ウマ娘と辿る日本の歴史   作:ぶ狸

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お待たせしました。
一回目のお注射は左肩が上がらなくなり、身体がうっすらと発光する程度の副反応でした。タキオン製のワクチンらしいのですが……どこの国の会社なんでしょうか。
さておき、ようやく武士が武士らしくなって参ります。
共に武士達の夜明けを見届けましょう。


第9話「メイドインウマ娘 猛き武士達の黎明」上

 武士とは何か。

 仁義礼智を身に着け、素晴らしい武芸を持ち、正々堂々、質実剛健な人の中の人。花は桜木人は武士と謳われる存在。

 一理はあります。むしろ正しいのでしょう。

 しかし、忘れてはならないのは、武士には人とウマ娘の両者が存在したということです。人とウマ娘とではその精神構造は大部分が共通していますが、ある決定的なものが異なるのです。

 人はーー殊に日本人は義を重んじます。義は成すべきことを成すこと。行動の意味や正しさなど観念的なものです。道理と言っても良いでしょう。故に、日本人は法を超えた正しさを成すことを時に選択するのです。*1

 ウマ娘は、仁を求めます。仁とは、真心や人を愛することを指します。殊にトレーナーとの絆は何物にも代えがたく、たとえ富・地位・名声・力、この世のすべてと天秤にかけられたとしても、ウマ娘は絆を深めたトレーナーを寸毫の迷いもなく選ぶことはウマ娘ならば疑いの余地もないのです。あのマックイーンが、学食の限定モンブランであろうとも一度トレーナーが待ったをかければしぶしぶ諦めると言えばその鋼の意志は伺い知れるでしょう。

 ……ところで、ウマ娘には継承と呼ばれるものがあると知られています。それは異なる世界なのか、はたまた前世か、あるいは歴史の中にある残留思念か。ウマ娘は現実で得た経験以外の記憶や感情、技能を習得することがあります。これまでのデータでは、記憶の継承は極々稀な例外であり、一流選手となるウマ娘には技能の継承がもはや必須と言えます。あのハルウララに有馬記念1着を成し遂げさせたトレーナーも、継承無くしては勝利などありえないと申しています。では、ウマ娘の多くが継承してしまうものは何なのかと言えば、即ち感情です。理屈はわからないけれど、何となくこのレースに勝ちたいというものや、何故か惹かれる相手がいたりする理屈ではないもの。程度の差はあれども、かつて存在した名も知らぬ誰かの感情を、多くのウマ娘が継承するのです。

 で、平安時代です。前回でも触れたとおり当時は妻問婚であり、生態的な理由で正妻になり難いウマ娘よりも人間の女性に有利な結婚システムでした。それが8世紀から11世紀までの300年に渡り続いた結果、一見すると人とウマ娘とのバランスが成り立っていたように思えますが、実際には少しずつ澱が重なっていたのです。

 その澱とは、欲求不満です。

 ウマ娘は仁ーー人を愛することを何よりも尊びます。が、逆に言えば……愛した人以外はどうでも良くなるウマ娘は大変多いもの。仮にトレーナーが自分以外の人間やウマ娘と結ばれれば、もはや嫉妬などという可愛いものでは済みません。ウマ娘にとって、至上の価値を横取りするようなものはこの世にあってはならないのです。中には実力行使に及んだものも確認されます。*2

 そんなウマ娘は、300年間も我慢してきました。えらいですね。我が家なら一晩も持ちません。

 これも世のため人間さんのためと、ウマ娘は一番になりたい気持ちを押し殺してきたのですが、何事にも限界はあるもの。

 結果ーーウマ娘はハジけました。

 

「もう嫌だ! 私の夫に他のヒトミミなんか不要だ! 私だけを見てよ!(束縛)」

 

「理解できません。人間がウマ娘に勝てるはずがないのに。どうして私達は我慢してきたのでしょうか(ささやき)」

 

「どうして二人きりじゃだめなの? あなたには私だけでいいでしょ。何で人間の女も受け入れなきゃいけないの? ナンデナンデナンデ(独占力)」

 

