真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
今回のドリフちゃんはオタクくんサマナー外にもモデルがいたり
不吉に暗い異界の空。
枯れ寂びた森林を這いまわるのは巨大な蛇竜。
| 邪竜 | ニーズへグ*1 | LV57 | 氷結・電撃に強い 呪殺反射 火炎に弱い |
世界樹の根を食む竜が目のない顔をもたげる。
乱雑な牙を備えた口を開き咆哮。
己の敵へ憎悪を向ける。
邪竜の敵は黒と灰のフレームで構成された鎧。
強いて言うなら、その仲魔と背後に庇う少女も。
「もう少しだけ我慢してね」
「は、はいっ!」
黒灰の鎧、デモニカを纏うのは、声からすると意外な事に若い女性。
柔らかな物言いと裏腹に、構えに揺るぎはない。
引き金が引かれ、銃弾が撃ち出される。
1発、2発と邪竜の白い体表に着弾。
火炎の華が咲き、邪竜は咆哮し、怒りと共に体をくねらせる。
「来ますわよサマナー」
「うん、分かってる」
鉄槌の如き尾が、空気を破断し旋回。
大質量を活かした、尾による薙ぎ払い。
トラックですら圧壊させそうな迫力に庇われる少女は息をのみ。
デモニカの女性は──するりと不可思議な動きで尾を躱し、懐へ、潜り込み振るう。
銃から瞬時に持ち替えた、蒼い柄に金の紋様を備えた剣を。
《デスカウンター》*2
まさしく一刀両断、邪竜の鼻から上が斬り飛ばされた。
巨体が傾ぎ、血とMagを吹き出し。
重々しい音が響き、同時に異界が崩壊していく。
「エネミーソナークリア。気配からすると敵はもういないかな?」
「ええその様です。しかし私に近いLVの悪魔が出るとは……」
「フェクダ倒してから更にGPおかしいからね」
追い付いてきた仲間が、無事を知らせるハンドサインを示す。
それに応えたデモニカの女性は、庇っていた少女に向き直る。
首元に手を遣ると、ぷしゅと空気が抜ける音がしてヘルメットが外れ。
初春の涼やかな外気に、藤色のかかった白い髪が晒された。
女性を見上げ、少女の口から声が漏れた。
中性的な趣のある端麗な顔立ち。
深く蒼い瞳に灯るのは、人間らしいユーモア。
さらに頭に浮かぶ、輝く
彼女の名前は
悪魔の血を引く証である頭上の光輪を浮かべながら、彼女は人間らしく笑いかける。
形も色も違うが、
「さて、怪我は治したけど……痛みや、気分の悪い所はない?
遠慮なく言っていいよー」
救助した少女に汐音は穏やかに声をかける。
相手を安心させる意図はあるが、その目は柔らかくも真剣。
第一に回復魔法は万能の特効薬ではない。
先天的な機能不全や、脳腫瘍*3といった損傷については対象外だ。
特に汐音は義祖父からそうした過去の事例についてよく知っている。
故にイシスの回復魔法でも治せない物があるなら、一刻も早く専門の医者にかかるべきだと判断していた。
そして第二に、少女を見極める必要があるから。
悪魔の血を引くのは問題ではない。だが、このご時世に一人異界に居たのは問題だ。
単に無知無謀ならいい、本当は良くないが。
(もしかしてあれだったりする、かな?)
