運命/世界の引き金   作:アルピ交通事務局

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お年玉には夢と浪漫がある

 栄光のクリスマス・ロードを終えてから1週間が経過した。そう、1週間が経過をした。

 12/25から1週間ということはつまりは年が開けてお正月、新年の最初の日こと元旦を迎える。

 

「……ふ、今日は面白そうな事が起きそうですね」

 

 お正月、1年に1度、始まりを告げる日。深雪は今日という日が面白い事になると直感が告げている。

 何故かって?それは勘としか言いようがないが、とにかく今日は面白い1日になる。自らの占いでもいい感じになっていると見える。

 きっとなにかいいことがあるのだろうと深雪は着物に着替えて初詣に向かう。

 

「はぁ……こういう時に居ないのは面倒ですね」

 

 初詣の行列に紛れ込む深雪だが大きくため息を吐く。

 顔が司波深雪、体が蛇喰夢子とハイスペックな容姿をしている為にめっさモテる。具体的に言えば歩くだけでモテる。

 人混みは嫌いじゃないが、人混みの中に紛れ込もうとすると否が応でも目立ってしまう。チラチラと自分の事を見てくる視線が鬱陶しい。

 

「ねぇ、もしかして1人で」

 

「お黙りなさい」

 

 案の定と言うべきかナンパされる深雪。

 こんな事には馴れているので物凄いドライな対応を見せる。

 

「そう言わずにさ~、暇だったら俺達と遊ぼ━━っ」

 

「五月蝿いと言っているのが聞こえませんか?」

 

 ナンパしてくる集団のリーダー格である男の顔を掴む深雪は少しだけ殺気を向ける。

 感情受信体質ではないリーダー格の男だが深雪の殺気には気付いたようで怯えた目をしている。

 

「もう、待ち合わせ場所に居ないと思ったらここに」

 

「っ、ひぃ!?」

 

「ここにいた……あ……」

 

「おや、確か熊谷さんですね……どうかしましたか?」

 

「え、あ……あけましておめでとうございます」

 

「はい、あけましておめでとうございます。それとそういうフォローはしなくてもいいですよ」

 

 ナンパされている深雪を助けようと知り合いのフリをして出てきた熊谷だが深雪の殺気にやられたリーダー格及び一団は逃亡してしまい、作戦を結構する前に失敗した。

 あまりに予想外の展開だった為に思わずどうしようと悩んでしまい、口から出たのは新年の挨拶で深雪はそれを返した上での心配無用だという。

 

「ああいう輩をぶちのめす程度には鍛えていますの」

 

「そ、そう……」

 

 変わった人だなと一歩引いてしまう熊谷。

 ナンパをしてくる人達が引いていったのは良かったことだとホッとしている。

 

「ところで熊谷さんはお一人で?」

 

「ううん、茜と一緒に来ているわ……玲はその」

 

「知っています、クラスメートですよ……なにかいいお土産を買わないといけませんね」

 

 那須玲は病弱だ。病弱(笑)ではなく正真正銘の病弱であり、こういう人混みに連れていくことは出来ない。

 その事を知っている深雪は退屈させない様にと人混みの更に奥にある社に目が向く。

 

「熊谷先輩、急に動いたら離れ離れに……あ!」

 

「おや、可愛らしいお嬢さんっと一回会っていますね」

 

「深雪さん、あけましておめでとうございます」

 

「はい、あけましておめでとうございます」

 

 茜の登場によりウフフとほのぼのとした空間が出現する。

 なんとも言えないほのぼのとした空間は第三者が手出ししにくい空間である。しかし視線は嫌でも向けられる。

 

「ここで会えたのも何かのご縁ですし、ご一緒にお参りに行きませんか?」

 

 狙ってではなく、たまたま出会えた。那須隊とは奇妙な縁を感じる深雪は二人を誘う。

 二人は初詣に来ているので深雪を断る理由はなく、一緒に行くこととなる。

 

「深雪さん、その着物とっても似合います!」

 

「ありがとう、茜ちゃん……お二人は着物を着ないのですか?」

 

「そうね……私はちょっと」

 

「私は着てみたいんですけど、家に着物が無くてレンタルしようにも結構高くて」

 

「そうですか……やはり着物は着所が難しいですね」

 

 熊谷と茜の着物姿を想像する深雪。

 元が良すぎるぐらいにいい二人の着物姿はとても似合っており、着ないことに少しだけ残念だと思いながらも行列を進んでいく。

 

「太刀川、あんたお年玉は無いわけ?」

 

「おいおい、確かにサンタにプレゼントを渡す側の人間だって言われたけどお年玉は渡さないぞ」

 

