真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
今回は本作の『 花々に敬意を、剣士に意気を』を読んでいるとより楽しめるかもしれません
周回が変わるというのは実に奇妙な物である。
常識が異なり、社会の在り方が違い、死んだはずの人間が生きている。
かつての周回を生きた者からすれば実に違和感は大きい。
現行周回にたどり着いて以来、葛葉レイは幾度なく奇妙さを実感した。
何せ死んだはずの師匠レイブンが生きていたのを皮切りに、腐敗していたはずの帝都ヤタガラスはまともだし、シュバルツバースはもう5年前に破壊されたという。
同じ日本、近い年代で色んな作品も同じ物があるのにまるで別世界の様であった。
(なんか不思議な気分ねー)
帝都の一角にあるキリギリスのセーフハウスにて、レイは改めて感じた。
このビルに来たのは定期の確認と、周回事情を知る人間とのちょっとした情報交換の為。
帝都ヤタガラス所縁の三人の少女、彼女達とレイは顔を合わせていた。
「怪異カシマレイコ……他の異界でも報告上がっているけど厄介なスキルを持っているのね。*1
殆ど使わなかったけど破魔属性使える仲魔増やした方がいいかしら」
「そちらだと破魔使わなかったんですか?」
「対人戦多かったのもあるけど、どうも破魔呪殺使える悪魔が以前から減っていたらしくて。
原因は分からないけど、文明の高度化に関係があるって説を唱えている研究者もいたわ」*2
レイと話しているのは、少し年下の
濡れ羽色の髪に白い肌、翡翠色の大きな目をした彼女の名前はイザボー。
彼女もまたドリフターに近い身の上らしいが随分と数奇な経緯を辿ったらしい。
今はわけあって表立って使えないが本名は
ちらりと雨柳と話している長い黒髪の少女──
長い黒髪の少女の容姿はイザボーを
聞いた所によるとイザボーと美森は同一人物。
偶に言い争う事もあるが、中々うまくやっているらしい。
「へー園子ちゃん小説書いてるんだ。
読んでもいい?」
「いいよ~ロゼちーはどれが好きかな~?」
ロゼと話している少女は
黄金色の髪に、見る者に可憐と、美しいとの印象を否応なく抱かせる顔立ち。
また体つきもすでに、美の女神じみて極上の域に到達しつつある鮮烈な艶やかさ。
それでいて美しさゆえの突き放したような超然さがなく、気品と同時に人懐っこさも感じさせる柔らかな印象の少女だった。
(まさか会って話をする日が来るなんてね)
此処にはいない
彼女達の顔を、レイは知っている。
レイよりも前の世代、まだレイブンが前線に居て、ファントムのみならずメシアガイアの過激派の勢力が大きかった頃の、帝都ヤタガラスのホープ。
若くしてメシアガイア相手に戦果を挙げ、当時はまだ怪異にカテゴライズされていなかった魔人*3とも戦った勇敢な戦士達。
されど──大成する事なく逝った先達として。
かつての雨柳から一度だけ話を聞いた事がある、自分と同年代の少女達。
この周回においては過酷な戦況においても生き残り、戦い続けているようだ。
尤も今は帝都ヤタガラスの拠点を離れキリギリスの中でも初期の一人──噂に聞くクズリュウや京都征伐の功労者の元に身を寄せているようだが。
「それにしても三人共……強いわね」
レイはふぅ、と息を吐いた」
LVについてロゼは50、レイはようやく60に至り、現周回のレイブンは74。
対してイザボー75、美森76、園子は何と全力を出せば90を超える。
自分達やレイブンも大概な強さだが彼女達はその上を行く。
「色々と修羅場はくぐってきましたからね。
私と美森が加入した後も毎回のように敵のLVが上でしたし。
今の時代なら格上の敵と戦う機会も多いし、レイさんもすぐに追いつきますよ」
「あはは……私の格上って特撮の毎週出てくる怪人くらいの敵で出るのね……」
世の中おかしくなり過ぎではなかろうか。
「なのでバフデバフと各種魔法の仕様把握が必須なのです。
具体的にはカジャ倍率やテトラジャの効果とか」
心持ちきりっとした表情を作るイザボーは、年下な事もあり可愛らしく見える。
同じ黒髪美少女でもロゼとはタイプは違うんだなとレイは思った。
「それに大事なのは仲間との連携です。
悩んだらきちんと相談して、いざと言う時には全員で困難に立ち向かう。
私達も佐々木さんにお世話になってますからえへへへ」
イザボーの顔は微かに紅潮し嬉しそうだ。
視界の端で雨柳もピクリと動いた気がするが気のせいだろう。
「佐々木さんってどんな人なの?
