運命/世界の引き金   作:アルピ交通事務局

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属性と相性ゲーム

「やばい、面倒な事になった」

 

 急いで修達の救援に向かう遊真と迅。

 修達とはまた別のところ……具体的に言えば、ボーダーの本部で色々と厄介な事が起きる未来が見えた。

 

『侵入警報!侵入警報!』

 

 ボーダー本部に警報が鳴り響く。

 ただの警報でなく、ボーダーの本部に侵入してきた警報であり管制室にいる沢村は何者かを確認する。

 

「基地内部、未識別のトリオン反応。通気口から侵入されたようです」

 

「通気口、例の小型トリオン兵か!」

 

 さっきからあちこちに出てくるトリオン兵の原因を予想する鬼怒田開発室長。

 戦える人が皆無なこの状況でトリオン兵を出現させる小型トリオン兵は危険だと焦るが、直ぐに沢村は訂正する。

 

「いえ、これは……人型です、人型近界民が侵入してきました!」

 

「なっ、黒トリガー!?」

 

 侵入してきたのはラッドにあらず。

 A級3位の風間隊の隊長である風間を倒した黒トリガー使い事、エネドラが侵入を果たした。

 

「さぁ、出てこい猿ども。遊んでやるよ」

 

 あくどい笑みを浮かびあげるエネドラ。

 自らの身体を刃へと変えて基地の通信室の壁を破壊する。

 

「おーおー、ウヨウヨと居るじゃねえか。能無しのネズミ共が」

 

 通信室にいるのは戦うことが出来ない人達。

 通信室の壁を破壊すると同時に何名か負傷者が発生したのでエネドラは雑魚がと見下し、嘲笑う。

 

『エネドラ、基地への侵入は命令していない』

 

 暴れるエネドラだったが、ハイレインから通信が入る。

 エネドラはある程度はボーダーとやり合う事は指示されたものの、ボーダーの本部を狙えといった命令は一切しておらず、これはある種の命令違反だ。

 

『我々の目的は雛鳥の捕獲、余計な事はするな』

 

「テメーのやり方はまどろっこしいんだよ。先に巣を潰しゃ雑魚兵も捕獲し放題だ。理にかなってるだろ」

 

 命令通りに動こうとせず、一つの論を興じるエネドラ。

 ハイレインはこれ以上はなにも言ってこず、自分を強制帰還させようとするミラも現れない。暴れ放題だと嗜虐心を剥き出すエネドラは先に進もうとする。

 

「全く、ゴキブリはこれだから嫌なんですよ」

 

「あ?」

 

 その時だった。

 何処からともなくフードを被った女性が現れる。

 

「テメエ、今なんつった?」

 

 さっき言ったことをもう一度聞くエネドラ。頭には青筋を浮かべており、既にキレている。

 

「ゴキブリと言っているのです」

 

 殺す。

 殺意を滾らせたエネドラはフードを被った女性を殺しに掛かるが、その前にエネドラの足元に魔法陣が出現する。

 

「知っていますか?最近、ゴキブリを凍らせるスプレーが出たのですよ」

 

 ここでエネドラの黒トリガー、泥の王(ボルボロス)について簡単な説明をしよう。

 エネドラの持つ黒トリガー、泥の王は体を液体や気体に形状変化させるワンピースで言う自然系(ロギア)な能力だ。

 脳伝達神経とも言うべき核は変化させることは出来ないものの、核さえ狙われなければ銃や剣、拳による攻撃を全て受け流す事が出来るチートっぷり。形状変化で体を気体にして体内に潜入して内部から破壊といった事も可能で倒すのは難しい。

 

「相性ゲーすぎますね」

 

 しかし、何事にも例外がある。一見無敵に思えるエネドラの弱点を、フードを被った女性は……魔術師(キャスター)の力を纏った深雪はつく。

 エネドラは体の形状を変化する事が出来る。それが唯一無二の売りであり、無敵に近い力の秘密だが、その弱点をつく。具体的に言えば液体に体を変化させたエネドラを氷漬けにした。

