真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
この調子で資料を活かしつつ面白い作品を書いていきたいですね。
今回は本スレで登場した脳破壊おじさんの新仲魔お披露目会となります。
廃トンネルの奥、荒み錆びた場所で悪魔が死んでいた。
| 邪鬼 | グレンデル(弱体化) | LV40 | 状態:DEAD |
鎖の髪に鋼の身体をした、見上げるような体格の悪魔の名は邪鬼グレンデル。
中世イギリスの叙事詩ベーオウルフに登場する怪物であるこの悪魔は、弱体化してはいるが依然として強力な悪魔である。
恐らく以前起きた【東京封鎖】の影響かはたまた別の要因か、廃トンネルに潜んでいた悪魔は尋常ならざる強さ。
討伐には一流護国組織の精鋭が必要とされる、それほどの悪魔が、斬首され死んでいた。
横たわる頸の断面は整ってすらおり、邪鬼を倒した存在の並々ならぬ技量を感じさせる。
されどかのベーオウルフか如き武勇を見せた男、
「痛い……痛いよぉ……」
「目が見えない……! いやだ、何処なのお姉ちゃん?」
「大丈夫だ君たちは死なない! 目も腕も直せるから、もう少し頑張るんだ……!」
グレンデルによってぼろ雑巾の様に痛めつけられた双子らしき少女。
グラマラスとスレンダーという体形の違いはあるものの、似通った可愛らしい顔つきの少女達。
二人共グレンデルによって惨たらしく痛めつけられ、血に濡れていた。
相手が力加減一つ間違えれば死んでいたような有様の少女達を介抱しながらでは、とても勝利など喜んでいられない。
とはいっても雨柳も傷を負ったには変わらない。
グレンデルは物理耐性持ちという彼からすれば相性が悪い相手で、全盛期ならいざ知らず今の鈍った彼の手には余る悪魔。
奥義による奇襲で倒せたものの、負った重傷を回復魔法で仮初にふさいだ程度。
本来ならば安静が望ましい程の状態であった。
それでも男は自分の治療をおざなりにしてさえ少女達を介抱する。
少女達が恐怖の闇に沈まないように声を掛けながら。
「君は妹を良く守った。君もそんな大怪我をしてもお姉ちゃんを助けようとしたのか。
二人共仲がいいんだな」
それは過去の
けれど確かに雨柳という男は腐りながらも、誰かを助けようとしていた。
変わらない、変えられない生き様がそこにあった。
「元気になったら二人で何をしたいか考えるんだ。
君達はお互いを大切にできる良い子だから、この先には幸せな未来が待ってる。
だからッ……!」
己の傷をおして姉妹を励ます雨柳。
その姿を警戒を任された仲魔は横目でかすかに見る。
────大丈夫だ。君は俺が助ける。
何年も前に見た映画の印象的なシーンのように脳裏に浮かぶ記憶。
小さく惨めな自分に手を差し伸べる、勇気と使命感に溢れた、利他的な少年の姿。
その光景が何よりも尊いと、当時と違い、今は人の形すらしていない悪魔には自然に思えた。
一度折れた男の、確かに変わらないソウルを感じ、悪魔はそっと思いの火を灯す。
その願いが成就する日がいつかもわからないままに。
それは雨柳巧がキリギリスに加入する一年程前の事であった。
帝都にある住宅街の一角。
何の変哲もない家屋が立ち並ぶ中、ありふれた家々の一件には古物商の看板が掲げられている。
その家屋は一階部分を店舗に改装されているのか、面した道からは屋内に飾られた商品が垣間見える。
けれど住宅街の一角にあるうえに、看板以外取り立ててその存在をアピールしていないからかどうにも目立たない。
だが、この店はそれでよいのだ。
秘密とは秘される物である。
