ウマ娘と辿る日本の歴史   作:ぶ狸

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大変お待たせしました。
今話以降しばらく大変曇らせる内容となります。ご注意ください。また、元寇辺りまで史実や通説とは大きく隔たると思います……おのれ白河院。だいたいコイツのせいです。
私生活が忙しかったのもありますが、筆者は「曇らせ苦手」のスキル持ちなので筆が進まない進まない……ギャグ欠乏症で筆者は死んでしまいそうです。乙巳の変?ナンノコトヤラ。
そして今回……全何話になるのか私にも検討がつきません。推定、5〜6。まさかのゴルシ超え。どうしても大河がよぎってしまい冗長になりますが、ご了承ください。


第10回「平氏と源氏 〜ヒトとウマ娘の誓い〜」その1

 エジプト、アブ・シンデル神殿。偉大なるファラオ、ラムセス2世が建造した壮大な神殿に描かれた壁画*1には、古代の大国にとってウマ娘はどのような存在であったのか読み取れるものがあります。それは、人間よりも大きな存在として描かれたウマ娘たちの姿。走る姿にエールを送っている人間は、小さく描かれています。そんな中、ウマ娘よりやや大きく描かれている二人。ラムセス2世と、王妃ネフェルタリです。

 エジプト王国はヒッタイト帝国と並ぶ紀元前において最大のウマ娘大国と知られていますが、明確にウマ娘を人間よりも上位の存在として描き、愛バにして戦友……何より最愛の王妃ネフェルタリを神そのものである自らと対等の存在として描く。これが後世の後付ではなく建築王の異名を取るラムセス2世自らの指示によりそのように描かれたまま神殿が作られたことから、人とウマ娘ではウマ娘上位で扱われる国が存在したことが分かります。

 一方、エジプト王国最大の宿敵にして最古のトレーナーの誉れ高い「キックリ」を排出したヒッタイト帝国でもウマ娘は人類にとって最愛の存在であると謳い、世界最古の平和条約たる「カデシュの条約」にも次のような文言が残っています。

 

 我々の平和と友好関係は永久に守られるであろう。ーーヒッタイトの子とその子孫は偉大なる主の子とその子孫の間も平和であろう。なぜなら、彼らも平和と友好関係を守り、共にウマ娘を愛しているからである。

 

 このように太古の昔においてウマ娘は人間と対等以上……最愛の存在として蜜月の時を重ねました。

 事態が一変するのはウマ娘大国であった2国が衰退してからです。神が定めた神聖な生き物の中にウマ娘は含まれず、人や、ましてや牛や山羊にも劣る存在として忌避されていました。それを打破ろうとウマ娘を含めた全ての人類への愛を説いた救世主は十字架に架けられ、意思を継いだ弟子たちも一人、また一人と殉教を遂げてゆきます。いつしか纏められた教典には本当に救世主の弟子たる最後の使徒ヨハネの筆かも定かでない黙示録が聖典に加わり、あまつさえその中には「7つの冠を戴くこの世で最も淫らで忌まわしい獣、大地を駆ける大淫婦バビロン」というウマ娘の特徴を持つ存在が描かれるなど救世主の教えは歪められ、遂には長きに渡る西洋のウマ娘暗黒時代を迎えたのです。

 この影響は現代にも残っており、日本が誇る七冠ウマ娘「皇帝」シンボリルドルフが欧州遠征を計画した際にフランスやイギリスをはじめとする国々は挑戦者ルドルフを「歓迎しよう、盛大にな」と好意的に報じましたが……一部では、七冠であるから「侵略する東洋からの獣」、「Tyrant Coming (暴君来たる)」などの侮蔑的な報道が出るという根深い差別意識を感じさせるものもありました。*2

 では全て人間が悪いかといえばそうではなく、ウマ娘の民族国家を率いたアッツィラ女王による通称「婚活戦争」による男性の略奪など人間や一般ウマ娘からすればたまったものではない略奪行為を頻繁に行っております、彼女たちが通ったあとには新芽(ショタ)枯れ葉(シジイ)も残らぬと言われるほど文字通り蹂躙されていたのです。中世キリスト教世界の一部でウマ娘が「嫉妬」と「色欲」、「憤怒」の象徴となる幻獣や悪魔のモデルにさらるのもむべなるかな。

