コードギアス Lost Colours 銀雪に輝く蒼   作:Akahoshi

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Stage06 渡りに船

 間違った方法で手に入れた結果に意味はない。

 それが枢木スザクの信条であり、現在の行動理念だ。

 そう思うようになったきっかけは、7年前。日本とブリタニアが戦争をしていた時のこと。

 

 スザクの父は当時の──つまり日本最後の首相、枢木ゲンブ。

 当時、父とその側近たちはいつも厳しい顔をしていた。戦況が常にブリタニア側が優勢だったのだ。

 毎日。下手したら毎時間、日本軍がブリタニア軍に敗退したという情報が流れ込んで来る。

 それなのに父たちはマスコミには日本が優勢だと報じさせていた。軍部も同じ。この攻勢を続ければ、日本は勝てると国民に嘘をついていた。

 スザクの同級生どころか、同じ登校班だった近所の低学年の子たちでさえあり得ないと解っていたのに。

 戦争を仕掛けてきたブリタニアが悪いと分かっていたが、スザクの目には嘘をついてまで徹底抗戦を続ける父たちの方が悪なのではないかと映ってしまった。父が戦争をやめないからブリタニアもやめてくれないのだと思ってしまった。

 事実、そう捉えてしまっても仕方がない現場をスザクは目撃してしまったことがある。

 冷静な側近の1人が、徹底抗戦よりも余力を持った状態で降伏した方が国民のためだと父に進言したのだ。日本は世界最大のサクラダイト産出国。それをカードに交渉すれば植民地にはならないだろう、と。

 しかし父はその側近とはまったく取り合わず、進言した翌日からスザクはその側近を見なくなった。

 

 父が戦争を長引かせている。

 そう感じて悶々とストレスを抱えながら過ごしていたある日、ついにスザクは父と口論になった。

 

 そして……。

 

 スザクは父を果物ナイフで刺し、殺してしまった。

 

 カッとなってしまったのだろうか。それとも子どもながら何か考えがあったのだろうか。

 父を刺した果物ナイフはどこにあった物なのだろうか。

 父を刺した直後、己はどう行動したのか。大人たちに何と言ったのか。

 

 気付いた時にはスザクは己の武道の師である藤堂鏡志朗と枢木政権の影の立役者である桐原泰三に保護されていたのだが……。

 スザクは父を殺めてしまった前後の時のことを詳しくは覚えていない。

 

 父を悪だと思っていたが、それでもやはり父を殺めてしまったことはかなりの衝撃であり、己の心を守るため脳がその記憶を消してしまったのだった。

 ただ、父を殺めたという事実だけは忘れられなかったことは、スザクにとって幸福だったのか不幸だったのか。

 桐原により公には父は徹底抗戦を強行する軍部を鎮めるため自刃したということになった。桐原を信じて軍部が鎮まったことと、真の徹底抗戦強行派であった枢木ゲンブが亡くなったことで日本とブリタニアの戦争が終わることを信じて父殺しの事実からスザクは心を保っていたのだが……。

 

 父の死で確かに戦争は終わった。

 

 しかし、その結果が──父を殺すという間違った方法で得た結果が、土地も歴史も誇りも尊厳も何もかもが奪われたこのエリア11という最も間違ったもの。

 間違った方法では、間違った結果しか得られない。

 そう思い知った。

 それからは間違った方法というものをスザクは何よりも忌避している。

 信条や行動理念であるとスザク本人は思っているが、それは最早トラウマや強迫観念といった方が正しい。診る人がちゃんと診れば、何かしら病名がつく心理状態である。

 

 エリア11という間違った結果を生み出してしまった償いとして、スザクは名誉ブリタニア人となって軍に入る道を選んだ。

 なぜブリタニア側に、と同じ名誉ブリタニア人の軍人からも責められることは幾度もあった。

 本当に日本を想うのなら日本最後の首相の息子であり名家枢木家の嫡子として、旧日本軍が中心となり組織されているエリア11最大の反ブリタニア勢力──日本解放戦線の旗頭になるべきだと。

 だが、ブリタニアの占領下において日本──エリア11のルールはブリタニアのものが適応される。無理やり押し付けられたものだったとしても、ルールはルールだ。

 日本を解放するためには、ルールに則り行動してブリタニアを中から変えなければならない。ルールを破って外から無理やり変えようとすれば、それは間違った方法になってしまう。

 だから日本解放戦線などの反抗勢力として活動するよりもブリタニア軍人として行動した方が、正しい道だとスザクは思った。

 