 各地で高まるウマ娘の不満。気付いたときにはもう遅い。取り締まる者などいません。何故なら、取り締まる側の貴族や武士階級のウマ娘が真っ先に掛かってしまったのですから。*3

 危機感を持つには持った朝廷ですが、その腰は重いものでした。何も人死は今の所確認されず、被害といえば日本各地のそれなりに身分ある男性が強制うまぴょい被害にあっている程度です。

 

「触らぬウマ娘に祟りなし」

 

 それが朝廷を中心とした人間男性の回答であり、諦観であります。

 道長亡き後、ウマ娘を御しうる権威をもつ人間など時の天皇の他に存在せず、長らく実行力を失っていた天皇では全国のウマ娘を統率することなどできはしません。

 そもそも、この時代のウマ娘に愛国心なるものが明確に存在しているのかは甚だ疑問であります。もちろん、ミクロ的な解釈ーーすなわち国家とは個人の集合体であるが故に自分と指導人を愛することがひいては愛国心に繋がるという意味であれば間違い無くウマ娘は愛国心を持っています。しかしながら、マクロ的に国家という存在と指導人という個人を天秤にかけた時、迷うことなく指導人(すなわちトレーナー)を選ぶウマ娘が圧倒的に多いというのは現代でも日本の問題点としてしばしば挙げられます。自衛隊志望のウマ娘が毎年の如く定員割れを起こしていることはその証と言えるでしょう。彼女達は手の届かない大きな存在よりも、手の届く心を通わせた相手をこそ大事にしたがるのです。

 話を戻します。つまり、ウマ娘を真に統率するには心を通わせる指導人の存在が必要不可欠なのですが、朝廷は人口比のバランスや権力闘争にかまけた結果、ウマ娘の需要をすっかり下回ってしまい、かなりの欲求不満状態を300年間続けたわけです。

 まあ、爆発して当然であり、誰にも止められないのです。止めたら矛先が自分に向くのですから仕方ないね。

 この疾風怒濤の逆ぴょい時代は歴史から抹消され、まともな歴史に戻るには白河天皇が出家して法皇となり、

 

「おやおやおや、仏門に入ってしまうとうまぴょいできませんね。いやはや、かわいい君たちと触れ合えないのは残念ですがーーこれで夜明けを迎えることができます」

 

 と、掛かったウマ娘でさえぐうの音も出ない無敵モードとなり政治の実権を握るいわゆる院政を待たねばなりませんでした。

 これはウマ娘が武士として黎明に至る歴史。後に武士の祖と呼ばれる源義家の人生そのものです。

 さあ、武士達の夜明けを見ましょう。

 

 

 日本ウマ娘放送協会特別企画

 

 

 

 ウマ娘と辿る日本の歴史

 

 

 

 第9回「メイドインウマ娘 猛き武士達の黎明」

 

 

「こんばんは。今夜取り上げるのは前回に引き続き日本の代表的な存在である武士、または侍の黎明期であります。前回の平将門から源頼光にかけて武士としての体裁は整いつつありましたが、完全に私達の知る武士とはなり切れていない、いわば日付は変われども夜明け前の状態であります。今宵は、武士が武士となった夜明けの時を、源義家というウマ娘に着眼していこうと思います」

 

 そもそもはじまりの武士とは誰なのか。

 該当する人物はこれまでに5人登場しています。歴史の順で、坂上田村麻呂、平将門、藤原秀郷、源頼光。そして、源義家であります。

 彼らを一人ずつ整理していきましょう。

 まずは坂上田村麻呂。彼は武将ではありますが武士と定義するのは難しいでしょう。そもそも武士の始まりは坂上田村麻呂以降であり、彼自身中央貴族の一員でありました。武士以前の皇国の守護者、軍神として崇めるべきではありますが武士の祖とは言えません。

 次に、平将門と藤原秀郷です。この二人は後の関東武者へと繋がる重要な人物ではあるのですが、互いに致命的な欠落があります。まず、将門は反逆者であるという点です。武士に必要な忠義とは無縁であり、武士にカウントするには無理があります。トータこと秀郷に関しては、武士というよりも地方豪族の延長であり、彼女を武士の祖とする見解も見当たりません。