 あれよあれよと、どっちも良い悪いを繰り返して幾星霜、日本にもとうとう関係性を見直すターニングポイントがやってまいりました。

 ウマ娘に人間が必要なのか……。

 それとも、人間にウマ娘が必要なのか。

 人間とウマ娘の歴史は長く、互いに持ちつ持たれつ、時に争い、時にうまぴょい、時にバブみを感じてオギャってでちゅね遊びをせんとや生まれけむ……私は一体何を読まされているのでしょうか。

 武士となったウマ娘による自由な社会か。

 それとも人間主体の管理社会か。

 夜明けを目論む平安の物の怪、白河法皇。彼が果たしてどこまで考えていたのか。その答えは誰にもわかりません。しかし、夢は誰にも止められない。今、幾つもの夢が横一線に走り出す躍動の世に、新たな星が現れます。あなたの夢は自由か、それとも安寧か。

 それともーー

 

 

 日本ウマ娘放送協会特別企画

 

 

 ウマ娘と辿る日本の歴史

 

 

 第10回「平氏と源氏 ヒトとウマ娘の誓い」

 

 

「……こんばんは。秋の夜長の頃となりましたが、今夜もやって参りましたウマ娘と辿る日本の歴史。司会の松平でございます。主役は平清盛。かつては悪逆非道とも言われた人物として長らく評価されなかったのですが、資料解析が進むにつれてその人物像は定説とは大きな隔たりがあるものだと明らかになってきました。なぜ、彼の存在は貶められたのか、そして歴史おいてどのような役割を果たしたのかを辿ります。解説には、前回に引き続きヨアケノハナさんです。よろしくお願いいたします」

 

「よろしくお願いします。ところで、何か壮大に見えて内容は6割くらいうまぴょいのことしか言ってないパカな前置きは何だったのですか?」

 

「……私が知りたいです。ディレクターさんは後でOHANASIがありますから出頭するように。まあ、内輪のことは置いておきまして本編に入っていきましょう」

 

 平清盛ーー彼は果たして何者なのか。

 通説では平忠盛の嫡男とされていますが、平家物語や一部の資料では白河院のご落胤ではないかとの噂がついて回ります。そして、多くの資料が発見されるにつれて真相はより悍ましいものであると発覚したのです。

 結論から言えば、清盛は白河院の子でした。しかし、武士化したウマ娘による新たな時代の夜明けを前に、白河院は跡取りにもならない子を孕んだ愛人を処分しようとしたところ、愛人は脱走。そこを偶然にも保護したのが平忠盛だと言うのです。

 忠盛からすれば恋人を陰謀で殺した憎悪する男の愛人と子であり、助ける道理など無かったのですが、彼にとってこの出会いは天啓だったのです。

 忠盛は恋人であった義忠を失って以降異性を近付けず周囲から奇特な目で見られていましたが、仮初の結婚であろうとどうにも義忠以外の女性を受け入れることができない。さりとて白河院の計画を破壊し復讐を果たすには自分一人の代ではおそらく不可能という計算もある。父も母も親族一同身を固めろとうるさい。黙ってくれ、俺の伴侶は永遠に独りだけだと伝えても「棟梁としての義務を果たせ」の一点張り。いい加減疲れてきていました。

 そこに、偶然にも助けた今にも死にそうな傷を負った身なりだけは上等な腹の大きな女官。訳を聞けば、腹の中には憎い憎い白河院の子。そんな厄介すぎる案件を忠盛は女を実は隠していた自らの恋人で、野盗に襲われたとして屋敷に迎え入れ、腹の子を自らの子として産ませたのです。

 今まさに息を引き取らんとする女に忠盛は心からの感謝を告げました。

 

「ありがとう。私にこの子を授けてくれて本当にありがとう」

 

 込められた意味を知らぬまま女は安堵して死に、清盛は忠盛の子として育てられたのです。その後、忠盛は5年をかけて周囲の説得により人間の後妻を迎え、子を設けましたが、嫡男の座には変わらず清盛を据え続けました。

 忠盛曰く、「奴自身の子によって計画を破壊してこそ我が半身の無念は晴れる。そのためならば棟梁の座くらいはくれてやる」とのこと。訝しむ平氏の中には真相にたどり着く者もいましたが、忠盛により入念な箝口令が敷かれました。

