真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
仙台の冬は、雪こそそうは積もらないが、北の地故に寒い。
不穏なニュースが多い中でも、人々に溢れた街並み。
行きかう人達の服装は防寒に適した物だ。
仙台の街の中心部から、外れた場所に<
中学から大学までのエスカレーター制の制度をしており、生徒は東日本各地、さらには留学生まで集めた多彩な顔触れ。
自由と秩序のバランスを重視した校則に、豊富なカリキュラムを誇り設備も充実。
帝都東京の<聖華学園>を規範にした校風は、東北圏でも人気を集めている。
そんな東鳳学園には、一般には公表されていない裏がある。
が、何もそれは麻薬が流行っているとか、そういう醜聞ではない。
聖華学園と同様に、若い異能者の保護と育成を行なっているというだけだ。
生徒たちの中でも戦う意思を持つ者達のチームが<退魔生徒会>である。
彼等の修練場は学園から歩いて五分、かつて陸軍の練兵場にして防空壕だった異界。
其処に湧き出す多種多様な悪魔と戦いを続けているのだ。
「MPそろそろヤバいかも……交代お願いー」
「やっぱどんな時もバフデバフだな。後状態異常」
「うわスペルカードダブった……」
「確か第一の子が欲しがってたし、交換すれば?」
傾向の似た者同士で集まっているとはいえ、彼らは流儀も出自も多種多様。
それでも共に切磋琢磨し己の力をのばしている。
この混迷の世の中を、生き抜いていくために。
「火炎弱点の悪魔が出たぞー!
焼き払ってMagの足しにしてやれ!」
「げ、魔法効かない奴が出て来た!?
なんでこう耐性が極端なのよ……」
とは言っても、当然ながら生徒は心身未熟な子供ばかり。
危険な悪魔の戦いは、手慣れた大人が同伴している訳である。
悪魔業界のベテランである教職員や、雇用された信頼できるデビルバスターとか。
「よし、物理弱点ならわたしが行こうか」
今回同行しているデビルバスターの姿は目を引くものだ。
黒と灰色のフレームに、淡い青に光るカメラアイ。
悪魔業界には珍しい機械然とした姿はデモニカスーツのそれである。
「すっげ、悪魔が一撃で吹っ飛んだ。
デモニカもそうだけど体幹の強さと、思い切りの良さが半端ね~」
「流石生徒会の大先輩だわ……」
声からすると女性と思われる、デモニカ装着者の動きは疾く鋭い。
無駄がなく洗練された動きは学生からすると感嘆に値する物だ。
「睡眠が入ったよ。なら打合せ通りやって見て」
「は、はいっ!」
銃撃により
呪を受けて凶悪そうな悪魔が一瞬で即死する。
「や、やった……!」
「油断しないで。こういう時こそ残身をしっかりとね」
彼女は学生を守りつつ悪魔を駆逐していく。
悪魔の間引きと同時に、デビルバスターの立ち回りを教えながら。
銃を使わない学生に、銃を使う者がどう動くのかを見せて。
そんな
「葉弥坂せんぱーい」
表向きは管理施設である異界のベースキャンプ。
戦いを終えた生徒たちが思い思いに休む中、可愛らしい声が名前を呼ぶ。
頑丈そうなヘルメットを小脇に掲げた女性は、髪を揺らし振り返った。
汗をぬぐった女性の顔立ちは、同性の目から見ても麗しい。
ドレスの様な女性的な服装とスーツの様な男性的な服装のいずれもよく似合う、と感じられるシャープで品のある顔立ち。
蒼の瞳は、確かな悪戯気があり親しみやすさを感じさせる。
それでいて藤色の光沢がある白に近い髪色は、何処か静謐な雰囲気を感じさせるものだ。
東鳳学園OBにして元退魔生徒会のエース。
現在は南条系の企業と契約しデモニカスーツのテスターをしている、腕利きのデビルバスター。
それが彼女、
「飲み物お持ちしました。これをどうぞ」
「ん、ありがとうね」
少女の差し出した飲み物を汐音は快く受け取る。
微かに浮かんだ汗を拭き、飲み物を飲む。
「おお、この味はわたし達の時と変わらない特性ブレンドだ。
懐かしいなあ」
「先輩の世代というと……大体5,6年前ですか。
その頃から変わらないんですね」
「わたし達の代はちょっと蜂蜜多めにしたくらいだからねー」
二人は和やかに談笑する。
同じ退魔生徒会出身の者どうし、共通の話題があると話が進む。
「今日の感じだと新しいスキルはもう慣れたかな?」
「はいっ。自分でも驚くくらい馴染んできました」
生徒会に所属して日は浅いが、少女は早くも頭角を現しつつある。
GPが高まる世相もあるが、本人も控えめな雰囲気とは裏腹に熱心に研鑽を積んでいるようだ。
「生徒会はどうかな? 何か困ったことある?」
「LVも大分上がったし生徒会に入って良かったです。
友達が出来て……彼とも出会えたし」
「あらあら」
頬を赤らめる少女の顔を見て汐音はふっと微笑む。
(色々あったのだろうけど……この調子なら心配はなさそうかな。
彼氏さんとも仲良くやっているようだし)
長い髪の間から見える少女の耳は、エルフのようにとがっている。
それはすなわち、
(それでも、幸福に生きていける。
それは良い事だよね)
穏やかな目で少女を眺めながら、汐音は思う。
数か月前再開した初恋の人のことを。
(ね、雨柳さん?)
