真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス-   作:ローグ5

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データをまとめるのにちょっと時間がかかりましたが投稿です

絶望を超え、その先へ至れ


Beyond the Despair-前篇-

 2020年が始まって間もない頃である。

 明け方前の京都の片隅にそれは立っていた。

 

「……あれ?」

 

 それは小首をかしげた。

 重要な事実に気付いたからだ。

 

「そもそも此処は何処で、僕は誰だ?」

 

 辺りを見渡しても有るのは瓦礫ばかり。

 元はそれなりに立派な建物だったのだろうが、戦争でもあったのかという程に破壊されている。

 挙句の果てにはクレーターの様な跡すらあった。

 

 唯一手掛かりになりそうな地面の穴、それが這い出してきた所も瓦礫が崩れて塞がっている。

 掘り出すには相当な手間がかかるだろう。

 少なくとも人力では無理な程に。

 

「よくわからないけど、凄い事になってるなあ」

 

 他人事のようにつぶやくそれは、遠方に目を止めた。

 遠目には五重塔やら何やら、古風な建造物が見えた。

 現代の日本ではそうはない建物の数々。

 こんな建物が多数あるという事は京都でいいのだろうか? 

 

「整理しよう。日本であんな建物があるのは京都ぐらい。

 まずは此処は京都だと考えるとして、僕は誰かというと……」

 

 それはしばらく考え込んだ。

 空っぽの頭を総ざらいしていると浮かぶ単語があった。

 本当に自分の名前かは分からないが、しっくりくるような気がした。

 

「僕は、シロガネっていうのか」

 

 それ────シロガネは己の名前を認識した。

 またシロガネは人間ではなく、悪魔だ。

 感覚的にそのくらいは分かった。

 その辺に落ちてたガラスに映る姿は、人間のそれと同じ。

 だが、雰囲気が魔の気配を纏っているように自分でも感じられた。

 

(ん-っと、取りあえず僕はシロガネとして、何かこう、目的があるかというと全く思い浮かばないなぁ。

 多分記憶喪失って奴なんだろうけど、いやー自分がこうなるとは)

 

 当然ながら自分が何者か教えてくれる者は誰もいない。

 ゲームのチュートリアルの様に、親切なNPCが説明してくれるという事もない。

 彼は今のところ一人である。

 

「一人っていうのは寂しいものだなぁ。

 まあ、でもいいや。帝都へ行こう」

 

 それでもシロガネは特にへこたれていない。

 己の自己すらおぼつかない事への不安感はある。

 取り合えず京都駅に行って帝都東京行の新幹線に乗るか、と思い歩き出す。

 

 そのあたりには迷いはない。

 何故なら、彼が思いだした事は三つあったから。

 

一つ、彼の名前はシロガネである。

 

二つ、人間ではなく悪魔である。

 

そして三つ、彼には誰か大切な人間がいたという事。

 

 名前も声もはっきりとは思い出せない。

 けれど何故か帝都に行けば会えるような気がした。

 なにも思い出せなくても、一先ずの目的を決めるならそれで十分だ。

 

(誰か思い出せないけど、どんな人なのかな? 元気にしてるのかな?)

 

 まだ見ぬ人に思いを馳せながら彼は進む。

 東の地を目指して、力強く。

 

 ────こうして()()における彼の物語は始まった。

 

 

 


 

 

 

「……という感じで、帝都に来たんだよね。

 まあ新幹線の中でマグネタイト不足で倒れて、取り合えずで雨柳と契約して。

 それで今此処にって感じなんだけど」

 

 雨柳が所有する異界の中、何でもないようにシロガネは説明を終えた。

 気軽に話していたシロガネを見る雨柳の顔は微妙そうだ。

 

「いや、一気に話が飛んだ気がすんだけど。

 新幹線にはどうやって乗ったんだそもそも」

「取り合えず女の子攫おうとしてたチンピラボコって財布getした。

 後は京都駅行って音声ガイドに従ってチケット普通に買ったよ」

「武闘派~」

 

 意外な返答に合いの手が入る。

 