 愛情は無く、居場所もない。あるのは憎悪と疎外感のみ。そんな清盛の境遇を哀れんだのは、白河院の愛人の一人で舞踊の達人であるウマ娘、祇園女御でした。彼女は清盛の生母と親交があり、清盛の顔立ちと匂いで友人の子であると見抜くなど、忠盛は隠しているつもりでも清盛の出自について知っている者は存在したのです。

 宮中に参内するようになったときの所作や舞踊を教えるという名目と自らの庇護下にあることを示すため清盛は幼少期の多くを祇園女御の元で過ごしたと言われます。

 そんな祇園女御が清盛を始めて見た時に抱いたのは、一切の希望のない目をしているというものでした。

 

「何て目をさせてしまったの……」

 

「? 祇園女御様、どうしたのですか」

 

「いいえ……平太*3くん。これから一緒に踊りや色々なことを勉強しましょうね」

 

 無理を強いず、時間をかけて祇園女御は清盛と接します。今まで愛情を知らない清盛は戸惑いますが、いつしか心を許して年相応の笑顔を見せるようになってきました。

 舞踊の教えの合間、一緒に学ぶ他のウマ娘と戯れる清盛を見て祇園女御は思い浮かんだ言葉を口ずさみます。

 

 遊びをせんとや生まれけむ。(遊ぶために生まれてきたのかな)

 戯れせんとや生まれけむ。(戯れるために生まれてきたのかな)

 遊ぶ子供の声聞けば、(遊んでいる子どもたちの笑い声を聞くと)

 我が身さえこそ揺るがるれ。(私もなんだか楽しくなってしまうの)

 

「祇園女御様、今の歌は?」

 

「うふふ、あなた達を見ていたら歌ができてしまったわ。人もウマ娘も、ずっと、ずっと楽しく生きていけたら良いのにね」

 

 ウマ娘と楽しく生きる。

 祇園女御が思うまま口にしたそれは清盛の心に大きく印象づき、自らに幸福を教えてくれたウマ娘と楽しく生きられる世を彼は願うようになるのです。

 人並みの幸福を知ったからこそ、清盛はふと疑問に思うことも出てきました。

 

「それにしても、祇園女御様やウマ娘は私を温かく見てくれるのに、どうして父上は無関心で、母上やうちの他のみんなはまるで邪魔者みたいに見てきたのだろう」

 

「……」

 

 全く悪気無く、心底分からないことをある意味母以上に慕う祇園女御へと愚痴程度のつもりで口にした一言は彼女をひどい罪悪感へと誘いました。

 この時、清盛は11歳。まだ生まれの秘密を知らなかったのです。祇園女御は白河院や忠盛から概ねの事情を知っておりいつか忠盛から話すだろうと思っていましたが、どうにもその線が薄く思えます。

 悪意ある者に告げられるくらいなら、せめて私がーーと、祇園女御は真実を清盛へと語りました。

 

「清盛、落ち着いて聞いてください。あなたの本当の父親はーー」

 

 真実を知った清盛の心中たるや、如何に。

 気がつけば、屋敷を飛び出してあてもなく郊外にまで走り抜けていました。気付けば月夜になるまで走り続け、大の字に倒れた彼は思うまま叫びました。

 

「私は……誰だ。私は忌み子なのか。生まれてはならなかったのか。誰を父と呼べば良い。私は誰だ! 誰なんだ! 誰なんだ!」

 

 ーータ゛レ゛テ゛モ゛イ゛イ゛ヨ゛ォ゛!

 

「………ん?」

 

 タ゛レ゛テ゛モ゛イ゛イ゛カ゛ラ゛タ゛ス゛ケ゛テ゛ェ゛ェ゛ェ゛!

