真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
いやしかし格上相手・テトラマカラフル使用・人数多めだとめっちゃ頭使いますね……
何時の、何処であった事だろうか。
今となっては分からない。
せいぜい、日本の何処か。
旧い武家屋敷の様な、家の中だとしか分からない。
屋敷の中にある手入れされた庭。
淡い草花と池に整然とした石畳。
風情のある庭の片隅には、幼い少年がいた。
「…………」
俯いた少年は、微動だにしない。
落ち着いた風景の中で、少年は異物だった。
服装こそ清潔だが、どこか精気にかけ存在感のない少年は、ひっそりとしていた。
白い肌からすると少年は病弱なのかもしれない。
けれどそれ以上に彼は何かを欠いている気配があった。
何か、人が健やかに育つ上で大切な物を。
そんな少年は、何をするでもなく池を見つめている。
まるで心がない、虚心であるかのように。
静寂の中、自分もそこへ溶け込んでしまえばいいとすら、思っているのか。
少年は独り言つことすらなく池を見つめていた。
ずっとずっと、一人ぼっちで。少年は孤独でいた。
「うわ~すっごい庭。
こっちは里と違って豪勢だなあ」
陰鬱な静寂を切り裂くように、少女の声が響いた。
少年は顔を上げる。
気が付けば近くに、少女がいた。
くすんだ髪色の、自分より何歳か年上の可愛らしい少女。
自分とは大違いの元気で人から愛されていそうな。
「池の鯉って金色の奴いるかな……お?」
少女は少年がいる事に気づいたようだ。
すたすたと小気味よく歩いて近づく様子は、いかにも運動が得意そうだ。
そして年相応で、微笑ましいと感じられるものだ。
「え~と君は、ああそうか! この家の」
しばし迷った少女は少年の名前を呟き納得した。
そうして片腕を握手を求める様に差し出し、笑いかけた。
まるで当然であるように、明るい笑顔で。
「────────」
少女の笑顔を写した少年の目が見開かれる。
彼は少女の笑顔を美しいと感じた。
産まれてから一度も太陽を目にした事のない人間が、初めて見た時のように。
笑顔という、暖かな光に見とれていた。
可愛らしい少女の、誰かを想う笑顔。
それは少年の──────
異界の地下、堕天使と相対する戦士達は一斉に動き出す。
「オルトロス! まずは叫べ!」
「アオオオ―ン!」
雨柳の仲魔であるオルトロスが天へ向け叫ぶ。
魔力を含んだ"雄叫び*1"は敵を呪い、その力を萎えさせる。
「マハスクカジャ!
私じゃ火力が足りない、支援重視で!」
続いて恵都が
全体の敏捷性を、力を底上げしていく。
強化・弱体化という対悪魔戦闘の基本にして欠かす事が出来ない魔法。
単純ではあるが効果的な手であった。
「ふむ、固い手を打ちますね。
ならばこちらも油断せずに行かせていただきましょう」
睥睨するアドラメレクが、気取った仕草で指を鳴らす。
乾いた音とともに飛来するは、オレンジ色の五芒星。
回転しながら飛来した二つの五芒星は中空で制止すると、ぎょろりとした一つ目を向ける。
「我ら、炎に誘われ参上せり!」
「決戦の地は此処か!」
気取った口上を述べるのは、ソロモン72柱の一角である堕天使デカラビアだ。
| 堕天使 | デカラビア | LV50 | 呪殺無効 銃撃弱点 |
「彼らは手練れだ。手堅く行きましょう」
「ははっ! まずは我らが盾となるテトラカーン!」
アドラメレクの号令と共に片方のデカラビアが
敵陣を覆う透明な障壁が展開。
物理・銃撃属性の攻撃を弾く障壁に内心雨柳は舌打ちする。
(障壁がある間俺達は、アイテム係に徹するしかない。
こういう時便利な魔法が欲しくなるぜ)
雨柳とゴリラ、さらに恵都はメインの攻撃手段は物理・銃撃属性の攻撃である。
召喚師としてサポートに徹するしかなかった。
(にしても初手が、仲間を呼ぶ上に物理攻撃の無効化か。
慢心してくれるような手合いじゃねえな)
アドラメレクの赤い眼には自分が圧倒的に強いが故の、ゆったりとした余裕がある。
ただそれは面白半分であるという事を意味しない。
己よりも弱い相手を、なお脅威と考え順当に力の差を押し付け潰していく。
一番やりづらい格上のやり口だ。
「続いては、邪眼にて!」
続いて2体目のデカラビアが、目を怪しく光らせる。
石化という重篤な状態異常に陥らせる光は、耐性を確保しているとしても人間にとって脅威。
「……無効の攻撃に怯えはしないさ!」
だが恵都"カバー"に入ったシロガネが怪光線をBLOCKする。
光はシロガネに弾かれて四散。
神経相性に分類される光線は、神経無効のシロガネにとっては痛くもかゆくもない。
