真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
JC達の前に立つタンク要員を一人追加してみました。
どが、と薄汚れた壁に悪魔がたたきつけられた。
「グオ、オオオ!」
ヒートウェイブによる薙ぎ払いの一閃。
大気を焦がす斬撃は貧弱な餓鬼を滅ぼし、残る邪鬼をも吹き飛ばした。
辛くも生き残った邪鬼はよろめきながらも立ち上がり、相手を睨みつけ咆哮する。
| 邪鬼 | ウェンディゴ | LV23 | 氷結反射 火炎弱点 |
人など容易に八つ裂きに出来そうな巨躯。
黒い顔にはまる赤い目は怨敵に対する純然たる憎悪に満ちている。
そんな邪悪な鬼に立ち向かうのは鎧姿の男。
「はあああっ!」
放たれる氷結魔法を交わし、気合いと共に横薙ぎの剣が放たれる。
ツインスラッシュ*1と呼ばれる剣技はウェンディゴの太い胴を薙ぎ血とMagをしぶかせた。
「ガ、アアア……!」
苦悶の叫びと共にウェンディゴは絶命。
巨体が斃れるよりも早く邪鬼の身体が分解され消失。
邪鬼の討伐を以て付近にいる悪魔はこれで全滅させることが出来た。
「ふう……結構な長丁場だったな」
ソナーの反応を確認すると男は額の汗をぬぐう。
明るい色の髪に何処か貴公子然とした容貌。
鎧姿も相まっていかにも騎士らしい男の名は、
(弱い悪魔ばかりで、俺より強い悪魔が居なくてよかったよほんと)
人によっては情けないと非難されそうな感想を抱き、新は剣を鞘に納めた。
この廃ビルはかつて商業施設として建設計画がスタートしたが、建設会社の倒産により途中で放置された物であるらしい。
そのまま何年も解体される事なく放置されているうちに異界化し悪魔が増殖。
昨今のGP上昇と相まって大量の悪魔が蔓延る巣窟となっていたとか。
大量の悪魔が蔓延る異界は腕利きのデビルバスターでも敬遠したいものだろう。
もっとも
「はい兄さん飲み物どうぞ」
「おっありがとうな莉愛」
新は妹の
黒い髪に白磁のような白い肌、可憐な面持ちの莉愛は彼の自慢の妹である。
回復魔法を幾つか使える彼女は今回の異界掃討にもバックアップとして参加していたのだ。
「今回も私は支援中心だったけど、敵が多かったからレベル2上がったよ」
「やったじゃないか! 目標の30にだんだん近づいてきたな。
これも莉愛が手伝いでも何でも頑張ってるからだよ」
「えへへ……そうかなぁ」
新のLvは現在36に対して莉愛は19。
自分はともかく妹を悪魔討伐に参加させているのは自衛できるLvまで鍛えたいというのが大きい。
特に彼女の抱えるやや特殊な事情を考えると30までは上げたいなと新は考えていた。
「そうだ。莉愛はあの子達と話してこなくていいのかい?