 

「……だ、誰か助けを求めている?」

 

 妙に大きな涙声で助けを求めているのを聞きつけ、清盛は自分が祇園女御の元を飛び出してきたのを忘れてともかく声の方向へと駆けつけます。すると、そこには枯れた井戸穴らしきものが。

 

「いや、よもやこんなところに誰か落ちるはずが」

 

「タ゛ス゛ケ゛テ゛ェ゛ェ゛ェ゛!」

 

「……よもやよもやだ」

 

 キレイに穴の途中で詰まっている純朴そうなウマ娘。身なりからして下級貴族らしいです。

 

「待ってろ、引っ張り出してやるぞ」

 

 とりあえず縄はないかと探すもすぐには見つからず、清盛は仕方なく自らの衣を脱いで掴ませ、何とかウマ娘を引きずり出しました。

 泥やら枯れ葉やら何やらが全身にまみれたウマ娘はおいおいと感動なのか安堵からなのか分からない涙を流して清盛に感謝します。

 

「あ゛り゛か゛と゛お゛お゛お゛お゛。し゛ぬ゛か゛と゛お゛も゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛!」

 

「う、うむ。とりあえず落ち着け」

 

「はい」

 

「うわぁ、いきなり落ち着くな!」

 

 清盛が名を聞けば、ウマ娘の名は高階通憲(たかしなのみちのり)。藤原南家の末裔で村上源氏の血も引いています。彼女の夢は曽祖父・祖父の後を継いで大学寮の役職を得て学者として身を立てることと、当時の伝統(クラッシック)三冠*4の一つである平安優駿を勝って優駿ウマ娘として名を挙げる事です。ぶっちゃけ彼女の年頃だと学問よりも走りたくて堪らず、枯れ井戸に落ちていたのも人知れずトレーニングに励んでいたところを暗闇に隠れていた枯れ井戸に気付かなかったというものでした。

 

「いやぁ〜本当に危なかったよぉ。君がいなかったらきっとあの穴の中で助けも来ず、ご飯もなくて、アタシは……う゛わ゛あ゛あ゛ん゛、し゛に゛た゛く゛な゛い゛よ゛ぉ゛」

 

「静かに……頼む、静かに」

 

「それで、君はどうして自分は誰だ〜とか叫んでたの?」

 

「うおっ、また急に落ち着いている。ええと……何というか、父母が本当の父母ではなく、父はやんごとなき方で母は……」

 

『あなたの本当の父親は、白河法皇。そして、母親は……私よ!』

 

『ウゾダドンドコドーン!!』※嘘です。

 

「……ウマ娘だった」

 

「いや、何言ってるの?」

 

「だから、母親がウマ娘だったのだ」

 

「いやいや、そんなパカなこと……え、もしかして史上初のウマ娘から生まれたウマ息子? 走るの早いの?」

 

「いや、普通だな。ウマ娘には勝てん」

 

「じゃあウマ娘から人間の男の人が生まれたわけか〜。そんな不思議なことってあるんだね」

 

「不思議なのか?」

 

「うん。ウマ娘からウマ娘以外が産まれたことは今まで一つたりとも無いよ」

 

「なんと。よもや、私が史上初か!」

 

「すごいね!」

 

 無論、そんなわけがありません。

 世界の神話や伝説では見られなくもないのですが、現実においてウマ娘から人間やハーフらしきものが生まれた例はありません。まだまだ未解明な部分は大きいのですが、ウマ娘の生態研究を行うトレセン学園のアグネスタキオンさんによると、

 

「ウマ娘の遺伝子は圧倒的な優性遺伝子であり人間と配合しても人間の遺伝内容を塗りつぶしてしまう。だから、本来ならばハーフ馬娘とでもなるべきところを完全なウマ娘にしてしまうのだよ。ほら、うちのモルモット君の検索履歴にあったゴブリンやオークもののアレで、孕まされた人間なりエルフなりが出産しても生まれるのはオークやゴブリンでありハーフではないようなものさ。加えて、ウマソウルと呼ばれる存在と継承。この二つは我々の常識の及ぶものではなく、異次元的な発想と理解が必要であるから、真の意味でウマ娘の生態を明らかにするには異次元やこの世ならざるものの観測が必要だろうねぇ。本来ならば私もそちらの研究に尽力すべきなのだろうが、生憎と私はモルモット君と共にプランAを成し遂げるのに忙しい。悪いがプランAが終わり次第即座にプランM(マリッジ)からのプランU(うまぴょい)に移行するから少なくとも十年はーー」

 

 とのこと。*5

 まあ、それはそれとして。優駿ウマ娘を目指す道憲との出会いは清盛にとって大きな変化をもたらします。これまで清盛が見てきたウマ娘は戦うか踊るかの、心優しくも荒々しさもある存在だであり、心のどこかで危険な存在だと思っていたのです。しかし、道憲を知るとその価値観が誤りであったと気付かされました。学者志望だけあって知恵には富んでいますが武はからっきし。踊りはそこそこだけど歌は好き。何より、走りでは誰にも負けたくない。

