真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
帝都東京の再開発放棄地区の近くに、とある企業の所有する物資集積場跡地があった。
海路を通じて運び込まれた機械や資源その他貴重品を、陸路を通じて日本全国へ輸出する貿易及び運送事業により利益を上げている企業。
その企業が一年程前新規に集積場を作る為閉鎖されたのにいまだに土地が売却されておらず、従業員達の口には時たまその事が登る。
とはいっても企業の業績も好調。新たな集積場では今日もトラック便が行きかっており、今となっては忘れ去られた拠点を気にする者も少ない。
時たまトラブル等での余剰物資の輸送に使う以外には忘れられた場所だ。
東京という土地が高い都市柄ゆえに勿体ないと感じられる広い土地の集積場。
夜明け前の雨が降る中、上空に蠢く物があった。
「アナライズ出ました! 墜天使です!」
「ってことはあの憎きメシアの拠点ですわね!
後退して封鎖に加わりますわよ!」
飛翔するはメシア救世主派閥の不気味な天使達。
墜天使と呼称される悪魔は、巣をつつかれた蜂の様に湧き出て来る。
何の変哲もない半ば廃墟とかした集積場から。
(灯台下暗しって言葉を自分の身で体感するとは思いませんでしたわ……!)
これまでメシアンや繋がりのあるカジュアル、各種の悪魔組織を討滅して集めた情報。
最後のピースが埋められた事により明らかになった事実の一つは、この集積場を所有する企業の経営者がメシア救世主派閥のパトロンの一人である事。
男自身の経営する企業を通じて資金的物資的に救世主派閥を支援してきた上に、この場は異界化により墜天使の巣としても機能している。
端的に言えばこの土地は、メシア救世主派閥のアジトの一つであるのだ。
事実を肯定するかのように墜天使達が襲い来る。
雑魚が大半であるが、中にはLV60を超える危険な存在もいる。*1
また付き従う救世主派閥傘下のテンプルナイトやその他メシアンも。
「防人隊は下がれ。大半は雑魚だが危険な奴も来ている」
「ええ。私達で切り捨てるとしましょう」
対するは壊滅の危機を乗り越え今なお戦い続ける帝都ヤタガラスの幹部達。
霊的国防兵器天津神タケミカヅチを従える、背は低いがよく鍛えられた黒衣の男に、雅な紫色の衣装に長刀を携えた蠱惑的な美女。
前に出て墜天使達に対峙する彼らに追随するのは、アンスウェラー*2を携えた黒鎧の騎士。
「さ、クズ共をひねりつぶしに行きましょうか。
あの歩く18禁共は子供の教育に悪そうだ」
「おや随分とやる気ですのね」
「普通の感性を持っていれば、殺る気スイッチもONになりますよ」
「それもそうだな。悪いが、前衛を頼むぞ」
おう、と勇ましく答え騎士────幻魔クルセイダーとなった高市新がヤタガラスの幹部と共に前線を切り開く。
今回の襲撃は分析の結果規模はそれなり以上の拠点、故に主導するヤタガラスの他キリギリスの勇士が集まっているのだ。
「属性弾の効果確認! 電撃いけます!」
「耐性はそんな硬くないな。
ウルヴァシー! 氷漬けにしてやれ!」
裏口近くでは眼鏡をかけた白髪の美女が銃を撃ちまくり、槍型のCOMPを携えた青年、
「うへえ~墜天使? だっけなんかキモイねえ。
一気に消し飛ばしたくなるわー」
「不気味な上に数多いんだよなアイツ等。
上からの奇襲に気を付けろよ!」
他方本陣近くで双斧剣を構えた少女と仲魔に守られつつ、豊満な体つきの少女が支援を行う。
キリギリスからはフリーランスや護国側組織の協力者、さらには発起人の仲間の一部と個性豊な面子が参戦し、天使を削っている。
誰もが勇ましく本分の全うせんとしていた。
そんなキリギリスに負けじとヤタガラスの人員も天使を屠り、また全体の支援を行う。
戦場からやや離れた本陣の指揮車においても、活発な活動が行われている。
「今の所敵ペルソナ使いの目撃証言は無し!
ただ怪盗団チームに、幹部とかなりのLVの天使が出たと!」
オペレーターの報告を受けた指揮官はむう、と息を漏らす。
壮年の男は帝都ヤタガラスの実質トップである老翁の部下だ。
LVは高くない物の、堅実な指揮を執る事からこの度の攻略戦に抜擢された。
今回の作戦は帝都に潜伏し、幾度なくヤタガラスを襲撃してきたメシア救世主派閥の掃討。
正確に言えば対象は下部組織の中でも規模な物の一つ。
幹部も七元徳ではなくあくまでその部下の、いわば中級幹部。
とは言っても作戦が成功すれば、敵の重要な補給路の一つを断ち切り、帝都における戦力に打撃を与える事が出来る。
作戦における高価値目標は幾つかある。
彼等の悪行に関する直接的な情報と、何よりも指揮官格の幹部。
各種の情報を集めた結果、この基地には二名存在するとされた幹部格の討伐。
それは作戦の主目的と言っていい。
故に逃すわけにはいかない。各員の戦力を適切に詰めていくことが必要となる。
「それと────<レイブン>のチームが、もう一人の幹部を捕捉、戦闘に入りました!」
「そうか。ならば付近のチームの編成を一部変更、可能な限り援護させろ!」
指揮官の男は情勢をリアルタイムで見極め指示を飛ばす。
口にも、態度には出さないが男は信じている。
一度折れて姿を消してなお、再び剣をとったかつての部下を。
後輩である男の、自慢の娘であった少女を。
信じているが故にこちらもベストを尽くすのだ。
それが力ではなく、知によって戦場に立つ達自分の責務だと定義する故に。
集積場の中でも裏手、通路が入り組み他から離れた所に、ひと際大きな倉庫があった。
外からの雨音が時折聞こえる中、彼らは敵と対峙する。
「ヤタガラスは無粋に過ぎる。
夜明け前を狙った討ち入りなど、まるでネズミのような矮小さだな」
スクルドの
豪奢な深い赤に金の装飾を備えた衣装に、装飾のついたガントレッド。*3を携えた男は傍目には聖騎士にも見えなくない。
複数の天使を従えるとならば、なおさらに。
「おいおい随分とくだらない事を言うな悪党が。
お前の大好きなお偉い救世主様は教えてくれなかったのか?
