真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス-   作:ローグ5

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久しぶりに話とキャラを思いついたので急ピッチで作成し投稿しました。

前作と割りと作風が違ううえ、戦闘描写がゴア目になっているのでご了承ください。


20XX:煉獄の炎は死神の赫怒

 ───―世界の滅びが近づいている。

 

 これまでならば一笑にできたそんな言葉は今現在の世界では笑い事ではない。

 

 2015年に起きたある問題をも乗り越えて続いていた世界は、今年に入ってから急激に軋み出した。

 アメリカの実質的内戦に欧州全域での異様なモラル低下。アジアでも中国は不穏さを強め安全神話が保たれてきた日本でも猟奇事件や未成年者の行方不明が多発。

 まるで急激に世界が発狂し自殺を決意したかのようであった。

 

 さらに追い打ちをかけるように起きた大規模爆破テロ。

 セプテントリオンなる謎の存在の一角であるドゥベにより引き起こされた被害は甚大な物で、人的・物的共に桁違い。

 それこそ解決できなかったならば世界は滅びていたのではないかという程。

 

 そんなマッポー的状況から世界は破滅に向かいやがて決定的な"何か"が起きると信じる人々の数は増え続けている。

 それは市井の人々だけでなく、裏社会の悪魔とかかわる人々の間でも同じだ。

 ある者は滅びの中生き残る為異界へと引きこもり、またある者は己の欲を満たす為に悪へと走る。

 そして彼らの裏では世界を狂わせ壊そうとするメシア教やガイア教。

 人口を削減し徹底した管理社会を創り出そうとする三業会等が互いに争いつつも暗躍する。

 世界はまさしく闇に包まれようとしていた。

 

 しかし、それでも世界滅亡を防ごうと動いている者達は多い。

 特に日本では再建されつつあるヤタガラス、自衛隊警察共に治安の維持へ日夜励んでいる。

 そして彼らに加勢するように世界各地で戦い続けているのは漫画やゲームやアイドルといった所謂サブカルチャーをこよなく愛する悪魔関係者の集団『キリギリス』。

 

 ある一介のダークサマナーが音頭をとって成立した緩やかな同盟組織は先日のドゥベ戦で戦果を挙げただけでなく、荒れた世界で救いの手から零れ落ちそうな人々を救い続けている。

 

 彼等は荒廃していくこの世界だけでなく、絶望に堕ちた被害者たちの最後の希望と言えよう。

 

 

 


 

 

 

 ガタン、ゴトンと揺れる車はまるで処刑台への直行便の様。

 日本のとある地方都市の郊外にある山中、曲がりくねった山道を走るトラックは道の幅を考えるとやや大きすぎる。

 近隣には高速道路もあるのにまるで人目を避けるかのようにくねった旧い道を走っているのだ。

 その有様には疑り深い、もしくは勘の鋭い人間ならば「このトラックは不審だ」と感じるかもしれない。

 

 その感性は正しい。が、不審なトラックの荷台の中身を見ればそう感じた者達もまさかそこまでと思わず驚愕する事であろう。

 トラックの荷台に詰め込まれているのはいずれも年若い少女、それも後ろ手に縛られた者ばかりだ。

 薄暗い内部を見れば詰め込まれた少女達は皆顔立ちが整っているものの、目は絶望と怯えのあまりか濁り切っている。

 抵抗し殴打されたのか頬を腫らした少女や、痛めつけられた身体の何処かをかばうような体勢をとっている少女も多い。

 ましてや彼女達の目の前で行われている光景からすれば無理もない。

 

「やだっやめて、やめてください……!」

「フゥ―ッすべすべで胸もある、いい、いい」

「速く入れろよオイ! 俺もそのガキに中出ししてえんだけど!」

 

 トラックの荷台の前部では黒い覆面の男が一人の少女を押さえつけ、もう一人の男がそれをはやし立てている。

 実に胸糞の悪くなる光景だ。

 

 抑えつけられている少女は高校生程だろうか。

 海外の血が混じっているのか白い肌に色素の薄い髪をした、可憐な少女だ。

 波打つ艶やかな髪も、品のある服装も周囲から大切にされてきた事をうかがわせる少女だった。

 目に涙を浮かべ必死に抵抗する様はあまりにも痛々しい。

 

「う、うるさいっ」

「うあ……っ!」

 

 そんな少女の顔面を覆面の男は殴りつけた。

 骨を打つ鈍い音が響くほどの力で、殴りつけたのだ。

 

 身体の、いや魂まで響く痛みと恐怖に少女は動けなくなった。

 当然の事ではあるが、年若い少女と青年男性の力は全く違う。

 頭がおかしい男の固くて大きい石の様な拳で殴られ、痛めつけられても抵抗を続けられるほど普通に生きていた少女は強くない。

 

「大人しくしろ……殺すぞ」

 

 惨たらしく脅迫する男を恐れ、殺されるよりはましだと少女は固く目をつぶる。

 震えながら顔を背け涙を流す少女の姿は胸が締め付けられる。

 その痛ましい様に何も感じる事無い男達はむしろ興奮を強めていく。

 

「そのかおかわいい、かわいいすごく良い」

「クソっスマホの充電温存しときゃよかったぜ。こんなそそるガキがいるなら撮影したくなるもんだってのになぁ」

 

 引き裂かれる服に少女だけでなく周囲からも漏れる嗚咽。

 余りにも悲惨な光景はこの世界の荒廃を証明するかのよう。

 世界の残酷さそのままの凌辱はこのまま少女に癒えない傷を与え、その後の地獄の前奏曲となるのだろうか。

 

