真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
どぉん、と音を立てて建物の天井が吹き飛んだ。
「ななんなんなんだあれは何であんな奴がここに!?」
「おい悪魔先生は何処へ行ったんだよ!? 三業会から来た奴はぁ!」
恐怖に上ずった声を上げるのは悪相の男達。
下は粗末なジャージから上は高級だが悪趣味な背広までまちまちの恰好をした彼らは、阿修羅会系列のヤクザである。
此処横浜の一角に拠点を構え、大陸の暗部たる三業会と提携し人身売買を始めとした邪悪な事業を行ってきた。
弱者を踏みにじり喰らい、己の邪な欲望の糧にしてきた彼らヤクザ。
世の中の荒廃に伴い事業を拡大してきた彼らは、得意絶頂で生きてきた。
少なくとも今日この日、何者かが襲撃をかけて来るまでは。
「幽鬼の先生は敵の野郎に向かって……お、おい! あれを見ろっ!」
ヤクザの一人が指さすのは影の中から浮かび上がるシルエット。
それは大陸より派遣された用心棒の高位悪魔、幽鬼ヴェータラ*1。
不気味な外見をしているが、子供の肉とMagを供給すれば、キッチリと働く事から一定の信頼を勝ち得ていた悪魔である。
歪な信頼関係を築いていた用心棒に安堵の表情を浮かべるヤクザたち。
だが彼らの表情はすぐに絶望へと変わった。
彼等の前に現れたヴェータラは、焼け焦げ上半身のみの状態で吊り下げられていたのだから。
「うそ、だろ……? センセイがあんな、簡単に」
「なんだよ! なんなんだよこれはぁ!」
「────何被害者ぶってんだテメェ等は?」
口々に叫び声をあげるヤクザたち。
様々な負の感情がこもったそれよりも、遥かに響く声があり。
「女子供を売り買いしておいて、テメェの死ぬ時が来たら被害者面か。
おめでたい、じつにおめでたい脳味噌だよな」
ヴェータラを吊り下げるそれは、黒く鋭角な姿の死神であった。
| 顕現者/死神 | カナエ・ハイライン/プルートー | LV72 | 核熱吸収 破魔・呪殺無効 氷結に弱い |
侮蔑の言葉と共に、ぐしゃりとヴェータラが握りつぶされる。
死神の力を顕現させた男の胸には沸騰する怒り。
先程この拠点に踏み込んだ仲間達と見たのは、檻の中に放り込まれた子供達。
大陸から口減らしに連れてこられたと思しき子供達の目には光がない。
単に未来への絶望というだけでなく、檻の前にこびりついた大量の血が理由を物語っていた。
明らかに人間の子供が出してはいけない程の、夥しい血が。
(……よくも胸糞悪い真似をしてくれやがったなクソどもが。
人の心をここまで無くしたら、死ぬしかねえだろうが)
男はこのヤクザの様な、子供を踏みにじり食い物にするゲス共が許せぬ。
それは己の幼少期の体験に根差しているのか、はたまたこれまでの長い戦歴による物か、それとも偶然知り合った姉妹のせいか。
どれだけでないし、どれでもあるだろう。
例え過去になにがあろうとも、こんなことを許す気はない。
「言い訳無用だ。テメエ等全員死んでおけや」
解き放たれるは灼熱の死。
熱き怒りの力は、社会の裏で暗躍していた邪悪を焼き尽くしていった。
「……ったく予想以上にズブズブだなこりゃ。
他の奴からも情報は上がってたが、ここまで阿修羅会と三業会が癒着してるとはな」
偉丈夫の男、カナエは押収した資料を漁る。
出てくる資料はいずれも、阿修羅会と三業会の深いつながりを示していた。
嫌な物はもう見慣れたが、こうもアレだと流石にげんなりしてくる。
(やっぱ必要悪なんて幻想だな。
ほざいたその口に刃物ブチ込んどくべきだぜ)