 普通ならばそんな事は出来ないだろうが、今の深雪は魔術師。トリオンを用いた特殊な術を使うことが可能でカチンコチンに凍らせることに成功する。

 

「どれだけ持ちますか?死にたくなければ頑張ってくださいね」

 

 普通、凍らされたら死ぬ。しかし今は普通ではなくトリオン体、呼吸を止めて数分間海に潜ることが出来るチートボディであり氷漬けにされても意識は残っている。

 エネドラは意識が残っているので氷漬けにされたことを直ぐに理解し、氷が溶けて出来た液体に自分の核を移動させて体の再構成を狙うが、そんなミスを深雪がするわけもなく、氷は一向に溶ける気配を見せない。

 

「ぬぅお、なんだコイツぁ!?」

 

 エネドラがこのままくたばるか足掻くかを興奮しながら待っていると驚いた声を出してやって来たのは諏訪隊。

 ラービットに真っ先に捕まった正隊員こと諏訪は驚いた声を上げる。誰だってこんなものを見れば声を上げたくはなる。

 

「ああ、ややこしそうになるので片付けておきましたよ」

 

「君は……誰だ?」

 

「堤、日佐人、油断すんな」

 

 深雪を見て銃を構える諏訪。

 残念な事に、サーヴァントの事が上から伝わっておらず深雪のことを敵の一人だと勘違いをしている。

 

「待ってください……上にサーヴァントと報告してください。私は暫しの間は味方ですよ」

 

 しかし、動じない深雪。諏訪の見た目はどこからどう見てもヤンキーだが実のところは理知的なところがあるのは知っているので、交戦する意思は無いのだと両手を上げると諏訪は深雪の話に耳を傾ける。

 

「こちら諏訪、サーヴァントと名乗る人型を発見。味方だって言ってるけど、どうなんすか?」

 

『サーヴァント!……ああ、彼は味方だ』

 

「彼?声からして女性ですが』

 

「もしもーし、私をセイバーさんと間違えていますよ」

 

 ファサッとフードを外す深雪。

 こんなんでも顔だけは超一流であり、それをたまたま見ていた日佐人は思わず見とれてしまう。

 

「『私はキャスター、一言で言えば魔法使いです』」

 

 魔術を用いて深雪はボーダーの上層部に連絡を取る。

 既に深雪の声を聞いているボーダーの上層部は彼女だったのかと驚く。

 

『何故ここに……いや、今はそれよりも侵入してきた人型だ。どうなっている?』

 

 どうしてこの場に居るのか疑問はあるものの、今は気にしている場合じゃないとする忍田本部長。

 諏訪隊を経由して、今現在襲ってきた人型近界民ことエネドラは現在カチンコチンに凍らされている事が上に報告される。

 

「うし、このままぶっ飛ばすか」

 

 カチンコチンに氷漬けにされているエネドラにさらなる追い討ちをかけようとする諏訪。

 身動きが取れていない状態ではあるもののまだ完全に倒してはいないので、倒しておかなければならないという判断だ。

 

「待ってください、これはこのままでいいんです」

 

「なに言ってるんだ、まだ完全に倒したわけじゃねえだろ」

 

「相手は黒トリガーなんだから叩ける内に叩いておかないと」

 

 制止する深雪に最もらしい意見をぶつける諏訪と堤。

 こうでもしておかないと後が大変なのは最もな意見なのだが、深雪は汚い笑みを浮かべる。

 

「でしたら、このままでいいんです」

 

「このままって、確かに凍ってたらなにも出来ないけどよ」

 

「氷漬けにされているこの人、後何分持つと思いますか?私の見立てでは、あと数分も持たないとみます」

 

「お前、何をする気だ!?」

 