 最も武士に近付いてきたのはライコウちゃんこと源頼光でありますが、彼女にも致命的なものがあります。軍権を得られていない点です。彼女は基本的に地方の国司を務める貴族であり、役割的にも軍人というよりは道長直下の警察組織的であります。

 となると、軍人かつ武士としての要素(忠義等)を持ち得る人物こそ武士の祖と定義するのであれば、源義家が武士の祖と言えるのでは無いでしょうか。

 これを裏付けるように、後世の武士は源義家を神格化し、武士の祖として扱っています。これは鎌倉幕府や室町、江戸幕府が源氏の系譜を名乗っている関係上当然と言えるものですが、やはり武士からすると義家が祖であるというのが最も納得のいくものでありましょう。

 さて、場面を歴史の流れへと移します。

 1051年、またしても東北は荒れていました。

 かつて朝廷と敵対した後に帰属した蝦夷の民を俘虜と言うのですが、彼等を扇動する者が現れたのです。

 その名は安倍氏*4。元は東北とは縁もゆかりもない地方貴族ですが何を間違ったのか俘虜達の長を名乗り、朝廷への納税を拒否。当時の陸奥守・藤原登任が数千もの兵を率いて懲罰に臨みますがーーまさかの敗北。原因としてはいまだ反骨の気配が残り朝廷に従うのが癪に障るみちのくウマ娘達が安倍氏に味方したからだと言われていました。

 事態を重く見た朝廷は、河内源氏の源頼義*5が後任の陸奥守となり、田村麻呂以来伝統の武力をチラつかせつつ懐柔策に打って出ます。これは成功し、恩赦を得た安倍氏は朝廷との休戦と源氏との良い関係を築いていくかのよいにみえました。

 しかしーー1056年。結局戦が起きてしまいます。それも、日本史上最もしょうもない理由で……。

 

「我々は、かつて一人の英雄(阿弖流為)を失った。しかし、それは敗北を意味したのか? 否! 始まりだったのだ! ヤマト全土を治める朝廷に比べ、我が奥州の国力は30分の1以下である。にもかかわらず今日まで戦い抜いてこられたのは何故か? 諸君! 我がみちのくウマ娘の反乱目的が正義だからだ。これは諸君らが一番知っている。我々は故郷を追われ、蝦夷地や山の奥深くに追いやられていた。そして、一握りの貴族らが東北にまで膨れ上がった朝廷を支配して300余年、この地に住む我々が自由恋愛を要求して何度踏みにじられたか。私が掲げるウマ娘一人一人の自由のための戦いを神様仏様が見捨てるはずはない。それはそうとして、私の指導人くん! 諸君らも可愛がっていた指導人くんと私は結ばれなかった。何故だ(涙)」

 

(((知らねぇよ……)))

 

「坊やだからさ(意訳:流石に毛も生えていないショタはマズかったのでは?)」

 

「坊やに恋したのではない! 好きになったのがたまたま少年の指導人くんだっただけだ! ともかく、諸君の母も、祖母も、朝廷の無思慮な思惑の前に袖に涙してきたのだ! この悲しみも怒りも忘れてはならない! それを、私の指導者さんは! 失恋をもって我々に示してくれた! 我々は今、この怒りを結集し、朝廷軍に叩きつけて、初めて真の勝利を得ることができる。この勝利こそ、全て報われなかった恋への最大の慰めとなる」

 

(((そうかな……そうかも……)))

 

「人間さんよ立て(意味深)! かなしみをうまだっちに変えて、立てよ人間さん! 我らみちのくウマ娘こそ選ばれしお嫁さんであることを忘れないでほしいのだ。優良種である我らこそ人類を救い得るのである。う〜、うまだっち!」

 

「「「う〜、すきだっち!」」」

 

「「「うまぴょい!」」」

 

「「「うまぴょい!」」」

 

