真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
今回は割とガッツリバトルです。
人と悪魔の集う<経済特区レルム>。
様々な思惑が入り混じり日本各所に創立されたレルムは、当然ながら玉石混交。
それぞれが公認非公認、後ろ盾となっている勢力、集うDBによって姿を大きく変える。
女子供が出歩ける程治安のよいレルムも名古屋や東京にあるが、阿修羅会の影響もあり、荒くれ者が集う治安劣悪なレルムも多い。
帝都東京某所の非合法レルム。ヤクザや悪魔結社の影響が強い此処は典型的な後者だ。
行政へ登録しておらずアクセスアプリにも非対応の領域には、素性まともなDBは近寄らない。
軒先を連ねる店はどれも胡乱で仄暗く、食虫植物の様な不穏な魅力を湛えている。
道行く者達も危険そうな、怪しげな者が多く流血沙汰も絶えない。
その非合法レルムの外れに、飾り気のない角ばった建物があった。
広い立地の中には武装した警備ヤクザが巡回し、時たま大型のトラックを迎え入れる。
中で何らかの事業を行っているのは確かだが、看板はなく窺い知る事は出来ない。
だが、この建物の中身について知る者は、品のない笑みを浮かべてこう答えるだろう。
────此処は「スタジオ」だと。
建物の中で、最も高く、最も豪奢な部屋。
サイドテーブルに酒杯が置かれ、氷がからん、と音をたてた。
「で、どうかなワタシの創った箱庭は?」
問いかけたのは白と黒、二色のタキシードを着た女だ。
手足が長く鮮やかな色の髪をした女は恰好も相まって、一見タレントの様。
しかし身に纏う雰囲気や瞳から、何処かズレた異端性を感じさせる。
端的に言えば見る者に
大柄な黒服と小柄な白服の男を従えた女は、蠱惑的に首を傾げ問う。
「ご満足いただけたなら嬉しいのだけど」
「ん~……そうだな、中々趣味がいい。
丁度吉祥寺の闘技場もつぶれた事だし、更なる顧客も見込める。
長期的な利益を期待できそうだ」
女と話すのは、高価なスーツを着た初老の男。
十指に嵌めた指輪はいずれも宝石をあしらった物で、よく言えば豪奢、悪く言えば成金丸出し。
「私からも出資をさせてもらおう。
額はこんなものでどうだ」
「これはありがたいワ
この時世設備を整えるのに物入りだから」
男は闇稼業への出資を生業とする投資家である。
人身売買や裏闘技場に投資し、利益の還元を受けると同時に悪逆に浸る。
我ながらすでに十分な資産があるにも関わらず、闇に手を出すとは度し難いと思う。
が、辞める必要も理由も感じない。何よりとても愉しい。
「私としてもこういうのは好きだからね。
投資家としては駄目かもしれんが、好事家としての血が騒ぐ」
「ふふ、お互い長い付き合いになりそうだ」
同好の士たる彼らは揃って喜悦の表情で、眼前の光景を見下ろす。
対物ライフルすら防ぐ特注強化ガラスの先。
其処で繰り広げられているのは────
「ガハハハハッニンゲンヨワイ! モロイ! ユエツ!」
「おっあのメスガキ意外と乳でかい、苗床にしてやるっ」
「赤い腸みせてェ~キャハッ!」
「おおこれこれ。やっぱ低位でも覚醒者肉ってうまいのう」
────凄惨な殺戮であった。
女は悪魔を使ったポルノ等各種禁制の映像を制作し、専用のダークウェブで公開するシノギを生業としている。
現在のメインは、悪魔を紅組、人間を白組としての殺し合い────とは名ばかりの悪魔による人間の虐殺ショー。
市街地を模した会場に武装させた人間を集め、凶暴な悪魔を解き放つ。
集められた人間は時に逃げ、時に戦いながら生き残りを目指すがうまく生き残ることはない。
何せ人間は誰もが低LVな上与えられる武装は弱く、凶暴で強靭な悪魔には適切なタイミングで人間の位置情報が与えられるのだから。
<紅白殺戮合戦>*1。大晦日の有名歌番組からとられたふざけた名前を付けられたそれは早くも人気となり、回を増す度に視聴者を増やし利潤をもたらしていた。
邪鬼に頭から貪り食われる人間を見て笑う男。
安全な所から、絶望し苦痛の中で死んでいく人間を眺める。
常人には理解できない趣向を持つ者が、嘆かわしい事にこの世には思った以上に多いらしい。
「しかし演者が粒ぞろいだな。
何かいいルートでも使っているのか?」
「ルートというよりはワタシの目利きがいいんだ。
コツは単純明快。擦れてない子を選ぶのサ」
ほらと、女は会場の片隅を指さす。
指先が示すのは薄緑色の髪をした帽子を目深にかぶった少女。
「あの子元京都のリコリスっていうエージェントだったんだけど、その割にはスレてなくて、小動物みたいで可愛いでしょう?
