『善逸、お前は俺の誇りだ』   作:マキシマムとと

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善逸「ねーねー、俺の出番まだなのー?」
作者「ちょ!」」

ハーメ民「タイトル詐欺はここですか?」
作者「うほぅわ@jmpga0---藤ノ木」


第 捌 話『空間の射者』

 

「こぎつねコンコン山の中、山の中」

 

突然、口が謡いだした。

 

「草の実つぶしておけしょうしたり」

 

この歌を聴いたのは、何時だったろう。

 

「もみじのかんざし、つげのくし」

謡いながら、ふと右腕が持ち上がった。

 

…ボクは、何してたんだっけ?

 

何も掴めない。

掴むモノなんて無い。

えっ…と。

そうだ。

血肉を掴みに行く所だったんだ。

馬鹿だなァ、ボクは。

 

笑顔。

 

こんな時には笑顔が一番。

だってそうだろ?

ボクが笑ってなきゃ誰かが心配するから。

だから、笑わなくちゃ。

いつまでも、いつまでも。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

私は絶対に悪くない。

だってそうでしょ?

こんなの、男が悪いって決まってる。

 

「?」

 

まったく、全然、爪先ちょぴっと程度でさえ気が付いてないこの『伊黒小芭内(女たらし)』を睨み付けると、何故か【かわいい】と言う文字が背後に見えて余計に焦った。

 

この人頭おかしいよ。

死にかけな上に、これから鬼に殺されるんだよ?

 

勝ち目なんか無いし、助けなんて無い。

そんなこと、わかってるのに。

 

「その、手を」

 

手に限る事じゃないんだけど、彼を背負って全力で走ってきたから汗が凄い。すんんんんごく、恥ずかしい。

 

あれ?

男の子と手を繋ぐのって錆兎以来初めて…。

 

「あぁ、動き辛いな。すまない…」

そう言いながら、うん?

 

 

離さないんだが?

 

 

この『たらし』離さないんだが??

 

「どうせ死ぬなら、もう少しくらい綺麗なものに触れていてもバチは当たらないと思って。すまない、迷惑だったな」

 

 

ーーーーーーーーーーる?

 

 

鼻血でるよね?

この人頭おかしいよね!?

これで恋愛脳ゼロなんだよ!!!

狂ってるよね?ね??

仕舞いには【ぼくみたいな】【きたないてが】【きみにふれて】【ごめんね】とか文字が浮かぶし、なんだったらその後で【やわらか…】【しあわ…】とか見えるのがもう強烈に私の乙女心にあわわわわわわわわわわ。

 

両手で頬を叩く。

 

「勝とうね!」

やけくそ!

 

「あぁ、一緒に帰ろう!」

「…っっっっっっっ!」

 

意味はわかってるよ?

私カンチガイしない系の女子ですから。

貴方の帰りを待ってる人がいるのね?

 

知ってる、知ってますぅ。

この男、腹立つぅ。

彼の頭を手刀で叩いてから意識を切り替えた。

 

あー。

もう。

なんでこの人、こんなに眼が綺麗なんだろ。

 

 

「まずは現状の確認ね」

 

私たちの武器は伊黒くんの刀が一本だけ。

 

手鬼から距離を取るために必死に走ってきたけど、冷静になって考えれば何度も移動を制限されていたことから、ここに罠がある可能性が高いし、なんだったら既に敵の術中に嵌まっているのが現状。

 

伊黒くんの傷の具合は軽くなくて、無理をすれば数十秒は動けるものの、それ以降の戦闘は厳しそう。

 

「罠はもう仕方がない、これ以上の移動は困難だろう。それより敵の鬼血術が気になる所だな」

 

確かに。

最終選別が始まった、その直後の記憶が混濁しているのもそのせいだろう。さっきだって伊黒くんの剣が鬼の頚を逸れたのも、同じ。

 

 

「つまり、相手は俺達の五感を狂わせる術を使うって事だ」

 

 

「誰!?」

木の陰から現れた男。

 

「ほいっ」

投げられた竹筒を反射的に手に取る。

 

「水分取っとけ、鬼と殺り合うならなるべく体調は良くするべきだ。お前も服脱げ、傷洗ってやる」

 

平然としているけど、その口元には…。

近付こうとしてくる男の行く手を、伊黒くんが遮った。

 

「信用しない」

 

「は?」

 

「お前は何者だ、その血糊はなんだ」

 

伊黒くんの誰何を聞きながら、思い出した。

この人、選別開始直後に呼吸の技を使って飛び出していった黄色い男の子だ。

口どころか着物まで赤く染まっていてわからなかったけど、間違いない。

 