「おっ……おおお!?」

「なんだあっ!? トラックが急に止まりやがったぞ!? お楽しみ中に何をしやがるっ」

 

 

 掣肘するかのように突如急ブレーキを上げ停車するトラック。

 急制動につんのめる男達は慌てて手近にあった物に捕まり堪える。

 そうして一体何が起きたのかと推察し声を上げようとした瞬間、背後から刃が伸びた。

 

「の、ごぉっ!」

 

 片手剣の突きは片方の男の脳天を過たず貫き、そのまま半回転し中身を殺伐とかき混ぜる。

 剣の動きは荷台の壁を切り裂く動きと連動し切り下げられ、三角形状に切り下ろされた壁の一部が蹴り飛ばされた。

 

「ごぺっ! ぎゃっあぎいぃっ!」

 

 男の腹に壁が直撃し腹を抑えてうずくまる、暇すらも与えずに垂れた頭を押すようにして無慈悲な斧の一撃が叩き込まれる。

 頭部を刺し、壁を切り裂き、もう一人の頭部を叩き潰す。瞬く間に行われた早業は時間にして数秒にも満たない。

 熟練の手際を感じさせる業であった。

 

「やはり悪魔が混じってやがるか、妙に頑丈だなこのクズ共。

 とどめ刺してやっから死に腐れや」

 

 そのまま二人の心臓を差し、ついでにと股間を踏み潰した男は侮蔑と共に吐き捨てる。

 荷台へ入ってくる男の姿を、はだけた服を掻き合わせた少女は呆然と見ていた。

 

 男は180cm以上の長身で昏い色の所々が補強された頑丈そうな服装をしていた。

 薄明りに照らされた顔立ちは、東洋と西洋の血が混じっているのか存外に整っているが目つきは鋭い。

 先程二人を殺した片手剣と斧を握った男ははふっと、息を吐き少女達を安心させるようにゆっくりと宣言する。

 

「遅くなって悪いが、俺は君たちを助けに来た。それとそこの君」

「ひ、ひゃい」

「立ち上がるのに手は必要、かな?」

 

 剣を持った男の名前はカナエ・ハイライン。

 世界救済オタクサークルキリギリスの一員として日々活動するデビルバスターの一人であった。

 

 

 


 

 

 

 ──────俺がどんな環境で育ったかって? 

 まぁ見ての通り愛溢れる幸せな家庭で育ったとは到底言えねえな。

 

 俺が生まれたのはイギリスの田舎にある割とよくある古びた退魔の家だ。

 貴族だけあって金はそこそこあったが、お世辞にも住みよい家とは言えない。

 何せ俺は日本人の女、俺を産んでさっさと手切れ金片手にどっか行った前当主の妾から産まれたからそれはそれは肩身が狭い。

 日本に住んでると良く分かんねえと思うけど、ヨーロッパだと東洋の血なんてデバフだよデバフ。

 

 しかもその家は代々火炎系の魔法を使う事で有名だったんだが、俺の生まれ持った魔法の属性はチョイと違うマイナーな核熱属性って奴だったうえにその他の素養も微妙。

 この出来損ないが! なんて言葉は毎日のように聞いたね。

 

 で、家の恥とみなされた後は想像通りのコースだ。

「風の聖痕」だっけな? アレは読んだ時正直言うと実家そのまんま過ぎて笑った笑った。

 東西問わず選民思想持った異能者一族なんてロクなもんじゃないわな。

 もし「閉鎖的な環境における人間の残虐性について」なんて研究があったら俺は貴重な証言を提供して、貢献できると思うよ。

 

 それでいじめられっ子の鬱鬱としたカナエ・ハイライン君──―当時はそんな名前じゃなかったけど、ヘタレな少年は16歳まで冴えない人生を送っていたわけだ。

 でもそこへ状態異常への核熱属性と言わんばかりに追い打ちをかけられた。

 ファントムソサエティのよくわからん実験、なんでも異能者を弄ってどうこうとか言うのの為にハイエースされちまった訳だ。

 

 で過酷な実験に使われたわけだが実家の対応がこれまた凄い。

 うん、俺の為にファントムを敵に回すのを避けたとか使う金がもったいないというのもあるんだろうが、無能者は身内だろうと助けない厳格なイメージづくりに利用したいとの事で、微動だにしなかった。

 され竜のラキ家的な方向性でも目指しているのか、いやぁ田舎の老人の考える事は先進的な若者には分からないでございます。

 

 そのまま俺はアレコレ実験に使われ、多少辛い思いをしてその内死に晒すと思いきやそうならなかった。

 ファントムと実家の予想外な事に俺はある神の転生体だったらしい。

 流石にここじゃ話せないけど、日本でも存在を知っている人も多いだろうなってくらいには高位の神だ。

 

 実験中マグネタイトを流し込まれたところに運よく覚醒した俺はファントム側の護衛を殺して、他の実験体にされていた人と共に研究所を壊滅させた。

 天海市で死んだフィネガンみたいな化け物がいたらそうはいかなかっただろうが、護衛がそこそこ程度で助かったな。

 

 俺は奇跡的な生還を果たしたわけだがそうなると困ったのは実家だ。

 何せこれまでさんざん虐めてきた雑魚が一族最強の当主をマウントとってボコボコにできるような化物になっちまったんだから、10人程半殺しにした段階で俺に対してへいこら媚び始めた。

 

 それで人生の絶頂だと俺は最初は気に入らない奴をボコるのやら貢物を楽しんでいたんだがやがて馬鹿らしく、空しくなってきた。

 何せ生まれで虐げられる側が生まれで虐げる側になっただけなんだ。

 ああ、己の人生の馬鹿馬鹿しさを直視するとやってられねーなコレとなった。

 