そう思いつつ束ねた資料をバッグにしまい込む。
ガイアメシアだけでなく、大陸の三業会の進出や手を組んだ阿修羅会を始めとするヤクザもまた脅威。
カジュアルサマナーや雑多な組織についても大分潰したが、敵はまだまだ多い。
様々な組織が、闇の中で蠢いている。
(仲立ちしてたファントムが潰れたっつってもしぶとく生きやがるもんだ)
世の中ままならねえなと思いつつもカナエは、資料を満載したバッグを担ぐ。
そうして部屋から退出しようとしていたところで端末へ着信。
その番号が、キリギリスの一部知人に知らせてある、ホットラインな事に眉を顰める。
「こちらカナエだ。どうした何があった? ……んだと!?」
あわただしく語られる言葉にカナエの眉間のしわが深まる。
その内容は驚くべき、さらには不吉な内容であった。
帝都東京に潜伏していた破滅カルト組織<終焔教会>。
悪魔を大量に使役し、大規模テロを行おうとした彼等に対しての討伐。
その最中にカナエのLVをも上回る高位悪魔がでたと────。
都内の一角、比較的人が少ない地域の近く。
1月の冷たい空気の中、人目に付かない駐車場に停車しているのは何の変哲もない車だ。
だが、見る者が見れば軍用車の様に足回りやボディが補強されていることが分かるだろう。
ある程度銃撃やその他攻撃を喰らう事も想定した、堅牢な車である。
この車は雨柳が愛用している仕事用の物だ。
「……なんかさあ。
あかりちゃんも奏ちゃんも響ちゃんも、みんな僕のことなんか舐めてる気がするんだよね」
駐車場に隣接されたセーフハウスの中、シロガネはぼやいた。
何処か物憂げに、表面上は銀髪の美青年に見える悪魔は呟く。
雨柳の囲っている少女達に自分は下に見られているのではないか? と。
「僕は外見的に人間で言ったら20か、ちょっと上くらいだと思うんだよな。
なのにJKのあの子達に手のかかる奴みたいに思われてる気がする」
「……お前なあ」
対する雨柳は珍しく、呆れたような半目で答える。
人に呆れられたことは多くとも、呆れる側にこの男が立っているのは、それはそれは珍しい事である。
「ここまで大体2週間。おまえの行動をよーく思い出して見ろよ
あれで敬われるわけないでしょうが」
「うっそれは……」
シロガネは弱点を突かれたかのように膠着する。
脳裏に浮かぶのは目覚めて、雨柳の所へ来てからの自分の姿。
それを思うとつい、脂汗が浮かぶ。
ある時は「思い出したぞ! 僕は蕎麦とうどんならうどん派だったんだ!」と嬉々としてうどんを食べようとしたら舌をやけどする。
またある時は「なんか百合が好きだった気がする……するかも」といい、小説サイトの有名百合系小説を読んでたら、嫌味なく百合に挟まる男が出て来た事に悲鳴を上げる。
それ以外にもどうも頼りない所をシロガネは見せてきた。
思い返すに全く冴えない様であった。
そんな様を見れば、シロガネを見る目も手のかかる後輩みたいになるだろう。
「じゃ、じゃあさそういう雨柳はどうなんだよ。
御影さんから聞いたぞ。君はJCの雌顔で精神的ダメージを喰らう、控えめに言って意味不明な性癖を持っているそうじゃないか」
「ぐうっ」
今度言葉に詰まるのは雨柳の番であった。
雨柳が大切に思っているJCの一人は初恋の人の娘である。
その子もそれ以外の子も皆保護者になっている佐々木────雨柳の知人である男にお熱なのだ。
よくある少女が年上のカッコいい大人に憧れるならばいい。
だけど、事態はそんな微笑ましい状況にとどまっていないのだ!
「だってさあ……そりゃ色々あったろうけどあの子達まだ十三、十四なのにさあ……さあ!