 そう、走ることです。朝廷の権力低下により地方での競技はまるで小さな大会止まりであり何の箔もなく、伝統三冠をはじめとする春秋すめらぎ賞など大きな大会でさえ賞金は年々減り、三冠ウマ娘からは盗賊の酒呑童子が出るなど競技に携わるウマ娘の待遇は悪く、武士や学者、芸者等の二足の草鞋を履いて何とかやっていけるかどうかです。

 清盛の中では自分が誰なのかは些末な問題になっていました。ウマ娘の血を引く者(大嘘)としてウマ娘が最も大事にしてきた自由に走り、人々を熱くさせる、面白き世を取り戻す。ならば、皇室の血とウマ娘の血、さらに武士としての身分を持つこの身はまさに好都合ではないか。何者でもないからこそ、何者にもなれる。それは、まさしく白河院が警戒し源義忠を暗殺してまで阻止したヒトとウマ娘の架け橋となる存在を意味します。

 清盛はこの出会いに心底感謝しました。

 

「分かったよ、私が何者なのか。いや、今はまだ何者でもないんだ。これから、何者かになるんだ!」

 

「うっ……ぐ……感゛動゛し゛た゛ぁ゛。まだ少年なのに偉いねぇ!」

 

「まだ少年って……キミも同じくらいだろう」

 

「アタシ、今年で23だよ!」←1108年生まれ。

 

「………」←1116年生まれ。11歳

 

 一回り年上かよォォォ!

 この頃の都の競技は出走年齢がガバガバで、名も無きウマ娘なら初出走です(大嘘)と言えば毎年皐月賞に出られる有様でした。もちろん、道憲のようなある程度の身分あるウマ娘は流石に顔がバレているため勝負は一度きり。故に、道憲は本格化を迎えさらに成熟さえした時期の一年に全身全霊をかけようとしていたのです。

 清盛は来年の皐月賞を見に行く約束して道憲と別れます。そして、祇園女御の屋敷に戻ると「心配をかけました……母上」と言って頭を下げます。なお祇園女御は感動のあまり気絶した。

 この頃から、清盛たっての願いとして舞踊や作法の勉強に指導人としての項目が加わりました。忠盛は思うところあったものの「ウマ娘を想う気持ちを止める権利など俺には無い」と、珍しく清盛に関心を示した上に時折自らの手法を伝授するようになったと言います。

 1129年正月、清盛は12歳で元服し従五位下・左兵衛佐に叙任。この左兵衛佐という位は上流貴族の子弟が多く任じられる出世コースであり、武家出身である筈の清盛がいきなり任ぜられるのは前代未聞とされ、多くの貴族に驚愕と噂……白河院のご落胤との話が信憑性を増したのです。

 清盛は同年3月に石清水臨時祭の舞人に選ばれ、祇園女御の養子である内大臣・源有仁が随身*6を務めます。

 その席には、白河院の姿も……。

 舞台に昇った清盛は手順通りの位置につき、雅楽が始まるのを待ちます。

 

「待たれよ」

 

 白河院の近習が定位置についた清盛に声をかけます。張り付いたような笑みを浮かべる近習を清盛は薄気味悪く思いますが、表情には出しませんでした。

 

「此度の舞は二人で行えとの院からのお達しである」

 

「二人?」

 

 近習が指差す場所には、清盛と同じく着飾ったウマ娘が一人。しかし、ウマ娘にしても小さく見栄えが悪く、ぶすっとした仏頂面で周りを威嚇するようでした。しかし、清盛は何故か惹かれるものを感じ、特に小柄ながらほぼブレのない足運びは荒削りながら鍛え上げられた体幹を思わせます。

 清盛は小柄なウマ娘に指導人が付いていないことを荒削りな部分から一目で看破し、体幹も素晴らしく舞踊の適性も高い。これほどまでのウマ娘に何故誰も目を向けていないのかと首を傾げました。

 

「何?」

 

 気が付けば無言でガン見していた清盛。流石に拙いと思い適当に取り繕います。

 

「いや……綺麗だと思って」

 

「ーーッ、いきなり何。初対面の相手に」

 