あのフェクダ戦の後からだろうか。
汐音の参加する
核戦争や悪魔の氾濫で滅んだ世界から来たという彼らは、正気を失っている訳ないのにもかかわらず、どうも話が噛み合わないという。
事実汐音と縁深い
よくわからない話であるが、自分の元に来たなら対応しなくてはならない。
少女の年齢はおよそ
黒い髪に白い肌、疲弊した状況においても尚美少女と呼べる顔立ちをしている。
髪と同色の防具の他には、それなりの業物の刀を帯びていた。
(LVは30前後で、割と戦い慣れている感じ。
だけどかなり疲れているね)
念の為であるがイシスがすぐにカバーに入れる位置をとり、剣も瞬時に振るえる状況。
かといって少女を警戒させてはいけない。
少女を安心させるようにしつつ、向き合う。
「体の節々が痛いけど……それ以外は大丈夫です。
ですがあのっその、お願いがありまして」
「お願い? 何かな?」
汐音の想いを知ってか知らずか。
少女は意を決したように口に出す。
「私は……
あの、ふつつか者ですが」
己の中にあった閃きを。ほとばしる感情を。
汐音を見た瞬間浮かんだ言葉を。
「私のお姉様になっていただけませんか──────!」
しばし沈黙。
驚きに目を瞬かせた汐音は問い返す。
「……ん、あーえーっと。
わたしにお姉様になって欲しいと?」
「はい! そうです! 私のお姉様になっていただきたいのです!」
「凄いの来ましたねこれは」
キラキラと輝く少女の目。
その輝きが混じりけのない物であるからこそ。
自分にも覚えがあるからこそ汐音は思う。
(うう~ん、これは大変困ったぞ)
基本喜楽の表情を浮かべる事が多い汐音は、珍しく困り顔を浮かべていた。
仙台の中心部よりやや外れた場所にある
中学から大学までのエスカレーター式で充実した設備やカリキュラムから、東日本各地より生徒が集まる人気の学園。
帝都東京の聖華学園を参考に設立されたこの学校は、三月初めにも拘らず賑わっている。
「ありゃ、訓練室今日も使用不可か。
転入試験なんだろうが、最近多いな」
「京都からこっち方面の転入生増えてるからなあ」
訓練室横のボードを確認した生徒二人が、やや残念そうに踵を返す。
彼等の首元には意匠化された三の文字が刻まれたエンブレムがある。
それは彼らが生徒会、正確に言えば退魔生徒会のメンバーであることを示す。
東鳳学園は聖華学園同様に異能者の保護及び育成を行っている。
生徒会も
彼等もまたその一員なのだろう。
「折角だしちょっと見回りしてくか。
こないだもマンハント出たらしいしさ」
「あー自衛隊や先生ズに瞬殺された奴な」
生徒二人は存外に生真面目な質のようだ。
自販機の飲み物片手に歩いていく。
「どうもカス共スポンサーついたっぽいんだよな。
そろそろ死ぬかと思ったら装備や悪魔が良くなっているとか」
「何それ実家情報?」
「そそ、関東や九州だと奴らとだいぶやり合ってるってさ」
なんてことを話している彼らはふと足を止める。
反対側から歩いて来るのは汐音。
彼等も知る退魔生徒会のOBだ。
「お疲れ様です葉弥坂先輩!」
「お疲れ様岩崎君、古賀君。
今日も元気そうで何よりだね」
軽やかな態度の汐音を見る二人の目には敬意。
異界探索でも世話になっているが、何より彼女は過去の
制度の元となった聖華学園と同様に撤廃されているが、それでもなお最強の称号には憧れる。
ましてや相手が年上の美人なら。
「訓練室はまだ使っていた感じね。
思ったよりは長引いてるなあ」
「転入生をお探しで?」
「うん、面倒を見ている子がいるんだ」
汐音の言葉を聞き、二人は素直に思った。
誰だか知らないが羨ましいと。
噂をすれば影と言うのか。
訓練室の扉が開き、仲の面接官へ一礼すると少女が出て来きた。
少女──恋璃は、汐音を見ると顔を輝かせる。
「お姉様! お待たせしてしまいましたか?」
「ううん、今来た所。待ってないよ」
少女は顔全体で慕情を表現する。
飼い主を見つけた子犬の様に。
「試験はどうだったかな?