 そう思ってはいても、現実は甘くはなかった。

 名誉ブリタニア人が大国ブリタニアを変えるほどの力を持てるはずがない。

 現実から目を逸らすためだけの叶うはずのない夢。

 理解者のいない、空虚な理想。

 

 諦めはしなかったが、押し潰されそうになる日々が年単位で続いた。

 

 しかしつい最近、その叶う見込みのなかった夢に少しばかり叶う可能性を見出せるようになった。

 

 ブリタニア軍特別派遣嚮導技術部こと通称〝特派〟によって生み出された世界初の第7世代の鋼鉄の騎馬──ナイトメアフレーム(Knight Mare Frame)、その名はランスロット。

 そのランスロットのデヴァイサー(パイロット)にスザクが選ばれたのだ。

 それがなぜ希望になったかというと、あることをスザクが知っていたからだ。

 

 ブリタニア皇帝直属の帝国最強十二騎士ナイトオブラウンズ。その中で唯一、他のナンバーより序列が上とされているナイトオブワンは、特権として任意のエリアのひとつを己の領地として皇帝から賜ることができる。

 つまりナイトオブワンになればブリタニアのルールに則って日本を解放できるかもしれないのだ。

 無論、生半可な実力と覚悟ではナイトオブワンに──否、ナイトオブラウンズになることすら難しいだろう。

 仮にナイトオブワンとなり日本を領地とした後も様々な問題が山積みであり、領地にすればすべてが解決というわけにいかないことも理解している。

 ナイトオブラウンズを目指すということはブリタニアの侵略の片棒を担ぎ、〝エリア11やイレヴン〟のような国や人々を増やすことに手を貸すことになるのも承知している。

 多くの人に恨まれるだろう。

 けれども、やっと見つけた夢への道。

 償いへの希望。

 逃すわけにはいかない。

 

 希望を見出せたことでスザクはやる気に満ち溢れていた。

 明確な目標ができたのだ。

 実現に向けて努力し、研鑽を重ねる。

 ナイトメア操縦技術と生身での白兵戦技術の向上。ナイトオブラウンズはナイトメア戦は勿論のこと白兵戦でも一流であるとのこと。

 前者はスザクの所属する特派のシミュレーターで行えるし、シミュレーションの中には鬼のような内容のものもあって訓練には申し分ない。

 しかし問題は後者。生身ではシミュレーターは使えないし、訓練をしてくれる相手もいない。

 ランスロットのデヴァイサー(パイロット)なのでスザクは戦場に出るが、特派の他の人たちは戦闘員ではない。腕っ節が強い人は1人いるが彼女も武術の心得があるわけではないので、組手などはできない。だが特派以外の軍人たちが名誉ブリタニア人であるスザクと組手などしてくれない。

 

 まあ、そのことについては後で上司に相談することとして、今は目の前に広げている勉強に集中しようとスザクはペンを握り直す。

 ここはアッシュフォード学園の図書室。

 そしてスザクの目の前にあるのは補習で出された課題の数々。

 軍で仕事をしている以上、何かあれば呼び出されるのでどうしても欠席や遅刻早退が多くなかってしまう。大変ではあるが、仕方のないことである。

 それに今のスザクにとって補修は有難いものでもあるのだ。

 

 補習のひとつに政治経済もあるのだ。

 アッシュフォード学園が貴族による経営で、貴族の子女も通う学校だからある教科。

 

 ナイトオブワンになりエリア11を──日本を領地として賜った後、政治経済は絶対に必要なもの。

 ナイトオブラウンズとしての任務が優先であろうが、そうでない時は為政者として腕を振るわなければならないのだから。

 だから付け焼き刃では駄目だ。

 しっかりと、日本人からだけではなくブリタニアや他の大国から見ても申し分ないものでなくてはならない。

 スザクがナイトオブワンではなくなった後も──死んだ後も自治権が認められるような社会を築かなくてはいけない。

 

 それらの想いを胸に1時間超テキストと格闘し、パタンと項垂れながらスザクは資料を閉じた。

 紛いなりにもスザクは首相の息子だったのだ。政治とは無縁ではなかったのでそれなりにイケるかと思っていたのだが、子どもの頃は政治家になる気がなかったこともあって真面目に勉強していなかったことに加え、日本が敗戦してからはまともな教育を受けられなかったことなど様々な要因が影響してうまく知識が蓄積されていかない。