悪い事はするなってな」
他方、仲魔と共に刀を正眼に構える雨柳の眼は常になく鋭い。
この男がどれほどの邪悪を成してきたか、知っているから。
男の通称は<審問長>。メシア救世主派閥中級幹部として数多の人間を殺戮し、先日の本条二乃を始め何人もの少女達を毒牙にかけて来た男。
性癖はいうなれば加虐陵辱。異端や失格者として定義した相手を、罰の名目で蹂躙する事を至上とする、下劣の極みのような教義の持ち主。
そんな邪悪極まりない存在だと、知っている故に雨柳は敵意を抱く。
「全く以てその通り。正々堂々挑んでほしければそれなりの振舞いをしなさいという事です」
「己の行状を棚に上げた物言い……そんな風だから嫌われるのよ」
雨柳の後衛の位置で、獲物を構える少女達の目も冷たい。
二人の容姿は驚くほどに似通っている。
絹の如き艶のある黒い髪に穢れなき白皙の肌、至上の宝石の如き翡翠色の大きな目。
そして美しさと可憐さと凛々しさ、美少女と呼ばれる要素を極めて高い水準で備えた顔立ち。
年長の少女は白とスカイブルーの衣装で武器は長銃、年少の少女は白と薄紫の衣装で武器は弓と異なる物の、その容姿の類似は姉妹以上。
まるで同一人物の違う年齢の姿のような、どこかで人生が分岐し別の道を歩んだ姿のような、不可思議な似姿。
前者は友人たちに美森、後者はイザボーと呼ばれている彼女達。
二人共同じように、悪への静かな怒りを見せていた。
「黙れ異端共! あの方達の威光を知らぬ愚者共に何が分かる!
私が崇敬する<希望>の、あの美しき御方の聖母の如き包容力がっ!」
彼等の審問長は激昂する。メシア救世主派閥、俗称性癖メシアの台頭は紛れもなく彼にとって救いであった。
口さがない者達によって非難された己の性癖を、彼らは肯定した。
特に希望という一見物静かに見える聖女は、凌辱の果ての死をを至上する性癖の
「我が
歯を剥き出し、審問長は決意を叫ぶ。血走った目に映るのは年長の少女。
美貌もさることながら、年不相応な程豊満な、完璧なラインを描いた体つき。
あれは異端の者なら自分は、素晴らしく性癖を。
「故にそこの貴様ッ我が「おっと、それ以上は言わせないよ」
シロガネが言葉を遮り、さらに雨柳は審問長の視線から美森を遮る。
「不快な言葉はNGだ。
それ以外なら命乞いでも何でもいいぜ」
何せ、と普段とは違う声で告げる。
「どうせお前は────ここで終わりだ」
「ぬかせっ!」
審問長が身に纏うデジタライズの出力を上げ、マグネタイトを活性化。
呼応して天使達もまた、穢れた翼をはためかせる。
「ミモリ! あの男の波長何か変だけど、あれも<デジタライズ>!?」
「恐らくその亜種かと! 雨柳さん気を付けてください!
あの男は下衆ですが動きからして並のメシアンとは違います!」
「それにあの双子天使は、黄道十二星座の!」
美森とイザボーの言葉は正しい。
淀んだソウルと裏腹に、審問長から放射される力は強大。
水色と橙色の双子の天使もまた高位の存在。
幾度なく死闘を生き延びた少女達と同等であった。
\カカカッ/
| メシアン | アデプト<審問長> | LV71 | デジタライズ:大天使カマエル*4 |
\カカカッ/
| 大天使 | アムブリエル | LV73 | 電撃・魔力にかなり強い 疾風・破魔吸収 呪殺に弱い*5 |
LVにおいては少女達が勝っているが、相手には複数の高LV墜天使が援護についている奴らは、紛れもなく強敵である。
だが少女達に後退の意思などない。地獄を見て、罪悪感に苛まれ、幾度なく涙を流した。
それでもなお親友に仲間、そして……迷惑ばかりかけた本来見捨てて問題のないはずの自分達に手を差し伸べ、救い続けた青年がいた。
護国の士はいまだ折れず、不甲斐ない自分を大切にしてくれる人たちがいる。
ならば、多少の強敵に折れる事などどうしてできようか。
故に少女達は矢をつがえ、引き金に指をかける。
翡翠色の瞳には、苦難の中も歩み続ける強きソウルが燃えていた。
「────スクルドは一旦下がれ。
ここは極大の火力が必要だ。あいつを出す」
「分かったわサマナー。最後に一つ、舞わせていただきましょう」
ラスタキャンディを発動させたスクルドが管へと消える。
代りに雨柳が、左手に構えるのは拳銃型GUMP。
銃口を天に掲げ、引き金を引かんとする男の瞳もまた、揺ぎ無い意思が燃える。
少女達が為に、己の為すべきであり成したい事をやり遂げるべく。
確かな決意を抱いていた。
討伐作戦の前、雨柳は本条二乃、つい先日救った少女の病室を訪ねていた。
経緯を鑑みれば男性を迎えるのはつらかろうと、代理の者を寄こそうとしたが、本人が雨柳に来てほしいと言ったらしい。
一見何の変哲もないようでいて、良く見れば自殺に使えそうな物が徹底的に省かれた部屋。
そんな部屋にいるだけでもう痛ましく感じる。
「────どうして私を助けたんですか?」
少女が紡ぐのは疑問の言葉。
本条二乃という少女にとって雨柳巧という男は、不可解な存在だ。
九十九機関や、他のDBもそうだが一際雨柳に。
「情報なら、もう私が知っている事は全部話しましたよ?」
「ああ君の情報はかなり役立った。
おかげで奴らの掃討が進む。礼を言うよ」
簡潔に事実を述べる雨柳に、二乃はあははと笑う。何処か捨て鉢な声で。
「なら良かったです。あいつ等、一秒でも早く死んでほしいですから。
あ、でもそれなら私にはもう用はないはず。
となると、ああそうか」
病院着の胸元をはだけさせ、雨柳に向き直る。
「私の身体が目当てなんですね!
