真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス-   作:ローグ5

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今回は業魔殿に行って悪魔合体回となります



業魔殿に行こう!

 北海道のとある場所にある異界。

 中華を思わせる様式の建物の残骸を飲み込んだ森林の情景が広がっていた。

 その光景は悪魔が出る事を差し引けば、幻想的である。

 

「ふむ、ふむ。中々質が良い物じゃのう」

 

 老人めいた口調の聖獣ビャッコは、男の差し出した魔石とマッカをしげしげと眺める。

 色々な角度から見ていたが、どうやら納得したようだ。

 

「お主の誠意は分かった。仲魔になって進ぜよう」

「そうか、話が早くて助かるぜ

 俺としても寒い所に長居したくねえからな~」

 

 気軽に答えながらも男、雨柳巧(うりゅう たくみ)は警戒を絶やさない。

 一般的に聖獣は邪悪な振舞をすることは少ないが、かといって油断は禁物。

 悪魔に対して迂闊に警戒を解けば、残るのは召喚師の骸のみ。

 その事を長い戦歴で良く知っていた。

 

「おおそれは重畳! 業魔殿とはやるのぉ!」

 

 悪魔合体とは、術師が悪魔を掛け合わせ新たに戦力となる悪魔を創り出す異端の技術。

 特に業魔殿は悪魔合体のメッカともいうべき施設であり、術者設備ともに世界最高と言われ、このご時世故に多くのサマナーやバスターが集っている。

 人間の様にアイデンティティに頓着せず、力を渇仰する悪魔にとっては業魔殿での合体を行うという事は、絶望からほど遠い。

 むしろ新たな門出を最高の形で迎えられる事を知らせる福音である。

 

「よし、なら良いじゃろう。

 儂は聖獣ビャッコ。コンゴトモヨロシク……」

 

 契約成立。雨柳の持つ管にビャッコは瞬く間に吸い込まれた。

 緑色のマグネタイトの残滓がきらめくと、聖獣の巨体は何もない。

 

「これでよし、って所だな。

 仕事終わりに突き合わせて悪かったな汐音」

「ううん。もともとはこっちの仕事だったからね。

 雨柳さんに来てもらえて大助かりだよ」

 

 黒灰二色のデモニカから、若い女性の声。

 彼女は葉弥坂汐音(はやさか しおん)と言い、雨柳とは数か月前再会した知人以上の間柄。

 付け加えていうなら企業と契約してデモニカのテスターをしている腕利きである。

 

「シロガネ君とスクちゃんもありがとうね」

「いやあどういたしまして。

 僕も北海道行けてよかったよ美味しい物多いし」

「スクちゃん……悪くないわね」

 

 汐音の言葉をスクルドは小首をかしげたが、まあいいかと肯定する。

 スクルドからしても汐音は嫌いではないから。

 

(シオンとはこれからも仲良くするしね。

 このくらい親しみやすいほうがいいや)

 

 そんな彼らは警戒をなおも絶やさず、奇襲に対応できる陣形を維持しつつ異界から退出。

 入り口に戻ると汐音がヘルメットを外し、優雅に伸びをした。

 

「んんっ……ちょっと長くなったけどお目当ての仲魔も手に入れたて間引きも上々。

 わたしの欲しかったショウキ*1とも契約できてなによりだ~」

 

 今回彼らがしていたのは異界の間引き。

 北海道のヤタガラスが取り潰し(物理)した家が管理していた異界から、先日秘神が出現。

 秘神は速攻で排除された物の活性化した異界の間引きが必要となっていた。

 それ故に東北周辺で活動している汐音と、彼女に同行する形で雨柳が呼ばれた。

 

「俺の方もちょうどいいLVのビャッコが来たしなー

 これで目当ての悪魔が作れる」

「今回は支援用の悪魔だっけ?」

「そそ、直接火力に手持ちが偏ってたからさ。

 高LVだからこそ絡め手が必要になるだろうし」

 

 雨柳は予定の合体内容を思い浮かべる。

 悪魔合体は新戦力を手持ちに加えられるが、その分リソースと緻密な計算が必要となる。

 特に最近は業魔殿が多忙で時間的余裕が限られているのだ。

 効率的に進める為手順を再度確認しておく必要があった。

 