故に地下にある【邪教の館】という秘密を抱えているなら目立たない方が都合が良い。
「しかし、お前がまたここに来るとはな。
私はてっきり異界にでも籠ったままでいると思っていたが」
くく、と軽く笑うのは白衣を着て髪の一髪を赤く染めた女だ。
彼女は雨柳行きつけの邪教の館の主である。
フリーになってからの付き合いであるが、それなりに気心は知れている。
「そんなに意外か?」
「意外も意外、だよ。
ここ数年は少しマシになったがお前は死んだ魚のような目をしていたからな。
よもやまた顔を見る事になるとは思わなかった。
いやあ人は見かけによらないなんて言葉を今更実感するとは」
眉を寄せる雨柳を興味深げな眼で見る女は業界でも変人で有名である。
かつて悪魔の存在を知るや否やそれまで築いた研究者としての地位を投げ捨て、悪魔に関する実地調査や研究に勤しみわずか数年で邪教の館を構えるに至った奇人。
曰く悪魔という存在、特に新たな生命を創り出す悪魔合体という行為に興味を感じたことが理由だそうだが、良くやる物である。
「得意客に何て言い草だ。最初はそのつもりだったんだけど……まぁ色々あったんだよ。
予期せぬ出会いとか、支えてくれる人の激励とかな」
昨今の世界が滅びるという噂から異界に引きこもる悪魔業界関係者は後を絶たない。
雨柳も当初はその中の一人であったが、今は違う。
遅参の身ではあるが誰かの為に戦っている。
「支えてくれるというのはお前の囲っている女達として、出会いとは具体的には?」
「今日は支援役の仲魔を作りたいんだ。この2体の合体を頼む」
「強引に会話を打ち切ったな」
女は半目で雨柳を見やる。
なんかこの男変に荒んだ目つきをしてんなと感じた。
「俺はですね、世の中には知らない方が良い事があると思うんですね」
「……とりあえずあまり聞かない方が良い事が分かった。
話を戻すがこの2体を合体させると私の機材だと<女神>だな。それでいいか?」
頷く雨柳は二体の仲魔を出す。
一体は召喚頻度は低い物のそれなりに長い付き合いで、もう一体は先日異界で交渉により仲魔にした悪魔だ。
付き合いの長さが対照的な2体と別れの言葉を交わす。
悪魔使いにとってはありふれた、けれど神聖な時間。
いずれにも素朴に、しっかりと別れの言葉を交わし巨大な培養槽のような装置に入っていった。
「さて、始めるか」
「ああ」
合体装置の起動スイッチを押すと、電気が弾けるような音を響かせ悪魔合体が始まる。
培養槽のような装置二つの間にある巨大な魔法陣が発光。
2体の悪魔の生体情報を元に新たな存在を生み出していく様を雨柳は見ていた。
意思を持った生命である悪魔を酷使し、時には合体させる。
多くの場合は悪魔が望んでのこととはいえ己の目的の為に命を消費している事には変わらない。
(流石に十年以上もやってると馴れたもんだが、何も感じなくなるまでにはならねえな)
共に戦った仲魔達の事は自分が生きている限りは覚えておく。
それが悪魔召喚師としてできるせめてもの事だと雨柳は考えている。
例えば────
「あっ事故った」
「はぁっ!? ちょ、マジかよ!?」
合体装置の管理端末が発する警告音、それが意味するのは
悪魔という生命体を掛け合わせるという行為故にか、低確率で起きる合体事故は本来と異なる結果をもたらす。
予期せぬ悪魔の生誕は予想以上の強さの悪魔を生み出すこともあるが同時にスライム化等の危険性もある。
確実性を重視するベテランからすれば歓迎できることではない。
「スライムは、スライムだけはやめてくれよ!?」
「いやこの反応はむしろ逆、レベル50どころかお前と同等のレベル……!