キリギリスの中でもトップクラスに強くて、ヤタガラスの評価も高いって聞いてるけど」
「佐々木さんは私達の今の保護者のような人です。
紳士的で格好いいお兄さんですよ」
「それにね、ダブルわっしーやミノさんと~私の未来の旦那様だよー」
ひょこ、とレイとイザボーに近づいてくるのは園子である。
「未来の旦那様って園子ちゃん達……佐々木さんと婚約しているの!?」
「そんな所かなー」
「うわーこっちの人達は進んでるんだねぇ」
園子の発言に驚くレイとロゼ。
二人の前で少し身をくねらせ、紅潮した頬に手を寄せて語る。
「皆で幸せ家族計画する予定の~愛する旦那様~♥
ねー、ダブルわっしー♥」
「えっ、いやその、もう覚悟はしてるけど……!
ってイザボーその"肆"って書かれた札は何!?
なんであなたは"弐"なの!?」
「その無駄にでかいぼたもちに手を当てて考えてみてください。
ヒントは一姫二太郎です」
きゃいきゃいと騒ぐ少女達は誠に姦しい。
微笑ましくもあるが。
「うわー……は、はーれむだ……!
モテモテなんだね佐々木さん」
「政略結婚とか一人の男が複数囲うパターンは何度も見たけど。
こんな元気そうなのは初めて……レイブン?」
ふと淀み切った瘴気を感じて目をやるとレイブンに行き当たった。
昏く煤けた顔をして、俯いている。
「………………」
雨柳は懐から耳栓と目隠しを取り出して、手早く付けた。
現実を拒否するかのように。
「何も聞きたくないし見たくねえ……」
「レ、レイブン!?その反応はどういう事なのレイブン!?」
他方ロゼも部屋の入り口から覗いているシロガネに気付いた。
目を見開き呼吸を荒げていた。不審に。
「ハアッハアア、ハアーハアッ……!」
「どうしたのシロガネ君? パーメットスコア4! って感じの顔して!?」
少女達の交流の中、不審な反応をする野郎二人であった。
「100%属性とは何だろう。脳破壊とは何だろう。ダークサマナーとは何だろう」
「やめろシロガネ。余計な事を考えるな」
あくる日の朝シロガネと雨柳は神宮の森所縁の施設前で人を待っていた。
昨日の事から全力で目をそらしながら。
「100%属性かああれもよく分からないね。
斬撃があらゆる耐性をすり抜けるってどういう事なんだろう?」
「どうもカジャ・ンダ、一説には<天啓>に分類される魔法と同様に、何かの要因で悪魔や異能者の相性判定がそもそも発生しない仕様って説もあるそうだが」
「それがどういう原理なのかっていうのが、ねえ」
キリギリス掲示板で勉強し、あれこれ知識を得てもまだまだ分からないことは多い。
複雑な悪魔の体勢やスキルの仕様は、どれ程解明されてもきりがない故に。
だから大事件の起きない内に、羽を伸ばしつつも精進することが必要だ。
雨柳とてLV70を超え導師に至った事であれこれと改善を続けている。
アイテムの補充や装備の見直しにスキルの修練。
そして悪魔召喚師としての再度の修練と。
(あと一押しなんだがなあ二体召喚)
中でも大きな物が二体召喚である。
雨柳の修めた管を用いる神道系召喚術において、同時二体召喚は奥義。
これまでの雨柳では未だ到達できていない領域。
現在はGUMPと管を並立しているが、今後強敵との交戦の為にも手数は増やしておきたい。
その為昨日も二体召喚の技を修めた美森から色々聞いたり、再度召喚手順を見直していた。
当初から極めて負担の少ないシロガネはLVUPしさらに負担が減り、今ではゼロに近い。
キャパシティ的には問題ない故もう少し、修練を重ねて感覚を掴めばいけそうだ。
(しっかし京都どうなってるのかねー。
壊れまくったから回収できていない資料も多いそうだし)
他方シロガネもやる事があった。