ああいう、嗜虐心をそそりそうな子を集めてくるといいの。
ほら、吉祥寺の闘技場でも、病弱な子の方が電撃使いより遥かに人気だったみたいに」
このスタジオの演者に求められるのは、強さではなく弱さ。
乏しい生を掴む意思も力もなく、無様に逃げて適度に抵抗し、絶望の中で死ぬ。
裏闘技場とは趣の違う惨禍には、そんな性質が求められているのだ。
「成程わかりやすい例えだ。良く分かる。
見てて面白いなあの娘」
薄緑色の髪の少女の動きを見て男は頬を歪める。
年少の子供を物陰に隠すと、襲い掛かる悪魔に銃を撃ち始めた。
半泣きの状態で、悪魔の脚、胸、頭に着弾させる腕は見事だが。
「無駄なのに、ねえ」
悪魔は
少女の持つ弱い銃の威力で、有効打を出せるはずもない。
「んーこれは予想以上だな。実にいい眺めだ」
下卑た笑みを浮かべた悪魔が銃を払い落し、少女を殴りつける。
腕が折れた少女を蹴り、倒れ込んだところを押さえつけ服を引きはがす。
泣く少女をもう一発殴り、強く冷たい床に押し付ける。
腰を前に突き出し、少女を蹂躙────
『ふぁっきゅーさのばびっちっ!!』
────する前に殴り倒された。
「DB! 春の殺祭りだオラァッ!」
砕け散るスタジオの壁。
猛牛の如き勢いで侵入して来たのは、強力なDBであった。
\カカカッ/
| 超人 | デビルバスター | LV62 | 装備:ヤクトアーマー*2 |
SWATじみた黒いスーツの上から強固な装甲を纏うDB。
彼が昏倒した悪魔を蹴り上げると、面白いようにひしゃげ飛ぶ。
そのまま剣で驚く悪魔達を撫で切り、少女や子供を装甲で庇う。
「……は? なんだアイツ等は?」
「舐められたものねこれは。
……どういう事かなディレクター君」
眉を顰めた女は、受話器を手に取り確認。
ディレクターへと連絡を取るが、帰ってくるのは悲鳴だった。
「た、大変ですボスッ!
あちこちから強力なDBが侵入して!。
悪魔共もはがたたな、ごぺ!」
受話器越しに聞こえる湿った音。
女の生涯において聞きなれた音に舌打ち。
事態は予想以上に差し迫っているようだ。
「強力なDBが多数、となると噂の<キリギリス>、あたりかね」
「キリギリス? なんだねそれは」
「最近名を上げているガイアや地方で活動するDBの集まりだよ。
腕利きも多いらしい。
ああやだやだ面倒は嫌いなんだけど、ネ」
先程のDBが中指を立てカメラを破壊する。
不快に感じつつ女は手元のタブレットを操作し、各所のカメラの映像を呼び出す。
「彼らまで来ているのか。本当に面倒だな」
分割された映像の内二つを見て、再度舌打ち。
先程よりも不快そうに。
二つの映像に映るのは、それぞれ帯刀した長身の男と仮面をかぶった男。
悪魔が跋扈する裏社会の奥深くで生きてきた女には見覚えがある。
前者は<レイブン>。かつてヤタガラスのエースであり、現在の過酷な戦況においても強敵を倒し名を上げている神道系悪魔召喚師。
後者は<鉄仮面>。かつてファントムのエースであり、現在もガイア教の氷川とつながり暗躍する筋金入りのダークサマナー。
かつて幾度なく熾烈な殺しあいをした二人が、同時にスタジオへと攻め入っていた。
半時ほど前。スタジオ近くの倉庫近く。
深い夜の濃い闇の中、レイは微かに眉根を寄せた。
微かに漂う塩の臭いは嫌いではない。
けれど、すぐ近くで行われている事を知っているが故に、血の匂いが風に運ばれてきたような気がしたから。
「……そろそろチョトンダを戻していい頃ね。
今の所敵と戦闘になっていないようだけど」
「こっちのアガシオンも戦闘なしだ。
警備員の展開を見ても、施設の外には興味がないようだな。
なわばりの影響もあるかもしれないが」