「む、すまない」

 

 妙に気安さを感じる清盛ですが、相手のウマ娘は不機嫌そうに顔を背けます。

 失敗したなぁと思っている内に雅楽が始まり、清盛とウマ娘は手順通りに舞い始めます。その流麗な舞に見るものは口から恍惚とした息を漏らし、忠盛でさえ「出来ておる」と認めざるをえませんでした。尤も、舞台でウマ娘と舞う清盛の姿に、かつての自分と愛バの幻を見て眉間に深々と皺を寄せ、更には怨敵である白河院の姿もあり心は千々に乱れていましたが。

 一方、その様子を見た白河院は舞が終わると近習に何か言い含めていました。

 

「二人共、先程の舞は見事なり。院から格別のお褒めの玉声を賜ったことを誉れとするが良い。されど、一つ申し付けもある。平清盛、人の身でウマ娘に伍する舞を院はご所望だ。もう一つ何か舞われたし」

 

 この言葉に周りはざわつきます。予定外のことである上に、神事に奉納する舞はしきたりで決められ、追加の舞を全くの即興で舞うなど前例なきこと。更に、神事故に何でも良いわけではなくその場に合うものを選ぶセンスが必要です。

 清盛を武士風情の子と蔑んでいた貴族でさえ我が身に置き換えると難易度の高さに青ざめ、固唾をのんで見守ります。忠盛もまた予想外のことに身を乗り出して清盛を見ていました。

 

「されば、一つ」

 

 ただ一人、清盛だけは落ち着いていました。

 彼が腰の飾太刀を抜いたところで一瞬辺はざわつき近習は身を緊張させますが、白河院が清盛から一切目を逸らさずに片手で制します。

 片手上段に構えたその型を見て、忠盛は目を見開き「清盛、お前……」と震える唇から声が漏れました。

 数瞬の間。されど余りにも始まらぬ舞に再びざわめきつつあることを感じてもなお動かぬ清盛に、忠盛は彼が何を待っているのかを悟ります。

 

「笛をーー」

 

「は?」

 

「良いからその笛を寄越せ!」

 

 雅楽の奏者から笛をひったくると、流麗な一吹きによる音色が舞台に広がります。

 

(父上……奉ります……)

 

 清盛が選んだのは剣舞。それも、忠盛が人知れず舞っては誰にも見せない涙を流していたものです。その舞が誰に捧げるものなのかを清盛は知りませんが、これを舞うべきは今なのだと確信したが故に舞ったのです。

 その剣舞の美しさに貴人たちは恍惚としたため息を漏らすのですが、白河院は首を傾げていました。

 

「……妙ですね」

 

「何か、妙な点が?」

 

「あの舞、左手側が不自然に空いています。もしやあれは二人で舞うものかもしれませんね」

 

「……それは、不完全な舞を奉納するということ。院よ、即刻止めさせますか?」

 

「いいえ、いいえ。見なさい、どうやら面白くなってきましたよ」

 

 ヒソヒソと話す白河院の目線を追えば、下がったはずのウマ娘が再び舞台に上がり、見事に清盛の舞に動きを重ねてゆくのです。

 

(キミ、なぜこの舞を?)

 

(……知るか)

 

 目と目で会話をする清盛とウマ娘。初見のはずなのに不思議と噛み合う舞に驚く貴族たち。笛を奏でる忠盛も目を見開き、一層濃くなる己と愛バの姿の幻視から目を離すことができません。

 

(義忠さん……俺は、この舞を君と……)

 

 互いの剣舞は鋭さを増し、一歩間違えれば互いを傷つけかねません。しかし、鋭くも流麗な舞は互いを傷つけらことなく終わりを迎え、忠盛の笛の音が消えると静まり返った舞台に汗だくの二人の乱れた息だけが聞こえていました。

 

「何と……何と……すばらしい!」

 

 感極まったと言わんばかりに褒め称える白河院。周りの貴族もこればかりは文句のつけようもないと口々に賛辞の言葉を漏らします。忠盛は見えなくなった幻視に胸の痛みを覚え、静かにその場を離れていました。

 石清水臨時祭は無事に終わり、清盛が舞台を降りようとすると近習が引き止め、何と白河院が二人で話したいと言うのです。これは良い機会だと清盛は承知しますが、ある意味そんなことより優先すべきことがあります。一緒に舞ったウマ娘です。