 そんでまぁ虚しさの決定的な物は、これまで俺の事をたまたま人の形をした埃のようなめて見てた同じような家の後家さんが俺の胤が欲しいと言ってきた事だ。

 何でも息子の出来が悪く代わりの跡継ぎが欲しいんだとか。

 

 流石にムカついて「それはあなたの教育が悪いんですよね?」的な事を言いまくったら泣き出したけど俺そんな悪い事いったかな? ……言ったかもしれない。

 別にその後家さんに特になんか思い入れがある訳じゃなかったんだけど虚しさの閾値を超えた感じになった。

 17歳で一丁前に愛だの正義だのはまやかしだなどと不貞腐れた俺は親戚をボコって強奪した金を片手に旅に出た。

 ……よく考えると母親と同じようなことをしているのが嫌だなぁ。

 

 で、旅に出た俺はまあだらだらと気に入らないクズを殴ったり女の子と遊んだり、適当に過ごした。

 誰を尊重する必要もなく誰かに尊重される必要もない、まあ気楽だけど何処か腐れた日々。

 どうせ転生体だろうが何だろうが大して価値があるわけない。

 せいぜい惰性で生きて適当に死ぬ……それだけの無価値な人生がお似合いだと腐れてた。

 へらへらへら冷笑家気取ってアホ面晒してたよ。

 

「何だ坊主。人を小ばかにしたような笑みを浮かべおって。

 若者なら若者らしくもっとシャキッと笑わんかいっ」

 

 ────―そんな時に出会ったのが俺の師匠となる爺さんだった。

 

 

 


 

 

 

 夜中の道を慎重に、それでいて法定速度よりも速い速度で何台もの車が一定の距離を保ち走っている。

 頑丈そうな作りの多い車の何台かのルーフには人か、はたまた小柄な悪魔が得物を構え伏せている。

 先程のトラックとは別の意味で剣呑な集団だった。

 

「っ……ん、利くな」

 

 最後尾の一台の中、カナエは独自に改良されたマッスルドリンコをキメる。

 この地方で匿われているウィッチドクターが改良したそれは成程、市販品以上の効き目がありそうだ。

 腹の底から活力が湧き上がってくるのを感じる。

 

「ウチは物資供給の固さだけが取り柄ですからね。外部から来ていただいた援軍にはこれくらいはさせていただかないと面目が立ちません」

「や、正直コレかなり助かりますよ。俺は悪魔も使うからマグネタイトはいつもカツカツでしてね。

 マグネタイトとこいつを融通していただけるだけでもありがたい」

 

 カナエが同行しているのはこの地方都市近隣における旧家の退魔師、良心的なフリーランス、さらに退役した自衛隊の悪魔関連部隊員等が結成した有志連合である。

 GPの劇的な上昇や凶暴なカジュアルサマナーの増加に対抗し治安を守る為集まった彼らはこの度攫われた少女達の救出作戦を決行し、十人以上の少女を救出する事が出来た。

 

「サマナー、やはり来たぞ。予想通りのクズ共が30近く来ておる」

「報告センキューヴィネ。で、件の美礼(ミレ)つーボスもいるのか?」

「ああそれらしき女ならいたぞ。流石に細部までは分からんが、周囲の態度からすると影武者じゃないだろう」

 

 カナエの使役するソロモン72柱の一角であるヴィネの言葉に周囲の雰囲気がこわばる。

 護衛の少なさから薄々気づいてはいたがやはり罠。

 この地方で暗躍するカジュアル集団の一つ、悪魔人間の女をボスとした奴らは邪魔な有志連合をおびき出して殲滅するつもりなのだろう。

 先程の救出劇は護衛対象を抱えさせ、こちらの負担を増やすつもりか。

 

「後は、あれよ。

 サマナーや仲間の探していた御影町とやらの残党の悪魔人間もどきも見つけたぞ」

「……あーあーあーそうですかい。やっぱゴミクズはゴミクズ同士でつるむもんだなァ。

 殺しやすくていいや。今日中にあの世へぶち込んでやろう」

 

 すっと細められたカナエの目には剣呑な殺気がこめられ、緊迫した空気が車内に満ちる。

 同乗した退魔師や異能者には冷や汗が浮かぶがそれは当然の事である。

 カナエはレベル60に至った超人クラスのデビルシフター。

 人外存在が跋扈する悪魔業界においても怪物に等しい強さを持った存在なのだから。

 

「……おっと、失礼しました。どうにもこらえ性がないものですいません。

 じゃ、プランBの通りこの先の橋で俺が迎撃しますわ」

 

 車の行く道には、山中には必要と思えない程立派な鉄橋がかかっていた。

 政治と金かなんかの癒着による物なのか、4車線を備え頑丈そうな橋は()()を撃っても角度を調整すれば溶け落ちることはないだろうし好都合だ。

 ヴィネをひっこめると、扉を開けて降り立とうとする。

 

「……いいのか? 私達も良くは知らないが御影町ではレベル70の化け物も出たのだろう? 