不快感を振り切るように、隣にいるレイブン、雨柳と小声で確認。
知ってか知らずか、男も端的に答えてくれる。
「なら予定通り。移動手段の破壊と警備員の排除が完了次第私達は裏口の一つから侵入ね」
「召喚スクルド。
打合せ通り支援中心で頼むぜレイ」
「まずは定石通りテトラジャ頼むよ。
このご時世何が飛んでくるか分からないし」
シロガネの言葉に、召喚されたばかりのスクルドもうなづく。
テトラジャには呪殺破魔やエナジードレインを無効化するのみならず、命やソウルを保護し即死を防止する効果もあるとか。*3
凶悪なスキルを持つ悪魔との交戦経験が増えている昨今では、テトラジャの重要性が増している故の定石だ。
「即死コンボで死んでいたら話にならないしね。
足を引っ張らないように頑張らせてもらうわ」
捕まった人たちを助ける。
レイの中に確かな意思があった。
(護国の者である以前に、一人の人間として許しては置けないもの)
今回雨柳とレイが参加するのは、キリギリス主導の悪魔組織壊滅。
先日の裏闘技場壊滅で得た情報を基に、マンハントや京都傘下組織、さらにヤクザの人身売買経路について有志が調査した所、行きついたのがこの先にある組織のスタジオ。
邪悪な行いを許せねえと募集をかけると、それなりの人数が集まった。
なお標的の組織は、<ガイア再生機構>なる集団と既に提携を行っているという。
既にヤタガラスの一部とも交戦した団体の調査も兼ねて、何人かの構成員がヤタガラスより派遣されていた。
正式な構成員でなくあくまで協力者のレイは自ら志願しての参加だが。
(そんな顔しないでよレイブン。
私これでも対人戦の経験は豊富だし、あれこれ酷い物も見て来たから。
心配しなくても大丈夫よ)
レイがかつて生きていた世界──────今は跡形もなく滅んだ世界は、閉塞感に沈み荒れていたが故に酷い物も見てきた。
今回の様に人が面白半分で殺される見世物もだ。
煌く金髪にエメラルドの如き瞳をした少女は、外見から想像もつかない程の地獄を見てきた。
過酷な前線で戦い続ける
なおも善性を保てるのはかつての師による教育か、それとも強きソウルが故か。
「一度
チョトンダ、裏口側はどうだった?」
所定の時間がたち、偵察に出していた仲魔を再び呼び出す。
西瓜を思わせる模様をした豚竜は、レイが偵察に使っている仲魔。
鼻が利く仲魔はレイの質問に、珍しく迷いを浮かべつつ答える。
「んとねー敷地内にはニンゲン何人かと強めの悪魔が一体。
それよりも気になることがあるんだよね。
なんか凄い濃いMagの感覚があったんだ」
「濃いMag? それってLVだとどれくらい?」
「かすかだったけど……そこのおじさんとおなじくらいか、も」
チョトンダが言い終えるよりも前に、空気が揺らぐのを感じた。
雨柳達が揺らぎに向き直り、つづいてレイもチョトンダを制し立ち上がる。
「──────こんばんは」
揺らぎの元は金髪の少女だ。
紅い衣装に黒いスカート、妖しく可憐な装いの少女が嫋やかに笑む。
だが、雨柳やレイが油断する事はない。
少女の歩みは、悠然とされど足音を響かせない暗殺者のそれであり。
そして何よりも、背後に感じられる存在の強大さから。
「────随分と久しぶりだなレイブン」
「……キリギリスに参加したとは聞いていたが」
現れたのは鋼鉄の仮面をかぶった長身の男。
その身から感じられる霊格は強大に過ぎる。
「無駄なくらい元気そうだなあ鉄仮面」
\カカカッ/
| ダークサマナー | 鉄仮面 | LV7? | 破魔・呪殺無効 ??? |
元ファントムソサエティ幹部である強力なダークサマナー鉄仮面。
冷たい鉄の仮面が、印象深い男を見て、レイは息をのむ。
「鉄仮面! ……生きていたの!?」