「そんなことがあって巧さんが連れて来たのかぁ。

 やけに遅いと思ったらそんなことがあったんですねえ」

「ああ。まさか新幹線の中でこんなことになるなんて思わなかったぜ」

 

 ほうほうと頷くのは車椅子に乗った二十半ばほどの知的な顔立ちの美女。

 彼女は御影。雨柳の幼馴染であり、実質的な妻の様な存在でもある。

 今は待ちきれずに寝てしまっているが、奏と響の天城姉妹や色白ギャルのあかりと一緒にこの異界へ住んでいる。

 品のある彼女の傍らには、万が一に備えてスクルドが座っていた。

 

 帝都東京へ帰る新幹線の中で、偶然会った雨柳とシロガネ。

 記憶喪失の人型悪魔というイレギュラーな存在と、取り合えず仮契約を結んだ後に検査に直行。

 一通り事情を聴取すると、シロガネが現れた、もしくはいた京都との連絡を取り調査及び検査を行っていた。

 

 結果としてシロガネについてはほとんど何もわからずじまい。

 恐らく造魔の亜種である事、続いて精神走査で虚偽ではなく本当に何も覚えてない事が分かった全てである。

 それで一日以上かかってしまい、ただでさえ遅れていた帰宅が遅れてしまった。

 

「すまないなあ御影さん。今日も帰るの遅くなって」

「それは仕方のない事ですからいいですけど……くれぐれも気を付けてくださいね。

 ただでさえ巧さんメンタル強くないし、京都は激戦で、LV100まで出たんでしょう?」

「あの龍や太陽は恐ろしい悪魔だったね。私も一度死んじゃった。

 悪魔は蘇生しやすいけどサマナーは人間なんだから無理は禁物だよ?」

 

 労わる御影の言葉に頷くスクルド。

 京都戦はその辺の雑魚敵もLV50越えが多数出た上に、魔人等それらを優に上回る悪魔が複数。

 おまけに終盤にはLV100越えまで出たのだ。

 雨柳の長いキャリアの中でも敵の強さではぶっちぎりの一位となる大激戦だった。

 

「ん、気を付けるさ。戦力に装備の見直ししつつ死なないようにやってく」

「もう若くないんだから、無謀なことはしては駄目ですよ」

「君たちもいるし、な」

 

 御影はぽん、と雨柳の肩を叩く。

 長い髪が男の腕に触れ、こそばゆいが、それでも感じる温かみ。

 男の顔はいつもより安らいで見えた。

 

「…………」

 

 一方シロガネはあらぬ方を見ていた。

 彼等の仲睦まじい様子が気恥ずかしかったのではない。

 なんかどう考えてもおかしい単語が聞こえたせいである。

 

(あれおかしいな? 今御影って人LV100とか良く分からんこと言ってたぞ? 

 聞き間違いだよなあ? 耳がバグったかなあ?)

 

 シロガネ自身もLV49と結構高い方だがLV100とかそれはファンタジーの話である。

 雨柳も64と大分高いが幾ら何でもそれはない。というかあってはいけない。

 まあきっと目覚めたてとか、なんだかんだ寝不足とかで脳がうまく働いてなかったんだろう。

 きっとそうだ。

 

(聞き間違いだな! ヨシ!)

 

 納得したシロガネは話に戻る。

 少なくとも敵ではない事から、シロガネは仮ではあるが雨柳の仲魔になった。

 シロガネ自身も分からないが、帝都で会いたい人がいるようだし丁度いいと彼も賛成した。

 

「シロガネさん……くん? には悪いけど大丈夫なんですか?」

「私は問題ないと思う。悪魔との契約はミカゲの思う以上に強力だし、精神についても随分と調べたから。

 彼はまあ、ある程度信用しても大丈夫かなって」

 

 御影の疑問に対してスクルドは簡潔に返答する。

 余程の事がない限りかいくぐるのは難しく、そのようなケースに関しても今回は想定して同意の元契約を結んでいる。

 だから一先ずは大丈夫だろうというスクルドに、シロガネも追随する。

 