一体何が来るんだ?」
普段冷静さを絶やさない女の額には珍しく汗が浮かんでいる。
恐らく出てくる悪魔は強力な存在。
万が一の時に備え雨柳は刀の柄に手をかける。
ボンという音と共に魔法陣の上に広がる煙。
換気装置により徐々に煙が消えていく中、二人は浮かび上がる人影を固唾をのんで見守る。
「────肉体の構築完了。精神との齟齬もなし。
……上々の結果ね。これなら今のサマナーの役にたてそう」
魔法陣の上に立つのは、美しい女の悪魔であった。
一流の芸術家が造形したかのような滑らかな肌に整った顔立ち。その美貌に埋没しない
長い髪は豊かに実った麦の如き黄金色で、青く染められた一房が爽やか。
羽根の意匠があるブーツから、黒とやや紫かかった青の装束に包まれた首元まで、肢体ははすらりとしてなおかつ女性的な豊かさ。
更に右手には時計の針めいた刀身を持つ、大身の槍を携えているのが勇ましい。
戦乙女という言葉を体現したかのような女悪魔は雨柳に対して優雅に一礼する。
「私は軍神スクルド。共により良き未来を目指しましょうサマナー」
\カカカッ/
| 軍神 | スクルド | LV61 | 核熱・状態異常に強い 破魔・呪殺無効 |
「……ああ、今後ともよろしく」
北欧神話に歌われるウルドの泉に住むというノルンの三姉妹の三女にして、12人のワルキューレの一角である戦乙女。
そのスクルドが軍神の相を以て、自身に忠誠を誓っている事に安堵しつつも雨柳は息をのむ。
何故なら、新たな仲魔は10年以上も昔に居た、彼のかつての仲魔に似ていた。
その仲魔はもっと幼い見た目だったし、髪の色も目の色も装束も違う。
けれど何処かスクルドは何処か面影があった。
帝都の多摩周辺、世界有数の大都市のイメージとは裏腹な長閑な光景が広がる地域。
その中にある異界の一つに雨柳は来ていた。
その傍らには先日から仲魔になった軍神スクルドもいる。
「うわ~さっすがレベル60越えの大悪魔。この域になるとになると立っているだけでも威圧感があるんですねえ」
スクルドを感心したように見るのはウィッチドクターだ。
長い銀髪と少し生意気な雰囲気がある可愛らしい顔立ちの彼女は、キリギリスの活動を通じて知り合った。
雨柳と交流のあるキリギリスの発起人佐々木とも繋がりがある彼女と依頼に同行するのは初めてである。
けれど今は佐々木の元に身を寄せている少女という共通の知り合いという事もあり、それなりに互いの信用は高い。
「前デビルバスターやってた頃にレベル40越えは倒した事ありましたけど、その1.5倍……業界のインフレを感じます。怖い物ですねー」
最近の悪魔業界はGPの上昇もあり、ゲイトだのバリオンだのダイン越えの魔法すら出てきている以前とは考えられない程のインフレ状況。
そんな状況だと感覚が麻痺しがちであるが、レベル60越えとはとんでもない大悪魔だ。
現に雨柳が囲っている元カジュアルの双子はスクルドを見て、「うわわわわ」「はわわわわ」と反応していたし、交流のある安那という異能者の少女も驚いていた。
現在でも常識的な強さの覚醒者基準ならば雲の上の存在であり、インフレが進む第一線でも通用する力を持っているのだ。
「まぁ最近のGPの上がり様はやべえとはいえなぁ。
合体事故とはいえ俺もレベル60越えの仲魔が出来るとは思わなかったぜ」
「サマナーの赴く戦場には生半可な力では足手まといになるから。
上手く力を引っ張ってこれてよかった」
静かに、けれど確かな感情を持ってスクルドは言葉を紡ぐ。
そんな軍神に対して雨柳は既視感を感じる。
(言葉は少ないけど、自分の感情はハッキリと主張する。
こういうところは変わらないんだな)
スクルドの三世代前にあたるディースは雨柳がまだヤタガラスにいた頃使役していた仲魔。
ある事件を機に仲魔になった彼女は、ガイア教過激派を始めとする敵勢力と戦っていた雨柳の回復役を務めており何度も助けられた。
やむに已まれぬ事情で悪魔合体し、全く別の悪魔になった後も良く仕えてくれた。
(ディースは神話においてはヴァルキリー、ノルンとも同一視されている。
そのあたりから軍神になったんだろうが、こんな先祖返りみたいなことが起きるとは、な)
戦闘経験を積み霊格を上げた悪魔が、オルトロスならケルベロスという風に変異する現象は以前から報告されている。
現に雨柳もディースがヴァルキリーに変異するケースを聞いた事がある。
しかし全く別の悪魔になったはずのディースがこのような形で戻ってくるとは。
彼女が居たのはまだ10代で20歳に差し掛かるあたりの、31歳のおっさんからすると大昔。
当時は若く勇気と使命感に満ちあふれていた今とは大違いの人間だった。
感慨深くも苦い────と思っているとどうした事だ。
ウィッチドクターはスクルドを見て何故か半目になっている。
正確にはスクルドの豊かな胸と自身の平らな胸を見比べていた。
「……何か?」
「うぐぐぐ……羨ましいです。何ですかそのでかぱいは!?
