「越前、相談があるんだ」
近界民を駆除し終えたけふこの頃。修が真剣な顔で僕に話しかけてきた。
「僕に相談とは珍しい……遊真の成績の悪さに対してはノーコメントといかせてもらうよ」
物理的に倒壊した学校の校舎はあっという間に修復され、普通に授業が行われている。
その間に露見していく遊真の頭の悪さ。地頭は決して悪くはないのだが如何せん中学の問題は難しすぎて、レプリカに頼ろうとした前科がある。
「いや、その事じゃない」
流石の修も遊真の成績を気にしているが、その事について聞いてきていない。
じゃあ、なんだろうと一先ずは耳を傾ける。
「会ってほしい人がいるんだ」
「ほう、会ってほしい人ね……ボーダー関係者かい?」
誰なのかは何となくの予想はつくけれども、一応は聞いておかないと怪しまれるので聞いておく。
「いや、ボーダーじゃない……その、空閑にも相談しようと思っている」
「成る程、近界民関係なのか……うん、僕には話さなくていいよ」
「え?」
「ちょっと勘違いをしてもらったら困るから先に言っておくけど君と僕は友達ぐらいの関係で決して仲間や味方じゃない……僕にも一応は立場はあるから出来ないことは多々ある。なによりあまり力を貸しすぎると君が本当の意味で成長出来なくなる」
三雲修と言う人間は秩序・善なとてもとても善性な人間だ。
しかし残念な事に善性であるだけでそれに伴う実力を持っていない。言い方を変えれば口先だけの人間とも言える。
本人もその事を自覚しており、何とかしようとしているが世の中はそう上手くはいかない……そう、本当に上手くいかない。
ワールドトリガーは転生者が介入しまくれば原作主人公があんまり育たない恐れがあるなんともシビアな世界。僕的には力を貸してあげたいけれど、それだと本当の意味で彼が成長せずいざと言う時に死んでしまう。
「僕の事じゃないんだ、その」
「そう焦るな、多分だけどその悩みは僕じゃなくて遊真の方が答えをあっさりと教えてくれる」
彼の相談の内容は幼馴染み(この漫画のヒロインって誰なんだろう)の千佳ちゃんの事だろう。
トリオン関係の事を遊真はあっさりと喋ってくれるので僕の存在は基本的に邪魔だろう……何よりも僕の存在がボーダーに見つかるのはまずい。
「そう、なのか?」
「向こうの関係なら遊真の方が色々と詳しいよ、なにせ僕は1番のしたっぱで1番若いから知らないこととか多々ある」
僕って基本的な事はそつなくこなせるけど、それ以外の事は苦手だ。
トリガー工学とか深雪は出来るけど、僕は全く出来ない……まぁ、その分僕の方が強いけどね。
「そうか……無理を言って」
「いやいや、こっちこそ力になれなくてすまない……とまぁ、言うもののこのままなにもしないと言うのも如何なものか。君に一言、アドバイスを送ろう」
「アドバイス?」
「今回の事を深く考えてもらった方がいい」
「……?」
千佳ちゃんの事は修一人でどうにかなる問題じゃない。
この理不尽で素晴らしい世界のシステムをどうにかしない限りは根本的な解決にはならないけど、やれることはやっておいた方がいい。僕の言っていることがイマイチ理解できていないが、それを理解するのは未来の話……うん。
「やぁ」
「お、コシマエ」
時刻は更に進んでと言うほどではないが、翌日の休みの日。
修は千佳ちゃんと遊真を会わせようとした結果、三輪隊に色々とバレてしまい結果的に修は実力派エリートを名乗るセクハラ魔と共に本部に向かっている頃。
「全く、修はバカなのかな……三門市の外に出ておけばいいのに」
三輪隊につけられている云々を除いても修は意外とガバッている。
千佳ちゃんの事を遊真に紹介したいのならば警戒区域付近で待ち合わせなんてするもんじゃないよ。三門市の外にさえ出ればボーダーも下手に動くことは出来ない。
「いや、三門市の外で待ち合わせとかおれが無理だ」
「そこはほら、修の家で待ち合わせとかあるでしょう。確か隣の蓮乃辺市との境界線上にあった筈だよ」
一回も行ったことは無いから詳しいことは知らないけど、公式設定でそんな感じだった筈だ。
もうちょっと危機感と言うのを持っていてほしい……意外とその辺りの感覚がおかしいんだよね、彼。