「せんきゅーシロガネ君! 後で奢らせてもらうね」
シロガネの優秀な耐性は、絡め手にも対応可能。
後衛としての攻撃役だけでなく、防御に回る盾役としても充分な立ち回りが出来た。
最も本人の気質が、そうであるかは別だが。
「どういたしまして。僕に状態異常は効かない。
その手の攻撃は僕、を」
浮かんだ冷や汗が引っ込むほどの悪寒。
その根源は焔を纏う堕天使。
揺らめく大気が、その力を伝える。
「なら、私の焔はどうでしょう?」
アドラメレクはかつて太陽神として信仰された悪魔である。
故にこの堕天使が司る力は焔。
何もかもを焼き尽くす、灼熱の太陽の如き力。
地獄の業火が今、解放される。
| 地獄の焼きごて | 火炎属性魔法 | 敵全体に大威力の火炎属性攻撃 対象の能力強化を打ち消す |
何処か道化た動きと共に放たれるのは、大威力の灼熱の焔。
全体を対象にした広範囲・高威力の焔に雨柳達は苦悶する。
「ぐ、があ……! 弱体化かけたってのになんて威力してやがる!」
「流石に、これはきついぜ……!」
頑強な雨柳とゴリラは、事前の弱体化と必死のガードで、何とか死なずに継戦可能。
しかしそれでも、自身にかかっていた補助魔法の効果が解除され、力が失せていくのを感じる。
強力な火炎属性の全体攻撃に、乗せられた呪い。
その力の強さは悍ましい程に強い。
「あぶなっ私が直撃してたらまずかったかも……シロガネくんは大丈夫?」
「あ、ああ……」
「アオオーン! オレガタテニナラナキャマズイナ!」
元より敏捷性の高い恵都はギリギリで回避に成功。
シロガネは元より火炎耐性がある為様比較的軽傷。
オルトロスは吸収によりノーダメージ。
まだ誰も死んでおらず、一先ずの立て直しは可能だ。
(…………嘘だろ、なんだよこの化け物。
耐性越しにこんだけ、削られるのかよ……!)
だが、心が折れないかは、それとは別だ。
耐性があろうと、容赦なく身を焼く火炎の苦痛と、ダメージ。
直視したくないと思うに十分なダメージが、今の一撃で入っている。
引き攣る火傷に苦痛をかみ殺す、シロガネの歯がカチ、と音を立てる。
彼が抱く感情は当然恐怖。
(ふざけるな、こんなの反則だろ……!
あり得ちゃいけないだろうが!)
LV80越えという普通なら魔界でも行かなければお目にかかれない様な超高位悪魔。
それが最悪にも仲間を連れて暴れまわり、自分達が戦わなくてはいけない状況。
そんな状況へ怒りすらわいてくる。
(死にたくない、死にたくないんだぞ僕は……!)
まるで神を仰ぎ見る無力な人々の様に、シロガネは堕天使を恐れていた。
シロガネの畏怖をよそに死闘は続く。
異界の地下で、人間達は強大な悪魔に対して粘り続けた。
「スクカジャかけ直します! 後は気合いでお願い!」
「右のデカラビアを狙え、奴にはダメージが積み重なってる!」
「うおおおおー! こんな所で倒れて居られるかあっ!」
堕天使アドラメレクという圧倒的な悪魔に対して、人間達は全てを駆使して立ち向かう。
道具を、魔法を、仲魔の耐性を、これまで積み重ねた全てを駆使して挑む。
それは人という脆弱な生物故に持つ強さ。
並の悪魔ならとうに死んでいる死闘において、なお彼らは生きて戦い続ける。
長い戦いで磨き上げられた魂を煌かせ、綱渡りの様な動きを続ける。
「何と……今日この時に滅びるとは」
奮戦の末、ゴリラの拳を正面から受けたデカラビアが四散する。
テトラカーンを展開する前の死に、雨柳は好機を見出す。
この好機を逃すわけにはいかない。
「デカラビアの片方が落ちた! オルトロスっ!」
「オウッ! イッキ二キザム!」
雨柳とオルトロスはアドラメレクに対して一気に攻撃を仕掛ける。
絶妙なタイミングでの挟撃は、躱しにくいことこの上ない。
雨柳は、十字を描くように敵に切りつける十文字斬り。
オルトロスは大気すら切り裂く虚空爪激。
並の悪魔ならただ一度で絶命する強力な物理攻撃が、重ねて叩き込まれる。
「大した力ですねえ────ですが、まだまだ甘い」
「なっ!?」
避けられぬ多重の物理攻撃を前に、ぬるりと、堕天使は動いた。
まるで骨の存在しない軟体動物のように。
あえて接近する雨柳達の間に飛び込み、刀と爪に威力が乗るよりも早く攻撃を受ける。
そしてそのまま、血をしぶかせながらも、拳を握る。
「私程になると、こういう技も出来るんですよ」
「グオオ! コ、イツッ!?」
くつり、と笑う堕天使の筋肉が躍動。
流麗ですらあるフォームで放たれる、マッスルパンチ*2。
彗星の如き一撃は、オルトロスの頭部を粉砕した。
(野郎なんて動きをしやがる……!