どうしてたくし上げとか教わっているんですか? どうして……」
「コワ~……」
ハイライトが消えた目で、ぶつぶつと呟く雨柳。
絶望状態にすら見える空気、周囲が黒く歪んで見えそうな陰鬱さにシロガネは慄く。
この世の深淵の一つを見たような気がして、シロガネはこの件について考えないことに決めた。
「と、とにかく今日も仕事だろ? しっかりしなよ。
……ほら、僕もしっかりするからさ」
「あーやっぱ気付いてたか」
「自分でも違和感があったからね。我ながら悪魔らしくない」
眉をひそめて語るシロガネ。
通常悪魔は動物的にしろ、人の業に近いそれにしろ戦闘に適した動きをする。
それがまるで戦いに不慣れな、人間の動きの様。
情動にもいえる事だが全く以てシロガネは悪魔らしくない。
「僕はもしかして元人間の悪魔だったのかもね。
雨柳の知り合いにも一人いるんだろ? そういう子」
「ああ。<イザボー>ちゃんな」
雨柳の知人であるイザボーという少女は、複雑怪奇な歩みを得て体を得た少女だ。
人の魂に造魔の身体、
造魔に近い体を持つというシロガネは、彼女に近い存在であるのやもしれぬ。
「俺も全て知っているわけじゃない。
むしろ知らない事の方が遥かに多いが、あの子は確かに悪魔が混じった人間のはずだ」
「ふぅんやっぱ他にもいるんだねそういう存在。
僕もアナライズだと神なんとか人って表示されるし。
で、記憶が戻ったわけじゃないんだけど一つ、思い出す、というより気づいた事がある」
言葉を区切り、少し躊躇して、それからシロガネは告げる。
己の心のうちにある内奥を。
「僕は"死"を恐れ、いや嫌っているようだ」
「死を嫌っている、か」
己の中にある想いを整理するようにして、彼の独白は続く。
「例えばさ、ほら、物語でもよくあるだろ?
死んだ人間の遺した思いは消えないとか、思い出がある限り心で繋がっているとか。
感動的に見えるかもしれないけどさ、ああいうの反吐が出る程嫌いなんだよね」
本当に吐き捨てるように彼は告げた。
「悪魔業界でよくあるような仮初の死じゃない本当の死は、絶対だ。
死んだ人間とは話すことも笑う事も、新しい思い出を作ることもできない。
当然の事実から目を背けて、ごまかすなんて腹立たしいよ」
日々人が死に、生死を司どる死神すら当然に存在する悪魔業界。
殺伐とした世界においては常人より遥かに身近である死、その絶対性をシロガネは嫌悪する。
「もしかしたら……僕の探している大切な人は、もう死んでしまったのかもしれないね。
だから人と人を決定的に分かつ、死が嫌いなのかも」
「そっか。まあ、分からなくもない」
シロガネの思考に、雨柳は彼なりに真摯に応える。
悪魔の考えとは思えない、ナイーブである思考であるが彼自身にも思うところはあった。
「俺も親死んだ時、もっと話とけばよかったって後悔した。
だから思えと境遇は違うけど、ある程度は分かる」
「すまない。余計な事を言ったな僕は」
「いいさもうだいぶ前の事だし」
雨柳の両親が亡くなったのは未成年の頃だ。
警察官だった父親は悪魔事件で殉職。
霊能者の家系出身の母親は病死。
我が両親ながら早く逝ってしまったなと久々に寂しく感じられた。
「それに、お前の言う通り人間生きてこそだ。
不幸な人間だって生きていればいつか幸せになれるかもしれない」
雨柳はかつて自分が傷つけてしまった少女を想う。
自分を含む大人たちが寄ってたかって苛んだ少女は、それでも幸福に生き、今も陰ながら頑張っている。
この間も「おすそ分けですわ!」とカツオの詰め合わせを送ってきてくれたあの子。
もしあの時死んでいたら、いや自分が殺していたらあんな風に笑う事は決してなかったはずだ。
「だから、死を厭うってのは悪い事じゃないと思うぜ。……来たか」
短く二回のノックから間をおいて二回、続いて一回。
指定の合図を確認し、雨柳は扉を開ける。
「こんにちは雨柳さん。
ちょっと道が渋滞しててね。遅れてないかな?」
「時間より早いくらいさ。ゴリラももう来ているか?」
「当然当然、何せ同乗してきましたからねー」
ドアが開くと室内に入ってきたのは二十歳頃の女性。
やや癖のある茶髪と白く艶やかな肌のコントラストが印象的な、少女の面影を残し整った顔立ち。
それ以上に目立つのは紅く金属質な細身の脚。
魔晶変化武器である『マッハの具足』に置換された脚はデビルアームズである証だ。
「そっちの彼は話にあったシロガネくんかな?