「貴方は、確か修くんの……」
「はじめまして、僕は……そうだね、う~ん」
僕の顔を見て、この前の木虎のリンチ(笑)を思い出す千佳ちゃん。
彼女とはこれが初対面なので自己紹介をしようとするのだが、悩んでしまう。僕って転生者の中で1番のしたっぱだけど、一応はそれなりの権力は持っており給料もそこそこ貰っている。一般人(屑)と名乗るわけにはいかない。
「カルデア……と言うのは得策じゃないな。かといってグランドくそ野郎は深雪の方がお似合いだしね」
「?」
「僕の名前は越前龍我、この業界ではコシマエで通っているので気軽にコシマエと呼んでくれ」
「雨取千佳です……えっと……コシマエさんも修くんに呼ばれたんですか?」
ゆっくりと事態を飲み込み、質問をしてくる千佳ちゃん。遊真と顔を会わせた様に僕とも顔を会わせようとしていたのかと考える。
「一応は誘われたよ……まぁ、断ったけど」
ここでつまらない嘘をついても意味はないので正直に答える。すると遊真は首を傾げる。
「なんで断ったのに来るんだ?」
誘いを断ったのにノコノコと姿を現した僕に疑問を抱く。
遊真の疑問は最もだ。昨日、あんな事を言ったのに翌日には何事もなく出て来て恥ずかしくないんですかと聞かれると恥ずかしい。
「いや、色々と事が動いたと思ってね……バレただろ」
「バレました……まさかつけられてるとは思っていなかった」
意味深な事と遊真を納得させれそうな事を適当に言いはぐらかす。
僕的にはグイグイ関わってもいいんだけど、面倒な事に今回は実力派エリートや三輪隊と言ったボーダーの面々が出て来て遊真の事であれやこれや言ってくる。
三雲修が迅悠一と一緒にボーダー本部に向かっている僅かな時間しか僕は姿を見せることは出来ない。実力派エリートを相手に出来ないことは無いけども、相手をするのは一苦労……お互いにね。
「怒ってる?」
「まさか、君はボーダーに用があってこっちの世界に来たんだ。遅かれ早かれ知られる運命にあった……僕にとって重要な事は僕達の事を黙っているかいないかだ」
僕達の立ち位置はボーダー以外にもトリガーを使っている一団だ。
既に表立って色々とやっているボーダーに存在がバレるとなにをしてくるのか分からない。話し合いが通じる相手だが、話し合い以外も使ってくる相手でもある以上は用心する事に越したことはない。
「大丈夫だ、オサムもおれもコシマエに関してはなにも言っていない」
「ならいい……千佳ちゃん、悪いんだけどここで僕と出会ったことは内緒にしてほしい。勿論、修にもだ」
「修くんにもですか?」
「彼が真剣な顔で相談があると言われて断った手前、やって来たって色々と恥ずかしいんだ」
事が動いたからやって来たけども、やっぱり最初に断ったことについて色々と思うところがある。
最初から顔を貸してくれたらいいのにと思われたりするのを想像するだけでお腹が痛くなる。暗躍系クラスメートはなにかと大変だ。
「黙ってくれるならば、この魔法のお守りを君にあげよう」
「こ、こんな物、もらえません!?」
七色の石が特徴的なアミュレットを取り出すと引いてしまう千佳ちゃん。
まだ貴金属には興味の無いお年頃……ピュアなのはいいね。こういう感じの子は本当に尊いよ。
「でもこれ
「え!?」
僕がただ単にこんな装飾品を持ってくるとでも思ったのかい。
深雪に頼んで作らせた近界民のトリオンレーダーに写らなくなる特殊なアミュレットを作って貰ったんだよ。
「なんか胡散臭いな、それトリガーなの?」
いきなりこんな物を出したので色々と疑惑の目を向けてくる遊真。
ならばとアミュレットを遊真に渡すと遊真のトリガー(指輪)からレプリカが出て来てアミュレットを調べる。
「なんでチカが近界民の事で困っているの知ってるんだ?」
「真剣な顔で修が自分の事じゃないと言っていてね……後は大体の想像がつくよ。修は真面目なメガネだけど、この業界に関する知識は少ないから」
ワールドトリガーの世界にはトリオンというものがある。
心臓の横にあるトリオン器官という見えない臓器がトリオンという生体エネルギーを生み出しており、雨取千佳はそのトリオンを物凄く有している。どれくらいかと聞かれれば測定するのが難しいぐらいだ。Fate風に言えばランクEXだ。