丁度同じのくらいの年だし話が弾むんじゃないか」
新が軽く示すのは同じキリギリスに所属するデビルバスターの少女達。
快活そうな姉と穏やかな妹の姉妹に、その親友らしき桜を思わせる衣装の少女。
今日一緒に仕事をこなしたこともあり、妹と仲良くなってくれればいいなと思っていた。
「そうだ連絡先聞いてなかったんだった! 三人共なれそうだしちょっと話してくるね。
でも、兄さんの方はいいの?」
「いやあ……うら若き乙女の中に20越えの男が入るのはちょっと」
「そうじゃなくてあのアレックスさん達とかとだよ」
この異界攻略には当然ながら若手だけでなく成人したデビルバスターも参加している。
剣と斧を携えたデビルバスターの偉丈夫やガスマスクをつけた歴戦の気配を漂わせる女等、いずれも不測の事態に対応できる精鋭だ。
そう、幾度なく死線をくぐった本物の。
「
「あー……連絡先は聞いたし、ほら、俺も色々報告する事とかあるから。
莉愛は莉愛で話しておいで」
「はーい」
莉愛は新から離れて少女達の元へ向かっていく。
話好きらしい姉妹の姉の方が快く迎えて、たちまち話に花が咲いたようだ。
初対面のはずの莉愛と楽しそうにしている少女達は、殺伐とした業界に不釣り合いな程に良い子達なんだろうなと思う。
あの快活そうな子も、きっと妹を大切にするとても良い姉なんだろうなとも。
(莉愛の奴、どうも俺を過大評価している節があるからな)
新には奥の手というべき物がある。
マグネタイトの消費が大きいうえに、場合によっては検査やメンテナンスが必要になるものの強力な力をもたらす奥の手。
それはインフレの進んだ悪魔業界においてもなお強者と呼べる段階まで彼を押し上げる。
だけど、彼は知っている。
所詮それは偶発的に得た仮初の力。
本物の強者には及ばない金鍍金された表面上のみの力だと。
そんな自分が同類面して彼らに話しかけるなどどうしてできようか。
ああそうだ自分は全く以て優秀でも高潔でもない男なのだ。
アレックス達のような心身を鍛え上げ、幾度なく死線をくぐった本物の精鋭と。
あの北海道で何度か見た高笑いが印象的な、狂気ともいえる意思を持った男と。
そしてあの「佐々木」という、壊された少女を救い許しがたい悪を滅ぼしたヒーローとも。
積み上げた物の何もない、凡人であると高市新は己を知っている。
魔法や常人離れした身体能力を持つ覚醒者である事。
それは一般社会においては確かに特別な事であろう。
けれど悪魔業界においては何ら特別ではない。
何せ戦闘を生業とする者以外も悪魔に関わる者のだいたいが覚醒者なのである。
悪魔を従える事も、魔法を使う事も何ら異常な事ではない。
一般社会でパソコンを使い事務仕事を行う能力のように、実にありふれた能力なのである。
覚醒者であることなど、悪魔業界への入場券に過ぎないのだ。
無論高位の悪魔の魂を持つ転生者や大組織において使命に命を燃やす者もいる。
が、悪魔業界の多くの人々は安全を第一に、代り映えのない日常を過ごしているというのが新の認識だ。
高市新もまた平凡な異能者であった。
北海道土着のぱっとしない家に生まれ、多少鍛えた物の特筆すべき異能など何もなかった。
両親の遺した小さな異界の管理と、時たまの異界攻略の助っ人でその日その日を暮らしてきた。
特筆すべき事と言えばルックスの良さもあって女性の異能者に顔が利くぐらい。
多少情報や物資などに関して"便宜"を図ってもらったりとまあその程度である。
(ああ、強くなって有名になりたい。
高位の神とか倒せるような、一仕事に数億積まれるようなデビルバスターに。
そうなれば人生薔薇色で金も大量に手に入って女の子にもモテるんだろうなぁ)
無論新とて若く健全な男だ。
小市民とて成り上がり、この世に名を馳せたいという野望はある。
それこそ超人となって並みいる敵を叩き伏せる、一仕事に数億積まれるトップクラスのバスターのように。
とはいっても、彼には己の野望を体現する為の意思も力もなかった。
努力はせいぜい人並程度でヤタガラスの知人から悪魔業界で生き抜くためのレクチャー受けた物の、必死には程遠い程度。
何かのきっかけに決心しても長続きせず、すぐに終わってしまう。
何処か自分に言い訳しながら己のだらしなさから逃げ出してしまうのだ。
力も大したことがなかった。
Lvは20を超えて、体格も良かったため管理する異界の悪魔程度なら容易く蹴散らせた。
