真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス-   作:ローグ5

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光のパパ活おじさんはまだ折れちゃいない-後篇-

 ──────ある男が居た。

 

 かつて対魔を司っていた旧家の末裔に生まれた男は、若くしての両親の死という不幸にもめげる事無く利他を善として精進し続けていた。

 

 それは幼少期の両親の教育のたまものか、或いは近隣に住んでいた年下の幼馴染の少女の足が不自由だった為かは今となっては分からない。

 ただ長じた男は超国家機関ヤタガラスに所属し優れた剣士として日夜牙無き人々の為に剣を振るっていたのは事実である。

 

 男は優秀だった。特定属性への防御や高速移動など用途ごとに特化した悪魔の使役と、卓越した剣術の組み合わせは敵対的なあまたの敵を滅ぼし、彼の名声を高めた。

 やがてはガイア教過激派の幹部の単独撃破を成し遂げ、剣士としてはヤタガラスでも5本の指に入るとすらたたえられた。

 若くして頭角を現した男の戦士としての道は名誉に満ちていると思えた。

 

 だがここに誤算があった。

 男の精神、十分に鍛え上げられたはずのそれは自他が思うよりも脆かったのだ。

 

 自分よりも弱いというだけで年少の人間が死んでいく様。

 すでに手遅れになり、慈悲の一撃を懇願する犠牲者達を楽にした事。

 己の命という唯一かけがえのない物が危険にさらされる事への恐怖と嫌悪。

 長い年月を殺伐とした場をに置いた事で生まれるストレスは男の心を蝕んでいった。

 

 それに苛烈極まりない上司は彼に期待していたのだろう。

 一つの戦いを制すれば次はより激しい戦いにと誘う彼女は性格的な不一致も伴い、男にとって彼女は死神以上に死神に見えた。

 

 積もりに積もったストレスの結果として心身の不調を自覚しこのままじゃ壊れてしまうと男は転属を希望し、何とか受け入れられた。

 何とか平衡を保ち始めた男は己のふがいなさを恥じつつも仕事を再開し、疑義を抱きながらもある任務に就いた。

 

 その任務とは危険な悪魔の転生体である子供の暗殺。

 覚醒すれば周囲に疫病をまき散らし数えきれない程の人間を不幸に追いやる存在。

 無垢な子供だとしても、なんとしても覚醒する事態は防がねばならなかった。

 

 己のしようとしている事に吐き気がした。

 当たり前のような顔で決定を下す新しい上司にお前がやれと言いたかった。

 歩く足取りが、刀をとる腕が鉛以上に重かった。

 

 けどやらねば人が死ぬから、それは駄目だから男は何とか子供を殺そうと、一度仕損じたせいで片腕と背中を斬られ痛い痛いと泣き喚く子供に向き直る。

 せめて楽に殺してやろうと、震える手で柄を握り切っ先を振り下ろそうとしたところで────クズノハの男に止められた。

 

 オールバックに近い髪形をしたクズノハの男、その後四天王に就任するも2015年にシュバルツバースの中に消えたという傑物は一瞬で男を制圧した。

 呆然とする男に対してクズノハは子供の手当てをし後続の人員に任せると苦々しい顔で真相を語った。

 醜聞のもみ消しを意図した自身の子供の抹消。

 上司の醜悪極まりない意図を聞いて元から罅が入っていた心が折れる音が聞こえたような気がした。

 

 幸いにも男には支えてくれる人がいた。

 己の子供のころから知っている得難い、妹のように思っていた女性。

 彼女の協力で何とか心身を表面上は立て直し、フリーランスとして活動を再開した男は惰性で生きてきた。

 行き掛かりで人を救う事もあったが、所詮自分如きにできる事等たかが知れている。

 そう自分を卑下しながら生きてきた。

 

 己の程度を知った男は世界滅亡が噂される頃になった時、当然のように数少ない知己の女達を連れて異界へと逃げ込むことを決めた。

 それがかつて自分の仲間だった者や平穏に過ごす人々、特に足の不自由な幼馴染の様に文明社会の庇護のもとでしか生きられない人を見殺しにする選択であることを知りながら。

 仕方がないと自分を欺瞞して、目をそらそうとした。

 

 だがそれも結局不可能だった。

 いい加減な人間を気取っていても、何処か愚直さを残した男はある日ある少女と出会ってしまった。

 それは何の運命もない、この先も薄い縁にしかつながらない出会いだ。

 だが、それでも少女の無垢さと勇気は、腐れていた男に一歩進ませるきっかけとなった。

 