 あの美礼というボスも最低50後半の上に手下が多い。

 それに大半は君の標的じゃないだろう?」

 単独は危険では────」

 

 そもそもカナエが立ち寄ったのは、御影町で暗躍していたカジュアルの残党数名がこちらのカジュアルへ逃げ込んだという情報を入手したのがきっかけだ。

 ボスである高位超人に統制され街を裏から支配していた吐き気を催すクズ共──―仲間を盾にあの場から奇跡的に逃走することが出来た何人かを追跡する最中、有志連合の作戦にキリギリス内のコネクションを通じて参加する事となった。

 つまり、本来カナエの標的はこの地方のカジュアルではないのだ。

 

「いーんですよォ。

 どうせ同類のクズでしょうし……それにあの数と質相手に俺以外が戦ったら死人が出ますよ? 件の奴以外にもレベル30越え何人かいるんでしょ?」

 

 不敵に笑うカナエの言葉は傲慢ともとれるが事実でもある。

 

「なら俺一人で行った方が良いや。別動隊もいるかもしれねえしそちらを張っていてください」

「……すまないな。本来よそ者で私よりも若い君に、負担をかける」

「気にしないでくださいよ。このご時世に犠牲覚悟の救出作戦なんて、俺の実家のヘタレ共に比べれば、いや比べるのも失礼なくらいあなた達は立派ですよ。

 じゃ、また後で」

 

 そう言ってカナエは走行中の車から降り立つ。

 衝撃を転がって吸収すると先程の言葉は頭に血が上った事もあり傲慢だったかもしれないと考える。

 少しばかり反省し、気を取り直して悪魔3体を呼び出した。

 

「来い。ムラサキカガミ、カマソッソ、マヤウェル」

「おやおや三体召喚とは豪勢じゃのぉ」

「サツリクノジカンカ! ナンニンクビガカレルカナ?」

「アハッ殺る気満々だねサマナー。今日はあいつらを殺すの?」

 

 多数相手故に召喚する悪魔は、魔法に強い怪異に、銃撃を反射する凶鳥、回復に長けた神樹の三体。

 いずれも呪殺への耐性ががちがちに固められた仲魔達を従え、カナエは悠然と歩きだす。

 その先にはカジュアルサマナーたちが乗ってきた車の群れ。

 

「──────ああ。吐かせる為に一人は残すが後の奴らは、皆殺しだ」

 

 車から降り展開してゆく敵に対して、カナエの目は剣の様に鋭くなり憤怒と共に口元が歪む。

 此処からも見て取れる、嗜虐心を顔に浮かべた敵に対して、黒く燃えるソウルのままに叫ぶ。

 先日目にしたある光景、それが揺るがぬ怒りを励起し、炎のように零れ落ちる。

 

「テメエらクズに相応しい惨死をくれてやるよ……! 伴死装纏(デッドリーチェンジ)

 

 宣言と共にバキバキと奇怪な音を立てて"転神"していくカナエ。

 男の長身を覆いゆくは黒く鋭角な骨格じみた外骨格。

 何処か骨を思わせるパーツを中心に構成されたそれは闇よりも暗く不吉印象を抱かせる。

 禍禍しくも何処か雄々しい死の戦士の具現化であった。

 

「 冥府惨鬼(プルートー)殺戮開始(キルアクティブ)! 

 

 恐ろしき殺戮の御姿の正体、カナエの前世たる神の名はプルートー。

 ギリシャ神話のハデスが原型となった、ローマ神話にうたわれる強大な黒き冥府の神であった。

 

 

 


 

 

 

 俺の師匠となった爺さんは有体に言って変な人間だった。

 

 爺さんは金稼ぎの為に受けた依頼でかち合った俺をボコボコにし、何を思ったか強制的に弟子入りさせた。

 爺さんは戦斧と片手剣を自在に扱う腕利きのデビルバスターで、詳しくは教えてくれなかったが何でも『封剣士』なる集団に以前はいたらしい。

 今でもよくわからない爺さんだったと思う。

 

 爺さんの訓練はそれはそれは厳しかった。

 座学から実践まで手の抜きようがない物で、今考えるとあれでレベル限界が結構上がった気もする。

 

「カナエよ。お主が腐れているのは、食べ物で例えればゴミ寸前のフィッシュアンドチップスしか知らなかったからだ。

 このような隠れた名店の美味な物を食べれば己がただ、良い物を知らなかっただけだと知るのだな。

 これは当然俺の様な人間との出会いでも同じことが言える」

 

 ただ爺さんは色々な楽しみを教えてくれた。

 暖かく美味しい食事の価値は爺さんが俺に親代わりに教えてくれた。

 あのフィッシュアンドチップスの店は今でも営業しているんだろうか? 

 

「俺が思うに古き良き騎士道の精神、弱きを助け強きをくじく真の王道は極東の仮面ライダーなる特撮に息づいておると思う。

 特に平成初代のクウガは傑作よ。

 CGが古いという者もいるが俺はこのリアリティある戦いの描写が良いんだ」

 

 特撮とかサブカルの知識もなぜか詳しかった爺さんから教わった。

 爺さんから紹介された平成ライダーシリーズはうん、選ばれたピッカピカの完璧超人じゃなくて、ただの人間が誰かを守る為に戦うってのが良いと思った。

 最近はネット配信も充実しているからほぼリアルタイムで見れるのが良いね。

 しかし最近セイバーの終盤見たけどロード・オブ・ワイズなんかこう、強すぎねえ? 