 さっさと舞台から降りていってしまった彼女を清盛は追いかけます。そして、今まさにウマ娘の更衣のためあてがわれた場所に入る前に呼び止めることに成功したのです。

 

「君! 一緒に踊った君!」

 

「……何? 着替えたいんだけど」

 

「う、うむ。着替えるのはまあそうなのだが、その後、その、少し待ってくれないか。是非とも話したいことがある」

 

「……初対面のウマ娘を待たせるの? ふーん、良い度胸してるね。アタシを舐めてるってこと?」

 

「違う、違う! 本来ならば今すぐ話したいのだが……白河院から呼ばれていてな」

 

「白河院……あっ、ふぅん。それなら、仕方ないか(誤解)*7

 

「分かってくれたか、忝ない」

 

「別に……この後、用もないし。アンタもその、気をつけなよね……尻とか」

 

「何故に尻!?」←無垢。

 

「う、うっさい! さっさと行けバカ。あんまり待たせたら帰るからね」

 

「うむ、すぐに済ませてくる!」

 

「……いや、無理しない範囲で良いよ。大変だろうし」

 

 唐突に尻を心配される清盛ですが、いよいよ実父と対面であります。御簾の向こうにいるのが父、白河法皇。この世を支配する平安の物の怪であります。

 このお方が父……そう思っても何ら実感は無く、全てがお伽話なのではないのかと思えるほどです。

 平伏する清盛に白河院が声をかけます。

 

「こうして話すのは初めてですね、清盛」

 

「恐悦至極に存じます」

 

「おやおや、堅苦しいのは無しですよ。親子ではありませんか」

 

「……やはり、貴方が私の」

 

「はい、父ですよ。まぎれもなく、貴方には私の血が流れています。まさか、生きていたとは思いませんでしたが」

 

「……ウマ娘との間に生まれた忌み子だから捨てておいて、父親面ですか」

 

「??? え、ウマ娘、ですか?」

 

「母上……祇園女御様が教えてくれました。私はあなたとウマ娘との間に生まれた存在だと!」

 

「???……祇園?……!……そうです……そのとおりです。あなたの存在を認めるわけにはいかないのです」

 

「なぜです!」

 

「人を守るためですよ。考えてもみなさい。仮にウマ娘との間に人間の男の子が生まれたとします。そうなると、もう人間の女性は必要ないではありませんか。思うに、多くのウマ娘が種として完全下位互換である人間の女性を許容しているのは、自らの伴侶たりうる人間男性を産むかもしれないからに過ぎません。今はあなただけですが……これから先どうかは分からない。しかし、彼女達の愛情を無礼てはいけません。たとえそれが藁よりか細い希望でも、彼女達は掴みますよ。そうなるとどうなります。この世全ての人間はうまぴょいされるのです(大嘘)」

 

「う、うまぴょい……ですか」←無知

 

「そうです、うまぴょいです」

 

「うまぴょい……(何だろう、それ)。恐ろしいことになるのですね」←無知

 

「ええ、ええ。とてもとても恐ろしいことになります。私には夜明けを齎さねばならない使命があり、うまぴょいによる永遠の夜など……想像するだけで恐ろしい。冗談抜きで国が滅びますよ。祇園女御を遠ざけたのもそのためです、これ以上あなたのような存在を産むわけにはいきませんので(本当は舞の音楽性の違いからの喧嘩別れですけど)」

 

「では陛下はむしろ人を守るために私を捨てざるをえなかったと?」

 

「……そういうことですね(大嘘)」

 

「なるほど、理解しました。ところで、平氏の父上が時折言っていたのですが、夜明けとは何ですか?」

 

「よくぞ聞いてくれましたね。素晴らしい、やはり私の判断は間違いでしたか。貴方には是非とも夜明けについて啓蒙を深めてもらいましょう。ともすれば、あなたも……」

 

「私も、何ですか?」

 

「いいえ。貴方は染めないほうが面白そうです。夜明けについては忠盛に訊きなさい。そして、この警句を忘れないでくださいね……」

 

 我ら血によってウマ娘となり、魂によりウマ娘を超え、血によってウマ娘を失う。指導人よ、かねて血を恐れたまえ。

 

「それはどういうことですか」

 