 明らかに何かを狙っている深雪。

 ロクでもない事を企んでいると勘付いた諏訪は深雪に問い詰める。

 

「なにもしませんよ。ただ軽く酸欠で苦しんでいただこうと思っているだけです。このままだと酸素をまともに吸うことは出来ませんから如何に強力なトリガーを持っていても無意味、無駄……生身の肉体に影響が出て嫌でもトリガーを解除して、氷から脱出しようとします。狙うならそこですよ」

 

 どれだけ優れたトリガー使いだろうがトリガーを使う前ならば雑魚も同然。

 トリガーをオフにしている僅かな隙を狙えば簡単に倒せると笑みを浮かびあげている深雪に3人は軽く引く。

 

「さぁ、どうしますか!此処から抜け出るには、トリガーを解除するしかありません。しかし四方八方敵だらけで、ここは敵の砦。貴方の持つ黒トリガーが素晴らしい性能で貴方が凄まじい猛者だとして、この状況を生身で切り抜けることができようでしょうか?見せてください!神の国の力を!」

 

「そこまでにしておけよ」

 

 物凄くエネドラを煽りまくる深雪に諏訪はツッコミを入れる。

 本来ならばそれをやるのはコシマエだったりするのだが、流石は年長者。大人なところを見せてくれる。

 

『諏訪隊、人型を仕留める事が出来るか?』

 

 流石に倒せる相手を倒さないのは上も認められない。さっさと倒せと命令をくだすのだが、その命令を深雪は勿論の如く盗聴している。

 

「移動する核を砕かない限りは何処を攻撃しても一緒ですよ」

 

 アクションゲームのボスの如くエネドラを倒すには弱点をつかなければならない。

 カチンコチンに凍らされているエネドラの核が何処にあるかは撃ってみないと分からないものです、ここでエネドラを粉々にするのはあまり得策じゃないと進言する深雪。

 

「ここは是非とも酸欠で苦しんでもらって、と言いたいんですが流石に今回は組織の顔を立てないといけないので私が倒しておきますね」

 

「いや、さっき核を砕かなきゃって、ええ!?」

 

 巨大な魔法陣を何処からか出現させる深雪に驚く堤。

 動いている巨大な魔法陣からトリオンの砲撃が撃たれ、凍らされているエネドラ全てを飲み込んだ。

 

「皆さん、驚いている場合じゃありませんよ!生身の肉体に戻ったのならば殺すか捕縛するかのどっちかしないと」

 

「どっちって、どっちにします諏訪さん」

 

「そりゃ捕縛だろ」

 

 殺すとか論外。ボーダーは界境防衛機関で軍隊ではない。

 何時でもエネドラを捕縛出来る体制に入り、砲撃が止むと氷は塵すら残さず跡形もなく消え去っており、ポツンと生身の肉体に戻ったエネドラが現れ、そこに立っていた。

 

「オレは足をやる。堤と日佐人は上をやれ」

 

「了解です。日佐人、左半身は俺が抑えておく」

 

「はい!右ですね」

 

 どんな黒トリガー使いも生身の肉体に戻りさえすればトリオン体になっている奴には勝てない。

 仲睦まじい連携を速攻で見せる諏訪隊はエネドラにタックルをかましてそれ以上は何もさせないと動きを抑える。

 

「離しやがれ、玄界のクソザルがぁ!」

 

 必死になって暴れようとするエネドラ。

 しかし生身の肉体をトリオン体で抑えられているので抜け出る事は出来ない。

 

「さて……これは貰いますね」

 

「っ、テメエ汚い手で触れるんじゃねえ!!」

 

 ああ、怖い怖い。左手に装備されたなんとも気色の悪い見た目をしている指輪だか腕輪だかわからない装飾品を取り上げる。

 この見た目がなんとも言えない目玉みたいなのがついている気色の悪い装飾品。コレこそが待機状態の黒トリガー、泥の王(ボルボロス)。原作ではその得意性を見抜くために無限コンテニューが出来る仮想訓練室に閉じ込めて忍田本部長が出てきてその上で不意打ちというリンチをしてやっと倒せるエネドラの力の源とも言うべき泥の王の本体を取り上げた。

