『善逸、お前は俺の誇りだ』   作:マキシマムとと

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そう言えば、やっと無限列車見れたよ。
やっぱしユーフォーさんは宇宙人だわ。クオリティお化け。
あ、あと鬼滅の単行本ついに全巻揃えたずぇ!()


第 漆 話『繋ぐ』

 

【はい。皆さん南無三ごめんなさい。こ↑こ↓藤襲山の深くて臭い霧の中、完全に迷子の桑島雷月がお届けします】

 

…と。

胸中でとち狂った妄言を垂れるほど、俺は追い詰められていた。

 

〔残る異音はあと一つ〕だと?

 

阿呆なのか、俺は。

本気で苛つき、右の拳で頭を強く殴った。

相手は炭治郎に倒されるまで、実に四十七年もの間この藤の花の牢獄を生き抜いてきた隠遁の巧者だぞ。

 

手鬼?

七年も先にある柱稽古を先取りして、毎日毎日大岩を押してる俺なら余裕で頚くらい切れる。

などと思っていた俺を、ほんっとうに絞め殺したい。

 

もっと考えろよ、俺。

 

四十七年、四十七年だぞ?

知識の年代まで進んでいない、この現状でさえ四十年も生き延びてる鬼だぞ。

あの行冥さんからも逃げ仰せた相手が、俺程度の察知能力に対抗策を持たない筈がないだろうが!

 

「伍ノ型・熱界雷」

 

苛立ち紛れに手鬼の腕を焼き払う。

 

「熱界雷、熱界雷、熱界雷、熱界雷!」

 

技の精度も糞もない。

雷の型の中で最大の火力を誇り、尚且つ対象の修復遅延能力に秀でた伍ノ型を乱発する。うじゃうじゃと、雨後の筍の如くに生え腐った手鬼の腕を切り捨てた回数はこの数十分の間に百は下らない。

 

最初の接触では違った。

頚の無い手鬼の胴体が相手で、力任せの頭残念で強引に打ち倒すことが出来た。

問題はその後だ。

 

俺が斬った肉塊を含め、この山の地中の至る所に潜伏した手鬼の腕から紫の濃い霧のような物が放たれて視界と嗅覚を潰した。

そして、その全ての腕が心音を発して俺の耳を狂わせてくる。

 

完全に、掌の上だ。

 

折れるな俺。

十中八九、いや。

十中十で奴の狙いは真菰。

 

鱗滝左近次の弟子を殺す。これは手鬼にとって生存や食事と同等の価値を持つ原理だ。

 

昨年は己の生存を脅かす可能性が高い錆兎が現れた。

おそらく、錆兎が狐の面を持っていなければ手鬼は今回よりも周到に姿をくらませた事だろう。

しかし、生存・食事・鱗滝の弟子の殺害と、全ての条件が揃ったが故に、奴は索敵や欺瞞を棄てた全力を用いて錆兎と対峙した。

恐らく、それが義勇の生存に繋がったのだ。

 

そして今回。

 

己の生存を脅かす可能性が高い俺を肉の塊で釣り上げて、その間に狐の面を持つ真菰を殺害する。

 

なんという、高度な戦略。

 

…くそ、腹が痛い。

呼吸で堪えているが、それがなかったらとっくに戦闘不能になっているぞこれは。

良くない種類の汗が顔面から滲み出す感覚に奥歯を噛み締めて耐える。

 

欺瞞のための腕がまだ無数にある。

裏を返せば、それはまだ真菰が生きている証左。

そもそも、俺の知識とは状況が違う…筈だし、真菰が勝つ可能性だってあるんだ。諦めるな。

 

走り回って腕を斬り続けるのはもうやった。

必要なことは考えることと、現状の打開に必要なナニカを見逃さないこと。

 

音源での探知は、もう捨てよう。

俺に出来ることは何だ?

唯一他より秀でた事。

 

 

呼吸。

意識を研ぎ澄ませ、呼吸に集中する。

 

 

雷の呼吸は駄目だ。

あまりにも壱ノ型が強すぎて索敵と言う概念に乏しい。

それならば他の呼吸?

 

しかし、現状で俺が真似出来そうな呼吸と言えば実物を見た事のある岩の呼吸か、もう一つ。

 

岩の呼吸は盲目の悲鳴嶼さんが扱う呼吸法であることから探知能力に秀でるように思えるが、技術としては完全な武闘術であり、探知は悲鳴嶼さん本人の能力に依存している。

 

 

そもそもの話、それぞれの型は鬼を斬る為に錬磨された技術。

敵を感じ取る技など…敵を、感じ取る?

 

 

妙に、何かが引っ掛かった。

目と耳、鼻にも頼らない方法…。

知識から得た柱の情報に現状を打開する能力はない。

しかし、眼前に広がる空間が俺の記憶を刺激する。

濃くて見通しの効かない霧に包まれた、薄暗い森の中。

 

『もし君が鬼の位置を正確に探る何らかの力を持っているなら 協力してくれ!!』

 

炭治郎の声だ。

 

そうか、あの時伊之助が使った技『空間識覚』ならばあるいは。

獣の呼吸は伊之助が編み出した我流の呼吸。

 

しかし、俺は知っている。

伊之助に呼吸を教えたのは俺で、その呼吸が練り上げられる過程を見たのもまた俺だ。

当然、まだ未発達の呼吸だったが、基礎となる肺の使い方から独特な音を立てて伊之助独自の身体に馴染んでいく呼吸の方向性を、俺は知っている。

 

空間識覚は荒れ山で育った伊之助の触覚の精度を一層に高め、微かな空気の揺らぎを感知する技法。

空気の揺らぎとは音だ。

音は聴覚、聴覚は触覚に勝る。

 

「全集中」

 

地に片膝を付き、腕を左右に伸ばす。

 

「呼法変幻・獣の呼吸…!」

 

息を変える。

試したことは無かったし、無意味な行動なのかもしれない。

しかし、俺はただ只管に伊之助に祈った。

結局の所、俺には俺の出来ることしか出来ないんだ。

普通に聴いて駄目なら、もっともっと頑張って、聴く!