「第一僕の顔はもうヤタガラスには知れているし。

 雨柳を裏切ったら一時間後には指名手配だって。

 まあ懸念は分かるよ。

 記憶喪失の奴が味方に入って、後から実は敵でしたって定番の展開だからね」

 

 うんうんとシロガネはうなづく。

 味方の新キャラが実は敵の幹部。

 大体4クール目入ったあたりでよくありそうな展開である。

 

「……なんか妙に悪魔っぽくないなお前」

「そうかな? 個人的にはそんな違和感ないんだけど……。

 まあいいさ取り合えず当面はよろしく」

「おう。丁度電撃を使える悪魔が居なかったからな、よろしく頼むわ」

 

 雨柳がシロガネと契約したのは、メリットが大きいというのもある。

 現在雨柳の戦闘向きの仲魔で電撃を得意とする物はいない。

 一方シロガネは電撃を得意とすることは、これまでの調査で分かっている。

 出自が不明ではあるが、高LVで電撃が使える仲魔の登場は渡りに船だ。

 

 ついでに言えば破魔弱点といっても、気がかりな即死は無効らしい。

 スキルだけではなく耐性もまあ優秀と言えるだろう。

 

(悪い奴じゃないみたいだし、僕が何者か、誰に会いたいのか調べていくにも悪くはないか)

 

 シロガネからしても自分が何者か調べる上で、安定した地盤を得る事は大きい。

 邪悪な人間でもないなら、契約するという選択肢も大いにありであった。

 

 そんな訳で謎の悪魔シロガネは雨柳の仲魔になった。

 今後契約を変更することがあるかもしれないが、その時はその時だ。

 

 事情説明が終わりひと段落。

 空気が幾分か和んだところでポン、と御影が手を叩いた。

 

「そうだ、巧さんは銀ちゃんが言ってた仕事、沖縄の件って参加しないんですか?」

 

 御影が言うのは雨柳が参加するキリギリスの発起人である佐々木が受けた任務。

 スポンサーから下されたという任務は、敵が存在しない南の島での気楽な調査だった。

 バカンスがてらに、御影の言う銀や他の少女も参加するそれに雨柳も誘われていたのだった。

 

 息抜きがてら自分だけでも行ってくればいいのにという語調の御影。

 他方雨柳はどこか陰鬱な顔で頭を振る。

 

「いや俺は断っておいた。

 だって男俺とアイツ二人らしいし……あの子達全員来るし……行ったら死ぬし

「サマナーはさあ……まだ脳が破壊される人?」

 

 スクルドは美しい顔のまま、半目で雨柳を見る。

 この男知り合いの娘とか、助けた子とかのJC(女子中学生)に関しては本当に駄目である。

 その駄目さはキリギリスにも知れ渡り、最早掲示板での扱いは脳破壊芸人扱いであった。

 一体なぜこんなことになったのであろうか? 

 

「だってさあ~……あの子達まだ十三、十四なのにさあ……!」

「確かに早いですけどねえ、悪魔業界ってそういう物でしょうに。

 それに巧さん、一つ良い事を教えましょう」

「あ、シロガネ。耳ふさいでおいて」「アッハイ」

 

 スクルドの指示に従い耳をふさぐシロガネ。

 それを確認すると御影は満足そうに頷き、ススと雨柳の耳元に顔を寄せる。

 そうしてそっと囁いた。

 

「13歳と20半ばと、16歳と21歳なんてそう変わりませんよウフフ」

「ワッ……!」

「恋する乙女は何歳でもその時点で女ですよ~」

「ワアッ……」

 

 純粋な少年に向けたらほのかな恋心を抱かれそうな笑顔で、無慈悲にとどめを刺す。

 件の佐々木氏がJC純愛調教お兄さんなら、雨柳は元JK純愛調教お兄さん、現おじさんである。

 そんな駄目人間適性高男に端的な言葉はクリーンヒットした。

 

「アッああアァ……!」

 

