真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
前回の掲示板回の実質的な続きとなります
2019年もまだ春の気配が強かった頃。
その若い男は、後悔していた。
(しくった。マジでしくった。
……何故こんなことになっちまったんだろ)
男はフリーランス、というよりも根無し草のデビルバスターである。
あのクッソみてえな<東京封鎖>に巻き込まれ、翔門会とかいう胡散臭い奴等にアプリを渡され悪魔の事を知った。
事件解決後悪魔業界は儲かると聞きつけ、封鎖の最中目覚めた力を元手にバスターを開始。
2年程関東を中心に見様見真似でやってきた。
当然過酷な業界の事だ。文字通り死ぬ思いも何度かしてきたが、元から両親の借金背負わされ高校中退、ヤクザにより蟹漁船行き秒読みの底辺人生。
封鎖で借金した組が物理的に吹き飛び、開放感ある生活は楽しいとすら感じられた。
(こういうのはんーっと確か後悔先にたたずって言うんだっけか?)
自分にはどうも才能が結構あったらしい。
LVは機械式測定で30を超えたし、なんか発現した悪魔の力もよく馴染んだ。
前一緒に仕事した胸デカくて眼鏡美人なドイツ人のお姉さん、長い経験を積んだプロとも霊格で言えば同等。
まあ戦ったら経験の差であっちが強いんだろうが、順調に伸びる力に気を良くしていた。
だから最近GP上がり気味の地方が狙い目と聞き、さあ一獲千金だぜ! と仕事を受けてみれば
\カカカッ/
| 妖魔 | ロア | LV47*1 | 氷結・電撃・状態異常に強い 呪殺無効 火炎弱点 |
「う゛おぉぉおぉ呪わしき邪魔者共はあああぁああぁ全て滅するぅぅぅっう」
出て来たのはクッソ強い悪魔であった。
「我が道を遮るのはお前かあああぁあ。
大人しくその身を腐らせ、嘆き死ねえええええ!」
「うるせえクソ悪魔がよォ! いきなり出てくんじゃねえ!
こちとら可愛い彼女が出来るまで死ねねえんだよ!!」
20近いLV差を何とか
アギダインストーンがなければ即死じゃないがヤバかった。
とは言っても、一人では流石に相手が悪い。
良質な戦闘経験が積めたが、ほぼ瀕死。
そのままだと、寄ってきた悪魔の餌もありえた。
ただ、これまでと違い男を救う者がいたらしい。
目が覚めるとキッチリ手当てがなされ、ほぼ全快だ。
(それはいい。いいんだ。
でもさぁ、これどうすりゃあいいんだ……?)
男は視線を戻す。
そろそろ目をそらしたい現実を見据える時だ。
視界に映るのは広い和室。
ぱっとみただけでも金も人手もかかってそうな清潔な部屋。
その中央には柔らかそうな布団が敷いてある。
貧乏人の男とは全く縁のなさそうな部屋だ。
これだけなら親切な人ありがとなあ! となるが。
問題がある。それは。
「えっと、さ。取り合えず服着ねえか?」
「………………はい」
目の前で全裸土下座する少女である。
20歳が見えてきた男より数歳下の少女。
長い黒髪をした、大人びた体つき。
ほのかに上気した肢体は、雫に濡れている。
「あ、頭あげていいからさ」
おずおずと上げた顔は美しく整っていた。
快活さも、気品もある顔立ちに鳶色の目が良く似合っている。
(うわ、めっちゃ好みだわこの娘)
それだけに一層、どうすればいいか困った。
男は後悔していた。
どうしてこうなったと。全身全霊で。
セプテントリオンの一角、フェクダの襲来をも乗り越えた2月のとある日。
日本の四国もまた平和を迎えていた。
四国は古くからの根の国伝承もあり、呪殺傾向のある強力な悪魔が出やすい土壌。
故に一時期人手が足らず危険な異界が蔓延っていたが、それらは帝都のヤタガラスからの援軍と<キリギリス>の参加もあり、多くが踏破された。
その為か四国を縄張りとする、退魔師達の顔には余裕がある。
まだまだ先の見えない状況が続くとしてもだ。
「破魔矢の補充は来たか?