「あん?あ…あー。これは」

 

と。

男の子の動きが止まった。

次の瞬間。

 

「ゴファ!」

 

口から溢れるほどの鮮血を吹き出した。

 

「ちょ、ちょと大丈夫!?」

 

近付こうとするのを、伊黒くんが引き留めた。

男の子の方も片手をあげて【ごめん】と文字が浮かぶ。

 

「すまん、ちょっと気にする余裕なかった。この血は見てもらった通り俺のだ。少しばかり気管を痛めた」

 

あ…。

この子、お馬鹿の子なんだ。

そう思うと、自然と身体が動いた。

 

錆兎もそう。

いつも無理して自分自身を傷付けて。

 

「大丈夫?」

 

背中をさする。

なんとなく、わかる。

この人は私を助けようとしてこんな無茶したんだ。

 

【まもる】

 

その気持ちが、真っ直ぐなんだ。

 

「あ、その。有難う」

 

照れて顔を背ける所とか。

ふふ。

笑っちゃうな。

 

おかしいよね。

生きるって、おかしいよね。

 

 

 

 

それからの行動は早かった。

雷月と名乗る男の子は藤の花の軟膏を持っていたので、それも使って伊黒くんの傷の処置をし、水分補給をしながら今までの経緯を伝えた。

 

「それなら、こんな作戦はどうだ?」

 

雷月くんの提案。

本人は自信無さそうだったけど私は良いと思った。

 

「もし失敗したら、その時はーー」

 

言いかけた所を伊黒くんが指を突きつけて制した。

 

「黙れ雑魚め、こう言う時には成功する事だけを考えるのだ。そんなことも知らんのか」

 

う…わー。

俺様なんだ、この人。

て、こんな事で喧嘩になったらマズイ。

と思って焦ったんだけど、当の本人はキョトンとした顔をして、それから朗らかに笑った。

 

「そうだな。頑張ろう」

 

伊黒くんはソッポを向いたけど【うれしい】【がんばる】てなってるし。

ほんと、笑っちゃうよ。

頑張ろう。

頑張って、みんなで帰るんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

手鬼には二つの姿があった。

 

一つは豪腕集束。

 

これは錆兎や竈門炭治郎、あとは取るに足らぬ剣士を葬る際に使用された。

性質は単純。

己の肉体を強化して真正面から敵を砕き、啜る。

 

もう一つが空間掌握。

 

こちが現在真菰と伊黒に対峙している姿である。

豪腕集束とは違い、単純な戦闘能力は低い。

攻防の全てを藤襲山の地中に仕掛けてある腕に頼っており、本体の能力は他のどの鬼と比べても貧弱な、子供に毛が生えた程度のモノでしかない。

しかし、この形態であればこそ使える術がある。

 

それこそが姿形の名称と同じ【血鬼術・空間掌握】である。

 

本体は臭いと音を消し、山中の腕は半自動的に鬼狩を撹乱する霧を放ち、耳を狂わせる音波を放つ。

その能力は本体に近付くほどに強化される。

初陣とは言えど、伊黒ほどの資質を持つ剣士を相手取ってさえ、ただの腕を己の本体と誤認させるほどに、空間をその掌に乗せる。

 

本来であれば終わっている筈だった。

一度目の邂逅で、二度目の必殺で。

 

 

 

 

そう言えば、と。

眼球から脳ミソを裂いて頭の裏側に貫通している刀を『お兄ちゃん』に引き抜いてもらう。

 

手癖の悪い狐だよなァ。

あの蛇男が刀を落としていれば理想的だったんだけど、気絶しても剣を手離さないとか、本当に蛇ってしつこくて嫌だ。

引き抜いた刀を『お兄ちゃん』が二つに折ってくれた。

 

「血鬼術・空間掌握【獄落(ごくらく)】」

 

これを使う日が来るとは思わなかった。

馬鹿な狐め。

自分の意思で逃げ道を選んでると思ってるんだろ?