好きなだけ抱いてもいいですよ。どうせもう数えきれない程犯されてるし。
淫乱に調教されていますから」
本条二乃は、痛ましい事に自分を弱く惨めな淫乱と定義している。
因習に閉ざされた京都から逃げ、本■二■という本名を、武張った口調を捨て、それでもなお京都に巣くう者達のように邪悪になりたくはなかった。
だから帝都でも悪魔や悪人と戦っていたが、ソロでやっていたせいか、案の定メシア救世主派に敗北して……それでこのザマだ。
あの審問長という男に、純潔を奪われた。
何度も何度も何度も凌辱され、母譲りの自慢の黒髪を汚液で汚された。
抵抗すれば、逆らった罰として痛めつけられながら蹂躙された。
男に天使に悪魔に抱かれ、全身くまなく犯され、男を際限なく受け入れる。この上なく惨めな淫乱に堕とされた。
それで囚われてた時に耳にした情報を基に、脱走して復讐に向かったら無様に敗北した。
何という愚かさ。何という汚らわしさ。
「汚れ切った売女でよければ、好きに楽しんで行って、ください……!」
少女は自身の未来を諦めている。
もう自分には人間としての人生を望めないと。
傷つききった心身で生きていけない。
「……俺にその気はないよ。
それにさ、君は淫乱でも汚れてもいない」
絶望していたからこそ、男の言葉は意外だった。
「君が受けた仕打ちは酷い事だ。
だけどそれは行った奴らが醜悪にどす黒く穢れているだけだ。
君が穢れた事にはならない」
雨柳は断言する。それは男の長い経験かららの言葉である。
男が戦い倒してきた外道共、その悉くが穢れ切った魂の邪悪であり、奴等こそが責め苦を負うべきなのだと。
「俺は調べたんだ。帝都に来てからも君は何人も助けてきた事を。
君は肯定され、幸せになるべきだと俺は思うよ」
雨柳の言葉に二乃の目から涙がこぼれる。
だがそれでも、少女は自分を信じきれない。
「だけどっ私にはこの記憶を抱えながら生きていく強さなんてない!
もう生きていくのが辛いよっ!」
「────それでも君が生きていける様に、一つ用意できたことがあるんだ。
信じられないかもしれないけど、少しでいいから聞いてくれないか?」
雨柳は信じがたい説明を続ける。
彼の知古には何と、
記憶を切除すれば、存在しないのだから受けた苦痛が蘇ることがない。
九十九機関の医療技術で体を治せば、二乃は元の傷ついていない心で生きる事が出来る。
「俺も魔剣の効果は何度も確認している。
使い手とも連絡が取れたが、偶々予定が空いているらしい。
明日にでも切除は出来るよ」
またアイツにもあの子にも借りが出来ちまったなと、雨柳は思う。
借りばかり作っていられないし、この埋め合わせは如何にしてすべきか悩ましい。最も優先すべきは二乃の心であるが。
「……そんな事出来るんですね。なんか夢みたい。
でも、いいのかな私にそこまでしてもらって」
「いいんだよ。困っている子供がいたら可能な限り助けるものだ。
大人がせこせこコネやら金やら貯め込んでいるのは、子供を助ける為でもあるんだぜ?」
これまでとは質の違う涙。凛々しいようでいてあどけなさが残る少女。
泣き顔を見られては恥ずかしがろうと、目をそらす雨柳は、そっと言葉を投げかける。
「しっかり治した心と体で、君が幸せになることを祈っているよ」
「あり、がと……‥もし、治したら私は───―」
「いいなそれ! なら手続きが必要だな。俺からも知り合いに────」
男と少女の、会話は短くも得られる物は多い。
少なくとも、少女が前を向いて生きていく未来が見えたほどには。
空から降り注ぐ雨は、雨柳が病室から出るころには、随分と小雨になっていた。
雨柳は少しだけ、大人として本条二乃という少女を救う事が出来た。
ならば、今この場ですべきことはなにか?
(二乃ちゃんの話の通り、審問長って言ったっけなあの野郎。
奴と墜天使共の犠牲者はこれ以上出させねえし、罪に相応しい応報を与えてやる)
邪悪には因果応報の、相応しい末路を。
己が鍛え上げた悪魔召喚師としての力は、今この場に限ってはそう使うと決めている。
それは本条二乃の為であり、傷つけられた多くの少女達の為であり、共に戦う恩人の娘である美森とイザボーの為である。
大人を気取って、義憤など燃やしているのが己の柄に合わない自覚はある。
されど、そうすると決めたのだ。
繊細で苦悩に悶える弱い人間の、なおも仲魔と共に戦う悪魔召喚師として。
「お前の初陣だ! 太陽の力を見せてみろッ!!