 弱点攻撃に呻く雨柳の脳裏に浮かぶのはこの間見た光景。

 雨柳の初恋の人の娘であり、再び戦いを始めたきっかである可愛い可愛い少女。

 この異界を訪ねてきたあの子が、御影たちにあんな事やこんな事を教わっていた。

 その光景を見た時は、まるで【この世全ての悲劇を見たような顔】になったものである。*1

 

「……ぐはっ!」

「いえいっ久々の大勝利ですっ。

 それではスクルドちゃんいきますよー」

「了解ー。シロガネは南にある建物を使っておいて。

 あれはまだ誰も使っていなかったはずだから」

 

 そういうや否や二人はピューっと音が立ちそうな程の素早さで雨柳を回収していった。

 余りの速さは大柄な男を引きずっていったとは思えない程。

 あっけにとられたシロガネは二度見をしてしまった。

 

「…………僕も部屋行って寝るか」

 

 建物の電気を消してシロガネも彼女達とは逆方向に出ていく。

 今日はひとまず寝る事にした彼の脳裏には疑問。

 

(あれ? ひょっとして僕は何か選択を間違えたか?)

 

 

 


 

 

 

 帝都東京からほど近い異界の中。

 オーソドックスな森林を模したそう特徴のない異界。

 本来は初心者の壁を破ったデビルバスターが、習練に使う為の安定した異界。

 その中には今天使達が蔓延っていた。

 

「おお、グローリア。グローリア」

「神の御心のあらんことを……」

 

 無機的な呟きを上げる天使達は、近寄りがたい雰囲気を醸し出す。

 いや、悪魔業界の常識からすれば、天使の集団に近づいていく者などそうはいないだろうが。

 

 異界中心部を占拠した天使達の目的は、安定した霊脈の支配か。

 固い布陣を敷いた天使達は生半可な戦力を寄せ付けないだろう。

 その上に洗脳でもしたのか、外縁部には悪魔を防衛戦力として配置してすらいた。

 

 

軍勢夢魔の群れ*2LV46衝撃・精神無効 銃撃・電撃に弱い

 

 

 大量の悪魔で構成された群れは、本来弱いはずの悪魔達を強力な存在へと変える。

 本来この異界を訪れるデビルバスター達では対処は難しい領域。

 故に異界は天使達や軍勢が確認されて以来、封鎖されていたが。

 

 今日この日、悪魔達を上回る力を持った、雨柳達デビルバスターが来訪していた。

 

「反撃を喰らってもいられねえ。一気に片付けるぞ」

「了解っと。それじゃあ軍勢にはお決まりの広域から」

 

 夢魔の群れに襲い掛かるのはシロガネが放つ広域電撃魔法(マハジオダイン)

 広範囲を薙ぎ払う様に放たれた電撃が夢魔を焼き滅ぼしていく。

 そのほぼ同時に悪魔の中でも高いLVの個体、その脳天に風穴が空いた。

 

バイトザブレット銃撃スキル敵複数に銃撃属性ダメージを与える。かつて十七代目ゲイリンが得意としていた銃技。

 

 雨柳の手に握られた拳銃の銃口から立ち上る硝煙。

 男は刀に比べ頻度は下がるが、銃も使う。

 剣士にして悪魔召喚師といっても、それだけで勝ち抜ける程悪魔業界は甘くない。

 当然の如く一定の水準の銃の扱いも男は修めていた。

 針の穴を通すとまではいかないが、飛び回る悪魔を射抜く程度には正確な射撃だ。

 

(うまい事指揮官格を潰せたみたいだな。

 これで大体半分、後は)

「魔法よりの悪魔が、多いか……!」

 

 算を乱した悪魔達に対して雨柳、同行している高市新(たかいち あらた)が、強力な物理スキルを開放する。

 元より物理に強くない夢魔の群れは、刃による一撃に容易く四散した。

 異界の奥では天使達が慌てふためいている事だろう。

 

「軍勢相手でも先手を打てばこんなものか。思ったより楽ですね」

「とはいっても油断するなよ。俺達が来たのを相手も知っているだろうし」

 

