殺さずの剣客、そして人斬りの君 作:ただの物書き
上覧試合も閉幕し、騒乱の余韻がなお京の町を漂う夜。
浪士組の屯所である壬生寺の一室には、わずかな行灯だけが灯されていた。
障子越しに漏れる淡い光は心許なく、部屋の中を照らすというより、むしろ闇を際立たせているようにも見える。
その障子を静かに開き、山南敬助は室内へ足を踏み入れた。
「……なるほど、そういうことか」
部屋に入った山南が呟く。
奥に座っていたのは、胡座をかいて目を伏せた土方と、それとは対照的におちゃらけた笑みで手を振ってくる斎藤だった。
行灯の火がぱちりと爆ぜる音だけが妙に大きく聞こえる。
昼間の上覧試合。
あの場で起きた数々の不可解な出来事が、今の光景を見た瞬間に一本の線で繋がった気がした。
斎藤一という男は、基本的に面倒事を嫌う。
妙に格式張ったことも、どれだけ神妙なことも、基本的にはおちゃらけて楽しもうとするきらいの軟派者だ。自ら進んで火中へ飛び込むような性格ではない。
しかし、その反面、任された仕事は実直にやり遂げる誠実さもある。
あの時点で、少しばかり違和感はあったのだ。
そして今。
わざわざ自分を呼び出した土方と、その隣で悪びれた様子もなく座る斎藤。
答え合わせとしては十分だった。
「つまり――」
山南は告げる。
「斎藤君のあれは、土方君の差し金だったわけだね?」
山南の静かな、しかし確信に満ちた問いかけに、部屋の空気がわずかに揺れた。
「……ま、そういうことなわけですよ。相変わらず頭の回転が速いですね、山南さん」
「ははは。伊達に、何年も君たちと一緒にいないよ」
斎藤は悪びない笑みを横に、山南は「よっこいせ」とそのまま腰掛ける。眼鏡のブリッジを指先で押し上げれば、自然と昼間のあの異常な光景が想起した。
芹沢鴨が仕掛けた、藤堂平助を巻き込んでの突然の切腹騒動。その場に突如として乱入し、切腹を止めようとした赤衣の男。
そこまではいい。事の経緯を聞けば、そうなるのも必然だろうと山南さえ思う。自他問わず不殺を掲げるあの男であれば、芹沢がやろうとしていたことなど見過ごすはずもないだろう。
しかし、不可解だったのはその後だ。いつもは面倒事を嫌い、荒事も表立って渦中に飛び込むことはしない斎藤一が、あろうことか真剣を抜いてその赤衣に斬りかかったのだ。
下手をすれば公儀への不敬や乱行として、斎藤自身がその場で処断されるリスクすらあった。
だからこそ、山南はこう推察する。
「普段の斎藤君なら、あんな危ない橋は絶対に渡らない。何かしらの思惑――それも、君みたいな人の命令でもなければね?」
山南の当然の疑問に、土方は閉じていた目を薄く開けた。
行灯の低い光が、その眉間に刻まれた深い皺を険しく浮かび上がらせる。
「おおよそは当たりだが、芹沢さんのあの切腹騒動は、俺たちにとっても完全な予定外だ」
「そうそう。僕たちとしても、さすがにあんな大胆な動きを見せるなんて思いもしませんでしたよ」
斎藤は、いつもの薄ら笑みを浮かべたまま同意する。
その言葉に嘘偽りがないことは、二人の表情を見れば明らかだった。
「そうなのかい? 私はてっきり土方君のことだから、芹沢さんの策謀を見抜いてのことだと……」
「はなから見抜けてんなら、近藤さんに土下座なんてさせやしねぇよ」
「たしかに……言われてみれば、それもそうだね……」
近藤勇という男の誇りを誰よりも重んじる土方が、あらかじめ罠を知っていながら、あの場でのうのうと近藤の土下座を許すはずもない。
山南は己の推測の甘さを省みるように、小さく息を吐いた。
「じゃあ、君が斉藤君に頼んだこと、というのは?」
「あの赤衣とやらの力量を見極めることだ。試合の組み合わせに口出ししてきた時点で、芹沢さんがアイツを使ってなにかを企んでやがると思ったからな」
「いまとなっちゃ、その予想も大外れだったわけですけどね。僕としちゃ、おおかた会津中将様にいい面見せようとしてる、その鼻っ面を、おもいっきし圧し折れればと思ってたんですがねぇ」
そう言って斎藤は、胡座をかいていた足を組み直す。
「なのにまさか、あの時の口出しはただのかまかけで、終いには、芹沢さんの本来の企みであろう切腹騒動にあいつが自ら飛び込んで大見得を切るもんだからさぁ……あの場をひとまず収めるためにも、僕は咄嗟に『乱入した不審者を成敗する』って建前で斬りかかったわけですよ」
肩をすくめながら語る斎藤の言葉を聴き、山南は静かに押し黙る。
いつもはひょうひょうと物事をこなす斎藤が、あの舞台では、その場の状況を瞬時に計算し、処罰のリスクを承知のうえで自ら泥を被りに行ったのだ。
芹沢の想定すら上回る赤衣の乱入。そして、それをさらに利用した斎藤の、狂気じみた戦術眼と出たとこ勝負の機転には、流石の山南も舌を巻くしかない。
「なるほど……いやはや、やっぱりあの場はかなりの綱渡り状態だったわけだね。 斎藤君の機転がなければ、藤堂君はおろか、もう何人かの仲間が腹を切らされていたかもしれないと思うと、ゾッとするよ……」