────わたしの過去を話してみないかって?
いいよ。自分でも一度整理したかった事もあるし。
とは言っても自分でも知らないことも多いんだけどね。
例えば、わたしに流れる悪魔の血の由来とか。
ほら、わたしの瞳をよ~くみるとちょっと虹彩に違和感があるでしょ。
それ以外人間と外見変わらないんだけど、たまにわたしにちょっと悪魔っぽい雰囲気を感じる人もいるみたいだね。
おじいちゃん、わたしの育ての親が調べた範囲だと、どうも親は邪悪な存在じゃない。
多分種族で言うなら、<魔神>とか<鬼神>辺りっぽいんだけどどうなんだろう?
海外の魔術結社ならそういう事もあるらしいけどわからない。
わたし体は頑丈だけど、魔法は苦手で使えるのも少ないし。
……ああ話がそれたね。
悪魔の血が影響しているのか分からないけど、わたしには親が居なかった。
それで物心ついた時には孤児で、そこかららある結社に引き取られたの。
名前は確か……<新月の罪報>だったかな?
聞き覚えがないのは当然だね。9年前には滅んだ組織だから。
ちょっと説明しておくと<新月の罪報>は例にもれず碌でもない組織だったんだ。
女神ディアナに歪んだ信仰を抱き、女性優位主義を謡い腐敗した現代社会の転覆を狙う組織。
そんな歪み狂った組織にも拘らず、色々な所から人が集まっていたからか、資金力も戦力もそれなりに揃っていた。
祭神である女神ディアナ、当然歪んだ解釈の個体だったんだけどLVは40を超えていたしね。
狂った組織だからわたしの扱いも碌な物じゃなかった。
教えられたのは悪魔や人の殺し方と、憎しみ。
午前は武器の扱い方を習い、午後からは男を憎め社会を憎めと授業というか洗脳を受ける、そんな毎日だった。
人生を楽しむなんてことはもってのほか、そんなそぶりを見せたら、鞭が飛んでくる。
今でも幾つか傷が残ってるけど……まあ、見ても気持ちいい物じゃないよね。
後は多分洗脳みたいなこともされてた。
今から考えると、セべク系あたりの技術かな?
なんかの装置に繋がれて頭を弄られていたみたい。
多分認知を弄って殺し合いに適応できるようにしたかったようだけど。
元からわたしも他の子も壊れかけたゾンビみたいなものだったからね。
言われた事を機械みたいにこなしていたな。
そんな環境で育って時には悪魔や敵組織との殺しあいをして。
殺伐とした日々を送ってた。
今でもあまり思い出したくはないかな。
でもそんな日々はわたしが完全に壊れる前に終わったんだ。
おじいちゃんと雨柳さんが組織に殴り込みをかけたから。
その日は今日と同じように寒い日だったっけ。
手がひび割れて痛いな、なんて思ってたら壁が吹き飛んで。
そこから入ってきたのは雨柳さんだった。
当時のわたしは銃を撃って抵抗した。
色々あったって聞いているけど当時の雨柳さんも強かったから。
耐性のある悪魔を盾に接近して、手加減した一撃。
そこから状態異常、それで瞬く間に無力化されちゃった。
で、わたしが驚いたのは此処からだった。
殺しに来た女神ディアナの攻撃は当然私の事なんておかまいなし。
なのに雨柳さんはわたしを見捨てるどころか、盾にすらなって戦っていた。
相手を倒すころには片腕なんて穴だらけになっていたのに。
だから保護された後に聞いてみたんだよね。どうしてって?