──────来い!」
故に咆哮し、天へ向けて引き金を引き、仲魔を呼び出す。
おお、見よ。展開した魔法陣より現れるのは、鋼鉄の巨体。
悪魔的な黒と城壁のような白亜に、鮮烈な赤の三色で彩られた体。
両肩には太陽の如き赤い半円上の装飾を纏い、背からは剣のように鋭い翼を四つ生やす。
各所には神秘的な翡翠色の結晶体が生え、同色の一対の目は鋭く敵を見据えている。
それはかつて中東の地で崇拝された魔神。
威厳ある王の名を持つ、
雨柳が死闘の末倒した強大な悪魔の
「魔神、アドラメレクッ!!」
雨柳の長年の相棒であったオルトロスが、悪魔合体により転生した悪魔。
魔神アドラメレクが此処に顕現した!
\カカカッ/
| 魔神 | アドラメレク | LV74 | 魔力・精神にかなり強い 火炎吸収 呪殺無効 氷結・重力弱点 |
「俺を呼んだかサマナーッ! 奴がこの焔で燃やし尽くす相手だな!」
「ああ! 遠慮はいらねえクソ、いやド外道だ!
Magの用意は充分にある、存分にやれ!」
「応ッ!」
勇ましく答えた魔神が先陣を切り焔を放つ。
かつてキリギリスに加入して最初の戦い。
ダークサマナーと戦った時とは、姿も力も何もかも異なる。
されど誰かが為に焔と、刀を振るう。
その点で彼らは変わりはなかった。
バトルフィールドに乱舞する銃弾に、刃に、魔法の数々。
さながら殺戮の
「いい加減に」「倒れろ異端共!」
「逆らわずに首を垂れて、私を満たせっ!」
アムブリエルと審問長が解き放つ力。
その力はまさに暴力の具現化。
聖性が欺瞞であるとも、それは侮ることができないものだ。
| シン・ザンダイン*6 | 衝撃属性魔法 | 敵単体に衝撃属性で特大威力の攻撃を1回行う |
| アカシャアーツ | 物理スキル | 敵1グループに物理防御を無視し剣相性大ダメージを与える |
極大クラスの衝撃魔法が吹き荒れ、同時に審問長が拳の極意を振るう。
大天使である双子天使と同等かそれ以上に、審問長の拳はすさまじい。
罪人、特に見目麗しい若い女性を
男の性癖が先天的か後天的かはもう分からないし意味もなく、希望たる聖女の洗礼によって力もエゴもこれまで以上に増大させた。
その力は人間の限界をとうに超え、悍ましい程に凄まじい。
暴力の顕現とすら表現できる力で、審問長は法悦の極みを貪ってきた。
故に今日も野蛮に歯を剥き出し拳を振るう。
暴力の果てに得られる至上の快楽を、今日も勝ち取るために。
だが、そんな勝手を通す彼等ではない。
「アドラメレク、イザボーちゃん頼むぞ!」
「分かっている!」
シロガネの展開した神奈備ノ守により、魔法の威力が減衰。
一瞬の猶予を得たアドラメレクが、イザボーを"
衝撃魔法が掠め、地面が散弾のようにはじけ飛ぶが魔神も少女も軽症。
他方、美森を狙った拳撃を雨柳はガード。
マグネタイトで構成された盾と刀身で防ぐが、威力は強大。
骨にひびが入り、肉が避け、血がしぶく。
それでもなお、悲鳴の代わりに気合いを叫ぶ。
「らあっ!」
「ぎ、ぐ!? こ、こいつ……ぐっ!」
アドラメレクの焔を纏った紅蓮真剣*7を振るい猛反撃をこなう。
瞬間的な一撃に審問長が怯み、其処に美森の放った
「雨柳さん、あの男氷結に耐性があるようです!」
「ああ。反応からすると通常の耐性倍率はそう高くないか?」
情報を再度確認しつつ、二人は追撃の構え。
凍り付くことはない物の、舌打ちして審問長は後退する。
(こうも後衛に攻撃が届かないとは、な!)