私の後輩と言い何ですか? 髪色が金髪だとでかくなりやすい傾向でもあるんです!?」
「さあ……? 昔は小さかった気がするし、今の身体は特に意識してた訳ではない、けど」
小首をかしげるスクルドの動きに追随して胸が動く。
その艶やかな光景は平坦なウィッチドクターからすると腸が煮えくり返るものだ。
「かーっ! 全く金髪巨乳という奴は!
どいつもこいつもでかい物をたぷたぷ、たぷたぷと見せつけるからに!
どうせ後輩と言い、あのなんよーって感じの子も、これから佐々木さんに揉まれてさらにでか」
「や め ろ」
脳破壊おじさん渾身のインターセプトである。
「その話は、やめるんだ。 い い ね ?」
「アッハイ」
目をキュピィィィンと禍禍しく光らせる雨柳に彼女は押し黙る。
彼女とて世の中には触れてはならぬ一線がある事は知っているのだ。
一体なぜこうなったのだろうという顔をしているスクルドの事は、見ないことにする。
「……えー、気を取り直してそろそろ仕事に取り掛かりましょう。
サクッと目的を達成して帰らないと」
「それもそうだな。よし、行くぞスクルド。
お前さんのデビュー戦だ」
退魔仕様の備前長船を手にした雨柳に従い、スクルドは槍を手にふわりと浮かび上がる。
その顔は興奮のせいか、いつもよりほんのりと赤い。
「そうねサマナー。私の得た力をご覧あれ」
微かに浮かんだ笑みはワルキューレの一角に違わず美しい。
森林地帯に相応しい瑞々しい緑が広がる異界。
人里から離れているがヤタガラスが管理している異界だけあって出る悪魔の強さはそれなりだ。
| 妖精 | ケルピー | LV28 | 氷結・幻影耐性 衝撃弱点 |
| 魔獣 | ネコマタ | LV27 | 火炎・電撃・呪殺耐性 氷結弱点 |
| 凶鳥 | フリアイ | LV25 | 斬撃に強い 破魔無効 銃撃・衝撃弱点 |
| 妖虫 | ミルメコレオ | LV30 | 破魔・状態異常に強い 火炎・氷結弱点 |
| 土霊 | カワンチャ | LV25 | 破魔・呪殺耐性 電撃弱点 |
| 妖樹 | マンドレイク | LV22 | 呪殺無効 火炎弱点 |
レベル30近く種族も弱点もバラバラな悪魔が出没する、この異界には多少の腕が立つ程度のデビルサマナーでは近寄りがたい。
ましてや昨今はヤタガラスの多忙により異界の整備の手が緩んでいるのだ。
安全マージンを考えると、遠慮したくなるものだろう。
「この程度の敵なら、束になっても問題ないわ」
そんな異界を雨柳たちはスクルドを先頭として進んで行く。
本能で襲い掛かる悪魔を文字通り鎧袖一触にしながら。
スクルドはワルキューレとしての側面もある為か高速で飛行可能。
そんな彼女が槍を振るい、魔法を放つ。ただそれだけで敵悪魔が四散していく。
一方的な光景は彼女の持つ力の強さを示していた。
高い機動性で先手を取って、強力な攻撃を繰り出す。
さらには数を頼みに魔法を放つ敵悪魔に対しては
「サマナー達には届かせない」
物理と魔法両面の高い攻撃性能と、反射障壁による魔法防御性能。
それだけでも厄介な物であるが、この領域に達したスクルドはそれだけにとどまらない。
「サマナー11時から凶鳥、2時から魔獣と妖精が」
「魔獣と妖樹は俺がやる。空の方は迎撃を頼む」
雨柳の指示が飛ぶや否やスクルドは緑色の石を投擲する。
それは本来人間のみが扱うことができる退魔の道具であり、悪魔のスクルドには使えない。
しかし彼女は道具の知恵・攻*1と呼ばれるスキルにより人間用の道具を扱える。
スクルドが魔力を込めて射出するのは風属性の魔法が込められたマハザンストーン。
フリアイの弱点を突く風属性の魔法は、凶鳥を霞網で捕えるかのように広がり切り刻んだ。
