コードギアス Lost Colours 銀雪に輝く蒼   作:Akahoshi

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Stage04 折り紙

 朝から大変だった、とライは独り言ちる。

 ミレイと別れてリヴァルと校舎前で挨拶を交わしたまではよかった。だがその後、黒い人だかりに興味を持ち、そちらに行ったことが失敗だった。

 なぜだかカレンと話してから周囲にいる男子生徒から殺意を込めた視線を向けられるようになってしまったのだ。何か失礼なことをしてしまったのだろうか。

 ホームルームで担任に紹介された時も男子生徒から睨まれ続けたし、女子生徒からも妙な目線を送られた。

 なんとも居心地が悪い。

 主にリヴァルやシャーリーが気遣ってくれたが、それは1日中続いた。

 解放されたのは放課後だ。

 

 そして放課後は昨日同様、カレンと公園で待ち合わせてトウキョウ租界を案内されたのだが、そちらもある意味で大変だった。

 今日案内されたのはアパレルショップなどファッション関係の店。

 カレン曰く、ずっと制服で過ごすつもりか、とのこと。

 ライは制服以外には保護された時に身につけていたワイシャツとチノパンしか持っていなかった。正直それだけでもいいような気がしたが、彼女はダメだと言って聞いてくれなかった。

 どれだけ服や小物を見ても、何の知識も湧いて来なかったのだ。きっと記憶を失う前もファッションには興味がなかったのだろう。

 色々と巡って、最終的に大衆向けのブランド店で何着か購入した。自分が誘ったのだからとカレンが買ってくれようとしたが、生活資金としてミレイからいくらか貰っているので自腹である。

 

 ブランド店を後にして案内されたのは小物を売っている露店だった。

 店主は日本人──否、イレヴン──名誉ブリタニア人。

 その露店で売っていたのはぱっと見では分からないものの、よく見れば和風のように思えなくもないデザイン。

 どう?とカレンが尋ねるので、ライが不要だと首を横に振ると彼女は残念そうに顔を暗くした。

 

 今日はそこでカレンと別れた。

 朝に続いて失礼なことをして、今度は彼女を傷つけてしまったのだろうか。

 申し訳なく思いつつ明日からは誰に対してもより一層気をつけなければ、と改めながらライはクラブハウスをドアを開けた。

 クラブハウスは静寂に包まれていた。今日はまだそんな遅い時間ではない。

 誰もいないのかと怪訝に思いながら歩いていると、ダイニングルームから光が漏れていた。誰かいるじゃないか、と顔を出す。

 

「お兄様?」

 

 ライが顔を出すと同時に、寂しそうにひとり座っていたナナリーは弾かれたように顔をあげる。

 嬉しそうなその顔に罪悪感を抱きつつ訂正した。

 

「すまない。僕だ、ライだ」

「あっ……。すみません……お兄様と足音が似ていたので……」

 

 そう申し訳なさそうにナナリーは顔を俯かせた。

 

 ──その、ナナリーは──妹は目が不自由でね、その代わりに音とかに敏感なんだ……。

 

 今朝ルルーシュから言われていたことを思い出した。驚かさないで欲しいと言われていたのに、やってしまったとライは自責した。

 

「ルルーシュは、いないのか? 今はひとり?」

「はい……。お兄様は出掛けられました……。咲世子さんもアッシュフォード家のお仕事で少し前に外出されたので……」

 

 寂しそうな顔をしてナナリーは答える。

 咲世子さんとは、篠崎咲世子のことだ。アッシュフォード家に雇われ、クラブハウスで暮らすルルーシュとナナリーの世話をするメイドである。

 ライも咲世子とは会っており、クラブハウスで暮らすのだからと食事などの面倒を兄妹と一緒にみてくれることになったのだ。

 

「そうか……もし時間があるなら、僕の話し相手になってくれないかい?」

 

 沈んだナナリーをなぜか見ていられず、ライは思わずそんなことを提案してしまった。ルルーシュと勘違いさせてしまった詫びの意味もある。

 ナナリーは笑みを浮かべた。

 

「はい。どうぞ、お掛けください」

「ああ、ありがとう」

 

 ナナリーからの許しを受け、ライは彼女の前に腰掛ける。

 

「えっと、ここはどうですか? ご不便はございませんか?」

「大丈夫」

「今日から授業を受けられたんですよね? そちらは問題ないですか?」

「どの教科についても困ることはないな」

 

 問いに答えながら、その答えの内容にライは疑問を抱いた。

 確かにどの教科も理解に困ることはなかった。教科書を少し見ただけで、教科書以上の知識が頭の中に浮かんだのだ。

 理解の度合い、受けたであろう教育から何か記憶に繋がる手掛かりでもと思ったのだが、何も解らない。ファッションに疎い以外は満遍なく偏りのない知識。もっと色々なことを知っていけば、偏りが出てくるのだろうか。