けれど特筆すべきスキルや能力などまるでなく、後に活かせるような戦闘経験を積んでいるわけでもない。
いつも単なる前衛程度の役割が関の山であった。
そんな意思も力も欠けた平凡な異能者という存在。
くすぶる思いはある物の危険を冒して限界を超えようなどという気概はまるでない。
棚から牡丹餅といった感じの、自分に都合の良い何かを夢想して過ごす、危機感の欠けたぬるま湯のような日々。
それが彼にとっての悪魔業界の日常だった。
(まあ……それでもいいさ。俺には莉愛という妹がいるんだし。
大したことなくても平凡平穏に暮らせればいいさ)
それでもその日々は悪い物ではなかった。
親代わりに妹を育てる日々は大変な事もあったが、それ以上に可愛い妹がすくすくと育っていくのを見る喜びもあった。
中学に上がる頃には可憐に育った莉愛の将来を楽しみに、彼女が幸せに過ごせるように世話を焼くのは楽しかった。
だからこれで良いのだと思っていた。
雄々しさはなくても平穏に妹を第一に過ごす日々は一人間として悪い物ではないと。
第一自分には異界という利権、それも他所から狙われるような価値でない程度の二人が暮らしていくには充分な物があるのだ。
もしもの為の顔つなぎもかねて外部の依頼に顔を出すことがあっても偶にの事。
後は定期の巡回で手に入るアイテムと仲魔集めに来た新人からの利用料、それと両親の遺産があれば十二分。
時には知人と飲みに行ったり、馴染みの女異能者と遊ぶなどしてストレスを発散すれば後は大したものはいらない。
後は妹を無事育て上げ、花嫁姿を見れればいい。
そんなありふれた小さな幸せと未来がある生活を凡人なりに愛していた。
「はは……なんだこの力……!」
そんな凡庸なはずの男はある日突然特別を手にしてしまった。
ある日のことである。とある問題に一抹の不安を抱えつつも新は異界の巡回に出ていた。
GPが上がり治安が悪化する等世の中が物騒なものの日常は変わらない。
知人の紹介でキリギリスなる組織に参加したがそれで何かが変わるでもなし。
凡人らしく世の中の問題よりも身近な問題に頭を悩ませていた新は、異界内である者達と出会ってしまった。
その時偶発的に新が出会ってしまったのは、北方の大国を源流としたメシア教でも異端とされる派閥の者達。
<合法都市>と呼ばれる超退廃都市の影で密かに拠点を築いていた集団。
最新鋭の機械技術と魔術を用いて人間を改造する事で、神の為に相応しい戦士を創り出そうという者達がいたのだ。
なまじ理念に共感したスポンサーを得てしまったが故に、一気に活動を過激化された彼等は新を見るや否や攻撃を仕掛けてきた。
多勢に無勢に対して新程度が抗えるはずもない。
瀕死にされて彼らに実験体として拉致されてしまった。
幸いにも北海道のヤタガラスは彼等メシア教の異端を以前からマークしていた事もあり、行方不明者の増加等から事件を察知し解決に動いた。
すぐさま拠点を特定し、あるデビルバスターを通して北海道最強の悪魔召喚師が参戦。
さらには非常に珍しい真っ当なメシア教のテンプルナイトまで参戦した大捕り物が行われた。
結果として当然の事ながらメシア教の異端組織は壊滅。
瀕死となった新が次に目にしたのは病室の天井という程にあまりにも迅速な展開であったのだ。
そうして事件は終わりを告げたかに思えたが新にとっては違う。
彼の身体は重度の改造が施されていた。
厄介な事に壊滅したメシア教異端の人体改造技術は非常に高かった。
身体の機械化と悪魔を用いた何らかの技術を用いた改造により身体のかなりの割合が変質。
昭和ライダーとまではいかないまでもだいぶ人間からかけ離れた状態になってしまった。
どれ程かと言えば新にアナライズをかければ異能者ではなく■■■■■■という、良く分からない存在に表示されるほどに。
ただ当初は驚いたものの、一か月ほどで新は己の変化を受け入れた。
何せ元から異能者であったこともあったが改造された体は驚くほどの安定を見せ、すぐに元の通りの生活を送れるようになった。
専門の医師が診察した所寿命の減少等のデメリットもないとの話には多少驚いたが、納得する程度には改造は違和感なく馴染んだ。
更に新の戦闘能力は飛躍的に上昇した。
幾度かの実戦を得る頃にはLvは一流と言われる30代まで上昇し、切り札を使えばレベル50を超えた段階まで力を上げる事が出来る。
奇しくもとある問題に対処する為により高い戦闘能力を求めるべきなのではという思いもあった為、戦闘能力の上昇は渡りに船。