銀色の髪が綺麗だねえ」
如何に機械義肢が普及した現在としても悪目立ちする脚。
それを抱えても尚屈託なく笑う女性の名は
| デビルアームズ | 水神恵都 | LV45 | 疾風吸収 破魔・呪殺・神経に強い 地震に弱い |
キリギリスの一員である恵都と雨柳は、名古屋でのヤクザ掃討作戦や東京緑化会等幾つかの事件で共に戦ってきた。
その縁もあり、以前より砕けた口調で話すようになった彼女は、頼りになる後衛だ。
高い機動力で動き回り銃撃で支援する彼女の存在は、前衛型の雨柳にとってありがたい。
対悪魔専用のバトルライフル*2を担いだ彼女はよし、と気合を入れる。
「他の班もそろそろスタンバっているみたいだし、ゴリラさん来たら私達も始めましょうか。
なんて言ったって、久々の緊急ミッションだし、気合い入れていきましょう」
「ああ、いつものアイツ等にばかり頼っている訳にもいかないからな」
そう、誰かが休息をとっている間、その穴は他の誰かが埋める。
持ちつ持たれつの関係が人間というものだ。
「今日もキッチリ敵を叩き潰す。油断せずに行こうぜ」
刀の目釘を確認した男はそう告げた。
そろそろ、戦いの時間だ。
かつて甘城財団というグループが所有していた廃墟。
現在は終焔教会の拠点となっているこの廃墟は、異界化し多数の構成員が集まっていた。
危険な思想に染まった彼らの出自は様々だ。
単に世界や人生に絶望し、その末に悪魔召喚アプリを持った者。
邪悪な衝動を持て余している、社会に適合する気を持たない者。
クリスタ会を始めとした、崩壊した悪魔組織の出身である者。
「クククようやくだ。この欺瞞だらけの社会が壊れる時が来た」
「早く殺してえ……滅茶苦茶にしてえよ」
「もう少しの辛抱よ。穢れた男達の築いた社会が消えるまであと、もう少し……!」
そんな混沌とした出自の者達は、半日後に控えた破壊の時を今か今かと待っている。
今後の展望等かけらもない徹底的な破壊。
この期に及んでは、それのみが彼らの望みであった。
極端な思想で統一された集団は先鋭化する。
外部と接触を持たず、似た方向の思考を持った人間のみが集まる集団の思考は軟化する事はない。
ただひたすらに煮詰まり、より危険な方向へと進んで行く。
終焔教会はその悪例を具現化したような組織であった。
ましてや、大悪魔の後押しを受けた今ではなおさらのことだ。
慌ただしく行き交う彼らの中には明らかな異形の存在、堕天使を始めとする悪魔もいる。
豹頭の剣士や両腕が大蛇になった獅子頭、赤紫の人身馬頭。
彼等は矮小な人間たちを物珍し気な、冷ややかな目で見ていた。
堕天使達は終焔教会が召喚した大悪魔によって呼び出された傭兵のような存在だろうか。
堕天使達のLVはいずれも30~40程。
それ以外の悪魔のLVは高くないにしてもこれ程の数と質は脅威。
生半可なデビルバスターでは、集団でも攻め込んでも瞬く間に壊滅するはずだ。
加速する狂気に突き動かされた人間と悪魔の狂気により澱んだ空気。
解き放たれた彼らは、稚拙ながら他者への共感を欠いた計画のままに帝都東京を蹂躙し、死と破壊をもたらす。
その時はもうすぐそこまで迫っていたが。
突然タクシーが門をぶち破って突入!