 己のことは何一つ不明なままなのに、奇妙な脳だとライは眉間に皺を寄せる。

 

「そうですか。それはよかったです」

 

 ただそう言ってナナリーは自分のことのように安堵の笑みを浮かべる。

 自分もいつかは彼女のように笑みを浮かべることはできるだろうか。記憶を失う前の自分はあんな風に笑えていたのだろうか。

 ライはそんなことを思いながら、懐かしさを感じつつ不安から解放された。

 

「でも、もし何か困ったことがあれば、私やお兄様にご遠慮なく言ってくださいね」

「ああ、よろしく頼む」

「……」

「……」

 

 会話が終わってしまった。

 コミュニケーション能力に必要な知識はないのだろうかとライは己の脳は語りかけてみたが、どうやらないらしい。都合よくいかないかと肩を落とす。

 ほぼ初対面同士。会話の糸口が掴めない。

 しかし、話をしようと誘ったのはライだ。先に話を振らせてしまったのだから次はライの番だ。

 

「……いつもひとりの時とか、時間がある時は何をやっているんだ?」

「そうですね……折り紙を折っています」

「折り紙?」

「はい。紙を折って色々な動植物を作る日本伝統の遊びです。

 あっ! ライさん。もしよろしければ、一緒にやってみませんか?」

「そうだね。やってみよう」

「じゃあ今、紙をお持ちしますね」

 

 弾んだ声をあげ、ナナリーは色紙を取りに行ってしまった。

 割りとすぐに戻って来た彼女と先程までと同じように向かい合う。

 

「私が一度折ってみますから、見ていてくださいね」

 

 1枚色紙を手にしたナナリーがそう言って、レクチャーを始める。

 まず三角に折った後、更に三角に折る。そして袋になっているところを広げ、そこを潰すように四角に折り──

 色紙を折るナナリーの手に迷いはない。ゆっくりではあるものの、その手はかなりの自信があるようにライには見えた。

 目が見えない彼女が折り紙をマスターするのに、どれほど練習を重ね、努力してきたのだろうか。

 ライが僅かに思案に更けていると折り紙が完成したようだ。ナナリーが手渡してきたので素直に受け取る。

 彼女が作ったのは折り鶴だ。

 

「この鶴の他にも、花やメダル、兜などがあるんです」

「花、か……」

 

 折り鶴に触れながら、ライは徐に色紙を5枚手に取る。考えるよりも前に手が動き、赴くままに感覚で折って、できたものをそれぞれ組んで重ね合わせる。

 

「ライさん?」

 

 不思議そうにナナリーが尋ねる。ライが折っている間は邪魔をしないようにか静かにその音を聴いていたのだが、音がしなくなって話しかけても大丈夫だろうと思ったのだろう。

 

「ふと浮かんで……折ってみたんだが……」

 

 鶴の時とは反対に今度はライがナナリーに完成した折り紙を手渡す。

 

「花、ですよね? 何枚か重ねてあって……これは初めて触りました。何の花ですか?」

「たぶん、桜だと思う……」

「桜……。春に咲く日本の花ですね」

 

 興味深そうに折り紙の桜を触れるナナリーを余所に、ライはまた悩んでいた。

 なぜ折れたのだろうか。自然と手が動いた。紙も手に馴染んだ。だが授業の時とは違い、折り紙についての知識は湧いてこない。

 

「ライさん。この桜の折り方、教えてくださいますか?」

「ああ、うん。いいよ」

「お願いします!」

 

 お互い即答気味に答え、ライはナナリーの横に移動した。

 折っているところを見せるのが一番だが、目の見えないナナリーにそれはできない。口頭でもある程度は教えられるが、折り目を目印にしたりと少し複雑なところもあるので直接手を取って教えるしかない。

 

「5枚使って作るんだ。1枚ずつやっていこう」

「はい」

「まず半分に折って、そして上の1枚だけを更に半分折る」

「こうですか?」

「ああ、綺麗に折れてる。それから裏返しにして──」

 

 初めてのものでも折り紙自体に慣れているからか、特に変に曲がることなくナナリーは綺麗に上手に折れてる。折り目を目印にするところは手を取って直接位置を教え、触覚も感覚で覚えてもらう。

 無事に1枚目の花びらを折り終え、同じものをあと4つ同様に折る。そして花びらを5つを重ねて組み合わせれば完成だ。

 

「できました! どうですか? ちゃんと桜に見えますか?」

「ちゃんと桜だ」

 

 ふふっ、と嬉しそうにナナリーが笑う。ライも達成感のようなものを感じていた。

 次は1人で挑戦してみる、と彼女はもう一度色紙を5枚手にする。

 手を動かしながらナナリーはしっとりとした声で口を開く。

 