鉄仮面という男はレイにとっても印象深い。
レイの生きておいた周回においてレイブンと鉄仮面は宿敵同士。
だが、最終的にレイブンが鉄仮面を倒しその地位を奪取。
その後に起きた悲劇はまた別の話であるが、レイにとっては少し前のレイブンと同様に死んだはずの存在を見ればやはり驚く。
「組織が滅びようとそう悲観して心中する程酔狂ではないさ。
そのニュアンスは……ふむ、君は過去周回の
「……!」
「何故それをと言いたげな顔だな。
一昔前ならともかく伝手があればそれくらい知る事は訳ない。
しかしレイブンよ」
冷たい仮面の奥の瞳が、雨柳を測る。
それはかつて幾度なく会った光景と同じ。
「LVだけは随分と高くなったようだが昔の貴様の方が強かっただろうな。
年を取って取り繕うのだけはうまくなったか」
「貴様こそいい歳してなんだその仮面は。
というかその子は何なんだよ」
雨柳は半目で少女を見る。
レイより年下の少女は、導師級召喚師の間でも泰然としていた。
「この娘は私が見出した道具だとも」
「道具だあ? こんな子をか」
「ええそうよ。私は彼の道具」
声音が低くなる雨柳をよそに少女が答える。
何処か謡う様に。陶然と。
「彼の為に尽くし、彼の為に生きる。
そうして朽ちた後も、彼の心に永久に残るの。
素敵でしょう?」
「えっ」「えっ」「えっ」
困惑の声は三重に聞こえた。
少女の方から、つまり鉄仮面からも。
「まあいい。大した事のない旧交を温めた所でだ」
「おいお前今えって言ったよな?」
「何のことだ? 貴様等に選択肢を与えよう」
「私達に協力するか、しないか」の二択だ。
鉄仮面はそういった。
「こちらの標的は組織と商談中の男でね。
貴様等の目的とは被らず、反しない。
ならば物事をスムーズに進めるのもやぶさかではないという事だ」
「……お前と協力するメリットは?」
鉄仮面はショットガン型武器COMPと連結された端末を操作。
低光量に設定された画面を見せる。
「まだDDCに流れていない内部構造の情報を今流した。
後はお互い同士討ちを避けるだけで十分、そうだろう?」
「大方職員を買収、脅迫して得たんだろうが救出には役立つか。
これなら救助も早く進む。協力というより、不干渉には充分ではあるな」
「でも……いいのレイブン。
鉄仮面って宿敵だったんでしょう?
今はファントムじゃないと言っても信用して」
雨柳はひとまずの納得をするが、レイは今だそうはしきれない。
昨日の敵が今日の友になり、その逆もあり得る悪魔業界とはいえ、レイが所属していたのは歪んだ護国を掲げる腐敗したヤタガラス。
その
「こいつはかつての敵だし、今もアイツと違う闇に生きるダークサマナーだ。
だけど
約束を反故にして、背中を撃って悦に浸るような奴でないなら、この程度の協力は出来る」
雨柳にとって鉄仮面はかつての宿敵であり、だからこそ男がどのような存在か理解している。
今キリギリスに参加して、滅びに抗う側でいる事も知っていた。
背中を預けられる相手とは思わない。が、少なくとも優先事項があるのに敵対する気はない。
雨柳の言葉にレイは納得して引き下がり、少女も笑みのまま鉄仮面を見上げた。
「その様な小賢しい真似はしない。貴様もせいぜい囮になれ。
私としても好きにやらしてもらう。
……それにだ」
仮面の奥の目が向けられるのは、悪魔組織の運営するスタジオ。
人の苦しみと絶望の末の死を、安全な所から搾取し愉しむ外道共の巣窟。
吐き気がする惨禍の牢獄を鋭く見下げる。
「奴らを不快と思う点では、同意できるはずだ」
鉄仮面の言葉通り、少女が、雨柳やレイが、白銀やスクルドもうなづく。
彼等が
広く入り組んだ建物の中に、物々しい音が響く。
「プレートバンダナとケブラーベストを確認!
