『善逸、お前は俺の誇りだ』   作:マキシマムとと

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お久しぶりです。

初めての人はこんにちは。
常連の人には有り難う御座います。

お休みの人も激務の人も、少しでもこの連休が良いものになることを願いつつ、連休連日投稿で頑張りますのでヨロシクお願い致します。

※前回の予告で義勇の登場を告知しておりましたが、今回は無理でした。明日には出てくるのでお許しくださいませ。



第 肆拾  話『人間の呪い』

四年前、死地(万世極楽教)を脱した実弥は善逸を背負い山を下った。

半世紀に近い年月で練り上げられた呼吸を扱おうとも、それを行使する肉体があまりにも幼すぎたのだ。

膨張して破裂し、血を流しながら発熱する善逸の身体を背に、彼はひた走った。

 

何処へ向かう?

追手の有無もわからず、下手に知り合いを頼ったりするのは危険ではないのか?

それよりも善逸の容態が不味い。

病院に向かう?

だが、もしそこで鬼の襲撃を受けたら無関係の人間に被害が出る。

いや、そもそもこんな夜更けに……!

 

実弥の意識はそこで一度途切れた。

 

焦燥と疲労から視野の狭くなっていた実弥を男が強襲したのだ。

呪術によって生み出された【鎚】が容赦なく実弥のみぞおちを叩き、体内に蓄積した【呪】を打つと同時にその意識を刈り取った。

 

「えげつないなぁ。これがこの子供が生き長らえた要因の一つかい」

 

意識を無くした口から吐き出されたのは闇夜の色など比べる迄もない漆黒の種。

 

「ひーふーみーよーの、口ん中に五つ目か。なるほどな、数を減らして少しでも影響を抑えたかったんやろな? なんぼ鬼噛みの異才があっても、普通ならここまでは持たんものなぁ」

 

…さてと。

 

呟きながら、地面に落ちた種を呪符に包んで懐に仕舞うと、最後に口の中に残る最後の一粒に手をかけた。

 

「はっ…重い重い。想いだけに漬物石ですかっ…と!」

 

種から伸びた髪の毛が腕に纏わり付き、そのまま締め砕かんとして暴れる。

その暴威を無視し、力任せに引き抜く。

 

「あかんなぁ、あかんよ。その程度では、まったくまるで到りません。躾のなってない呪いはこうですわ」

 

空気が割れるような軽い音。

呪いの核が壊され、あとに残った髪の毛が身震いするように痙攣し、やがて男の腕に吸い込まれた。

 

ーーー同時に、年相応に身体の大きさを縮めた実弥。

そしてこの一連の顛末に目を見開く善逸を見下ろして、男が微笑んだ。

 

「俺はアンタのお母ちゃんに依頼されて来た解呪屋や」

 

暗い赤ーーー臙脂色(えんじいろ)の作業着に白い長髪。

細い身体に怪しい気配を纏わせて。

 

「斎藤ジグザグ」

 

細目をさらに細くして、八重歯を見せた。

 

「アンタらの身元引き受け人やから、粗相の無いようにお願いしますぇ?」

 

 

 

 

 

 

そうして善逸と実弥は荷物のように運ばれ、彼の拠点がある京都に潜伏し、力を蓄える事となった。

 

鬼噛みーーー実史で玄弥が見せた異能と同質のそれーーーにより肉体に異常をきたしていた実弥と、逆行転生という奇跡を体現する善逸。

 

二人の間にジグザグと名乗る解呪屋が入る事により、お互いの理解は円滑に進んだ。

 

呼吸の鍛練や、呪いに対する術的な解釈、そして二人の共通の目的である牧野ユイの解放へ至るための道筋の整理。

そうした事柄を推し進めながら修行の日々に明け暮れた。

 

時に東京に遠征し、下弦の参を倒してその呪を解析した事もあったが、基本的には京都で解呪屋として活動しつつ、無惨の産み出したはぐれ鬼やオニバスの刺客を倒した。

 

 

 

 

そうして、四年の月日が流れた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「貴女、良い髪ねぇ?」

 

最終選別の最終日。

嵐の雨よりも太く、一滴が重い雨粒の大群。

それが押し寄せる津波のように天から降り注ぎあらゆる音を食い殺す。

 

そんな日のとある場所。

藤襲山を視界に納める小さな山小屋に、三人の影がある。

 

一人は肩から血を流す水柱。

一人は刃に血を滴らせる泥柱。

そして一人は、雨で濡れ鼠と化した下弦の参・肋骨邪髪。

 