凶鳥を屠ったスクルドが上空をフライパス。
その力に怯えた悪魔の群れに対して雨柳は躊躇なく切り込む。
| 乱入剣 | 物理スキル | 敵一列に剣相性ダメージ。中確率でPANIC状態にする。 |
雨柳の悪魔を切り裂く動きには無駄がない。
適切な間合いを、相手の攻撃が当たりづらい角度を、瞬時に計算した斬撃は反撃を許さない。
悪魔業界の熟練らしい、丁寧かつ大胆な動きだった。
「これで、ラス1っ!」
小気味よさすらある音を立ててマンドレイクが切断された。
綺麗な断面を見せて三枚おろしにされたマンドレイクの根がコロコロと転がる。
その根を手際よくつかんで収集するのは、援護を行うウィッチドクターだ。
彼女の表情は満足そうである。
「いやー大量大量! これで大体8割がた採取完了ってとこですね。
悪魔もだいぶ間引いたしこのままいきましょう!」
「おうよ」
グッとサムズアップするウィッチドクター。
彼女に応えつつ雨柳たちは慎重に進んで行く。
彼等がこの異界へ来た目的は大きく分けて三つ。
一つ目はウィッチドクターが自衛能力を確保する為に、悪魔を倒してレベルを上げる事。
二つ目はヤタガラスの依頼によるこの異界に生息する悪魔の間引き。
そして三つめ、最も重要なのがマンドレイクがドロップする根の確保である。
マンドレイクの根は、悪魔由来の病気や呪に対する魔女薬の原料になる。
無論神話の主神クラスの呪いの解呪などは到底出来はしないがその効能は確か。
しかし先日ある事件があり、関東圏の魔女達の手持ちの原料が不足。
故に霊的な事情から生息するマンドレイクのレベルが高く、良質な根がとれるこの異界に採取に来たのだ。
根は結構な数が必要な上にこの異界も広い為、本来ならば数回に分けて探索を行うことになったかもしれない。
だが、雨柳とスクルドという高レベルがいる事によって効率的に探索を進められている。
おまけにスクルドはスキルの一つとしてチャクラウォーク*2を持っており、その上回復魔法で体力を回復可能。
そんな継戦能力が高いスクルドが先頭に立っている事もあり、順調に依頼は進んでいた。
けれど彼等は忘れてはいない。今日のように依頼が順調に行っている時こそ思わぬ落とし穴が待ち受けている事を。
その事をベテランである雨柳だけでなく、かつて下劣極まりない村人たちによって生き地獄に堕とされたウィッチドクターはよく知っている。
それは異界もある程度探索が進んだあたりでの事だった。
「十七、十八……よしよしマンドレイクの根も充分に集まりましたね
これだけあれば私の所だけでなくソラ────雨柳さん?」
上機嫌なウィッチドクターの声に返答が帰る事はない。
スクルドと共に先行していた雨柳が足を止め、刀を構える。
にわかに増した緊迫感がその意味を伝え、ウィッチドクターもまた顔を引き締めた。
彼等が感じ取ったのはこの異界においては段違いの強さの悪魔の存在。
明らかに敵意を持った相手に対して得物を構え備える。
「俺とスクルドが前に出る。後方からの支援頼むぜ」
「はいな! 足を引っ張らない程度に頑張らせていただきますよ~!」
「サマナー! 敵悪魔2体、来るよ!」
鬱蒼と生い茂る木々をものともせずこちらへ接近するのは黒いシルエット。
異端の悪魔2体が雨柳たちの前に姿を現した。
\カカカッ/
| 超人 | ブラックマン*3 | LV56 | 弱点・耐性なし |
アナライズの結果出たのは【超人 ブラックマン】という悪魔。
それらはかつて御影町という町で起きた事件において確認された悪魔と酷似していた。
黒いスーツに重度の改造を加えたと思しき金属質のボディ、赤青二色に塗り分けられた頭部の悪魔が2体。
強力な力を秘めた2体の悪魔は、無言のまま襲い掛かって来た!