「それ以外にもスクルドの強化にシルキーもだな」

「シルキー? 最近やたら強いって良く聞くね*2

 家事担当だけじゃなくて護衛にもいいか」

「そ、我ながら徹底的に防備はしてあると言っても護衛は必要だからな。

 そんで後は……主力を加えたい。

 可能なら俺と同等に近いLVの強力な仲魔、そんなところだ」

 

 強力な戦力は幾らあっても足りない。

 何せ現状は最悪の場合LV100越え悪魔も想定しなくてはいけないのだ。

 アドラメレクやフェクダとの死闘を経て、さらに上の領域が見える程に力は増している。

 ならば応じた戦力強化、すなわち更なる悪魔合体が必要なのは自明の理。

 

(仲魔を駒として使う気はねえが、それでも戦力がいる)

 

 その為には悪魔合体を行う必要がある。

 この世界で生き抜く為に。生かす為に。

 

「幸い合間を縫って二日分予約が取れた。

 一気にここで戦力を整えるさ」

「流石にわたしの分は取れなかったね。

 まー大盛況だし仕方ないか。でもその分」

 

 汐音はぎゅっと雨柳の腕をしめる。

 

「今日の午後は、よろしくね」

「ん、こちらこそ」

 

 汐音の声はいつもより甘く、頬も微かに紅い。

 最近になって再会した人に対する感情は、純粋な物だから。

 

 こういう時間をもっと作れる様に、早く世界が平和になるといい。

 そんな思いは二人の間で共通していた。

 

「でも知り合いに見られたら驚かれちゃうかも、ね

 東鳳でも大学でもわたし結構モテてたから」

「そりゃそ……ん? てことは待てよ。

 もしかして、もしかして俺が」

 

 足を止めた雨柳は己の手を見る。

 じいっと、恐れを込めて。

 あってはならない可能性に、気づいたのだ。

 

「脳を破壊する側に、なること、も……!?」

 

 畏れを込めて雨柳は声を吐き出した。

 まるで己が禁忌に手を染めようとしているかのように。

 

「わっ雨柳さんが変になった」

「シオン、諦めて。サマナーはこの手の事だと駄目だから」

 

 困惑する汐音に溜息を吐くスクルド。

 脳破壊という事にまつわるとこの男は、ダメダメである。

 

(銀ちゃんは可愛いなあ。なんであんなに可愛いんだろう)

 

 どこ吹く風のシロガネは、JCの事を考えていた。

 

 

 


 

 

 

 東京のとある港には、奇妙な船が停泊している。

 何が奇妙かというと、その船は出港する事がないのだ。

 船に興味が無い者でも驚嘆するような、大きく美しい豪華客船なのに。

 

「僕のマッカなくなっちゃった……また悪魔から毟らなきゃ」

「えっ? 合体剣の命中率って運も影響すんの。嘘でしょどうして……」

「早く来いよ新月の晩ゥ! 召喚をさせろァッ!」

 

 しかもその周辺には奇妙な人間が多い。

 何かの順番待であるかの様に、ぞろぞろと並ぶ老若男女。

 その傍らには意気消沈したり、興奮の叫びを上げて走ったりとする人間がいる。

 並ぶ者達もやたら真剣、というか据わった目をしていた。

 

 時刻が夜になっても、列が途切れる事はない。

 むしろ並ぶ者の目がギラギラと輝きを増していくようだ。

 

 知らない者からすれば船では何か危険な催しでもやっているのかと疑う所であるが、あながち間違っているとは言えない。

 

 何せこの船こそが悪魔合体の最先端たる業魔殿。

 悪魔召喚師にバスターが全国から集う場所。

 

 ここ最近半年ほど、業魔殿に集う悪魔業界人はとても多い。

 昨今のGP上昇による悪魔の強化に対応する為、悪魔や装備の強化は必須。

 特にキリギリスによって様々な検証が進んだ今では需要も多様化が進んでいる。

 

 その為業魔殿はいつも大盛況なのだ。

 それはもう、寝る暇もない程に。

 