 

「負け犬は負け犬らしく現実を受け入れてくださいよ」

 

「て……てめえ」

 

 震えるエネドラを見て深雪はクスクスと笑う。

 自分が威張れる1番の要因を取り上げたのだから、そりゃまぁ楽しいだろう。

 

「自己紹介がまだでしたね。私はかつて近界を荒らしに荒らした世界界賊の紅一点、キャスター。此度はアルゴノーツの一人、コルキスの王女メディアの力を貸りて戦っております」

 

「サーヴァント、だと……なんでこんなところにサーヴァントがいやがる!」

 

 流石のエネドラもサーヴァントの名には驚く。彼等は近界の小国を乗っ取ってひっそりとしており、喧嘩を売らない限りは襲ってこない話だ。

 

「地元だからです」

 

 なんでここにいるかと言われれば、それはシンプルにここが地元だからとしか言えない。

 もっとなにか凄い理由があると思っていたエネドラは思わず固まるので深雪はそのまま続ける。

 

「私達はこちらの世界の住人で、私はこちらの世界とカルデアの間であれこれ担当している支部長的な存在……残念ですねぇ、折角の狩り場が最大級の地雷原だったのは。今どんな気持ちですか?」

 

 悔しいでしょうねと最大限に煽る深雪。

 エネドラの怒りは頂点に達するも諏訪達に取り押さえられているので身動き一つ取れない。

 

「お前、なんかスゲエ偉いのか?」

 

 詳しい事情は知らないものの、話の内容から深雪が偉い事を気付く諏訪。

 実際のところ深雪はかなり偉い地位にあり、最前線で現在修達を追い掛けているコシマエの直属の上司に当たる。地球でのあれやこれやの権限を持っているだけでなくとんでもないものを制御下に置いているのだが、その話はまた今度である。

 

「まぁ、関取の小結ほどお給料は貰っています……っと、それから離れてください」

 

 邪悪な笑みを消して真面目な顔に戻る深雪。

 突然の変化に何事かとなるが直ぐにその理由に気付く……諏訪達の直ぐ近くから門の様な物が開き、そこから黒い角がはえた女性、ミラが現れる。

 

「っ、ミラ!さっさと此処から助けやがれ!」

 

 今の状況から抜け出せると叫ぶエネドラ。

 新しい敵が現れた事により諏訪隊はエネドラを抑えつつも、何時でもその場から離れられる様に警戒心を高める。

 

「ええ、回収……!」

 

 エネドラの手元の異変にミラは気づく。

 本来ならば手には黒トリガーの泥の王が装備されているのに付いていない。それだけを回収しに来たのに無いとはどういうことかと驚く。

 

「探し物はこちらですか?」

 

 何故泥の王を持ってないのか考えるミラに起動前の泥の王を見せつける深雪。

 

「それを返しなさい!」

 

「そう言われて返す奴が今まで居ましたか?」

 

 こんな事をしでかして、返すわけがなかろう。

 返す素振りすら見せぬ深雪に対して、ミラは深雪の直ぐ近くに小窓と呼ばれる黒い刺の様な物を出現させるのだが、当然の如く深雪は自分の周りに障壁を出現させて攻撃を防ぐ。

 

「っ!?」

 

 ほぼ回避不可能で初見殺しにも程がある小窓を初見で防いだ事にミラは驚く。

 そしてすぐに理解する。彼女もまたサーヴァントと呼ばれる化物集団の1人であり、真正面から戦ってはいけないものだと。

 

「あ、そーれ」

 

 相手が攻めて来ないと分かると深雪は起動前の泥の王を空中に投げ、トリオン砲を放つ。

 如何に凄まじい黒いトリガーも起動前の状態であれば見た目が気色の悪い装飾品。物凄く簡単に壊れた。

 