ドリフターの到来を気に始めた自分のルーツ探しである。
タイミングはズレているが、恐らく自分も彼等と同じドリフターなのだろう。
だから自分が発見された京都についての調査や、ドリフターにもそれとなく神造魔人について聞いているが……結果は芳しくない。
なんせ京都の奴等誰も自分の事を知らないし、起きた地下室は風化して塵しか残っておらず、手掛かりは何もなし。
ドリフターも神造魔人についてちょっと耳にはさんだくらいの人しかいなかった。
実に前途多難である。
とは言ってもできれば知っておきたい。
何せ気になる事もあるし。
(唯一の記憶……僕が出会ったあの子って多分銀ちゃんだよなあ)
記憶にある少女の笑顔。霞がかかり正確には思い出せないがあの声は恐らく彼女。
可愛い可愛い三ノ輪銀ちゃんだろう。
シロガネには分かる。間違えるはずもない。
なにせシロガネはうへ~とか言ってるゆるかわ系元JKと話し方がかなり違うのに、ほぼ同じ声と解析できる優秀な()脳味噌を持っているのだ。
あの聞いているだけで幸せになる快活な声はまさしく彼女。
もう終わった過去を気にしすぎるのは良くないが、当時の周回で何があったかは知っておきたいと思っている。
「おじさーん残りの人達呼んできたよー」
なんてことを考えていたらロゼが何人かを引き連れ歩いてきた。
今日の雨柳の仕事は異界でのレベリングの監督。
参加者は神宮の森や帝都ヤタガラスが保護したドリフターの希望者を中心としたメンバー。
ロゼ以外のドリフターも面構えからして歴戦と分かる。
眼鏡をかけたジエレーターの女性にサムライなるDBだった青年。
その他の数人もLVこそ高くない物の良く練り上げられている。
だが、毛色の違う少女も一人混じっていた。
ふわりとした髪をした可愛らしい顔立ちの少女。
状態異常対策を重視した装備を着込んだ彼女は
黒色のデモニカを装備した女性と共に立つ少女は、雨柳を見ると表情を明るくした。
彼女の事を雨柳は知っている。
「今日はよろしくお願いしますね、雨柳さん!」
「ああこちらこそよろしく頼むよ安那ちゃん」
| シャドウ使い | LV36(異界限定) | 情報支援タイプ |
快活な声を響かせた少女は茅野安那。
かつてある事件で雨柳が救った少女であった。
帝都南部の廃スーパー跡地に立つ、寂れた有様の異界。
霊的な問題が多発する事から移転された店の跡地に出来た異界は、ヤタガラスの管理下にある。
出現する悪魔のLVは最大でも40半ば程度で安定している事から、今回のレベリングにおいて白羽の矢が立った。
40半ば程度。何かがおかしい気もするが、LV40前後が殆どを占めるドリフター達にとっては程好い領域と言えるだろう。
入口付近の拠点で休憩するチームと異界に挑むチームの2チームに分けた形式でのレベリング。
2チームへの分割はあまり人数が多すぎると、奇襲時に動きにくい等の予期せぬトラブルもある為設定された形だ。
雨柳の役割は異界内の巡回。
危険な悪魔や襲撃者を先んじて発見する為にチームから離れ、調査している。
「お、おい勘弁してくれよ……。
これ以上は逆さに振っても出ねえからさぁ」
泣き言を漏らす妖鳥タンガタ・マヌはそれ以上の事は何もできない。
本能のまま襲い掛かった所、雨柳の従える神獣アヌビスによって麻痺させられ。
そのまま<ファンド>*4でマッカを絞られた。
「そうか。なら仲魔になってくれ。
悪魔合体の素材を弟子の分含め探してるんだ」
「マッカを絞り切ったら勧誘かよ……召喚師って奴は鬼だな」
合体素材でも死ぬより遥かにましである。
故にタンガタ・マヌは仲魔になることを選んだ。
「しょうがねえ、合体先はせいぜい強い悪魔にしてくれよ?