「が、がああっ!?」
物理攻撃に強いはずの堕天使が驚愕と苦痛のままに宙を舞い、後方の味方を巻き込んで派手に広がる。
まるでアクション映画の様な派手派手しい展開だ。
「わはははは! 物理貫通(?)は正義だあ!
全員突入、突入ーっ!」
運転席で叫ぶのはピンク色の髪をした少年だ。
装備の都合によるのか女物を身に着けた彼は、八重歯も相まって少女のように可憐。
されど彼は一廉の悪魔召喚師であり、このタクシーもその実、彼が使役する仲魔*3である。
「露払い完了! それでは先生どーぞ!」
『よろしくお願いしまーす!』
「全く……‥二人ともノリがいいですね」
さらに何体かの悪魔を跳ね飛ばしたタクシーは一瞬停車。
砂煙が舞う中、タクシーから出てくるのは武装したドローン。
続いてデビルバスターの女性であった。
小柄ながらも凹凸がはっきりした体つきに、可愛らしさと凛々しさが同居した顔立ちの女性の腕は鋼鉄で構成されていた。
武骨で太い、女性の細身からすると不釣り合いである義腕。
義椀のモーターが、微かにたてる駆動音に重なるように悪魔が叫び声を発し、飛びかかる。
「先生と呼ばれるにはまだ未熟な身ですが……今は頑張らせていただきましょう」
言葉と共に放たれるは電撃を纏った鉄拳。
重く疾い一撃に悪魔が血を吐きながら吹き飛び、仲間が操るドローンが追撃を加えていく。
「このまま、敵の数を減らしますよ」
先陣を切った彼女達に続き、乱入してくるデビルバスター達。
いずれも歴戦である彼らの多くはキリギリスの一員だ。
地道な調査情報の共有や構成員を捕獲した事から、彼らは終焔教会のテロ計画の決行を察知。
テロ決行直前の為急遽実行した作戦であるが、それでもそれなりの数が集まった。
各自連携しながら危険人物共は逃がさぬと一斉に襲い掛かる。
「うわっ固いなアイツら。アーシーズ
黒帽子の少年が仲魔の精霊に指示を出すと、心得たと言わんばかりに精霊が魔法をかける。
仲魔の支援を得て攻撃力を増した少年の銃撃が堕天使を撃ち貫く。
怯んだ悪魔に対して、ハルバードを携えた金髪の少女が電撃を纏った突きを叩き込んで倒した。
(やっぱり強化魔法って使えるなあ。
掲示板見ておいてよかったよ本当に)
悪魔業界に入って日が浅い少年は、以前キリギリスの人間が集まる掲示板で補助魔法について色々教えてもらった。
その教えはこれまでの実戦でも役立ってきたが、仲間と協力したとはいえ格上の敵をあっさりと倒せるのを見ると、改めて実感する。
感慨深げな少年に先駆ける少女、まるで戦乙女の様に凛々しい少女がぐっと一礼した。
どうやら見た目通りの礼節を重んじる性格らしい。
「ナイス援護ですわ!」
「そっちもすごい一撃でしたね。
あ、待ってください。奴らのスマホが落ちてる」
少女にカバーされつつ少年は教会の構成員が落としたらしきスマホを拾う。
流石に個人認証はあるがそれ以外のロックは、緩いものだ。
「ちょっと後方にいる師匠に問い合わせて情報抜けるか試してみます。
急遽の作戦だから情報不足な所も多いし」
「それはいいですわね。
敵陣に堕天使が多いのも気になりますもの」
ちらりと遠方を見る少女の視線の先では、堕天使達と殴り合うキリギリスの者達。
この数とLV、京都戦は例外にしても背後にはかなりの悪魔が居そうだ。
「ボスの首を取りに行った方達、大丈夫だといいのですが」
少女の不安を暗示するかのように、異界から見える空は黒く淀んでいた。