そんな逸話があるわけでもねえのに、打撃系の、人間の技をこうも易々と。
幻魔や英傑でもないっつうに)
アドラメレクの達人めいた動きに雨柳は戦慄する。
神話の半神や英雄が基になった悪魔が、武を司る神が、卓越した武技を誇るのも分かる。
だが、全く逸話のないアドラメレクがここまでの技を使うとは、意外に過ぎた。
そんな雨柳の驚愕をよそに、堕天使の赤い眼が、残忍な喜色に染まる。
男が感じるのは、特大の悪寒。
「水神ちゃん! ゴリラ! 備えろっ!」
「では、お返しといきましょう」
凄惨な死の手ごたえに高揚したアドラメレク。
その両の拳が一瞬でかぎ爪の形へと変化。
多量のマグネタイトを纏った爪撃が、狂気じみた全方位への嵐となって振るわれる!
「が────っ!」
「ぐあああああっ!」
「ぎ、きゃあっ!」
咄嗟のガードの上からでも、脆弱な人間を死に至らしめるには充分な物理攻撃。
血がしぶく中、バキンと硬質な音が響く。
雨柳が咄嗟に盾にした備前長船が、対悪魔に充分以上の強度と切断力を持つ銘刀がへし折れたのだ。
「ご……ああっ!」
幸か不幸か恵都の盾になる位置にいたシロガネが、壁を巻き込んで吹き飛んでいく中。
折れた備前長船の刀身が回転しながら宙を舞い、やがて地面に突き刺さる。
「ンッンッ何度聞いても質の良い武器が折れる音は良い物だ。
焼き殺してはこうはいきませんから、物理攻撃の強みです」
上機嫌に突き刺さった刀身を眺めるアドラメレクの口には葉。
デカラビアが寄こしたマカの葉*3で、満タンと言わずとも体力を回復した堕天使。
それは絶望的な光景である。
崩れた建材に塗れ、倒れ伏したシロガネは絶望と共にその光景を見ていた。
(おい夢なら覚めてくれよ……
あの火力に近接戦闘力に、回復までするのか。
冗談じゃない、冗談じゃないぞ。このままじゃ────)
吹き飛ぶ寸前に恵都に"サマリカーム"は掛けたから即死する事はないだろう。
雨柳もゴリラもやたら頑丈だから恐らくはまだ、生きているはずだ。
だけど、今生きていても。
(皆、死ぬ)
ガタつく歯を必死に抑えどうにか立ち上がろうとするが、腕が動かない。
死の恐怖に囚われた体は、戦うという選択肢を拒絶する。
情けない事ではあるが、それは当然の事でもある。
生物は皆死という絶対的な断絶を避け、生きる為に行動する。
にも拘らず、わざわざ死にに行くために立ち上がることなどできようか。
それが出来るのは愚者か、狂人か、そうでなくては────
だけど、シロガネはどれでもない。
彼の感性は人間のそれに過ぎ、人が持つ勇気もない。
現にほら。
「おや、まだやる気なのですか」
「っ!?」
アドラメレクの声に情けなくもビクつく。
その興味深げな声が自分にかけられた物ではないと知っているのに。
「ああ、全く平気って所だよ。
はあ、この程度じゃ死ぬ気がしねえぜ」
「サマナー……今、回復するわ」
スクルドを召喚した雨柳は、息を荒げながらも立つ。
回復魔法を発動させ、体力を回復したが圧倒的な不利は明らかだ。
主武装の備前長船は折れ、副兵装の刀を手にしているが、こんな状態では戦力差を覆す事等到底不可能。
「そんな顔するなよスクルド。
堕天使の一体や二体、華麗に倒してやるさ」
にも拘らず、その目はまだ折れてはいない。
「いやはや人間はしぶとい。
あまりのしぶとさに閉口しますが多少尊敬の念を覚える程です。
どうでしょう? ここはあなた方の健闘に免じて、退くならば見逃がしましょう。
ああ、欺きを心配するなら誓約をしてもかまいませんよ」
ゆったりと余裕を保ったアドラメレクは、優し気ですらある声で雨柳へ提案した。
提示された提案は、追い詰められた状況では砂糖水より甘く、魅力的にシロガネには思えた。
「当然、Noだ」
無論、歴戦の召喚師である雨柳は拒絶したが。
「この異界を出たらさ、お前は手勢を率いて虐殺をする気なんだろ?」
「ええ。彼等とはそういう契約を結びましたからねえ」
「なら例え命尽きようが受け入れるわけにはいかねえ。
お前は、此処で殺す」
雨柳は刀を正眼に、構える。
かつてない程に間近に迫った死への恐怖心がある。
それでも引くわけにはいかなかった。
(……こんな悪魔を態々手を尽くして召喚するくらいだ。
終焔教会の奴等にも色々あったんだろうな。
それこそ、俺の事情なんて笑っちまうような事があったのかもしれねえ)
雨柳とて、過去には色々あった。
凄惨な物は嫌という程見てきたし、被害者に許されたとはいえ罪を犯した。
自分が完全に堕ちる事がなかったのは、御影を始めとする周りの人間に恵まれていたからだ。
自分自身がどうこうよりも、それが大きかったと思っている。
絶望から救い上げられたか否かは、決定的な違いだ。
(だけど、無差別テロなんて許すわけにはいかねえ)
それを許しては雨柳巧は雨柳巧でなくなる。
理想は遠く、己のふがいなさに打ちのめされ、ままならない現実に絶望する事もあるだろう。
けれど、決定的に踏み越えてはいけない一線がある。
その事を忘れる気はないし、忘れたくない。
だから雨柳は今此処で、堕天使に立ち向かう。
「何があろうとも、お前がやろうとしている事を許すわけにはいかねえんだよ!」
「────成程成程、やはりあなたは油断できない。
強い魂をお持ちの様だ。
私が全力で殺すにふさわしい……!」
これまでとはどこか違う笑みを浮かべ堕天使は、両腕を広げる。
揺らめく空気の中上がっていく熱量。
固唾をのみながら見守るシロガネの胸には、揺れ動く意思。
(ああクソ。君がそんな立派なこと言うなんて。
そうだよな無差別テロなんて許しちゃいけない。
実に立派だよ君が正しい。
だけど死ぬことなんて、嫌に決まっているだろうが……!)