「なんてことを……」

 

「黒トリガーを破壊する時の感触はいいものですね」

 

「!」

 

 2年前に起きたサーヴァント殲滅作戦でアフトクラトルは黒トリガーを一個失った。

 破壊したのはなにを隠そう、この女、深雪であり当時アフトクラトル以外にも導入してきた黒トリガーをとことん破壊したヤバい女であり、今も黒トリガーを破壊したという事実の快感に浸っている。

 

「どうします?黒トリガーの仇討ちでもしますか?今の私、結構強いですから負ける気がしませんよ」

 

 黒トリガーを壊した事によりアフトクラトル側が動揺をしている。

 その事に気付いている深雪は興奮しながらとことん煽り、挑発をするのだが流石に見え見えなので乗ってこない。

 

「ミラ、さっさと」

 

「ええ……分かってるわ」

 

「っが!?」

 

 黒トリガーが破壊された以上は騒いでいても、どうにもならない。

 目の色が文字通り変化していったエネドラは船への帰還をミラに頼むが、ミラは小窓を作り上げてエネドラに突き刺した。

 

「味方を攻撃しただぁ!?」

 

 突然の仲間割れに驚く諏訪。

 ドバドバと胸から血が出ているエネドラは倒れながらもミラを睨みつけ、恨み言を吐く。

 

「てめえ……」

 

「悪いわね……エネドラ、貴方はもう用済みなのよ。気づいているかしら?貴方の角が脳を侵食していってるのを」

 

 エネドラの目玉の白目のところは現在、黒く染まっている。

 これは何かと言われればトリガー角と呼ばれる角が脳に悪い意味で影響を与えており、元から凶暴な性格のエネドラを命令無視するぐらいに更に凶暴にした。こうなれば殺すしか道はなく、元々エネドラを処分するつもりだったので殺しに掛かる。

 

「……ハイ、レイ、ン……」

 

 エネドラはこの時になって自分は最初から嵌められた事に気付く。

 黒トリガー、泥の王を回収する為に捨て石とされた。今回の計画、全てを握っているハイレインの恨みを呟きながら倒れていき、ミラは1人船へと帰っていく。

 

「あ〜、心臓を抉られてますね」

 

「んな事が分かるのかって、なにやってんだよ!?」

 

 手を翳してエネドラの様子を確認する素振りを見せると遺体に触れて死体漁りをはじめる深雪。

 あまりにも不謹慎な行為に諏訪は声を荒げるが深雪は気にすることなくエネドラの体を弄り、小さな装置を発見する。

 

「はい、どうぞ」

 

「どうぞって……んだ?」

 

「先程の黒トリガー使いの発信機みたいなものです」

 

「んなもんが……って、これを持ってたら危ねえだろう」

 

 門を開くことが出来る黒トリガーを持つ女がやってくると慌て発信機を落としかける諏訪。

 深雪は地面に落ちそうな発信機をすかさずキャッチして諏訪の手元に戻す。

 

「もう、ダメですよ。敵の重要なトリガーなんですから壊したりしたら大変ですよ」

 

 これもまた相手の国の重要な物。壊すなんてもったいない。

 深雪は完全に事が終えたのを確認すると上層部へと通話をする。

 

『ボーダーの上層部の皆様、黒トリガー使いを撃退しておきましたね』

 

『……いったいなにが目的だ?』

 

『おやおや、折角助けてあげたというのに、その言い草ですか』

 

 ボーダーの上層部は、城戸司令は深雪を警戒する。

 いきなり現れたかと思えば黒トリガーを1人で撃退した者がいるならば一時的な味方とはいえ警戒するのは当然のこと。しかし礼の一言も無いのかと深雪は呆れてしまうがそれ以上はなにも言わない。彼女もこの女、ボーダーの本部が襲撃されることが知っており、その気になれば最初から襲撃を防げたのだが、敢えて防がなかった中々のクズであるから。