| パウダーショット | 銃撃属性スキル | 敵複数にショットガン特性の銃撃で中ダメージ。 |
| ロングショット | 銃撃属性スキル | 敵単体にライフル属性大ダメージ*4。 |
| | 物理スキル | 敵複数体に技属性中ダメージ。 |
畳みかけるように繰り出されるブラックマンの攻撃。
対悪魔用の弾丸を用いた内臓火器による銃撃と、炎の如き残光を残す鋭い蹴り。
それは生半可な異能者や悪魔など瞬く間に四散させる暴力の嵐。
ブラックマンには特殊なギミックはないが速く固く火力が高い。
一体何を相手にするためにここまで改造したのか疑問な程の戦闘能力の高さ。
そんな恐るべき猛威に対して雨柳とスクルドは敢然と立ち向かう。
「あなたに、前に進む力を」
| 勇奮の舞(NINE仕様) | 補助魔法 | 味方全体の物理攻撃力+物理防御力を3ターン上昇させる。 |
たたん、と中空でステップを踏み華麗に舞うスクルド。
見る者を勇み、奮い立たせる舞の効果を受けて雨柳が前進する。
「速攻で切り伏せるッ」
敵の攻撃に血を流しながらも防御力の上昇によりその傷は深くない。
さらにウィッチドクターが発動した
臆することなく接近し、反撃となる斬撃を敵へ繰り出す。
斬撃をもろに受けたブラックマンは咄嗟に身をひねり致命傷を避けた。
ひねった身を戻すようにして、そのまま拳を握り雨柳に殴りかかってくる。
まるで熟練のデビルバスターのような反応の良さだ。
(見た目通り超重度のサイバネ改造済み、いやそれだけじゃなく悪魔化もしてやがるか。
セべクスキャンダルの時出た奴とは聞いたが、訳が分からねえ野郎だな)
訳あってセべクが御影町で起こした事件については自分なりに調べた。
このブラックマンについても、当時事件の解決に当たった関係者から少し話を聞いている。
それにしてもこんな化物が闊歩しているとは当時の御影町はどんな魔境だったのだろうか。
全く以て疑問は尽きない。
話を戻そう。レベル50オーバーの領域にあるブラックマンはシンプルに強いうえに、連携が巧みだ。
銃撃と格闘攻撃の矢継ぎ早のコンビネーション。
互いの攻撃が密接につながっており、一体の攻撃を躱すともう一体が死角から攻撃してくる。
正確かつ無機的な連携はなんともやりづらい。
僅か
至近距離からの一撃を"ガード"したところで襲い掛かるのは背後から蹴撃。
無防備な延髄を撃ち抜こうとした一撃は無慈悲そのもの。
遠心力を加えた蹴撃は容赦なく雨柳を打ち据えようとしたが。
「――――させないわ」
岩すら砕くを槍を盾代わりに受け止めるのは"カバー"に入ったスクルドだ。
「私はサマナーの仲魔よ。1対2なんて許すと思ったの?」
みしり、と体を衝撃で軋ませながらもスクルドは雨柳と背中合わせに立つ。
互いの正面に立つブラックマンをけん制しつつも、背中越しに感じる体温がこそばゆい。
そしてマグネタイトのつながりを通じた情報の伝達は一瞬で完了。
(こないだ練習した通りあれでいくぞ……ただ、無茶はするなよ)
(わかってる。私は大丈夫)
文字通り敵を挟み撃ちにせんと、両方向から疾駆するブラックマン。
二人はそれぞれ対峙した敵を迎撃する────と見せかけて雨柳は地に伏せた。
同時にスクルドは、全身をフルに使って大身の槍を全力で振るう
華麗にして熾烈なその動きから繰り出されるのは強力な物理スキル。
| 物理スキル | 敵複数体に槍属性大ダメージ。 |
目にもとまらぬ速さの一撃はブラックマンの反応速度すら上回り、金属の身体を貫く。
予期せぬ動きからの激烈な攻撃に、ブラックマンはそれぞれ逆方向へ吹き飛ばされる。
轟音が響く中草に塗れ転がり、損傷個所からスパークを散らしながらも立ち上がろうとするが、もう遅い。
「────復帰はさせねえよ。このまま終われ」
地に伏せた状態から一気に駆け出す雨柳。
体勢復帰が遅れたままの敵に対して振るうは無慈悲なる剛剣。
| ヤマオロシ | 物理スキル | 敵1体に剣相性のダメージ。使用者のHPが多い程威力が高くなる。 |
退魔仕様の名刀による力と技を併せ持った斬鉄の一撃。
大上段から繰り出された太刀は、咄嗟に盾にした両腕毎ブラックマンを切り裂いた。
脳から腹まで真っ二つにされたブラックマン。
崩れ落ちる反対側ではもう一体が立ち上がろうとしていたが。
「よっしドンピシャ!」
絶妙なタイミングで、ウィッチドクターの