恋璃ちゃんなら大丈夫と思うけど」
「筆記と実技は問題ないかと。
面接は分からないですが」
「まあ、入学できないって事はあり得ないからそのあたりは不安に思わなくていいよ。
じゃあ岩崎君古賀君また今度ね」
既に裾を掴んでいる恋璃を連れて、汐音は二人へ軽く頭を下げる。
恋璃もまた、軽く頭を下げ一礼すると汐音についていった。
後に残された岩崎と古賀は顔を見合わせる。
「……お姉様だってよ。また濃い目の奴が来たな」
「ああ。でも葉弥坂先輩彼氏いるはずだよな?」
「二条先輩が言ってたはず……。
第一の仁藤も嗚呼恋する汐音お姉様も素敵! って興奮してたの憶えてるぜ」
二人の顔には少しばかりの緊迫感があった。
「恋璃ちゃんだっけ? 幻想殺しされて倒れないといいが……」
「東京の方でも脳破壊される奴増えてるらしいぞ。
聖華学園行ってる従弟から聞いた。
可愛い子が雌落ちして、それを聞いた野郎が脳破壊されるケースが多発しているとか」
「東京こわ~……一体どうなってんだ」
・
・
・
世界は幾度なく滅び再生を繰り返している。
汐音がそんな衝撃的な事実を知ってから一か月も満たない。
『
ぐんにゃりとバグった巫女様主催のビデオ会議。
漂流者──様々な滅びから、様々な手段で逃げ延びた過去世界の生き残り。
彼等や事情を知ったキリギリス各員が参加する会議で、知らされた事実は意外に過ぎた。
汐音が保護した恋璃もその一人。
彼女曰く、この世界においても数年前東京封鎖。
それが失敗し悪魔が解き放たれたせいで社会が破綻したらしい。
実に不吉な話である。
あのフェクダ戦以降、漂流者達の数は増えているようだ。
大多数は一人から少数だが、聞いたところでは勢力単位でも来ているとか。
しかも、過去周回で面識のあった者も中にはいるらしい。
汐音もよく知る雨柳もそうだ。
「落ち着いて聞いてくれ汐音。
過去の俺は鉄仮面殺してファントムと腐敗ヤタガラスを潰し合わせ。
最終的にレイブンレクイエムしたらしい」
「レイブンレクイエム」
説明された内容は予想以上にとんでもなかった。
あのJC二人はどういう事なんですか雨柳さん。
全く驚くべき事である。
それでも、来訪者達に対応しなくてはならない。
彼等が邪悪に堕ちず、人間として生きる気なら。
(袖すり合うのも他生の縁と言うからね)
そんな訳で汐音は恋璃の面倒を見ている。
今日も又オフの日に東鳳学園転入試験の送迎に来ていた。
無論ただ行って帰るだけじゃ味気ない。
東鳳学園から歩いて10分未満。
和風喫茶の中で軽食をつまんでいく。
「わあ……このたい焼き美味しいです」
「餡子だけじゃなく生地もこだわっているからね。
苺クリーム味も中々だよ」
上品にたい焼きを食す恋璃を見ながら、汐音は厨房の男性に同意を求める様に目くばせすると、相手も軽く頭を下げる。
この店を経営している男は、汐音にとって退魔生徒会の後輩である。
彼の様にこの近辺には戦い以外の道を選んだ東鳳学園OBも多い。
故にこの店を含めここら一帯は、学園の生徒の憩いの場になっている。
(レルムはまだ不安定な所多いし。
名古屋や東京の一部は治安がいいそうだけど)*4
何せヤクザ勢力の強い場所が多い。
自分ならともかく恋璃を連れて行くとなると不安が残る。
此処は生活空間の周辺から徐々に、って形がいいだろう。
なんてことを考えつつふと恋璃を見やると、視線は汐音の斜め横。
何人かの女子生徒たちを見ていた。
東鳳学園の制服を着た女子生徒たち。
その内、一人はハイロウを備えている。
「どうしたのかな?」
「あ、いえ。不思議に思いました。
このお店私やあの子達みたいな子も来ていいんだって。
ハイロウって目立ちますから」
「あー確かに。非覚醒者には見えないと言っても気になるよね」
悪魔の血や因子を引く人間の一部に発現する輝くハイロウ。
独自の形状をしたそれは成程気を引く物だ。
見ようによっては──人間の中に混じった異物である
「悪魔人間は力や外見の影響も人それぞれだからまだわからないことも多い。
私もハイロウ出来たの最近だからねえ」
「そうなんですか?」
「激戦続きで力が解放されたからかな?