「来たぞ! 侵入者どもだ!」
異界の本拠である建物の中。
本体とは別ルートから侵入した雨柳達を発見して集まってくる終焔教会の構成員たち。
堕天使を始めとする悪魔に異能者、雑多な者達が襲い来る。
襲い来るのは二方向から。
ちぐはぐなタイミングは練度が高くない事を示すが、油断は禁物だ。
「10時の方向の奴等は俺がやる。水神ちゃんとゴリラは3時頼むわ」
「了解っ!」
言うや否な恵都はサブアームの拳銃を抜き放ち、弱装弾を射撃。
反射の有無を確認する為の専用弾はそれでも先頭の妖鳥の頭を射抜く。
物理反射なし。ならば攻めるのみ。
「次弾いくぜ石化突きぃっ!」
恵都に先行して進み出るのは蒼い外骨格の男。
ゴリラという通称の通り、マッシブなシルエットの男は目にもとまらぬ速さで手刀を放つ。
まるでマシンガンの様に続けざまに放たれる手刀の連弾は、暴力の嵐。
ある者は石化し、またある者は吹き飛び壁や床にたたきつけられる。
かつて悪の組織に改造されたゴリラは優れた物理アタッカーであり、その強さはキリギリスでも名を知られている。
そんな彼を終焔教会の雑兵達では止める事等到底かなわない。
瞬く間に壊滅する敵陣。
追い打ちをかけるように恵都が制圧射撃を行い、残敵を掃討していく。
「物理耐性持ちが混じってやがるか。面倒だな」
「シロガネ合わせて。厄介そうなのから潰しましょう」
「了解……っと!」
他方の雨柳達も別方向の敵を迎撃する。
スクルドとシロガネが魔法を放ち、前衛を崩す。
其処からは剣士の独壇場だ。
(LVが高い悪魔もいるが、流石に京都とは比べ物にならねえ)
敵の強さを測りながら雨柳は床を這うような低姿勢で突進。
乱入剣による斬撃で、敵陣に切り込んでいく。
「こ、いつ……!」
「強すぎる……化け物があっ!」
混乱する敵達はなすすべもない。
堕天使の両腕が胴毎水平にスライスされ、異能者の首が斬り落とされる。
幾多の死闘を乗り越えた剣士の死の舞踏に、付き合える者等この場にいない。
血と悲鳴が舞う中、回転しながらの斬撃が瞬く間に敵を減らしていった。
「これで、ラストだ。
そろそろ異界の深部に到達しそうだな」
最後の敵を両断した雨柳は仲間と再び合流。
今後の交戦に備えて銃弾の装填、装備の確認を行う。
その手際に淀みはないが、シロガネはやや嫌そうな顔だ。
「……やっぱ雨柳もそう感じるか。
この先は異界の最深部、多分ここの奴等が召喚したボスがいるだろうね。
危険な雰囲気で肌がピリつくよ」
「お、シロガネくんそういうの分かるんだ?」
私も足の付け根がピリつくという恵都にシロガネはうなづいて見せる。
「どうも僕はそういうのに敏感でね。
種族は道中の顔ぶれからすると堕天使、高位の奴がいるはずだ」
「んなるほど、今回もボスは奥にいる。
定番って奴だな」
「そういう事。地下の方が地脈にも近いしね」
ゴリラに対し、やや眉を顰めながらシロガネは話す。
かなりの高位悪魔の敵という、己へ死をもたらしかねない敵。
そんな敵と好き好んで戦いたくなどなかった。
「成程、そいつを倒せば後は烏合の衆って事か」
「前は任せるからきっちり援護するね」
それでも強敵に勇み挑む戦士達を前に、わざわざ不安を言葉に出し士気を下げる気はなかった。
そのくらいの分別は、ある。
「ああ。数と連携は力だ。
全員でしっかり生還するぞ」
お前も頼むぜ、という雨柳。