そしたら辛そうな顔で「死なせたくなかったから」って言ってた。
それから何日か結構話をしたけど、優しくされて嬉しかったな。
ただその事は最近まで覚えていなかったんだよね。
他の子もそうだけど変な洗脳の影響か、体はともかく精神の疲弊が酷くて。
組織に来てからの記憶をある程度消すことになったんだ。
……だから最近までなんか忘れているような気がしてたんだ。
その後わたしはおじいちゃん引き取られた。
そこからは幸せだったな。東鳳学園に入学して友達も出来て。
生徒会に入ってからは、危ない事もあったけどわたしを尊敬してくれる後輩も出来た。
うん、少なくともいまのわたしは幸せだった。
そうして今も私はデビルバスターをしている。
昨今ますます厳しくなってる悪魔業界だけど、どうにかやっていけてるよ。
え? 気になった事がある?
ああ雨柳さんのことどうして思い出したのって?
ちょっとメシア過激派との闘いで、全滅させたんだけど死ぬ羽目になって。
それで入院した時にこっそり様子を見に来た雨柳さんと会って……思い出したんだ。
ん、確かに思い出したくない記憶もあった。
それでもわたしはあの人のことを思い出せてよかったな。
組織に居た頃、ぼんやりと思ってたしたいこと、美味しいもの食べたり友達と気兼ねなく遊んだりとかは叶えたけど。
まだ叶えられていないこともあったからね。
・
・
・
暮れの早い冬の空が夜に移り変わる時刻。
頑丈そうなトレーラーが、首都高の料金所の門を通り抜ける。
以前のテロによるものか、建て直された料金所は綺麗な物だ。
「汐音何見てんの?」
「戦闘妖精雪風のアニメ版。
配信サイトに来てた奴ダウンロードしたの」
トレーラーの内部は保管所か整備場といった様相。
壁面にはデモニカスーツが吊るされ伸びたコードが端末に繋がっている。
以前特撮が好きな同僚が「すげえ! G-3のトレーラーみたいだ!」と喜んでいたが、確かに似ているなあと汐音は思っている。
「薫も終わったら見るー?」
「夜に時間があったらね。後ちょっとで着くし」
珈琲を飲む白衣の女性は
汐音の学生時代からの友人であり、退魔生徒会の元メンバー。
ついでに言うならかの有名な<南条>の分家の子息であり、デモニカ関連の技術者である。
眼鏡を外した薫は、「んあー」と呻くと目頭を揉む。
デモニカの調整は終わっているようだが、いろいろ気をもんでいるようだ。
「やっぱり例の新システムって手がかかるんだねえ」
「そうね。PアシストやAIと違ってまだよく分からない部分もあるもの。
あれこれ気を遣うわ」
そう言って薫と汐音は壁際のデモニカスーツを見る。
汐音が薫の実家である二条を通じて契約し、テスターとして運用しているデモニカは南条が海外企業と提携して改良した試作モデル。
かつてシュバルツバース調査隊が使用した本式よりは流石に性能が劣るが、それでもなお高性能を誇る逸品。
「悪魔関連関わって長いけどほんっとデモニカって高度な代物だわ。
これ作った人アルケミースターズかなんかじゃないかしら」
「使って一年経つけどそう思うよ。
未来から送られてきたような高性能だよね」
友人の言葉を汐音は肯定する。
異界討伐やメシア過激化派等の敵からの防衛戦に、学生の教導や警備。
アレコレやっているうちにスーツのLVも上がり、本式の機能も限定的に追加された。
頼もしい代物であるが、それでもその性能の高さには畏怖すら感じる。
「実戦でのテストは済んでるけど、気を付けなさいよ」
「分かってるよ薫。
ただ今の時代幾ら高性能になっても過剰じゃないからね」
「LV30どころか50が足切りラインって世の中狂ってるわね……。
LV30近くで神童って持て囃された頃が懐かしいわ」
あの頃は良かったなと二人して遠い目に。
前線に出てない薫はともかく、汐音のLVは50を超えている。
こんな超人級の領域に至るとは思いもしなかった。
「で、話は変わるけどさ汐音あんた雨柳さんだっけ?