属性攻撃中心で対処しろ!」
「さっきアップされたデータの通りだな。
救助者をピストン輸送で運ぶぞ」
攻め入ったキリギリスの各員は、敵の戦力を削り連携を断ち、囚われた人々を救助する。
「粛清粛清しゅくせえええい!」
「報告にあったガイア再生機構の悪魔か?
アナライズでデータを抜いてから殺るぞ」
イレギュラーが居ても臆することはない。
己のなしたい事となすべき事を正確に把握し、敵を追い詰めていく。
「さて、私達も目的を果たすとしようミレディ」
まだ喧騒の音が小さい建物の奥。
脱出路の一つに鉄仮面とミレディは降り立った。
羽毛のように軽く、影のようにひそやかに。
(少しは腕が上がったかしら?)
少女────ミレディは我ながら忍者の如しと思うが、鉄仮面曰く本物の忍者はこんなものではないらしい。
何物にも捉えられない速さと静けさで接近し、銃弾よりも疾く刀よりも鋭い手刀で敵の首を獲り、それでいて痕跡は残さない。
実際に幾度なく忍者と戦った彼は、そう力説していた。それはもう熱心に。
「さて、私達も仕事を果たすとしよう。
標的が使う脱出路は此処以外にない」
「標的はあくまで客人の一人で、身を挺して守る程じゃない。
連れ立っていたら目立つから、理由を付けて別の道から避難する、よね」
「悪党程用心深く、自分の身が可愛い物だからね」
ミレディはオンモラキを偵察に放つ。
小さな悪魔は一声鳴き声を上げると、トコトコ通路を進んでいく。
「でも大丈夫なのあのおじさん達で?
ボスのLVは相当高いともうけど」
ミレディは本命の脱出路の先へ向かった二人の事を思う。
敵のボスは相当に手ごわいはずだ。
「心配はいらないさ。
あの金髪の子もかなりの腕利きだろう。
それにレイブン、あの男は」
まだ旧ファントム、フィネガンや実力派の召喚師が揃っていた頃はよく戦った男。
つまらぬきっかけで道を外した時は失望したものだが。
「無力な女子供を殺すことに関しては、私の知る悪魔召喚師の中でも一二を争う無能だ。
だが邪悪が相手ならば、護るべき、救うべき者がいるならば」
その先は言わない。
オンモラキが戻り、標的の接近を知らせたから。
足早に駆けてくる標的。先導する護衛は動きからすると手練れだろう。
「私達も仕事を始めよう。
闇の召喚師らしく無慈悲に、静かにね。
────召喚」
ショットガン型武器COMPの引き金を引き、仲魔を召喚する。
瞬時に展開されるのは、鉄仮面のソウルに相応しい強大な仲魔達。
ダークサマナー鉄仮面。彼と戦う者には無慈悲な死が約束されていた。
・
・
・
「はあ……とんだ大損だよ。
ワタシはただささやかな趣味と実益を兼ねた商売をしているだけなのに」
広く無機質なスタジオの地下にて、雨柳とレイは組織のボスと対峙していた。
黒服白服の護衛を従えた女は、後ろ手を組み大仰にため息をつく。
「ワタシ達が出す利益で、運営に使う資金で、生まれる経済効果は?
それらが潰えた影響を考えたことがある?」
「な……! ふざけないで!