死を嫌悪するシロガネは、息を切らしながらもなんとか上半身を起こす。
それだけでマラソンを走った様な気力を消耗し、それ以上は無理だ。
なによりも精神が、戦う事を拒絶する。
(格好つけて戦って死ぬなんて御免被るぞ!
第一君にだって大切な人がいるだろうが!
ああ畜生、何でこんな────)
逡巡の中、何か固い物を踏む音を聞いてシロガネは振り向く。
視線の先、自分が壁を巻き込んで吹き飛ばされた通路にいるのは二人の子供。
まだ小学生程の活発そうな少女と大人しそうな年少の少年。
雰囲気的に恐らく姉弟だろうか? そんな場違いな存在が居た。
(子供の、姉弟? 何でこんな所に?)
シロガネがあずかり知らぬところではあるが、彼らは終焔教会の信者の子供である。
自身の人生への不満からクリスタ会、終焔教会に傾倒した母親が、強大な悪魔に捧げる為に連れてきた子供達。
地下牢に入れられた所で戦闘が始まり放置されていたこの二人は、落ちていた鍵を手に入れどうにか牢を抜け出して来ていた。
それがさらに運悪く、戦闘に遭ってしまったのだ。
「お姉ちゃん……」
「大丈夫、大丈夫だからね」
シロガネを敵と思ったのか、震える弟を抱きしめる姉。
酷い扱いを受けて、自身も傷だらけの少女が弟をかばう様を見て胸が痛む。
(……手も顔も傷だらけだ。こんなになったら痛いだろうに。
それでも弟をかばうんだなこの子は)
この少女は、異様な思想に傾倒した母親に虐げられる弟を今日この日まで庇ってきた。
実の親に殴られ、蹴られても心が折れる事なく。
ただ、自分にとってただ一人の弟が大事だから。
それだけの理由で少女は頑張ってきた。
「残念ながら、これで終わりです!」
「ぐがっ! ……子供、だと? やべえっ!」
「まずいサマナー、これじゃ真に合わない……!」
少女の努力をあざ笑うように不運は重なる。
アドラメレクの攻撃により、雨柳とスクルドは少女達の方向へ吹き飛ばされていた。
しかも狙ったわけでもないのに、魔法を放てば、少女達が巻き込まれるような位置に。
シロガネだけが、幸か不幸か外れていた。
(何してやがるクソ堕天使……! あの子達が、死ぬだろうが……!)
怒りと絶望にシロガネの脳は極限まで加速。
凄絶な焔は
覚醒すらしていない子供は、誰かが身を盾にしなければ絶対に死ぬ。
造魔に近い特殊な肉体のシロガネは、死んでも他の悪魔のように容易に蘇生できない可能性がある。
何せ世の中には"造魔焼却*4"という特殊な魔法があるのだ。
骨も残らず焼き尽くされて、蘇生できない可能性は十分だ。
それはシロガネが忌み嫌う完全な死だ。
だけど、だけど、小さな少女によってか、死に瀕しているが故か魂の奥底から思い起こされる記憶があった。
脳裏に閃くはいつの、何処とも知れない記憶。
咲わふ花のように、美しい誰かの記憶。
自分に向けられた少女の満面の笑顔。
ただ笑うだけで話すだけで、誰かを太陽の様に暖かく、幸福な気持ちにする元気いっぱいの少女。
「ああ────」
記憶の彼方にある彼女の小さな手が、弟を護ろうとする少女に重なって見えたから。
シロガネは立ち上がって。
一気に走り出して。
「────ああああああああああああああああああっ!!!」
姉弟の、雨柳達の盾になった。
貫通効果すら付与された強力な炎弾は爆発を引き起こす。
土煙が巻き起こる中、雨柳達と異なる小さな悲鳴とうめき声が後方より聞こえた。
それは、姉弟の生存を意味している。
シロガネが盾となった事で火炎の余波を一切受けなかったようだ。
「意外な蛮勇ですね。
あの中では一番の、唯一の弱敵と思っていたのですが。
人間の魂に感化されたという事でしょうか?」
自身やデカラビアに有効な魔法攻撃が出来るものの臆している事から優先順位を低くしていた悪魔。
その意外な動きをアドラメレクは、興味深げに見ていたが。
「────これはまあ、何と奇異な。
何です? この結界は?」
土煙の向こうに浮かび上がるのは、シャボン玉のように不可思議に輝く半球の障壁。
それは万能無敵の結界ではない。
されど如何なる攻撃をも軽減する、守護結界であった。
| 神奈備ノ守 | 補助属性スキル | 次のターンまで味方全体のダメージを30%軽減する 真Ⅴにおいてはやがて至高の座に至る可能性を秘めた者、■■■■の専用スキルである |
かつて見たことのない、結界をアドラメレクが訝し気に見る中。
血と喘鳴を吐きながらも、シロガネは立ち上がる。
「おいシロガネ、意識はあるか?」
「うげえ、ひいっごへ……ああ。
ほ、本当に死ぬかと思ったぞ……マジ怖かった。
というか一回死んだよな僕? うげえ痛あ!」
「よくわからないけどありがとうシロガネ。