「ああ……下手をすりゃ、あの場で近藤さんも処されていたかもしれねぇ」
実際、あそこで土方たちが下手に抗弁すれば公儀への不敬となりその場で処罰され、逆に大人しく従えば、藤堂を含むその後の試合の何人かが芋づる式に腹を開かされていたはずだった。
公式の場を利用して、身内を合法的に抹殺する芹沢の老獪かつ苛烈な策謀。一歩間違えれば、壬生浪士組における近藤一派は、もれなく全滅の憂き目に遭っていただろう。
斎藤が動いたのだって、その完璧な盤面をひっくり返せる確算があったからではない。ただ、時間を稼ぐため。その一念だけだった。
赤衣という予定外の動きをした闖入者にあやかり、斎藤がさらに場を引っ掻き回す。その間に、待機幕の裏に戻った土方らが、持ち前の機転でなんとかこの絶望的な状況を打破してくれるはずだ――そう、信じきっての決死の行動だったのだ。
しかし、それもやはり難しいこと。
その信頼の重さとは裏腹に、あの時の土方の脳裏にあったのは、決して鮮やかな逆転劇などではなかった。
どうすれば極力穏便に会津藩と手を切り、この京の地から全員で五体満足のまま逃げおおせるか……それだけだったのである。
ああなった以上、会津藩預かりとしての地位は捨てるしかない。
せっかく掴みかけた武士になるための唯一の足がかりをすべてドブに捨て、再びただの田舎道場の百姓あがりに逆戻りする。
その最悪の退路を覚悟せねばならないほど、芹沢の一手は完璧に土方たちの首元へと迫っていたのだ。
近藤勇という男の、愚直なまでの誠実さ。己を低くしてでも大局を収めようとするその器の大きさは、平時であれば誰もが惹かれる美徳ではある。
が、一寸先は闇の政治的泥仕合。そのような魑魅魍魎の住まう土俵際においては、時に致命的な弱点になり得るものだった。
「芹沢は、あの人を——近藤勇という男をよく見ていやがる」
土方は目を閉じ、そう小さく呟く。
そして、張り詰めていた肩の力をわずかに抜き、今も笑みを浮かべる部下へと視線を流した。
「ひとまずだ……そういう意味でも助かった。ありがとな、斎藤」
行灯の芯がパチリと小さく爆ぜ、室内の影を不穏に揺らす。
滅多に他人に——それも身内にストレートな労いを向けない鬼の副長の変貌。
そのあまりの珍しさに、斎藤と山南は一瞬だけ顔を見合せた。
「……山南さん。一体いつから土方さんは、
「あん?」
「たしかに……土方君がこんな柔和な笑みを浮かべるなんておかしいな……いけないよ土方君、アヘンはあの大国である清すら滅ぼす劇薬だからね」
「……素面で言ってんなら、たたっ斬るぞ、てめぇら」
青筋を立てて刀の柄に手をかけようとする土方に、斎藤は「おっと、マジにならないでくださいよ」と受け流し、山南はクスクスと肩を揺らした。
まぁ、これも彼らなりの土方への慰めなのだろう。
芹沢の不穏な動きに気づいておきながら、それを止めなられなかったと自責する彼への、多少なりとも和らげてやりたいという。
ひとしきりイジり倒したことで、部屋の空気はいつもの気安い距離感へと戻りつつあった。
しかし、問題ごとはなにひとつとして解決していない。
「まぁ、土方君の麻薬服用容疑は一旦置いておくとして――」
「おい、まだ続けんのか?」
「――よし、土方君も平常運転になったことだし、おふざけは本当にここまでにしておこう」
山南はコホンと咳払いをひとつして、再び居住まいを正した。
「それで、芹沢さんに対して何か策はあるのかい? 私をここに呼びつけたのも、それを考えるためなんだろう?」
その問いが投げかけられた瞬間、土方は視線を畳の上へと向ける。
行灯の低い光に照らされた横顔は、先ほどまで青筋を立てていた男のものとは思えないほど、冷徹に戻っていた。
寡黙な男がさらに黙り込んだことで、またもや訪れる静寂。
そうして、少しの間、虫の羽音を背景にすれば、土方はおもむろに口を開いた。
「……今回の件も踏まえて、いくつか施策は考えてる……が、どれを施行するにしたって、今は人手が足りてねぇ」
「たしかに、数的有利を取れれば、形勢は一気に変わるだろうね。けれど、人をむやみに増やしたところで、意思の統率されていない烏合の衆では、逆に相手に飲まれることだってあるよ」
山南の言う通りだ。
現在の浪士組は、実質的に試衛館派と芹沢派の危うい均衡で成り立つ、ただの浪人の集まりに過ぎない。このまま規模だけを大きくすれば、中から瓦解するのは目に見えていた。
人手を増やすにしても、質が悪ければ意味がない。
かといって、質の良さを求めていては無名の浪士組に人など集まりはしない。
金も名誉もない今の自分たちに、最初から品行方正な人格者や、一廉の武家上がりが都合よく集まってくれるわけがなかった。
応募してくるのは、おそらく食い詰めた素浪人や、一旗揚げようと目論む命知らずの荒くれ者ばかりだろう。
ならば、どうするか?