Sランク異界は消えたとはいえ、物資は必要だ」
「セプテントリオン、とやらの被害は軽微だが……避難計画を見直さなくてはな。
市や県との連絡はどうなっている?」
「奴の目撃情報はまだないか。
頼みの綱の京都が潰えたのに何処へ逃げたんだ」
ここ、徳島のとある街においても同様。
紆余曲折あり、彼らの新たな拠点となった館で、職務を続ける者達の顔は真摯である。
とは言っても差し迫った事態に対する切羽詰まった印象はない。
あくまでも今後に備えた諸々について話し合っているようだ。
少し前に合った分家から本家への昨今の悪魔業界でよくみられる出来事。
それがあったにもかかわらず、雰囲気は落ち着いている。
近隣のヤタガラスを始めとした護国組織とも提携し、キリギリスの者が加入した事により戦力も増強された。
長年分家に対する強権的な姿勢と、京都ヤタガラスへの加担に対する反発もある。
だがそれでも、GPが更なる上昇を続ける中であろうと、この地を護るという意識に老若男女問わず変わりはない。
彼等の多くは中年以上の男性、もしくは女性。
文官的な印象の彼らは和装の者もいれば、スーツ姿の者もいる。
その多くはこの地に根付いた退魔師の家系の中でも、後方支援の担当者だ。
「この辺りの異界は獣系の悪魔が多いんですね?」
「ええそのはずです。
本家の記録でも証明が取れています」
彼等とは毛色が違う青年が、和装の男へ確認をとった。
短髪で眼鏡をかけた青年は若いが、彼への返答の口調は丁寧だ。
「なら退魔針を使う巫女の派遣は避けた方がいいですね。*2
俺が行きましょう」
「お手数をかけます八島さん。何から何まで申し訳ない」
男の言葉に、いえいえとと手を振る八島と呼ばれた青年。
引き締まった体つきの彼は、どうやらデビルバスターの様だ。
彼等の雰囲気は閉鎖的な地方特有の、煮詰まった物ではない。
「ああ、そうだ。片保君ってどこいました?
白魔女から売ってもらうアイテムについて、意見を聞きたいんですが」
ふと、痩せた男が周囲を見回しながら言う。
青年が答えるよりも早く返答がなされた。
「────訓練場で調整の最中です。
丁度手も空いた事ですし、私が蒼一様を呼んできましょう」
柔らかな声と共に立ち上がるのは、麗しい少女。
白を基調とした服装は、彼女の艶やかで長い黒髪に調和している。
そんな美しい少女は丁度担当していた職務が終わったようだ。
彼等に一礼して部屋を出ていく。
少女が扉の向こうへ去った後。
以前より彼女を知る和装の男は重い息を吐いた。
「藍原さん、俺達が来た時よりも柔らかなったように見えますね」
「そう、ですか」
少女が去った後八島と男は、言葉を交わす。
明るい話題を語るように八島の口は軽い。
対象的に、和装の男の口は重かった。
「……あの娘は重い物を理不尽に背負わされましたから。
少しでも幸福になって欲しいものだ。
助けなかった私達に言う権利は、ないが」
そんな事を話している事をいざ知らず、
所々和の雰囲気がある広い館を歩いていくと、広い部屋に着く。
現在鍛錬場として、使われている場所だ。
「……蒼一様」
「ん、おお真鳥か。どしたん?」
文字通り低姿勢の真鳥に返答するのは若い男。
マクシミリアン*3と呼ばれる中世騎士の様な鎧に、厳めしい太刀割りの籠手*4に文字通り黒を基調とした漆黒の具足*5を装備。
小脇にパレードヘルム*6と呼ばれる兜を提げた男は気軽に応える。
灰白色の髪をした男の顔立ちは悪くないが、目つきは鋭い、否悪い。
それでも剣呑さよりも、大型犬の様な印象を与えるのは気のせいだろうか。
蒼一と呼ばれた男、
「アイテムの補充について、意見を聞きたいとの事です」
「あ~それね。こないだのフェクダで結構つかったかんなあ。
結構な数補充しなきゃなんねえか」
片保は意を得たようにうなづき、立ち上がる。
真鳥より数歳年上程度の若さ。
されど、昨今の過酷な戦況による物だろうか。
その霊格は見る者に軽い態度とは裏腹な高さを感じさせる程だ。
追随する真鳥もまた、彼に及ばずとも高い霊格を感じさせる。
それはすなわち、二人共若くして経験を積んだデビルバスターであることを意味する。
| デビルシフター | 片保蒼一 | LV55 | 銃撃・電撃耐性 魔力・神経・破魔にかなり強い 呪殺無効 |
| 符術師 | 藍原真鳥 | LV41 | 破魔無効 呪殺・精神・神経・魔力に強い |
徳島の地にてこの時世においても、キリギリスに加わり戦いを続けている者達の一人。
強力な悪魔を倒し、京都ヤタガラスとつながった本家を封じ、セプテントリオンをこえてなお、若い彼らは闘いを続けている。
・
・
・
片保が真鳥達と住む家は、先ほどの館から歩いて5分程。
念の為毎回行き帰りの順路を変えているが、其処は何度も歩いた道。
家が見えてくると自然と、安堵を感じるようになってきた。
(異界が落ち着いた分地味な仕事多いんだよな~。
高校中退にはキッツいぜ~)
姿勢のいい真鳥と対照的に、片保の肩は落ち猫背となっている。
片保はここ数年、悪魔をぶち殺しクズを殴り倒して暮らしてきた。
その為事務仕事なんてロクに経験がなく、今日のように細かな仕事を手伝うだけで疲労困憊。
キリギリスの縁で知り合い、此処に腰を落ち着けた八島のような元自衛隊員ならばともかく、キッチリした組織への所属経験のない片保からすると悪魔以上の強敵である。
(ま、これまで見た映画でも主人公の銃を用意したり、整備したりで支える奴っていたしなあ。
トップガンでも戦闘機飛ぶときのスタッフ……フライトオフィサーだったっけか?