 広い広い業魔殿の中は、合体施設の他にもホテルやレストラン等様々な施設が存在する。

 その中にある、デビルソースや悪魔等の交換スペースに雨柳はいた。

 目的は合体材料の入手である。

 

「鬼神ナガスネヒコ確かに受領した。

 これで目当ての悪魔が作れる。感謝するよ」

 

 雨柳の取引相手である男、元メシアンらしき白を基調とした装備の男が頷いた。

 雨柳の寄こした悪魔に満足した様である。

 

「こちらこそこれで準備がようやく終わった。

 また機会があったらよろしく」

 

 取引が無事終了し、互いに一礼して離れる。

 雨柳の準備はこれで終了だが、相手は次の取引があるらしい。

 ならさっさと離れた方がいいだろう。

 

「準備も終わったし行こうぜスクルド」

 

 ええ、と答えるスクルドの力は、業魔殿に来る以前より増している。

 それもそのはず、彼女は今日既に御霊合体による強化を済ませていたから。

 

 

軍神スクルドLV64核熱・状態異常に強い 物理・破魔・呪殺無効
 

 

 

(悪魔合体って便利な物ね。

 手間はかかるけど熱心な召喚師が多いのもうなづけるわ)

 

 御霊とデビルソースを用いてた合体による強化の影響は大きい。

 以前と比較して大きくスキルも異なっていた。

 

 

●スクルドスキル(御霊組直し)

 ・<マカラカーン(味方全体)> 

 ・<ラスタキャンディ(味方全体)> 

 ・<フレイダイン>

 ・<チャクラクォーク>

 ・<モータルジハード>

 ・<天扇弓(銃撃属性)>

 ・<三分の活泉>

 ・<物理無効>

 

 

 シロガネという強力な後衛が常時維持されている事と、手持ちの増加や仲間と組む機会が増えた事から、雨柳はスクルドのスキルを前衛よりに変更。

 力と体力を中心にステータスを上昇させるとともに、購入した御霊から物理無効を付与。

 さらに知人から購入したオルクスソースから<モータルジハード>と<三分の活泉>、ヴィクターソースから<天扇弓>を継承。

 当初のスキルから半分を入れ替え、より長く戦場に立ち続けられる仕様とした。

 

「さっきの召喚師の人随分と人気なのね。

 もう次の人が来ているし、順番待ちしている人もいる」

「あー結構有名だからなあアイツ。

 俺も会ったのは初めてだけど、召喚師には珍しい天使の専門家らしい」

 

 先程の男はマッカと引き換えに取引相手に天使パワーを渡している。

 漏れ聞こえた声には挑発*3を使える仕様だとか。

 

「Light悪魔の合体に重宝するとはいえ、天使を何体も仲魔にするのは珍しいからなあ。

 全書に登録している以外にも幾つかのバージョンの天使の作成手順を記録していて、最適なスキルを持った奴をすぐに引き出せるって話だ」

「世の中には色々な人がいるのね」

 

 スクルドは感心しつつ雨柳と共に歩いていく。

 彼女の目に映るのは、多種多様な人と悪魔。

 これ程の種類はそうそうお目にかかることはないだろう。

 

 最も左を見ても。

 

「ガードキル~ガードキル持ち御霊はいらんかね~。

 今なら乱獲ケツアルカトルから作った電撃ガードキル持ちが安いよ~」

「ちょっと邪教の館行ってくるわ。

 待ち時間の間に御霊更新してくる」

 

 最も右を見ても。

 

「リストにある悪魔の継承タイプの調査終わった?」

「回復系がまだだよ。虚無ってきたなへへへ……」

「来るんじゃねえ満月。来ないでくれよぉ」

 

(なんかヤバそうな雰囲気の人が多い!?)