利益以前にあんな悪趣味な、残酷な事が許されるわけないでしょう!」
女の言葉を聞き、レイは激昂する。
少女の脳裏に浮かぶのはかつて見た光景。
金で釣られた若い召喚師が、持てる者の楽しみの為に、命を、尊厳を消費される悪趣味な遊び。
その時覚えた嫌悪感を、あんな事楽しめるような人間にはなりたくないという決意を少女は忘れてはいない。
「そうかな? この世は強者のやる事なら何でも許されるんだよ。
ワタシの様な、ねえ」
「ああよく分かった。もういいぞ」
勝ち誇る女の言葉を雨柳はさえぎる。
軽蔑すべき敵にしか見せない低温の瞳で、相手を見据えて。
「そういう言い訳がましく頭の悪~い理屈は聞き飽きた。
馬鹿は死んでも治らないとよく言うが、お前は数十回は死んでも治らなそうだ」
退魔刀<バルムンク>を抜き宣言する。
「投降する気がないならここで素直に死んでおけ」
「いってくれるね。まあいい。
ワタシへの無礼への返礼は」
前傾姿勢で頭を下げる女。
長い髪が垂れ下がり顔を覆い隠す。
護衛が前に出て壁となり退く。
同時に、ショーマンの様に両腕を広げ上半身をはね起こす。
「君たちの死を以て、行うとしようっ!」
背から翼を生やし、頭部をペストマスクじみた異形に変えながら。
\カカカッ/
| 俗悪に嗤うシャックス*4 | LV74 | 氷結に強い 衝撃反射 呪殺無効 ?? に弱い |
| 外道 | 黒服の用心棒 | LV54 | ??? 装備 |
| 外道 | 白服の用心棒 | LV54 | ??? 装備 |
ソロモン72柱の一柱である地獄の大公爵。
その力を持つ外道は中空で翼をはためかせる。
戦いの始まりだ。
「レイ! 打合せ通り支援頼むぞ!
だけど無理はするなよ!」
「問題ないぞレイブン。
俺の召喚師に攻撃は届かせん」
レイの前に立つは、暗緑色の甲殻で身を鎧い剣を携える竜人。
リグ・ヴェーダ等様々な聖典に名を遺す龍神。
インドラの敵対者たる大悪魔ヴリトラである。
「邪悪を誇る程度の低い女のそれなど、な」
「バックアップは任せるホー!」
「ええ! 今ここでコイツ等は倒す!」
龍神ヴリトラにLVを上げスキル等も強化したジャックフロスト。
この2体を従えてレイは朱い刀型の武器COMPを掲げる。
「此処が全力の出し所ね!──────≪アクセラレート≫!」
| アクセラレート*5 | 補助スキル | 使用者の行動回数を一回増やす |
| 攻撃モジュール | 補助スキル | 3ターン味方全体の攻撃力を強化*6 |
レイの発動したアクセラレートは、召喚師の優れた霊力と武器COMPの高度な演算能力が合わさって発動できる妙技。
無論負担が大きく、一つの
本来強力な悪魔のみ可能な、
≪テトラジャストーンだホー!≫
≪ラスタキャンディ≫
道具の知恵でジャックフロストが結界を貼り、スクルドが全能力を向上させる。
同時に躍動するのは、龍神ヴリトラ。
「まずは牽制、一撃を叩き込むっ!」
剣を閃かせて放つは、忠義の技*7。
高位悪魔の力と技で放たれる一撃。対して黒服が進み出る。
「猪口才なあっ!」
「ぐ……!」
金属で金属を殴りつけるような快音。
ヴリトラが吹き飛び、攻撃の呼吸が乱れた!
「物理反射……! シロガネ防御に移れ!」
「何をしてくるか分からない、結界で行くよ!」
機を逸して飛びのく雨柳が魔反鏡を使用する。
同時にシロガネが
意に介す事なく進み出るのは、黒服に白服。
「下らん芸を振りかざしてくれる。せいぜい稚拙な技に頼るんだな≪マカラカーン≫」
「キヒィ……隠れてても意味がない、ないよぉ! ≪マカラコワース≫」
| マカラコワース*8 | 補助スキル | 敵全体の魔法型ダメージ反射状態を解除する。 |
敵側に展開する魔法反射結界。
対して雨柳達のそれはパキン、と軽快に割れる。
(カーン系を破壊するスキル!?
存在は知ってはいたけど……!)