 この日、新と雨柳、それと別方向から何人かのデビルバスターがこの異界に踏み込んで悪魔の駆除に勤しんでいた。

 特に緊急の必要性があったという訳ではないが、可能ならば天使を駆除し、異界を綺麗にしておきたいところだ。

 

 元々この異界は雨柳や新が協力している<少年少女LV上げ部>で使う予定だった場所である。

<少年少女LV上げ部>は、初心者が自衛を行う為に訓練や最低限のLVを上げる為のサークル。

 復帰勢が教師役を務めており、新の妹である莉愛(りあ)や雨柳の保護する天城姉妹も参加していた。

 その一環として安定している異界で戦闘訓練を行おうとしていたが、いつの間にか天使に占拠されていたのであった。

 

「破魔や状態異常を対策してても、天使共なら何してもおかしくないですからね。

 クッッソろくでもない天使共の事、どんな脱法スキル持ってるか分かったもんじゃない」

 

 新はやや目をすがめる。多少北海道で嫌な思い出もあって新は天使が嫌っている。

 あっちでも帝都でも世話になっているのはメシア教系列の団体であったが、だからこそ過激派や主流派は絶許だ。

 あのクソボケ共を血祭りにあげてやるわと、機会を虎視眈々と狙っていた。

 

「そっちは確か病院にカチコミかけたんだっけか? 美森ちゃんからちょっと聞いたが」

「美森ちゃん……あああの黒髪の、ウチの妹と同じくらい可愛い子ですね」

 

 さりげなく妹自慢をしていくスタイルであった。

 

「美森ちゃんかなり強いし頑張ってましたよ。

 多数の天使共相手に一歩も引かずに戦っていました。凄かったなあ」

「だろ? 凄い子なんだよあの子は。

 にしても病院襲ってあの子達にも危害加えるとは、アイツ等ますますおかしくなってんな」

 

 雨柳の言葉に全くだと新はうなづく。

 知り合ってから期間は短く、年齢差もあるが二人の仲は悪くない。

 

 女子供に危害を加える悪党共殺すべし。

 正義を共有しているからか、はたまた駄目人間力の高さゆえか。

 

 そんな二人に同意するかのようにシロガネはうなづく。

 

「やっぱ天使は、アレな奴が揃ってるのかー。

 そのあたりは知っての通りか」

「記憶喪失でもそういう悪魔業界の常識とかは知ってるのか?」

「そうそう、雨柳とも照らし合わせたけど悪魔業界のノウハウは知っているんだよ。

 やっぱり僕は誰かの仲魔だったんじゃないかな」

 

 シロガネが思うに、我ながら人間側に感覚も近い気がする。

 未だに全く思い出せないが、結構な期間誰かの仲魔だったのではないだろうか。

 それこそ思考が人間側に染まる程に。

 シロガネは自身の過去にそう当たりを付けていた。

 

(ま、戦闘中に気を抜くのも良くないか。

 細かい事は天使を倒してから考えよう。

 ……なんかGP高いらしいし、変な悪魔出ないといいんだけど)

 

 シロガネはLV49とそれなりに強い方だ。

 けれどそれはあくまでそれなりであり、強い悪魔は幾らでもいる。

 自分より強い悪魔なんぞとの遭遇は、意地でもしたくなどなかった。

 

 そんなシロガネの想いをよそに彼らの異界攻略はサクサクと進んで行く。

 

「天使が増えてきたな。ったく訳の分からないことをうっとおしい!」

 

 雨柳の目から見ても新の動きは、以前より良くなっていた。

 病院での死闘で色々と掴んだものが会ったのだろうか。

 以前よりも無駄がなく洗練され、集団での戦いに適応した立ち振る舞い。

 斬撃自体にも迷いがなく切り込み隊長としては良いと言っていい。

 

 他方、今回新たに加わったシロガネに目を向ける。

 

(……まあ、中々ってところか)

 

 スキルやステータスは把握していたが、実戦で共闘するのは初めて。

 まあ及第点といっていい動きだった。

 