この結界がなかったら私達の回復も間に合わなかったわ」
雨柳が地返しの玉を、スクルドが
雨柳たち以上にボロボロで、まだ火傷が全身に残っている。
「……デカラビア、彼をアナライズしなさい」
「し、しかし」
「私の魔力と演算能力を貸します。最優先でやりなさい」
だが、先程とは目が違っていた。
故にアナライズの能力を持つデカラビアをせかし解析させる。
敵を追撃するよりも優先し、その正体を探る。
「で、出ました! 訳が分かりませんがとにかく出ました!」
自身の損傷すら厭わぬ超高速で解析したデカラビアは血涙を流し叫ぶ。
霊的なリンクで共有される覚醒したシロガネの情報。それは
\カカカッ/
| 神造魔人 | シロガネ | LV57 | 飛具・破魔にやや弱い 火炎に強い 電撃吸収 呪殺・魔力・神経無効 |
「神造、魔人……? なんなのですあなたは?
そんな悪魔聞いた事もない」
「さあ、なんだろうね神造魔人て。
実を言うと僕自身も知らない」
自分の起源も分からず、漠然とした願いに心惹かれ、死を悪戯に遠ざけようとする。
全く以てカッコよくない。
何か特別な資質があったとしても宝の持ち腐れだ。
神造魔人であろうと心根は、凡人のまま。
そんな人間がヒーローなどとは烏滸がましい。だが。
(それでも、僕はあの人の、顔も覚えてない誰かの様にありたい!)
弟を大切にする姉の様に、誰かを護る為に勇気を奮って戦う勇者の様に!
ならば恐怖を堪えて、死という絶望をも乗り越えてやる!
故にシロガネの心に、恐怖はあれど怯懦はない。
だから彼は、この場に立ち、アドラメレクを見据える。
そして敵に勝つために、己の力を起動する。
神造魔人が契約者にもたらす、恩恵を。
「雨柳、今から君に神造魔人の力の一端を渡す」
「は? そんなのあるのか?」
「今一回死んだからかな、僕がそういう事が出来るってわかったんだ。
とは言っても特にすることはないんだけどね。
何せ契約はもう結んでいる、から」
「これ、か?」
管を用いたアナログな悪魔との契約。
それが功を奏したのか、
神造魔人たるシロガネと雨柳は深い霊的繋がりを得ている。
(頭に知らねえ技や能力の知識が流れ込んでくる……。
これが神造魔人の力って事か? )
それは歴戦の召喚師である雨柳の知識にもない、全く新しい知識。
負荷などなく、当たり前のように馴染む。
さらに、霊的なラインが結ばれた事による証はスクルドが指摘する。
「サマナーの目が、金色に?」
証として金色に輝くは雨柳の瞳。
シロガネと同色の瞳は、神秘的で底知れぬ力すら感じさせる。
「一部の悪魔がやるような情報汚染と少し違うようだね。
強いて言うならデータリンクに近いかな?
これは どうやら"心機合一"というらしい」
契約により相互に共有される情報。それはまるで二人が同一であるかのようによく馴染む。
「どうやら、神造魔人の契約者にもたらされる恩恵らしいよ」
「成程、そういう事か。完全じゃねえが大体わかった
……所でなんか目がおかしくなってる気がするが、これ一次的なもんだよな」
「たぶん……きっと、メイビー」
「まてやオイ」
軽口をたたき"ムダ話"をしながらも雨柳は再び刀をアドラメレクへ構える。
単にシロガネの心持が変わったというだけじゃない。
戦いの潮目というべき何かが完全に変わった事が感じられた。
「と、いう訳で第二ラウンドだ。異論はあるか?」
「あってもお構いなしでしょう。
この間に、仲間まで回復しておいてよくもそう言う。
人間というのはなりふり構わない物ですねえ」
ムダ話の間に垣間見えたのは、回復が済んだゴリラと恵都が起き上がる光景。
さらにはシロガネ達が気を引き、盾になっている間に、彼らの仲間が秘かに全速で子供を回収していった。
回収したのは赤い髪の少女と、露出度の高い服? を着た眼鏡の女性。
こちらの攻撃を防ぐために魔反鏡を使い、回復を飛ばしながらの手際は、呆れるほどに良かった。
「────まあ、いいでしょう。
我が焔の前に奇跡も逆転もありなどしない。
厳然たる事実を、完膚なきまでに教えてあげましょう!」
多少なりとも消耗しているはずなのに、アドラメレクはなおも強力な炎を纏う。
超強力な堕天使が振るう力はなおも強大。
「よし、もうひと頑張りだ。
今、此処で、アイツを殺るぞ!」
「おうよっ!」「ええ!」「そうね」「────ああ!」
されど彼らは臆する事はない。
人間三人と悪魔二体、全員が魂を燃やし、強敵へと立ち向かっていく。
(心機合一か。
シロガネが神造魔人って悪魔だってことと良く分からんが)
スクルドのマカラカーンにより火炎を封じられたアドラメレクが接近。
繰出される堕天使の拳をガードする雨柳は思う。
(今この場では大助かりだ!)