彼氏さんとはどうなのよ?」
「ええーあっちも忙しいからまだ4回しかあってないよ。
しっかし彼氏、彼氏かぁ~」
ともすれば凛々しい印象を抱かれそうな汐音の顔が緩む。
その様子は彼女の後輩たちが見れば驚く事だろう。
(コイツが恋愛ねえ……話だと葉弥坂のおじいさんの元弟子。
長いこと記憶がなかったけどカルトから助けてくれた人、か)
汐音の育ての親である葉弥坂老人は、人望厚い人でヤタガラスとも縁が深く若いDBの面倒をよく見ていたらしい。
その一人で彼女の恩人と数か月前に再会したとか。
まあ、顔が良くて色々デカい割にどうも浮いた話がなかった友人に良縁が出来たのは喜ばしい。
(多少年上らしいけど、まあそのぐらいはね。
この業界年の差ある恋人や夫婦なんて珍しくないし)
そう考える薫の指には婚約指輪が嵌っている。
彼女が婚約した相手は、以前から悪い仲ではなかった名家の男。
急に婚約が進展したのは、なんでも他の婚約者候補の娘に良縁が出来たとか。
かなりの名家の娘らしいが、それはそれは凄い男を捕まえたらしい。*3
「ほら、後三十分で施設に着くからしゃきっとしなさい。
学生たちにだらけた顔見せられないから」
「ん、そうだわ」
今日の彼らの仕事は、学生たちを仙台まで無事送り届ける事。
何せ京都の粛清や穏健派メシアの壊滅等、年明けから大事件が幾つも起こっている。
各機関の話し合いの結果、その一部は聖華学園ではなく東鳳学園で保護される事に決まった。
だから彼らを無事に送り届ける為に汐音たちが派遣されたのである。
「きちんとした護衛がついてることを見せて、安心させ……」
汐音の言葉を遮るのは、緊急の着信。
同乗している係員が何事か伝えるよりも早く、彼女はデモニカへ向かいあう。
「……緊急だからって慌てるんじゃないわよ。
きっちり帰って来なさいね」
「了解。今日も着実にやって来るよ」
それ以上の言葉は必要ない。
事態を聞きながらも、デモニカの装着を開始する。
今日もまた、戦う時が来た。それだけだ。
都内の某所にある公園。
鬱蒼と木が生い茂り、普段から人気が少ない場所。
お世辞にも綺麗で落ち着くと言えない此処では、戦闘が起きていた。
所々に残る破壊の痕跡に、悪相の男の死体が幾つか。
巻き込まれた人間がいないのは、幸いと言えよう。
「くたばれ!」
「ぐがっ!?」
ジャケット姿の<式神使い>の青年が持つハンドガン。
本来日本人の体格では扱いにくい大口径より放たれた銃弾が、マンハンターの一員であるチンピラの頭部に当たる。
だが、怯みはしても脳漿をぶちまける事はない。
チンピラの付けたプレートバンダナ*4により死を免れたのだ。
「ク、クソ野郎……! さっさとガキを、ガぴゅっ!」
踏みとどまったチンピラの顔面が吹き飛んだ。
青年の使役する式神、調伏したツチグモが鋭い爪で引き裂いたのだ。
「ツチグモ足止め頼む! おい、走るぞ!」
「は、はいぃ……」
ツチグモが
まだ十代のあどけない顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
それを見ると、怒りの感情が沸いてくる。
(カス共が……こんな子供を騙しやがって)
当然ながら怒りの対象は、マンハンター共であるが。
彼等がこのような危険な状態に陥っているきっかけは、少女が保護施設を抜けだしたから。
それは迂闊な行いで責められるべきではあるが、同情の余地もある。
何せ、家の異能を継がなかった少女を出来損ないと蔑んできた両親が、少女を案じるメールを送ってきたのだ。
これまでの行いを反省し、一言謝らせてくれないかという身勝手な内容に、それでも愛情に飢えていた少女は答えてしまった。
それで、他の学生同士が喧嘩していた隙に抜け出したのだ。
最もそのメールは、逃亡資金と引き換えに売られた少女の情報を元に、マンハンター共が送ったのだが。
少女の不在を知り、施設の警備員として雇われていた式神使いが少女を保護しなければ、今頃最悪の事態になっていただろう。
「ぐぁ! 死んど、けぇ!」
行く道をふさごうとしたチンピラに肩を撃たれながらも、雷霆蹴りで蹴り殺す。
青年はなんとか時間を稼ぎ、少女を護ろうとしていた。
「血が……! ごめんなさいごめんなさい!