 高い魔力から繰り出される電撃魔法は強力で、並の悪魔なら纏めて一撃で倒す。

 後衛としての位置取りや、魔法を放つタイミングも良い。

 何方かというと近接よりの仲魔が多い雨柳にとっては中々ありがたい存在だ。

 

 更にもう一点雨柳にとってシロガネの加入が大きなメリットとなる点がある。

 

「ふむ、飛ぶだけが脳の阿呆共も出てきましたね。

 撃ち堕とすとしましょうか」

「なら邪龍はこっちが潰すよ」

 

 シロガネの高位電撃魔法(ジオダイン)が前に立つ邪龍を消し炭にし、ククノチのグランドタックが巨体に隠れていた天使を四散させた。

 2体の仲魔による強力な攻撃の二重奏は圧倒的である。

 

(やっぱ複数仲魔を出せると戦いの幅が広がるもんだ。

 何とかできないかとは思っていたがこんな形で二体召喚が出来るなんてなあ)

 

 雨柳の仲魔にシロガネが加入する利点、それは2体の仲魔が使役可能という事である。

 

 現代の悪魔召喚師が使用するCOMPでは、召喚維持に使うマグネタイトさえあれば2体の仲魔を召喚する事は容易。

 他方雨柳の行使する神道式召喚術では通常は1体、その奥義を極めた達人のみが2体の召喚を可能とする。

 無論神道式召喚術は単純な下位交換という訳でなく様々な利点もあるのだが、召喚可能な仲魔の数という点では些か劣っていた。

 

 雨柳も独自に召喚術を研究・修練し、瞬間的に2体召喚については可能としていたが、常時の2体維持使役は無理。

 その為どうしても手数に欠ける所があった。

 

 しかしシロガネは造魔に近い、物質の身体を持っているからだろうか。

 維持の負担は極めて軽く、1体を召喚している状態と体感では変わらない。

 おまけにマグネタイトの必要量も少ないので、1体がシロガネという前提なら2体召喚が可能だ。

 

(ただ、懸念点もなくはないんだよな)

 

 ここまで考えるといいことづくめな事ばかりに思えるが、気がかりな点もあった。

 

 シロガネは強力な電撃魔法とムドオン(呪殺魔法)*3、その他にはサマリカームやコンセントレイト等も使用可能と多芸だ。

 けれどスキルの一部、恐らく常時発動型の物も含めたそれらが邪教の館にある精密機器を用いても確認できない。

 バグの様に読み取ることが出来ず、発動もしていないようだ。

 

 そのうえ今使っているスキルもどうも馴染みが浅く、本来の物より劣化しているとの事。

 本来はもっと強力なスキルであり、今は弱体化している。

 そうした点は気がかりである。

 

(それに、後衛だっていうのを差し引いても前に出ない)

 

 シロガネの動きは後衛として及第点が与えられる。

 だが10年以上のキャリアを誇り、業界でもベテランの雨柳からすると違う面も見受けられる。

 どうにも及び腰というかダメージを受けかねない状況を避けていた。

 

 通常ある程度力が拮抗した、対悪魔、対異能者同士の戦闘は熾烈を極める。

 故に頑丈な前衛のみならず、比較的脆い後衛もある程度ダメージを受ける事は前提としていい。

 一撃で即死しなければ魔法なり、アイテムなりで回復する手段は幾らでもあるのだから。

 

 其処へ来るとシロガネの動きは積極性に欠けている。

 今回は格下相手だからいいが、LVが近い相手とのダメージレースでは……いい方が良くないが足手まといになりかねない。

 

(どうしたもんかなー)

 

 気になるところもあるが、それでもシロガネは優秀な後衛だ。

 第一悪魔とはいえいったん契約した相手を放り出すのはいかがなものか。

 

「天使は呪殺弱点ばかりだから楽だな、と!」

 

 そんな事を胸の内に秘めた雨柳の視線の先、ヴァーチャーが呪殺され四散した。

 崩れ落ちていく天使を覆うように散る羽根が、あたり一面に広がる。

 これで天使は全滅。この異界の攻略も終わりだ。

 

 

 