みしりと骨にひびが入り口から血が流れる。
一般的には重傷といえるその傷も、先ほどに比べればがぜん軽い。
戦況は徐々に、雨柳達の側に傾きつつある。
シロガネの覚醒をきっかけに、ダメージレースの傾向が変わった。
アドラメレクからのダメージが減少し、逆に与えるダメージが増えていく。
その一因として雨柳とシロガネの間に形成された心機合一があげられるだろう。
心機合一の第一の効果は魔を始めとするステータスの上昇。
この効果によって疲労を差し引いても、雨柳の動きはよりキレが良くなっている。
回復を受け立て直した恵都にゴリラ、スクルドも一生懸命に戦い、アドラメレクを追い詰めていく。
身を心を削りながらも、ダメージを重ねていく。
(仲間と戦うってのは悪くねえな!)
"猛反撃"にて、アドラメレクの腕を切り裂く。
小手裏を切り裂かれ、血が飛ぶ中飛び込んでくるのはゴリラ。
「あまり私の事を舐めてはいけませんよぉ!」
「があっ!」
もう片方の拳で堕天使は顔面を殴る。
固いマスクが割れ、血に染まった存外若い顔が見えた。
その目に輝く闘志も。
「この程度で、怯むと思ったかァ!」
反撃に繰り出されるは強烈な千烈突き。
幾度なく傷ついた身をおして、堕天使を殴り殴り殴りまくる。
(まだ終れねえ。まだ倒れられねえ。
自分でも何故か分からないけど、俺は戦わなきゃいけないって感じてる)
ゴリラ、志■大■の戦意の
悪の組織に改造されてから、その後現実にもヒーローがいるってことを苦しむ誰かに伝えたくて戦ってきた。
その気持ちは嘘じゃない。
だけど最近もそれだけじゃない気がする。
何か忘れ去ったかけがえのない時間があって、大切な人がいたから、戦う。
少し前の<東京緑化会>との闘い以来だろうか、想いは強まるばかりだ。
(守らなきゃいけない、幸せになって欲しい人間がいる気がするんだよ。
気のせいかもしれないけどなあっ!)
だから強大な堕天使を、至近距離で殴りまくる。
バリアの内側でゼロ距離射撃するかのような、無謀な攻撃。
一連の打撃は堕天使を確かに怯ませた。
(あの子が泣かない、平和な世界が欲しいんだよ!)
最後の一撃を獅子吼と共に堕天使の顔面へ拳を叩き込む。
それは決意の籠った重い拳。
「がふうっ……! 私にここまで、血を流させるとは」
石畳を転がったアドラメレクは血を吐き、よろめきながら立ち上がる。
「こうなれば覚悟を決めるしかありません、か。
デカラビア、テトラカーンを!」
物理反射障壁が張り巡らされる中、アドラメレクは
次の手番にて一気に決めるつもりだ。
(我が本質たる焔、万物を焼き滅ぼす一撃で彼らを殺す)
次の手番にて発動するはスマイルチャージ*6
消耗が激しい為使わなかった高揚の奥義で力を引き上げ、反射すら貫通する魔力を付与した業火を放ち、ケリをつける。
幾つもの傷を刻んだ強敵に対して、元より恐ろしく高い対魔力にて次の攻撃を耐えきり、最大最強の一撃で滅ぼす。
「あなた達は誇り高く、強かった!
だからこそ、跡形もなく焼き尽くす。
それが私からの最大限の敬意です!」
「そうか……ならこっちも全力でお前を倒す!」
太陽神の末裔たる矜持が、悪魔にはあった。
呼応するかのように雨柳の精神は研ぎ澄まされていく。
「行ってサマナー! 今のあなたなら……!」
「これでMPカンバン! あと、頼みます!」
意を決して駆け出す男の背でスクルドと恵都が魔法を全力射撃。
デカラビアを倒し、アドラメレクの行動をわずかに阻害する。
援護を糧に雨柳は刀を抜き放つ。
紆余曲折を経て、神造魔人の契約者となった男の魂に刻まれた情報。
自身の経験を重ね合わせ放つは雷速の一刀。
あらゆる斬撃に先んじて敵を斬り裂く刃。
魂を励起させて放つ、稲妻の刃が一閃される!