心の何処かで望んでいた特別を彼は苦も無く手に入れてしまったのだ。
妹に泣かれた事や可能性は低い物のトラブルに巻き込まれる厄ネタを抱えたことは良くはない。
しかしそれでも若い新は己の人生の何かが変わる可能性に少しばかり浮かれていた。
偶発的に得た力が自分と、妹の環境を押し上げるのではないかと期待していたのだ。
────―無論そんな薄っぺらい期待はすぐさま粉々に砕かれたのだが。
帝都東京は世界有数の都会とはいえ、郊外には自然が広がっている地帯も当然ながら存在している。
その中の一角に建てられた病院は建物自体は小さ目だ。
しかし全体的に真新しく清潔で、手入れの行き届いた中庭があり患者の精神衛生にも配慮されているようだ。
この病院はメシア穏健派の流れをくむある組織がヤタガラス、さらにガイア教系列組織の一部とまで協力して設立した悪魔事件被害者専門の治療施設の一つである。
悪魔祓いを行う術師から最新鋭の義肢技術に関する専門家まで古今東西の専門家を集めており、治安が悪化している現在も精力的に活動を行っている。
「なあ莉愛。キリギリスから来る子達って何人だっけ?」
病院の入り口で新は莉愛と共にキリギリスからの人間を待っていた。
この病院は北海道で世話になっていたメシア教穏健派の顔役に紹介された施設であり、新は定期的にここで診断を受けている。
その縁もあって新は時たま病院の警備についており、莉愛もまた状態異常の回復魔法を用いて手伝いをしていた。
「ええと、私と同じで状態異常の回復が出来る子と、精神の治療ができる子、後護衛の子の三人って聞いたよ」
今日来るキリギリスの少女達は先日運び込まれたこの病院の患者を治療する為に派遣されることになったらしい。
年若いにもかかわらず特別な異能及び技能を持った二人を軸に、態々東京の外れに来てくれる少女達にありがたい事だと新は素直に思う。
「そっか。この間の子達とは別の子なのか?」
「違う子達だよー。この間仲良くなった高嶋さん達の友達なんだって」
今日来る三人も仲良くなれればいいなと莉愛は笑う。
(そうかそうかあの子達と早速仲良くなれたか。
東京に来たばかりでぼっちにならないか不安だったけど、どうにかなりそうでよかった)
莉愛はまだ14歳の
同じくらいの年頃の子は流石に悪魔業界でもなかなか見ないし、あの子達も今日来る子達も妹の良い友人になってくれればいいなと思う。
ああ、そうだ。そんな兄らしい心配ぐらいは自分でもして良いだろう。
「その子達と仲良く無理せずに頑張るんだぞ。辛くなったら俺でも先生でも誰でもいいから言うんだぞ。
悪魔業界ってただでさえストレスたまりやすいんだから」
「……うん、わかってるよ兄さん。私は大丈夫」
新の言葉に莉愛は表情を曇らせる。
この病院に運び込まれるのは悪魔関連事件の被害者のみである。
それは単に大怪我をした者よりも、むしろ心を深く病んでいる場合が多い。
言うを憚られる地獄を見て殆どが心をズタズタにされ深く傷ついた者ばかり。
そのことを手伝い程度とはいえ治療に携わっている莉愛は理解している。
(ああクソ。何をやってるんだ俺は
莉愛が心を痛めてるってことは分かっていたはずなのに)
己の浅慮に新は内心舌打ちする。
理解のある兄を気取ろうとして墓穴事をほった自分の愚かさが恨めしい。
「そ、そうだ。今日来る子達も莉愛と"同じ"じゃないのか?」
「あははそこまで深い話をできるくらいまだ仲良くなってないよ。
第一私が感じたのも三人とも
朗らかに笑う莉愛は軽く新の言葉を否定する。
この間連絡先を交換したキリギリスの少女達と仲良くなって欲しい理由はそこにもあった。
以前新が悩んでいた問題というのは莉愛が覚醒者になった事で判明した事実に関しての事だ。
彼女は悪魔の転生体────ケルト神話は最高神ダグザの娘、女神ブリジットの転生体だという。
幸い穏やかな気質の女神の為か莉愛の自我に影響はなく、その力が狙われる事もなかった。
が、キリスト教の聖女ブリギッドとも同一視される女神の転生体である事から、メシア教主流派に狙われる可能性もないとは言えない。
それ故に新の事情とも相まって北海道から越してきた一因となっていた。
無論以前からの恩人に渡りをつけて万が一の時には備えてある。
ただそれでも同じ年頃の少女で転生体どうしつながりがあった方が良いのではないかと新は考えていた。