 

 


 

 

 

 異界最深部の広間、先ほどまで闇の取引が行われていたこの場所では今も死闘が繰り広げられている。

 床や壁を砕きながら応酬される魔法に剣戟。

 色とりどりの閃きは美しくすらあるがそれは死をもたらす魔性の光である。

 

 不吉に輝く魔法を潜り抜け剣戟を交すのは人と異形、一人と一体の剣士だ。

 

「────かァッ!」

「────シっ!」

 

 剣と刀が高速で振られぶつかり合う。

 散りゆく火花をも切り刻む剣閃は文字通り目にもとまらぬ物。

 一、二、三とぶつかり合い甲高い金属音を響かせる。

 

「あらあら男同士で盛り上がっちゃってまあ……ザンマ」

 

 斬り合いの最中に放り込まれる魔界魔法。

 衝撃波を伴うそれを後退し回避する雨柳の背後には中位クラスの鬼女。

 体中から血を流しながらも種族通り鬼気迫る表情で鬼女は雨柳の脳天をカチ割ろうとする。

 

「────―渾身脳天割り」

 

 が、すでに雨柳は鬼女の動きを予想していた。

 反転し力強く踏み込むと上段からの渾身の斬撃を叩き込む。

 前衛の異形と彼を遮るファイアブレスの音が嫌に大きく響く中、切っ先を振り下ろす。

 

「ぺぎょがっ!」

 

 脳天をザクロの様にかち割られた鬼女は糸が切れた浄瑠璃人形のように倒れ、マグネタイトの粒子へと分解されていく。

 追撃を避けて側転し距離をとった雨柳は、古流サマナー特有のマグネタイト制御によりそれらを取り込み回復するが、その息は流石に上がっていた。

 

(クソッ単独で乗り込むなんてのはもう十年近くやってなかったが、こうも早くへばるとはな……我ながら情けねえ)

 

 ブランクの上に三十代に差し掛かったもう若いと言えない年齢。

 これまで半信半疑であったが改めて加齢という物の度し難さに気づく。

 衰えによる戦闘力・継戦能力の低下は重大な問題である。

 しかしそれ以上に残り二体の敵の戦闘力が厄介だった。

 

「おいおい勘弁してくれよ! 俺の仲魔ほぼ全滅じゃねえかどうしてくれんのよコレ」

「全くこれだから利益度外視のニンゲンっていやねぇ。

 損得って物が分かりやしない、お猿さんからな~んも進歩していないざぁこの癖に」

 

 ファントムの女と乾の姿はもうすでに人間のそれではない。

 ファントムの女は穢れた黒の翼をもつ天使────堕天使シャムシエールの本性を現した。

 一方ダークサマナー乾は確かイマージュがどうとか言っていたか? 両腕が長剣に置換され、さらに目のない頭部に後頭部に向かって二本の剣を角めいて生やした姿に化身している。

 そのどちらも一人ずつならともかく二人相手だと荷が重い相手だ。

 

(イマージュ……佐々木の奴の情報にあったヤクザの同類か? 妙に剣が鋭いが、剣技に長けた悪魔との融合に近いんだろうが何かが違う気がする。ま、殺せば死ぬんだろうが)

 

 格下ばかりの悪魔はともかく勝手の分からない相手への戦闘。

 面倒な事態だがこちらも囚われた人間は戦闘から逃がす事が出来た。

 人質をかばう必要もなく後はこの二人を倒す事に集中できる。

 

「……オルトロス、いつも通り支援頼むぞ」

「マカセロ。ショセンハニタイニ、クソヤロウヲイッピキヅツヤレバヨイカンタンナハナシダ」

「一人一殺。簡単な話だよなァ」

「オオーン!」

 

 数いる悪魔の中でも最も信頼する仲魔であるオルトロスは咆哮で答える。

 その頼もしさに応える様にコォォと息を自身に吹き込み刀を構える。

 正眼に構える刀はまだ途切れていない戦意を示す証だ。

 

(駄目人間、クソ野郎、三十過ぎて夢見すぎ。我ながらどうしようもないやつだがそれでも刀は錆着いてはいても折れちゃいねえ)

 