| 稲妻一閃 | 電撃属性スキル | 真Ⅴ出展 敵単体に力依存による電撃属性大威力攻撃を行う |
| ■■■ノ眷属 | 自動発動スキル | 味方単体の電撃属性、呪殺属性攻撃時の攻撃力を強化する |
刀身の様に細く、鋭く束ねられた雷はアドラメレク深く、深く斬り裂く。
むしろ真っ二つにならないのがおかしい程の直撃は、間違いなく
仮初の血とマグネタイトが大量に飛び散る中、堕天使の眼には驚愕。
「バカ、な。テトラカーンは展開し、たはず。
そもそも、この技を、物理のみだったあなたが、何故?」
デカラビアが先程展開したテトラカーンは物理・銃撃属性の攻撃を反射する物。
刀身に焔や、真空を纏おうとも、それは物理攻撃であり弾かれるはず。
にも拘らず、テトラカーンをすり抜けたのは如何なる理由なのか。
「いや、違う。テトラカーンが適用されないなら、自明か」
「ああそうだ。あれはどうやら電撃属性の攻撃らしいぜ」
会心の一撃で
過負荷により刀が砕け散る中、男の眼には確信。
故に例え刀を媒介に放とうとも、物理属性攻撃ではない為、物理・銃撃属性を反射するテトラカーンの対象に適用されない。
「なんともはや、単純でしたね。
それにあの技は成程、悪魔の力を取り込んだか」
アドラメレクの推測は当たっている。
心機合一の第二の効果は、疑似的なウィスパーイベントによる、一時的なスキルの共有。*8
シロガネの持つ力を"稲妻一閃"として雨柳に最適な形で調整し、"■■■ノ眷属"という権能と共に共有する。
そんなイレギュラーにも程がある効果が存在した。
(何と理不尽な。いや私が言えた事ではないか.
……全く訳の分からない悪魔にこうも盤面をひっくり返されるとは)
マグネタイトを血と共に吐き出し、片膝をつくアドラメレクはシロガネを見る。
先程まで怯懦と見ていた悪魔の顔には決意。
決意を秘めて雷を纏う
それは心機合一の第三の効果。
契約者と魂の状態を共有、つまり片方がニヤリ状態になれば、もう片方もニヤリ状態になる。
故に極限まで加速した精神の中、シロガネはこの手番にて、自身の最大の一撃を放つ。
己の中にある
魂を込めた決意の一撃は、当然の如く雷。
彼が勇気を奮って放つ雷は、名前の通り白銀に輝く、美しく強大な雷。
「これこそが! 僕の! 勇気の証だあああっ!!」
| 轟雷・改 | 電撃属性魔法 | 敵単体に特大威力の電撃属性攻撃 それは熱く美しき、白銀の雷 |
後から想えば気恥ずかしくなるような、されど魂からの叫びと共に放たれた雷。
集中と高揚を以て威力を引き上げられた雷を前に、アドラメレクは苦笑した。
(……所詮私は矮小な悪の側、身の程にあった死に方をするという事ですか)
アドラメレクにとって死は当然覚悟の上だ。
だが、このような死に方はあまり望ましいとはいえない。
堕天使にとって好ましい死は、破壊と殺戮の末に、少女に殺される死。
鬼の力を身に宿した、桜を思わせる、悪魔の眼から見ても美しいと思える少女。
そんな彼女が心からの憎悪を以て振るう、世界すら滅ぼせそうな圧倒的な力で、完膚なきまでに欠片も残らず虐殺される。
何故だか分からないが、そんな死に方がいいと思えた。
(だが、悪くはない死に方だ。
終焔教会の方々にはご期待に沿えず、申し訳ありあませんが。
彼等の有り様は)
自分を倒した、人間の、悪魔の魂の在り方は。
(中々に、美しかった────!)
白銀の雷の中に消えていくアドラメレクは、笑っていた。
何処か満足気に、確かに。
帝都東京の某所。
キリギリスの発起人である佐々木が所有する、JCが沢山いるビルの中。
シロガネは、少女と向き合っていた。
くすんだ髪色の、自分より何歳も年下の少女。
家族や友達、仲間から愛されていそうな。
「……この子が雨柳の、言っていた子?」
「ああそうだよ。今日は珍しく一人の様だけど」
シロガネは今日雨柳と共に、沖縄での調査から帰ってきた佐々木たちと情報交換を行う為にこのビルへ来ていた。
先日アドラメレクを倒し、残りの構成員も死ぬか捕縛され壊滅した終焔教会。
その件に関する報告も兼ねて訪ねた所、少女とシロガネはバッタリ会った。
沖縄での仕事から帰ってきた少女は、今日は珍しく近くに友達がいないようだ。
掃除でもしていたのか傍らには積まれた書類と、紙袋が置かれている。
「なんか雨柳さんと会うの久しぶりに感じるなー。
所でそちらはその、どちら様?」
多少困惑しながらも、印象と違わない明るい声が少女が発せられた。
雨柳が戦い始めたきっかけである少女に対して、シロガネは問いかける。
真摯に、恭しく。
「僕はシロガネ、一応だけど雨柳の仲魔をやっている。
なんか神造魔人って悪魔らしいけど、自分でもよくは知らないんだ」
「へー珍しいなあ。記憶喪失なの?」
「だから知らない事も多いんだよね
所で……君の名前を聞いてもいいかな?」
シロガネの質問に、少女は快く答えてくれた。
彼女に相応しい名前をシロガネは魂に刻む。
「いい名前だね。君にとても似合ってると思うよ」
「でしょ! かーさんととうさんが付けてくれた自慢の名前なんだ!」
少女の笑顔は太陽の様に、明るく美しい。
この子に幸せなになってほしいなと、見る者に素直に思わせる。
とても笑顔が素敵な少女だった。
(この子が僕の探していた子なのかな?