土方の出した答えは、恐ろしくシンプルだった。
最初から質を求めるのが無理なら、集まった泥のような烏合の衆を、後から鉄の枠にハメて強制的に黄金へ造り替えればいいのだ。
「壬生浪士組に禁令を設けるってのはどうだ。前々から考えていたことではあるが、うちの隊士には、生まれも育ちも問わねぇつもりだからな。どいつもこいつも、武家の生まれとは限らねぇ以上、そういった意識の格差を埋める意味でも、こいつはいる」
土方の言葉に、山南は目を見開く。
出自も、思想も、育ちもバラバラな男たちを一つに縛り上げ、強制的に武士へと叩き上げる鉄の掟。
それこそが、土方の見据える組織の形だった。
「っ、なるほど、隊士を統率するための軍法か……たしかに、いい考えかもしれない。組織を整えるのに、厳格な法を布くというのは最も有効的な考えだよ」
「だったら、決まりだ。こいつの草案は俺が考える。山南、お前は人手を集める方を頼めるか?」
「よし、任された。まずは、江戸市中の伝手のある道場などへの声掛けや、京と大阪へ隊士募集の制札*1を出してみるよ」
山南が深く頷き、これから始まるであろう組織拡大の青写真へと意識を切り替える。
ひとまず今夜の軍議はここまで、という、目に見えない区切りが部屋に落ちた。
「さて、と――」
そこまでの話し合いを見届けたためか、はたまた単純な思いつきによるものか。
それまで畳の上に座り、じっと副長二人の決議を見守っていた斎藤が、膝の上の埃を払うようにして、のそりと腰を浮かせる。
「そんじゃま、僕はそろそろこの辺で」
「もう行くのかい?」
「ええ。組織改革の話だのなんだのってもんに、僕みたいな軟派者は邪魔でしょ? あとは、副長たちに任せて、僕は決まったことにのらりくらり乗せてもらいますよ」
斎藤はそう言って、いかにも面倒な役目は御免だという風に首をすくめてみせた。
山南は、そんな彼のいつものマイペースさに苦笑を漏らす。
実際、泥を被る裏工作を完璧にこなしてくれたのだ。これ以上、組織の硬苦しい未来図作りにまで付き合わせるのは酷だろう――そんな無言の了解が部屋に満ち、斎藤がそのまま襖へ向かって数歩、足を進めたその時だった。
「待て、斎藤」
「なんです?」
冷徹な聲音が、部屋を出ようとした斎藤の背中に突き刺さる。
後ろでは、土方がじろりと昏い眼光でその背を見つめていた。
「最後に、直に死合ったオマエの意見を率直に聞かせろ」
土方の問い。その言葉が何を意味するかなど、聞き返さなくてもわかる。
昼間の上覧試合、あの張り詰めた白砂の舞台に突如として乱入し、芹沢鴨の思惑をすべて引っ掻き回して、会津中将の意見すらも変えさせた、あの風変わりな男のことだ。
斎藤は、聞かれたくないことを聞かれたという感情を顔にする。
それからも分かる通り、彼が早々にこの場を離れようとしたのは、この詰問をさけるためもあったのだろう。
「死合った、ねぇ……あれは、そうも言えないでしょ? 奴さん、ただひょうひょうと躱してただけですし」
「それでも、問題ねぇ。いずれ、敵に回るかもしれない奴のことだ」
「……」
土方は生温い冗談を許さない。ただ黙って、獲物を値踏みするような眼光で正面から睨みつける。
そのただならぬ無言の圧力に、斎藤は苦笑を浮かべ、再び畳の上へと腰を下ろした。
「はぁ……こいつは、剣を躱され続けた男の負け惜しみって思って聞いてくださいよ? 僕、わりとへこんでるんで」
斎藤は少し視線を彷徨わせ、昼間の白砂の庭で対峙した、あの異質な男を脳裏に思い浮かべる。
単に強いという一言では片付けられない。
剣術の腕前は、決して弱くはないだろう。何しろ自分が放った必殺の数々を、相手は刀を抜くことさえせず、凌ぎきってみせたのだ。弱いわけがない。
「実力だけなら、まぁ、僕らの中でも勝てる奴は相当限られると思いますよ。あの沖田ちゃんですら、一杯食わされた相手って聞きますし……新八や、相性的に左之助あたりもか? その面子ならいい線いくか、勝つかってくらいじゃないですか?」
斎藤の口から淡々と告げられた身内の名。それは、壬生浪士組における最高峰の武力を意味していた。
「……でも、あいつが本当に厄介なのは、そこじゃあない」
斎藤の口から、思わず声が溢れる。