朝起きたらなんか出来てた」
まるでニキビの様な言い様に恋璃はやだと笑う。
年頃の少女らしい笑い。
内心よしと、汐音はうなづく。
(私と出会った時よりだいぶ良くなってきたね)
異界で保護してからしばらくは、虚勢を張ってはいたがいつもどこか不安気にしていた。
夜の眠りが浅く、汐音がいる前でもなければ食事にも中々手を付けない。
神経が張り詰め、落ち着くことができないようでいた。
(多分世界が滅んでからの短期間じゃない。
もっと長期間過酷な環境にいたんだこの子は)
汐音には良くわかる。
自分もかつてはそうだったから。
自分よりも10歳は幼い少女を、汐音は改めてみる、いや観察する。
聞けば元は家が悪魔に関わる旧家の産まれ。
物心ついた頃には両親はなく、親戚の旧家には言われるままに使い回されて。
挙句の果てにファントムとの抗争で滅んだ家から一人逃げ延びて。
遠く離れた東北で悪魔退治して日銭を稼いでいたとか。
孤独に日々を生きる中、この世界まで流れ着いたのだと。
そんな彼女も
自分の手を引いてくれる人が、護ってくれる人が居れば生きていける。
違う世界で希望をどうにか見出しているようだ。
(なら、大人として出来る限りの事はしていくべきだよね)
汐音はそう思う。
自分が子供の時、周りの大人にそうされたから。
今は自分が大人になったから。
「もう一個食べたら帰ろうか。
この後ちょっと用事もあるしね。
知り合いのキリギリスが来るから」
「キリギリス、というとお姉様の参加しているDBの互助会ですか」
「そうそう、新君と莉愛ちゃん。
特に莉愛ちゃんは恋璃ちゃんと同じ年だから仲良くなれるといいね」
「えへへ、頑張ります」
内心その意気だと恋璃を誉めながら、汐音は最後のたい焼きを何味にするか考える。
恋璃の分と自分の分、それぞれ何味にと考えた所で電話が鳴った。
「あー……今日も来ちゃったかあ」
端末の画面に映るのは緊急での連絡。
悪魔討伐の要請だ。
汐音は南条系の企業が開発したデモニカのテスターを務めている。
仕事は東鳳学園の警備や異界探索の同行の他に、各種の危険な悪魔の討伐も含む。
故にしばしば仙台近辺の悪魔の討伐に派遣されるのだ。
手早く会計を済ませながら店の外に出る。
仄かに暖かくなった空気が心地よい。
「……今回も結構なLVの相手だね。
流石に先月のメシアン*5には程遠いけど。
恋璃ちゃん─」
「お姉様のいくところなら例え魔界でも……!」
ぐっ、と力を籠める恋璃は、彼女は戦う気概をもっていた。
汐音の恩に報い、かつ足を引っ張らないだけの力を得る為でもひとまず認めるべきであろう。
少なくとも自身で選択し、歩み出す事をしているのだから。
「了解。だけど、莉愛ちゃんと一緒にサポートに徹してね。
万が一の時はトラエストーンで離脱する事。
それだけは約束して」
「はいっ」
「良い返事! なら駆け足で行くよ。
こういう時はスピード命だ」
少女の手を引いて汐音は駆け出す。
今日もまた戦いの時だ。
────異界の中に、血臭が匂い立つ。
先日までガイア系組織が所有していた異界。
瓦礫で構成された神殿を照らすは、位置の変わらない太陽。
照りつける陽光は、その奥にたたずむ存在を浮かび上がらせる。
青黒い体に蛮刀を携えた、血の地母神を。
\カカカッ/
| 地母神 | カーリー*6 | LV75 | 破魔・呪殺無効 状態異常に強い |
地母神の周囲に立つ眷属たちを。
| 女神 | パールバディ*7 | LV57 | 火炎吸収 破魔無効 氷結弱点 |
| 魔獣 | ドゥン*8 | LV54 | 破魔・神経反射 呪殺弱点 |
| 龍神 | コワトリクエ*9 | LV56 | 氷結反射 火炎に弱い |
悪魔達は元からこの異界に居たわけではない。
三業会の暗躍によって混迷を深めるインド。
かの国から流出したカーリー縁の遺物。
それを手に入れたガイア系組織が行った儀式は、暴走という結果に終わった。
結果異界GPが50代に急上昇し、主のドゥルガーを媒介に異界の主にカーリーが成った。
詳しい経緯は彼らがカーリーに食い散らかされた今となっては分からない事である。
重要なのは、血の地母神が異界の外に出ようとしている事。
発生したての自我のない悪魔らしい
即ち血の跡に血を塗り重ねる、苛烈な殺戮を行わんと。
歩き出そうとするカーリーがふと足を止める。
地母神の足を止めるは────DB達。
「わあ、予想以上の大物だね。
帰りたくなるほどじゃないけど」
| 葉弥坂汐音 | LV67 | ※LVはデモニカスーツ準拠 |
一人目。夜魔リリムと地母神イシスを背後に従えた汐音。
デモニカの奥で、蒼い目を戦意に輝かせた。
「まずは女神から潰すとしてこういう時は斧、と」
| 天魔 | 高市新(クルセイダー形態) | LV65 | 物理・銃撃耐性 破魔・神経無効 |
二人目。暗緑色の鎧姿に変身した
剣の代わりに大身の斧を構える。
「数は少ないが近くには民家もある。
二人共頼むぞ!」
| 超人 | 有島頼人 | LV66 | 銃型武器COMP装備 |
三人目。仙台土着のDBにして、元東鳳学園レベルホルダーの
妖精センコを従え狙いを研ぎ澄ます。
悪魔達の殺戮を阻止せんと到着した第一陣の主力がこの三人。
装いは違うが、黒衣を纏った莉愛と恋璃は後方にてサポートの体勢。
強大な悪魔に対して、臆せず挑む。
対する地母神は敵を認め蛮刀を交差させる。
口の端より牙を剥き出し、凄絶な殺意を証明するように笑いながら。
込められた力により刀身が不協和音を立て、火花が散り。
刹那、両刀を、外側へ向けX字に振りぬく。
開戦を告げる咆哮の様に、銅鑼の様に、重々しい音が響いた!