「きっと思い出せます。今は何も思い出さなくても、きっといつか。それに今だってすべてを忘れているわけではないのですから」

「……桜の折り方を手が覚えていたことか?」

「はい。脳が忘れてしまっていても、代わりに身体がちゃんと覚えています」

 

 身体の記憶。

 ライは自分が作った桜を凝視する。

 

「もしかしたら、他にも身体が覚えているものがあるかもしれませんね」

 

 ナナリーの言葉を受けて、ライは視線を己の手に移す。

 記憶を取り戻したい。自分が何者なのか知りたい。

 身体の記憶を頼りに、脳が失った記憶を探れるだろうか。やれるだけのことはやりたいと思った。

 己だけでなく、色々と心配して、手を差し伸べてくれる皆の恩に報いるためにも。

 

「スポーツとかはどうでしょうか? もし身体が覚えていたら、そのスポーツをやっていたことになりませんか? 大会などに出ていらしたら記録が残っているかもしれませんし、知っている方がどこかにいるかもしれません」

「そうだね。考えてみるよ」

 

 ナナリーの言うように、何かやってみるのも手かもしれないとライは思った。

 できあがった桜をナナリーは満足そうに触れている。

 それからは桜や鶴だけでなく色々な折った。ライの手が覚えているものを折れば、ナナリーは教えを請う。

 そうしているうちに、ルルーシュが帰って来た。

 

「お帰りなさい、お兄様!」

「お帰り」

「ただいま……」

 

 ナナリーと共に出迎えるとルルーシュは眉を顰めた。彼がライに送る視線は、今日一日男子生徒から向けられたそれに似たものを感じ取ってライは冷や汗をかく。

 また失礼なことをしてしまったのだろうかと焦る。さすがに3度目となればそのままにはできない。ライはすぐに謝罪した。

 

「すまない、ルルーシュ。何か失礼なことをしてしまっただろうか?」

「ん? いや、こっちこそすまない。ナナリーを見てもらって。ただナナリーが懐くのがやけに早いなと思って、兄として嫉妬しただけさ」

「お兄様! 懐くだなんて、それじゃあ子どもみたいで……」

 

 子ども扱いされたことを恥ずかしく感じたのか頬を微かに赤らめながらナナリーがルルーシュに抗議の声をあげる。そんなナナリーに笑って近づいたルルーシュは目線を彼女に合わせて顔を穏やかなものにする。

 

「帰るのが遅くなってすまない、ナナリー。もう遅いから部屋に行こうか」

 

 そういえばルルーシュはどこへ出掛けていたのかライは気になった。ナナリーの様子からしておそらく彼女に行き先も告げいないだろう。

 ナナリーは他人であるライの帰りが遅くなっても心配するというのだから、実兄の帰りが遅くなるのはもっと心配するのではないか。

 ただルルーシュも年頃だ。妹の前では話したくないことかもしれないとこの場で尋ねることは控えた。

 記憶とともに常識を失わなくてよかったと思った。

 

「それじゃあ、今日は助かった。おやすみ、ライ」

「ああ、二人ともおやすみ」

「おやすみなさい。あ、ライさん」

 

 挨拶を交わし、そのまま横を通り抜けだろうと思っていたところで呼びかけられたのでライもルルーシュも驚いて動きを止める。

 

「お守りとして持っていてはいかがですか?」

 

 そう言ってナナリーが差し出しているのは、折り紙の桜。ライが最初に折った折り紙だ。

 初めての記憶の手掛かり。

 確かに験担ぎとしていいかもしれない。

 

「そうしよう」

 

 彼女の目線に合わせるように膝をつき、ライは折り紙を受け取る。

 

 部屋へ向かったナナリーとルルーシュの背を見送り、ライは己の手にある記憶の手掛かりを見つめた。

 ナナリーは言っていた。折り紙は日本伝統の遊びだと。

 こうも言っていた。桜は春に咲く日本の花だと。

 どちらも日本のもの。

 それに今日は、カレンに和風のようにも見える小物を売っている露店に連れていかれた。和風もまた日本。

 偶然だとライは思ったが、偶然だからこそ少し運命的なものを感じた。

 自分は日本と関わりがあるのだろうか、と。

 日本──エリア11に対する知識はある。だが同じかそれ以上にブリタニアの知識もある。

 とにかく、時間がある時に調べてみようとライは思った。

 

 翌朝、昨日はどうだった?とミレイに問われ、カレンに失礼なことをして傷つけてしまったかもとは言えず、ナナリーと折り紙をしたと話したら〝ナナリーと折り紙の会大作戦〟がどうのと言われた。

 訳はわからなかったが、ミレイが楽しそうなのでライはよしとした。




 一応「折り紙 桜 折り方 切らない」で検索したのですが、見た瞬間折ってみようかなという気持ちが折れました(鶴さえまともに折れない人間)
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