 丁度斧と剣持ってる奴いるし、全盛期の爺さんがレベル80とかになったらあんな感じの化け物だと思う。

 

「ほら、子供の持ってきた花くらい受け取らんか。

 お前はこの子を守り、この子はお前に感謝をささげたのだ。

 お前は受け取る義務も権利もあるんだぞ」

 

 爺さんに鍛えられながら世界を回って悪魔や悪党と戦った。

 その中で人を守る意味を教えられた。

 命を懸けた後に金や物だけでなく得られる物があるって爺さんは俺に教えた。

 

 ああそうだ。"負"しか教えてこなかった俺の実家に対して"正"を俺に教えたのは紛れもなく爺さんだった。

 本来親が教えるはずの物を何年も俺に教え続けてくれたのは爺さんだった。

 かけがえのない物をくれた俺の……大切な師匠だった。

 

 

 ────―そんな爺さんも三年前の東京事変で死んでしまった。

 偶々仕事で巻き込まれた東京事変で強力な悪魔の群れから民間人を逃がす為に、特攻同然の突撃をして死んでいった。

 

「最後に一つ教えたいことがある。カナエよ、辛く苦しい事があってもそれが全てではない。

 マイナスだらけの人生でも生きていれば、プラスに近づいていく事もあると、俺は信じているよ。

 ……少なくとも俺はそうだったからな」

 

 魔法や物理といった攻撃から身を盾にして民間人をかばい、悪魔を殺し続けた爺さんはそんな事を言った。

 そうして笑って、爺さんは最後の一体を殺して倒れ伏した。

 蘇生は間に合わなかったが、その顔は不思議な事に笑顔だった。

 

「……何満足そうに死んでんだよ師匠。まだ話したい事結構あったんだぜ」

 

 まさか俺に涙を流すという機能があるとは思わなかった。

 人間が死ぬのは悲しい事だってその頃には流石に理解していたけど、いざ自分の身になってみると泣く以外何もできないものだとは思わなかった。

 流石に爺さんに申し訳ないから民間人を安全な場所に送ってからだけど、一人で泣くって堪えるものだ。

 

 東京事変が終わってからもしばらくは呆然として何もつかなかったけど、人間っていうのはよくできて居るものでやがて俺も以前のように動けるようになり、ソロでのデビルバスターとして活動を再開した。

 ちょっと現実逃避もあったけど、人間爺さんの言う通り生きていかなきゃならねえからな。

 

 そうして爺さんの墓がある日本を中心に、デビルバスターとしての活動を続けていく内に知己も増えた。

『キリギリス』の面々、リーダー格の佐々木や剣士の雨柳ともこの時期に出会った。

 佐々木の奴、いかにも爽やかイケメンでございって顔してる癖にキレると滅茶苦茶に凶暴になりやがる。

 奴が連続レイプ犯のダークサマナーをどうしたかを見た時は正直少しビビった。

 雨柳の奴アイツ意外とモテるんだよな。

 幼馴染はともかく日本の女性の好みはようわからん。

 

 同業者と知り合う以外にも色々な人と邂逅し、様々な体験をした。

 力の有無にかかわらず救いようがない人間が居る事も、社会も法も灰色で必ずしも人を救わない事も、胸糞の悪い事も改めて知った。

 

 だけどそれでも幸福でいるべき人間も、尊ぶべき物も、この世界にはいくらでもいるしあるって事を俺は爺さんから教えられただけでなく、己の胸の内に確固として刻むことが出来たんだ。

 人を助けてその人が不幸にならなかった事を噛みしめ、嬉しく思えるようになった。

 どうせ守る物もないっていうのもあるが、だから、キリギリスなんて物好きに加わっているのかもしれない。

 

 ああ、そうだよな爺さん、佐々木を始めとするキリギリスのそこそこ愉快な仲間達よ。

 この世界も滅びる程、捨てた物じゃねえよな。

 俺達がクズ共も悪魔も殺しまくって、それでも守る価値がある程度には。

 

 

 


 

 

 

 美礼率いる凶悪なカジュアルサマナー集団は嗜虐心を胸に有志連合の車列を追跡し続けていた。

 彼等のその余裕ともいう態度は、戦力の優越から来るある種当然ともいうべきものだ。

 

 有志連合の側は強力になりつつある悪魔からの防衛に摩耗しつつあるが、たいして自分達はボスの美礼が父親から受け継ぎ洗練させた人間と悪魔を混ぜる邪法により彼らの戦力を上回りつつある。

 しかも先日加入した他の街から来たカジュアルサマナーの残党の持ち込んだ技術により邪法は更に確実性を増していったのだ。

 彼等がこの地方都市を席巻するのも時間の問題であるという事は彼らの頭の程度でも十分に理解できた。

 

「女おんなオンナぁ……! 早くヤリたいっ」

「偉そうなやつをぶん殴ってよぉ……目の前でクヒヒヒッ」

「御影町の時みたいに、楽しみてえ……!」

 

 無論彼等にも美礼の高圧的な態度や、加入そうそう幹部格にされ威張り腐る御影町の悪魔変身者(アウトサイダー)に思うところがないわけではない。

 しかしそれでも彼らは悪魔との合体により強化されたエゴのまま、これからの虐殺と戦禍を脳裏に描き涎を垂らさんばかりにまい進する。

 

「元が精液脳だけにちょいと強化しすぎましたかねえ」

「そぉう? 私にはあまり変わらないように思えるけど」

 

 副官めいて傍に立つ、海獣に似た様相のアウトサイダーに対して、紫の髪をした仮面の女、この集団のボスである美礼は軽く答える。

 

「兵隊は難しい事考えないで、ただこちらの言うとおりに戦っていればいいの。

 飴さえあれば奴らは従う。あなた達の所でもそうだったでしょぉ?」

「まーそうっすね。ウチの頭も超人の姉御もそう思ってたでしょうよ。従う利益があれば万事OKて」

 

 アウトサイダーの男はそう答える。

 己がのし上がってからだと分かるが御影町の統率者達はうまい事飴を与えて部下を調教してたものだ。

 英雄気取りの学生も、よくわからない剣士の美少女達も良い餌だった。

 ウザイ上役はいたが中々楽しい時間が過ごせた。

 