俺は妖鳥タンガタ・マヌ。
コンゴトモヨロシク……」
雨柳の出した管にタンガタ・マヌは吸い込まれていった。
悪魔召喚師にとってはよくある光景。
異界での悪魔交渉、場合によっては悪魔脅迫は日課に等しい。
「雨柳、右から悪魔来るよ」
息つく暇もなく、次の敵襲。
無謀な悪魔が右から来た。
煤けた床を蹴立てて幽鬼が、天井に張り付くように邪竜が来る。
グレイマンは物理反射持ち*5、面倒だ。
「幽鬼グレイマンに、邪竜ピュートーンか。
アヌビス破魔を頼む」
「ふぉふぉ、分かっておるわい」
雨柳の指示でアヌビスが前に出る。
光の裁き*6が幽鬼を焼き、辛くも避けた邪竜の動きが制限され。
雨柳の一刀が細長い邪竜を二つに開いた。
「よっと。破魔はこういう時便利だな」
「闇の悪魔は光を畏れる物が多いからのう」
周囲に悪魔の気配は無い。
これまで遭遇した悪魔も事前の情報通り。
所謂リスキーエネミー*7の姿もなし。
「さ、もう少しアイテムやら集めておくぞ。
此処はアイテム持ちの悪魔が多いからな」
「宝玉持ちがもう少しいるといいんだけど。
流石に宝玉輪持ちはいないか」
異界の巡回がてら、資金やアイテムの回収を行う。
地道で面倒ではあるが、いざ戦いの時の為にはこういう作業が必要。
余裕のある時にチマチマと稼いでおくべし。
(しっかし安那ちゃんがシャドウ使いになったとはなぁ)
安那は異能者であるが、昨今の情勢を鑑みて悪魔退治を控え平穏に過ごしていた。
雨柳や魔導針といったキリギリスと情報交換するだけで、戦闘に参加することはなし。
最近中学を卒業し今年の春からは聖華学園に通う事が決まっており、其処から先は本人の進路選択次第、とまでは雨柳も少し前まで知っていた。
ところが、レイ達が来たのと同時期にドリフターも絡んだ事件に巻き込まれてしまったらしい。
パレスという特殊な異界に取り込まれ、<黒の騎士団>というチームやドリフターと共闘。
事件を解決する為に戦う過程で、ペルソナに目覚めたとの事。
支援に長けたそれなりに希少なタイプのペルソナ能力。
母親と相談をした結果、神宮の森の庇護を受けつつ自衛の為鍛える事にしたそうだ。
(聖華学園入学までの間だけでも、危険な事はないようにしねえと)
聖華学園には雨柳の知り合いも何人かいる。
あの子達とも仲良くなれればいいと、ごく自然に思った。
キリギリスの参加者とかシャドウ使い以前に安那はまだまだ子供。
勇気のある子だけに危険に近づかないように、よく見ておかなくては。
余計なお世話かもしれないが。
なんて事を考えつつ、レベリング組と合流する。
歴史は浅く、そう広くない異界ゆえに一分も立たない。
彼等は悪魔達との戦闘中。
だが問題はないだろう。
「アナライズ完了! カブラカンは破魔、ニャルモットは火炎弱点です!」
「承った。ならばヘイズは炎を」
「了解です! まずはワタシが!」
悪魔の群れに対して、安那のアナライズ結果に沿って動く。
黒色のデモニカの女性が炎の乱舞を使い、続いてゼカリヤが仲魔と自身により、
魔法を重ねて発動するは、強大な灼熱の波濤。
| 合体魔法 メ ガ ブ レ イ ズ *8 |
合体魔法が炎に弱い妖鬼を飲み込み、断末魔をも許さず焼き尽くす。
何とか耐えて踏みとどまったカブラカンには、頭部に破魔属性弾頭の2連射。
西瓜のように頭を弾けさせ、倒れ伏した。
「ふぃー腕もあがりましたかね」
「良い射撃だアルファ4殿。
これでこの辺りの悪魔も全滅したようだな」
「皆お疲れー。もう少ししたら交代かな」
背後からの奇襲に備えていたロゼにうなづきつつ、アルファ4とゼカリヤは周囲を確認。
デモニカの女性に守られた安那は、雨柳に気付き手を振る。