こういうのも覚えておかなきゃなあ。めんどくせえけど)
非常に面倒くさいがやらなくてはいけない。
なんせこれまでの
それだけではなく、色々とあるのだし。
「お兄さん、ぼうっとしてるよ」
「ん、おお。悪い美鳥ちゃん。
ちょっとぼうっとしてたぜ」
片保の袖を引くのは真鳥の妹の美鳥。
年は小学校の高学年程だろうか、印象に違わず内気な性格の娘。
一見ガラの悪そうな片保を最初は怖がっていたが、年明け辺りから心を開き話してくれるようになったのは喜ばしい事だ。
「俺は二人と違って頭良くねえからなー。
今日みたいな仕事は疲労状態になんのよ」
「そうなんだ。でも私はお姉様たちと違って、ロ」
「あー、そういや今日飯どうすんだ?
なんか魚なかったっけ」
自身を卑下する言葉は最後まで言わせない。
「ええ、三丁目の叔母様から頂いたかれいが。
今日は煮つけにしましょう。
食べ終わったら何か映画を見て、ゆっくりと過ごしましょうね美鳥」
「……うん」
優しく背筋を撫でる姉に、美鳥は嬉しそうにうなづく。
その様子を見て片保は内心ほっと息をつき、同時に怒りを覚える。
(ロバ、か。ひでえ言葉使うよなったく)
自身に責がない事で、否定される生活。
その辛さは想像するしかないが、嫌だろうなとは思える。
学はなくても、その程度の感性はあった。
「よーし。今日は俺も腕を振るってやるぜ。
具体的にはリンゴの皮むき」
「それは料理んじゃないんじゃないかなお兄さん」
そうふざけてみると幾分か雰囲気が和らいだ。
よし、平和確認。
そうして雰囲気がマシになったところで家に着き、真鳥が鍵を取り出したところで足を止めた。
「あー……真鳥、美鳥ちゃんと先入っててくれ」
ややうんざりした声をした片保に、真鳥は無言で頷き美鳥と共に家へ一足先に入る。
苛ついた様に片保は頭をくしゃりと、掻く。
舌打ちは堪えた。美鳥を怯えさせるわけにはいかないから。
「で、あんた今日は何しに来たのさ?」
「片保様に一報をお伝えしたく」
片保の視線の先に入るのは、着物姿の女。
外見はまず美人と言え、体つきも艶めかしい。
その顔立ちは、柔和な笑みに固められている。
以前の彼ならば、このような美人と出会ったならば思わず舞い上がる事だろう。
以前ならば、どんな人間か知らなければ。
「……先日本家の元棟梁が、四国内で目撃されたそうです」
「げー、マジかよ。八島さんや僧拳浄会の人にはもう伝えたのか?」
何分フェクダ襲来前の話らしいが、確かに監視カメラに写っていたとか。
かつて本家の側近格であった分家の当主を務める女は、ええと嫌に丁寧に肯定した。
「そしてこの街の守護者たる片保様の元へはわたくしめが」
「そりゃどうも」
不吉な情報の来訪により空気がピりつく。
視界の端で動いたのは、恐らく女の護衛。
片保からすると物の数でもないが、落ち着きはしない。
(本家の棟梁は確かLV40超えてたんだっけか。
それだけなら手の内割れてるし怖くねえんだが。
なん~かきなくせえよなあ……)
信用できない人間も、近くにいるし。
「情報ありがとさん。
で、ご足労? の所悪いけどさ、帰ってくれねえか?」
「承知致しました。
私達はいつでもあなた様をお待ちしています」
柔らかな笑みは、どこか固い笑顔の真鳥とは異なる蠱惑的。
けど片保は惹かれる事はなかった。
「かつて腐敗に満ちていたこの地に光をもたらした烈士たる、あなた様の力と血に、我々は恋焦がれております故」
「……あの、さあ」
またこれだ。幾度なくあった勧誘。
少し前にあったGP上昇への適応したか否かや、片保や八島等キリギリスに加入した人員の加勢に、女の家の分家側への寝返り。
それによって成された下剋上と組織の再編。
下がった立場を再び上げる為執拗と言っていい程に、片保を誘う女の言葉の意味は、単純明快。
すなわち「あんな柔弱な家の女等捨てて、私達の種馬になれ」である。
「言っておくけど俺にその気はねえからな?