 そんな彼らは鉄橋に差し掛かったあたりで立ちふさがるデビルサマナーの姿を見出した。

 此処は俺が食い止めると言わんばかりの孤軍奮闘に思わず失笑してしまう。

 

「あら、一丁前に足止めしようとしている奴がいるわ。悪魔のレベルからすると私以下だけど」

「……でも見た所結構やりそうですぜ。罠があるかもしれねえし車から降りて全軍で袋叩きにしましょうや」

 

 停止した車列から展開していくカジュアルの兵団。

 下劣愚劣を体現した野蛮な人もどきの群れと言えどその数と力は実際に脅威。

 

「さっさとあそこの雑魚を蹴散らしてお楽しみといきましょ。一番良い子は私が頂くけど」

「俺は小学生が居たら貰いたいですわ。ガキってほら、良い声で鳴きますから。

「ふぅん、よほど良い思いをしたのねえ」

 

 余裕と共に指揮を執る美礼とアウトサイダー。

 ケダモノの軍勢を手足のように操り半包囲して障害となるサマナーを殺そうとする。

 前進すると共に、死神になりゆく男に対しても多少驚きながらも余裕を崩さない。

 

 増長する彼らは勝利を疑わない。

 愚者は己の成功体験のみに固執する。

 致命的な失敗を犯すまで。

 傲慢を咎めるように黒き死神が吼えるまで。

 

「マハムド、ォオン!」

 

 死神特有の全体即死魔法が両腕より放たれる。

 如何なる闇よりも昏い波動がカジュアル達に襲い掛かり魂を貪り咀嚼していく。

 魂すら腐らせる闇の波動は悪魔と合体している者が多くとも、耐性なしで耐えられるものではない。

 瞬く間に何人もサマナーや悪魔が倒れ伏した。

 

「な、なんだよあの化け物はぁ!?」

「怯むな! 弱体化魔法をかけ続けるんだっ!」

「コイツ……破魔なら効くぶぴゃッ」

 

 動揺した隊列を真っ二つに割くように仲魔のスクカジャにより加速した死神が着弾。

 勢いで二人をまとめてバラバラにしながら、目前の男に放つのは二本指による目つぶし。

 

「アッあ゛あ゛あ゛っ!?」

 

 鋸の様に鋭さを備えた指が弧を描いて突きこまれ、眼球どころか奥の脳髄までも、豆腐の様にグチャグチャに砕く。

 そしてそのまま下から弧を描くように片腕を振るい背後にいた男の股間を引き裂いた。

 

「あがあああああああああっ!」

 

 間欠泉の様に吹き上がる血しぶきに悍ましい痙攣をしながら倒れ伏す二人。

 凄惨な光景はこれまで暴虐の限りを尽くしていたカジュアル達ですら息をのむ。

 

 この凄惨な殺戮は死神の師匠の教えである。

 師匠曰く集団戦において指揮官を狙うのは定石ゆえに、指揮官は後方に位置し守りを固める。

 故にまずは前衛を残虐に殺戮し、士気を下げて備えを麻のように乱すのだと師は実地で教えた。

 

「おおっ!」

 

 胸に燃えた怒りと共に死神は更に一人の頭を掴むと顔面から道路へ思い切り叩きつける。

 湿り気のある異様な音が顔面が柘榴のように潰れたことを示していた。

 

「お、お前ら……」

「っ! 何をしているの! 早くそいつを押し包みなさぁい!」

 

 御影町からの仲間三人の惨死に流石に呆然とする副官格のアウトサイダー。

 対して声を上げ手下を叱咤する美礼は流石にボスの風格がある。

 

「まずはこれで削る! メギドォ!」

 

 美礼の放つ万能属性魔法は名前通りほとんどの悪魔や人は耐性を持たない。

 流石にダメージを嫌ったか脅威となる故に死神は体を捻じ曲げるように無理やり躱す。

 其処へカジュアル達が襲い掛かる。

 

「手癖の悪い腕を折ってやれ! 牙折り!」

「ラクンダ! テメエの物のようにしなびさせてやるっ!」

「死ね死ね死ね死ねシねぇっ! ザンマ!」

 

 罵詈雑言と共に発動する物理攻撃に、弱体化及び各種の攻撃魔法。

 それらの大半は躱されるものの幾つかは死神を捉えた。

 異音が響き、死神の力や固さは弱まっていく。

 これこそ格上相手に対する定石、弱体化の集中により格上を引きずり下ろす数の怖さだ。

 

 だが、多数相手に慣れた死神は当然の如く数の力への対処法を熟知している。

 

「全くいつも無茶するんだからもう!」

「マカラカーンを掛けねばのう……あ、コウモリよ狙撃手が要るっぽいぞえ」

「ワカッテイルワ! ハーメンドッイッツモタテヤクダモンナッ」

 

 其処へ一泊遅れて到着するのは死神の召喚した仲魔達。

 デクンダにより弱体化を解除し、反射魔法や稀有な耐性を活かして死神の盾となる。

 マグネタイトを圧迫しない程度の格で有効な支援を可能とすることから召喚された彼等は今日も有効に機能していた。

 

 反射されていく魔法や銃撃により、カジュアルが再び乱れゆく。

 そうなれば力を取り戻した死神の独壇場。

 脊髄近くから死神は異形の大鎌を引きずり出して振るう。

 

「オ、オオォオ冥界、波ァ!」

 

 死神が放つのは強大な力を伴った破壊の波。

 壮絶な威力を持った波動はカジュアルだった物を舗装された道路にぶちまけていく! 