恵都やゴリラと共に進む彼にシロガネも続いていく。
(そうだ。僕は誰か知らないけど会いたい人がいる。
ならこんな所でLOSTする訳にはいかない。
それに、仲間の足を引っ張るようなら顔向けできないもんな)
後退しそうな心を叱咤し、シロガネは彼等へ続く。
敵の進んできた通路の先には下りの階段。
緩やかな螺旋を描く先を下っていくと、荘厳な雰囲気のある扉だ。
扉の左右に展開した所で、スクルドに替わりククノチを召喚。
待ち伏せに備えた、防護処置を行う。
「いよいよボスの手前ってところだ。
パターン上こういう所は一直線の開けた空間で、待ち伏せしている奴がいる事も多い。
ククノチはテトラカーン、後テトラジャ頼む」
「了解です。銃器の乱打だろうと押しとおりましょう」
処置が終わると同時にハンドサインでカウントを開始。
3、2、1で扉を蹴破り深部へと突入する!
「来たわね異端者ども! 私達を邪魔した報いを受けなさい!」
案の定待ち受けていたのは機関銃を備えた銃座と、少数の人間たち。
中心らしき法衣に身を包んだ女は、天使を従えていた。
咆哮めいた砲声を上げて殺到する機関銃弾。
属性弾を使用した銃撃は、テトラカーンがあろうとも敵をミンチにするはずだったが。
「汚らしい肉片に────は?」
属性弾の銃撃は、当然のように雨柳達に展開された物理反射障壁に弾かれた。
高威力の銃弾が四方八方に乱れ飛ぶ、地獄絵図。
「ケッ天使なんぞとつるんでる時点で脳味噌の出来を察しましたがダメダメですねえ。
先人たちから学ばないアホ共は見てて不愉快です」
「君、天使の事になると本当に口が悪いな……」
シロガネがやや引きで見るククノチの目は冷ややかだ。
テトラカーンは万能無敵の結界ではない。
理屈を簡単に言えばククノチのテトラカーンは物理・銃撃属性の攻撃を弾く物。
属性弾により相性が衝撃等になろうとも、機関銃の攻撃はあくまで銃撃属性。
銃撃は当然の如く弾かれる。
「ま、その通りだな。
こうすれば100%勝てるなんて都合の良い選択はねえのさ」
「ぎっ! あああああ……!」
恵都が援護射撃を行う中、全身をばねの様に使い躍動した雨柳は、指揮官を倒し一気に決めんと斬撃を繰り出す。
阻止せんと動く天使はククノチのグランドタックに撃ち抜かれ間に合わない。
ざくりと、上段から法衣の女は切り裂かれた。
だが、食いしばったが故に一撃では死なない。
「まだ、だ。せめてこの身を、あの方に捧げね、ば」
「教主様を護れぇ!」「これ以上御身を傷つけさせるなあ!」
奥へ這いずっていく女を守るように、残った者達が捨て身の特攻。
雨柳に切られ、シロガネに消し炭にされる間に女は闘いから抜けた。
(ボスの元へ向かう気か? 合流される前、に)
刹那の間、雨柳の思考が静止する。何故ならば
「――――これはこれは。
侵入者が来たとは聞いていましたが、手ひどくやられたものですねえ」
奥の部屋の扉が重々しい音を立てて開き、堕天使が進み出た。
黒い肌にラバの頭、大量の孔雀の羽根を生やした奇怪な姿。
業火の如き赤眼で、周囲を一瞥する悪魔は紛れもなく、強大な悪魔だ。
絶大な力を秘めた堕天使の名をアドラメレクという。
| 堕天使 | アドラメレク | LV83 | 火炎吸収 氷結・呪殺無効 |
対峙するだけで全身が総毛だつほどの敵。
雨柳のキャリアの中でも、流石に一番ではないが強大さ。