誰か男を入れてたいなら他の奴当たってくれ。
俺はダビスタやんのゲームで十分だからよ~」
「……私自身を捧げても、良いですのに」
「ふぅん、そう。
それはいいんだけどよ、話すならあっちの仕事場で頼むぜ。
家と職場は分ける主義なんだよ」
真鳥達の名前は出さない。
それじゃあなと踵を返し、玄関へ踏み出す。
美人ではあるが、惜しいとは思わなかった。
(……まあ、悪魔の相手は真面目にやってるし、俺達にコナかける以外はまっとうに活動してるから排除するほどじゃないんだけどよ)
あの女の家は元から京都とは距離をとることを主張していたし、現在も治安維持のための活動はまっとうにやっている。
だが、だからといって即仲間とまで気を許すことはできない。
(合わねー奴と付き合うのってすげえ疲れる……。
サラリーマンとかは毎日やってると思うと頭下がるぜ)
ただいまーと声を掛けて、家に入る。
小さな池まである日本家屋は、以前なら目新しい物であったが、今はもう慣れた。
引き戸を開けて入ると、美鳥はもう自室に戻ったようだが、真鳥はまだ玄関に居た。
鳶色の瞳は、不安げに揺れている。
「アイツなら帰ったぜ。
全く家まで押しかけてくんの迷惑だよなあ」
「そう、ですね」
真鳥は落ち着かなそうに、両手を豊かな胸の前に寄せる。
あの女の家は、真鳥が一応の当主を務める藍原家よりも、格が上だった。
故に今でも姉妹はあの家の人間が苦手だ。
「家に来ないように言ったけど、警報足しておいた方が良さそうだな。
アイツ等人の話聞かねえからな~……。
素直な美鳥ちゃんとは大違いだぜ」
「……蒼一様には逆らわないと思いますが」
片保のぼやきに、真鳥はなにせ、と前置きして答える。
「強い者、自分の上の者には逆らわない。
逆らってはいけないというのが、掟でしたから」
「そういうもんかね~」
封建的な環境では良くあることだ。
水が高きから低きに流れる様に、上からの一方的な上意下達。
それには様々な力の差もあればそうそう逆らえるものではない。
人の意識に根付いた畏れはそう簡単に変える事は出来ない。
「後、アイツが来た用件なんだけど本家の元棟梁のおっさんがさ、四国で目撃されたんだってよ」
「…………!」
だから、不吉な話に真鳥は怯えた顔を見せる。
彼女の心をいまだに束縛する
長年分家を虐げ続けていた本家の、それも棟梁。
彼女にとっては自分や妹の生殺与奪を握る存在であった。
そんな男の帰還は、恐ろしい。
「おいおいそんな顔すんなよ。
俺が物理でぶん殴りゃあ死ぬから楽勝だって!