「────先手で流れを傾ける! 行くぞ!」
「お姉様、私の力をっ」
≪Mrサプライズ≫*10
≪スピードスター≫*11
武器COMPに搭載されたソフトと、恋璃の持つ力が彼らを加速。
先んじた行動を可能とさせる──先制奪取!
| 銀の月の加護*12 | 自動効果スキル | 戦闘開始時に |
| 攻撃の心得 | 自動効果スキル | 戦闘開始時に対象(汐音)に |
| 真空波*13 | 補助魔法 | 味方全体の物理攻撃力・命中回避を1段階あげる |
イシスの加護と、汐音の魔力が力を引き上げ。
重ねる様にイシスの波動が、彼らの機動力と火力を強化。
初手での戦闘準備完了。
能力向上の波に乗る様に、有島が旋転。
霊刀を用いた"回転斬り"は、鋭く過たず四体を切り裂く。
「手ごたえ良し! 耐性なしだ!」
「幸先……いいね!」
有島が駆けた次の瞬間、汐音が手持ちのライフルにて"制圧射撃"。
状態異常にかかる物はいない。が、統制が乱れ後列のパールバディへの道が開けた。
迫りくる危険を感じ女神が下がろうとするが時すでに遅し。
| 極楽往生破 | 物理スキル | 敵単体に斧属性大ダメージを与える |
ギロチンの如き斧の一振りで頸が飛ぶ。
バルディッシュ*14にて成したのは新だ。
(女神が一撃か。弱点だけあって凄え威力だ。*15
武器の人の講習受けておいてよかったな)
手ごたえを感じ新は手中の斧を握りしめる。
己の工夫が実を結んだ感じは心地よい。
新は使える魔法と言えばタルカジャ・ラクカジャくらいの物理アタッカーであり、かといって召喚師適正もない。
自分に何ができるかをあれこれ考えた結果は、剣以外に使える武器を増やす事であった。
その為悪魔を殺して奪ったMagを換金した金で、伝手を辿りキリギリスでも各種武器の達人と名高い女性に教えを請い、武器の扱いを身に着けた。
そうしてどうにか、槍と斧ならある程度使いこなせるようになったのである。
「回復役は倒した、なら次は防御じゃの?」
攻撃がひと段落し、有島のセンコが
続いてサポートの莉愛と恋璃が、テトラジャストーンとラク・カジャ珠*16を使用。
防御を引き上げ、敵の
≪フォッグブレス≫
悪魔達の先陣を切って放たれるのは、コワトリクエの魔力の霧。
霧を切り裂き続くは、地母神の刃。
≪木っ端みじん斬り≫
狙いの中心は、
夜魔を中心に全体を粉砕する斬撃は────当然ながら反射された。
「ガッ!? ギイッ!!」
真っ向から衝撃を受けた腕が半ば千切れ、カーリーは驚愕する。
確固たる自我と経験、それを持たぬ悪魔は柔軟な反応をしない。
故に物理に弱い格下がいれば、餌を垂らされた魚のように食いつく。
(うまくやると凄いダメージ出るんだよねー)
以前検証した時など物理特化の闘鬼が、反射だけで半身をぐしゃぐしゃにされた物だ。
げに恐ろしきは反射という不条理か。
「や、やった!」
後方でその様を見ていた恋莉は、高揚する。
(私のお姉様はやっぱり最強なんだ!
悪魔にも負けない、あんなに綺麗で強い!)
強い悪魔にも負けない汐音が誇らしかった。
そんな人が自分を見てくれているという事も。
自分を守ってくれている事も。
────だが忘れてはいけない。
人間は本来悪魔よりもずっと弱いという事を。
血肉をなびかせながら、カーリーは4本腕の内下腕の武器を放り捨てる。
組み合わされた下腕には瞬時に魔力が収束。
放たれるは万能属性の重力波。
≪グラダイン≫*17
重力波が前列──汐音達の居る場所で弾けた。
追い打ちをかける様にドゥンもまた咆哮し魔力を収束。
纏った炎を倍する勢いで激化させ熱線を放つ。
≪メギドラオン≫
薙ぎ払うように放たれる熱線が、DB達へ撃ち込まれる。
角度が違えば、自分達にも届いていた一撃。
その威力以上に驚きが少女達を打ち据えていた。
(ドゥンがメギドラオン……!?
