使用する頭脳(ドタマ)の悪さ。

 

「壱ノ型・霹靂一閃」

「陸ノ型・電轟雷轟」

 

頚を一撃で落としきれない要領の悪さ。

 

「呼法変幻・獣の呼吸」

 

血反吐を吐いても挫けない諦めの悪さ。

 

どこを取っても規格外の雷小僧に振り回されながら、意地で任務に食らい付いていたのだが。

 

 

 

「ーーーそうだな。頑張ろう」

 

第二の達成目標である藤襲山の隠れ鬼ーー手鬼ーーに追われる少年少女と邂逅を果たし、奴を撃破するべく作戦を伝え終えた雷月。

 

決意を新たにし、作戦遂行の為の準備を行う。

伊黒の羽織を手にし、着替えのためにその場から離れて俺が潜んでいる場所へと近付いてきた。

その時。

 

「もしも俺がしくじった場合には、何をどうしてでも活路を開きます。だらかどうか、あの人達を助けてやってください」

 

明確に意思を乗せて。

俺に向けて言い放ちやがった。

 

「お願いします、宇髄殿」

 

把握されていたことに対する驚きよりも、心のざわめきが大きくて。

それこそ派手に、小気味良い。

 

「雑魚の願いは聞かねぇ、派手に勝ってみせやがれ」

 

だから俺はその勝利を願った。

 

 

 

 

 

 

後にして思えば、俺は奴に惹かれていたのだろう。

俺と同じ気配を滲ませる、あの小さな背中に。

 

見事に手鬼を討伐した後。

 

なにをトチ狂ったのか、雷月は持参していた鬼面を被り自分が鬼役になる、などとほざきやがった。

 

「鬼の恐怖と理不尽を再現し、かつ安全に隊士を鍛えるにはコレが最適だ!」

 

だとさ。

 

愚にもつかねぇ妄言をほざきやがって。

驚いた事に伊黒少年もノリノリだったのだが、冷静な真菰の助言によって助けられて選別の為の試験が全員を集めた合宿に変貌したり、麓の村の住民がすわ山火事かとあわてふためくほどド派手な焚き火をしてみせたり、それぁもうやりたい放題やってくれやがった。

 

最終選別に設けられた一週間と言う長い期間。

それは『是が否でも鬼を殺したいと願う狂人以外の、まだマトモな野郎をふるい落す』ために用意された時間であり、技や力と言うより、その気概を選別するための最終選別なのだが、奴等は三人も揃って誰一人その考えに至らなかったらしい。

 

最終的には皆で集まって切磋琢磨して、少しでも強くなろう!

という考えに至り真菰が考案した合宿が施行された。

 

まぁ流石に十数人も集まれば選別の意味を理解する輩もいるわけで。

集め終わった後になってようやくその意味を知り、人の人生を左右した重さに雷月は潰れていやがった。

ま、俺からすればそれこそ間違いだと断言できたのだが。

 

考えてもみろ、ここに集うガキどもの大多数は育手に拾われる以外に行き場のない最底辺だぞ?

これまでは鬼殺隊の一員になるための修行を行う事で衣食住が確保されていた。

 

京極殿の息子は別としても、奴と特に気の合う中となった諭吉なんぞ、弟が産屋敷の息のかかった施設に暮らしてやがる。

ここで怖じ気づいて山を降りて、それでその先どうやって生きる?

弟に会わせる顔もなく、学歴も人脈も途切れた根無し草の流れ者を受け入れてくれるマトモな環境など、どうやっても得ることはできない。

 

そう考えれば良い。

それだけの事なのだ。

 

「なのに、あの馬鹿は話を聞かぬ」

 

呼吸を身体に刻みながら、夏目が憤る。

 

「強くなれる…悔しいが、あの年下の雷小僧の指導は本物だ。感謝していない奴は一人もおらぬと言うのに」

 

炎の呼吸、その系譜である京極夏目が『音の呼吸』をその内に宿し、刃を振るう。

 

「音の呼吸・壱ノ型」

 

意思を活力に変換し、刃に乗せたソレを対象へと浸透させる。

さすれば。

 

「轟!!」

 

薄皮を削ぐように、浅く切り裂かれた巨木が内側から爆ぜる。

…が。

 

「うぉぉぉぉお!?」

 

弾かれた木片や爆風に対応出来ず、夏目が体制を崩す。

 

「まだまだ派手さが足らんぜ、夏目ぇ!」

 

後先考えず、浸透だけを意識して放った壱ノ型。

その大部分の活力が木の裏側で爆発し、そのせいで幹がこちら目掛けて倒れ込んできたのだ。

 

動けない夏目の前に立ち、構える。

 

 

「音の呼吸・肆ノ型ーー響斬無間ーー」

 

 

音の呼吸はド派手が命だ。

降り注ぐ理不尽を爆発と爆音で、狂い咲く一瞬の輝きで切り開く!

 

…麓の村に残してきた隠がマジオコにブチギレそうなくらい派手派手に決まったぜ。

 

「雷月の見立て通り、お前には音の呼吸の才能がある…が」

 

「わかってるさ、天元」

 

音の呼吸。

その長所を活力の浸透とするならば、短所もまた同じ。

 

「まるで動けないとはな。心構えもそうだが、これはそれ以前の問題らしい」

 

活力を刃に乗せて、それを対象に浸透させる。

それが示す現実として、音の呼吸の使い手は呼吸がもたらす人外なまでの活力による肉体強化の質が悪い。

 

「天元は強いと思っていたが、呼吸を知ったせいで底知れなくなってしまったぞ」

 

「底知れぬのは手前も同じだろ、この短期間で壱ノ型に辿り着くとは末恐ろしいガキだぜ」

 

俺のように幼少時から忍としての訓練を受けていない一般人に、音の呼吸程度のクソ低い強化倍率で鬼の前に立てと言うのはあまりにも非情な死刑宣告だろう。

…しかし。

 

「あとは切り替えの速度…か」

 

呼法変幻。

雷月が編み出した呼吸の業。

 

夏目がもしそれを会得し磨き上げ、自らの血肉にまで落とし込むことが出来れば、その実力は俺と遜色ない迄に跳ね上がるだろう。

 

大恩ある京極殿の依頼に思わぬ形で行き着き、そしてその成長を前にして。

 

「強くなれよ、夏目」

 

「当然だろうが、天元」

 

力強いその眼差しに、俺は京極の炎を見た。

 

 




訂正箇所が多かったので投稿しました。
ストックとか作れる体力が無い。

頑張らなければ…。
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