 

 スクルドの目に映るのは、熱に浮かされたようだったり悲壮感すらある雰囲気の人々。

 最適な悪魔や武器を得るための血を吐きながら続けるマラソン。

 人の欲望には限りがないという言葉を証明するかのような、過酷な検証作業である。

 

「サマナー、サマナー。あのバスター明らかにショタ食べてる顔だよ。捕食者の目だよ。

 ハイエースされちゃう前にあの少年助けた方がいいかなあ」

 

 スクルドが声を潜めた先には高身長の女バスターと、学生帽を被った少年。

 なんでも装備の検証&レベリングに少年を誘っているようだが、その眼付きは獣の眼光。

 なまじ外見がおっとりとした美人であるが故に分かり易かった。

 

「あっ少年がうまい事逃げた。やるなあ」

「確か終焔教会*4の時に見た少年か。

 堅実にやっているようで何よりだなあ」

 

 少年はタイミングよく知り合いを見つけて断りをいれたようだ。

 黒髪の少し陰気な印象の女性の方へ、待ち望んでたように行く。

 女バスターは残念そうな顔をしていたが、気を取り直し次の獲物、もとい検証相手を探す。

 獣の眼光はまだまだ途絶えていなかった。

 

「よ、世の中には色々な人がいるって事でいいのかしら?」

「そういうことにしておくか」

「それにしても凄い数の悪魔業界人が集まっているんだね。

 どうりで予約を取るが難しいはずだ」

 

 精霊を連れた召喚師の少年と、淡い紫色の髪をした少女の二人組とすれ違いつつスクルドはまた辺りを見回す。

 

 見ての通り業魔殿は例年にない程の大盛況。

 単に合体目当て以外にも、悪魔素材の取引や情報収集に来ている業界人も多い。

 非戦地帯であることを利用した避難組もいる事にはいるが、その数はじわじわと減っている上に気おされているようだ。

 

「二日連続で予約が取れたのは幸運だったな。

 今日は御霊合体をして、明日は悪魔合体。

 これで当分は大丈夫だと思いたいが」

 

 明日の合体の準備も終わったし、早朝の合体に備えて部屋で寝るだけ。

 アイテムや装備の補充も既に済まし、これで次の戦いへの備えは一先ず終わり。

 

(とは言ってもセプテントリオンは後4体はいるだろうし、それ以外にも訳わからん悪魔がいくらでもいるからなー……)

 

 前途は多難である。

 

(ま、その数を削れるに越したことはないさ)

 

 雨柳は己を英雄などとは到底思っていない。

 少々の才能と運と努力、後は周りの人に恵まれ助けられ生きてきた人間である。

 そんな人間ではあるが、それなりには腕に自信がある。

 出来る範囲では働き、貢献をしていくつもりだ。

 

 他方スクルドも物想いにふけっていた。

 彼女の目の前を通り過ぎた、若い召喚師の仲魔は妖魔ヴァルキリー。

 若草色の髪に剛健な紫の軽装鎧の戦女神は、スクルドともほど近い。

 

 何せ彼女は軍神なる主族からして、ノルンの一角を構成する女神以上に、ヴァルキリー(ワルキューレ)の一員たる戦女神の色合いが濃いのだから。

 

(多分サマナーはこれからも強くなる。

 と、なると私もいつかは悪魔合体か何かで強くなる必要があるけど。

 どんな悪魔になるんだろう?)

 

 悪魔という生命体は人間とは比べ物にならない程に完成されているが故に、日々成長していく人間の強さに自力で追いつくのは難しい。

 もし強くなるならば多量のMagを集めるか、人間からの信仰が必要だが一介の仲魔には難しい。

 そうなれば悪魔合体をするか、ハイレベルアップが考えられるが。

 

(もし別の悪魔になるなら女神か、そうじゃなくても魔神か死神あたりの神系……今度こそ女悪魔のままがいいわね。

 ヤタガラスが戦前まで使っていた分類だと確か私は<技芸族>で、人の姿もうまく取れるから戦い以外でも役立つ。*5

 それ以外で別の悪魔になるなら────―)

 

 スクルドは己の将来設計に頭を巡らす。

 過去に支えられたうえで未来を見据えるのは、不安もあるが悪くはない。

 

(スクルドと関連が深い悪魔かしら。

 どう進むのがど一番いいのかしらね)

 

 なんてことを考えていると、雨柳と眼が合った。

 あまり上の空で歩いていると他の邪魔になるし、しっかり歩いた方がいいだろう。

 