そんなのってありえるの!?)
通常ドゥンが使うのは爪牙を用いた物理、後は炎や破魔の魔法である。*18
しかしかつて御影町の事件にて出現した魔獣ドゥンは例外。
他よりも10以上LVが高いこのドゥンは、氷結魔法に
同様の性質を持つ、希少な個体がこの場に居たのは不運と言うほかない。
更に言えば、カーリーもまた<混じり>と呼ばれる個体。
魔界に近い異界ゆえに、幾つかの曖昧なイメージが重なり産まれた存在であり。
例え己の知っている個体と耐性が同じでも、使うスキルや魔法は異なる。
対策しがたい厄介な存在である。
だが、そんな事よりも恋璃にとっては目の前の光景の方が重要だった。
(噓、でしょ)
大魔法の重ね打ちによる粉塵。
撒きあがるそれを防ぎながらも、恋璃は歯を震わせる。
(お姉様が、飲み込まれて、やだ)
自分を導いてくれる存在が、悪魔に。
こうも簡単に。
信じられない、信じたくない。
(私はまた、一人)
現実を直視したくない恋璃は、後ずさる。
一歩、あのダークサマナーに負けた時の様に。
二歩、地を埋め尽くす悪魔から泣きながら逃げた時の様に。
三歩、下がろうとして、莉愛が。
新の妹が、恋璃を柔らかく止めた。
「大丈夫だよ恋璃ちゃん。
兄さんも汐音さん達もあれくらいで死なないよ」
「り、莉愛ちゃん……?」
晴れていく粉塵の先。
恋璃は目を見開く。
「だから敵を見て。あなたの目ならきっと」
動く影が幾つもある、否いたから。
「汐音さん達の、役に立つから!」
粉塵から飛び出たのは、汐音達。
敵を見据え、
「やってくれたね! お返しは千倍で行くよ!」
| プロモーション | コマンダースキル | 一定確率で味方全体に |
魔法吸収能力を持つリリムのカバーを受け、ほぼ無傷の汐音は意気軒昂。
デモニカのカメラアイを残光の如く曳き、コマンダースキルを発動。
────全能力一段階上昇!
「美しくないあなた達への返礼です。
どうぞうけとりなさい」
高い魔法防御力で生き延びたイシス。
黄金色の衣を纏う地母神が再び真空波を発動。
────物理攻撃力・命中・回避一段階上昇!
「一気に取り巻きから潰しますよ!」
「応よ! まずは魔獣から!」
続いて新や、センコを引き連れた有島も粉塵から飛び出す。
極大魔法を受けても、なおも戦意を絶やさない。
強力な魔法の二度打ちに彼等が生きている理由は単純である。
装備と引き上げた体力と、加護に魔法にアイテムによる強化。
その全てを駆使し敵の魔法を躱すか、耐えた。ただそれだけ。
人によっては滅茶苦茶だと引くかもしれない。
だがそれでも、この場においては一人の少女を鼓舞する効果はあった。
精神的支柱である人の雄姿を目の当たりにした恋璃は。
大きな目を見開いて、ハイロウを輝かせて魔獣を見る。
「お姉様っドゥンの弱点は呪殺です!」
「心得た!」
恋璃の叫びと同時に汐音は、己の銃へ瞬時に呪殺弾頭を装填。
瞬時の三連射で魔獣を撃ちぬいた。
その一瞬後にコアトリクエが引き裂かれる。
2段階の強化を受けた新と有島の苛烈な攻撃。
それは格下の悪魔が耐えられるものではない。
鮮やかな、畳みかけるような連撃。
確固たる人格を持たないカーリーはなおを蛮刀を掲げる。
攻撃を喰らおうと自身は膨大な体力を有し、魔法物理共に攻撃手段は豊富。
故に地母神の本能はまだ勝てると言っているが。
「残念だけど詰めさせてもらうよ」
恋璃を救った日に持っていたのと同じ剣は、量産型のエクスカリバー。
かつてメシアの聖剣使いを倒して奪った聖剣のデッドコピー。
されどその性能は一級品*19でありさらに。
腰を落とし、全身を回転させて放つ一閃。
それは共鳴により想定以上の威力を引き出す。
万能の域に達した、光輝の一撃である。