「別に要らないわよ」

 

 行列を進んでいくとそこには着物姿の小南パイセンと太刀川、遊真がいた。

 お年玉の入っている袋を見つめて深く考える小南。

 

「お年玉って、そもそもなんなのかしら?」

 

 考えていることは子供並だったりする。

 毎年貰っていて当たり前になっており疑問を持たなかった小南。しかし、今年は違う。外国育ちもとい近界育ちの遊真がおり、遊真が「お年玉ってなに?」と言う疑問をぶつけられて答えることが出来なかった。

 隣にいる遊真はお年玉はなんでお金なのかと疑問を持っており、太刀川は餅をウニョーンと伸ばしながら答える。

 

「そりゃお年玉って言うくらいだ。金玉だろう」

 

「なるほど!!」

 

 なるほどじゃねえ。

 

「まぁ、小南さんったら金玉だなんてはしたないですよ」

 

「うげっ!?」

 

 そしてそんな反応をした小南の前に深雪は現れる。何故かって?ここで小南を煽らなきゃ変態じゃないから。

 小南は深雪の顔を見た途端に声を荒げる。あまりにも突然な事だけに太刀川達は何事かと驚いてしまう。

 

「酷いですね新年早々に顔を合わせただけなのに、そんな化物を見るような目で人を見るだなんて」

 

「も、申し訳ありません。つい驚いてしまって」

 

「こなみセンパイ」

 

「やめとけ。あいつ、今猫被ってるから」

 

 何時もとは違う口調を疑問に思う遊真。太刀川は面白いものが見れるぞとニヤつきながら遊真に教える。

 そう、小南は猫を被っている。なんでかって聞かれればなんでだろうと思うのだがとにかく1オペレーターだと女子校で嘯いている。

 

「あ、どうもはじめまして。ボーダーの1位の太刀川さんですね。何時も街の為にありがとうございます。私はこういうものです」

 

 しかしここで予想外の事が起きた。

 何時も通りなにかをしてくるんじゃないかと警戒していた小南だったが、矛先が太刀川に向いた。

 まぁ、太刀川と初対面なので挨拶をすることは当然の事だがここでも深雪は少しだけ嫌がらせをする。自己紹介をするのならば自分の名前を名乗るのが普通なのだが、あえて名刺で行った。

 

「へび…くう?……ふかゆき、いやでも、女子だよな……」

 

 名刺には名前がはっきりと書かれているのだが、読み仮名が書いていない。

 日本でもそれなりに珍しい名字にな蛇喰を太刀川は読むことはできない。辛うじて蛇と言うことは分かるのだがそれ以上が読むことが出来ない。

 

「……深雪、あんたわざとやってるわね」

 

「ふ、面白い人間が面白いことをするのが大好きなんです……流石に初見で読むのは難しいですよね」

 

「そうか、深雪って読むのか」

 

 あ、諦めた。

 太刀川の頭の悪さを知っている熊谷は自分が名前を呼んだから理解したことに気付く。なんとも残念な男、それが太刀川である。

 

「しかし、随分と面白い話をしていましたね。金玉ですか」

 

「ちょ……深雪さん、はしたないですよ」

 

「そうですね。では、睾丸と言いましょう」

 

「いや、大して変わらないわよ!!」

 

 やっぱりこの女は危険だ。

 熊谷は深雪から放たれる下ネタに耐えつつもツッコミをいれる。頑張れ熊谷、負けるな熊谷。

 

「なにを言っているのですか!性器とかゴールデンボールとかもっと下品な言い方がある中での正式名称ですよ!!」

 

「……おい、小南、俺が言うのもなんだが友達は選べよ」

 

「まぁ、酷いですね。では、なんて言えばいいんですか!!」

 

 日中どころか新年早々に下ネタを吐きまくる深雪。

 クリスマスはなにも出来なかった事のストレスをここで発散するかの様にあれやこれや言っており周りをドン引きさせる。しかし彼女は反省しない。変態だから。

 

「何て言えばいいかって言われれば、やっぱり金玉しかないな。お年玉って金だし」

 

「そうですか……お年玉が金玉だとすれば金玉から捻出する、つまりお年玉は」

 

「な、なにを言おうとしてるの!?ですか」

 

 公衆の面前で恥ずかしげもなくとんでもない事を言おうとしている深雪の口を小南は防ぐ。

 なにを言おうとしているのか気付いてしまった茜と熊谷は顔を真っ赤にさせており、太刀川も流石に恥ずかしさを感じている。

 

「なにを言っているのですか!娼婦は古来より続く伝統的な商売です!!神話や叙事詩にも娼婦は登場するのですよ!!」

 