 

『今の今までレーダーに写っていなかった、何処に潜んでいた?』

 

「『……ああ、屋上でスタンバってました』」

 

 礼を言う素振りを見せない城戸司令に少しだけイラッと来たのでお返しと言わんばかりに、声を出して答える。 

 念話的な感じで通話をすることが出来るのだが諏訪達に教えたら面白い事になるなという完全なる遊び心でやっている。

 

『屋上、だと』

 

「『ええ、最初からそこにいました』」

 

 意外な場所に潜んでいた事に驚く。

 この女、大規模侵攻が起きてすぐにボーダーの屋上でくつろいでおり、水晶玉を使って街の様子を一望していたのだ。

 

『……お前達の目的はなんだ?』

 

「『目的だなんて酷いですね。私達はただ面白おかしく過ごしたいだけですよ……今はそういう話はやめませんか?』」

 

 口約束だけとはいえ、一時的な同盟を結んでいる間柄。

 腹の読み合いをしている暇があるならば、少しでも被害を抑えるのが大事だ。

 

「『既に死人が出てるんですよ』」

 

 なにせ既にボーダー側に死者が出ているのだから。

 これを狙っていたかどうかは秘密だが、既に生身の人間が大怪我や死ぬという自体が発生しており、味方になってくれる団体を疑っている場合じゃない。少なくともサーヴァントは喧嘩を売らない限りは襲ってこない。そういう存在である。

 

「『トリガーを使うボーダーとは全く違う団体を相手に腹の探り合いもいいですけど、街の平和を守らないと今まで築き上げた物が無駄になりますよ』」

 

 深雪は躊躇いなく揺さぶりにいく。

 本部の危機は去ったものの、街の危機は去っていない。今こうしている間もトリオン兵は街で暴れておりC級を捕らえたりしている。

 

「『腹の探り合いがしたいのならこの様な場では無いところでしましょう』」

 

 口論をしている場合ではない。今すべきことは口を動かすことでなく手を動かすこと。

 何事も大事な場所や場合があり、今はその時ではないと語ると深雪は再びフードを被った。

 

「『それではボーダーの皆さん、隠れている人も通信の向こう側に居る人達も残念ながらここでお別れです』」

 

『待て、まだ話は終わっとらんだろう!』

 

「『詳しい話は後程、越前もといセイバーが通達いたしますのでご心配には及びません……またお会いしましょう』」

 

 深雪は魔法陣を出現させると消え去っていった。

 

「あの野郎、わざとオレ達に聞こえるように会話しやがったな」

 

 途中から声を出して会話をしていた深雪。

 明らかに自分達にトップが秘匿しておかなければならない情報をわざと聞かせていると察する。

 

「お前等の事もバレてたし……本部長、これどういうことですか!?」

 

 声に出てた事だけでも恐ろしいぐらいの情報があり、処理しきれない諏訪。

 一先ずはトップで話し合いの通じる忍田本部長に一先ずの連絡を取ってみる。

 

『すまない。こちらの方でも少し理解できていない部分が多い。秘匿しておかなければならないことだが……少なくとも今は味方だと思っていてくれ』

 

「いや、味方も何も完全に消えたっすよ……これから、どうすればいいですか?」

 

 深雪は完全に去ったものの、やらなければならないことは沢山ある。

 一先ずはエネドラの遺体を安全なところに持っていくのをカメレオンという透明化のトリガーを用いて姿を消していた風間隊の歌川と菊地原と共に命じられ、本部を襲撃された事もあってか本部内を襲撃してきた近界民を相手にという名目での待機が命じられる。




運命/世界の引き金こそこそ裏話

過去にアフトクラトルの黒トリガーを破壊したのは深雪で、その時は逢魔時王必殺撃で破壊した。

感想お待ちしております。

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