「……歴史を調べ、競技に名を残したウマ娘を調べなさい。たくさん、たくさん調べなさい。そうする事で見えてくるものがあります」

 

「分かりました。警句は忘れません……陛下」

 

「……父とは、呼んでくれませんか。そうですよね……ええ、それで良いのです。貴方の父は、忠盛なのだから」

 

 白河院と清盛がこの後に会うことはありませんでした。この半年後、白河院は76歳で崩御。しかし、肉体の死が必ずしも本当の死ではない。そのことを清盛はこの後に知り、生涯苦しめられることになるのです。

 が、そんなことは清盛にとってどうでも良いこと。そんなことより気になって気になって仕方のない相手が待っているのです。

 待合室のすぐ外。簡素な狩衣に着替えて出ると、そこには侍烏帽子に朱の直垂。赤みのある鹿毛と大きめな耳、そして余りにも小柄なウマ娘。清盛の心をあの舞台で一目見てから離さない姿がありました。

 

「おお! 待っていてくれたか!」

 

「別に……迎えがあるわけじゃないし、用があるなら待つくらいしてあげるよ。それで、なに?」

 

 何者でもない少年と小柄なウマ娘との出会い。たとえこの先の結末を彼らが知ったとしても、きっと彼等はこの出会いを無かったことにはしない。行き着く先が何であろうと、出会ったことを後悔だけはしないでしょう。故に、私はこう思うのですーー

 

「待て待て、先ずは名前を教えてくれ。私は平清盛。君の名は?」

 

「……源義朝。小さいからって舐めたら蹴っ飛ばす」

 

 どうかこの出会いに、溢れんばかりの呪いと祝福を。

 

 

「……ところで、早かったけど大丈夫なの……尻とか」

 

「だから何故に尻!?」

*1
ウマ娘シンデレラグレイ冒頭に出てくる壁画です。

*2
ルナ「ルナ、悪くないもん! 暴君じゃないもん!」

*3
平氏の長男と言う意味で、幼名ではない。清盛の幼名は不明です。

*4
朝廷が平安中期に定めた未出走かつ成人前後のウマ娘が登録しトライアル等を経て参加できる競技で、春の皐月賞と平安優駿、秋の菊御紋賞を併せて伝統三冠。これを獲得したウマ娘を三冠ウマ娘と呼び非常に名誉あるものとされた。しかし、その難易度たるや当時都にて最強バであったライコウが平安優駿を獲れず二冠で終わるほどである。なお、鈴鹿御前は伝統三冠制定前なので三冠ウマ娘ではない。……という捏造設定です。

*5
なお、この学者の責務を放棄する発言に一部人間の学者から非難されたが、圧倒的多数のウマ娘学者から「がんばれ」、「実家に連れ込め」、「理解できません。デビュー前に親に紹介するのは基本では?」というメッセージと、うっかり非難した学者は年齢性別を問わず「お前もうまぴょいしてやろうか!おおん?」、「お菓子があってもいたずら(意味深)するぞオラァ!」と秋の夜長に人肌恋しい周りのウマ娘に続々と攻略され、気付けばハロウィンを境に学者たちのプロフィールに「既婚」の文字が増えまくった。雉も鳴かずば打たれまいに……。

*6
警護。この場合はお目付け役に近い。また、源有仁は元皇族で舞踊や作法にも詳しいため監督役も兼ねていたと思われる。

*7
この時には大陸から衆道、つまり同性愛が伝来しています。高貴な方々は外見の良いショタを囲うことが横行し、この時の清盛は12歳かつ化粧バッチリで、完全にこの後いただかれてもおかしくない状態。このウマ娘があっ(察し)するのも無理はないのです。




最近の研究では清盛はお人好しで穏健派だった説が強いみたいですね。私も彼の行動から傲慢さはあまり見て取れないのでそのように描いています。
……と言うか、アプリのタイシントレーナーが煉獄さん味があると気付いてしまい清盛が煉獄さんに浸食されています。
いやー本当に、このまま平和に清盛と義朝が「産むから 」して平和に孫に囲まれて老衰で終わりになりませんかねぇ(切実)。書いてる側からすると自分でぶち壊すと分かって石を積み上げている気分です。
あと祇園女御……オマエモカ(母を名乗る不審者)。清盛の誤解は続いてゆく。
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