「そういう問題じゃないでしょうが!!」

 

「……ふ」

 

「え、あ……そういう問題ではありませんわ!!」

 

 ボロを出す小南を見て、いいものが見れたと笑みを浮かび上げる深雪。

 やべっと口調を戻して言い直すのだが既に遅く、深雪はニヤニヤと汚い笑みを浮かび上げる。やはり小南パイセンは煽って騙されたりしている時こそ真に輝くものだと改めて感じる(変態)

 まぁ、それはそれとして金玉の話は一旦置いておく。置いておいてはいけないぐらいに下ネタを吐いていたが、それはそれだと片付けておかないとこの女の相手はやっていられない。

 

「じゃあ、私達はここで帰るわ」

 

 お参りとくじ引きといった一通りの事をこなしたので那須の元に向かう熊谷と茜。

 彼女達とは奇妙な縁を結んでいるなとなんとなく感じつつも、深雪は先を見据える。

 

「太刀川さん、お雑煮でも食べませんか?」

 

「ん?置いているところあるのか?」

 

 ウニョーンと餅を食べている太刀川さん。

 彼の好物は餅であり、お雑煮にも餅が入っているのなら喜んで食べるのだが置いているところを知らない。彼も何だかんだで少し前に来たところだから。

 

「私の忠実なる下僕が餅を打って雑煮にしているんですよ」

 

「お、突き立ての餅かいいな」

 

「小南さんも空閑くんもご一緒にどうですか?私、出しますよ」

 

「え、まぁ、奢るって言うなら」

 

「……」

 

 お参りを終えた小南達は最前列から場所を移動する。

 そんな中で遊真は無言でジッと深雪の事を見つめているので小南パイセンは注意勧告をする。

 

「気を付けなさい、深雪は見た目は綺麗だけどなんか怖いわ」

 

「それはなんとなく分かる……ただ、おれ、あの人に自己紹介してないんだ」

 

 教えたわけでもないのに、名前を呼んだことに疑問をもつ。

 何時もならばなんで知ってるんだよと堂々と聞くところだが、深雪が持つ独特の雰囲気からかそのまま聞いてもはぐらかされる気がしており上手く聞ける気がしない。

 敵か味方かどうなのかと警戒しつつ雑煮が売られている場所にまで向かうとそこには修がいた。

 

「い、いらっしゃいませって空閑に小南先輩」

 

「オサム、なにやってんだ?」

 

「バイト……お金で困ってるなら相談に乗るわよ」

 

 物欲がどちらかと言えば薄い修。

 こんなところで働いているのは並々ならぬ事情があるものだと察した二人は心配をする。新年早々に会って祝われるのでなく心配されるのは修らしいと言えば修らしい。

 

「貴方が三雲修くんですか。何時もうちのバカがお世話になっております!」

 

 修とは初対面なので一先ずは挨拶をする。

 

「ええっと、誰のお姉さんですか?」

 

「いえいえ、誰かの姉ではありませんよ。貴方のクラスメートのコシマエが色々と世話を」

 

「コシマエ……越前じゃなくてですか?」

 

「ええ、コシマエです……今は内緒にしてくださいね」

 

 越前の本名は越前龍我だが、近界ではコシマエと呼ばせている。

 その事を知っている修はもしかしてとなり、深雪は人差し指を立ててウィンクをして黙って貰うように頼み込む。

 

「修、なんでこんなところで働いているの?」

 

「町内会の手伝いです。僕の家、三門市と蓮乃辺市の境界線上にあって色々とややこしくて町内会でもどっちはなのか色々とあって……越前と一緒に雑煮を売ってます」

 

「ったく、体力があり余ってるとはいえ受験シーズン真っ只中な学生をいれるか普通」

 

「あ、来ました」

 

 ぶつくさ言いながらも雑煮の主役でもある出汁が入った大鍋を持ってくるコシマエ。

 大鍋の蓋を開くと仄かに香る魚の出汁に食欲はそそわれていき、皆がついつい視線を向ける。

 

「ぶつくさ言っている割にはちゃんと仕事をこなしているじゃありませんか」

 

「ん~まぁ、そりゃあ新年なんだから祝わわねえと……」

 

「深雪さん、深雪さん」

 

「どうかしましたか?」

 

「どうかしましたかじゃありませんよ、こんなカッコいい殿方とお知り合いだったんですね」

 