電気に変わるエネルギーであるトリオンを用いてトリガーは動いており、トリガーの文明が根付いている近界民の国々ではトリオンこそが絶対というところもある。
しかし、電気による文明が当たり前の地球では、ボーダーはその事を隠している。一部のスポンサーとかには開示してるとかなんか何処かで見た記憶はあるけれど、基本的にはボーダー関係者以外は知らない。
『解析が完了した……コレは微弱だがトリオンを消費することでレーダーから写らなくなる機能が備わっている』
色々とあれやこれやと言っている内にレプリカがアミュレットの解析を完了した。
制作者が深雪であまりいい気はしないものの真面目に作ってもらった物で、その効果は絶大でありレーダーには写らなくなる……バックワームと性能が一緒とか言ってはいけない。
「つまり?」
『コレを身に付けている限り、近界民がチカを狙いに来ることが無くなる』
「!!」
近界民関係でどうしようかと悩んでいたタイミングで出てきたね超絶便利なアミュレット。
僕達が動けば殆どの事態が一瞬にして解決するんだなと改めて自分達のチート具合に関心をする。いや、本当に転生特典に頼りまくりだけども、深雪スゲエなおい。
「何時の間にこんな物を作ったんだ?」
「作ったのは僕じゃないよ……それよりもどうする?コレがあれば近界民に狙われることがなくなるよ」
まぁ、正確には狙われなくなるじゃなくて近界民のトリオンを計測するレーダーに写らなくなるだけなんだけど。
それでも今、千佳ちゃんには必要な物でコレがあれば的な顔でアミュレットを見つめている。
「あの、これって物凄く高い物じゃ」
「大丈夫、大丈夫……二束三文な代物だ」
深雪がその気になればトリオンのシールドをオートで発生させたり、安全なところにワープさせる事の出来る物を作れた。製作時間が短くてこんなんになったが、こんなのだったら何百とも作れる……そう。
「まぁ、不必要なら受け取らなくてもいいよ……ただね、この話だけは聞いてほしい」
いきなり現れた人間によく分からない物を貰えるほど千佳ちゃんは大胆じゃない。
僕としても受け取って貰えなくてもいいと思っている節があり、本当の目的を果たそうとする。
「君がどうして近界民に狙われるか、それは全てトリオンのせいだ」
近界民がこちらの世界にやってくる主な目的は優れたトリオン能力を持った人間だ。
千佳ちゃんは優れたどころの騒ぎじゃないトリオンを持っており、誰が見ても狙われるだろうなと納得するトリオンを有している。
「けど、それは他にも言えることなんだ」
千佳ちゃんクラスは多分居ないだろう。
しかし、優れたトリオン能力を持った一般人は探せばそれなりにいる。なにせボーダーに入隊出来るのは優れたトリオン能力を持った一般人だ。僕達みたいな存在は異端だ。
「君がもし、新たなる一歩踏み出す勇気があるならばもう一歩踏み出してほしい」
「もう一歩……」
「そう、君以外にももしかすると気付いていないだけでとんでもないトリオンを有している人が居るかもしれない……残念な事に僕にはそれをどうこうすることは出来ない」
三門市在住の僕だが、ボーダーが表に姿を現してから今日に掛けてまでボーダーは街の人のトリオンを計測しようとしない。ボーダーに入りたいと志望する人のみトリオンの計測している。
別にそれが悪いとは言わないが、今回相手が門を開いてトリオン兵を送り込むだけでなく門を開く機能を備えたラッドを送り込んできていた。一応何体かコッソリと回収して解析に回したが、アレは優れたトリオン能力を持った人の近くに集う様にプログラミングされていた。三門第三中学でイレギュラー門が発生したのは多分、千佳ちゃんのトリオンが原因だと思う。
「けど、君ならば救いの手を差し伸べる事が出来るかもしれない」
僕はあくまでもボーダーとはまた別のトリガーを持っている一団の末席に居る者だ。こちらの世界を守るボーダー隊員じゃない。一応の心配はすることは出来ても、そこから先をすることは出来ない。そういうのは一応は正義の味方的な事になっているボーダーにやってもらわないと……僕達って本当にロクでなしだよ。
