『善逸、お前は俺の誇りだ』   作:マキシマムとと

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八人。

炎代理=京極 源内
水=明朗 翼
岩=悲鳴嶼 行冥
鳴=磯部 風太郎

花=左近司 右四朗
蛇=半場 水煙
虎=金比羅 前夜
泥=稲井 雪菜

 × 風=東郷 重之(死去)

以上。
死者の会議。
南無阿弥陀仏。


◆GWまで書き留める予定でしたが、作者の腰がご臨終したので投稿。
詳しくは活動報告の四通目に書いてあるので暇な人はご覧あれ。



第 参拾捌 話『柱合会議を始めよう』

風柱の訃報を受け、一足先に藤襲山を下った俺を待っていたのは産屋敷での柱合会議だった。

 

「皆、連日の勤めで疲れている中、集まってくれて有り難う」

 

大粒の雨により屋根瓦がガザガザと唸る。

その様な豪雨の音を軽々と受け流すようなお館様の声が会議室を満たし、一同が座したまま甘受する。

だが。

その中で一人、虎柄の目立つ羽織を身に纏う巨漢が声を荒らげた。

 

「お館様! 発言をお許し下され!!」

 

大型の獣を思わせる、低く野太い声。

許せ、と言うには些か高圧的な口調で虎柱・金比羅前夜が口を開き、その上でお館様の返事を待つ事もなく立ち上がった。

 

「昨夜、俺が唯一友と認め、血の契りを結んだ風の柱が殺された。相手は上弦の参だと聞く!」

 

「そうだね、その通りだ」

 

穏やかに構えるお館様を前に、虎柱が牙を剝く。

 

「その通りだ? その通りだと!? お館様は俺が何を言いたいのか理解していらっしゃらないのか!」

 

「わからないな。わからないよ前夜、私のかわいい虎柱よ。何をそれ程荒ぶっているのか、私にもわかるように話しておくれ」

 

その声に、揺るがぬ意思に空気が凍る。

 

「なんだと…?」

 

「おや、聞こえなかったのかな前夜。前夜は剣の腕前だけでなく、耳まで衰えてしまったのかい?」

 

これまでの、軟弱とすら言える態度と真逆なその言動を理解するまでに、虎柱は数秒の時を要した。

 

「遅い」

 

動き始めるよりも早く指摘され、機先を奪われた虎柱。

彼が動こうとした頃には時遅く。

その首に俺のクナイが触っていた。

 

「貴様ぁ!」

 

「動けば麻痺の毒刃がブスリと行きますぜ? 寝ながら会議を受けるか、座って会議に参加するか、選べよ猫柱様?」

 

俺の、安いどころか大安売りの投げ売り価格、バナナの叩き売りの方がまだ安い挑発に乗ったのか、はたまた『柱』では無い俺の立場を侮ったのか。

派手に愚昧な猫柱様は、俺の優しい選択肢から間違いを選び取った。

 

当然、俺は避ける。

麻痺の毒液を滴らせるクナイで奴の肌を浅く、その上で広く切り裂きながらガキと同じ動作で腕を振り回す虎柱の攻撃から身を剃らす。

 

「行冥!」

 

京極殿の指示を受け、悲鳴嶼さんが後に続く。

 

「く、この柱擬き(モドキ)の分際で俺に触るなぁ!」

 

あっさりと身動きを封じられながら。

 

「猫の癖に吠えるとは、器用な男よな。そも…俺を擬きと言うのなら貴様は贋作であろうに、それも酷く拙い」

 

虎の呼吸。

名前だけは大層なそれは、炎の呼吸の猿真似に過ぎない。

炎の呼吸・伍ノ形ーー炎虎ーーを焔虎(ホムラトラ)と改名して奥義に据え、本来九つで構成される炎の技を、削り落とした五つの型に絞って再構築されている。

壱から肆の型に関しても名称が違うだけの、本物の模造品(ニセモノ)

 