同じような事情を抱えた者でしか分からない事情もあるだろうし。
「レベルも高かったし悪魔の力を身に纏っていたから。
あーでも高嶋さん達が使っているの<デジタライズ>っていう最新技術らしいからそれと間違えたかも」
「悪魔の力を使うにしても色々方法があるからなぁ。
同類同士探知できるとか漫画みたいなことはないか」
ちょっと冗談めかして返すと莉愛がそううまくはいかないよと苦笑する。
肩の力が抜けた様を見て内心一息。
ああそうだこの子は元から穏やかな子なんだからこういう状態が望ましいんだと彼は思う。
「あ、兄さん兄さん。多分あの車だよ今日来る子達が乗ってるの」
莉愛の目線の先、駐車場に停車するのは何の変哲もない車。
扉が開くと出てくるのは三人の少女達。
新たちの方に歩み寄ってくる少女達は帽子をかぶった一人が電話で報告しているようだ。
先んじて二人がこちらに向かってくるがいずれも莉愛と同年代。
付け加えていうならば二人共相当な美少女である。
まず片方、曰く有り気な刀を提げた茶髪の少女は年相応の可愛らしい顔立ちの美少女。
自信ありげでやや小生意気そうな瞳や凛々しさのある顎のラインが魅力を引き立てる。
細身ながらもしっかりとした体つきが健康的な雰囲気を醸し出していた。
もう片方は流れる夜のような黒髪をした色白の美少女。
柔和さと意思の強さを同時に感じさせる翡翠色の目は大粒の宝石の様。
穢れを知らない白い肌が髪や目の色とこの上なく合っており、美しい容姿をいっそう美しく見せている。
また胸尻が中学生離れした豊満さで、完璧と言っていいラインを描いた曲線に加え腰がしっかりと括れた抜群の体形。
男性ならば、いや女性でもすれ違った時に振り向いてしまいそうな程の容姿の少女だ。
「本日はよろしくお願いします。私は──―」
そしてさらに最後の一人、連絡を取っていた少女も二人に追い付き帽子をとって新達に挨拶した。
三人の中で一番の年長らしい少女の薄桃色の髪がふわりと広がる。
この少女もまた美少女であった。
薄桃色の長い髪を切りそろえ清楚なただずまいの少女の容貌は可憐。
大人しそうな顔立ちとやや吊り気味の目はどこか母性を感じさせる。
顔立ちと相まって、華奢な体格がむしろ蠱惑的に思えるような不思議な色気のある少女だ。
「──────」
美しい少女達が丁寧な態度で自己紹介をしていくが今一新の頭には入らない。
少女達に見とれていたのではない。
その中の一人、薄桃色の少女に見覚えがあったからだ。
「あっ」
少女の方も新に見おぼえがあったようだ。
軽く口元を抑え驚きを見せる。
そう、北海道にあるメシア穏健派の教会で彼らは出会っていた。
偶然で、一度だけけれど確かにその出会いを覚えている。
<合法都市>が滅びる直前に新が訪れたメシア教の教会。
兄妹共に北海道にいては危険だという事もあり、新は妹と相談しキリギリスの知人の助けを得て帝都東京で暮らすことに決めた。
そうして引っ越す前に世話になった者人達への挨拶回りの為そこへ訪れていたのだ。
新が世話になったメシア教の教会は驚くほどにまともである。
トップを始めとして真っ当な信仰者で構成された彼等とは以前から地元民同士親交があり、帝都で体のメンテナンスが出来る施設まで紹介してもらった。
その礼もかねて訪ねた教会で、偶然彼は出会ってしまった。
だから彼らは覚えている。
新は少女に、少女は新たに言った言葉。
悪意に壊された少女の、忌まわしい言葉を覚えている。
時刻は夜に差し掛かろうかという頃。
冬に差し掛かり日が暮れるのが早くなった為病院は早くも薄暗い。
コツコツコツと硬質な靴音が室内に響く中を歩く。
新は予定通り病院内部に異常がないか巡回していく。
それは病院内の保安という、日頃のルーチンワークながら重要な仕事である。
けれど陰鬱な面持ちの新はどこか上の空だ。
(……あの子元気そうだったな。前会った時とは大違いな程に。
それもあの佐々木って人が、何かしてあげて立ち直らせたのかな)
北海道にいた時少しだけ見たデビルバスターの青年を思い出す。
あの青年が確か少女を帝都で保護していると知人から聞いたが、少女の様子を見た感じ今の所うまくやっているようだ。
(あんな惨い壊され方をした子を立ち直らせるなんて俺より少し上くらいなのに大した人だよ
レベルが高いだけじゃなくて心も強いんだな……俺は何もできなかったのに)
少女と新が会ったのはほんの偶然である。