「お疲れ様安那ちゃん。調子はどうだ」
「順調ですよー。LVも2あがりました!」
「それは凄いな。ただ無理はしないように」
若い人間の成長は早い。
この年になるとなんて事を思ってしまう。
「本当に無理はしちゃだめよアンナ。
乱戦だと何があるか分からないから」
はあいと答える安那に、柔らかく笑う女性。
デモニカのヘルメットを外した顔は若い北欧系。
彼女の名はヘイズ、かつての周回で安那と仲が良かったらしいドリフターだ。
曰く、かつての周回で彼女は日本への留学中に核戦争に巻き込まれる憂き目にあった。
その後出現した悪魔に対して適性を見出され、首都防衛隊のデモニカ装着者に選抜。
日に日に強さを増していく悪魔と戦い続けていたという。
周りに知り合いがいなく心細い中、索敵要員として同じ部隊に選抜された安那とは仲良くなり。
セプテントリオンの襲撃で首都が崩壊するまで一緒に居たらしい。
現在のLVは50を超え、安那や他の異能者の護衛を買って出て来れてもいる。
油断は禁物だが、様々なリスクへの検査が完了し、先日の病院防衛戦でも戦果を挙げた人物。
ある程度の信用は出来ると巫女を始めとする神宮の森と雨柳も考えていた。
「そろそろラストスパート行くよー。
バックアタックに気を付けて最後まで油断しないようにね」
ロゼの言葉と共に異界の奥へ向かう。
今回彼らの異界探索は極めて順調。
悪魔を倒してLVを上げたほか、換金用アイテムの出もいい。
雨柳が合流してからも、勢いは止まらずサクサクと悪魔を討伐。
確かな戦果を得て、奥に到達し後は帰るだけ。
という所で彼らの足が止まった。
「奥に通路……あるね。雨柳のおじさん、異界の主っているの2階のはずじゃ?」
「ああそのはずで特に異界の中が変わったっていう報告はない」
二階への階段がある他は、本来行き止まりのはずの異界。
にも拘らず奥へ連なる道がある。
更に薄く聞こえてくるのは──戦闘音。
「妙だなこの異界の悪魔は棲み分けがされていて、そう戦闘は起きないはずだが」
「音からするとそれなりの数が動いているな」
「……もしかして私達と同じドリフターじゃ?
漂着タイミングが別々なら、つい最近この異界にって可能性も」
「可能性は低くないな。兎に角まずは報告だ」
GUMPと端末をつなぎ、入り口のチーム──レイと左文字に連絡。
数十秒後に返信。待機している術者が、万が一の為帝都ヤタガラスに応援要請を入れたという。
忙しい中悪いが、もし救助対象からいるなら事態は一刻を争う。
「念の為仲魔にした奴に聞いてみるか。
今日何か俺たち以外に見たか?」
妖鳥タンカタ・マヌを召喚。
青い鳥人は顎に手をやりつつ、思案する。
「今日っつっても異界に居ると分からねーが見てはいねえな。
けど箱が派手に落ちた音は聞いた様な」
「という事は誰か来たとすれば
うーん何が起きているか僕は断言できないけど」
可能性はあれこれ考えられる。
だがもし、奥にいる者達が侵入者に襲われているならば。
「助けないと手遅れになるかも」
「そう、だよね」
ロゼの言葉に安那は同意する。
この場にいる6人には無言の同意があった。
安那を始め彼らの多くが、救われた側の人間であるゆえに。
安那は心配いらないという風に、雨柳へ逃走用と回復用のアイテムを見せる。
誰から貰ったのかカエレルダイコン*9なんてものまで持っていた。
(……勇敢な子だよ)
もしもの時の手順を頭の中で確認しつつ、雨柳は再度連絡。
返答を待つ間にスクルドを召喚し、再び意識を集中させる。
「なら行くぞ。スタングレネードとくらましの玉*10をいつでも使える様に用意。
もしもの時は俺達が殿になる」