後方から支援に徹していた彼女もまた優秀なデビルバスターである。
動き回っている最中ならともかく、止まった所を逃すはずがない。
感電状態に陥った敵を見ればその判断の確かさが分かるというものだ。
敵を前にスクルドは己の主を一瞥した後、冷静に自身の魔力を収束。
ブラックマンを駆逐せんとする彼女の胸裏には男への感心。
(……強くなったわね、サマナー)
一度堕ちて、そこから立ち上がって全盛期以上の力を手にした彼女の主。
彼に応えるようにスクルドは収束した魔力を解き放つ。
赤紫色の魔力は、輝きと共に放たれた。
| フレイダイン*5 | 核熱属性魔法 | 敵1体に核熱属性大ダメージ。炎上凍結感電の敵に効果大。 |
スクルドの瞳と同色の光輝。
禍禍しくも美しい奔流はブラックマンを消し飛ばした。
とある医院の中、仕事を終えた雨柳はスクルドと共に帰ろうとしていた。
拠点に帰ったら武器の整備と動きの再確認、それとブラックマンのデータをキリギリスの掲示板に上げなくてはいけない。
多忙なウィッチドクターに替わってそのくらいはやっておいてもいいだろう。
(耐性は特になしってところだが、状態異常もう少し試しとけばよかったか?
まあでもレベル考えると比較的楽に処理できただけでマシか)
そんな事を想いつつ出口へ歩いているとおやどうした事か。
まだ小学校低学年くらいの男の子が歩いてくる。
「えーっと、その、あの」
「ん? どうしたのかな?」
雨柳は膝を曲げて少年に目を合わせてやる。
身長180cm程の無駄にでかいおっさん相手だと子供は話しにくいだろうと思っての事だ。
そんな気遣いが功を奏したのか少年は意を決して話し出した。
少年曰く雨柳にお礼を言いたいのだそうだ。
デビルバスターをしている少年の父親は、先日傷を受けこの病院に入院しているそうである。
それなりに重い傷であったが、幸いな事にマンドレイクの根を使った霊薬ならば治療可能。
だから根を採ってきてくれた雨柳に対してお礼を言いたいのだと。
「……そっか。こちらこそありがとうな」
少し複雑な思いを受け入れながらも雨柳は少年の感謝を受け入れ、だけどと前置きして少年に話しかけた。
「おじさんは根をとって来ただけだからさ。
君も行ったことあるだろうけど、お使いみたいみたいなものだ。
だから俺よりもお父さんの治療をしている医者のお姉さんやお兄さんにお礼を言う事。
後、君の為に頑張っているお父さんにこういう時だからこそお礼を言っておくんだぞ」
言えなくなってからじゃ遅いからとは、子供相手だから言わない。
「はい!」
「うんいい返事だ。それじゃそろそろ戻りなさい。
この病院結構広いから気をつけてなー」
頭を下げて元気よく去っていく少年に手を振り返す雨柳。
その姿を後ろから見ていたスクルドは気づかれないように、ふふと吐息を漏らす。
(……この人は10年たっても、心が一度折れても本当に変わらないんだから)
悪魔合体を経た悪魔は前世の様に記憶や衝動を引き継ぐとはいえ、合体以前とは別の存在である。
けれどスクルドからすれば三世代は前に当たるディースの記憶の中でも幾つかは残っていた。
その一つがまだ10代だったころの彼との出会いの記憶だ。
何の因果かディースとして未熟な個体として彼女は産まれた。
通常のディースよりも10以上レベルが低い*6彼女は、異界の中でうろうろと漫然と何年か過ごしていた。
仲魔もなく目的もなくただ虚ろに過ごした時間の果てに彼女はダークサマナーに捕獲された。
頭のネジが外れたダークサマナーは彼女を手ひどく扱った。
それはサンドバッグ以下の、ただただ病んだ欲望を満たすだけの扱い。
朧気で幼い自我の何ら抵抗もできない、彼女への苛みは永遠に続くかに追われた。
────そんな彼女に救いの手を差し伸べたのがまだヤタガラスにいた頃の雨柳だった。
既に新進気鋭のホープとして頭角を現しつつあった雨柳は、ダークサマナーを倒しディースを解放した。
その後行く当てのない彼女を丁度状態異常の回復が出来る仲魔が欲しかったから、と言っていたのは彼の下手な照れ隠しだろう。
刀は器用に操る癖にそういうところは昔から不器用な男だ。
「確かに自分でも俺甘いかなーって思うんだよ。
けどさ、人でも悪魔でも心を持っていて、誰か助けて欲しいって思っている相手を助けようとするのってそんなに変かな?