無意識に己の左腕をさすれば、強引に刃を止めたときの衝撃が、未だに微かな痺れとして残っている気がした。
「あの度を越したお人好しってのが、一番の曲者だ。なにせ、自分が死ぬ間際でも、簡単に信念を通そうとしてくる……根っからのイカれ野郎ですよ、アレは。ああ言う奴は、下手に敵対すると、なにをしでかすか分かったもんじゃねぇ。なるべく関わらないようにするのが吉ってもんでしょ」
尋常の神経であれば、恐怖で足がすくむか、あるいは意地になって刀を抜くはずの場面。それをあの男は、刃の前に身を晒しながら、最後まで己の意思を貫き通してみせた。
命への執着よりも、己の歪な優しさを優先する。
それは、あの男の精神力が並大抵のものではないという証拠であり、同時に、常人の物差しでは決して測れない狂気を孕んでいるという証明でもあった。
「なるほどな……」
行灯の影が、土方の顔を左右真っ二つに割り、その片目を酷く昏く際立たせた。
低い土方の声音が、静まり返った室内に響く。
「だったら、あの赤衣が今後、芹沢一派として俺たちに楯突いたらどうする」
一瞬の静寂。
それは、ただの仮定の話ではなく、いつ現実になってもおかしくない薄氷の未来。
斎藤は、自らの腰に眠る二振りの刀へ視線を落とした。
そして――ゆっくりと顔を上げ、こう答える。
「そん時は、きっちり殺してやりますよ。相手が誰であろうと、必要とあれば、ね」
― 壱 ―
深く更けた夜。
密談を終えた斎藤は、冷たい月明かりが照らす壬生寺の境内を通り抜け、八木邸の詰所へと戻ろうと歩みを進めていた。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返った夜気の中、斎藤は懐に手を突っ込み、先ほどの土方たちの顔を思い返しながら、小さく息を吐き出す。
「はぁーあ、今日は本当疲れた。やっぱし、似合わないことは、するもんじゃないねぇ……」
懐からゆっくりと手を出すと、斎藤はゴキゴキと重苦しい音を立てて首を左右に傾げ、凝り固まった肩を大きく回した。
昼間の冷や汗ものの命がけの大芝居に始まり、つい先ほどまで続いていた副長ふたりとの息詰まるような密談。ようやくすべての緊張の糸が切れた途端、せき止めていた疲労感が容赦なく全身の筋肉へどっと押し寄せてくる。
強引に赤衣の刃を止めた左腕は未だにズキズキと微かに重く、おまけに、騒動のせいでろくに夕飯も喉を通らないままこんな時間だ。張り詰めていた神経が弛緩したことで、今度は猛烈な空腹感がジワジワと胃袋の底から主張を始めていた。
今から八木邸の台所を漁っても、冷や飯のひとかたまりすら残っているかどうか。
そうして、誰もいない静まり返った境内で、そんな世俗的な泣き言と切実な空腹感が口をついて出た——まさにその瞬間だった。
頭上を覆う大木の枝から、声がかかったのは。
「――やっぱり人が悪いですよね、斎藤さんって」
「あん?」
唐突に降ってきた可憐な声に、斎藤が反射的に眉をひそめて頭上を仰ぎ見ようとした、その刹那。
「よっと————」
夜風に紛れるようにして、ひとつの影が頭上からふわりと真下へ舞い降りてきた。
木の葉一枚すらすれ合わない、まるで重力を忘れたかのような完全な無音。衣服の擦れる音すら立てず、突如として目の前の至近距離に出現した人影に、斎藤の身体は本能的に総毛立つ。
「うぉう!?」
斎藤はあからさまにのけぞって飛び退き、大袈裟に両手を上げてみせた。心臓がうるさいほど跳ね上がったのは本当だが、それを器用にいつものおどけたポーズで誤魔化したのは、流石だろう。
彼の身体に染みついた処世術のようなものだ。
さてはて、そんな斎藤を驚かせた人物とはいかなるものや。
敵意も殺気もない、ただの純粋な好奇心だからこそ、直前までその接近を野生の勘でも捉えきれなかったとはいえ、あの斎藤一の腰を引かせた人物。
それは、試衛館一の天才剣士——沖田総司であった。
「げっ……沖田ちゃん。こんな夜遅くに出歩いて、なぁにしちゃってんの?」
「近所の子の落とし物を探してたんですよ。日没まで泣き喚いてて、大変だったんですから」
「泣き喚くって……言い方よ……」
沖田が見つけたであろう泥の塊を見せたことで、斎藤はげんなりとする。
そもそも、落とし物を探すのに、わざわざ木に登る必要はあるのだろうか?