「状態異常が来たら遠慮なく僕を盾にして……万能状態異常には心もとないけど」
「テトラマカラの分担は出来ているわね?」
手順を確認し、雨柳と仲魔を先頭に彼らは奥の通路へと進む。
小走りで駆けて、一本道の先へ到達。
異界の奥広い空間には、悪魔の力で作ったらしき簡素な壁。
其処には悪魔達が群がっている。
何人かのサマナーと、仲魔が防戦しているが分は悪いようだ。
また一体、仲魔が八つ裂きにされた。
ショックを受けたのかへたり込む少女を、別の少女が引きずり攻撃を何とか避けさせる。
防衛側の殆どが少女か、ようやく少女を脱したばかりの若さ。
其処へ襲い掛かるのは無慈悲な悪魔達。
その光景を目の当たりにして、どちらの味方をするか瞬時に決まった。
「────やるぞ!」
おう、という返答と共に
敵もまた反応が早く、優勢な戦力の半数以上をこちらへ差し向けた来た。
反転し来るは雑多な悪魔。
それと明らかに強い指揮官格の悪魔三体。
黒紫の燕尾服にシルクハットを模した甲殻の一見紳士めいた姿。
されど顔のみが水色ののっぺりとした、蛾のそれになっている異形。
\カカカッ/
| 妖獣 | 天命を蝕むモスマン*11 | LV66 |
| 火炎・氷結・魔力・精神・神経無効 呪殺反射 ?? 弱点 |
羽を模した裾を翻し、三体の蛾人が歩み寄る。
戦いが始まった。
異界の奥で乱戦が続く。
「石化が入った、とどめを!」
「粉々になりなさい!」
ゼカリヤとアルファ4の攻撃で、悪魔の巨体が砕け散る。
二人は側面に回り込み、隙を狙おうとする悪魔に対応していた。
別動隊ともいうべき敵の大半は倒したが。
(問題はあちら……!)
視界の端に、雨柳達に倒された悪魔が吹き飛ぶ。
雑魚は数が多いが、対処は可能。
厄介なのはモスマン三体。
蛾人達は斃れた仲間を飛び石にして、地を這うように地面を蹴り襲い来る。
| フォッグブレス | 補助スキル | 敵全体の攻撃・回避命中を1段階低下 |
| パニックボイス | 状態異常スキル | 敵全体を30%で緊縛状態にする |
| 狂い咲き*12 | 自動効果 | 状態異常確率が20%増加 |
2体がデバフからの状態異常散布。
厭らしい手筋から、三体目が指を鳴らす。
| 電撃ブロック*13 | 補助スキル | 1ターン味方全員に電撃属性攻撃を1度無効化を付与 |
電撃無効化のエンチャントを味方に付与。
さらにフォッグブレスを重ね敵の攻撃を低下。
援護を受け前の2体はX字を描くように跳躍。
最前列のスクルドを軸に据え、筋肉を膨張。
攻撃の心得*14を得た物理スキルを放つ。
これこそが蛾人達の常套手段。
敵を弱らせ、弱点を防護した上で繰出す、強烈な物理攻撃の連撃。
先程までは他の戦力のテストもあり使用していなかったが、単純故に抗いがたい。
<エデン>と呼ばれる者達によって改造されたモスマンは、紛れもなく強者。
音速超過の蹴りが、拳が戦乙女を穿たんとするが。
「力強いけど、無粋な攻撃ね」
「──────!?」
故に彼らは驚愕した。
攻撃を受け四散するはずであったスクルドがふ、と消えた故に。
(動きからすると集団戦に離れている。
だが葛葉の召喚師とやり合った事はないか)
それは葛葉の悪魔召喚師に伝わる隠し身。
管により使役する悪魔へのマグネタイト供給を一時的にカットする事で非実体化。
敵の攻撃を回避するという技であった。
「流石に三回は動かないようね。
シロガネ、状態異常は?」
「カバーでヘイズさん以外は何とか防いだよ」
「二回動ける僕が回復するよっ」
スクルドの隠し身回避により、目算が狂い物理を空ぶった敵はこれ以上動けない。
故にこれからは雨柳達の