 雨柳巧という男は自己評価においてどうしようもない駄目人間である。

 勝手に病んで挙句の果てには罪のない子供を殺しかけ、その果てには異界で未成年含めて四人も囲って自堕落な生活などやっていた。

 全く以て恥の多い男である。

 

 しかしそれでも、己の良心に灯した炎はまだ燃えている。

 まだ、戦うことができている。

 

「奴らを一気に殺るぞ! 叫べオルトロス!」

「アオオオ────ン!」

「はいデカジャ。小細工だけは豊富ねぇ」

 

 マグネタイトを含んだ音波で敵を弱体化させる雄たけび。

 デバフにより僅かに動きが鈍る二体の敵もまたデバフの解除で応酬し、進みだしてゆく。

 

「いい加減に死んどけ、暗夜剣!」

「ハッハァ! 残っエイィッ!」

 

 再びぶつかり合う刀と異形の剣。

 異界最深部で、残虐性を剥き出しにする異形に対して剣士は衰える事のない戦意で立ち向かう。

 その刀はかつてと違い折れる事なかった。

 

 

 


 

 

 

「……異界の中で、ヤタガラスの子と会っちまったんだ」

 

 時刻はすで夜遅く、天井の灯に照らされる中何処か打ちひしがれた様子の雨柳は呟く。

 異界に拵えた建物の広間、話し合いに使う為に間取りを広く取ってある部屋で、その様子を四人とも心配そうに見守っていた。

 

 彼の様子は異界に籠り始めたとある日、憔悴して戻ってきた日からどうもおかしい。

 一週間前に子供を悪魔から助けてからはその歯車が掛け違えたような様は加速している。

 それは誰の目にも明らかで、御影たち四人は密かに相談しなるべく彼の負担にならない形で何があったのか聞いてみる事にした。

 

 己の様子のおかしさが露骨な事に気づいてなかった雨柳は虚を突かれた様子を見せたが、椅子に腰を下ろすとまるで己の罪を告げるかのように口を開いた。

 彼が告げるのは一か月以上前、外部へ物資調達へ出かけた際に偶然出会ったヤタガラスの少女の事だ。

 

「あの日もほら、一週間前と同じように車転がしてて……そんで人払いの結界、見つけたんだよ。

 それで違和感感じて行ってみたら案の定でさ」

 

 人払いの結界は何らかのアイテムを使ったのか急増と思えない巧妙な物であったが、雨柳のような経験豊富な者にとっては何度か見たことがあるタイプの物だ。

 妙に目についたそれを避ける事は出来たが、思わず覗き込んだその結界内部にある光景────子供一人に多くの悪魔が襲い掛かっている光景を目にした。

 何を思ったかは彼自身詳細な内容は覚えていない、が気づいたら彼女に加勢していた。

 

「ヤタガラス所属の戦闘員の子でさ、孤軍奮闘って感じだったから思わず加わっちまった」

「ええと、疑問ですがヤタガラスは子供一人で大勢と戦わせる組織なのでございますか?」

「そもそもウチ疑問なんだけど子供を戦闘員にするものなの? リュウおじさんの話聞いた感じ小学生ぐらいの子だよね?」

 

 話の展開に困惑する奏と響の疑問はもっともである。

 雨柳が出会った少女はどうも年若いどころか幼いようだ。

 彼自身はっきりと聞いたわけではないが、可愛らしい顔立ちも相まって小学生か中学生になり立てにしか見えない女の子だった。

 

「少ないけどそういう子はいる所にはいる……現にレベルなら俺よりかなり上だったしな」

「マジで!? おじピかなり強いんじゃなかったの?」

「世の中にはお前らより年下で俺より強い奴なんていくらでもいるよ。世界は意外と広いんだ」

 

 才気あふれる子供が前線に出るケースはあれど、あの子の場合レベルが異様なまでに高すぎた。

 その理由に対して少女と同じヤタガラスに所属していた雨柳は幾つか思いつく事が出来るが、その理由について話しはしない。

 それは仕方がない事である。しかしそれでも少女の未来を想えば唾棄すべき事であるに違いないからだ。

 

「で、敵の数はともかく強さは大したことなかった悪魔を皆殺しにした。其処までは良かったんだ

 その後でその女の子話したんだけどさ、レベルの割に攻めあぐねた理由が分かったんだ。

 ……俺が来る前に民間人庇って大けがしてたんだよ」

 