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「う~ん、やっぱコイツ等メシアといっても場末のっぽいですね。

 メシア本流のド腐れ共とは何も関係がなさそうだ」

 

 異界の中心部、天使達の拠点を他のデビルバスター達と漁っていた新はそうつぶやいた。

 その口調にはメシア本流への敵意がありありと表れている。

 

 現在メシア本流となっている派閥、バチカンで認定された<救世主>率いる奴等は世界各地で猛威を振るっている。

 北海道で幹部の内二名が倒され、<厄島>の戦いでも情報が得られたがその深奥は今だに不明。

 雨柳達も情報を集めているのだが、せいぜい今回のように下っ端を倒すだけで思うようにはいかない。

 

「意図的に情報与えていないのか、単にアホなのか……<終焔教会(しゅうえんきょうかい)>とも違うようだし」

「終焔教会? まぁた」

 

 新が出した聞きなれない名前に雨柳は、疑問を呈する。

 この荒れた時勢だと悪魔を利用する組織も、お決まりのガイアやメシアだけでなく、雑多な組織が現れてはよく滅ぶ。

 ついこの間も<ムース・ハーメルン>、<神話復権>、<終世極星教>といった組織がキリギリスに叩きつぶされたはずだ。

 

「あれ、<終焔教会>の事雨柳さんは知らないんですか? 

 プルトニウム────カナエさんとかも調べてたのに」

 

 新曰く終焔教会は、このご時世ありがちな破滅願望カルトだったらしい。

 荒れた世の中に絶望しリセットや社会崩壊を望む者達の吹き溜まり。

 其処へ権力争いに負けたメシア過激派の一部や、困窮した素行の悪い異能者が集い勢力を増したのだという。

 

「しかも奴等、どうやら<クリスタ会>の残党まで関わっているらしくて」

「うっげえアイツ等もいるのかよ……」

 

 クリスタ会はメシア教系の団体であり、こちらも悪名高い組織だ。

 甘城財団という今は破綻した企業の財力をバックにあちこちで問題を起こし、件の厄島の件にも一枚かんでいるらしいとか。

 メシア教系の中でも悪印象が強い団体だった。

 

(チッ大人しくくたばっておけばいいってのに。

 あの手の輩に限って往生際が悪いのは参るぜ)

 

 本格的に復帰してから幾度なく死線を超えて、敵組織を滅ぼし、それでも湧いて出てくる敵。

 かなりの数に膨れ上がったキリギリスの各員が、まともな組織と協力して対処しても終わらない。

 うんざりするが、一介の悪魔召喚師には己のできる事をするしかない。

 

「色々戦ったが、敵はまだ多いか。

 強くならねえとなあ……」

「です、ねえ」

 

 元の安定した状態に戻る異界を見ながら男達は呟く。

 いわれのない苦しみから誰かを護る為には、力が必要だ。

 その為に自分に何ができるかをもっと考えなくてはいけないのかもしれない。

 変に考えすぎて疲れ切り、仕事に支障が出てはいけないが。

 

(……そういやアイツとあの子達は今沖縄か。

 今回ばかりはゆっくりと休めるといいんだけど)

 

 普段はどうしてこうなったと奇っ怪なリアクションばかり取っているが、雨柳は別に佐々木が嫌いではない。

 むしろ悪魔業界の中ではかなり珍しい、良い奴だと思っている。

 それこそ少女達の保護者役をやっていて、不安よりアイツなら大丈夫だと安堵が来るほどに。

 関係の進展が早いと思うけどなあ! 