 後に前九年の役と言われる反乱は、陸奥国の豪族で朝廷に帰属したみちのくウマ娘の長である安倍貞任の失恋により再び動き出したのです。自棄になった貞任は陸奥国の国司で河内源氏の棟梁でもある源頼義の配下を襲撃。独立とまでは言わないまでも朝廷に弓を引く形になりました。

 運の悪いことに頼義は疑心暗鬼に陥り、自軍にいたが貞任とは義理の兄弟である平永衡を讒言を信じて殺害。同じく義理の兄弟であった藤原清経を安倍氏に寝返らせる結果を生み、源氏側は結束力を欠きます。これを阿久利川事件といいます。

 これに危機感を覚えた源氏は再びみちのくウマ娘に調略をかけるのですが……

 

「安いですわよー!  安いですわよー! 取れたての桃に林檎がお買い得ですわよー! しかも今ならもれなく源氏の一党になれる特典付きですわー! さあ、そこの貴方! いかがです!?」

 

「おいしー! なぁにこの赤い果物!」

 

「ここを林檎農園とする(津軽ウマ娘)」

 

「源氏になる! ゲンジバンザイ!」

 

 これがうまくいってしまうのです。

 未知なる甘味に惹かれたみちのくウマ娘達はふらふらと源氏に与し、安倍氏は大打撃を受けます。ちなみに、観賞用ではありましたが林檎の一部品種が平安時代に日本に到来していたりします。

 さらに、源氏は安倍氏の長である安倍頼時に伏兵を仕掛け、これを討ち取りました。

 これで問題は解決したかのように思えましたが……そうは歴史が許さない。むしろ頼時は殺さないほうが良かったのではないでしょうか。何故ならば、母が死ねば次に出てくるのは、ヤツだからです。

 

「この奥州の地は、みちのくウマ娘と少ない指導人さんの混在する、きわめて不安定な物である。それも、過去の戦争で帰属した俘虜の為に急遽、取り繕われた物だからだ。しかも、朝廷が俘虜に対して行った施策はここまでで、住む場所さえ作ればよしとして、彼らは都に引きこもり、我々に指導人さんをお届けすることさえしなかったのである。かつての英雄、阿弖流為様が自由を朝廷に要求した時、朝廷の反応は冷ややかなものであった。そしてその阿弖流為様はウマ娘を纏め、朝廷に独立戦争を仕掛けたのである*6

その結果は諸君らが知っている通り、阿弖流為様の敗北に終わった。それはいい。田村麻呂と鈴鹿御前は強かった。すごい。

しかしその結果、朝廷は増長し、我等も称えた田村麻呂の鍛えた軍隊を解体したに飽き足らず、平将門のような反逆者を生み、靺鞨の残党を騙る刀伊の入寇さえ許した。

これが、今や鈴鹿御前が如き脚の見る影もない絶不調の大和ウマ娘が辿った歴史である!

ここに至って私は、ウマ娘が今後、絶対にやる気低下を繰り返さないようにすべきだと確信したのである! 偏頭痛や寝不足など論外だ。

それが、ここに本格的反抗作戦を行う真の目的である。

諸君、自らの道を拓く為、全てのウマ娘のための政治を手に入れる為に、あと一息! 諸君らの力を私に貸していただきたい!

そして私は、英雄阿弖流為様のもとに召されるであろう!」

 

 跡を継いだのは安倍貞任。

 彼女は大演説をかますと兵を集め、何と4000騎も集ったのです。対する源氏には予想外の事態が起こっていました。調略のために資金を使い果たし、頼時を討ち取った功による恩賞を期待するも、朝廷がまさかの出し渋り。結果、源氏の調略は完全に止まってしまったのです。

 

「もう美味しいものくれないの?」

 

「なら源氏やめる」

 

「帰れ、帰れ、ヤマトに帰れ!」

 

 みちのくウマ娘に総スカンを食らった源氏には国衛の兵士約2000人と、源氏のウマ娘500騎程度しか残りませんでした。相手は4000騎のウマ娘ーー戦力の差は決定的です。おまけに、屈強な国衙の兵士達2000人が集まっていると聞き、安倍氏側のウマ娘達は生唾を飲まざるを得ません。