鬼が名乗り出た瞬間に意識が切り替わる。

 

『悪鬼滅殺』

 

その四文字が思考を奪い、泥柱はそうあれかしの言葉のままに刀を構えた。

 

「泥の呼吸・壱ノ型ーーーー」

 

踏み込む直前、己の髪が首に触った。

その、違和感。

それにいち早く気付いた水柱が剣線を描く。

その線に、雪菜の髪を巻き込んで。

 

「ーーー!!」

 

肋骨邪髪の得た新たな血鬼術。

 

「【櫛揃え(くしぞろえ)】」

 

自身に近しい性質を持つ髪を己の物として扱う怨嗟の外法。

本体であった邪髪より編み出され、本体の変異を経てその限界が変わり、分け身でありながらそこに成長性を獲得した凶変の存在、肋骨邪髪。

 

ーーーその真髄。

 

「あらあら。貴方は噂よりも弱そうだけれど、噂通りの勘働き…けれど、ダメねぇ」

 

櫛揃え。

その鬼術によって増殖し、操られる髪はもはや人の域に無い。

鋏となって雪菜の首の管を断たんとした髪こそ切り払われたものの、既にその性質は鬼と変わらず、憎悪の対象である水柱に命を救われたと言う現実が、羞恥を伴ってどす黒く溢れ出して、髪と共に溢れて(もつ)れる。

 

実質的に二対一の構図。

肋骨邪髪は血鬼術に手をこまねく二人の内、水柱に狙いを定めた。

 

それまで鬼側に蓄積された情報から推測する所、この状況に追い込まれた水柱は八割方逃げると予測出来る。

 

 

そうなれば良。

水よりも格上の技を身に付け、数多の鬼を屠ってきた泥柱を仕留められる。

 

そうでなくとも可。

泥柱に逃亡の隙を見せる事になるが、最低限無惨様に指定された柱の首を切る事が出来る。

 

 

しかして、その現実は。

 

 

「水の呼吸・伍ノ型」

 

祓われる。

 

(おぞ)ましき鬼の呪いを。

その哀しみの積念だけを、断ち切る刃。

 

痛みを伴わず鬼を滅する。

この世で唯一の、人の業。

 

 

ーーー干天の慈雨ーーー

 

 

その暖かな雨が、使用者である明朗翼の命と引き換えに稲井雪菜の髪を肩口から切り落とした。

 

「………!」

 

「頼、む…!」

 

肋骨邪髪の髪鋏で心臓を貫かれる。

それでも水柱は刀を床に捨て、まるで力の入らない腕をあげて鬼を抱き締めた。

 

「…は、ハハッ。甘いわね、考え違いも良い所だわ。邪心であれば斬っても痛まないと思っていたのかしら? 人の心に善悪などないと言うのに。

頼むだなんて…心を斬られた泥の柱は動けないし、心の臓を裂かれた貴方はもうじきに息絶える」

 

全ては無駄。

鬼の嘆きは止められず、災いはただ雨の如く。

 

おそらくは、恐らくは、畏らくは。

 

その流れこそが、あり得た歴史に最も近い。

しかし、既に流れは道を違えている。

だからこそ、届く。

届いて、返る。

 

「…これは、白夜叉?」

 

肋骨邪髪の感覚が敵の出現を知覚する。

突如として現れた気配。

 

面倒事の臭いに顔をしかめ、水柱の縛めから逃れるためにその全身に髪の鋏を突き立てた。

 

「しつこいのよ、雑魚が…!?」

 

終わったはずの水柱から水の幻想が立ち上る。

その霧のような水の気に、呪いが揺れる。

鬼でありながら鬼の扱う術でもある肋骨邪髪。

その中核に位置する呪いが、風に揺れる蝋燭の炎のように頼りなく揺れ動く。

 

「偉大なる大神…かし、こみて…申す」

 

それは願い。

人の願いを束ねる祝詞の一節。

 

「ギァ!」

 

「大いなる慈しみ」

 

「ヤメロ!」

 

「大いなる、悲しみ」

 

「ヤメロォォォォオ!!」

 

六つの髪鋏が再び振るわれ、水柱の喉と肺をズタズタに切り裂いた。

 

ーーーしかし。

 

(大いなる慈しみの心を持ちて、我が眼前で嘆く悲しみの塊を赦したまえ……鬼は、哀しい。人は、哀しい。どうか、偉大なる大神よ、かの苦難を救いたまえ)

 

ーーーーー願いは、止められない。

 

解呪の印を、自らの血で肋骨邪髪の脇腹に刻む。

 

「ーーーーーー!!!」

 

小屋を震わせるのは石を切るような高音。

奇っ怪な悲鳴をあげ、痙攣した肋骨邪髪が跳ねるようにして飛び出し、豪雨の中にその姿を消す。

 

あとに残るは血溜まりに倒れ伏す水柱と、放心した泥柱の二人だけ。

雨は、ただ只管に降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そらぁもぅ、けったいな依頼でしたわ。

 

なんや「俺の事を大嫌いな女が俺を殺しに来る」から始まった話なんやけどな?