真鳥がいつも通り支援してくれりゃあ速攻エンドゲームだぜ」
そんな少女の苦しみを片保は、ある程度知る。
せめて苦しみを和らげようと、あえて明るい言葉をかけた。
「ええ、蒼一様はお強い方ですから」
「そ、この街のトップガン、ガーデイアンオブトクシマの俺に任せておきな!」
「私と違って」という、真鳥の言外に含まれていた言葉には、気づかないようにした。
「しゃあっようやくLVが50に行ったぜぇ!」
少し前の事である。
またしてもLVを上げた片保はガッツポーズ。
半年前には流石に届かないかなと思っていた数値であるLV50。
掲示板で色々知識を仕入れ、真面目に鍛えた結果が出ると嬉しい。
これなら以前よりも安定して戦え、高難度の異界も攻略できるだろう。
レベルトラップ*7はマジ勘弁だが。
一方で自身もLVを上げた真鳥は、元気がない。
「おめでとうございます蒼一様。
しかしあなたの────」
「体なら大丈夫だぜ。
回復魔法に極楽霊泉がありゃあもう全快よ」
何故なら先日の戦いで、囚われた人と真鳥をかばって何発も銃弾を受けていたから。
先日戦った相手、イマージュスラッシャーなる悪魔人間もどきは強敵だった。
単体だから排除できたが、手下との分断が成功していなかったら更に苦戦していただろう。
「だから気にしないでいいんだって。
俺ガキの頃からアホみたいに頑丈だからなあ」
「お気遣い、感謝します」
軽く笑いとばしても、真鳥の顔は晴れない。
元から長年の抑圧から、表情が硬いきらいがある少女である。
だが思いつめた表情はそれだけに依らない。
彼女は申し訳ない、とか罪悪感とか。
そういった感情を片保にいだいているようだ。
原因は今回の怪我のみに依らない。
それはおそらく────────
「うおっやあっべえ死んでたっ!?」
ドンと腹に響く轟音に、片保は目を覚ました。
バネの様に跳ね起き、周囲を見渡すと其処は廃トンネル近く。
もう使われなくなった線路が途絶え、足元では砂利がこすれ合う。
本来人気のないここ何体もの悪魔が跳梁する、紛れもない戦場。
「蒼一様! 復帰されましたか!」
「おう。感覚からすると……気絶か。
なんか走馬灯的なやつ見た気がするけど」
ふらつきながらも、其処はダメージ慣れしたデビルバスター。
己の獲物を握りしめ、すぐに体勢を立て直すと。
「死んどけェ!」
飛びかかる悪魔を叩き落とす様に頭から両断。
断末魔と同時に、動きを横回転へ変化。
両手に握った剣によって悪魔の投槍を弾き、そのまま首をはねる。
「きちんと動くなァ、ヨシ!」
光の刃を持つプラズマソードを右手に、片手半剣サイズに擦り上げたソニックブレードを左手に握った二刀流。
片保の動きには、荒々しさと洗練が同居していた。
「OK動けてるな!
身構えろ! 本命のド腐れが来るぞ!」
銃声に負けないように怒声を空張り上げる八島。
彼が纏う簡易型デモニカスーツのエネミーソナーが検知するのは、敵の本体。
運よく嵌った状態異常で、何とか動きを一時的に止めていた強力な敵。
「勘弁してほしいぜこういうのは……!」
彼と並び立ち、片保と真鳥は陣形を整える。
隙をついて雑魚を一掃できたが、所詮は雑魚。
コイツを倒さない事には彼らに未来はない。
故に緊張と、同時に戦意を彼らは高ぶらせる。
「────収まらぬ。
貴様等の愚劣な反抗、我の怒髪が再び天を突くに充分よ。
ああ腹立たしい。煮えくり返る」
全長2メートルを超す、緑色の金属質な甲殻。
随所に施された金色の絢爛な装飾が、四つの赤い眼光を受けて輝く。
その両腕に握られるのは、巨大な剣。
ソレは国家鎮護の明王たる、
ソレはかつて、この地を支配していた男が核となった存在である。
ソレは命を喰らい、新生した<魔丞>と呼ばれる存在である。
異形の生命たる、強大な悪魔が怒りと共に、君臨していた。
「このアータヴァカの糧となり、怒りと無聊を慰めるがいい!!」
\カカカッ/
| 魔丞 | アータヴァカ*8 | LV72 | 火炎・氷結・等万能等に強い 神経無効 魔力・呪殺等反射 |
「あの野郎とんでもねえバケモンになりやがったな~……」
強大な悪魔は突如として現れた。
四国内に潜伏していた悪魔崇拝組織のアジト。
組織の命を喰らいつくしたアータヴァカは、おそらく何らかの儀式で人が悪魔へとなった存在。
しかも、声や言動からすると、その原型はかつてこの地で王を気取っていた家の棟梁。
「全くだ。
ゲームでも現実でも、あの手の奴は一度取り逃がすと碌な事にならん。