 小南は思った。

 さっきから深雪に踊らされてばかりで、これでは太刀川以上にアホの子であり直近の弟子や後輩達に舐められる。それは非常にまずいと反逆の狼煙を上げる準備をする。

 女子校に通っている以上は浮いた話など無い。ボーダーに通ってても浮いた話なども無いのだが、とにかく男日照りな現状。そんな中で太刀川よりも背が高く顔も良い男が居るのならば煽りたくなるのは仕返ししたい子供の気持ち。

 

「……これ、カッコいいですか?」

 

 少しだけ間を開けて首を傾げる。

 コシマエとはカッコいい男なのだろうかという疑問。顔的な意味で言えばこの男性陣でぶっちぎりのトップだが、カッコいいの定義による。中身が中々に残念なのを知っているので、はいそうですかと頷けない。

 

「ええ、カッコいいです……知り合いだなんて、いったい何処で」

 

「コシマエ、喜びなさい。小南さん基準で貴方の顔はイケると判断されました!」

 

「え、マジで?ウォッシャー……じゃねえだろう。なに子供みたいな事をしてんだよ」

 

「だって、明らかに向こうが挑発的なんですもの……ここは一杯、付き合いましょうよ」

 

「地獄への片道切符じゃねえか」

 

 今さらだか、この2人の関係性は同僚で上司と部下だが締める時以外はそういう感じの素振りを見せない緩い感じの組織である。カルデアの地球支部の支部長であるのが深雪で、有事の際に動き現場を指揮するたった1人の戦闘員がコシマエであり、そこにあるのは友情ぐらいだ

 

「では、なんの関係もないと?」

 

「そうです……もし私に男が出来るのならば骨の髄までしゃぶりつくしたいです」

 

「もうちょっと言葉を選べバカヤロー」

 

「お~い、俺のお雑煮がまだだぞ」

 

「あ、はい、ただいま」

 

 ああだこうだ言い合いながらも越前は仕事はきっちりこなす。

 紙の容器に雑煮の汁と具材を入れ、最後に主役である餅を一個いれる。

 

「これは僕からの日頃街を守ってくれているお礼です」

 

「お、サンキュー」

 

 本当ならば餅が1つのところをおまけして2つにする越前。

 餅が大好物の太刀川は嬉しそうな顔で雑煮と箸を受け取り、汁を啜る。味に満足したようでやっぱ新年はこれじゃなきゃ始まらないと身に染みる。

 

「む……おれには餅が一個だけか」

 

「いいや、遊真にももう一個。僕からのお年玉だよ」

 

 太刀川と同じく雑煮を貰う遊真だったが、餅が一つしかない事に不満を抱いた。

 越前はコレは僕からのサービスだと言わんばかりに餅をもう一つ追加をすると遊真は首を傾げる。

 

「お年玉って金玉の事じゃないのか?」

 

「空閑、こんな場所で堂々と言うんじゃない」

 

 さっきのやり取りを見ていたので不思議がる遊真だったが、修が口を封じる。

 新年早々に金玉とはなんと下品なんだろうと言い出した張本人である太刀川は美味そうな顔で雑煮の餅を頬張る。

 

「お年玉は金玉じゃなくて御歳神という神様へのお供え物が由来だ」

 

「お供え物……じゃあ、お年玉ってなんなんだ?」

 

「餅だ」

 

 お年玉とは決してお金のことではない。

 鏡餅に都市神様という福を運んでくる神様が宿り、その神様の魂を分けていただくのが起源にあると真面目な話をする。

 

「つまり、お年玉は鏡餅か……出水達にお年玉強請られたら餅をやればいいんだな」

 

 余計な事を言ってしまっただろうか。

 太刀川はいいことを聞いたと笑みを浮かびあげる。

 

「というか、深雪、お前知ってる筈だろう」

 

 地味に長い説明を終えると呆れる越前。

 なにせお年玉がなんなのかを深雪が説明しておらず、遊真が堂々と金玉という辺り面白そうだから言っていない辺り本当に性格が悪い。

 

「はて、なんのことでしょう?」

 

 あくまでも知らぬ存ぜぬを貫く深雪。

 コイツは本当に最悪な性格をしているとこれ以上はなにを言っても通じないと分かったのでそれ以上はなにも言うまい。

 

「小南さん、金玉のお味は如何ですか?」

 

「んぐぅ!?」

 

 でも、やっぱりこいつを討伐しておいた方がいいんじゃないかな〜。

 餅を食べている小南に堂々と下ネタを吐いている深雪を見て、深雪が本気で嫌がる事でも教えてやろうか考える。




運命/世界の引き金こそこそ裏話 

深雪が本気で嫌がる事の1つは、雪女と呼ばれること。

しかし、小南パイセンのリアクションが面白いのでその事は教えない。
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