 時期も悪かったでしょう。この時は旧暦の11月と言われ、現在で言えば冬の真っ盛り。東北では例年通り大雪となるのですが、これにより源氏軍は思うような動きができません。さらに、冬籠りは家にひきこもり人肌で温まりからのうまぴょいが由緒正しきみちのくウマ娘の倣い。気分的にはクリスマス直前に街コン会場が出現したようなものです。

 

「え!? わざわざ指導人適正のある人間さんを集めてくれたんですか? やったー!」

 

「ありがたや、ありがたや。私達にも指導人さんができるんですね!」

 

「婚活会場はこちらですか?」

 

「源氏は500で2000の人間さんを囲っていたの? 何それうらやまーーコホン、由々しき事態です。彼等は私達が適切に保護せねばなりませんね」

 

「けど二人で共有しなきゃ足りないね。やだなぁ……私だけの指導人さんが欲しいなぁ」

 

「タリナイ」

 

「ニンゲンさん、こっちにおいでよ〜。大丈夫、怖くないよ〜。ちょっと私の実家に連れて行くだけだからね〜」

 

「けど源氏のウマ娘は邪魔だなぁ……いらなくない?」

 

「イラナイ、イラナイ。人間さんはワタシタチだけのものだ」

 

「ニンゲンさんもーーワタシたちと一緒のほうがシアワセなんだから」

 

「そうだよ。ワタシタチガニンゲンさんをシアワセにするんだ。他のウマ娘やヒトミミ女なんか、イラナイ。キエロ、キエロ、キエロ」

 

 黄海(きうみ)の戦いと言われる源氏と安倍氏の合戦は安倍氏の圧勝に終わり、源氏は僅か6騎しか生き残れず、頼義と義家の母娘もまた這々の体で逃げおおせました。

 残された国衙の兵たちがどうなったかは……いうまでもないでしょう。しかし、ウマ娘達の欲求に歯止めはかかりません。

 

「タリナイ、タリナイ。ニンゲンさんがタリナイ」

 

「指導人サン……ドコ? ワタシダケヲミテクレル指導人サンーー」

 

「タリナイ、タリナイ、ナリタタイシン」

 

「あ、わかっちゃった〜。指導人ちゃんがいないなら……こっちから迎えに行けば良いんだよ!」

 

「「「その手があったか!」」」

 

 その手があったかーーじゃない!

 しかし安倍氏は衣川の南にまで勢力を伸ばし、陸奥国の人々は朝廷ではなく安倍氏に税を収める始末。まさにウマ娘とっては我が世の春。辺りから男性を拐い、毎晩毎晩うまぴょい、うまぴょい! 後に奥州17万騎とも言われるウマ娘軍団へと繋がる土壌が生まれたのです。

 一方、源氏側は東北方面で全く信用を失ってしまったため兵が集まらず、関東や東海地方を中心に味方を募りますがーー駄目。あの手この手で募集しているうちに、気づけば1062年……開戦から12年が経ってしまいました。おや、前九年の役なのに9年で終わってないのではと思ったとあなた。そのとおりです。実は前九年の役は、元々歴史書には奥州十二年合戦と書かれていました。ところが、後に成立した軍記物語では何故か前九年の役とされ定着してしまった普通に間違いの名称なのです*7。一説には軍記物語の作者が頭バクシンしており、奥州十二年合戦から全く別物の後三年の役を勝手に引き算し、9年にしてしまったというものがあります。

 ともかく、奥州の地は12年に渡りウマ娘が我が世の春を愉しむ一種の独立地帯となったのであります。この時、義家は21歳。命からがら逃げのびてから6年の月日が流れ、始まりの武士の長く苦しい忍耐の時でありました。

 

 

「解説には津軽祈手大学院助教授のヨアケノハナさんにお越しいただいています。今日はよろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします」

 

「ハナさん、東北のウマ娘はそれほど東北の地に来てからさほど経っていない安倍氏に従っていますが、これは何故なのでしょうか」

 