雨柳達と少女二人の連携は、互いの動きを把握した精緻な物だ。
剣士である召喚師と魔神、さらに
おかげで少女達が支援に、直接攻撃と縦横無尽に暴れまわっている。
ほら、今もアドラメレクを足場に飛んだ少女が、ソロネを一瞬で両断した。
連携の確かさの理由は雨柳の動きが、葛葉に伝わる前衛召喚師のそれである事も一因。
仲魔に適切な指示を出しつつ、自身が前線に切り込む動きは、幾度なく改良を重ね葛葉に伝えられてきた悪魔召喚師の戦闘術。
伝説の悪魔召喚師十四代目葛葉ライドウや、猛将と謡われた十六代目葛葉ゲイリンの技の一端を、確かに雨柳は受け継いでいる。
それは一時とはいえ、ライドウという伝説に名を連ねた少女達にはなじみ深い。
「予想よりしぶといが……幻影の中に落ちていろ」
「おのれ我らの」「目を欺くとは!」
さらに雨柳の仲魔であるアドラメレクの存在も大きい。
火力が高く、頑丈で、飛行可能というシンプルな高性能。
そのうえでオルトロスから受け継いだミラージュブレス*8という絡め手も使う事が出来る。
誇り高い魔獣であった魔神は縦横無尽の活躍を見せていた。
これらの要因から、審問長達は雨柳達を押し切れない。
ダメージレースにおいても、徐々に差が開いきつつある。
支援に呼んだソロネにドミニオンは、すでに大半が落ちた。
(応援は来ないか。ならば仕方ない陣形を立て直し、まずは召喚師から)
10秒が経過し、マカラカーンが消失。
キン、と焔を振り払い納刀する雨柳、その目は審問長を狙っている。
故に支援するドミニオンに
突出し切り込む雨柳を返り討ちにせんとする。
────思考の間隙、雷光が瞬いた。
「が、ぼっ……!?」
光と同時。喉より大量にしぶく赤黒い鮮血。
審問長の喉が、斬り裂かれていた。
血が灼ける匂いを嗅ぎながら、目を見開く。
鍛錬し練り直した抜刀術からの、電撃属性攻撃故に物理反射をすり抜ける"稲妻一閃"による長射程・超高速の斬撃が、音を残して疾り抜けた。
(アイツの卑劣な性格から読んだとはいえ、予想以上にはまったな。
今日は特に調子がいいが、心機合一によるステータスの上昇がさらに上がっているのか)
シロガネについては不明な事が多い。
記憶喪失もあり判明している事実は未だ少なく、雨柳との相性が良いのも何故か分からない。
それでもなお、神造魔人は信頼に値すると雨柳は見ている。
「電撃には耐性ねえな! シロガネ!」
「分かっているさ、消し飛べ異常者アッ!」
怒りと共にシロガネが放つは、熱く美しき、白銀の雷。
「お前らは情状酌量の余地がある場合を除きィ、前提として死刑だあッ!! 成敗!!」
彼もまた、メシア救世主派の反吐が出るほど悍ましい行状に激しく憤っている。
彼が大切に思う少女の親友を、それ以外にも多くの少女達を傷つけてきた。
悪魔とはいえ心を持つ者として、怒りを抱かずにいられようか?
応えは当然ノーだ。激しく怒るに決まっている。
「が、ギぃ……ア」
半ば炭化した審問長が白目を剥き、一方アムブリエルが攻撃をあらぬ方に空ぶった。
その瞬間に1ターン経過。これは紛れもなく、攻撃のチャンス!
「俺が死神から受け取った力の一端だ。
纏めて染みも残さず消し飛ぶがいいっ!」
| 混沌の海*10 | 万能属性魔法 | 敵全体に万能属性で攻撃を行う 相手がLAWの場合威力激化 |
万能に効く混沌の波動が雑多な天使を残らず消し飛ばし爆裂。
高威力の万能を受け、苦悶するアムブリエルを見逃すほど甘くない。
「一気に行くわよイザボー。あの大天使を!」
≪刹那五月雨撃ち≫
「分かっていますよ自分の考える事ですし。……認めたくないですけど」
≪虚空斬波≫
精妙極まりない銃撃が、羽を急所を撃ち貫き。
落下した所を空間すら切り裂く妙技で、首を飛ばされた。
「おのれえっよくも、無力で」「下等な人族風情、がっ……!」
片方が倒れようとも、もう片方が回復すれば延々と継戦可能な厄介な天使。
だろうと2体一気に斃れればどうしようもない。
アムブリエルと天使は此処に全滅した。けれど。
「オぉお大ォおおお汚於ぉオぉOオぉ御オオっ!」
混沌の海に呑まれつつも、ロザリオの効力で一命をとりとめた審問長。
雨柳にとどめを刺されるよりも早く、両腕を広げ宙に浮かぶ。
「これは……デジタライズが暴走しているというの……?」
驚きを込めた美森の言葉は当たっている。
メシア救世主派が開発した試作型のデジタライズは、適合すれば大天使の力すら宿せる。
だが、同時に元のデジタライズに比べ安定性が著しく低い。
────その不安定性を、逆利用できれば?
悪魔合体のように、この場で朽ちた天使の残骸を取り込み審問長は新生する。
「神ヨ、我らが救世主よ。敬愛する聖女よ。
此れが我が宿命なのデしょウか……!」
蝋人形の如き白色の巨大な十字架に、人が埋め込まれたかの如き悍ましい姿。
その中央へ嵌る審問長の顔、瞳からはどす黒い血涙が流れ続ける。
「ならば私はまっとうしましょウ。
審判の体現者として、永劫に異端を虐げ続ケる。
極限の法悦とトモニ!」
\カカカッ/
| 偽聖柱 | インクイジター | LV86 | 氷結・電撃・精神にかなり強い 衝撃・破魔・吸収 魔力無効 ?? に弱い |
かつてある周回にて世界を滅ぼす一因となった、聖柱とは名ばかりの劣化コピー。
悪辣なる天使が、此処へ攻め入られた時の備えとして残した術式が発動した事で、誕生したこの世ならざる人魔が混ざり合った存在。
命全てを燃やす偽聖柱の
《ヒートライザ》
「泣き叫び、汚辱に悶えヨ!」
| アンティクトン | 万能属性スキル | 敵全体に万能属性で特大威力の攻撃を1回行う 全能力ダウンの追加効果 |
万能特大魔法の威力は絶大。
最低でもパーティが半壊し、さらに全能力の低下が効いてくる。
この一撃で戦局は一気に自分に傾いた。そうインクイジターは考えたが。
≪サマカジャ≫
≪慈愛の祈り≫
≪≪サママカカジャ≫≫
暗黒が弾ける寸前に、聞こえた詠唱。
それが誰の物か見分けるよりも早く、銃弾と呪殺魔法が飛んできた。
「ぐご、なニを!?」
攻撃を受け、たじろぐインクイジター。
その目は驚愕に見開かれた。
何故なら雨柳達の数は一人も減っていない。
誰も彼も、大なり小なり負傷しているが死んでいない。
「汐音、左文字。よく来てくれたぜ」
「回復よしと。他の人達が頑張って通してくれたからね。
間一髪だけどいい感じだに合体魔法が入ったよ」
「うむ。掲示板に感謝であるな
それはそれとしてデクンダをせねば」
それどころか悪魔と人の数が増えている。
女神イシスと鬼女ランダを従えたデモニカ姿の女性は
妖精オベロンを従えた白い軍装の男は
多数の敵を突破して駆けつけてくれた彼らの助力は、渡りに船。
何せ、合体魔法によるサママカカジャ*11は味方全体の魔法防御力を2倍にする効果を持つ。
その効果がなければ前に出た雨柳かシロガネは落ちていただろう。
頼もしい仲間の合流に、笑みを隠しつつも情報を共有する。
複数人からの機械的、霊的なアナライズにより耐性は読めた。
「即死はともかく、呪殺は効くようであるな」
「150%程度かな? 氷結電撃は無効じゃないけどBSは期待しない方がいいかも」
「なら攻め手は大体決まりだな。イザボーちゃんは支援、美森ちゃん主体で頼む」
即座に戦術の構築が完了。
何も万能無効だの、すべてに雑に強いという耐性ではないのだ。
弱点があり、耐性がない属性があるなら幾らでも取れる手段は、ある。
「オ、おのれ! 何人増えた所で同じダ!