たまたま作戦でテンプルナイトの多くが出払っており、残る人員が発生したトラブルに割かれ、少女が夢遊病の如く彷徨い出た。
そんな偶然が重なって新はばったりと少女と会ってしまった。
「あ、あの……」
こちらへ何事か訴えかけようとする少女に感じたのは違和感であった。
身ぎれいにはしているが何処か虚ろで、病み衰えた気配。
メシア教の教会にいるには場違いな少女を訝しく思った。
そんな第一印象は最悪の形で証明される事となる。
「あーどうしたんだい?
何でここにいるのかは知らないけど、何か、水とか欲しい物があるのかな?」
不信感を抱きつつも妹と似た年代だったこともあり、新は少女に対応しようとした。
膝を曲げて目線を合わせ、出来るだけ爽やかな笑顔を心掛けて語り掛ける。
君は俺にどうしてほしいのかと、威圧感を感じないように気さくに。
そんな常識的で、同時に違和感を鑑みれば不注意な対応。
目線を合わせて少女の手が小刻みに震えている事に気づいた時には遅かった。
「私、を……□して、くれませんか?」
「────は?」
余りにも予想外で、それで異常な言葉に新は目を見開く。
少女の言葉が、自分の聞き間違い出ない事を認識して思わず硬直した。
「何を、言って……?」
「ッ! 此処にいたか! ああまったく何でこんな……!」
混乱する新の元に駆け付けてきたのは何人かのテンプルナイト。
彼等が少女を傷つけないように丁寧に、それでいて有無を言わさぬ調子で連行していく。
後に残ったのは新の顔なじみである同年代のテンプルナイトのみ。
「な、なあ、あの子何があったんだよ?
なんであんな、あんないかれたことを言って……壊れているの、かよ」
「……お前の言う通りだよ。
あの子は壊れ、いや壊されたんだ」
彼曰くあの華奢な少女は合法都市に潜入した部隊の生き残りらしい。
極秘に潜入し情報収集を行っていたが、合法都市を統べるメシア主流派幹部の女に見つかり合あなく敗北。
そしてその結果として……地獄というにも生ぬるい責め苦を受けたのだという。
そうして壊された少女は□される事を望むようになった。
そうでければ正気を保てないから。
今では交代でテンプルナイトが務めを果たすことになっているよと彼は苦々しげに言っていた。
悍ましい内容を聞いて自分がどんな表情をしていたか新は覚えていない。
ただ単に胃の中身が空になるまで便器に吐き出し続けたことは覚えている。
(……そう、アイツ等テンプルナイトもそうだけど俺も結局何もできなかったんだよな。
妹と同じくらいの子が、あんなに苦しんでいたのに)
あの子の事は気になっていたから新も北海道のテンプルナイトやキリギリスの知人と連絡を取って色々聞いていた。
少女の心を救ったのも彼なら合法都市の頂点たる女を倒し仇をとったのも彼。
自分達は役に立つことなく、ただ一人佐々木という青年だけが少女を救う事が出来たのだ。
あの子が元気になったのはとても良い事だ。
酷い事があった分この後の人生は幸せでいて欲しいと心から思う。
だけど、同時に劣等感が胸を刺す。
多少レベルが上がっても、鎧に身を包み大層な剣を背負ってもそれは表面だけ。
取り繕った金鍍金も、一皮むければ取り立てて長所のない凡人が顔を出す。
そんな自分を嫌でも直視してしまう。
結局のところ高市新には中身がないのだ。
元から何の試練を超える事無くその日その日をやり過ごしてきた男なのだだから。
細かい経緯は知らないがあのデビルバスターが少女を救えたのは彼が積み上げてきた経験が、強き魂があるからなのだろう。
幾度なく苦難に挑み積み上げてきた意思があったから。
けれど新には力はあっても偶発的に得た物で力に見合うだけの魂の強さがない。
単に多少強いだけで積み上げた物がないから、大したことができない。
ほら、いまだってそうだ。
「ア、ああ……」
呻くような声に新の心臓が早鐘を打つ。
階段に差し掛かったあたりに一人の少女が座り込んでいた。
薄い色の波打つ髪の少女は俯き荒い息を繰り返している。
痩せてはいるが包帯などは見えないが顔面蒼白の状態。
顔立ちが可愛らしいだけにより一層悲惨に見えた。
「大丈夫かい? 医者の人を呼ぼうか?」
「大丈夫、デス……! いつものフラッシュバック、ただ発作ダ、カら……」
新を寄せ付けまいかとするように頭を振って否定する少女。
息を荒げ震える姿は痛ましい。
(定期の発作……という事はこの子も体より心の問題か。
ならパトラを……!)