 目頭を揉みつつ政治経済のテキストや資料を脇に寄せ、数学のテキストを目の前に移動させる。

 気分を変えるために政治経済ではなく、数学の勉強を開始した。

 なぜ勉強の気分転換に違う教科の勉強を?と不思議に思うだろう──スザクも知った時にそう思った──が、これはアッシュフォード学園に復学したばかりの時にルルーシュに教えてもらった方法である。

 彼曰く、気分転換に運動やテレビなんか見るとそちらに意識が行き過ぎて結局勉強をやらなくなってしまう可能性が高いから、気分転換に勉強とまったく違うことをやるのは誤りで、違う教科に取り掛かるのがベストだと言う。使う脳の部分が違うので充分に脳を休ませることができるし、文系から理系に教科を変えれば新鮮味があるから飽きが来ないのだそうだ。

 「このやり方なら短時間の家庭学習で無駄な時間を費やすことなく効率的に勉強ができるぞ」と自信満々にルルーシュが言うのでスザクも試してみたが……。

 

 それは勉強がかなりできる人のやり方ではなかろうかルルーシュ、とスザクは数学と約30分に及ぶ格闘の末に心の中でそう独り言ちた。

 一応そのやり方でもできなくはないが、スザクにとっての気分転換はやはり身体を動かすことだと思いながら伸びをする。

 周囲の人の迷惑にならないよう凝り固まってきた肩を回しながら何となしに目を辺りに配らせると、雪のような銀髪──ライの姿を認めた。

 ひとりなんて珍しい、と彼を眺める。

 彼の手には心理学だの精神医学だの難しい専門書があった。それらの専門書はさすがに授業や補習の範囲外であり、物好きな生徒や卒業生が寄贈したものらしい。

 だからそんな専門書を手にしているライをスザクは心配した。

 また記憶のことで悩んでいるのかもしれない、と。

 深く考えるよりも先に立ち上がり、ライの肩を叩いて声をかける。

 ミレイも言っていたが、なんだか放っておけないのだ。

 

「やあ、ライ。何か調べもの?」

「……スザク!?」

 

 小声ではあったが驚きの声をあげて目を見開くライ。

 驚いてはいるが、彼の右足は後ろに少し引いて間合いはしっかりと取っている。それに顔はスザクの方は正面を向けているが身体は斜め。

 驚きの声をあげている一瞬の間にライは無駄のない動きでそれを行っていた。

 やはり思っていた通りかもしれない、と思いつつまずは驚かせてしまったことを謝る。

 

「驚かせてしまってごめん。でも、君がびっくりしているところ初めて見たよ」

「そうか?」

「うん。すまなそうな顔とか困ったような顔はよく見るし、さっきも僕が話しかけるまで物凄く難しい顔をしていたけど、それ以外はあまり見ないから」

 

 表情を指摘するとライは目を伏せる。

 

「事情が事情だし仕方ないことだと思うよ。君がここに来てからまだ2週間も経ってないしね。

 でも、少しずつみんなの前でいろんな表情を出した方がいいと思う。意識して動かさないと表情筋が固くなって、動かなくなってしまうから」

「そうだな。あ、だが……ミレイさんから実技はまだ早いって言われていたな……」

「ミレイ会長? 実技?」

「ああ。表情が硬いと言われて……笑顔の先生になってくれると」

「そうなんだ。会長が先生なら大丈夫だね」

 

 ミレイの笑顔は向けられた者が安心できるものだとスザクも思っている。明朗な彼女の性格を目でも感じられるからだろう。

 ライが心理学などの専門書を手にしているのはそれの勉強だろうか、とあまりマイナスの方に考えないようにした。

 

「ところでスザクはここで何をしているんだ? 今日は仕事は休みか?」

「そう。まあ、呼び出しがあればすぐに行かなきゃいけないけど」

「技術職も大変なんだな」

「あ……うん、まあね……」

 

 ライはスザクが戦場に出ていることを知らない。否、彼だけでなくルルーシュにもナナリーにも知らせていない。

 心配させたくないから誰にも教えていないのだが、嘘をついてしまっていることに心を痛めた。

 スザク?と今度はライが心配そうに声をかける。

 

「──それで、休みを利用して課題をやっているところ。明日までに提出しないといけないのもあるから、資料があるここでやるのがいいんだ」

 

 頭の中で意識を切り替えてスザクは話を続けた。

 そうか、と返してライはスザクの背後に目を向ける。

 

「あのテーブルにあるのがその痕跡か。まだ全然終わってないんじゃないのか?」

「あっ……はは……。うん、実は……」

「……何か手伝えることはあるか?」

「えっと……。数学の……方程式でどうしても分からないことが……」

 