むしろ獲物が増えたこ」
「残念だけど、答えはノーだよ」
インクイジターの言葉を遮り、汐音がデモニカを最大駆動。
黒と灰の鎧は、伊達ではない。
各所が展開し、特殊フィールドを形成する。
「あなたにはもう何もさせない。
────<
あらゆる敵に先んじる、時間操作の如き速さを味方に与え。
「続いて、<
味方全体の攻撃力を引き上げる。
デモニカに蓄積されたエネルギーを解き放ち、展開する二重の特殊フィールド。
瞬間、彼らが開始するのは、疾風怒濤の猛攻!
≪デカジャ≫
≪
≪
≪挑発*12≫
イシス、オベロン、イザボーの魔法が展開。
次ぐように、左文字が手招きするような印を結び、インクイジターの防御力を引き下げた。
「今だ! 一気に叩き潰せ!」
「応よ!」
同時に地を蹴り、獣の如き猛々しさで雨柳は全速疾走。
退魔刀<バルムンク>に付与された呪殺属性によるオーラが、戦いで流した血がなびく。
(ここ、だ!)
歩法を用いて一歩毎に加速しトップスピードへ。
ランダとシロガネの呪殺2連を受けた左足がくじけた敵の、膝を蹴り舞い上がる。
頂点へ達した跳躍が地へ向けて反転すると同時に、刃を振るう。
「らああああああああっ!!」
気合いの方向と共に放たれる渾身の斬撃。
外道の面影を残す、顔を真っ向から斬り砕く!
| 物理スキル | 敵に絶大な衝撃を叩きつける高位の剣技 低確率で気絶を付与 |
| 呪殺高揚 | 自動効果 | 所有者の呪殺属性攻撃の威力が150%になる |
「ぎぃ、げェッ……」
どす黒い血が広がる頃には、雨柳はすでに離脱。
中央の頭部を破壊され、インクイジターの白い巨体が傾ぐ。
続けざまの弱点攻撃からの気絶により、わずかながらも貴重な隙が産まれた!
「さあいよいよフィナーレだ!」
数秒の隙をついて、
最大の火力を持つが故に、手番を後に回していた少女に。
フィニッシャーの美森に、力を授けた。
| 力のドナム | 補助効果スキル | 味方単体の力依存攻撃の威力を1.5倍に引き上げる |
「今日はあなたが主役だよ東郷ちゃん。
さ、カッコよく決めてみせて!」
「──────はいっ!」
最早言葉は不要。魂を込めて少女が解き放つは至高の一撃。
≪至高の魔弾!≫
苦しみ抜いてなお、輝かしさを失わない魂を体現するかのように。
清冽な蒼の魔弾が、偽聖柱を貫く!
「ば、ガなぁ死ネルか我は私もっト」
十字架の中央にある顔を撃ち抜かれても、インクイジターは死なない。
四つの先端に目のみを、口や鼻のみを浮き上がらせ、言葉を紡ぐ。
機械式にしてLV90を超す大悪魔は、まだ生きている。
雨柳達の攻撃をしのぎ切れば、なおも暴威を発揮するであろうが。
「未熟ナル果ヲ、麗シき黒髪を、苛みたい」
「────いいや、貴様は此処で死ね」
残念ながらインクイジターは此処で死ぬ。
気絶による行動停止からの、汐音によるバフはあくまで保険。
もうすでに死刑台への、階段を偽聖柱は登り切っていた。
「遅すぎるのかもしれない。犯した罪には足らないのかもしれない。
だろうと貴様は今、此処で死に腐れッ!!」
「ああ! 燃やしてやるぞ貴様の全てを!」
中空に浮かぶ魔神の、魔法使用が為の精神統一はすでに終わっている。
アドラメレクが膨大な魔力を注ぎ込み、創り出すは朱き焔。
緑の目が、照り返しを受けて不可思議に輝く。
────アドラメレクはかつて魔獣であり、今は魔神である。
根本的に悪魔であり、人間とは思考もあり方も全く違う生命体だ。
だが、それでも雨柳という男と通じて人の感情を学んできた。
救えた喜び。悪への怒り。犠牲者への哀。生きる楽しさ。
故に召喚師と、かつて達の因子を持つ体になっても、共に行くと決めたのだ。
魔神は力を解き放つ。是は太陽神たる我が焔!
「────この一撃で消し飛べ!
