「遊真、メリークリスマス」
修にプレゼントを渡し終え、次に向かうはボーダーの玉狛支部。
屋上に1人ポツンと座っている遊真は空を眺めていた。
「コシマエ、メリークリスマス」
「ところで知ってるか?メリークリスマスと言うのはいいクリスマスをという意味なんだ」
だから、去り際に言うのが一番正しくて今言うのは間違いである。
自分で真っ先に言っておいてなんだけども、間違った知識が物凄く広まっているよ。
「そうなのか?」
「そうだよ。因みに今からクリスマスパーティかい?」
時刻は間もなく夜になろうとしている。
冬は夜が早く、あっという間になるものだけど今日はクリスマスのせいか余計に早く感じる。
「うん。今から皆でクリスマスパーティーをする」
「そうか、フライドチキンはケンタッキーがおすすめだよ」
と言うか、ケンタッキー以外にフライドチキンを売っている店が思い付かない。
スーパーとかコンビニの惣菜でチラチラと見るが、それ以外で置いているところに心当たりがない。
「レイジさんが鶏を丸々一匹買ってきて、なんか調理してた」
「七面鳥とは随分とまた本格的だね」
日本じゃフライドチキンが定番になってはいるけれど、海外じゃ七面鳥を食うのが定番だったりする。
筋肉ゴリラもとい木崎レイジさんはフライドチキンを作ることはせずに七面鳥をオーブンで焼く方を選んだか。フライドチキンはケンタッキーで何時でも食べれるけど、七面鳥はこのシーズンじゃないと中々に手に入らないからそっちを選んじゃうよな。
「それでコシマエはなにしに来たの?」
「見て分からないか?」
如何にもな格好はしてはいないが、流れ的にわかって欲しかった。
「サンタクロースだ」
「ほうほう……小南先輩が言ってたこと、本当だったんだな」
「ボーダーに出現するサンタクロースの事か?残念ながらそれは僕じゃなくて別の奴等だ……」
既に噂になっているサンタクロース。
一昨年、一位の人がやって翌年深雪が便乗し、なんだかんだで3年目に突入する始末。
「気を付けた方がいいよ。ボーダーは本気でサンタクロースを捕まえようとしている」
「うん、知ってる……」
去年、一昨年と騒いだせいで指名手配的な扱いになっているサンタクロース。
最初はすんなりといけたのになんで僕の年にはこんな事になっているのか。いや、確かに不審者としか思えない行動しかしていないけど、なんか僕だけ重労働な気がする……6位のバーサーカーに下克上でも仕掛けてやろうか。
「それでなにくれるの?」
おおっと、いきなり現金な話になってきたな。
プレゼントを貰えるならばと三3三の顔になる遊真。
「遊真に渡すプレゼントは、え~っと、楽しい時間だ」
「……ん?なんだそれ?」
遊真が欲しい物と書かれた紙を取り出すと、そこには楽しい時間と記載されていた。
もっとこう現ナマとかゲームとか調理器具とかの物質的な物を欲していると思ったが遊真のプレゼントは中々に面倒な物で当の本人もあまりピンと来ていない。僕も最初、どうすれば良いのかと悩んでしまったが楽しい時間ならなんでもいいのならばと答えが出た。
「今からボーダーの本部に侵入して来るから、それを生配信で見せてやろう」
楽しい時間とは面白い一時なのだろう。
それならば今からボーダーの本部に侵入してあれやこれやしてくる。きっと面白おかしい事が起きるだろう。
「レプリカが居るだろう。あれを貸して欲しい」
「ふむ……どうするレプリカ?」
『私自身、ユーマの側を離れるわけにはいかない。しかし、ユーマのプレゼントもある。子機を貸そう』
ニュインと小さな豆粒のちびレプリカを出現させるレプリカ。
これがあればボーダー本部に不法侵入してみたを遊真に生配信することが出来る。