私がっ私が騙されたから……!」
「謝るのは助かってからにしろ! それよりも走れ!」
少女をかばい叱咤しながら、公園の林を突っ切り振り切ろうする。
人の声は徐々に遠ざかっている。
前方に待ち伏せの気配を探り、ない事を確認して────悪寒を感じた。
「伏せろォ!」
咄嗟に温存していた2体目のツチグモを出し、少女を引き倒す。
直後ゴォ、と吹き荒れる
木々をなぎ倒し、ツチグモを一顧だにせず粉砕する。
大威力の衝撃魔法は文字通り嵐の如き。
ツチグモの巨体が盾になったのは幸いであろう。
「おい、大丈夫か!?」
「私は大丈夫です。でも、血が」
「多少背中を切っただけ。DBやってりゃ日常だ」
銃のリロードをしながら青年は膝立する。
奥歯がギリ、と鳴った。
何故なら今の一撃を放ったのは。
「おや、おやまぁ。随分と勇敢な事ですね。
見ず知らずの少女をかばうとは」
明らかな、格上であったから。
「ですが残念です。
今の一撃で死ねていれば楽になれたというに」
「いい男だから暫く飼ってもいいしねえアハッ」
嘲笑と共に進み出るは、スーツを着た慇懃無礼な男。
ただしその頭部は目のない異形と化し、右腕から刀を生やしている。
また男の周囲には数体の悪魔。
その中でも三日月をあしらった異形の鬼女には、特に強い力を感じる。
槍の男にも、鬼女にも、式神使いの青年では万全の状態でもかなわない。
(……何かの悪魔人間に、鬼女ジャヒーか。クソみてえなLVだなおい)
\カカカッ/
| イマージュスラッシャー | 人斬り新兵衛 | LV59 | 物理・神経に強い 衝撃・破魔・呪殺無効 |
\カカカッ/
| 鬼女 | ジャヒー | LV66 | 物理にやや弱い 魔法にかなり強い |
幕末の人斬りのイマージュを注入され、力を手にした異形の男。
ゾロアスター教の悪の神アンラ・マンユの愛人にして母。
強大な存在に総毛だつが、屈するわけにはいかない。
「……一応聞いておくぜクソ野郎。
何だってこの娘一人に、ここまでする?」
後ろ手に手ぶりで「逃げろ」と指示しつつ、青年は銃を構える。
「強いて言うなら脳味噌が欲しい、からですかね。
ほら、高校生ぐらいの異能者って高値で売れそうでしょう」
表面上は朗らかに、男は邪悪に呟く。
「ただ聖華学園はガードが固く簡単に攫えはしない。
だから前準備に使えそうな情報が欲しいんですよ。
生徒じゃなくても関わったのは事実。
その愚鈍な頭でも根こそぎすれば、ねえ」
そうすれば、より価値のある子供に届くからと男は嘯く。
反吐が出る邪悪の論理が、投資や契約プランのように語られていた。
「でなくてはそんな愚かなガキ等」
「しゃべり過ぎなんだよ死ね!」
怒りを込めた叫びと共にフラッシュグレネードを投擲。
銃撃を全弾叩き込みつつ、何としても少女を逃がそうとする。
「俺のことは構うな! 全力で一歩でも、遠くまで逃げろ!」
引いたジャヒーに変わって銃撃に強い悪魔が盾になる。
表面に火花が散り、僅かに揺れるだけだ。
それでも青年はリロードし撃ち続ける。
(……クッソ死んだかなこりゃ。
我ながららしくもねえことをしたせいか?
まぁこんなクソ野郎に成り下がるよか断然ましだが)
青年は自分は子供を護るなんてガラじゃないと思う。
事実産まれた地方の家で異端の術式を咎められ出奔して以来、適当に生きてきた。
酒を飲み、女を買って稼いだ金を浪費する、何処にでもいる荒くれ者だった。
だが、ある時やらかしたダークサマナーを殺して、少女を保護した事があった。
大人しそうな少女は、苦しい、怖いと泣いていた。
細い体を汚されて嗚咽する少女を見ると胸が痛んだ。
だからかこんな世の中で、子供を護る事を選んでしまった。
そのせいで今死のうとしているが。
(胸糞悪い光景は、勘弁だからなあ……!)
後悔はあれど、なお時間稼ぎを続ける。
その僅かな時間が救いになると信じて。
例え過ちがあろうとも、子供を護る為大人は必死だった。
「ははっ無駄な事を」
だが実力と数の差は如何ともしがたい。
銃撃をかいくぐり、接近する悪魔達。
爪が、刃が青年の腹を
「────時間を稼いでくれてありがとう」
裂く直前にインターセプト!
突撃してきた悪魔達はピンホールのように、弾き飛ばされる!