「ロジェスティラ! 悪を乗り越える力を!」
安那が己のペルソナたる善の魔女ロジェスティラにより、
加えて前ターンからのハイ・アナライズでの解析結果を共有。
「物理・銃撃にやや強い、電撃が弱点、面倒な奴等ですね!」
| 妖獣 | 天命を蝕むモスマン | LV66 |
| 物理・銃撃に |
電撃以外の多くに耐性があり、物理銃撃にもやや強い。
テトラカーンを使わないのは使えないのか、あるいは反撃系か、独自のスキルがあるのか。
(俺とシロガネ含め、こちらには電撃使いが多い。となると)
ヘイズから聞いた奥の手、それも手札の一つとして思案。
ほぼ一瞬で攻め方は決まった。
「電撃中心に攻めるぞ!」
雨柳の言葉に、ロゼとヘイズが瞬時に反応した。
「分かったよおじさん、 パワーお願い!」
「魔法反射ではなく耐性付与ならば!」
安那のもたらした解析結果。
悪魔戦闘に慣れた二人は、まずロゼが指示を飛ばし、続いてヘイズもまたスキルを行使。
「承知しております我が召喚師」
| 補助スキル | 敵全体にタル・カジャ7回分及びラク・ンダ4回分の効果 |
「これなら効くはずでしょう!」
| 貫く雷の闘気*16 | 補助スキル | 1ターンの間、味方全体の電撃属性に貫通効果を付与する |
かつて首都防衛隊最強の高位堕天使討伐を、支援する際に手に入れた強力なスキル。
自分にはふさわしくない、おこぼれの様なものではあるが。
確かにあの輝く戦士と共に、人々を護っていた誇りの証。
(この力を無駄にはしませんとも!)
ロゼが≪フォーマット≫*17を発動し、タル・カジャ効果を消去。
反射を含む貫通が味方全体に付与、攻撃の時!
「ここでケリをつける、面倒な動きはさせん!」
神造魔人の
横薙ぎに放たれるは、雷刃による音速超過斬撃。
即ち≪稲妻一閃≫である。
電撃反射を付与し、貫通しても通常耐性。
とはいえ、防御力を四段階低下させてからの攻撃は痛烈。
質量すら備えた電撃に、モスマン三体は両断。
炭化しつつも何とか食いしばり踏みとどまろうとするが。
「悪いけど、とどめはいただくわ」
とどめに撃ち込まれたスクルドの天扇弓で、風穴を開け死に絶える。
「よし、厄介なのは倒したな。
油断せず残りを」
「回復アイテム用意しておきます!」
「念の為僕はパトラストーンだすね」
最大戦力である指揮官を倒され、麻の如く乱れた敵を掃討していく。
攻撃側の悪魔はすぐに全滅し、バリゲードに立てこもっていた人の大半を救う事が出来た。
(……わたくしは夢を見ているのでしょうか)
異界で救助された少女達の女神──アールマティにとって現実とは思えなかった。
かつて世界が滅んでから今に至るまで、過酷な日々を送った女神は、フゥと息を吐く。
恭順した神話が敗北し、王を始めとする召喚師達の大半が死に。
元より自分の配下であった少女達を中心に、もしもの時の避難所へ逃げ込んだ。
恐怖に怯えまんじりともできない数日を過ごした後、気づけばたどり着いた異界。
安全な所かと思いきや強大な悪魔達に襲われたと思えば────より強い者達に助けられた。
(わたくしだけで事がすめばいいですが、それだけではいかないでしょうね)
彼等の目的は、自分という女神か。
それとも若い少女の召喚師達と言う使いでのある人間か。
また外法の素材になる新生児か子供か。
自分の加護で外敵から、汚染から護ってきた彼女達が踏みにじられるのは忍びない。
(まさか、ただ助けに来ただけだとは)
回復魔法での処置が済んだ後、異界から出され傷ついた者達が治療を受けている。
先程頑丈な車両──救護の為の車らしいに乗せられていった。
「あの子達はこれから病院へ運ばれると?」