翼をはためかせるシャックスの姿。
殺意と狂気に歪んだ目に、極大の悪寒。
「ヒィィィイィィヤアアアアアァァッ!!」
| マハザンバリオン | 衝撃属性魔法 | 敵全体に衝撃属性極大ダメージ |
| 貫く風の闘気*9 | 補助スキル | 1ターン味方全体の衝撃属性に貫通付与 |
| 龍の反応*10 | 自動効果スキル | 自身の回避・命中率を大きく上げる |
広い室内に吹き荒れるは、質量すら感じさせる最上級の暴風。
柱が砕け、雑多な車両が寸刻みに刻まれる超暴力の凝縮。
シャックスが誇る一撃必殺であった。
(所詮はワタシより格下の悪魔に、脆い人間。
この一撃で死んだか、そうでなくても瀕死)
膨大な塵芥が舞う中、哄笑するシャックス。
女の戦術は単純明快。
敵からの攻撃は、それぞれ物理と魔法を反射するように装備を固めた手下に防がせ、邪魔な結界はコワース系で壊させる。
後は超威力の魔法を、命中率を上げ、貫通を付与して撃ち込むのみ。
そうすれば敵は死ぬ。撮影前にカメラをセットするかの如き、
「これこそが強さ。すべての面倒を解決する万能の特効薬ダ」
敵を殺し全てを奪い、外法を使いMagを集め、ガイア再生機構や他の悪魔組織に大金を積んで自身を改造し力を引き上げた。
強ければ、問題を解決し他者を踏みにじり好きに生きれる。
最早人と言えない心で生きる女はそれが当然だと考えているから。
当たり前のようにそうしてきた。
(後は奴らのCOMPを回収すれば元は取れル?
何せ武器型はまだ貴重だ。
コイツ等以外にも殺して回収すれば損失の補填が出来テ)
欲に染まった目は塵煙の、向こうに目を向けて。
揺れ動くそれを訝しんだ。刹那。
雷を纏う刀を構えた雨柳を見た。
「────────は?」
鮮血が高く、吹きあがった。
「ぎ、がぺ」
「お返しだよ。これまで死んだ奴らの分もな」
| ■■■ノ眷属 | 自動発動スキル | 味方単体の電撃属性、呪殺属性攻撃時の攻撃力を強化する |
| 神造魔人たるシロガネとの共鳴によって発動する権能 |
| モノノフⅢ | 物理属性のクリティカル率を30%上昇 |
| 雨柳の所有する拳銃型武器COMP<六六式召喚拳銃>にインストールされたソフト |
血を吹き出し崩れ落ちる黒服の装備を確認。
着ていた胴防具はやはりスプリガンベスト。
(福岡の方*11でもその手の奴が居たそうだが、ワンパターンな事だ。
いや、知らなければ危なかったか)
スプリガンベストは銃や各種の技を反射する。
ならば、油断した所を威力を増した通常攻撃で斬り殺すだけだ。
塵と血で汚れながらも、雨柳はすでにレイの使った宝玉輪で全快。
背後に続く、誰一人欠けていない仲間と仲魔を鼓舞するように。
「馬鹿な、ワタシの一撃で全員生きているダと?」
「バリオンだろうが一撃で死んでいられるか。
減衰させて躱すなり耐えるなりすれば全滅はしねえよ」
雨柳よりLVが低いレイと、仲魔も生きている。
ヴリトラが盾になり、削られた
(衝撃弱点は消したとはいえ結構ギリギリだったがな……)
実を言えばヴリトラはかつてレイの師匠であった召喚師レイブン────過去周回の雨柳が悪魔合体で作った悪魔である。
男からレイに移譲されたヴリトラは<仁王立ち*12>だの<三分の活泉>を持たせた格上の攻撃だろうと耐えるガチガチのタンク仕様。
明らかに弟子を護る為の構成にヴリトラはこう思っている。過保護かよと。
「翼を持つなら銃撃が通るかしら?」
「先程の恥を注がせてもらおう」
天扇弓で敵を射抜くスクルドに続き。
ヴリトラは膝を撃ち抜かれた白服をからたけ割りに叩き斬る。
シャックスの盾たる用心棒が堕ちた!