いい勉強になったな」
「どっかで野垂れ死んでほしかったっすねー。
無駄にLV高けえし、クソ害悪だぜ」
帰ってくるのはヒーローだけであって欲しいというのに。
訳の分からないセプテントリオンとの闘いが終わってからすぐこれだ。
全く以てうんざりである。
幸いにも、出現以降犠牲者を出すことなくこの戦場に誘導は出来たが、アータヴァカを討伐するという根本的な解決には至っていない。
なんとかアイテムやデバフを駆使して立ち回っているが。
眷属が周囲に散ったため、対処で援軍も望めない厄介な状況。
「状態異常に嵌めようとしても反射する上、入っても激怒*9で解除。
ダメージを重ねようにも、
おまけに雲燿の剣*10だなんて……!」
真鳥の顔は青ざめ、息が上がっている。
それはアータヴァカの元になった男への畏れもあるのだろう。
過去も今も、自分を抑えつけ踏みにじろうとする存在に対して、恐怖を感じずにはいられない。
「ったく
「全くだ。噂に聞く万能耐性が欲しくなる」
万能とは、等しく効果を発揮するが故に呼称されるのだ。
これ程の強魔が、洗練された技と共に振るうならば、多少弱まろうと威力は絶大。
砂上の楼閣が高波に砕かれるように、人間は蹂躙される。
物理法則の様な、分家が本家に服従する古くからの伝統の様な。
当然の理屈である。
「────が、勝ち目は十分にある。
そろそろ勝ちに行くぞ」
「了解だぜ。体もあったまってきたしなァ」
だが、そんな摂理を受け入れるなら、この時世にデビルバスターなどやってはいない。
「真鳥! もう一回強化だ!
野郎を一気にぶち抜く!」
「はいっ!」
片保が
震えを無理やり抑えて真鳥が魔力を注ぎ込み、作成した霊活符による
先程の1度目で150%、今ので当初の250%。
同時に、八島がラクンダストーン*11でアータヴァカを脆くし、使役するクラマテング*12が
「ハッ卑しい者共は追い詰められれば、本質が出る物だなあっ!」
他方、戦士達の動きを悪魔は嘲笑し剣を構えた。
下剋上の屈辱から、悪魔組織を騙し乗っ取り得た力への全能感。
人間の様な小賢しい小細工など必要ない。
疲労すれば回復するなり覚醒者を食い殺し、後は気合いを入れて剣を振るう。
万能の絶技さえあれば、
「我に逆らう雑草は、みな死ぬがいいっ!!」
生々しい本音と共に振るわれる超高速の剣技。
狙うは分家の生意気にも逆らった小娘に、外部の犬畜生共。
激怒によって引き上げられた攻撃力のまま、万能の斬撃が薙ぎ払う。
絶死の一撃を八島はクラマテングを盾にすることで耐えた。
最も脆い真鳥は喰らわなかった。
前に出た片保がカバーし、斬撃を受けたから。
(────うわ、いってぇ……!)
減衰されない万能の斬撃を、片保は耐える。
鍛え霊格を上げ、装備を固め、悪魔の力を宿した体でただ、ただ。
完全に死なないように耐える。
(痛すぎて、痛いという想いしか浮かばねえ。
マジいてえけど)
片保蒼一は、自認するに底辺の馬鹿である。
それでも特にここ最近くらい思う事がある。
どうせ一度しかない人生だ。折角ならカッコよく生きてえと。
それはDBになって金が入ってから見た映画の影響もあるだろう。
一度共に戦った"佐々木"というデビルバスターの影響もそうだろうか。
身を挺して女の子を護って、親元へ送り届けるまで励まし続けていた男はかっこよく見えた。
成程、モテる奴ってこんな感じかあと感心したものだ。
(キリギリス入ったのもあの人のメールきっかけだしなー。
俺と違ってモテそうだけど今なにやってんだろ)
まあこの二年間馬鹿なりにいろいろ学んだ。特にここ半年は。
だから力とか、色に溺れる人間じゃなくて。
(女の子が泣いてたら、涙を止められる。
そういうのがカッコいいし、そういう人間になりてえよな)
のけぞったせいで、庇った真鳥の顔が見えた。
戦闘中にも拘らず、見開かれた瞳には透明な雫。
鳶色の綺麗なそれが潤んでいた。
「────10倍返しだああアアァアアアアッ!!」
だから、"食いしばり"、全力で"猛反撃"した!
| 猛反撃*13 | 自動効果スキル | 技系の攻撃を受けた時、50%の確率で反撃を行う |
| チャージ*14 | 補助属性スキル | 自身が次に行う物理攻撃のダメージを上昇 |
| 物理激化*15 | 自動効果スキル | 物理攻撃の威力を大幅に引き上げる |
全身全霊の猛反撃は、アータヴァカの斬撃よりも激しく、敵を引き裂く!