お前の道を決めるのはボクだ。

罠に追い込まれたとも知らずに。

地中から沢山の『お兄ちゃん』が乱立して、完全に狐の退路を消した。

 

「さァ、鬼ごっこはお仕舞いだよ」

 

罠の場所は、中央に枯れた桜の古木がある広場。

 

檻と化した『お兄ちゃん』を一斉に振り下ろして一息で擂り潰すのも良いが『お兄ちゃん』は精密な操作が出来ないし、狐は素早い。万が一動きが乱れてその隙間から逃げられても面白くない、か。

どの道、狐は【獄落】の中。

 

じっくりいたぶってあげよう。

 

 

 

 

 

腕の牢獄が一部湾曲し、生じた穴から子供の姿の鬼、手鬼が現れた。対峙するのは真菰ただ一人。

一瞬だけ怪訝な表情を見せる手鬼だが、桜の木陰に蛇男ーー伊黒小芭内ーーの着物を認めてほくそ笑む。

 

手鬼は腕から伝わる呼吸の強弱から、大まかに相手の脅威を測ることが出来る。

その感覚が、相手の衰弱をありありと感じ取った。

 

「なんだ、ボクの相手はキミだけなんだね」

 

先程の戦闘で垣間見た動きから、蛇男に対する手鬼の警戒度は高まっていた。その男が戦闘不能。

思っていたよりも『お兄ちゃん』の爪は深く肉を抉ったらしい。

狐女は確かに速い、速いがそれは『お兄ちゃん』で対応出来ない速度ではない。その上、相手の斬撃は『お兄ちゃん』を切れない。

 

「楽しいね。愉しいね」

 

鬼が嗤う。

人を殺し、喰らう。

理に唾を吐く存在の本質。

 

「ねぇ、どうやって死にたい?目玉をほじくる?舌を引き抜く?キミの指を全部切り落として、それから一本ずつ食べて見せようか?」

 

昆虫をいたぶる無垢な子供のように。

 

「お勧めはハラワタなんだ、知ってる?人間ってハラワタを引き抜いたくらいじゃ死なないんだよ?」

 

愛をささやく純真な男のように。

 

「それを食べさせてあげよう。キミの臭い臭い汚物の詰まったハラワタを引き抜いて、食べさせて、食べさせて、食べさせて。キミがどうしても食べられなくなったら、その時にはそっちの蛇男にも食べてもらおうよ」

 

そう。

ただただ鬼の如くに。

 

「けど、そうだな。もしキミがその狐の面を踏み砕けたなら、簡単に殺してあげてもいいよ」

 

 

嗤う。

 

 

「嫌いなんだよ、鱗滝が」

「ボクだけなら許してあげてもいいけど『お兄ちゃん』を閉じ込めた事は許せない」

「『お兄ちゃん』は凄いんだ。こんなゴミ溜めみたいな場所じゃない、もっと広い世界でたくさん、たくさん人を殺して、そしてあの方に認めてもらうんだ。そうすればきっと『お兄ちゃん』は生き返る」

 

「それなのに、鱗滝…鱗滝鱗滝鱗滝鱗滝うろこだぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

憎悪を纏い、地を砕いて巨腕が伸びた。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

剛力によって振るわれる一撃を、真菰が冷静にかわす。

寸分の狂いもなく、この【獄落】の渦中で。

 

「な、んで?」

 

避けれる筈が無い。

人間は五感に頼って世界を認識している。

視覚と嗅覚を霧で妨げられ、聴覚を無数の鼓動に遮られるその状況。その上に重ねられる血鬼術の外法。

 

常人であれば正常に立つことすら難しい。

その空間の中で、音も匂いも消した腕を避ける?

例え視覚で認識していても、いや認識すればこそ脳が混乱するのだ。故に、避けることなど不可能。

 

だと、言うのに。

横薙ぎに振るわれた腕も、

「跳ねろ!」

完全に目を閉じたまま、翔ぶようにして。

 

声だ。

蛇男の声?

 

確認の為にもう一度腕を振り下ろす。

 

「全力で左!」

 

桜の陰から指示が飛ぶ。

その声は、蛇男の物とは違う。

それなら、アイツは?

何かを吐き出す音の後、その誰かが叫んだ。

 

「伊黒、大股三歩…右へ!!」

 

その声に理解する。

もう一人の存在を。

 

知覚する。

己の背後、影から這い出るかの如く肉体をさらす男の姿を。

 

(近い、木陰の男がボクの血鬼術を破っているのか!)

 

だが。

再現だ。

先程の再現を成せば良い。

『お兄ちゃん』をボクに見立てて。

 

ーーー熱。

 

例え心臓を棄てようとも、肉体が稼働すれば必ず生じる。

 

「生物は失敗に学び、成功に慢心する」

 

再来した牙は、今度こそ違わず。

 

「蛇の呼吸」

 

手鬼にはもうわからない。

己を射抜くその赤い瞳が。

 

「弐ノ型」

 

蛇のモノであるのか。

人のモノであるのか。

 

「狭頭の毒牙」

 

最後の刻。

回転する世界の中で理解した。

 

ーー蛇は決して、見逃さない。

 

 

 

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