 

 血肉の舞う中を疾駆する死神。

 その刃が、腕が、足が振るわれていくたびに、先程まで下卑た笑みを浮かべていた邪悪が粉砕されていく。

 それはまさしく死神の振るう裁きの一撃か。

 

 まさしく鎧袖一触。

 触れた者を悉く絶望と共に死に至らしめる死神が赤を纏って橋を惨死で染め上げる。

 

「畜生め、いい加減に止まりやがれっ!」

「おおっ!? 老体にはこたえるわぁっ」

 

 しかし流石に仲魔を分散させ過ぎたかアウトサイダーの攻撃によりムラサキカガミが硬直する。

 魔法に強い反面この悪魔は物理攻撃に弱いのだ。

 そのことによってマカラカーンが途切れ、カジュアル達からの魔法攻撃が再び再開される。

 

「今ですぜボスッ! 俺達が止めているうちに!」

「面倒を掛けさせてぇ……! 死になさいよメギドラァッ!」

 

 美礼のレベル60という高レベルも看板だけではない。

 死神とその仲魔に対して、撃ちこまれるのは高位万能属性魔法 。

 コンセントレイトにより引き上げられた大火力の一撃はのムラサキカガミとカマソッソを焼き尽くし、死神すらも吹き飛ばした。

 

 絶大な威力に歓声が上がり、美礼はのけぞりすらして歓喜する。

 

「あっはははははっどうだ、みたか! これが私の力よぉ……! 凄いでしょうこの大火力。

 悪魔と合体して素養のある子を犯し喰らい続ければこんな事だってできる! あはあっあははははは!!」

 

 煙がもうもうと立ち込める中、狂気と共に高笑いする美礼。

 

「そうよ私はこれからも勝ち続ける……お父様にも否定させない。もう醜いなんて誰にも言わせない。

 私こそがこの世で一番美しくて尊い存在なの! 弱肉強食の世の中で喰らう側なの! 

 そうじゃなきゃいけないのよぉ! あははっあははははあっ!!」

 

 脳裏に浮かぶ父親の侮蔑や周囲の冷笑。

 それらを振り払うような高笑いをした美礼は皴の見える顔を隠すように仮面をつけなおす。

 その狂気を訝しみながらもカジュアル達は爆炎に消えた死神の蛮勇をあざ笑う。

 

「へへ……ボスの言う通りだぜ。あの野郎も所詮はかっこつけるだけが能の雑魚だってことだよな」

「雑魚は雑魚らしく震えてろってんだよギャハハハ!」

 

 ボスの言う事も一理ある。

 自分達は強いから、好き勝手やって良いのだ。

 現にあの死神はもう死んだか、そうじゃなくてもほぼ死に体だろう。

 そこそこ殺されたが結局この戦いの結末通り自分達が勝ち、後は追撃し全てを手に入れるだけだ。

 

 それは彼等にとって当然、いや当然でなくてはいけない事だ。

 だからこそ、彼らは驚愕する。

 

「──―ハハハ弱肉強食か。いやまァ一面の事実であるよなァ」

 

 吹き飛ばされ、瀕死の重傷を負ったはずの死神は嗤っていた。

 ただ一体残った、回復魔法を死神へ発動していた神樹を背に、傷つきながらも死神は嗤っていた。

 "ニヤリ"と、感情をため込むように(スマイルチャージ)、両腕を赤熱させながら嗤っていた。

 

「確かに弱い人間は死にやすいよ。現代でも本当によく死ぬ。悪魔業界だと特になァ。

 それは紛れもなく1足す1が2の様な、クソ見てだが厳然たる事実だ。けどなッ」

 

 死神の両腕の間に球体を描くように形成されゆくのは圧倒的な熱量。

 遠目にも不吉な輝きを有するそれが意味する事を知り、美礼はマカラカーンを、アウトサイダーやカジュアル達も阻止や防御に動くがもう遅い。

 死神の胸には何よりも熱い怒りが燃えているから。

 

 

 

 つい先日、情報交換の為にキリギリスの拠点に立ち寄った時の事だ。

 死神プルートーことカナエは事務所の廊下でばったりと新入りらしき姉妹と鉢合わせした。

 

 快活そうな姉と穏やかそうな妹の二人。

 ただ距離感だけでとても仲が良いんだろうなと思わせる、可愛らしい姉妹だった。

 それこそ、この二人が姉妹仲良く過ごしているのを見るだけで幸福な気分になれるような、そんな互いへの愛に満ちた姉妹に見えた。

 

 けれど姉妹はカナエを見た途端に壁際まで飛びのいた。

 身体は少しでも遠ざかろうとして、目には怯えがあって、固く握りあった手は震えていた。

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 その場では何も気づかなかったように装い、どこか傷ついたような表情を浮かべていた赤い髪の少女に佐々木の居場所を聞いて離れた。

 あの子達を傷つけないように自分は振舞うことができただろうか、そうだと思いたい。

 

 カナエには分かる。悪魔業界に入ってこれでも長い。

 傷つけられた女性を見たことは何度もあるし、マグネタイトの補給やその手の被害者の治療に参加した事もあるから分かってしまう。

 それこそゴリラや佐々木から聞いた御影町の事件の内容も含めれば嫌という程に。

 あの姉妹がどんな目に遭ったか、分かってしまう。

 

 舐めやがってクソどもが。

 姉妹愛や家族愛ってのは尊い物だろ? 尊いものがそこにあって見ているだけで幸福になる物じゃないのか? 