その続きが面倒なんですよ。

 

ーーー軽薄と無関心を絵に描いたような男が、ペラペラと良く回る舌で何やら語る。

 

「あのアホ女は死ぬほど頭が固いから、俺を殺した後に身投げでもするだろう。ハッキリ言って迷惑だし、死んでからもアイツに付きまとわれるのは勘弁して欲しい」

 

ここで逃げれば良かってんけどな?

ほら、奴さんてば腐っても水柱様ですやろ?

俺の質を見抜いてか何か知らんけど、グワシと俺の細腕を握りはるのよ。

 

「後生だ、ジグザグよ」

 

クソ面倒な情念込めた目で見よって。

あぁ嫌や。

 

はぁ?

袖振り合うも多生の縁…やて?

 

知らんわ。

多生だか多少だか知りませんし、俺は生憎と金には困っておりませんよって、残念ながらお引き取り下さいな。

 

そう言いたかったんやけどな?

 

「ジグザグさん」

 

これや。

ピッカピカの金色頭。

四年前の負債。

 

俺を呪いから解放した鬼に課せられた新たな呪い。

牧野善逸がしゃしゃり出おった。

 

ーーー私は何故か、その単語に酷く興味を引かれた。

 

呪い?

あぁ呪いな。

そこ気にする所かな。

ちょっと君は感性違うんかな、合わんな。

ま、ええわ。

 

教えたる。

俺は若い頃から呪われておりましたのよ。

 

呪い主?

 

爺ですわ。

父方の祖父。

 

俺がちょびっとヤンチャしてた頃。

経験ありますやろ?

若い頃は調子こいて尖ります。

自分の力に溺れて見境なく人をどついて引きずり回す。

誰にでもある自然な事や。

あのクソ爺にもあったんやで?

 

なのに俺だけ呪いかけられた。

…腹立つ。

 

 

 

呪いは二つ。

 

①人を殺さない。

②私利私欲のために力を使わない。

 

人が死ぬ可能性のあることを意図的に放置したり無視したりすると"見殺し"で①に反するんやと。

アホ臭いやろ?

 

そんで、あのクソ爺はそんな状態の俺を西の蠅庭に放り込みよった。

 

ーーー東の胡蝶・西の蠅庭…?

 

そや、その蠅庭や。

なんや知っとるんか。

けど詳しくは無い…と。

ま、せやろな。

 

ーーーあ…? なぜ私は知っているのか?

 

アンタ方は脳ミソまで筋肉にしてお祓いしよるからな、そんな細部まで知ってはるのは『右往左往』の花柱だけやろなぁ。

 

蠅庭は簡単に言えば術師の組合やわ。

胡蝶の一党独裁とは違うて、ゆるやかな互助会みたいなもんやったんやけど。

 

その仕事内容は鬼を含む呪い全般に対する対応やな。

解呪屋として世のため他人(ヒト)のために身を粉にして働くんよ。

 

いや、えぇ仕事やで?

 

決まった休みは無いし、残業代なんか出んし、怪我したら治療は全額自分持ちや。

助けた依頼人からは「もっと早く」だの「支払いを待て」だのと駄々を捏ねられ、弾き飛ばした雑魚の呪殺屋どもは手を組んで俺の夜道にお邪魔しおる。

 

そんな素敵な職場で十五~六年は働いたわ。

世のため他人のためにな?

骨身を惜しまず粉骨砕身や。

 

蠅庭には俺よりデキる術師がおらんやろ?

なんかある度に呼ばれるねん。

 

んでまた影で言いよる。

 

『あ、また斎藤来はったわ』

『おっとこりゃ正義の味方面して来とる来とる』言うて。

 

ホンマ恥ずかしいやら腹立つやらやで。

 

俺がそんだけ頑張っんのに、ゴキブリみたいに湧いて来よる呪殺屋の阿呆ボンども。

せっかくやからその骨も一緒に粉砕しながら日々を過ごしておりました。

 

 

そんで、今から四年前やな。

大概、腹に据えかねて爺をチョキンしに行ったんよ。

 

そら俺もあんな干物みたいな爺と無理心中みたくなるのは馬鹿やなと思うよ?