「おかげでどうにか間に合ったよ。
敵の数も少なかったし」
着地するのは黒と灰色のデモニカを纏った汐音。
軋みを感じさせない、かすかな駆動音を響かせるフレーム。
蒼いカメラアイの燐光が、夜の公園において、場違いな程に綺麗だった。
「マジで助かった……‥応援感謝する
しっかし声だけで美人ってわかるぜ……もう惚れそう」
「あ、それは駄目だよ。わたし彼氏いるから」
「
遠目に駆け出した少女が、後続に保護されるのが見えた。
ふぅ、吐息を吐いた青年は痛みを抑えて立ち上がる。
「……ジャヒーは少なくとも銃撃に強くねえ。
俺が言えるのはそれだけだ。
残業は嫌いだからさ、ここで上がらせてもらう」
「貴重な情報をありがとう」
前に出る汐音は同時にスーツ内蔵の召喚プログラムをドライブ。
召喚の魔法陣は、彼女の左に展開される。
続く男の邪魔にならないように。
「同輩として引継ぎをさせてもらうわ。
ここから先は私が、いえ私達に────」
高らかに歌い上げる言葉と同時に、戦域へ近づく影。
魔獣と神造魔人を従えた男は、汐音の味方。
彼女にとって誰よりも頼もしく、信じられる人の一人、それはすなわち
「任せておいて! 雨柳さんっ!」
「ああ! 速攻でコイツを倒すぞ!」
かつて彼女を護った男、雨柳巧である。
| 悪魔召喚師 | 雨柳巧 | LV68 | 神経・魔力に強い 破魔・呪殺無効 |
| 葉弥坂汐音 | LV62 | ※LVはデモニカスーツ準拠 |
雨柳は神造魔人シロガネと魔獣オルトロスを、汐音は妖精ヴィヴィアンを従え相並ぶ。
護られた少女と護った男。
その二人が今、共に肩を並べて戦場に立っていた。
「私のビジネスを邪魔するなら、凄惨な死を与えましょう!」
対する男は高らかに悪魔に号令を下す。
LV、数においてもほぼ同等。ならば己が勝つという確かな確信があった。
「セオリー通りだやりなさい!」
男の指示と共に、
防御を固め、相手の足並みを乱す布陣。それは単純にして強力である。
「死骸を晒すがいい!」
「セクシーダンス! 続いてマハザンダイン!
不細工な肉片になって欲しいねぇっ!」
人斬り新兵衛のイマージュを乱れた纏う男が振るうデスバウンド。
ジャヒーの放つ
朝の如く乱れた敵を引き裂く攻撃は、強烈ではあるが。
「ダメージはこっちで防ぐから、絡め手は頼む」
「了解! 弱ってる暇なんてないからね!」
| ブレイブハート | コマンダースキル | 3ターン味方全体を 汐音のデモニカの機能の一つであり、任意発動可能。 |
シロガネの
敵悪魔による弱体化の多重掛けを特殊なバリアで徹底的に防御した。
(これがあのコマンダースキルか。
あのシュバルツバース調査隊のデモニカが装備していた特殊機構……!
話には聞いていたが、この目で汐音が使う所を見るとはな)
汐音の装着するデモニカの特筆すべき点は、コマンダースキルの採用。
廉価型のデモニカでは使用不可能なこのスキルのうち、幾つかを試験的に搭載。
コスト技術両面の問題から使い所は限られているが、戦局を一変させる強力な効果を駆使することが可能になっていた。
現代科学の粋を集めたデモニカの性能の一端。
それ故に、彼らは十全の状態で攻撃を迎え撃った。
「うわっ! コイツ凄いパワーだな結構血が出た」
「正面には立つなよ頭割られるぞ!」
「グルルル……! 減衰しても格上ハキッツイナ」
結界により減衰させられた攻撃は、前に出た男と仲魔達を血しぶかせる。
が、致命傷には至らず傷の多くは、妖精の
「アオオーンッ! コレデ顔デモ洗イナ!」
「ちっ小癪な真似を畜生が……!」
怒りを込めたオルトロスの叫びはミラージュブレスとなり、敵を惑わせ苛つかせる。
そして回復した雨柳はそのまま魔力の籠ったビー玉の様なものを砕いた。
(あれは噂に聞くタル・カジャ珠*7か?