 そんな事は兄弟姉妹なんていない俺にだってわかる。

 

 なのに奴らは、最低極まりない方法で踏みにじりやがった! 

 ふざけるんじゃねえ死ねよ貴様ら。

 ゴミクズ共が、地獄の底で苦しみ続けろッ!

 

「この世にはなあ! 決して踏みにじっちゃいけねえものがあるんだよ!! 

 それが分からねえなら────死に腐りやがれえええええッ!!!」

 

 赤紫の照り返しを受けて輝く死神が練り上げるは煉獄の炎。

 生来核熱属性魔法に長けていたカナエとプルトニウムの語源として扱われる神であるプルートーの性質が合わさって放たれる奥義。

 極大クラスに迫る超威力の全てを掛けた一撃。その名は

 

「プルガトリウムウゥゥッ、フレアアアアアッッ!!!」

 

 

 太陽の如く球形に圧縮された核熱属性の炎が冷たい夜の空気を引き裂いて飛ぶ。

 ニヤリによって付与された貫通特性により、あっさりとマカラカーンを貫通し着弾。

 その莫大な威力を解き放った。

 

 広域に広がる煉獄の炎は全てを灼く。

 着弾点となった美礼を始め、カジュアルの人間も悪魔も、その残骸も車両をも全て、断末魔すらなく滅ぼしつくす。

 

 死神となった男の赫怒を示すかのように、闇夜に禍く熱き太陽が怒りと共に輝いていた。

 

 

 


 

 

 

「あっ……」

 

 朝方、泊まっていた施設の中で、少女は背の高い男とばったり会った。

 

 昨日助けられた少女達はまずは地元の退魔師が有する宿泊施設に保護され、そこで簡易的な治療を受けていた。

 今日には病院で検査を受けて戻れるとの事で、心身ともに疲弊しきった少女達の大半はいまだに寝ていたが、この少女、白い肌に色素の薄い髪をした少女はどうしても伝えたいことがあり起きていたのだ。

 

 そんな訳で許可された範囲をキョロキョロとおぼつかなさげに探しているうちに目的の人物、昨日自分を助けてくれた青年に会う事が出来た。

 

 青年の頭には包帯が巻かれ、所々にも治療が施されている。

 重傷と言える怪我以上にどこか後ろめたい目で自分を見る男に、彼女は胸の痛みを感じる。

 

「ん、どうしたのかな?」

「あの、そのえっと、あう……」

 

 少女の目線に合わせる男に対して中々言葉が出てこない。

 でも辛抱強く自分が言いたいことを待っている男の態度に押され、意を決して己の思いを口に出す。

 

「あの、ありがとうございました。き、昨日はあなたのおかげで私……酷い事され、ないで済みました。

 だから、本当に、本当にありがとうございました!」

「──────」

 

 虚を突かれたような表情を浮かべる男。

 少女の言葉をかみしめるようにうなづくとぽつりとこぼした。

 

「君はそうか、俺のおかげ……っていうと変だけど、助かったのか……」

「はい、助かりましたっ! それ、では失礼しますっ」

 

 顔を真っ赤にした少女はそのまま背を向けて駆けていく。

 対照的に動かない男は、動くことなく立ち尽くしていた。

 

「……それは良かったな。頑張った、甲斐があった」

 

 少しだけ悲しそうに、けれど嬉しそうに男は呟いた。

 





◎登場人物紹介
・カナエ・ハイライン <デビルシフター><デビルサマナー> LV62
シリーズポジション:なし
ローマ神話の死神プルートーを前世に持つ、キリギリスの一員として活動中のシフター兼サマナー。
生身では師匠譲りの剣と斧の二刀流、プルートーに変身すると広域呪殺魔法に強力な物理攻撃、そしてニヤリ時貫通付与の大威力核熱属性魔法を持つ多数戦に特化した戦闘スタイルになる。
生育環境からひねくれた冷笑家的な面を持つが師匠の教育により、善性を尊ぶ面も強く、また自身の経験から子供にも態度が柔らかい。
主要ジャンルは平成仮面ライダー等特撮作品と少年漫画、ライトノベルなど。


・佐々木/レッドアイ・ホーク LV 79
貪欲に強さを求めることで知られた漫画好きのダークサマナー。
キリギリスの発起者であり、雑多なメンバーと共に世界滅亡阻止の為の戦いを続けている。
基本的に外見通りの柔和な物腰な物の、邪悪に対してはバイオレンス極まりない一面を見せる。
尚ベッドの上でもとても強く高位の魔神を屈服させたり、○○○○という言葉をセックスの時間単位として原作で定着させていたりする。


・カナエの出会った姉妹。
キリギリスの新入りである高位神格の転生体である姉妹。
住んでいた御影町での事件で凄惨な体験をし、深く傷ついている。
今は笑えなくてもいつかは姉妹揃って幸せになって欲しい。
だって二人共何も悪い事をしていないのだから。


・美礼 アウトサイダーの男 カジュアルサマナー達
今回の敵キャラ。
ある地方で暴虐の限りを尽くしていたクズ共。
ボスの美礼は行為の悪魔人間でその劣化版の術を部下に施していたが、アウトサイダーの男(御影町から命からがら逃げてきた残党)を加えさらに勢力を伸ばそうとしていた。
しかしカナエによってボスの美礼を含め大半が焼却処分され、残りもキリギリスや有志連合にかられるのみ。インガオホー!
なおアウトサイダーの男は偶然上半身が焼け残った状態で死んでおり、蘇生できた為情報をたっぷり絞られることになる模様。
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