 戦闘が終わった後、可憐な顔に汗を浮かべる少女を見てようやく彼は負傷に気づくことが出来た。

 フラッシュバックの中青ざめつつ傷を調べるとそれは脇腹についた裂傷だ。

 雨柳は経験から少女の傷が悪魔からの攻撃をもろに受けた、例えば誰かをかばって盾になった状況でつけられた重い傷だと気づき打ちのめされた。

 

 幸いにして少女が負った傷は致命傷からは程遠い。

 ヤタガラスも何も子供を鉄砲玉にしたいわけではないのだろう。

 少女の元からのレベルの高さに加え高機能な装備により、重傷ではあるが少女は戦闘続行可能な程度の傷しか追わなかった。

 

 だがそれでも、アンダースーツ越しに出血する脇腹を抑えながら、痛みをこらえながら全然平気と笑う少女の姿は悲壮に過ぎた。

 回復魔法ですぐに治るからといって、この世にあってはいけない光景ですらあると雨柳には感じられた。

 

「それでその子を治療しているうちに思ったんだよ。

 ……俺はこんな子まで戦っているのに何をやっているんだろうって」

 

 回復魔法で治療する時少し肌が見えるのを恥ずかしがりながらも、育ちがよくきちんとお礼を言う少女の表情は本当にあどけなく胸が痛んだ。

 

 身長なんて150cmもなくて、まだまだ世の中の闇なんて知らずに学校で友達を作って、家族や友人と幸福に暮らしていて良い年頃なのに少女は戦っていた。

 命をとられる以上の悍ましい危険も承知のうえで、自分の命が友達や家族、罪なき人々の為に役立つのならと戦っていた。

 自分が長い間うずくまっていた間にも少女は命以上の物をかけて戦っていたのだ。

 

 対して自分は10年も、もうあの子くらいの子供がいてもおかしくない年なのにうずくまっていた。

 少なくとも楯に成れる程度の強さと経験はあるのにその実何にも役に立たなかった。

 

「なのに……俺は逃げ出して馬鹿みたいに十年間もっ、何をやっていたんだろうって気持ちが止められねえ……! 

 子供殺そうとした奴が子供の影に隠れて何をやってるんだよ!?」

 

 己の無様さが許せなくて涙がこぼれる。

 今の雨柳もさび付いたとはいえ十分な力を持っているが、その精神は腐りきっていた。

 貧弱極まりない子供以下の存在に成り下がっていた己への責めはやまない。

 

「まだ世界を救おうと戦っている人たちがいるのにっ俺は……!」

 

 苦悶と共に漏れていく悔恨の言葉。

 情けなくはあるが真に迫ったそれを聞いた女性陣の反応は様々だ。

 

 奏と響は不安を堪える様に手を握り合い、悲し気に目を伏せた。

 

 あかりはどう言っていいか分からず頭をかきながら目をそらした。

 

 そして最も雨柳と付き合いが長い御影は席を外し台所の方へ行き、汲んできた水を雨柳の頭へとぶっかけた。

 

「あ? え?」

「全くどうせそんな事だろうと思っていましたけどここまで自分を卑下しているとは……そういう余計な所は変わらないですね巧さんは」

 

 頭から水を垂らし目を白黒させる巧に対して御影はやれやれという風に息を吐く。

 

「あなたという人はどうしてこう自己評価が低いのか……ねえ巧さん、あなたはここ十年間何もやってこなかったわけではないでしょう」

 

 御影はこの雨柳巧という男についてよく知っている。

 この男が十年間、フリーランスとして受けていた仕事の多くは人助けにつながる物だ。

 露骨なまでに報酬よりもそちらを、誰かの助けになることを優先していた。

 

「10年間もやっていれば貴方のおかげで助かった人なんて百人は下らないだろうに……謙遜もそこまで行くと嫌味ですよ」

「それにリュウおじさん忘れてるよねーウチらの事」

 

 奏と響はカジュアルサマナー時代、簡単だったはずの依頼の最中邪鬼グレンデルという遥かに格上の悪魔と遭遇した。

 本来のレベルよりも弱体化していたものの一流クラスでなくては対応できない暴力の嵐に対して雨柳は重傷を負いながらも、本来人目ある中では使えない奥の手まで使って殺したのだ。

 

「あの時リュウ叔父様がいなかったら私達は確実に酷い死に方をしていたでございます」

「アイツ無駄に強いうえに残虐でマジ酷かったもんね。あの悪魔からウチ等を助けたのは誇っていいんじゃないかなぁ」

「「ねー」」

 