おそらく次の手番で彼らは攻撃に移る。
その前準備という事ですか)
男の思案する中、珠に込められた魔力が拡散し、力を高める。
対応する為に幻影状態に陥った男も治療の為アイテムを取り出す。
戦闘開始から
その瞬間刹那の間雨柳と男の眼が合い。
雨柳がふっと、男の視界から消えた。
「────は?」
「があああっ!? この、あたしぉォっ!?」
次の瞬間に聞こえるのはジャヒーの悲鳴。
攻撃を受けたと理解するが、時すでに遅し。
汐音のデモニカが自動で発動したスキル。
それが彼らに
| 速攻戦型 | コマンダースキル | 発動ターン、味方全体が敵より先に行動できる。 行動を消費しない自動発動式のスキル。 |
ただでさえ、幻影状態*8に陥いり動きが鈍い男を潜り抜け、彼らは接近。
雨柳の十文字斬りが、オルトロスの虚空爪激がジャヒーを切り刻み、宙へ打ち上げた。
そこへ狙いすましたように汐音が引き金を引く。
構えるランクスターガン*9に装填された対悪魔用AP弾は無慈悲極まりない。
「ごへっ! ぎぃっ!?」
ジャヒーの異形の胴体をぶち抜き、内部をも破壊。
着実な効果を確認しながら、汐音はコッキング。
(実はわたし攻撃の心得*10あるんだよね。
なら、物理弱点相手には充分な火力が出るわけだ)
ジャヒーの、とりわけ高LVの分霊は珍しい存在ではある。
だがキリギリスにはジャヒー、正確にはその耐性を纏った敵との戦闘を経験した者もいる。
物理にやや弱く、魔法全般にかなり強い特異な耐性。*11
その為要注意悪魔として汐音たちは記憶してジャヒーの耐性を記憶しており、さらに先程の式神使いの青年の言葉で裏付けられた耐性は御覧の通り。
各種の要素が合わさった結果、機械式にしてLV70近い大悪魔は無様に地に落下する。
食いしばりどうにか死を堪えた物の、虫の息。
それを見逃すような生ぬるさは、ない。
「電撃反射はないよ。ヴィヴィアンもOK」
「ありがとう親切なお姉さん。
なら、纏めていくさ!」
「一気に押し流すわよ~」
シロガネとヴィヴィアンが発動する全体攻撃魔法。
魔力の高い二者の攻撃はそう簡単に耐えられはしない。
「ぐ、ぎァ……! この、威力は……!」
「おのれぇ……人間ごと、きぃ」
イマージュとなった男が苦悶し、悪魔が炭化し押し流される。
ジャヒーもまたとどめを刺され、霧散していった。
文字通りの速攻により傾く戦況。
半壊した陣営は、減った手数はそう補えるものではない。
「ふざけているのですかァ! 有象無象共がァっ!!」
それでもなお土煙を切り裂いて人斬り新兵衛と化した男が、突出。
状態異常を回復し、生き残った悪魔の
激情のままに、なおも研ぎ澄まされた剣術を駆使する。
「その力があれば五欲を満たし、思いのままに生きれるだろうに!
何故私のささやかなビジネスを邪魔する!?
愚かな、価値のないガキなんて放っておけば良い物をっ」
デスバウンドで敵を薙ぎ払い、そのまま刀を大上段に。
雲耀の剣。そう呼ばれる万能属性の斬撃を放つ奥義の狙いは、汐音。
「なぁにが子供を護るだ、死ね偽善者共ォ!」
「そうはさせるかよ」
大上段からの斬撃、速度と破壊力が乗る前の段階で雨柳がガード。
バルムンクと刀が軋みを上げる、変則的な鍔迫り合いは一瞬。
回避から反転、ガードが空いた敵に汐音が切り込んだ。
「ぎ、き、さま……!」
視線誘導と力の入れ方で、敵の動きを"掌握”した雨柳による誘導。
死角を捉えた、腕部ブレードによる地摺の斬撃は、過たず脚を切り飛ばした。
(────何故子供を護るか。雨柳さんの場合はまた違うんだろうけど)
そのまま転がって彩度の回避を行う汐音。
立ち上がる彼女の目に映るのは、あの日と同じ人の背中。
大紅蓮忠義斬と呼ばれる、仲魔との合体技を振るう姿が頼もしい。
(わたしの場合はあの日、護られたからだよ)
炎を纏った一撃が人斬り新兵衛を一刀のもとに両断した。
仙台駅の改札近く、汐音は柱にもたれかかり時間を潰す。
彼女が待っているのは雨柳である。
汐音や汐音の祖父への顔見せと、修練を兼ねて何日か滞在する予定だ。
サイドスマホを確認し、時間を確かめる。
載っている新幹線からすると雨柳はもうすぐ到着するだろう。
後少し、焦らされながら待つドキドキ感は嫌いじゃない。
(雨柳さん、まだかな……)
今日の服は状態異常や耐銃の防備をきっちりとしたうえで、清楚風できめてきた。
どんな反応するか楽しみだった。
その表情は、生き生きとした生命力に満ちていた。
悪魔の血が流れてて、苦痛と絶望に満ちた幼少期を送っても。
幸せに生きれる事を証明するように。
過酷な時代でもなお。
当然、組織から救われた直後の汐音は、そうでなかった。
苦痛から解放されかけたからこそ、押さえつけられていた精神の反動は大きい。
削られ歪まされた精神は、身体にも影響を及ぼす。
彼女は酷く壊れかけていた。
幻聴や幻覚に悩まされ、自分を狙うありもしない敵に怯えた。
何を食べても血の味を感じ、碌な味を感じる事が出来ない。
少し大きな音や声を聴くと、記憶がフラッシュバックし謝りだす。
自分を救ってくれた雨柳がいる間は少し落ち着けたけど、やっぱり駄目で。
洗脳が作用していることもあり、丁寧に記憶を消すことになった。
「……わたしって生きた方がいいのかな?