炎の呼吸しか扱えなかった金比羅が、それでも柱の座を手に入れるために作り出し、幼い頃の耀哉様に容認させた過去の汚点。

 

「最後の百鬼夜行は今から十二年前だったね」

 

微動だにせず、麻痺毒によって神経の伝達を妨げられつつある虎柱を見下ろしながら、お館様が語り始めた。

 

「昨今の鬼の蚕食(さんしょく)に抗うために、私も色々と調べてみたんだ。その結果、鬼舞辻無惨の計略の概要がわかった。

 

凪のように穏やかであった鬼の活動が、ある時を境にして激変する現象『百鬼夜行』これの起こる前後には必ず逸材と呼ばれる剣士の存在がある。

 

百年前で言えば『流』と呼ばれ、当時の上弦…その弐と参を討ち滅ぼした剣士であり、十二年前であれば『炎神』煉獄槇寿郎がそれにあたる。

 

下弦の壱。

 

階級こそ下弦とされていたけれど、あの夜に現れて槇寿郎の前に立ち塞がったあの哀れな蝶の『畏ろしさ』は皆の記憶から消えることはない。

ねぇ、そうだろう右四朗。

 

実を言うとあの頃の私はまだ幼くてね、それ以降も多忙にかまけて事の詳細を把握しきれていないのだよ。

叶うなら君に教えて欲しい。

君の口から、あの蝶の話を聞かせておくれ」

 

お館様の願いを受けて、彼が『花柱』左近司右四朗が身動ぎし、やがてボリボリと頭を掻いた。

 

「よぉ言うぜお館様ぁ。アンタはホンに人が悪ぃが」

 

奇妙に口調を訛らせながら、彼が続ける。

 

「十二年前。あの百鬼夜行の夜に現れた下弦の壱。その名を『夢見鳥』と名乗ったがぁ。

後に調べた所、人であった頃の名は『胡蝶つぐみ』と言うてな、数年前まで方除札やら浄めやら、結界関連では散々お世話になっとった胡蝶ミズハ様の親戚に当たる。

あのお方の義理の父親の姉じゃったらしい。義叔母ちゅうんじゃったか。

 

その当時、女だてらに花柱にまで上り詰めた英傑でな。

今から言えばざっと五十年だか六十年だか前に行方不明になり、鬼に喰われたモノとされておったんじゃが……残念な話よ。

 

…でやな。

 

花柱に受け継がれる呼吸の業。

その終ノ型に『彼岸主願』と言う業がある。

花の呼吸と花身術、その両方を高度に極めた達人にしか扱えぬ業でよ、俺ごときにはその劣化すら扱えぬ、正に妙技なんじゃが。

記録にある限り胡蝶にはそれを扱えるだけの才覚があったらしい。

 

らしい、ちゅう曖昧な表現で悪ぃ。

本物の彼岸主願は命を主…つまりは神さんに捧げる業らしいからの、詳細はよぉわからんのよ。

 

じゃが、鬼へと堕ちた胡蝶はそれを使った。

鬼血術【彼岸朱願】恐らくは、そう書くんじゃろぅな。

 

奴さんがその身に降霊した相手はかの有名な屍山血河。

大江山の『朱天童子』よ。

これに関してはお館様の方が詳しく調べたんじゃろ?」

 

「あぁ…そうだね。古き時代の上弦の壱と目される鬼。残存する極僅かな文献から推測するに、五百年ほど前まではこの朱天童子こそが鬼の始祖であると思われていたらしい。

 

当時の鬼狩はその総力の限りを尽くして彼の悪鬼を討伐せしめ、そして真なる鬼の始祖『鬼舞辻無惨』に敗北した。

朱天童子の討伐に当たった隊士の数は百人であったとか千人であったとか。詳細は判然としないけれど、あの災害に等しい戦場の荒れようを見れば誰もがその脅威を理解するだろう」

 

「じゃろな。あれは酷い有り様じゃった。しかもその当時の槇寿郎殿はまだ十五歳、朱天童子は本人からすればあまりにも脆い女の器で、どう見ても全盛期には程遠い状態での戦闘じゃぜ?