斎藤はそんな疑問をぐっとこらえる。沖田総司には、あまり常識が通用しないのを知っているからだ。
「——って、もしかして、僕たちの話聞いてたりする?」
「話ってなんです?」
そう言って、沖田はわざとらしく小首を傾げ、きょとん顔を作る。
その純真無垢な瞳で見つめられると、こちらが邪推したのが悪かったのかと一瞬錯覚しそうになり、斎藤は手を振った。
「あぁ……いや。聞いてないならいいのよ、別に。今のは忘れてちょうだい」
「それにしても、まさか斎藤さんが土方さんの命令を聞くなんて思いませんでした。しかも、あの大立ち回りが斎藤さんの機転だったとは」
「わりとガッツリ聞いてんな、おい!?」
自分が邪推したかもと思った直後、核心を突いてきた同僚に斎藤は全力のツッコミを炸裂させた。
さっきのしらじらしい顔は一体どこへ行ったのやら。
沖田が、ふふん、としたり顔で笑っているところを見る限り、確信犯である。どこまでが天然で、どこからが計算なのか、このからっとした笑顔の裏にある底の知れなさは、時に刀を向けられるよりも恐ろしかった。
「ったく、勘弁してくれよ、沖田ちゃん。副長にばれたら、どやされんのは僕なんだからさ。ちゃんと、内緒にしておいてよね?」
「いいじゃないですか、ばれたって。土方さんが芹沢さんを嫌ってるのは周知の事実なんですし」
「それとこれとは、話が違ぇの」
そう言って、斎藤は眉根を下げる。
今回の件は、近藤すらも知らない事案だ。
副長である土方と山南、そして斎藤だけが共有している秘密ごと。決して外部に漏らしてはいけない。
近藤のあの真っ直ぐで汚れのない誠実さを守るためにも、そして芹沢派にこちらの下心を絶対に悟らせないためにも、あの場での会話は一部の人間にしか知られるわけにはいかなかった。
もし、沖田が今回の騒動の真相を広めれば、どんな恐ろしいことが待っていることやら。
これ以上、秘密の重さに怯え続けるのも癪なので、斎藤は意図的に不敵な笑みを作って話を振ることにした。
「で、沖田ちゃんはどうだったのよ」
「なにがです?」
「とぼけんなって、昼間の僕の芝居。内心、冷や冷やしてたから、こんなところまで盗み聞きしに来たんじゃないの?」
昼間の自分の命がけの大熱演に、この試衛館の誇る無敵の剣士がどう揺さぶられたのか、少しばかりからかってやろうという意趣返しである。
いつものように「フフン、沖田さんの目は誤魔化せませんとも!」とでも返ってくるかと思いきや、返ってきたのは、意外にも拍子抜けするほど素直な肯定だった。
「まぁ、あの人が殺されるかもってなったときは、少し焦りましたね」
「あっそ、別に認めたくないなら良いけ……って、え? 今、認めた? あの、沖田ちゃんが?」
「失礼ですねー……斎藤さんとは違って、思ったことをそのまま口に出すのが、私の美徳じゃないですか」
あからさまに目を丸くして狼狽する斎藤に、沖田はぷくっと頬を膨らませて不満を露わにする。
いつもなら、自惚れのような返答をしてくるくせに、今回の彼女は実にあっけらかんと、しかしどこか昼間の赤衣の残像を惜しむような目で認めてみせたのだ。
「でも、斎藤さん。さっき部屋の中で、ずいぶんと大口を叩いてませんでした?」
「んー? 僕、何か言ったっけ、そんな大それたこと?」
「『そん時は、きっちり殺してやりますよ』――斎藤さんにしては似合わない台詞だったので」
その声音は、どこか挑発するような、からかうようなものだった。
斎藤は一瞬だけ表情を強ばらせるも、すぐにいつもの、底の割れない薄笑いへと表情を戻す。
「あぁ、あれね。そりゃあ、できるよ? なんたって僕、無敵だから。仕事となれば、相手が神様だろうと仏様だろうと、あの赤衣の剣侠であろうと叩き斬るさ」
おちゃらけながらも、その声には寸分の揺らぎもない。斎藤一という男もまた、己のリアリズムのなかに生きる怪物のひとりだった。
そんな彼の言葉を、沖田はしばらくの間、じっと見つめていた。
やがて、彼女の細い肩からふっと力が抜け、いつもの少女らしい無邪気な笑みが戻る。
「ふーん……まぁ、斎藤さんがそう言うなら、そういうことにしておいてあげますよ。私は理解ある女剣士ですからね!」
「なにぃ、その含みのある言い方?」
「さぁ、なんですかねー?」
沖田は小さく息を吐き出すと、夜空に浮かぶ白い月を見上げた。
その横顔は、どこか切なげで、けれど酷く冷徹で——。
「ほんと、不器用ですよね、斎藤さんも」
「はぁ? いきなり何よ?」
「藤堂だけじゃなく、あのバカを助けるためにも、わざわざ悪役を買って出たんですよね? 分かっていますとも。本当は誰も死なせたくなかったくせに、口を開けば殺すだ、なんだのと……随分と安売りするようになったんじゃないですか?」
その言葉に斎藤は、目を見開く。
それは、たしかに自分が赤衣に向かって吐いていた言葉。
――殺すだの殺さないだの、そういうのを口にする奴ってのは、決まって腕に覚えのない雑魚ばかり。本当に強い奴ってのはさ――言葉にする前に、もう行動は終わってるってもんだろ?