「が、げえぇ……!? な、なんだこの威力、はア……?」
猛反撃の一撃の威力は絶大であった。
2度のタルカジャで2.5倍、チャージによって1.8倍で、さらにクラマテングの雄叫びが1.5倍。
その上祖先たる幻魔タム・リンに由来する
理論上は2.5×1.8×1.5×1.5=10.125倍の絶大な威力。
おまけに激怒とラクンダストーンにより、アータヴァカの防御力は2段階低下しているのだ。
そんな攻撃を受けてはLVやステータスが上だろうと、無事ではいられない。
一撃で重傷に追い込まれたアータヴァカは血を吐き、膝をつく。
砕けた体が信じられず目を見開くが、もう遅い。
「ま、待て私を殺さない方がいいぞ! 貴様の力に相応しい、望むものを」
「知らねえよ」
続く反撃の一撃で首が千切れ飛ぶ。
二刀による反撃。それのみで魔丞は死に至った。
それは原型となった男の積み重ねた因果。
罪とすら感じなかった事に対する応報である。
「アータヴァカの死亡を確認……!
待ってろ片保今宝玉を使う!」
「蒼、一様!!」
悪魔が露と消えゆく中、真鳥は片保へ駆け寄る。
傷だらけの男がよろめき斃れる所を震えながら、支えた。
「てェ……な? 前言った、通りだった、ろ?」
「え?」
激痛の中、男は己を強いて言葉を紡いだ。
「真鳥の支援があれば、楽勝だって」
少女を安心させるために、それだけはしておきたかった。
アータヴァカとの激戦から数日後。
冬の日の徳島の日差しはほのかに暖かい。
上着を着込んでいれば、快適に歩けるだろう。
片保が今日退院する、病院近くの遊歩道を、真鳥は一人歩いている。
いつもの服装で、いつもよりも固い顔で。
美鳥は八島に預けてきた。
面倒見のいい彼は、美鳥以外にも年少者の面倒をよく見ている。
悪魔の血が混じった子も含め、この世界で人として生きていける様に。
(……私には罪がある。
言い訳がきかない、卑劣な行いという罪が)
両親が既に亡く、立場が低い藍原家は他の分家と同様に、本家から圧迫を受けていた。
前代未聞の
真鳥は追い詰められていた。
権力も財力も武力も分家を上回る本家勢に、彼女は逆らえない。
況や彼女は誰かと組んで力を発揮する、支援に特化した力の持ち主。
逆らう事は客観的に考えて、現実的ではない。
ましてや、真鳥は若い女子なのだ。逆らえば悲惨な末路が待ち受けているだろうし、そうでなくとも結果が出なければ京都ヤタガラスに差し出されていただろう。
美鳥のような
妹と自身を護る為には、本家に従い役目を果たすほかなかった。
故に偶然近くに来ていたデビルバスターでも素養があり、単純そうな片保を取り込もうとした。
"既成事実"を作り、治療したという恩を着せて。
卑劣極まりない振舞いをして、自分たちの為にこき使った。
(自分が苦しいから、仕方がないから。
それでもやってはいけない事があるのに。
私は……あの人を陥れた)
京都や本家勢との闘いから、異界の踏破、あのアータヴァカの戦い。
片保は真鳥の盾になって死闘を繰り広げてきた。
京都や本家が潰れ、真鳥達が自由になっても。
自身の身をすり減らして。
(でも、今日で終わりにする)
これ以上彼に頼るわけにはいかない。
もう、アータヴァカとなった本家の棟梁も倒れた潮時。
まだ彼が知らない、自分が犯した罪を告白し、彼に裁きをゆだねるべきだ。
妹や周囲に迷惑が行かないなら、どのような結末も受け入れる。
だから少女はやがて見つけた片保に対して、痛みをこらえ歩み寄った。
自分の命が終わるとも、うやむやにしてはいけない事があるから。
そうして罪を告白しようとして────
「罪? あー、あれか。
俺がロアと戦ってる時、様子見てた事だろ。
いいってそんなん」
己が抱えていた罪を、あっさりと言い当てられ許された。
「蒼一様は、知って、いた、んですか……?
私があなたの戦いに加わらず、高みの見物をしていたことを?」
予想外の事態に真鳥は口を押える。
気付いているというのは予想外過ぎた。
もし知っているならば、とうに責められると思っていたのだ。
「高みの見物っつってもなあ……。
あの時一回符使ってタルカジャかけたろ?