まだわからない、確証はないけど……何処か懐かしい気がする)
分からない、けどあの死闘を乗り越えた末にこの子と出会えた。
それは絶対に間違いではないだろう。
素直にそう、シロガネは思えた。
「これから一緒に仕事することもあるだろうし、その時にはよろしくね」
「おう! こちらこそよろしく!」
和やかで温かい空気で少女とシロガネ、後雨柳の間が和む。
この殺伐とした時勢に相応しくない平穏さ。
後々になっても、銀色に輝く、平凡だが美しい瞬間だといえた。
その時の事である、テーブルに置いていた書類、というか紙の幾つかがひらりと落ちた。
雑多な紙は単なるメモ用紙とかが殆どである。
「…………え゛っあ゛あ゛っ゛」
その中の一つを見た雨柳は轢きつぶされた蛙の様な声を出した。
大の男が、まるで全財産を投資した企業が、倒産した様な顔をしていた。
(あっ一発で脳が壊れたッ)
男が悟ったのは自身の脳の破壊。
瞬時に周りに少女達がいないことを確認すると、そのまま無言で卒倒する。
「うわっ!? 何、で……あ゛」
シロガネは驚きながらも、雨柳の視線の先に目を向けた。
そして、彼も目を見開き、倒れた理由を理解した。
雨柳が倒れた理由、それはあまりにも単純明快であった。
何故なら落ちた紙には、────"え っ ち 券"と書かれていたのである。
「うわわわわわわ!
これはナシ! これはナシだから!」
硬直していた少女は、可愛らしく赤面しながら紙を拾い上げる。
この券以前少女が、恋する青年に渡す為に作った物である。
沖縄で色々あったから一度封印しようか迷あっていた所で、雨柳達が来た。
その為他の紙と一緒に置きっぱなしになっていたのである。
そんな少女は両腕を後ろに回し券を隠そうとするが、もう遅い。
雨柳にもシロガネにもしっかり見えてしまった。
(えっち券ってどういうこと……え? まさか、あれ、嘘)
シロガネの頭脳を駆け巡るのは、雨柳の仲魔になってから聞いた話の数々。
このビルの主である自称ダークサマナーとJC達がアレしているとかなんとか。
割とディープな所まで行っているという話を、ふーんと聞いていたが。
それらの内容が、赤面しソファの影に隠れた少女と結びつく。
そこから導き出される事実はただ一つ。
(この子は……佐々木さんと、この年でうまぴょいしている……ってコト!?)
正解である*9。
(嘘だ……僕をだまそうとしている……)
こんな小さな可愛い子がそこまでしている。
そんな事が許されるというのか!?
「ただいまーあれ? 今日はくぅんの奴来てるのか?」
「うーわ、わあ、佐々木さんまできちゃったあ……!」
駄目押しとまでに来たのは家主の佐々木青年。
彼を見て少女はより赤面しうずくまる。
だが少女らしい反応は、関係の裏付けでもあり。
(あ~~~ア~~~死ィイイイイィ……!)
シロガネも雨柳同様、ばたりとぶっ倒れた。
白目を剥いて、この上なく情けなく。
「え? なにこれ?」
他方困惑するのは佐々木青年である。
雨柳には、おう貴様十三歳のJCにナニ教えてんだコラと問い詰める予定であった。
だが実際には彼が絞めるより早く、水揚げされたマグロの様に、硬直して倒れている。
「なんだこれ?」
いつも通り可愛い少女が恥ずかしがるのをあやしつつ、ついでに良く分からない、造魔っぽい悪魔も倒れている。
「本当になんなのこれ?」
本当になんでしょうねこいつら?
◎主人公紹介
・雨柳巧 <デビルサマナー><剣士> LV68
シリーズポジション:ニッカリ及び悪魔討伐隊(真・女神転生Ⅳ Final)
長いヘタレ期間を大切な人たちの支えで脱出し、マッポーな世界で戦い続けるキリギリス構成員。
シロガネの加入及び<心機合一>により戦力が大幅にアップしたが、まだまだ強くならないとならぬ。
この後沖縄での情報をアレコレ聞いてしまった結果「嘘だど…言ってくれ゛………!!!」と脳どころか尊厳まで破壊された。
・シロガネ <神造魔人><人間型悪魔> LV61
本エピソードから加入した神造魔人という種族に属する謎の悪魔。
強力な電撃と呪殺の魔法を操り、敵を撃ち滅ぼす。
死を忌避しているが、彼の記憶の片隅に残る誰かの様に勇気を奮って立ち向かう。
なおこれからはコイツも脳破壊される。
◎キリギリス構成員紹介
・ヤタガラスの少女 LV54
雨柳が出会ったヤタガラスの少女。
過酷な戦いの中、数奇な運命をたどり現在はキリギリスの佐々木の元へ身を寄せている。
物凄く乙女でかわいい事で有名であり、作者調べではこの子が恥ずかしがる顔はメシアライザーと同等の効能があるとの事。
次回からは軽めのエピソードが1つか2つ続くと思います。
敵はまだまだ多いので、戦力を増やしていきたいところですね