「はい。まず東北のみちのくウマ娘といっても決して一枚岩ではないことに注目しなければなりません。安倍氏が治めたのは陸奥国の中でも現在の岩手県が中心であります。そこから婚姻関係の構築を中心に勢力を広げたと言います。俘虜長を名乗ったのも、婚姻関係の中でみちのくウマ娘が親族に増えたから自称したのであって正式に与えられた役職では無く、出羽国で勢力を持つ清原氏等からは『何いってんだこいつ』的なイタいものを見る目で見られていました。しかし、だからこそ安倍氏は血縁によって強固な結束力を持っていました。これが長所でもあり短所にもなったわけですね」

 

「なるほど。血縁者からは絶大な忠誠心を得ますが、それ以外からはさほどではない。だからこそ源氏は当初調略で過去との解決を計り、うまく行きかけたのですね」

 

「はい。はっきり言って安倍氏は、朝廷への反乱だとか事を大きく考えていたとは思えません。むしろ無計画で、なし崩し的にそうなっただけど言えます。源氏との関係も予想外の失恋事件が無ければ起こらなかったでしょうし、そろ失恋事件も当時のウマ娘にとって欲求不満という時限爆弾が爆発したようなものであり、源氏の失策ではなく、日本全体の問題が表面化したものでした」

 

「我々からすればそこまで大事になるかといいたくなる動機ですが……再現映像を見る限りかなり溜まっていたというか、飢えていましたね。あの目、あのオーラ……2ヶ月の海外支局への出張後に帰宅した時に玄関で待っていた妻を思い出しますよ。あれは本当に……死ぬかと思いました」

 

「お熱いようですなによりです。ともかく、みちのくウマ娘と安倍氏の利害が一致したと言うべきでしょうか。今までの徹底管理されていた婚姻関係ではなくもっと自由な恋愛がしたい。というかパートナーたる人間男性を独占したいという欲望が爆発した結果、これといった叛意が無いにも関わらず目的の共有による謎の連帯感が生まれ、その他関東から東北、近畿にかけてもウマ娘達は『わかる』と言って源氏に従えなかったのです」

 

「そもそも討伐側の源氏もウマ娘で、多くのウマ娘からすれば同じウマ娘であるにも関わらず専属の指導人がいる、いわばリア充ですからね。確かにそんな方についていこうとは思えず、また源氏からしてもみちのくウマ娘に対して『わかる』と思っちゃったんじゃないですかね」

 

「そうです、そうです。この溜まりに溜まった鬱憤が下火になるまで、結局6年もかかったわけですよ。それまでは毎日毎日うまぴょいうまぴょいですから……まあ、増えますよね。人口が」

 

「ですね」

 

「ウマ娘からはウマ娘しか産まれませんし、毎年毎年ウマ娘が増え続けたら流石に頭バクシンオーでも気付くわけですよ。あれ、もしかして人間さん足りなくないか、と」

 

「分かっちゃったか〜」

 

「で、掛かりが終わったら途端に冷静になり、逆にどう落とし前をつけるのかを模索し始めます。これが1062年時点の情勢なのです」

 

「何というか……その場の勢いで始まって、勢いが収まったからどうにかしようとしている……いや、本当に、最初に源氏への資金援助が途切れなければ解決したんじゃないですか」

 

「間違い無くそうですね。源氏が男性の供給やら何やらをすればそもそもみちのくウマ娘がわざわざ反旗を翻す理由は消滅しますし、安倍氏は適当に滅亡していたんじゃないですかね。つまり、朝廷が源氏に送るべきだったのはみちのくウマ娘とうまぴょいしてもOKな一般男性だったんだよ!」

 

「ナンダッテー」

 

「実際、黄海の戦いで人間男性を供給できてから明らかに侵攻速度が落ち、守りに入っています。その時点で彼女たちの優先順序が見えますよね」

 

「土地とか権力とかではなく、男性目的とは……フン族のこと何も言えませんね」

 

「あそこまで逆ぴょいできれば何でも良いってほど開き直ってはいませんけどね。むしろ恋する乙女の集合体みたいな組織だったので、捕らえられた男性は本当に大事にされていますよ」

 