「そろそろ夕食食べて行こうぜ

 色々考えてカロリー使ったし」

「そうしましょうか。

 業魔殿のレストランってどんなところか行ってみたいわ」

 

 思考を切り替えて、雨柳とスクルドはレストランまで歩き出す。

 明日に向けてまずは腹ごしらえだ。

 

 

 


 

 

 

 業魔殿の朝は早い。比喩表現抜きで早い。

 早朝と呼べる時刻にはもう動き始めている。

 無限とも思える召喚師達の需要へ応えるために。

 

 最も重要な最奥の合体施設はもうすでに稼働中。

 ファストチケットと予約制により、効率化がなされた合体施設には当事者以外の召喚師は近寄ることができない。

 どんな仲魔を連れているかという情報の重要性ゆえに、機密が徹底されている。

 

 故に今此処には雨柳と施設のスタッフ以外は誰もいない。

 

「業魔殿へヨーソロー」

 

 合体施設のメインとなるスタッフは二人。

 明るい髪色をした悪魔合体士の男と、その助手たる栗色の髪の造魔は慌ただしく働いていた。

 ヴィクトルに秘術を伝授された男の技術は召喚師にとってかけがえがない。

 故に彼は悪魔業界において必要とされ、敬意を評される存在であるので。

 

「やあおはよう! 今日は御霊合体20連だったかな? 

 それとも造魔の最適化までのマラソン?」

「え、いや悪魔合体三つの予定だけど……」

 

 目がキマっているのは、見なかったことにする。

 

 勢いに気おされつつも雨柳は、予定通り手順を進めていく。

 悪魔合体による戦力強化の開始だ。

 

「まずはシルキーの作成を頼む。材料はこれでよかったか?」

 

 雨柳が出す悪魔は集めた合体材料と邪教の館で作成した出来合いの悪魔。

 

「そうだね。この悪魔の組み合わせなら妖精が出来るはず。

 素体のLVが高いから出来るシルキーもLVが高くなるかもね」

 

 合体を開始する合体士は、ふと思い出す。

 そう言えば以前あるサマナー、変わった造魔や魔神を連れた彼のシルキーを合体した時は思わぬ悪魔が出来たと。

 

(まあ月齢にも種族にも問題はない。

 そうそうあんなことは起きないか。

 あの時は随分と個性的なシルキーだったしね)

 

 何てことを考えつつも装置を起動。

 2体の悪魔が変換され、合成され一つの存在として新生する。

 スパークが散りゆく、装置の中心へ新生した悪魔が降り立つ。

 

「……合体は成功だ。出来たのは妖精────」

 

 煙が晴れて妖精の全容が見えた。

 

 黒いスカートに白い上衣、マリンブルーの短いタイの如何にもなメイド服。

 その上にはプラチナブロンドの長い髪をした、柔らかな印象の端麗な小顔が乗っており、さらには楕円形のレンズをした眼鏡をかけている。

 また彼女のブーツは上品なデザインであるが同時に頑丈そうな造りである他、メイド服の各所に動きやすくするための工夫がなされていた。

 

「シルキーじゃない、妖精ゲフィオン……?」

 

 疑問符付きの合体士の言葉を肯定するかのように、ゲフィオンは微笑み優雅に一礼。

 艶やかな髪がほのかに照らされ、四つの牛を模した髪飾りがきらりと光る。

 

「アース神族第四の女神ゲフィオンと申します。

 何の因果か、妖精として顕現させていただきましたが……

 誠心誠意仕えさせていただきますわ」

 

 

   \カカカッ/ 

妖精ゲフィオンLV43氷結・電撃にやや強い*6 破魔・呪殺・神経無効

 

 

 恭しい一礼をする妖精は本来ならば女神である。

 一説にはオーディンの妻フリッグの侍女ともいわれる存在で、開拓者的な側面もある女神。

 シルキーとは当然ながら離れた悪魔であるゆえに、合体士と雨柳は顔を見合わせる。

 

「……予定通り妖精だけどゲフィオンか。

 僕も見るのは初めてだな。事故ではないけどこれは興味深い」

「シルキーじゃないんだけど。これは事故では???」

「いや、LVも予想通り40前半で種族も予定通りだから事故じゃないはず」

 