「分かっているとは思うけど、くれぐれもこの事は内密だぞ」
「分かってる……こんな事やってるのバレたら一大事だ」
「その割にはノリノリじゃないか」
「だって、面白そうじゃん」
はっはっは、人は面白いというものには抗う事は出来ない。
万が一バレたらなにも知らぬ存ぜぬの協定は結ばれ、生配信することが決まる。
「ところでここにもプレゼントを配らないといけない子供が居るだろ」
「ああ、バカ王子じゃなかった。林藤くんね……」
「今、おれ達以外が侵入したら警報が鳴るように鳴ってるから気を付けろよ」
「ふ、甘いな」
サンタクロースは誰にも捕まらない。姿を見せても、誰かの物になることは絶対に無い。
ボーダーが色々と警備を敷いているのは修がそれっぽいことを言っていたので知っている。そしてサンタクロースはそれを乗り越える力を持っている事を僕は知っているんだ。
「お~い、遊真。そろそろ七面鳥が焼ける……え」
「サンタジャブ!」
「ぐふぉ!?」
例えば遊真を善意で呼びに来た実力派エリートを名乗る無職を一瞬で倒すボクシングが出来たりする。
「一番危険性のある男を真っ先に排除した……これでサンタクロースとして動きやすくなる」
「ジンさんの事を知ってるの?」
「まぁ、色々と知っているよ。これでも街中をコッソリと監視している変態がいるからね」
この男の危険なところはサイドエフェクトで未来が視れること。
僕はサイドエフェクト無効化サイドエフェクトというチートを持っているが、この男にどう見えるか謎である。しかし危険分子であるのは変わり無いので倒しておく。
「全く、サンタクロースを捕まえるつもりなら最初からトリガーを起動しておけばいいのに」
この男、トリオン体ではなかった。
どれだけ優れたトリガー使いであろうともトリガーを起動しておかなければ雑魚も同然。トリガーを起動した状態だったら、少しぐらいは勝負になったかもしれない。たらればの話はあまり宜しくないからこれ以上はしない。
「っと、この人にも一応はプレゼントを送らないと……ご当地ぼんち揚だ」
情けない姿を見せられてしまったものの、この人はこんなのでもボーダーの要だ。
通常のぼんち揚以外のご当地のぼんち揚の詰め合わせをプレゼントする……ぼんち揚自体、ご当地のお菓子なんだけど。
「ついでだ。この支部の隊員達のプレゼントも置いておこう」
このままここに侵入してもいいのだが、時間は限られている。
迅さんの上に他の隊員達のプレゼントを乗せておき(嫌がらせ)、ボーダーの本部がある方角に顔を向けてプレゼントが配る書かれた紙を確認する。
残念な事に玉狛以外の支部の人達は今年はプレゼントは無しだ。いい子にしていないからとかではなく、これはランダムに選ばれる仕様だ。
「え~……なんか難易度が高いプレゼントもあるな」
これ、僕が結構頑張らないとダメな感じのプレゼントがある。本当に貧乏くじを引いてしまうタイプの人間だな、僕は。
「迅、遊真を呼びに行くのにどれだけ時間を掛けてる……嘘!?」
遊真を呼びに行ったっきり戻ってこないので屋上にやってきた小南パイセン。
ぶっ倒れている迅とその上に乗っかっているプレゼントを見て、固まる。
「……メリークリスマス!!」
「え、ちょ、待ちなさい!いや、待ってください!!」
「安心しろ、その男の上に皆のプレゼントは乗せている。あ、でもメガネの彼は別に渡してるから!!」
「待って!!お礼を言わせて、サンタさん!!」
え、嘘。
思っていたのと違う感じの展開になり思わず固まる。
「その、毎年ありがとう」
嘘、もしかして小南パイセン、この歳になってもサンタクロースを信じてるの?
確かに去年、一昨年と小南パイセンにプレゼントを渡したとは聞いているけども……え、マジで?