まさに、今になって意趣返しをされた気分だ。
斎藤は、はぁ、とため息を吐いて顔を覆い天を見上げた。
「おー、怖い怖い……沖田ちゃんって、いつからそんな論陣強くなったわけ?」
「さぁ、前からじゃないですか?」
「……たしかに。そういう、妙に冷たいところは前からだよ、おまえ」
降参、とばかりに両手をあげる斎藤を見て、沖田は満足したように「ふふん」と胸を張った。
一瞬だけ夜風を凍らせたような剣士の冷徹さは、瞬く間に霧散し、いつものからっとした少女の笑顔へと塗り替えられる。この底の知れなさと、隣り合わせにある無邪気さこそが沖田総司という存在なのだと、斎藤は内心で苦笑するしかなかった。
張り詰めていた境内の空気は、彼女のそんな笑い声ひとつで、また元の穏やかな夜へと戻っていく。
「それじゃ、夜更かしは体に毒ですので、私はもう寝ますね。明日も早いですし」
「明日、なにかあったっけ?」
「近所の子と泥めんこするんですよ」
そう言って、沖田は手に握っていた泥の塊――さっき探していたと言っていた子供の落とし物を、ぽんと袂へ放り込んだ。
素焼きの、素朴な絵柄が彫られた小さな粘土の塊。夜遅くまでそれを出歩いて探してやっていた優しさも本当なら、明日の朝、それを賭けて子供相手に本気で泥だらけになるつもりなのも、また彼女の本角なのだろう。
昼間、あれだけの修羅場をくぐり抜け、つい先ほどまでは副長の密命に鋭く切り込んでみせた傑物が、明日の朝には子供相手にムキになっていそうな姿が、あまりにも容易に想像できてしまう。
「ほんとそういうの好きよねー、沖田ちゃんって。ほどほどにしときなよ?」
「それは無理な相談というやつですねー。私、総取りを目指してますから」
「大人気ねぇ……」
どこまでも本気なその宣言に、斎藤は呆れたように肩をすくめた。
「それじゃあ、斎藤さん。おやすみなさい」
「はいはい、おやすみおやすみ。僕はどっかで引っ掛けてから帰るよ」
そう言って、分かれるため2人は別の岐路をいく。
だが、ただでさえ散々振り回され、年下の少女に一本取られっぱなしだったのだ。このままおとなしく引き下がるのも、斎藤一のへそ曲がりなプライドが許さなかった。
ふと、何か意地の悪い報復を思いついたように、斎藤はぴたりと足を止めて振り返る。
「あ、そうだ、沖田ちゃん」
「なんです?」
斎藤からの呼び掛けに、沖田は振り向く。その顔は、まるで無垢な子供のように警戒心がなく、あまりにも無防備に見える。
だからこそ、これから自分が投げ込む特大の爆弾がどれほどの効果を発揮するか想像し、斎藤は内心でにやりと不敵な口角を吊り上げた。大人げないのは百も承知で、強烈な一太刀を言葉でくれてやる。
「もし彼と寝るんなら、避妊はしっか――――ぶごほぉっ!!?」
言い終わるよりも早く、夜気が爆ぜた。
音が置き去りにされるほどの神速。気づいたときには、沖田の愛刀の柄頭が、斎藤の鳩尾へと寸分の狂いもなく深々とめり込んでいた。
「寝言は寝て言ってください。壬生浪士にいるうちは、身重になるつもりはありませんよ」
「それ……ここ辞めたら、嫁に行くって言ってるような……も……の……」
「あれ、落ちました?」
視界が完全に真っ暗になる直前、斎藤の目に映ったのは、「おーい、斎藤さーん?」と顔を覗き込んできている沖田の、これ以上なくドライな表情だった。
人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ——ならぬ、人の純心を穢す奴は不逞浪士に寝込みを襲われてしまえ、である。
ひとしきり安否を確認(あるいは観察とも言う)し終えた沖田は、完全に意識が途絶えたことを確信。そして、情け容赦のない無情さで、冷たい地面に転がった斎藤の亡骸をその場に置き去りにしたまま、軽やかな足取りで八木邸の方へと帰っていってしまった。
そうして、どのくらいの時間が経っただろうか?