 声を合わせて同意する二人は雨柳を情けない人間とは思わない。

 良好でない家庭環境と、これまでの人生から二人共人間光も闇もあるという事を知っているし、この三十路男が傷を抱えても人を助けようとする人間であることを知っているからだ。

 

「それにさあアタシは悪魔とか関係ないけどおじピアタシの話すっごい真剣に聞いてくれたじゃん。

 袖すり合うのも他生の縁っていうけどロクに面識なかったアタシのさ」

 

 たまたま出会っただけの少女の話を聞いて、家庭の問題や人付合いの相談に乗ってくれた。

 駄目人間を気取っていても隠し切れない真摯さが男にはあった。

 

「……俺はデビルバスターだし、一応だけど……大人だしそれは普通なんじゃねえか」

「いやいや意外と難しいものだと思いますよ。

 ……だから、私達はこう思うんですよ。あなたはクズなんかじゃない、結局誰かを助けずにはいられない人間なんだって」

 

 そう本人の定義とは別に御影たちはそう雨柳巧という男を定義づけている。

 未成年に手を出す堕落駄目人間。それも一面かもしれないが彼女達は男の本質を善と思っている。

 少なくとも、この男が苦しみから解き放たれ幸せになって欲しいと思う程度には好きだった。

 

「だから巧さん、変に悩んでいるならもうキリギリスに加わっちゃいなさいな。佐々木さんから連絡来ているんでしょう」

「……俺の端末見てたのか?」

「ええ。悪いとは思ったんですけど凄い顔していましたからコッソリと」

 

 ごめんなさいねと頭を下げる御影。

 己の好きな物の為に世界滅亡を阻止しようと往生際悪く闘い続けている組織キリギリス。

 その存在を知ってはいたがどうしても踏ん切りがつかず参加を決められなかった。

 自分にはその資格がないのだと決めつけていた。

 

「マジかー……嘘すら付けないのかよ俺は。なんかすげえ恥ずかしいんだけど」

「おじピはさぁあれで隠せているって思う方がおかしいよ? なんてゆーか目からハイライト消えている感じだったし」

「そんなにかー……」

 

 己の浅はかさに呆然とする雨柳。

 余りのショックにかいまだに水滴が垂れる頭で考えだす。

 ごく自然にキリギリスに参加することに対して男は検討していた。

 

 4人とも治安悪化もありこの異界から出すことができないが、一応覚醒者であることもあり異界維持の為のマグネタイト供給には充分だ。

 万が一自分が死んでも生きていく事が出来る。

 それに世界がどうなるか分からないにせよ今後の為にはもう少しコネクションが欲しいし、異界に攻めてきそうな輩は潰しておきたい。

 自分がキリギリスに参加するメリットは十分にあった。

 

(俺一人なら今からでもいけないこと、ねえか)

 

 そしてそれ以上に────―単に得とかそれ以上に、こんな自分を支えてくれた彼女達の為やってみようとごく自然に思う事が出来た。

 それはこの十年間なかったくらいの素直な気持ちの発露だ。

 

「……俺さ、御影たちはそういうけどやっぱ駄目人間だよ。未成年とエロいことしてるしその他諸々の素行も褒められたもんじゃねえし」

「知ってます知ってます」

「正直ヤタガラスやめたのもさぁ! 俺の元上司が怖かったのもあんだよね! 

 アイツさぁ! ナニがあったらぜっっってえ俺のケツ狙ってたと思うよ! 怖えよ!?」

「世の中には恐ろしい御仁がいるでございますね……」「ね……」

「後さっき話したヤタガラスの子さ、多分前クズノハの里行った時良くしてくれたお姉さんの娘さんだと思うんだよ! 髪色とか笑い方とかそっくりだったしその辺もあるかもしんねえ!」

「おじピはさあ……意外とニチャッとしたところあんだね……」

 

 雨柳巧という男はどう考えても人格者なんて柄ではない。

 されど、刃は錆びついても折れてはいない。

 それ故に、まだ誰かの為に戦うことができる。

 

「でもさ、俺は少なくとも四人は信じてくれる人がいるんだよな。

 だからさ、俺はこんなふうにろくでもない人間だけど……もう少し頑張ってみるよ」

 