「そうね。ただもうそろそろ夕方。
渋滞に巻き込まれないといいんだけど」
自身の監視についているスクルドが、気遣わし気に答えた。
渋滞。それは自動車が大量に走っている故に起きる問題とは、アールマティにもわかる。
「本当に……この世界は人間の文明が維持されているのですね」
「そうじゃない方が良かった?」
「いえ、わたくしとしては女性や幼子に生きやすい社会の方が望ましい。
たどり着いたのが荒れた世界でない事は喜ばしい事です」
理屈は知らないがかつての世界と違い、漂着したこの世界の状況は悪くないようだ。
アールマティからすればそうあって欲しい。
「スクルドさーん、次で移送が終わりだから女神さんも一緒にとの事です」
ヘイズと共に近づいてくるのは安那。
2mを超すアールマティからすれば小さな存在だが、恩人の一人だ。
「一度スマホの中に戻らせていただきましょう。
……その前にわたくしに一つ聞かせていただけないでしょうか?」
「何でしょう? 病院での規則とかですか?」
アールマティの言葉に安那は小首を傾げる。
「そうではなくて……あなた達は何故わたくし達を助けたのですか?」
かつて悪魔が氾濫し、人々の日常が壊れ、荒れ狂った世界。
過酷な世界で慈悲を捨てられなかったからこそアールマティは知っている。
誰かを助けるという事はそれで得られるメリットがあるからだと。
にも拘らずあの雨柳という戦士のみならず、ヘイズ達他の者、少女の安那までもが見返りを求めず助けに来た。
彼女達は何故そうしたのか。
どうしても聞きたかった。
「んーそんな変かなヘイズさん」
「人や悪魔によってはそう思うかもしれないわね。
余裕がなければ人を助けるのは難しいもの」
現代社会に生きる安那からすれば、ピンとこないがそういうものかもしれない。
「そうですねえ……人にもよると思いますけど私の場合は自分が助けられたからかな」
「自分が助けられたから、ですか?」
「はい! 悪魔とか、邪悪な変態のおっさんから助けられましたので!」
安那はかつて、二度に渡り、邪悪の魔手から助けられた側の少女だ。
悪魔に襲われて、白と黒が入り混じった髪の若い男に救われ。
邪悪な男に拉致された所を雨柳に救われた。
だから自分も助けるのだと。
悪に反逆することを決めた少女は笑った。
そんな少女をアールマティは好ましく思う。
善意という物の希少さを知るが故に。
「……あなたは勇敢で、素敵な子ですね安那」
「でしょう? アンナはいい子でしょう?」
「見てて頭撫でたくなるわね」
アールマティに続き、ヘイズとスクルドから褒められ、安那は再度えへへと笑った。
◎登場人物紹介
・茅野安那<シャドウ使い> LV41(異界限定)
本作『 花々に敬意を、剣士に意気を』にて雨柳に救われた少女。
その後ある事件に巻き込まれた事でペルソナに覚醒し、熟慮の末神宮の森の庇護下で鍛える事に決めた明るくまじめな少女。
ペルソナの恋愛:ロジェスティラはハイ・アナライズの他にデクンダやカジャ系の魔法を使用可能となっている。
実は密かに自分をかつて悪魔から助けた青年を探しているとか。
・ヘイズ<サバイバー> LV53
かつての周回、本スレのデモニカ冬優子に近い周回で首都防衛隊の一員だった女性。安那と共に数々の戦闘に参加したが、世界はセプテントリオンアリオトにより滅亡。その最中安那を護れなかった事を気に病んでおり、今度こそ守ると決意を固めている。
装備したブラックデモニカには貫く雷の闘気等強力なスキルが幾つか装備されており、在りし日の激戦を思わせる物になっている。
次回は悪魔合体回か単発のエピソードを予定。
可能ならば6月中に投稿したいところですね。