| エクスカリバー*20 | 万能物理スキル | 敵全体に万能小ダメージを与え攻撃力を一段低下させる |
音速超過の光刃一閃。
輝ける一撃は地母神を切り裂き、膝をつかせた。
「……ッ!!」
血を吐く地母神の目には驚愕。
聖なる威光は予想外の威力で、己の身体を蝕むんでいた。
最早先程までの威力で蛮刀も、魔法も振るえぬ。
ダメージレースでの差はなおも開いていく。
地母神は見上げる。
己を切り裂いた聖剣の使い手を。
黒と灰の
「兄さーん、最後まで油断しないでね」
「お姉様もお気をつけて!」
莉愛と恋璃が物反鏡とテトラジャストーンを使用し防御を強化し、逆転を封じる。
さらに手堅く防備をしいた。
少女達の援護に軽く後ろ手を振り、汐音は聖剣を構える。
未成年者がいる故手堅く行こうと。
────この後順当に彼らは格上勝ちした。
地母神戦の二日後、セーフハウスにて。
「すごいね恋璃ちゃん。武器の整備ここまでできるんだ」
「ああいえ……大したものではありませんが」
汐音は感心に目をしばたかせる。
恋璃の武器整備の腕は、予想以上に良い。
手つきも淀みなく、扱いも丁寧だ。
下手しなくても自分よりうまいかもしれない。
(……前は、誰かを信じて任せるなんて出来なかったもの)
にも拘らず恋璃の顔に喜びは薄い。
年を考えれば不釣り合いな豊かさの胸に目を落とし思い返す。
色白で艶やかな体つきの恋璃は、十代に入ってから獣欲を向ける者も多かった。
それ以外でも、求められるのは悪魔混じりとしての力のみ。
誰もが彼女を欲望の対象か満たす道具として見ていた。
だから身を寄せていた親戚が、零落したファントム──葛葉の生き残りと主力が相打ちになった組織を見くびり、喧嘩を売った結果滅ぼされた時、迷わず逃げた。
恐ろしいファントム幹部の女からどうやって逃げられたかは覚えていない。
けど対物ライフルを構え、バイコーンに騎乗したあのダークサマナーの事は今でも夢に見る。
なおそのダークサマナーはこの周回ではアイドルをやっていた。どういうことなの?
何とか落ち延びてフリーになった後も背筋が凍るような思いをしたのは一度や二度じゃない。
飲み物に薬を混ぜられたことも、仕事中に裏切られた事も。
怯えながら、運と用心深さで切り抜けてきた。
(皆自分勝手だった。
私を人間として扱ってすらくれなかった)
そんな世界も東京封鎖を境に滅びた。
あのTVに映っていた、目を血走らせたサラリーマン風の男は、自分が悪魔を解き放ったとか言っていたがどうだろうか。
元から上昇していたGPがさらに跳ね上がり、悪魔が当たり前のように街にあふれて。
(それで逃げて逃げてトラエストーンを使って、気が付いたらこの世界に居たのよね)
そして、汐音に救われた。
初めて見た時は夢かと思った。
自分を苛もうとしてきた下劣な者達とは全く違う、優しく頼りになる存在。
矮小な自分を、姉の様に導いてくれる人。
そんな人が現実に自分に手を差し伸べてくれた。
それこそ自分が密かに、夜枕を濡らして夢想していたかのような人が。
だから衝動的に汐音をお姉様と呼び、今も呼び続けている。
冷静になると少し気恥ずかしい気もするが。
弱い弱い、自分の手を引いてくれる恩人。
でもだからこそ彼女には聞いておきたいこともある。
「銃の組み立ても早いねー。器用だなあ」
「ありがとうございますお姉様。
……あの、お姉様はいつも、あんな強い悪魔と戦っているんですか?」
身震いするほどに強い悪魔達。
何のために戦っているのか。
「う~ん流石にあのLVは数える程かなあ?
メシアの聖剣使いはとても強くて、蘇生二回もする事になったけど」
「むしろ何回もあるんですか……?」
知らない内に世界は狂っていたようである。
「その、失礼でなければお聞きしたいのですが。
何故お姉様はそんな強い敵と戦っておられるのでしょう?