それでいて地は抉れ、家屋は吹き飛び、山すらも穿たれた。俺は本当に、身の程を思い知ったわ」

 

それほどの大鬼を相手取り『炎神』煉獄槇寿郎は日が昇るその時まで戦い抜いた。

 

「『いつの日か、再び舞い戻りて夢の続きを』じゃったか。あの言霊の成就だけは避けるべく、胡蝶の血縁は無論、西の蠅庭を筆頭に、名の知れた日本中の術者に支援を要請してやぁ、帝都全域にまで及ぶ多重結界の構築に繰り出されたあの苦行の日々、今でも夢に見てうなされるわぁ」

 

彼らが肌にした悪鬼の畏れが、俺の肌にまで染み入ってくるような幻想。

それを払うかのようにお館様が柏手を一つ叩いた。

 

「ありがとう、右四朗。

これで皆も少しはあの頃の絶望と、極まる所まで至ってしまった哀れな鬼の恐ろしさ、その災害にも等しい猛威を思い出してくれたと思う。

 

ーーーさて。

百年前、流の剣士の死後に起こった百鬼夜行では鬼殺隊その物が壊滅する寸前まで追い込まれ、多くの剣と呼吸の業が失われたそうな。

 

そして十二年前、槇寿郎の足止めに下弦の壱を使い捨てて行われた事も、また同じ。

槇寿郎、そしてその当時ではまだ明らかに未熟だった三柱を除き、残りの五柱がその一晩で失われた。

しかし無惨からすれば、槇寿郎が生き残った事は完全に想定外だったのだろうね。

 

朱天童子は古い鬼だ。

 

科学と技術、物理の法則の解明が進むにつれて人の畏れを失いつつある現代の呪術など塵芥にも等しく、この産屋敷の結界を打ち砕いただろう。

 

槇寿郎の奮迅により繋がれて。

 

それでも…。

君たちには言うまでもない事だろうけれど、歴々の柱の損失は鬼殺隊の質を著しく劣化させた。

いくら育手の方々が知識を保持していようとも、百年…失われた剣を、呼吸を。生き残った剣士達が零から作り出し、鍛え続けては繋げられた技の極みは、実際に見て、肌で感じ、流血の伴う戦場にて受け継がれて行くものだから。

 

継承が断絶して。

 

その後に現れた鬼は、どれもこれもが小物揃い。

まともに血鬼術を行使出来る者すら珍しい状態で。

君達は、一部を除く大多数の隊員は技と怨みを鈍らせて行った」

 

口には白い微笑みを浮かべ、眼からは真っ黒な死の覚悟を溢れさせ、お館様が地に倒れ伏す虎柱を見下した。

 

「俺が何を言いたいのか理解していないのか…だったね?」

 

その圧に。

人が放つモノとは考えられない、毒よりも強く身体を縛る重圧に、虎柱が息を呑む。

 

「今なら、私が何を言いたいのかを理解してくれたのでは無いだろうか。ねぇ前夜。前夜はこう思ったのだろう?

 

『何故、担当地区が近いこの俺に、救援要請を送らなかったのか』…と。

 

前夜…。君は本当に、何もかもが衰えてしまった。これならば十二年前、私を威し付けて柱の座をもぎ取ったあの頃の君の方が、まだ強かった」

 

憤りと、その身に宿るもう一つの感情。

己の立場や能力、鬼にあつらえられて手に入れた戦果。

そうした虚構を少しずつ暴く。

 

本来、柱とは鬼狩りの頂点だ。

およそ百名の隊員の中から選りすぐられた精鋭である。

しかし、それでも人はその性として集団が形成されれば必ずそこに優劣が発生する。

 

一部の人間はより激しく、多くの人間は目立たずに、そしてもう一部の人間はその能力を温存させ、ゆっくりと…だがどうしようもなく明確に劣化させる。

 

では集団においての貢献率が低い個体は不要なのか?