 そんな男どもの有様を見つつ、くすりと笑うゲフィオン。

 

「ご心配なく旦那様。御身の望みに答えさせていただきますわ。

 自分自身で言うのも何ですが、私働くのが好きですもの」

 

 言うだけあってゲフィオンの手は白く艶やかだが、爪が短く切りそろえられている。

 予期せぬイレギュラーによる妖精としての召喚は気になるところではあるが、契約の縛りもあり裏切ることはないだろう。

 

「ならよろしく頼む。

 前線とは別になるが、大切な仕事だ。

 働きを期待させてもらうぜ」

「ええ期待に添える様に頑張らせていただきます」

 

 第一印象はお互い悪くない。

 管契約を結び、裾をつまみ再度一礼する彼女を管にしまい込む。

 第一の合体はまあ、成功。ならば次の合体だ。

 

「次はこの聖獣ビャッコと天使ヴァーチャーで合体を頼む」

「聖獣と天使でこのLVなら神獣アヌビスかな? 

 デビルソースは使うかい?」

「ああ、これを使わせてもらう」

 

 雨柳が差し出したのは同じキリギリスである男から購入した、カマソッソのデビルソース。

 このソースの一部にある吸魔のスキルが丁度ほしかったのだ。

 

「よしそれじゃあ合体を始めようか」

 

 ビャッコは感謝するぞと、ヴァーチャーは力を上げられるならばよし、と短く言い残して合体に向かう。

 悪魔二体の構成情報が分解されて、合成される事で起きるスパーク。

 そののち煙が晴れると、現れたのは予定通り狗頭に天秤を携えた黒い神獣。

 

「儂は神獣アヌビス。

 はてさて、お主のソウルが儂の力に釣り合うか」

 

 

   \カカカッ/ 

神獣アヌビスLV56*7物理・銃撃等に強い 破魔・呪殺・魔力無効 火炎に弱い

 

 

 エジプト神話が冥界の管理者である神アヌビス。

 知名度も高く強力な存在ではあるが、今の雨柳には充分に従えられる。

 

「想定よりもLVが高い。GP上昇の影響か?」

「スキルも予定通りだね。ソースからの<吸魔>に<パララマ><ベイバロンの気>の二種類の状態異常と、<マカ・カジャ><スク・カジャ>。

 支援用としてはかなり有能なんじゃないかな?」

 

 助手の造魔の言う通りアヌビスのスキルは直接的な攻撃力よりも、状態異常や補助といった物を中心としている。

 直接的な攻撃力が高い仲魔が多い分、不足していた役割を補う事が出来るだろう。

 

「戦場にて魅せてもらうぞ召喚師よ」

「ああ、望むところだ」

 

 しっかりとアヌビスの目を見据えて答える。

 

 今回は管ではなく以前入手した小型GUNP<六六式召喚拳銃>へアヌビスを納める。

 2体格納1体召喚の低容量ながら、扱いやすいこのGUNPの1枠はひとまずアヌビスへ。

 

「……じゃあ最後はコイツ等の合体を頼む」

 

 もう一枠は、これから作る悪魔にする予定だ。

 

 雨柳が悪魔全書から出すデータは龍王ユルングとゴグマゴグ。

 そして、ここ数年来の付き合いである魔獣オルトロス。

 この三体にて、合体を行う。

 

(ハイレベルアップデケルベロスヲ目指スノモ悪クハナイ。

 ダガ今ノ時勢デハ、俺様ニ悠長ニリソースヲ使ウ暇ハナイダロ。

 ダカラサマナー、イヤ雨柳。俺様ヲ合体シロ)

 

 この合体を提案したのはオルトロスである。

 現在のインフレではLV50代前半の自身では、主力としてついてはいけない。

 だから悪魔合体をして、新たに戦力を加えろと。

 気高い魔獣はそう言い切った。

 

(オマエハ駄目ニンゲンデハアルガ、力ニ溺レルコトハナイ。

 ナラバ心置キナク、次ヘ踏ミ出セ)

(……わかったよ。業魔殿でお前を合体する)

(ソノ意気ダ。ヨリ強クカッコイイアクマニシテクレヨ!)