境内を満たす虫の声に混じって、もぞもぞと地面の砂を掻く音が響く。
打ち据えられた腹をさすり、激痛に顔をしかめながら、斎藤はゆっくりと意識を覚醒させた。泥だらけになった衣服を気にすることもなく、のそりのそりと上体を起こす。
静寂だけが戻ってきた暗闇の先をしばらく見つめた後、彼はふっと自嘲気味な溜息をこぼした。
「にしても、不器用、ねぇ……沖田ちゃんにだけは、言われたくないっての」
昼間の上覧試合の裏で、土方たちが何を企んでいたのか。あの赤衣を本当に敵対視していたのか。
心配で仕方がなかったくせに。だからこそ、わざわざ「子供の落とし物を探しに」なんていう、およそ彼女に似合わない下手くそな嘘をついてまで、木の上に潜んで盗み聞きをしていたくせに。
その素直になれない不器用な好意を、あの強烈な柄頭の痛みとともに噛み締める。
斎藤はもう一度大きく頭を掻きむしると、痛む身体を横たえ、しばらくの間、古都の夜を静かに見下ろす満天の星空をただじっと眺めることにした。
そうした頃、八木邸では——。
「待たないか、赤衣君!」
「っ〜〜〜! い、いいでござるよ! この程度の傷、某自身で手当てくらい……!」
「背中も切られているんだ、大人しく私に手当てをさせてはくれぬか!」
ドタドタドタッ、と夜の八木邸の廊下を、大の男二人が凄まじい勢いで走り回る足音がせわしなく響き渡っていた。
昼間の上覧試合で芹沢の企みをぶち壊し、背中やら腹部やらに多くの太刀を浴びていた件の赤衣を、近藤勇が特大の包帯を抱えて猛追しているのだ。
不器用なほどお節介な優男と、全力で逃げ惑う優男の鬼ごっこ。
そんな所へ、廊下の角からひょっこり顔を出したのは永倉たちだった。
「っ! ちょうどいいところに! 永倉君、原田君、島田君! そこの彼を捕まえてくれ! 重傷者だ!」
「んあ?」
近藤の呼びかけに、永倉たちは、ドタバタとこちらへ向かってくる近藤と赤衣を視界に捉える。
大の大人が、こんな夜更けに何をやっているのか?
しかし、そんなまともな思考は彼らによぎらなかった。
どころか、近藤と赤衣の追いかけっこを目で捉えた瞬間、揃ってにやっと悪ガキのような口角を吊り上げる。
昼間の緊張感から解放され、完全にアドレナリンの行き場を失っていた試衛館の脳筋共である。この絶好の玩具を、見逃すはずがなかった。
「ヒャッハーッ! 傷口は消毒だぜ、赤衣ぅ―――ッ!!」
「どんだけ、はしゃぎ足りねぇんだよ、てめぇは……ま、俺もやるんすけど」
「おいおい、怪我人が走り回るなっす! 今すぐとっ捕まえて、早く楽にしてあげるっすよ!」
「ここは、世紀末でござるか!?」
永倉がどこから取り出したのかもわからない巨大な酒瓶を掲げ、怪力の島田がドスドスと退路を断つように立ちはだかる。さらに原田までもが、まるで「モンスターが現れた!」とナレーションでもつきそうなポーズで距離を詰めてきた。
完全に治療という名のリンチである。
「嫌でござるー! 某は絶対に、治療など嫌でござるー!!!」
迫り来る屈強な浪士たちを前に、赤衣の男は顔面を蒼白にさせ、声を裏返させる。
ぎちぎちと首やら手やら足やらを締め上げられ、イイ笑顔の男たちに取り囲まれる姿は、もはや哀れという他なかった。
こうして、夜の屯所で4人対1人の壮絶にしてくだらない乱闘騒ぎが幕を開けた。障子を突き破り、縁側を飛び越え、もはや運動会さながらの騒ぎである。
そんな男たちの狂乱をよそに――ブンッ、と夜気を鋭く引き裂く音が、そんな喧騒から少し離れた庭の隅から響いていた。
月光の下、一心不乱に木刀の素振りを繰り返していた藤堂は、額から大粒の汗を流し、廊下の方で繰り広げられているバカ騒ぎを一瞥する。
「はぁ……馬鹿ばっかり」
呆れたような、しかしどこか少しだけ救われたような、そんな複雑なため息を漏らす。
だが、藤堂の瞳の奥にある熱い光だけは、決して消えていない。
昼間の上覧試合。芹沢の罠に嵌り、身動きが取れなくなった自分。そして、結果的にあの場を救ってくれたのは、土方の密命を受けた斎藤の大芝居であり、あの逃げ回っている赤衣の乱入だった。
自分が弱かったから、周りにあれほどの綱渡りを強いることになった。その苦い悔恨が、今も藤堂の胸を焼き続けている。
藤堂は再び木刀を正しく構え、ぐっと切っ先を闇へと向けた。
上覧試合でのような醜態を、もう二度と晒さないためにも。
(僕はもう、誰かの背中に隠れているだけなんてのは、ごめんだ……)
背後の「ヒャッハー!」という奇声と「ござるー!」という悲鳴を完全に意識からシャットアウトし、少年はただ己を鍛え上げるべく、夜の闇に向かって激しく木刀を打ち込み直すのだった。