 

聴く事に注力しつつ、気道の使い方を探る。

伊之助の呼吸を模倣しつつ、不足している箇所や補強するべき筋力を補う。この呼吸が伊之助と共に成長していく様子を想像し、そこに己の持つ呼吸の経験を当て嵌めて創造する。

 

ゆっくりと、しかし確実に呼吸を続ける。

獣の呼吸は軽い。

鋭く、大きく溜め放つ雷の呼吸との大きな違い。

軽く、浅く。そして広い。

 

この呼吸は、個人で完結しない。

周囲と、山と、世界と繋がり循環する呼法。

伊之助の見ている苛烈で、そして輝かんばかりに美しい世界との対話。そこに食い込め、俺の色を、世界に示せ!

 

「空間識覚ーー(しゅく)!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「鬼の頚は硬いぞ!」

 

煉獄杏寿郎が言う。

 

常の如く、何処を見ているやら理解に苦しむ視線で、されど常人などでは手の届かない純度の熱が、その瞳から放たれていた。

 

「君は父上の剣を見ているが故に誤認しているようだが、本来頚とはとても硬く、斬り難い物なのだ」

 

人体にとって最も重要な役目を持つ頭部。それを支えるための筋肉はその他の肉と比べてもなんら見劣りせず。

そして、その中心を貫く頸椎は頭骨と胸椎の間に七つもの骨が密集して出来ているのだ。

 

その為に、経験と技術の不足した斬撃では骨の隙間を捉える事が出来ず、骨に弾かれて刃が止まる。

古来より、切腹の介錯を務める人物には高度な剣術が要求される理由がこれだ。

 

 

「そして伊黒、君は細い!」

 

 

伊黒小芭内。

俺は十二歳になり、家から離れるまでずっと座敷牢に幽閉されていた。

まともに身体を動かし始めたのはそれ以降の話。

 

人間のもっとも正直な部分、即ち筋肉。

それは良くも悪くも、過去を裏切らない。

故に、俺の肉体は常人よりも遥かに鍛え難い性質を帯びてしまった。

二年にも満たない修行期間で、どれほどの修練に身を浸そうとも十二年もの歳月を突き壊すことは出来なかったのだ。

 

「だから、選別では気を付けると良い!」

 

アイツはそう言って笑った。

純粋な好意など知らずに育った俺の心にさえ、光を届かせるようなその美しさに、俺は言葉が出なかった。

 

そうだ。

俺は知らなかった。

頚を斬る経験を持たなかった。

 

その上で『鬼を殺し』『人を助ける』と言う理想の達成に、高揚した。

だから、気が付かなかったのだ。

 

己が落とした頚の真贋(しんがん)に。

 

 

 

 

 

 

「…う、ぐ」

背を焼くような痛みに、意識が浮上する。

 

数秒の時間を消費して、ようやく現状に理解が追い付いた。

 

「降ろせ…」

 

俺は、助けるべき他人に背負われていた。

 

あの時、俺が偽物の頚を落として油断した、その背後に向けて少女が剣を投げ打ち、鏑丸が俺の足に噛み付いた事で俺の姿勢が変わった。

情けなくもそのお陰で俺の胴体はまだ繋がっているらしい。

 

誰かを助けたかった。

誰かを助けて、少しでもこの汚れた血を浄化したかった。

 

その渇望は、間違っていたのだろうか。

滝のような汗をかき、樹の幹のうろに俺を降ろして。

 

少女が、涙を浮かべた。

 

「私のせいで、御免なさい」

 

違う、俺だ。

未熟な俺が悪い。

 

「私が悪いの。いつも、いつも。私のせいで皆死んじゃう」

 

うち震える少女を前に、俺は違うと言ってやることが出来なかった。お前は悪くないと、肩を抱いてやることが、出来なかった。

 

 

【あんたが逃げたせいでみんな殺されたのよ!!】

 

従姉妹の罵声が頭に響く。

 

【五十人死んだわ あんたが殺したのよ】

【生け贄のくせに!!大人しく喰われてりゃ良かったのに!!】

 

一言一句違えること無く、鮮明に刻み付けられた呪詛。

 

 

同じだ。

 

こんなにも美しい、外の世界の女の子は。

それなのに、俺と同じ牢獄に囚われているのだ。

 

「ぐ、おぉぉぉぉ!」

 

「駄目、動いたら傷が開く!」

 

「死ぬなら、せめてキミの隣に立って死ぬ」

 

救う力を持たなくても、照らす光を持たなくても。

それでも俺は、だからこそ並び立つ。

 

「全集中」

 

意識を研ぎ澄ます。

 

背中の傷が全身の動きを妨げるなら、全身の筋肉を強化してそれを補強すればよい。

一秒でも戦う。

微力でも、キミに添える。

 

「共に、戦おう」

 

声にしてから気が付いた。

これは杏寿郎の言葉だ。

俺の、淀に浸され腐り果てる筈だった、俺のこの心に炎を灯したアイツの台詞。

 

負けない、死ねない。

俺はもう一度アイツに会いたい。

 

「俺は伊黒。伊黒小芭内だ」

 

「私は…真菰」

 

独りっきりの俺たちは、そうして手を繋いだ。

 

 

 




不定期更新でゴメン。
ゴメンネ 弱クッテ。
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