 

 故に雨柳はオルトロスを合体に使う事を決めた。

 

「その三体の組み合わせだと種族は堕天使。

 恐らくムールムールかバルバトス……後はアドラメレクの可能性もあるね」

「少し気になる名前もあるが、それでいい

 後はこのデビルソースを頼む」

 

 合体士の言葉に承諾し、以前倒した破壊神チェルノボグのデビルソースを渡して、雨柳はオルトロスに向き直る。

 

「……堕天使カ。懐カシイ物ダナ。

 俺様ハ元ハフォルネウスダッタカ」

「もう3,4年になるかぁ。あの時は驚いたぜ。

 まさか捨て子の赤ん坊を喰わずに護る悪魔がいるなんてな」

「フンッ赤子ヲ喰ラウナド沽券ニカカワル」

 

 思い返せば双方色々と合ったものだ。

 合体でオルトロスになり、ヤタガラス時代じゃないにしても幾度の戦いを潜り抜けた。

 少女との出会いを機にキリギリスに参加し、この激動の時代も尚生きている。

 

 そうして雨柳の死でもオルトロスのLOSTでもなく、悪魔合体という形でも次へつなぐことが出来たのは、望外の幸運に違いない。

 

「デハソロソロ行クトシヨウ。

 シロガネヤスクルドニ御影達、ソレトアノ少女達ニモヨロシクナ」

 

 気高い魔獣は一声遠吠えを上げた。

 

「合体ニヨッテ姿形ガ変ワッテモ、俺様ノ爪ト牙ハオ前ノ力ニナル。

 デハ一先ズサラバダ悪魔召喚師ヨ。

 転生シタ姿デマタアオウ」

「ああ。新たな姿でまた頼むぜ」

 

 別れを交わし、魔獣は合体装置に入っていく。

 合体士が装置を起動すると共に、三体の悪魔がチェルノボグの情報を加えて一つの悪魔に新生する。

 それは一つの生の終わりであり、新たな生の始まりである。

 

 見届ける雨柳の眼に、一際眩い閃光が瞬いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 業魔殿から出た雨柳は朝の陽ざしに目を細める。

 およそ一日ぶり。冬の太陽は輝いていた。

 雲ひとつのない空に、誇らしげに。

 

 港ゆえの潮風の香りと、居並ぶ人々の呟き。

 それは昨日と変わっていないはずだが、少し新鮮に感じられた。

 

「用事も終わったし帰りましょうサマナー。

 ミカゲ達も待っているわ」

「そうだな。何かついでに買ってくるものは、と」

 

 スマホに緊急用件がない事を確認してから、アプリで帰宅を連絡。

 雨柳とスクルドは業魔殿近くの専用駐車場へと向かう。

 

 男の腰にあるのは退魔刀と、二体目を納めたGUNP。

 そこにはオルトロスを素材に作成した仲魔が納められている。

 雨柳がこれからの戦いを駆け抜ける際に、共に戦う仲魔が。

 

(予想外の悪魔が出来たのには驚いたが、新たな悪魔と契約できた。)

 

 驚嘆すべき力を持った仲魔。

 その力は今の過酷極まりない時勢においても、十分に強いと言える。

 

 今後の激戦でもその力は必ず活かされるだろう。

 雨柳は予想し、確信している。

 

(今後とも、よろしく頼むぜ)

 

 太陽の光の下、男は心の中でつぶやいた。

*1
デビルサマナー仕様 LV47

*2
ⅣFではLV44、ハッカーズ2では40と最近の作品ではLVが高い

*3
デビルサマナー無印 敵全体に『タル・カジャ』7回分および『ラク・ンダ』4回分の効果

*4
本作『Beyond the Despair』で登場した悪魔カルト。 堕天使アドラメレクを召喚し無差別虐殺を目論むも雨柳達によって壊滅した。

*5
ライドウシリーズにおいて技芸族に分類される仲魔は擬態の技を持つ。

*6
耐性倍率は62%

*7
ソウルハッカーズ2基準




雨柳が今回合体した三体目の仲魔はまた次回。
久しぶりの前後編の予定となります。
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