「このあたりの謎の人権意識の高さって本当に何なんですかね。最近思うのですが、平安の武士って蛮族とかではなく、単に滅茶苦茶強かった恋する乙女なんじゃないですかね。そりゃ無敵ですよね……ハハ」

 

「武士階級のウマ娘に関してはあながち間違いではないですね。さらに、鎌倉武士からは平安武士には一応搭載されていた『敵への情』というものがオミットされ、謎の概念『誉』がインストールされるので余計に深淵から来たナニカへと変貌していくわけです」

 

「人間の武士はあれですか。深淵を覗いて深淵に落ちてしまい、ウマ娘と一緒にヒャッハー化しつつウマ娘と同じ規律を身に着け、彼女達の力に対抗すべく技を研ぎ澄ませた方々と言うことですね。……ニチアサ的に言えば技の人間、力のウマ娘。ふたりは武士キュア♡サムライハートなんですか」

 

「そのとおりです」

 

「色々と歴史を辿ってきましたが、これだけは言えます。武士にだけはなりたくないでござる」

*1
かと言って人治主義ではなく、法を破ったペナルティは受けて然るべきという基本は法治主義である点も特徴的ですね。要するに法を超えた例外の存在を国民性として認めているけれども、それはそれこれはこれと割り切ってしまう。むしろ罪は罪として受け入れることに滅びの美学を感じ、ご都合主義のハッピーエンドに興醒めするあたり、国民性として愉悦部や曇らせ隊なのでは……。

*2
例:鈴鹿御前。

*3
逆に言えば農民などの一般ウマ娘は特に関係なかった。彼女達は人口のバランスなど考えることなく(賢さG)愛する者とうまぴょいし、人口比のウマ娘の割合を増大させ続けた。バランス崩壊しなかったのは偏に人間女性の努力と、その後の度重なる戦争によりはものでしょう。人間男性? 彼等ならその辺で干からびていますよ。

*4
眉唾ですが、安倍元首相はこの一族の末裔らしいですね。

*5
ライコウの姪っ子にあたるウマ娘。

*6
阿弖流為「え、そうなの?」

*7
教科書は1192年とか聖徳太子とか坂本龍馬とかにイチャモンつける前に明らかに間違っている名称を変えないあたり、何考えているのか私には分かりません。




執筆にあたって前九年の役を調べましたが……???となることのオンパレードでした。

筆者「さあ今日も執筆だ。このごろ遅れてばっかだからな。書きたいな〜、次は間に合うかな。お、前九年の役?」

前九年の役
・別に安倍氏は東北土着の豪族ではないっぽい。
・原因の一つが安倍氏の次期棟梁がフラれたから。
・割と源氏が勝てそうだったのに資金が底をつき一転攻勢。金出してやれよ朝廷……。
・長引いた原因は兵が集まらなかった準備期間のせい。代打は何の役にも立たず結局源氏がやることに。
・なお恩賞はあげません! ……あの、御恩と奉公。
・そもそも9年で終わってない。

筆者「……なぁにこれえ」

所感ーー軍事には相応の対価を払いましょう。渋っても時間と労力で結局高く付くだけです。
それにしても平和ボケしたのか、貴族の頭がハッピーミークなのか、軍事を疎かにし過ぎています。一体何を考えていたのでしょう。
こんなのが続けば承久の乱で誰も朝廷の味方なんかしませんよ。


以下どうでも良い裏設定。
松平アナの奥様(ウマ娘)は小柄ながらも現役時代他のウマ娘がドン引きするほど強かったそうな。なお、中央での勝利数の記録は今でも破られていない。
現在は高校教師で、大昔にURAといざこざがあってウマ娘のOB会等の集まりには一切出席していない。そのためクリフジ等のレジェンド級ウマ娘から「どうにかしろ(訳:今年こそ彼女を顕彰バに選ばなければダートに埋める)」と幹事(カイチョー)とその補佐(TDNさん)が毎回圧をかけられている。なお、OB会は退役軍人会のようなもの。
松平アナも本当なら母の跡をついでトレーナーになれたかもしれないが、母と後の奥様とURAの間に起きたいざこざにより道を断たれている。
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