「……兄さん!」
胸を締め付けられながらもなんとか適切な手段をとろうとするが、それよりも莉愛が駆けつけてくるのが早い。
「莉愛か! この子を頼む!」
「わかってる私に任せて!」
やや疲れた顔の莉愛はマグネタイトを消費し自身に宿る神の力、その一端を顕現させる。
ふわりと、翻る黒い喪服じみた服装は女神ブリジットの力を行使している証。
楚々とした姿の彼女は治療の為パトラを始めとする魔法を行使。
荒くなっていた呼吸が平常になっていき、神経の高ぶりが収まる。
苦痛から解放された少女はすぅと寝息を立て始めた。
「はぁ良かった……。アマンダちゃん中々病室に戻らないから探しに出たんだけど、見つかって良かったよ。
ありがとうね兄さん」
「別に大したことはしてないさ。それよりアマンダっていうのかこの娘。
見た感じ海外の子のようだけど」
「うん……今荒れているヨーロッパの方からメシア教に……」
「……そう、か」
莉愛がそっと撫でる顔があどけない事に胸が痛む。
この子もまた莉愛と同年代だ。
(ああ、畜生……この子、まだ幼いのにこんな……)
胸のうちに燻る感情を自覚しないまま新は顔を曇らせる。
だがそれでも、せめても妹の手助けくらいはしよう。
そう思う程度の感情は浅ましい男にもあると自認している。
「よし、俺がこの子を運んでいこう。病室は何階なんだ?」
「2階のはじっこだよ。足元に気を付けてそぉっとね」
「了解……ん、なんだ?」
少女に触れる寸前、ふと違和感を感じて振り向く新。
強化された五感が確かに捉えた感覚。
それが何なのかはすぐにわかった。分かってしまった。
違和感の元は此処にいるはずのない存在。
見たことのない姿の翼持つ天の御使い。
「っ!? 危ない莉愛今すぐ伏せ────」
天使から放たれる万能の光。
警告を言い終わる前に妹と少女をかばった新。
それは自分にしてはよくやったのだろう。
轟音と閃光を感じながら新の意識は途絶えた。
◎主人公紹介
・高市新 <異能者><■■■■■■> LV36
元北海道在住のキリギリス構成員。
異能者として多少頑丈で力が強い事以外は取り柄がなかったが、メシア教異端の改造により強力な力を手に入れた。
しかし彼自身は平凡なデビルバスターであり、分不相応の力を持っても大したことないという事から劣等感を抱いている。
ただそれでも彼が妹の莉愛にとって善き兄であることは変わらない。
・高市莉愛 <転生者> LV19
新の妹である少女。
性格は温厚で親しみやすく、交友関係も広い。
自分を親代わりに育てた兄を尊敬しており、大切に思っている。
数か月前分かった事だがケルト神話の女神ブリジットの転生者であり、神の力を使う時は黒い上品なドレスに姿が変わる。
後篇は明日の同時刻に投稿予定です。
よろしくお願いします。