やはり護国の為に?」
護国実家に居た時は散々聞いた言葉ではあるがどうにもピンとこない言葉だ。
恋璃の言葉を聞いた汐音は、少しばかり困った顔をした。
「ん~仙台にはもう10年以上住んでるし、地元を守りたい気持ちはあるけど……。
ちょっと違う気がするな~んー」
椅子にもたれかかり、しばし考える。
己の想いを表すのに適切な言葉は、何か。
「強いて言うなら私の力なんて微々たる物だけど。
選択肢のある世界でいて欲しいからかな?」
「選択肢、ですか?」
そうそうと、恋璃に前置きして続ける。
「私もそうだけど、悪魔の血を引く子や異能者は戦う力がある訳で。
荒れた世界だと戦う事をまず第一に求められる。
だけど今の世界は過酷でも、戦う力がある人間が皆戦いを強制されるわけじゃない」
ヤタガラスにしろキリギリスにしろ、戦うか決めるのは自分自身。
戦うのは強制ではなく自分の意思。
「戦わない道を選ぶ自由がある。人を傷つけ踏みつけにする物でなければ、無限とはいかなくても色々な選択肢を選んでいいんだ」
危うい薄氷の上でも、現行世界は人に自由を許容している故に。
「今の世界がパーフェクトとは言えないけどね。
好きな事をして好きな物を食べて、好きな人と会える状態が長く続いて欲しい。
まあ私の力は微々たる物だけど、なら世界や社会を護る側で戦ってもいいかなって」
なんてね、と笑う汐音を恋璃は見る。
選択肢。自分にはそんなものがあるなんて考えてもみなかった。
(そっか、私まだ14歳だっけ)
陳腐な歌で歌われるような無限の可能性なんて信じていない。
けれどもし世界が滅ばず続くなら、自分の人生はこれからなのだ。
悪意や欲望に強いられることなく、自分の意思で選ぶことのできる人生が。
「聞きたい事ってこんな感じでいいかな?」
「はい、お姉様!」
「なら良かったよ。
そろそろ夜だしご飯行こうか」
少し表情が明るくなったかな? と思いつつ汐音が取り出したのは、メモが書き込まれた地図。
次のページには番号ごとに、寿司屋の画像プリントが乗っている。
「東鳳学園退魔生徒会に伝わる隠し財産の一つ。
学生たちの食欲を満たす為に集められた安くて美味しいお寿司屋さんのリストver2019!。
今日はそのうちの一つに行こうと思います
此処の牛タン寿司が体力回復に役立つという噂の検証も兼ねてね」*21
おおーと拍手する恋莉は、汐音に続いて外出の準備をしていく。
服と身だしなみを整え、アクセサリーや服に偽装した防具を備えて準備は万全。
さあ出発である。
「今日は好きなだけ食べていいからね
こないだの稼ぎで懐も温かいどころか熱いくらいだし」
「あはは火傷しないでくださいねお姉様」
恋璃は汐音に喜んでついていく。
自分を助けてくれたからとか、護ってくれるからとか以上に。
自分に悪魔でも外道でもない、人の生き方を教えてくれる。
そんな文字通り姉の様な人であるから慕って。
喜んでついていくのだ。
◎主人公紹介
・葉弥坂汐音 <デモニカユーザー><顕現者> 肉体LV60/デモニカLV71
仙台在住のデビルバスターである女性。
聖華学園姉妹校の東鳳学園出身のデビルバスターで、南条系の企業と契約してデモニカのテスターをしている。
北欧神話の神フレイの血を引くデビルチルドレンでもあり、聖剣系統の装備との相性も良い。
現在は恋璃の面倒を見つつ雨柳の居る帝都にちょくちょく来ているとか。
・三笠恋璃<悪魔人間> LV36
汐音に拾われたドリフターズの少女。
孤独な人生を送っていたため、人間不信、特に男性不信の傾向が強いが汐音に拾われてから改善傾向にある。
汐音と同様に剣技や銃技を使う戦いを得意とする他、鳥系統悪魔由来の目を活かした索敵や支援役としての性能も高い。
最近東鳳学園に通い出した。
・tips 恋璃の出身世界
彼女の出身世界はすでに大戦時にメシア・ファントムによりヤタガラスが壊滅させられ、一部の名家が護国を担っていた。
一方ファントムもクズノハの残党に主力を滅ぼされ零落し、腕利きはいるが影響力は大幅に衰えた状態。
メシアガイアも勢力を伸びず停滞した膠着状態が続いていたが、東京封鎖が発生。
破綻した結果元よりのGP上昇もあり、悪魔が溢れ潤びたという。
尚滅亡の終盤、<天命を奪うセイテンタイセイ>といった謎の超高位悪魔までもが現れたというが……?
次回の投稿も5月中に行いたいと思います。
そろそろ脳破壊もしなきゃ……!