つう、と男の顔を一筋の汗が流れた。
「ああ……アドラメレク様。
私はもう駄目です。せめて、私のマグネタイトを」
雨柳達をよそに、教主の女はかすれ、濁った声で懇願する。
かつて主と共に焦がれた
黒き悪魔を仰ぎ見た。
「そして私の、いえ。
いすず様と、私の願いを……!」
「ええ、承りましたよ。マグネタイトの礼です。
貴方の願いはこの堕天使アドラメレクが叶えましょう」
アドラメレクが手をかざすと、がくりと女が崩れ落ちる。
マグネタイトを根こそぎ吸われ、こと切れたのだ。
「流石は元アデプトだけあります。
質量ともに中々ですね」
悠然と立つアドラメレクはその実隙がない。
が、それでも雨柳は火炎耐性に優れ、望外性能に優れたオルトロスを召喚した。
恵都も
例え敵が強かろうとも、彼らの戦意は衰えていなかった。
「──────終焔教会の者達、彼らは総じて愚かです」
そんな彼らに対してアドラメレクは独白する。
ゆったりとした悪魔らしくない、いっそ優し気ですらある声で。
「悪魔を知り、その力を得ても生産的な事はしないしできない、思いつきもしない。
自分を救おうともせず、被害者意識のままに程度の低い者達で集まり淀み腐る救いようのなさ。
彼等に出来るのは、せいぜい穴だらけのテロを行うくらいです。
成功しようがしまいが、人生一巻の終わりにも拘らず、ね」
嘆かわしい事です。とアドラメレクは愚かさに嘆息した。
「第一、私一人で世界の変革などできる訳ないでしょうに。
今の地獄の様な世界では、あくまで私は一廉の強者というだけ。
万の人間を殺す前に、ヤタガラスか他の誰かに倒されるだけですよ」
「……それが分かっているなら、此処はおとなしく送還されてくれないか?」
アドラメレクに対して、雨柳は提案を持ちかける。
駄目元ではあるが、しないよりはましだ。
「残念ですが、それは出来ませんね。
どうしようもない愚者達とはいえ、多量のマグネタイトを捧げられ熱望されたのです。
契約を尊重する悪魔として、どうして無視できましょうか」
愚者たちの嘆きを、呼ばれ請われたが故に悪魔は背負う。
例え悪行だろうと、愚行だろうとその点には妥協する気はない。
「それに、死に方にも望ましい物と、そうでない物があります。
おっとこれは口を滑らせましたか?」
笑うアドラメレクは口元を抑えつつも、微笑む。
気軽な言葉と裏腹に、膨れ上がる威圧感。
低LVの異能者ならば、瞬時に卒倒しかねない圧力に雨柳達は耐える。
「来やがるか……‥! 恵都ちゃん! ゴリラ!
コイツは危険だ。今此処で、倒すぞ!」
おう、と勇ましく答える二人と共に戦闘態勢に入る。
嵐に挑む勇者の様に。
圧力に耐えながらも、前を見据える。
その様をアドラメレクは見つめ、目を細めくつりと笑った。
「成程、あなた達は良いソウルをお持ちです。
なら、こちらも全力で行かせてもらいましょう……!」
放射されるのは膨大な熱。
かつて太陽神であった堕天使は、その力を解き放つ。
空気どころか、空間すら歪ませる熱量を纏う強大な堕天使が殺戮を開始した。
対する雨柳達も一斉に動き出す。
歴戦が故の常に最適解の動きをとる、人らしい強さで仲魔と共に立ち向かう。
その中で一人、シロガネの顔はやや青ざめていた。
死を思わせる強大な悪魔に対し、動きながらも。
彼は恐怖を感じていた。
強敵との戦闘開始
次回はソウルハッカーズ2の発売までには投稿したいですね