― 弐 ―
京の夜は、生者を容易に死者へと反転させる。大路を一本外れれば、そこは月光すら届かない、昏い泥の底のような路地裏だ。
ねっとりと肌にまとわりつく夜気の中、一人の男が千鳥足で壁に身を預けていた。ひどく安酒の臭いをさせ、ただでさえ不穏な京の街の空気に、ひどく不釣り合いな緊張感のなさを晒している。
その男の耳に、路地の奥から這い出てくるような、湿った音が届いた。
「……ォ、……ゥ」
「ひっく……あぁ?」
泥酔した男は、濁った視線を闇の深淵へと向けた。
ずるり、ずるり、と、まるで自らの肉体を重荷に感じているかのような、奇妙に不揃いな足音が近づいてくる。雲の切れ間からわずかに漏れた月光が、その輪郭をぼんやりと浮かび上がらせた。
「お前さん、大丈夫かい? 随分とまぁ、顔色悪いようだが……」
声をかけた男は、相手の異常性にまだ気づいていない。
影の中から現れたそのナニカは、衣服こそ人間のそれであったが、肌は死後数日を経た死体のように土気色に変色し、異様に肥大化した血管がドクドクと不浄な脈動を繰り返していた。
「……、……、……」
「ひっく……あん? なんて? 声が小さすぎて、よく聞こえんよ」
男は眉をひそめ、さらに距離を詰める。
だが、近づけば近づくほど、そのナニカが放つ異臭が際立つ。
漂ってくるのは、ただの泥の臭いではない。腐敗した血の残滓がもたらす、鼻を突くような悪臭だった。
「なんだ、死に損ないか? ったく……近頃はこういう変なのばかり増えて困るなぁ。あんたも、世直しだ尊攘やらを掲げるバカモンかい? ただでさえ、長州やら土佐勤王やらで、荒れてきてこっちは迷惑してんだ」
男は、時勢への愚痴を吐き捨てた。
ただのしがない町人である男からすれば、国の行く末など、明日の我が身に比べれば、さしたる興味もない。
それよりも、自身の生活を苦しくするだけの浪士連中のほうが、よっぽど目障りと感じるほどである。
「ひっく、どうせ死ぬんなら、そのまま河にでも身投げして魚の養分にでもなってくれや……」
そんじゃな、とふらつく足取りで男はそのまま横切ろうとする。
助ける義理はない。
面倒を見てやる理由も、勿論ない。
だからこそ、酔いに任せ愚痴を吐くだけ吐けば、男が立ち去るのも当然だった。
しかし。
「あ……?」
気がつけば、男の視界が落ちていた。
何ら比喩ではない。
先まで、見下ろしていたはずの地面が、なぜかすぐそこに広がっている。
先程まで見下ろしていたはずの自身の足が、目の前に佇んでいる。
「——————!!?」
声も出なくなった頭部で、男は恐怖で顔を歪めた。
路地裏に響き渡った音にもならない絶叫は、そのまま肉が倒れる衝撃音によって、あまりにも暴力的に掻き消された。
冷たい石畳の上に、パキ、ベキ、と硬いものを粉砕する音が、奇妙なほど規則正しく鳴り始める。
それは、人間の大腿骨が、およそ人型のそれとは思えない咬合力によって、無造作に噛み砕かれている音だった。
「あ、ガ…………、ぁ…………」
喉を失い、言葉にならない血を吹きながら、男はただそれを眺める。つい先刻まで生きていた人間の四肢は引きちぎられ、ぶち撒けられた内臓がずるりと路地を濡らしていく。
それらを泥泥と貪り食う影は、背を丸め、もはや生物としての倫理的な輪郭すら保っていなかった。
京の夜に、蟲がざわめく————。
ということで、次話からが本編みたいなものです。
言い方が違うかもしれませんね、次回からFate(型月)の二次創作らしくなります。
もう、お分かりの方はお分かりですね! ええ、知らんけど。
ヒントは、作中の年代が文久3年(1863 年)ということです。
次回の章からは、新選組以外の人にも出ていただきましょう!
アンケートださせてもらった人よ、カモン!! ようやく出番だぞ!
ということで、ちょこっと豆知識いれときますか。
■土方歳三の生家と「石田散薬」
作中で斎藤がイジり、山南が乗っかった「石田散薬(いしださんやく)」は、土方歳三の実家(現在の東京都日野市石田)で実際に製造・販売されていた実在の薬なんですねー。
まぁ、そこまでは知っている人も多いでしょう。
なのでもう少し深掘りを。
石田散薬では、多摩川の支流に自生する「牛革草(ミゾソバ)」というものを原料とした骨折・打ち身に効く薬として、土方自身も若い頃に薬箱を担いで行商に回っていたんだそうです。ちなみに、この石田散薬は明治以降も広く親しまれ、なんと昭和20年代に薬事法の改正関連で製造を終了するまで、約250年間にわたり土方家で実際に作られ続けていたんですよ!