 

「一撃だ」

 

その声に、動かぬ筈の虎の首が僅かに反応した。

 

「風柱…東郷重之はただの一撃で命を断たれた。

真正面から声をかけられ、お優しくも先手を譲られて。

その上で剣をへし折られての一撃」

 

その事実に、何を思うのか。

 

「今宵の雨は激しさを増すだろう。

鬼は衰えず、待たず、惨劇を繰り返しては人の心を踏みにじる。

 

ねぇ前夜。

前夜は何故、柱の座に固執したのかな。

何を願って、重之と血の契りを結んだのか。

 

もう一度取り戻して欲しい。

君の願いを、悲願を」

 

その言葉が、奮い起こす。

密林に潜む野生を。

その唸りを。

 

「虎の呼吸…やはり、私には君が必要なんだよ」

 

ゆっくりと、虎柱が身を起こす。

 

「お、おぃおぃ? あれは像すら止める猛毒だぞ?」

 

「像がなんだ。俺様は…虎だぞ!」

 

理屈など必要ない。

これが『柱』なのだ、と。

 

「では、会議を始めよう」

 

お館様の前に今、全ての柱が跪いた。

 

 




◆終ノ型について。

以前にも書いた通り、この作者の頭の中ではではカナヲさんは花の呼吸こそ継承していますが、花身術に関しては存在すら知らない事になっています。
そのため本当の終ノ型を知らず、自らの特性に応じた『彼岸朱眼』を獲得した、という設定です。

とっさに考えた設定ではありますが、カナエの性格を考慮すると例えカナヲに花身術を修得できるだけの才能があったとしても、絶える寸前であり鬼の標的とされる危険な技術を大切な妹に教えたかと言えば疑問符が生じるので、案外この妄想は間違っていないのかも、なんて思っております。


◆朱天童子について。

皆様ご存じ日本三大妖怪の一人、酒呑童子がもとネタ。
本物は無惨様が産まれる前くらいから存在していたらしく、彼が産まれた頃に討伐されたのかな?
くらいの時代設定が正しいのかもしれませんが、解釈次第でなんとでもなりそうなんですよね。

一応今回は無惨さま=千歳で計算して考えたのですが。
そうすると、そもそも鬼舞辻が鬼の始祖として定着してる鬼滅の世界において酒呑童子は存在したのかすら微妙な所かな…と思ったので割りと好き勝手に考えてます。

今後に出番があるかどうかは未定。


◆虎柱の余命について。

本作中では炎の呼吸=痣者となっているにも関わらず、虎のおじさんは元気マンマンの36歳です。
これにはちゃんとした理由があります。

まず、虎のおじさんは凡人です。
凡人な上に彼が柱に昇格した頃には既に鬼の出現は下火となっており、呼吸を常中させる必要がなかった。

もし必要があっても出来たかどうかで言えば出来なかったのですが、それは置いておいて。

脳のリミッター破壊が細胞の壊死する主な原因なので、常中されていない虎の呼吸は安心安全であり、人外の域に足を踏み入れている煉獄家の短命とは無関係となっている。
これが理由です。

縁壱さんが痣者でありながら長寿だったのもコレに起因します。
本来、炎の呼吸は脳のリミッターを壊す為ではなく、痣によって壊れたリミッターを自発的に制御する為の技能であり、痣による細胞の消耗を抑えるのがその役割だったのです。

炎の呼吸によって脳の枷を外す以外に鬼と対峙する能力を持たなかった凡庸な人間が、自壊の恐怖を抱きながら、それでも望む未来のために、手を伸ばした。
作者はそのように解釈しております。


◆余談

虎に限らず、今回出てきたモブ柱の皆様はおよそ36~40代前後です。
作中で書いた通り、それより古く在籍して技を極めているような立ち位置にいた人間は既に鬼に殺されております。

そもそもが命懸けの職場ですよね。
普通は二十代前後の若造が立てるポジションじゃなし、普通の人なら潰れちゃうと思いますので。
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