「私達、いい子かどうか分からないのにプレゼントをくれて……来年もいい子にしているから」
う~ん、尊臣秀吉。
モジモジしながら頑張っているアピールをすつくぎゅうなんて中々に見ることは出来ない。今年、サンタなんて貧乏くじを引いてしまったと思ったが、これは中々にいとエモし。
「HAHAHA、サンタはいい子の味方だよ!」
もう少し小南パイセンを見ていたいが、これ以上すれば気絶している迅が目覚めたり他の面々がやって来たりする。
サンタクロースを捕獲しようというなんとも罰当たりな計画をしている以上はここに残ることは出来ないと目にも止まらぬ速さでジャンプ。屋上を飛び降りて忍者の如くビルを飛び交う。
「こなみセンパイ、サンタクロースを捕まえるんじゃなかったの?」
「……は、そうだったわ!!」
「おれ達にプレゼントを渡し終えたから多分、次は本部に向かったんじゃないのか?」
さらりと僕の次の行方を教えてくる遊真。
小南パイセンは追いかけようとトリガーを起動してレーダーで何処に逃げたのかを探ってみるものの見つからない。サンタクロースというものはレーダーに写らないのだ。
既に姿を見失ってしまい、こうなってしまっては探すものは探せない。
「宇佐美、サンタよ!!サンタクロースが出たわ!!」
「え、嘘!?レーダーに写らなかったよ!!」
「レーダーに写らないみたい!私達にプレゼントを配り終えたから、多分次は本部よ!!」
「……誰かこのプレゼントを退けてくれないかなー」
自分の上に玉狛の皆へのプレゼントが置かれているので動くに動けない迅は哀れなり。
「メリークリスマス……って、これは最後に言うべきことか」
「だ、誰ですか!?」
マッハで移動し、やって来たのはボーダー本部付近。
クリスマスだと言うのに何時も以上に警備を敷いているのは十中八九、僕が目当てなのだろう。
サンタクロースを捕らえるといい歳したおっさん連中が計画してるのを想像してみるとなんとも言えない、と言うか爆笑だ。
「見て分からないか?そうだす、わたすがサンタクロースです」
「……ほ、ホントにやって来た!?」
本部勤務の1人目のターゲットである日浦茜の接触に成功。
まさか本当にやって来るとは思いもせず、動揺する茜ちゃん……う~ん、ピュアなのはいいね。
「ええっと、ええっと」
どうすればいいんだろうと慌てる茜ちゃん。まさか本当に現れるとは思いもしなかったのだろう。
遊真や修は僕のことを知っているからなんとも言えない気持ちになっていたので、こんな新鮮な展開が見れて心が癒される。そしてそんなエモい茜ちゃんの笑顔を曇らせたいとか言う深雪は本当に畜生である。
「まぁ、落ち着けよ。別になにか悪いことをしに来たわけじゃない。今年のサンタクロースとしていい子にしている君に」
「皆さん、サンタが出ました!!」
「って、おい聞けよ」
さっきの小南パイセンのいい反応から一転し、僕の事を通報する茜ちゃん。
暫くすれば人がやって来るのは確実……プレゼントを渡さなければならない隊員が居てくれれば楽なのだがな。
「全く、サンタを不審者扱いとは世も末だね」
「す、すみません」
「なに気にしないでくれ、此方もお遊び半分でやっている。ここにサンタが現れたとなればそこにいるチビッ子にプレゼントを渡すのが道理だ」
「チビッ子って、私ちっちゃくありません!!」
プンプンと怒る茜ちゃん。そんな茜ちゃんには試練を与えよう。
「貴方が欲しいのは猫のシルエットが入っているキャップですか?それとも犬vs猫、肉球大戦争と言う映画ですか?」
「え……りょ、両方はダメなんですか?」
「サンタクロースは頑張ってる子にプレゼントは配るけど、何でもかんでもプレゼントはしないな……そもそもでサンタクロースってそういうものじゃないし」
「え、サンタって子供達にプレゼントを配る人の事じゃないんですか!?」
「違うよ。サンタクロースの起源は4世紀の東ローマ、今で言うトルコにいたカトリック教会司教セントニコラウスが元ネタで貧困に苦しむ子供達の家に金貨を投げ入れたらたまたま靴下の中に入ったというんだ」
「あ、だからプレゼントを入れるのは靴下なんですね!!」
そうだよ。これでまた1つ賢くなったね、茜ちゃん。
特に意味の無い雑学を知ったことを嬉しそうに笑う茜ちゃん。う~ん、いいね。
「いい子にしている茜ちゃんには両方ともプレゼントをしよう」
「わーい!……あれ?名前を教えましたっけ?」
「HAHAHA、サンタはなんでも知っているものだ。とりあえず受け取りたまえ」
いけないいけない、うっかりとボロが出てしまうところだった。
何はともあれチビッ子にプレゼントを渡すことが出来てサンタとしての責務を全うできる……そう思っていた。
「っ!!」
「え!?」
その矢先に無数の弾が僕に向かって撃たれる。
銃撃音と共に撃たれるその弾を茜ちゃんは気付くことは出来ず、僕は撃たれてから当たるまでの一瞬の間に避ける。
「っち、外したか」
僕に弾を撃ってきた男……漆間隊の漆間亘は舌打ちをする。
この男、茜ちゃんが居ることをわかっていて堂々と撃ちやがったよ。緊急脱出機能があるからいいんだけど。いや、よくないか。
「う、漆間先輩なにをするんですか!?」
「なにってサンタクロースを退治してるんだよ……クリスマスで特別手当てが出ると思ったら馬鹿馬鹿しい仕事で、ただでさえ何時もより人が多いから討伐分の給料が少なくなると思ったらまさか来てくれるとは思わなかった」
突撃銃を僕に向けてくる漆間。
「ま、待ってください!サンタさんは私達にプレゼントを届けに来ただけで悪い人じゃないです!!」
出会ってまだ一時間もしていない僕を庇ってくれるとは……天使かなにかか!?