けどな、それは今の俺が比較的に満たされとって、余裕があるから考えられる訳であって、あの頃の俺に『馬鹿やな』とか『まぁ待て』言うて納得させられるか言うたら、そら無理ですわ。

 

ーーー納得…納得。

 

うん。

それで上京して東京に入ったんよ。

俺はこの『上京』て言葉嫌いなんやけど、今話す事と違うから割愛するわ。

いやホンマ、俺も丸くなったわ。

 

そもそも『京』言うたら京都の京ですのに何が上京かと言う話やんな? 上の京で何か? 東京は京都よりも上やとおっしゃりたいのんか? 舐め腐りおってホンマこれやから江戸の人間は好かんのや、阿呆がより集まっただけやのにデカイ顔しおって。

 

はぁ?

割愛出来てない?

阿呆か!

おんどれ俺が本気で東京の愚痴言い出したら一話丸々四千文字使いきるねんぞ、どんだけ俺が抑えとると思っとる。

ホンマ困った人やわ。

 

まーえぇ。

俺が東京入りしてからやな。

 

爺は老いて耄碌するどころか、益々術が磨かれておりまして。

俺は奴の探知に掛からないよう、野ウサギのように神経を尖らせて結界の隙間を通って進んだわ。

 

んで、ある長屋の小路を通りかかった時に、捕まってもうてな。

相手は鬼『下弦の参』よ。

アンタが知っとる参と違うで。

いや、見た目は同じか。

 

あの夜、どうせ下弦の参は名乗ったのやろ?

 

ーーー下弦の参・肋骨邪髪。

 

せや。

肋骨邪髪や。

 

本体である邪髪の肋骨から産み出された文字通りの分け身…分霊ちゅうヤツやな。

 

ーーーあれが、分霊?

 

別に納得せんでもえぇよ?

世の中納得いかんことばっかしや、イチイチ納得納得言い出したらキリん無いですしお寿司。

 

…でや、俺を捕まえた本物の下弦の参な。

アレは畏ろしゅう歪で、下手な神さんよりもよっぽど不安定で遥かにどぎつい力を持っとった。

 

俺を捕まえた時は奇跡的に精神と器とのバランスが安定しておりましてな、向さんもこのチャンスを逃してなるものかと、それぁもう強烈に勧誘されましたのよ。

 

そうやで。

さっきも言うた通り、あの鬼はもう鬼よりも神の領域に足やら頭やらを突っ込んどってな? それも鬼子母神系統やから俺の身の上話をそれはもう親身になって聞いてくれてな。

その上で、あの鬼にも如何んともし難い現状があると教えてもらったんよ。

 

契約?

当然したで。

損なんか無いクリーンな契約や。

 

お?

気に触りますの?

気に障り(・・・・)ますのんか?

 

ーーーそう。

ーーーとても、心の奥底から…。

 

…せやろなぁ。

『悪鬼滅殺』ですわ。

それこそ、産屋敷が千年かけて培ってきた人間の呪い。

 

アンタさんの嫉妬やら憎悪やらは髪と一緒にお祓いされたのですけれども、や。

千年もの時の中で山積した怨嗟の呪は、鬼舞辻無惨がこの世から消え去るその時まで解かれへん。

そんな解呪は神さんにさえ不可能やわ。

 

やから…。

やからこそや。

稲井雪菜。

 

ーーー細い目蓋の奥にある、輝く瞳に闇が蠢く。

 

お前はそれを胸にして生きねばならん。

 

ーーー突如、鬼気が現れる。

ーーーそれこそ、今この瞬間に鬼が生まれたように、唐突に。

 

抗え、それが明朗翼の願いでもある。

 

ーーーそうして、私の前に白い一匹の鬼が姿を表した。

 

                           




原作で玄弥が急成長した理由が鬼喰いだと思う人は挙手。

ノノノノノノノノノノ

満場一致で鬼=プロテイン説をここに提議します!





追記。
胡蝶さんの親を医者として書いていたのですが、ファンブックをよくよく見直すと『薬の調合の仕事』と書いてありました。
いつものヤラカシで申し訳ないです。
ひっそりと訂正しておきましたのでご容赦くださいませ。
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