 そう宣言して雨柳巧はキリギリスという愚か者たちの列に加わった。

 その選択に後悔はない。

 遅かろうと駄目人間だろうと何だって良い、自分を信じてくれた人たちの為に、自分の助けが必要な人たちの為に戦うだけだった。

 

 

 


 

 

 

 異形の剣が確かに身を削いぎ、血を閃かせていく。

 堕天使の魔法が骨肉を軋ませていく。

 雨柳が如何に高レベルの霊格を有していると言えどこのレベルの相手はいかんともしがたい。

 

「死ね! 早く死ねえ!」

「しつこい男は嫌われるわよぉ? ブフーラ!」

 

 シャムシエールの両腕より放たれる氷結魔法。

 冷気の波濤が雨柳を飲み込んでいく。

 残存する炎の壁が減衰させるも度重なる攻撃に対して冷気の多くが擦り抜け男の身を削いでいく。

 

「グぎ……っ! ヘタレ野郎どもがこの程度で俺を殺せるかっ!」

「いい度胸してんなテメエェ!」

 

 冷気を飛び越えた雨柳が上段から刀を振り下ろす。

 まさか即座に反撃してくるとは思わなかったのか、意表を突いた一撃は乾の左腕の剣を地面と挟み込むようにして折る。

 が、それと同時に雨柳の刀も度重なる衝撃に耐久限界を迎え、パキンと小気味よくすらある音を立てて折れた。

 

(長引かせ過ぎたかクソッ!? こういうところでブランクが出るんだよなぁっ)

「ハッハアアァ! これでテメエはただ根暗野郎だあ!」

 

 意気揚々と振るわれる乾の右剣の側面を蹴ってなんとか距離をとる。

 ゴロゴロと無様に転がるが一先ず真っ二つにされることは避けた。

 

「サマナー! ア、アオンッ!」

「ザンマ。ちょっと邪魔しないでよ駄犬ちゃぁん」

 

 前進したシャムシエールの衝撃魔法がオルトロスをノックバックさせる。

 オルトロスと分断されこれで援護なく雨柳は徒手空拳で異形と悪魔に立ち向かわなくてはいけない。

 血や埃にまみれた雨柳はそれでも折れた刀を構えるが、それは無駄な抵抗と乾やシャムシエールの嘲笑を誘うのみだ。

 

 人間は弱い。如何に異能や戦闘技術があろうがそれは悪魔が当然のように持っているものであり、決定的な生物としての性能差が悪魔との間にはある。

 その差を埋める武装は潰え、仲魔も後方へ吹き飛ばされた状態。

 如何にベテランの戦闘者とはいえど彼らの勝利は決まったようなものだった。

 

「死ねやあああああああああっ!!」

 

 しかし、人類の無意識領域に眠るイマージュの一つ、強盗騎士として悪名高いルノー・ド・シャティヨンの精神を注入され、歴戦の力と記憶を得た乾の脳裏には確かな疑問。

 ここまでの熟達の剣士が獲物の喪失という剣士が遭遇しうるものとしてはありがちな危機的事態への対応策を有していないのだろうか? 

 そんな脳裏に閃く疑問はされど一瞬で消えゆく。

 

 戦士としての感性はそれ以上の嗜虐心と強欲に塗りつぶされ、本質が戦士ではないシャムシエールも疑問には思わなかった。

 異形と悪魔は居合の様な姿勢に入った雨柳の持つ折れた刀の鍔。そこから射出された小柄の存在を認識した瞬間。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ウオオオ、デンゲキガショモウカサマナー!」

「なん、だと?」

「ああっえっ?」

 

 管から瞬間的に召喚されるのは土霊ツチグモ。

 古い悪魔分類においては雷電属と認定された通り電撃を得意とする悪魔は、刀身へと電撃を付与。

 折れた刀を雷の刃を持つ超自然の刀へと生まれ変わらせた。

 

 異形と悪魔は驚愕の中走馬灯を走らせ事態を打開しようとするももう遅い。

 瞬間的に極度集中した雨柳の斬撃が放たれた。

 

 

 ザン

 

 

 雷光の刃がその名にふさわしい速さで振られ、異形の心臓と悪魔の脳を同時に切り裂く。

 何を言い残す事もなく即死する異形と悪魔。

 一泊遅れて肉が灼ける音と湿った物が床にぶつかる音が同時に響く中、雨柳は残心した。

 

「──────―雷電忠義斬」

 