「五月蝿いな。上から捕まえるか倒すかの命令が出ているのを知らないのか?」
そしてこの男は悪魔なのだろうか?
「ほぅ、世界を繋ぎし者達は我等サンタを捕獲しようという魂胆か……全くサンタクロースという存在を甘くみられたものだ。漆間亘、お前にも一応のプレゼントは用意してあるのだぞ」
今回のプレゼントリストの中に何故かこの男も入っている。
普通はもうちょっと歳が下の人じゃないかと思うのだが、この男にもプレゼントはある。
「生憎、プレゼントを貰うよりもサンタを捕獲した方が豪勢なクリスマスを過ごせそうなんでね」
「そう言うな。このアメリカのメジャーリーグの選手達の野球カードをお前にプレゼントし━━おい、なにをする!?」
「そんな物は欲しくない!!」
人が喋っている時に堂々と攻撃してくるとはなんたる外道だ。
「流石はオペレーターにDVしてそうなボーダー隊員、平然と撃ってくるな」
「おい、それ誰が言ってたんだ?」
しかし、参ったな。渡そうとしていたプロ野球選手のカードが蜂の巣だ。
「このカード、然るべきところで売れば1枚で数十万はするのに」
「……え?」
もう当の昔に引退している選手の初版のカードとかマニアからすればヨダレが出る代物のみを詰め合わせたプレゼント。
元ネタの人は直に金をプレゼントしていたが、サンタである以上はそのままの金を渡すわけにはいかないと金に換金しやすい物を出したのに受け取ろうとしないとは残念だ。
「あ~あーダメになってる」
一応の為に中身を確認するも蜂の巣になっている。
こりゃダメだ。MLBの稀少なカードは普通に数十万するってのに、穴が空いたりしたら価値が一瞬にして暴落する。カード系は保存状態が良くないとダメなのは常識なんだよ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。たかがカードでそんなにするのか」
「サンタはプレゼントでは嘘をつかない。コレクション要素のあるカードは古くて保存状態が良ければマニアはちゃんと買い取ってくれる……まぁ、売る手続きとかは自分でやれと言うしかないが、残念だ」
冗談抜きでいいプレゼントだったのにそれを無駄にしたのは君が悪い。
まさかそんなに値が張るものだとは思いもしなかったのか漆間はプルプルと震えており、明らかに落ち込んでいる。
「こうなったら、お前を捕まえて残るプレゼントを頂いてやる!!」
「やれやれ……それは最も悪手だぞ?」
自棄を起こしたのか突撃銃を向ける漆間。
サンタクロースに銃を向けるとどうなるのかを知らない様なのでボクシングの構えを取り、銃を撃とうとする漆間の目の前に移動する。
「覚えておけ、左を制する者がクリスマスを制する!!」
左での軽めのジャブを数発漆間に入れると漆間のトリオン体は損傷して使い物にならなくなる。
『トリオン体損傷、活動限界、
「ふ……サンタクロースと戦うならばそれ相応の覚悟を持っておけ」
「あ、ああ……サンタさんって滅茶苦茶強いんですね!!」
う~ん、茜ちゃんよ着眼点がズレてるな。
普通は漆間さんが一瞬で!と驚くところなのに、全くと言って驚いていない……やっぱあれだろうか?金にがめつかったりでいい人と思われてない日頃の行いが原因なのだろうか?
「今年のサンタはボクサーでもある……っと、無駄に長居をし過ぎたようだ」
此方に向かってきたしているボーダー隊員がチラホラといる。
相手にとって不足どころか雑魚で問題は無いのだがサンタクロースが無闇矢鱈と暴力にひた走るのはよくないことだ。プレゼントを渡す人のリストを確認し、僕はこの場を後にする。
メリークリスマスにはまだ早い
運命/世界の引き金こそこそ裏話
当小説に出てくる転生者は転生者になるべく地獄で地獄のような訓練を受けている。
ラブコメだろうが日常系だろうがおっさんの趣味を美少女がやってる系だろうがバトル物だろうがどんな世界に転生しても問題なく、ロクでもない事(褒め言葉)をしてくれる。