 ライからの申し出を有難く受けることにした。

 教材や資料が山のように積まれたテーブルへと戻り、ライが向かい側に座ってスザクが悩み続けていた方程式の解き方を説明する。

 

「ありがとう、ライ。すごい分かりやすかった」

「いや。役に立てたのならよかった。まだ勉強は続けるのか?」

「うん。時間がある時にやらないと」

「そうか。僕もここでこれを読んでいるから、また何か分からないことがあれば聞いてくれ。僕が分かる範囲のことなら教えられるから」

「本当にありがとう。助かるよ」

 

 ライの厚意にスザクは素直に頭を下げる。

 それから自分で解けない部分をライに助けてもらって、何とか明日までに提出しなければならない分は終わった。

 閉館時間ギリギリなので、図書室にはもう二人の影しかない。

 ライもスザクに勉強を教えながら数冊の専門書を読み終えていた。かなりページを捲る速度が速かったが、頭の良い彼のことだからちゃんと頭に内容は入っているのだろう。

 

「こんな時間まで付き合ってくれて本当にありがとう、ライ」

「君に恩を返せたのなら良かった」

「恩?」

「この前、気付かせてくれただろう。頼るということを」

 

 それくらい、と言いかけてスザクは口を噤む。ライにとってはきっと〝それくらい〟のことではなかったのだ。

 ならばスザクが返す言葉は……。

 

「どういたしまして。

 そうだ。今回のお礼っていえるほどのことになるか分からないけど……君について気付いたこと言ってもいいかな?」

「ああ、何でも言ってくれ」

「うん。もしかしたらなんだけど、君は格闘技の経験があるのかもしれない。間合いの取り方しか見てないから流派までは断言はできないけど、たぶん日本の古武術に近い思う」

「古武術?」

「今日もこの前も僕が呼びかけた時に右足を少し引いて間合いを取るように、相手に対して身体が斜めを向くように振り返ったんだ」

「そう、だったのか……?」

「自覚なしってことはきっとそうだ。無意識にできてしまうくらい身についているんだ」

「身体が記憶している……ということか」

「そうなるね」

 

 スザクが首肯するとライは考え混んでしまった。ただし難しい顔をしているわけではない。

 反応を急かすことではないと彼が再び口を開くのを静かに待つ。

 

「ナナリーに……」

 

 うん、と相槌を打ちライの言葉に耳を傾ける。

 

「記憶探しにスポーツもしてはどうかと言われて。身体が覚えている競技があれば、そこから何か分かるのかもしれない、と」

「たまに運動部の体験に入っていたのそれが理由だったんだ」

「ああ。今のところ身体が覚えていたスポーツはなかったんだが……そうか、武術か……。候補に入れていなかったな……」

 

 そしてまたライは考え混んで黙ってしまう。

 

「武術部はないよな……」

「さすがにね」

「……道場とかもないか……」

 

 武術ができるところを探しているようだ。記憶探しのために時折運動部の体験をしていたのだとしたら、身体が確実に覚えていることを体験したいと思うのは当然のこと。

 しかし、ブリタニアが武術の存続を許すはずもなく、それらを体験できる場所は残されていない。

 旧日本軍人の多い日本解放戦線ならば師範になれる人もいるかもしれないが、そのために友に道を外すようなことは勧められない。

 

「ねえ、ライ。君がもしよければなんだけど、僕の組手の相手をしてくれないかな? 組手していくうちに君の流派が何なのか気付けるかもしれない」

「分かるのか?」

「藤堂さ──僕の武術の先生がいろんな流派に精通していた人でね、これやってみたいって言ったらすぐに教えてくれたから、おかげで僕も結構詳しいんだ。君のが文書にもない一子相伝のものだったらさすがに分からないけど……」

「そうか……。お願いしてもいいか?」

「もちろん! というか、僕がお願いしてる方なんだけど……」

 

 ライの存在はスザクにとってまさに渡りに船だった。組手の相手を探している時に彼が現れたのだから。

 無論、自分のためだけに利用するつもりはない。

 ライに告げたようスザクなりに彼の過去に繋がるものをちゃんと見つけるつもりだ。




 ロスカラ特派ルートのスザクは割と早い段階から「ナイトオブワンになる」という目標をライに言っていたので、本作はそれを基にスザクの死にたがり度はアニメ本編より低くなっています。

 やりたいエピソード、やりたいシーン、やりたいやり取りまで持っていくのが思っていた以上に大変……。
 ナリタ……ナリタすら遠い……!

 誤字脱字を訂正しました。
 一辺に誤字脱字を発見したい…なぜ後々出てくるの…?
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