生きてて幸せになれるのかな?」
だけど悪魔の血が流れてて、歪み切った自分に生きる価値があると思えなかったから。
施術の前の日の夜に、雨柳に聞いてしまった。
「……少なくとも、俺はそう思うよ」
辛そうな顔で彼は言った。
「人を悪戯に傷つけ殺し、騙し貶めないなら生きて幸せになっていいんはずなんだ。
特に君はまだ子供だ。まだ十分に生きてないのに生が絶たれる。
それほど悲しい事はない」
どこか遠い目をして雨柳は呟いた。
当時の汐音ですら、察する何か切実な思いを滲ませて。
「だから俺は君が幸福に生きて、いつか心から生きててよかったって思えたら嬉しい。
うん、単に行き合っただけの関係だけど、心からそう思う」
「……なら、わたし頑張って生きてみるよ」
男の素朴な言葉で、少しだけ軽くなった心で、汐音は答えた。
此処に一人、自分を想ってくれる人がいる。
なら頑張ってみようと、思えた。
「美味しい物食べてお洒落して、友達と楽しく遊んで。
それで初恋の人とデートする」
「いい人が見つかるといいな。
いや君は可愛いから絶対見つかるさ」
「……ひょっとしてわざと言ってる?」
「えっ」
そうして一度記憶を封じた後、引き取られて、東鳳学園に入学した。
良き出会いがあり、事件があり、山あり谷ありの充実した学生生活を送った。
友達が出来、引き取り手となった祖父以外にも大事な人が何人も出来た。
そうして卒業後、この時世でも年少の者を護る戦いの最中────雨柳と再会した。
「……久しぶりだね、雨柳さん……!」
病み上がりの身体が痛んだけど、それよりもまた会えたことが嬉しかった。
それで貴重な休みにデートして、子供の頃の夢は全て叶えた。
(こんな時代だけどまだわたしの人生は続いているからね。
もっと楽しく、幸福に生きていくとしましょう)
何せ初恋の人とまた会えるのだ。
こんなに嬉しい事はない。
初恋いいよね。此間キリギリスの掲示板で語り合った子もそう言っていた。
曰く、異界におちた時助けられたお兄さんがお相手だそうだが、随分と好きになったらしい。
文体からすると何となく自分より大分年下なのだろうが、微笑ましい事である。
(新幹線着いたかな? 人の流れが来て……あ、来た!)
背の高い男の姿を、汐音が見間違えることはない。
一週間前帝都で会って以来。
だけど胸が高鳴るのを確かに感じる。
「こんにちは雨柳さん。久しぶりって程でもないかな?」
「いやこないだは慌ただしかったからなぁ。
お、その服似合ってるね」
「へへー。装備と合う奴を厳選したから。
何せこれからデートだから、ね」
傷があろうと、消せない過去があろうとも。
その喜びこそが生なのだと、葉弥坂汐音は信じている。
◎主人公紹介
・葉弥坂汐音 <悪魔召喚師><デビルチルドレン> 肉体LV54/デモニカLV62
仙台在住のデビルバスターである女性。
悪魔の血を引きカルト組織で人権を無視した扱いを受けていたが、雨柳に命を救われ、彼のフリーランスとしての師匠である老人に引き取られた。
その後東鳳学園の退魔生徒会に入り、大学卒業後は南条系の企業と契約し試作デモニカのテスターをやっている。
戦闘スタイルは長年鍛えた武技や銃撃を中心とした前衛型。魔法は苦手だが悪魔召喚及びデモニカの機能を使いこなし状況に対応する事が可能。
趣味は色々あるが、意外な程に乙女。
・雨柳巧 <デビルサマナー><剣士> LV68
シリーズポジション:ニッカリ及び悪魔討伐隊(真・女神転生Ⅳ Final)
キリギリスの一員として活動している元ヤタガラスの悪魔召喚師。
戦力が増強され人間関係も広まっているが、色んな意味で前途多難である。
次回は準備回の予定です。
業魔殿にもいったりするかな?