 

 そんな訳で今回ばかりは皆ゆっくりと休めるといい。

 彼等がいない間は自分達が働くから。

 雨柳はふと、そんな事を考えた。

 

 

 


 

 

 帝都の片隅にある廃屋。

 かつて甘城財団の一企業が私有していた頃は遊興施設だったのだろうか。

 派手な装飾の名残が見受けられる廃屋の中は、その実異界である。

 

 石造りの柱や壁が立ち並ぶ異界は仄暗く、重苦しい。

 しかし集まった者達は、息がつまる雰囲気を意に介していないようだ。

 

 彼等は終焔教会と呼ばれるカルト組織の構成員たちである。

 現代社会の破滅を願う彼らの目にあるのは、病んだ期待。

 己の不遇に見向きをしなかった、社会を変える何かへの待望。

 死と破滅への衝動を実現する存在を、待ち望んでいた。

 

 彼等の視線を一手に集める舞台の袖。

 この終焔教会という破滅主義者寄り合いの一応のトップは満足気にうなづいた。

 これだけの人数が集まれば事足りるだろうと。

 

 かつてメシア教系クリスタ会のアデプトであった女は、不当に貶められたかつての主を想う。

 彼女の希とは異なるが、この穢れた世界を作り変える為の破壊。

 ようやくこぎつけたことへの、独りよがりな満足感が彼女にはあった。

 

「おやおや、みなさん随分とお待ちかねの様ですねぇ。

 寒い中ご苦労な事です」

「大した事はありませんよ。

 何せようやく彼らの、私達の望みがかなう時が来たのですから」

「随分と期待されたものですねえ」

 

 くつり、と女性の背後にいた存在が笑う。

 人間と同じでいて、何処か彼方から響くような違和感がある重々しい声。

 

 舞台の上にスポットライトが当たり、教団員が息をひそめる。

 期待を込めた声が漏れる中、女性に先導されたそれは、光の中に姿を現した。

 

「────やあ、やあ。

 終焔教会の皆さん。

 今日はよく集まってくれましたね」

 

 親し気に話しかけるそれは、悪魔であった。

 黒い肌に派手な色遣いの青を基調としたズボン。

 鼻先が白くなった、ラバを模した頭部。

 豪勢に生やした孔雀の羽根と相まって、絢爛たる道化の如く見える。

 

 されど、それを侮る者はいないだろう。

 ただ言葉を発するだけで、身じろぎするだけで強大な力を感じさせる大悪魔。

 一たび顕現すれば途轍もない破壊と殺戮をもたらす悪意を持った災害であった。

 

 消える事ない炎の如き赤い眼が終焔教会の者達を一瞥する。

 自らの絶望と無力故に、それの到来を望んだ愚者たちを。

 

 この上なく優しい嘲笑を浮かべ、それは語り掛けた。

 

「私の名は堕天使アドラメレク

 一介の悪魔の身ではありますが、呼び出されたのも一つの縁です。

 皆様の願いを叶えさせていただきましょう」

 

 力に見合わない程の恭しさでアドラメレクは、優雅に一礼した。

 サマリアで太陽神として崇拝され、十字教においては悪魔と見なされた堕天使アドラメレク。

 地獄の上院議員にして地獄の宰相、サタンの洋服係、蠅族の大法官、地獄の尚書長と数ある堕天使の中でも高位の存在である。

 本来ならば超一流の悪魔召喚師でなければ扱えない存在が、確かに顕現していた。

 

「ああ……ああ! ようやく歪んだ世界が壊れる時が来たのね!」

「アドラメレク様ァ! 到来をお待ちしておりましたぁ! 何卒すべてを、全てを焼き払ってくださいい!」

「これ程の悪魔が、いや悪魔様が降臨されるなんて……! はは、ははは……」

 

 それ程の悪魔が自分たちの為に顕現した事に、終焔教団の者達は歪んだ歓喜を表す。

 彼等の狂気を、悪魔は目を細めて見ていた。

*1
原作の【望未徊流 楽園暮らし7】より。雨柳はこの時点ではまだ色々知らずに済んでいる。

*2
女神転生ⅣF出展

*3
ダメージが発生し、弱点を突いた時のみ即死させる真Ⅴ仕様




堕天使アドラメレクは真ⅣF及び真Ⅴにおいては非常に強力な悪魔として登場する存在。特に真ⅣFでは最序盤で主人公たちの師匠であるニッカリ、雨柳のシリーズポジションにあたる男を焼き殺すという凶悪な活躍を見せている。

次回は来週以降に投稿予定です。
中後篇の二部構成になるかな?
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