最初はぶん殴られた瞬間の事だから気づかなかったけど」
そう、真鳥は片保とロアの戦いの時に、見ていられず一度支援をした。
それだけならば、彼女がいたことに気づかなくてもおかしくない。
だがアータヴァカ戦を始め、何度も真鳥は符を使ってきた。
ならば当然気づくものだ。
「つー訳でまあ知ってたよ。特に悪い事だと思わねえけど。
もし気にしてるならいつも旨い飯作ってもらってるしそれでチャラって事でよろしく!」
これにて一件落着だぜーと笑う片保。
だが、軽い笑顔はすぐにおやという顔に変化する。
彼の言葉を聞いた真鳥がぶるぶると、震えていたから。
「どうして……」
目の端に涙を溜めながら、少女は叫ぶ。
「どう、して! 私を責めないんです……!」
真鳥は己を罪人と定義している。
卑劣を重ね男を、戦いへ引きずり込み安寧を得た淫婦。
石を投げられ、蔑まれるのが当然であると思っているのだ。
少女の潔癖な倫理観からするとあまりにも汚れている。
「つってもなあ。
俺真鳥が悪いと全く思ってねえし」
他方、片保は真鳥を罪人と定義していない。
「俺八島さんとも真鳥美鳥とも違って学ない馬鹿けどよぉ。
一つだけこの世の真理を知ってんだぜ」
「悪い奴っていうのは何かやって咎められると開き直るかごまかすんだよ。
親にヤクザに悪魔業界と、クズを見まくってきた俺が言うんだから間違いねえ。
でも、真鳥はめっちゃ罪悪感抱いてんじゃん」
片保の経験からすると自身を、悪と感じる悪人は意外なほど少ない。
いたとしても悪を誇る滑稽な奴か、自身の利益を声高に叫び権利を主張する者ばかりだ。
それに比べれば、追い詰められた末ちょっと強引な行為をした真鳥なんて罪人に入らない。
第一片保とて、経歴を考えれば清廉潔白には程遠いのだ。
「大したことじゃないし、ならもういいだろ。
……それにさ、俺真鳥のこと好きなんだよ。
最初は力目当てでも、真鳥みたいな子が俺を必要としてくれるのめっちゃ嬉しいんだ」
だからさ、と片保が見せるスマホの画面には、映画の予約が二人分。
自分の好みと真鳥の好みをすり合わせた結果、これが一番いいと思えた映画。
新しくできた映画館の、一番いい席を今日の午後予約していた。
「もしよかったら! 俺と一緒に映画に行っていただけないでしょうか!」
調子はずれのデートの誘い。
人によっては笑ってしまうだろう言葉に、真鳥は涙を流す。
頑迷な氷が、日差しによってとけるような。
許されたといっても消えない罪悪感も、自身への軽蔑もある。
それでも、自分の事を好いて、守ろうとしてくれる人がいる。
その事実が何よりもうれしかった。
「……私で良ければ、喜んで」
「やったーっ!」
いつもより柔らかい笑顔で真鳥が答えると、片保とても喜んだ。
それはもう、全身全霊で。
◎主人公紹介
・片保蒼一 <デビルシフター> LV60【HN:Gotシコク】
血筋に眠る幻魔タム・リンの力を引き出し戦うタイプのデビルシフター。
ひょんなことから徳島のとある街に根付き、異界踏破から京都征伐まで様々な激戦に参加しLVを上げた。現在も元666部隊隊員の八島や真鳥と一緒に、四国の治安維持のため忙しい日々を送っている。
一見凶暴そうに見え事実学がないが、他者共感性が意外に高く気を遣うタイプ。
趣味はここ2年間で色々見た映画であり、アメリカの映画を中心に色々見ている。
・藍原真鳥<符術師> LV46
徳島のとある街土着の家の符術師。
本家への恐怖により犯した過ちから、片保に罪悪感を抱いていた少女。
それでも守るべき人々と街に大切な妹の存在と、片保からの好意もあり平和を護る為戦いを続けている。
符術師としてのスキルは支援に特化しており、攻撃手段は限られているがその分高い倍率のタルカジャ等強力なサポート能力を有する。
次回は掲示板回を挟むかもしれませんが、延び延びになっていた準備回。
それから前後編に移りたいと思います。
2023年も原作へのリスペクトを忘れる事無く、面白い小説を書いていこうと思うのでよろしくお願いします。