まー確かに悪魔召喚師らしくないけど」
なんて言っていた彼に付いていき、力を強めながら戦った。
急成長していく彼に付いていくのは大変だったけど、それでもようやく自我が芽生えた彼女には輝かしい日々だった。
ディースが雨柳と共にいた日々は一年程で終わりを告げた。
原因は敢えて言うならば、雨柳かディースか、または双方の力不足。
「……ごめんなディース」
「悲しむことなんてないよサマナー。あなたの使命は無辜の人々を護る事でしょう?
その為なら私は喜んで協力するよ」
雨柳がある事件へ派遣され、激戦の果てに悪魔を倒した日の事だ。
悪魔の被害者はまだ生きていたが呪われており、一刻も早くやや特殊な状態異常の治療が必要。
けれど雨柳も同僚も治療可能な道具も、状況に適した魔法を持つ仲魔もいない。
ただ一つ、種族【妖魔】のディースと、他の悪魔を合体させることで生み出せる悪魔のみが、適した魔法を持っているとされた。
だから雨柳は同僚の持つプログラムを使ってディースを素材に悪魔合体を行った。
結果として何人もの被害者を救う事が出来たが、新たな仲魔はディースとは全く別の人型ですらない悪魔。
被害者助けられて良かったと雨柳は表面上は平気な顔をしていたが、喪失をこらえきれずに泣いていたことを彼女は知っている。
それからも10年以上、違う心と体で彼女は雨柳を見てきた。
転がり落ちるように病んでいき、卑劣な陰謀に巻き込まれヤタガラスを辞めた時も。
腐りきっても結局己の生き方を根本から変えられず、誰かの為に悪魔と戦っている時も。
可愛らしい少女との出会いをきっかけに、キリギリスに参加して激戦に身を投じた時も。
ずっと見てきたから元はディース、今は軍神スクルドとなった彼女は雨柳巧という、善と悪では善の方に転ぶ男を敬愛している。
ちょっと私生活では駄目な所があって、何故かJCの事になると頻繁に脳破壊されるけど、それでもこの人と共に良い未来が見たい。
そんな思いがあるからこそ、並び立てる今が愛おしい。
(私はワルキューレの側面を持つ軍神スクルド。
けれどあなたを導くのはヴァルハラではなく幸福な未来。
その為に私のソウルと力はある。だから共に行きましょう)
未来への想いを胸に軍神は悪魔召喚師と共に居たいと思う。
すっと自然に雨柳の横に並び歩いていく。
以前は会わなかった歩幅が合う事がとても気持ちよく感じられた。
・雨柳巧 <デビルサマナー><剣士> LV62
シリーズポジション:ニッカリ及び悪魔討伐隊(真・女神転生Ⅳ Final)
本スレの【突撃、隣のパパ活現場】にて再登場した31歳デビルサマナー。
ヤタガラス時代から色々あって変わったところもあるが変わらないところも多い。
なお黒髪美少女JCが本スレ主人公の元へ来たことにより脳破壊は止まらない加速する!
・<軍神>スクルド LV61
今回初登場の雨柳の仲魔。
スキルは全体的に汎用性及び継戦能力を重視して構成されており、特化型が多い他の仲魔の隙を埋める形になっている。
原型となったのはかつて雨柳が救い仲魔にした未熟なディース。その時の記憶や感情を断片的にだが引き継いでおり忠誠心は高い。
尚軍神という種族はスクルドは他の姉妹と違いワルキューレとしての戦闘的な側面がある事、特に真Ⅲだとヴァルキリーは種族軍神であることから設定した。
次回の投稿は5月中には行いたいと思います。
現在考え中の新規のキリギリス勢の追加か、脳破壊おじさんの話かは分かりませんが投稿の際はよろしくお願いします。