 これこそが雨柳巧という男の奥の手である業。

 管による悪魔の召喚・制御はライドウの様な例外を除いて一体のみという常識。

 それを利用し2体目を一瞬のみ召喚することによる刀身へのエンチャントを施した一撃という奇襲攻撃は彼自身を除けば数人しか知らない絶技。

 無論2体目の召喚は僅か数秒しか持たないし身体への負担も大きいが、その奇襲性は絶大だった。

 

「グルル……サマナーヨダイジョウブカ」

「あだっ無事じゃねえかも……痛ってえ手がちょいと焦げた」

「ナラカイフクノトクギガツカエルヤツ二、コウタイスルトイイ」

「そーすんよ。さて後は……おっ遅かったな」

 

 顔をしかめつつ回復魔法が得意な悪魔を呼び出そうとする雨柳は足音に気づく。

 念の為身構えるが足音の主は白いコートを着た男だ。

 傍らには銃を握った美女、それに少女の姿をした悪魔2体を従えている。

 ここに踏み込む前に連絡しておいたキリギリスの援軍が到着したのだ。

 

 端正な顔立ちながら歩き方からも高い実力をうかがわせる青年はキリギリスのリーダーである。

 雨柳巧以外にも多数の人間を巻き込んで世界滅亡阻止の為に活動している。

 そんな奇特な青年は油断を絶やさない足取りながらも朗らかに雨柳に応える彼に対して雨柳はひょうひょうと振舞う。

 

「よう、ダークサマナー気取りの偽悪者よ。

 パパ活とファントムのアホ共は俺が倒しといたぜ。残念ながらお前たちの仕事は後処理、異界の奥の主のみだ」

 

 偽悪者はどっちだってのと苦笑する青年は一つ雨柳に告げる。

 今日彼が助けた少女達は皆無事に保護されたと。

 

「ん、そっか。それは────良かったな」

 

 その言葉を聞いて素直に雨柳は笑い、後はまかせたぜとあくまでもニヒルを気取り帰っていく。

 この状態では禄に戦えないし素直に後続に任せることにしたのだ。

 悪いが後任せたという雨柳の言葉に剣を軽く振って答える佐々木。青年と雨柳、子供を守る事を第一とする男達の間には共感があった。

 

(けっこうやばい傷負っちまった。これ帰るまでに着替えた方が……あっそれでもなんかあったってわかっちまうか。

 あー心配かけたくねえんだけどなぁ)

 

 異界の外へ出た雨柳の顔はこの語の算段を考えつつも晴れやかである。

 錆びつきながらもまだ折れていない男はこれからも戦い続けるのだろう。

 

 己の罪を償う為、大切な人たちの未来の為に彼が刀を振る機会は幾らでもある。

 それは時に苦痛を伴う事もあるだろう、けれど己の背中を押した者達の事を考えるとそう悪くはないと雨柳巧は素直に思えた。

 

 




◎主人公紹介
・雨柳巧 <デビルサマナー><剣士> LV45
シリーズポジション:ニッカリ及び悪魔討伐隊(真・女神転生Ⅳ Final)

長いヘタレ期間から大切な人たちの支えで脱出したキリギリス構成員。
今回披露した奥の手は悪魔を召喚するというよりもソウルハッカーズのナオミの召喚攻撃魔法に近い技術。
リスクも大きいが絶大な威力の一撃での奇襲はこれまで幾多の強敵を葬ってきた。
現在もキリギリス構成員として日夜ファントムや闇パパ活相手に剣を振るっている。

◎キリギリス構成員紹介
・佐々木/レッドアイ・ホーク LV 66
貪欲に強さを求めることで知られる漫画好きのダークサマナー。
キリギリスの発起者であり、雑多なメンバーと共に世界滅亡阻止の為の戦いを続けている。
なお凄惨な過去から子供を傷つける者を決して許さない精神性を持つので作中作外の様々な人からダークサマナー?と疑われている模様。

・ヤタガラスの少女 LV35
雨柳が出会ったクズノハ出身のヤタガラスの少女。かわいい。
現在は紆余曲折あってキリギリスに出向中。カワイイ。
キリギリスリーダーの佐々木に恋心を抱いている。可愛い。
男勝りなようで乙女な所が超かわいい。
家族思いで友達想い、勇気溢れるパーフェクトヒロイン。途轍もなくカワイイ。
子供だけど頑張っている。言語化しきれない程可愛い。


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