メレク・シェメシュッ!!!」
| 火炎属性魔法 | 敵単体に火炎属性大ダメージを与える ダメージは |
2倍となった魔法防御で、魔神が持つ太陽神の威厳*15で引き揚げられた威力。
膨大な熱量のまま荒れ狂う太陽は、インクイジターの中央に着弾。
穿たれた穴から中に、中央から先端まで外より、内外から焼き尽くし────断末魔すらあげさせる事無く爆散せしめた。
後に残るは中空に舞う大量の灰のみ。
勝利を祝う紙吹雪の如く、邪悪の残滓は散らばっていく。
灰は巻き起こる気流に巻き上げられ、空へ昇る。
破壊され大穴が開いた倉庫の天井から、空へ。
朝焼けを迎えた空から降り注ぐ雨はやみ、雲を切り裂いて太陽が見えた。
透き通った冬空の下、本条二乃は大きな校舎を見上げていた。
少しだけ心細そうな様子を、雨柳は遠めに止めた車からうかがっている。
(学校、行ってみたいんです。
これまで行けなかったから勉強して遊んで、友達に……できたら彼氏も作れればいいなって)
二乃の望みは学校へ通う事。
だから雨柳は、あれこれ伝手を通じて聖華学園への入学を取り付けた。
先日何らかの事件があり後処理に時間がかかっていたようだが、其処は元より異能者保護を目的とする学園。
二乃と同じ京都出身の人間を始め、多くの転入生を迎える予定だった事もあって、手続きはすぐに完了した。
数か月間の記憶を切除した二乃は、蘇生の後遺症で昏睡していたという説明を受け入れた。
もっとも雨柳達の事は覚えていないが、苦しむ記憶がないならそれでいい。
少し心細げな様子の二乃は、一歩を踏み出す。
するとすぐに彼女を迎える学生がいた。
明るい髪の少女────雨柳は知らない事だがヒーホー属性の少女が二乃の手を引いていく。
他にも何人かの生徒が集まって歓迎してくれているようだ。
二乃の驚いたような、嬉しそうな顔からすると知り合いもいるらしい。
これなら、大丈夫だろう。
「何とかなったようだね。
あの子の望み通り、良い学校生活を送れるさ」
「きっと送れるさ。あの子なら。
佐々木の事務所行くぞ。美森ちゃんイザボーちゃんにあわねえと」
「なあ雨柳。渡す物を忘れてはないよな」
「な訳ないだろ。ボケが始まるには早すぎるわ」
次の目的地である
目的を果たした事への達成感と、次の目的への意思があった。
────キリギリス・ヤタガラス合同によるメシア救世主派掃討作戦は成功裏におわった。
機械式でLV90を超す大悪魔、偽聖柱インクイジターの討伐。
その報告に沸き立たない者はいなかった。
この勝利が決め手となってヤタガラス・キリギリスは墜天使を圧倒。
そうしてこの基地におけるメシア救世主派掃討作戦は完了した。
雨柳達と、それ以外の怪盗団や他のDB達が挙げた戦果は多大だ。
大量の墜天使に、黄道十二星座の天使三体、そして主目的の幹部2名。
更に並行して行われた強襲により、パトロンの捕縛なども出来た。
メシア救世主派にとっては少なくない打撃となるだろう。
だが、この日の勝利は新たなる戦いの始まりに過ぎない。
倒すべき敵も、救うべき人も、特に後者はまだまだ多いのだから。
その上敵味方問わず、新たな来訪者もこの世界へ漂着している。
世界を救う戦いは依然として続くのだ。
いつか平和になるその日まで。
────――彼らの戦いは第三段階に移行しようとしている。
「うわっ!? また雨柳さんが倒れてる!?」
「シロガネ君もいるよお姉ちゃん」
「雨柳さんなんでいつもこうなっているんだろ。LV高いのに」
…………なんて事を知る由もなく、雨柳達は今日もNot元気に脳破壊されていた。
まるで殺虫剤をかけられたゴキブリの如く、痙攣するアホ二人。
その向こう側でやってしまったと頭を抱えるのは、二人の少女。
ふわりとした淡い色の髪の少女と、美森である。
「えーあーその、私達がついうっかり、聞かれてしまいまして」
「くっ伊予島さんと自分の迂闊さが恨めしい」
「何をしてるんだお前達は……」
後悔する彼女達をジト目で見るのはアレックス。
濃い茶色の髪をリボンで結んだ彼女はこのビルには珍しい成人女性である。
彼女はこの度の顛末を知っていた。
本日雨柳はこのビルに先日のお礼と、何か美森イザボーに関する用事をしに来た。
とは言っても折悪く二人が外出していた為、ついでに似た性質を持つ仲魔を使役するアレックスと運用方法について話しをした。
話した後帰ってきた美森を出迎えようとして……うっかり彼女達の話を聞いちまったのである。
彼女達が話していたのは少し前の沖縄での調査依頼の時の事。
丁度雨柳の方にシロガネが来て慌ただしかった時の事であるが、何でも各地で暗躍していた敵の企みにより、結構な長期間を異界の中で過ごす羽目になったとか。
その敵は倒したからまあいい。問題は話の中身なのだ。
(あの時は凄い事になってましたよねー。
────の4か所同時になんどもイカされて)
(そうそう。おかげで互いの────まで知っちゃったし
結局イザボーもノリノリで抱かれてたわね)
元レズ二人の話は、イザボー含めた三人でダークサマナーに夜這いならぬ昼這いして、見事に返り討ちにされた時についてであった。*16
「はうっ(カクーン」
脳破壊おじさんは卒倒した。
「この世は、虚無だ」
シロガネもうなだれた。
美森イザボーでも結構なダメージが入るのだ。
そんな訳で無様晒していたアホ二人の元へ。
買い物に出かけていたイザボー達が帰ってきたのである。
「全く美森は何をやっているのです。
そんなのだから大和撫子に慣れないんですよ」
ふんす、と息を吐くイザボーは、自分の半身を非難する。
その後ろでは黒髪ショートの少女────最近イメチェンした娘が気を利かせていた。
大人しそうな金髪の少女と一緒に、一見清楚な印象の桃色の髪の少女を密かに他の部屋へ連行していたのだ。
得意技:業務用ゴムマウントの友人がおっさんにとどめを刺す前に、二人で連携して引き離すファインプレーであった。
「……おお、イザボーちゃんも帰ってきたのか」
「わ、雨柳さんが急に復活した!?」
「復活って何のことだ? 何かあったするが気のせいだな。そうに違いない」
「ひえー」
微妙に目が虚ろな雨柳は、気を取り直して本題に取り掛かる。
「悪いけどイザボーちゃん物と美森ちゃん。ちょっといいかな?