「面倒な盾はいなくなったわね! ジャックあれで剥がして!」
「分かったホサマナー! てえいっ」
ジャックフロストがシャックスに撃つのは、何の変哲もない
魔法反射結界に反射されるが吸収耐性ゆえに問題なし。
それに
「マカラカーンは剥がした! シロガネ君!」
「この程度でワタシを殺せるか! 有象無象!」
羽根をチャフの様に散らし、シャックスが複雑な軌道を描いて飛翔。
中空で鋭角すら描き、曲がる航空機にはなしえない異常軌道。
龍の如き超反応速度による回避ではあるが。
畏れる事無くシロガネは狙いを定める。
雨柳との共鳴、神機合一により精神状態を共有。
すなわち
「────────捉えた」
神話の雷霆の如く。百発百中である。
白銀の美しき雷が神罰の様にシャックスを焼き尽くし、狼煙の如き黒煙を上げる。
ニヤリとした者は潜在能力をフルに発揮し、通常より遥かに強力な攻撃を確実に当てる。*14
その恐ろしさは敵からすればたまらないだろう。
ましてや
「ワタシはただで死なない……! 死ぬ前にお前の、悲鳴を! 絶望ヲ!」
だがシャックス強靭な生命力を誇る外道。
半ば炭化た体を急速に再生させ、凶暴化*15し爪を振るう。
狙うは自分好みの美しく清純な少女。
すなわちレイ。
「死ぬ所を見セテエエえぇエぇっ!!」
血と異臭をなびかせ、忌まわしき狂気を目に宿して迫りくるシャックス。
対してレイは冷静に飛びのいた。
(……こういう時レイブンはこうするのよね)
本来2回あるレイの手番。
飛びのいた間隙に男が飛び込む。
かつてレイの師であり、鉄仮面の宿敵であり、この周回でなおも戦う男が一刀を以て。
| 十文字斬り | 物理スキル | 敵単体に剣相性大ダメージを2回与える |
シャックスを四つに断滅した。
中空に咲く雷の軌跡を残した十文字が。
滅びゆく悪への墓標の様に煌いた。
「その様子だとボスに勝ったか。
随分と煤けた有様だが」
「抜かせ。お前こそ標的を逃してないだろうな」
朝焼けの下、鉄仮面と雨柳は行き合った。
両者ともに激闘を経てはいるが、その背筋は伸びている。
例え疲弊していようが、互いの前で弱みなど見せてられるものか。
「はっ、私がそのようなヘマをするとでも?」
鼻で笑った鉄仮面は遠方に視線を遣る。
スタジオの中から外へは救護車らしき偽装車両が何台か出ていった。
バイクや防弾仕様の車両に囲まれ、慎重に。
(キリギリスとヤタガラスの混成だろうが、流石に手慣れているな。
あれならば問題ないだろう)
鉄仮面とて、無力な人間が無用に犠牲になる事は好まない。
ダークサマナーとは、悪魔の蠢く裏社会を歩む悪党である。
だろうとも、いやだからこそ人間である事を捨ててはならない。
世界が荒れていようとも、壊れようとも。
最低限許してはならない事はある。
何かを理由に人であることを捨てて、堕ちれば最低の破滅が待っているのだから。
(まして今の私は人を教える側だからね)
以前と違い矜持持たぬ召喚師の集まりである新生ファントムを厭い、ミレディを拾いキリギリスに参加し現代社会を護る側についている事に皮肉を感じないでもない。
だが、愉しみの為に人を踏みにじる外道になるよりは遥かにましだ。
「さて、私達は報告に向かうとしよう
何分多忙な身でね」
踵を返し雨柳達から離れるが、雨柳がそれを誰何する事はない。
場所も状況も戦うにはふさわしくないと、両者の間で無言の合意がある故に。
ミレディが「またね」とあいさつしすると、レイという少女もうなづき返す。
己と雨柳が同じような事をしている事におかしみを感じ────ふと足を止めた。
「……そうだレイブンよ」
「なんだ?」
何故ならば、思いだした事があった故に。
「<漫画命>氏とコンタクトは取れないか?
どうも彼の影響で私の風評に悪影響が出ているのだが」
「俺が知るかあッ」
美しい朝焼けの中にも拘らず、どうにも締まらない男達であった。
◎主人公紹介
・雨柳巧 <デビルサマナー><剣士> LV73
シリーズポジション:ニッカリ及び悪魔討伐隊(真・女神転生Ⅳ Final)/レイブン(ソウルハッカーズ2)
だんだん強くなってきた脳破壊おじさん31歳。かつて宿敵だった鉄仮面には結構意地を張る。
◎登場人物紹介
・レイ <悪魔召喚師> LV57
シリーズポジション:アロウ(ソウルハッカーズ2)
過去周回でレイブン/雨柳巧の弟子だったJCデビルサマナ―。
龍神ヴリトラを始めとする各種の仲魔や武器COMPのスキルを用いて戦う。
今週回の師匠に対する感情は結構複雑。
原作で宿敵だった鉄仮面を出しつつ、戦闘を書いてみましたがいかがでしょうか。
次回は忙しい時期の為間が空きますが、小ネタ回の予定です。