「救いの手……」
「君が始まりになればね」
千佳ちゃんがきっかけとなって街の人のトリオンを計測しようとの意見を出せばいい。
規格外のトリオンを有した子が居るかもしれないでなく実際に居たのとラッドの事を考慮すればしておいて損は無い……と言うよりはそれぐらいしておかないと何時か大変な目に遭う。
「おっと、そろそろまずいな」
もうすぐ修と迅悠一がこちらに向かってくる。
こんなところで鉢合わせをして知られるなんてうっかりミスをしてしまえば、上から結構ガチな説教をくらう。
もうとっととボーダーと同盟かなにか結べよと思うのだが、そう上手くいかないのが現実であり先行部隊の僕は精々、恩を売っておくぐらいしか出来ない。
「あの、ペンダントを忘れていますよ!!」
「それは今回の口止め料と依頼料だ。お守りとして持っておきたまえ」
「チカ、貰えるなら貰った方がいいぞ」
人の好意には時には甘えることが大事だ。
来た道を戻っていけば修達と遭遇するので全く別の方向から家に向かって歩いていく。
「行っちゃったね……」
「行ったな」
嵐の様に現れては去っていったコシマエの事を考える遊真と千佳。
さっきまでその場に居た痕跡は全くといって残っておらず、残ったのはお守りのアミュレットだけだった。
「……遊真くん、私のトリオンってそんなにすごいの?」
「スゴいぞ……おれの何倍もあるから、何処の国に拐われても物凄く大事に扱われる」
「そうなんだ……」
いきなりトリオンだなんだと言われて、ピンと来ない。
近界民である遊真の意見を聞いて真剣に考える。
「多分、チカと同じ人は居ないよ」
救いの手云々はイマイチだが、なにをしろと言っているかは分かっていた遊真は千佳の考えている事を読む。
自分がきっかけになればもしかすると自分と同じ苦しみを味わっている人を助けれるかもと思っている千佳に一言だけ忠言しておく。千佳は規格外で千佳レベルは早々にいない。
「でも、近界民はトリオンが目的なんだよね?」
「そうだけど、わざわざ危険な事をしなくても」
「千佳、空閑」
自らが危険な目に遭う必要はない。そう言おうとすると修が迅と一緒にやって来た。
「修くん、大丈夫だった!?」
修を見るや否や心配をする千佳。
危うく自分が近界民だと思われて武器を向けられかけたりしたのに他人を心配するとはと遊真は焦りながらも冷静に千佳の事を見る。
「レプリカ、コシマエの事を言った方がいいと思うか?」
コシマエの事を千佳は一切言おうとしない。
さっきまで起きていた出来事が無かったかの様に千佳は修が無事だったかを心配しており言わないでの約束は守っている。しかし千佳に色々と余計な事を吹き込んでいたのでその事を言うべきかとレプリカに相談をする。
『やめておいた方がいい、末席とは言え彼はサーヴァントの1人だ。無理に敵に回す様な事をする必要はない』
「そうか……そうだよな。コシマエもサーヴァントの1人なんだよな」
『それに彼は意地悪をしにこの場にやって来たのではない。チカの事を案じ、周りの事も考えた上でああ言った』
「……なるようになれか」
「……んん?」
千佳が言わないのならば、今起きた事は無かった事だと遊真は修の帰還を安心する方向に気持ちを切り替える。
その姿を見た実力派エリートの迅は少しだけ首を傾げている。
「……さっき見えていた未来とは別の未来が見えた……読み逃したか」
高校に入学した修達が身体測定の際にトリオン能力もチェックされているというなんとも不思議な未来、ほのぼので変わった未来が見えるようになった。
なんでこんな未来が見えるかと聞かれればコシマエの影響だが、あの男はサイドエフェクトが効かないサイドエフェクトを持っており、迅悠一の未来視のサイドエフェクトには一切引っ掛からないので単純に読み逃したと勘違いをしている。
運命/世界の引き金こそこそ裏話
コシマエはサイドエフェクト無効化サイドエフェクトの持ち主。
未来視、嘘を見抜く、強さの色を見るといった他人がいるタイプのサイドエフェクトは効かない。
強化聴覚や強化睡眠記憶、完全並列思考などの自己強化系のサイドエフェクトは無効化出来ない(感情受信は無効化できる)迅の天敵だったりする。