渡したい物があるんだ」
「渡したい物、ですか?」
「今日は一日フリーだから大丈夫ですけど」
訝しむ美森とイザボーに提案する。
雨柳にとってこれは今日もっとも大切な用事だ。
何となく雰囲気を察したのかじゃあ後でと、彼女の友人達も離れていく。
「まあ元気出しタマえ。メロンパン分けてやるから」
「うう……タマちゃんの優しさが染み渡るよ。
風ちゃんに匹敵する高い姉成分を感じる」
「姉成分……?」
事情を知るシロガネもついでに離れていく。
「じゃ、東郷後でねー。お菓子作り楽しみにしてるから」
「イザボーちゃんの服運んでおくね」
年頃の少女達らしい可愛らしく、屈託のない声。
声をかけた中には、雨柳も知る姉妹。
それが嬉しく感じられた。
「友達が出来たようで何よりだな」
少女達が声を掛け合い、離れた所で本題に入る。
いつもよりも穏やかな声で雨柳は話す。
「……はい。そのっちや銀だけじゃなくて皆私達と仲良くしてくれて。
色々相談したり、遊んだり、そういう事が出来ています」
「今日も服を買いに行ってきたんです。
三日月さん達と一緒に合う服を探そうって」
二人の表情は前よりも明るく見える。
特に美森は京都戦前に会った時、空元気に見えていた時よりも大分。
「それに、佐々木さんも私達を大切にしてくれますから。そうよねイザボー」
「ええ、私達に居てくれていいって。抱きしめてくれましたから」
「そっか。全くアイツにはかなわないなあ」
今は外に出ている悪魔召喚師、初めて会った時から他人の事ばかり想っている男は、今も人を救い続けている。
今はもう自分より遥かに強くなった男は、この少女達も救っていたのだ。雨柳が大切に想う恩人の娘と同じように。
「二人とも幸せそうで何よりだ。
事実を確認した所ではいこれ」
雨柳は、頷くと手紙を差し出す。
爽やかな青色の封筒に包まれた手紙を。
「多くの人達に大切に想われている君達に、渡しておくべきだと俺は思ったね。
と、いう訳で変なおっさんは去るから、二人で読んでみてくれ。それじゃあな」
「は、はあ……この手紙誰からのだろ?」
そそくさ、去っていく雨柳を背に二人は手紙を読み始める。
訝し気な表情も一瞬、すぐに表情が変わった。
「ちょっとイザボー、これって……!」
「はい……! 私達の……!」
この手紙を書き、雨柳に配達を依頼したのは、鷲尾家の一人息子。
すなわち美森とイザボーにとっては、弟にあたる少年である。
年少の彼には、細かな事情は分からない。
ただ姉が何か表向きは死んだ事にせねばならない程の過ちを犯して、もう二度と会えなくなってしまった事だけは分かった。
とても悲しかった。けど、秘かに両親が姉は親友二人と共に居ると話しているのを聞き、一つ彼なりの決意をした。
────大好きなお姉ちゃんに、元気でいてくださいと伝えようと。
だから両親から姉の付けていたリボンと同じ色の封筒を貰った。
姉が嫌な顔一つせず教えてくれた通りに丁寧に字を書いた。
母の知り合いらしいおじさんに届けてもらうようにお願いした。
手紙には頑張ってくださいとは書かない。
少年の知る限り姉は誰よりも頑張っていたから。
だから元気でいてくださいと書いた。
年少の少年らしい簡素な内容。
だけど手紙には心からの言葉が並んでいた。
それは、少女達の心を動かしたようだ。
「ふ、がいな、い……お姉ちゃん、でごめん、ね。
わたしっ頑張って、生きる、から……!」
「ぐすっ……ああ、もう美森は泣き方がきたないん、ですよぉ……。
あなたも、げんきで、ね」
二人が流す涙は、絶望とも哀しみとも違う物。
暖かい雫は、込められた思いの賜物か。
少女達にどうか幸せな未来を。彼女達の英雄が、大切な友達が、今も想い続ける家族が、少しでも助けられればと思う男が確かに祈っていた。
◎主人公紹介
・雨柳巧 <デビルサマナー><剣士> LV73
シリーズポジション:ニッカリ及び悪魔討伐隊(真・女神転生Ⅳ Final)
レイブン(ソウルハッカーズ2)
キリギリスの一員として活動している元ヤタガラスの悪魔召喚師。
今回は大人として悪魔召喚師としても割と頑張り、とうとう【導師】の域に到達し、強力な火力を持つ魔神アドラメレク等も仲魔に加わったが敵はまだまだ多い。
本人も知らない過去周回の因縁も追いかけて来るし前途多難である。
次回は少し間が空きますが、ドリフターズか裏闘技場関係の短めの話を書いていこうと思います